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超音波断層装置を用いた胎児の運動分析に関する検討

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Academic year: 2021

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(1)

       ユ

鶴崎 俊哉  穐山富太郎        

田原弘幸  松本 勝

要旨本研究は,正常発達の概念を胎児期にまで延長するための第一歩として計 画された.そのために妊娠9週から17週の妊産婦検診時にvideo tape recorderに 撮影された超音波断層像,のべ27名分にっいて繰り返し観察し,胎児の動きを分析し

た.

 胎児の動きは,妊娠11週からM週にかけて大きく変化した.頭部・体幹はすばやい 伸展運動から回旋を含んだ動きとなり,頭部・体幹の分離した動きが起こった.上肢

は非対称的な動きから次第に対称的な動きとなり,その運動範囲・動きの性質は急速 に完成度を増した.下肢では,total extension pattemから単関節の選択的運動が見

られるまでになることが分かった.

      長崎大医療技短大医紀6:55−61,1992←

民ey wo面s:正常発達,超音波断層法,胎児行動

[はじめに]

 小児の正常発達に関する知識は,何らかの 理由で発達障害を呈する子供達の治療にたず さわる者にとって重要であり,大きな指標と なっている.このとき正常発達とは,通常満 期産児の出生後の経過をさしている.しかし ながら,近年の周産期医療の進歩は在胎25週,

体重5009の極小未熟児の生存を可能とし,

これまでの正常発達に関する知識の範囲を逸 脱してしまった.また,BrazeltonのNeona−

tal Behavioral Assessment Scaleを使用し た研究では,一見無力に見える新生児が環境 との相互作用に積極的に関わるための十分な

能力を持っていることがわかった.これらは,

正常発達の概念をその胎児期にまでさかのぼ る必要を示している.

 胎児の活動は,超音波断層装置の発達によ り,安全かっ容易に観察できるようになって きた.また,通常の産科医院で日常的に診療 に用いられており,video tape reco{ler(VT R)に記録することもできる。

 今回我々は,このVTRにより胎児の行動 を観察・分析し,新生児行動および文献との 比較検討により,妊娠初期の胎児行動の発達 の一部について知見を得たので報告する。

長崎大学医療技術短期大学部理学療法学科

松本産婦人科医院

(2)

[対象と方法]

 妊娠9週から17週の妊産婦検診時にVTR 撮影した超音波断層像,のべ27名分(9週1 名,10週1名,11週2名,12週9名,13週4 名,14週6名,15週1名,16週2名,17週1 名)にっいて繰り返し観察し各週毎の胎児の 頭部,体幹,上肢,下肢の動きの特徴をまと

めた.

 対象が妊娠9週から17週であったのは,妊 産婦が妊娠に気づき受診する時期および子宮 容積が胎児に比して大きく,十分に動ける時 期を考慮したためである.

[結  果]

 今回,観察したVTRを客観的に表現する

方法がなく,主観的で叙述的な表現となった.

以下に各妊娠週数ごとの胎児の運動を記す.

9週

 頭部と体幹の区別はつくが,四肢は判別で  きなかった.

 頭部の前後屈(前・後方向の区別は,前額  面断層像のため不可能)が見られるが,全  体的に動きは少ない.

10週

 連続する頭部・体幹の伸展運動が見られた.

 四肢の判別が可能となり,上。下肢ともに  屈曲位にある.対象の1例では,上。下肢  の動きは観察できなかった.

11週

 1例は胎動がほとんど見られなかったが,

両上肢は頭部まで伸びている.

 他の1例では活発な胎動が見られ,頭部・

 体幹には回旋が見られた.上肢では,一側  で他側下肢をっかむような動き,手を口に  もっていく様な動き(写真1)が観察され  た.下肢は,一側のみの速い伸展,両下肢  の交叉が見られた.

 全体的にすばやい胎動で,四肢では正中線  を越える動きが印象的であった.

12週

 各例において多少の差はあるが,頭部の動  きは滑らかになり,4例に頭部・体幹の回  旋が,3例に体位変換が見られた.5例で  は体幹に急激な伸展運動が見られた.上肢  の運動範囲は更に拡大し,8例で頻繁に口  及び頭部へ手を持っていく動きが,3例に  下肢方向に伸ばす動き,4例に両上肢を交  叉させる様な動きが見られる。下肢では,

 4例に足踏み(写真2〉や蹴りのような伸  展運動が見られた.

13週

 3例で頭部と体幹の分離した回旋運動が,

 3例に体位変換が見られた.1例では,頭  部の滑らかな前後屈(写真3),全身の伸  び上がるような伸展,体幹を側屈しての体

位変換の試みが見られた.上肢は下肢方向  に伸ばす運動が3例に見られ,1例は両上

写真1 写真2

(3)

肢の交叉及び両手を合わせる様な動き(写 真4)が見られた.また,1例では手指の 屈曲伸展が観察された.下肢では,3例に 両下肢の交叉が,足踏み様の運動,長坐位 様の姿勢(写真5),膝関節の選択的な伸 展運動が各1例見られた.

写真3

14週

 頭部の側屈及び後屈が1例に,頭部と体幹  のねじれが1例に,体幹の伸展が2例に見  られ,体位変換が1例に見られた。上肢で  は,頭部方向への動きが4例に見られ,そ  のうち2例は子宮壁を押し上げるような動  きを見せた,また1例では下肢をつかむよ  うな動き(写真6)が見られた.下肢では,

 長坐位様肢位,子宮壁を蹴る動きが各1例  見られた.全般的に,胎児に比して子宮内  容積が狭くなり,窮屈そうな印象を受けた.

15週

 頭部の伸展と胸部を突き出すような体幹の  伸展で体位変換を試みるが成功しない.

16週

 1例は,窮屈そうにして動きが少ない.

 他の1例は,頭部の回旋から体幹を回旋。

 っぎに全身を伸展して体位変換を試みるが

写真4 写真5

写真6 写真7

(4)

 成功しない.上肢は殿部までの広範囲な動  きが見られた.胎児に比した子宮内容積は  極めて狭い.

17週

 連続した体幹の側屈が見られ,頭部,体幹,

 下肢の順での体位変換が見られた.下肢は  子宮壁を強く蹴り,四つ這い様の運動(写  真7)も見られた.

[考  察]

 胎児の行動にっいての研究は,当初流産児 や早期産児の観察により行われた1)2).これ によれば,在胎20週頃から吸畷反射が,22週 頃からMoro反射,28週頃から探索および把 握反射が出現してくるとされた.また,28週 頃は上・下肢ともに伸展しており40週頃に四 肢屈曲位になるとされていた.しかしながら,

これは本来の胎内環境のもとでの行動とは考 えられない.

 1970年代にはいると超音波断層装置が導入

され,Rei血01d3), Rayb繊m4), Sadovsky・5)

らによる報告がなされているが,これらは胎 児の身体全体の動きや頻度を一括して分類し ており,詳細な動きの種類や性質にっいては 分析されていない.その後の超音波断層装置 の進歩により,Tmdingerら6)の胎児の呼吸 様運動の観察のように妊娠経過にともない運 動の性質。出現頻度。出現様式が変化するこ

とが報告されてきた.

 胎児の発達には,そのゴールとして出産お よびその後に必要とされる能力を獲得するこ とが求められる.例えば,出産に際して胎児 は産道に適合しやすいようにその向きを変え,

子宮の収縮に協力して子宮壁を蹴りながらで てくる.また,新生児では腹臥位において頭 部の伸展および回旋を行って気道を確保した り,抱き上げると体を適合させたりすること ができる.時として,自己鎮静のために指しゃ ぶりを行ったり,頭部を回旋して追視を行う こともある.出産時のストレスや出産後の環

境の変化,重力の影響および光・音の刺激に よる生理系の負担等を考えるとき,胎児の能 力はかなり高いレベルにあると推測できる.

 Milani7)は,胎児の行動をfetal locomo−

tion,fetal propulsion, competence for surviva1,theemerging competenceに分類

している.Fetal locomotionは,胎児が子 宮内を動く能力で,出産時に胎児が産道に適 合するよう動けることを可能にする.Fetal propulsionは胎児が子宮底を蹴る能力で,

出産時には産道を進むための推進力を得るこ とが可能となる.Competence for surviva1 は生命維持に必要なfeedingや第1呼吸のた めのモロー反応を,the emerging compe.

tenceは子宮外環境に適応するための能力を さす.またMilaniは,胎児の運動の意味付 けを妊娠20週までに獲得される基礎的な運動 パターンであるprimary motor pattems

(PMP)と妊娠20週以後に発達してくるPM Pの統合過程であるprimary automatisms

に分けている.

 今回の研究の対象は,MilaniによればP MPが出現する時期であるが,その変化は単 に新しいPMPの出現にとどまらず興味深い.

 頭部・体幹の運動は,両者の連動したすば やい伸展から始まり,次第に連動したすばや い回旋がおこった.これらは12週くらいまで 頻度を増すが,その後頭部と体幹の運動が分 離していき,動きもゆっくり,した滑らかな動 きとなっていった.すばやい連動した伸展運 動は頻度を落としながらも存在してお軌そ の動きは体を反らすような動きから全身を伸 び上がるような動きへ変化した.回旋運動は 時として,体位変換を引き起こすが,15週く

らいから成功しないことが多くなった.これ

は胎児に対する子宮内容積が狭くなり,運動

の妨げとなるためと思われる.しかし,17週

の児では頭部。体幹・下肢のほとんど完成さ

れた分節的なねじれによって,再び体位変換

に成功し,四っ這い様の運動が見られた.

(5)

 上肢の動きは11週から急激に活発となり,

手を口または顔面方向に持っていく,動きが最 も多くみられた,また頭部方向,下肢方向へ の動きも次第に範囲を拡大していく.動きは,

はじめ頭部。体幹と同様にすばやいjerkey な動きからゆっくりとした滑らかな動きへと 変化する.なお,11週目にしてすでに一側の 手を口にもっていくような動きや正中線を越 える動きが見られた.その後12週より両側の 対称な動き,たとえば両上肢の交叉や両手を 合わせるような動きが起こる.また,13週で は手指の屈曲伸展も見られ,運動の成熟度の 高さを感じられた.14週からは相対的な子宮 内容積の狭さにより運動を妨げられているよ

うだった.

 下肢の動きも11週で活発となり,total extensionpattemの動きが多くみられ,12 週より歩行様の動きが見られた.当初の下肢 の運動は,頭部・体幹と連動しているが次第 に下肢単独の動きとなり,13週からは膝関節 の選択的運動も見られた.

 これらの運動の変化は,fetal locomotion およびfetalpropulsion,competencefor surviva1の成熟の過程を示している.特に11 週からM週の時期は運動の質・量が急速に変 化している.

 上妻らB)は,『上半身の伸展が妊娠9週,

上肢のみ・下肢のみの運動が10週,手を顔面 に近づける運動(手一顔運動)が妊娠13週,

足関節と呼吸様運動が16週で出現する.また,

妊娠12週から15週で上半身の伸展は90%の出 現率と最高となり,手一顔運動も50%に認め られた.妊娠16週から19週では全身的運動が 減少するのに対し,上肢のみ・下肢のみの運 動は92.3%と高率になった.』と報告してい

る.本研究の結果と合わせると,胎児の運動 は全身的で大きな動きより始まり,次第に比 較的複雑な運動が出現し,一方で運動に関与 する部分が小範囲となる.これは,脊髄運動 中枢を統合する上位中枢機能が発達し,中枢

神経系の機能的分化が進むことを表す.

 Milaniは,primary automatismsは20週 頃より獲得されるとしているが,本研究にお ける胎児の運動は12週頃より既にprimary automatismsの獲得が進行している.夏 山9)は,『発生学的に妊娠8週は,様々な高 さでの下位運動neuron性運動反射弓(三叉 神経sensorとしての口唇部や筋固有受容体 としての筋紡錘→求心路→C2よりTLまで の脊髄第一次中枢synapse→plexus→遠心路

→筋肉)が,末梢神経系,筋肉系およびそれ らの結合synapseの分化形成により完成され ていく時期と考えられる.これらの分化は頸 部および体幹の脊椎部側方の背筋や横隔神経 叢などの形成から始まり,頸部の胸鎖乳突筋,

胸部の肋間筋,骨盤部筋,上下肢運動筋など へ及んでいく.』としており,本研究の上。

下肢の運動からみるとPMPの出現は11週か ら14週頃までにほとんど完成し,そのころよ りprimary automatismsの獲得が急速に進 み,胎児の運動を成熟させていくと考えられ

る.

 今回の研究は,その対象時期を妊娠前期に 限定していたが,このころの胎児の運動は,

新生児の運動に比してその運動範囲,運動の 質共に高度な運動機能を発揮する.これは中 枢神経系の髄鞘化の未完成に加え新生児が出 産により急激に重力の影響を受けるため,運 動に必要な絶対的な筋力の不足と迷路性の原 始反射の影響を強く受けるためと考えられる.

また,新生児は呼吸循環をはじめとする生命 維持に必要な生理機能が自立過程にあり,十 分に能力を発揮できないこともその理由の一 っであろう.15週以後は相対的な子宮内容積 の狭さにより,胎児の運動は制約を受ける.

これにより胎児は胎内で抵抗運動を繰り返し,

重力下の環境への準備を始めるのではないか と推測される.これらにっいては,今後妊娠 後期の胎児の運動を分析し,明確にしていき

たい.

(6)

[謝  辞]

 本研究に貴重なVTRを提供いただいた,

松本産婦人科医院院長 松本勝先生,動作分 析に協力いただいた長崎大学医療技術短期大 学部理学療法学科学生 朝井政治君,山口優 子君に感謝の意を表します.

[文  献]

1.Robinson RJ:Assessmentofgestatio−

 nal age by neurological examination,

 Arch Dis Child,,1866,43

2.Amie1−tison C.:Neurological evalution   of the maturity of newbom infants,

  Arch Dis Chi1(1,1866,43

3.Reinold E:Spontaneous fetal move−

  ments in early pregnancy,Co阜trib   Gyneco10bstet,1977,1

4.Raybum WA:Chnical implications

  from monitor三ng fetal activity,Am J

 Obstet Gyneco1,1982,144

5.Sadovsky E,Laufer N,Allen JW:The  incidence of different types of fetal

 movements during Pregnancy,Br J  Obstet Gynaecol,1979,86

6。Tru(1inger BJ,Boylan P:Antepartum  fetal heart rate monitoring,value of   soun(1stimulation,Obstet Gyneco1,

  1980,55

7.

8.

9.

A.Milani Comparetti:The Neurophy−

siologic and Clinical Imphcations of Studies on Fetal Motor Behavior,

Seminars in Perinatology,1981,VOL.

5NO.2, 183−189

上妻志郎,岡井崇,水野正彦:胎児行動 の統御機構一ヒト胎児,周産期医学,

1989,VO:L.19NO.6,35−37

夏山英一:妊娠初期の胎児行動,周産期

医学,1989,VOL.19NO.6,7−14

         (1992年12月28日)

(7)

Toshiya TSURUSAK11 , Tomitaro AKIYAMA I ,  Hiroyuki TAHARA I and Masaru MATSUMOTO 2 

1 Department of Physical Therapy, The School of A1lied Medical  Sciences, Nagasaki University, Nagasaki, Japan. 

2 Matsumoto Obstetrics and Gynecology Clinic, Nagasaki. Japan. 

Abstract This study was planned as a first step in extending the concept of  normal development to fetal behaviors. The ultrasonographic images recorded  on video tape at the time of examination of a total of 27 women at 9 to 17 weeks  of pregnancy were observed and analyzed. 

The fetal activity developed quickly bctween the 1lth and 14th week of pregnan‑

cy. The head and trunk movement featured quick extension and flexion at first,  then movements including body rotation, and finally selective head and trunk  m^cvemer^t. Asymmetrical at first, t,he moveme,"^t of the upper ext *emities be‑

came gradually symmetrical, and the range and quality of movement showed  rapid progress. At first the movement of the lower extremities featured a total  extension pattern, but selective movement of joints was eventually observed. 

Bull Sch Allied Med Sci., Nagasaki Univ. 6 : 55‑61, 1992 

参照

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