特別論文
1. はじめに
睡眠は基本的で重要な生命活動であり,毎年数 多くの睡眠研究が世界中から報告されている。人 がなぜ眠るのかは未だに明確になっていないが, 生命活動に必要不可欠な様々な働きが睡眠中にな されていることが報告されている。例えば,高度 に発達した脳を休息させる役割があり,睡眠中に 脳内の老廃物を排出していると考えられており (Xie et al., 2013),睡眠の問題は認知症のリスク 因子であることが複数の研究によって明らかとな っている(Bubu et al., 2017)。感染予防にも睡 眠は重要であり,睡眠に問題があると風邪を引き や す く な る(Cohen, Doyle, Alper, Janicki-De-verts, & Turner, 2009)。転倒予防にも睡眠への 配慮が重要である(清水,2009)。痛みと睡眠に も双方向の関係があり,良く眠れた朝は痛みが少 なく(Dzierzewski et al., 2010),睡眠を改善す ることで痛みが軽快することも報告されている (Jungquist et al., 2010; Vitiello, Rybarczyk, VonKorff, & Stepanski, 2009)。他にも,せん妄,夜
間の徘徊・排泄,昼夜逆転,日中の意欲低下など 介護の諸問題と睡眠との間に深い関係があること を示唆する多数の研究が報告されている。 このように心身と深く関わる睡眠であるが,高 齢になると,眠りが浅くなる,夜中に何回も目が 覚める,朝早くに目が覚めてしまう,夜中にトイ レに行くことが増えるなどの睡眠に関する問題を 経験することが多くなる。高齢者の中でも,特に 要介護高齢者には睡眠の問題が多く,その背景に 多様で複合的な原因が存在している。本稿では睡 眠に関する基礎的な知識,特に介護施設で生活す る高齢者の睡眠の特徴について概説したうえで, 要介護高齢者の睡眠改善について考察する。
2. 睡眠の特徴
2-1 睡眠の 2 つの性質 睡眠には様々な性質があるが,なかでもホメオ スタシス性(恒常性維持)とサーカディアンリズ ム性(概日リズム)という 2 つの性質(Borbély, 1982)が高齢者の睡眠の特徴を理解する助けとな る。ホメオスタシス性は「睡眠が不足するほど眠 くなる」という日常的に体験する性質である。睡高齢者・要介護高齢者の睡眠の特徴と改善
木暮 貴政
* パラマウントベッド睡眠研究所 パラマウントベッド株式会社 高齢になるほど睡眠の問題が増える原因は,自然な加齢変化だけではなく,寝床にいる時間が長いなどの睡眠 習慣の問題にもあることが多い。要介護高齢者では,早過ぎる就床時刻と長すぎる就床時間,日中の活動性の 低下と光暴露時間の減少,という生活習慣に加え,痛み,かゆみ,疾患,薬剤の影響,睡眠障害などが複合的 に関与し睡眠の問題が形成されている。要介護高齢者の睡眠を改善する介入を効果的に実施するためには,多 様で複合的な原因を適切に評価することが重要である。この目的において好適と考えられる睡眠評価方法につ いて考察したうえで,要介護高齢者の睡眠改善について事例を交えて考察した。 キーワード ⇒ 高齢者,介護,睡眠,シート型体振動計,ロボット * [連絡先](勤)〒136-8670 東京都江東区東砂2-14-5 パラマウントベッド株式会社 パラマウントベッド睡眠研究所眠不足が様々な健康被害を引き起こすことからも 分かるように,必要に応じて休息をとり生体の恒 常性を維持するために備えられた性質である。サ ーカディアンリズム性は約 24 時間の周期で繰り 返される「夜は眠くなる/昼間は眠くならない」 という体内の時計により眠気が変化する性質であ る。体内時計と生活時間がずれてしまうと日中の 覚醒度が低下し,夜間の睡眠の質が低下する。睡 眠が不足していると日中でも強い眠気に襲われる こと,時差のある海外に旅行した際に睡眠が不足 しているはずなのに眠れないことからも分かるよ うに,ホメオスタシス性とサーカディアンリズム 性は相互に影響を及ぼす。良質な睡眠のためには, 夜間に睡眠への欲求が高まるように日中の覚醒度 を高めて生活すること,体内時計を生活時間に合 わせ夜になったら眠くなるような規則正しい生活 を送ることが効果的である。良質な睡眠は日中の 覚醒度を高めた生活をもたらし,覚醒度の高い生 活が良質な睡眠をもたらすという好循環が形成さ れる。 2-2 高齢者の睡眠の特徴 若年成人と高齢者の 1 週間の睡眠の一例を図 1 に示す。日勤の会社員では就床時刻が不規則,平 日の起床時刻が一定,休日の起床時刻が遅い,と いう睡眠習慣が典型的で,中途覚醒時間が短く, 総就床時間に対する総睡眠時間の比率(睡眠効 率)が高い。この例では寝床で平均 7 時間以上の 睡眠が確保できているが,典型的には睡眠時間は 7 時間を切っていることが多い。高齢者では就 床・起床時刻が規則的,就床時刻が顕著に早い (21 時頃),起床時刻が少し早い,総就床時間が 長い,という睡眠習慣が典型的で,中途覚醒時間 が増加し,睡眠効率が低下していることが多い。 全般的には,高齢になると深い睡眠が出現しに くくなり,睡眠の途中で目が覚める時間(中途覚 醒時間)が増えるなどの特徴がみられる。睡眠障 害のタイプは,中途覚醒と早朝覚醒の頻度が高い 一方で入眠障害の頻度は若年成人と大きな差はな
いことが報告されている(Kim, Uchiyama, Oka-wa, Liu, & Ogihara, 2000)。このことは高齢者の 睡眠の特徴を良く表している。睡眠習慣では,寝 床に入る時刻が早くなり,就床時刻から起床時刻 までの総時間(総就床時間)が長くなる特徴があ る。この早寝と総就床時間の増加が高齢者の睡眠 の質を低下させる要因と考えられている(三島, 2007)。このことはホメオスタシス性を念頭に置 くと理解しやすく,寝床に長くいても必要な睡眠 時間以上に眠れないので,覚醒時間が増える結果 となる。 種々の睡眠障害の罹患率も増加するが,特に睡 眠中に気道が塞がり呼吸ができずに頻回な中途覚 醒を生じる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstruc-tive sleep apnea syndrome: OSAS)は予後悪化 と関わるため注意が必要である(Young, Pep-pard, Gottlieb, 2002)。本人は頻回な中途覚醒を 自覚していないことも多い。睡眠中に繰り返し生 じる四肢(通常は脚部に認められる)の周期的な 不随意運動により睡眠が妨げられる周期性四肢運 動障害(periodic leg movement disorder: PLMD) も加齢とともに増加する。四肢の異常運動やそれ に伴う中途覚醒を自覚していない場合も多い。む ずむず足症候群(restless legs syndrome: RLS) を合併していることが多く,RLS では足を動か したくなる耐え難い不快感が生じるため睡眠が妨 げられる。足を動かすことで不快感がなくなるた め,RLS が夜間徘徊の原因となっている可能性 もある。せん妄と似た症状を呈するレム睡眠行動 障害(REM sleep behavior disorder: RBD)とい う睡眠中の異常行動も高齢者に特徴的である。重 症例では,睡眠の途中で激しく暴れるなどの異常 行動が認められる。レム睡眠中にこのような行動 が出現するため,転倒や怪我をするリスクが高い。 パーキンソン病,レビー小体型認知症,多系統萎 縮症の者に高頻度に認められ,これらの疾患の前 駆症状である場合も多い。 また,白川・田中・駒田・水野(2003)は,高 齢になるほど夜間の排尿回数が増え夜間排尿回数
特別論文 ●高齢者の睡眠(69歳男性) ●若手社員の睡眠(24歳男性) 総睡眠時間 7時間28分 総就床時間 8時間29分 睡眠潜時 10分 睡眠効率 88% 中途覚醒時間 24分 総睡眠時間 7時間17分 総就床時間 7時間44分 睡眠潜時 22分 睡眠効率 94% 中途覚醒時間 5分 図 1.高齢者の睡眠と若年者の睡眠 と睡眠障害に密接な関連があるとし,高齢者の睡 眠障害治療において夜間頻尿に着目することの重 要性を述べている。夜間排尿回数が 2 回以上の夜 間頻尿では骨折および死亡のリスクが有意に上昇 することが国内の疫学研究において報告されてい る(Nakagawa et al., 2010)。このことからも高 齢者の睡眠において夜間頻尿に注目することは重 要である。 以上,高齢者の睡眠の特徴について概説したが, 高齢者や認知症患者の睡眠障害全般に関する詳細 は,清水(2003)および三島(2007)を参照され たい。 2-3 要介護高齢者の睡眠の特徴 要介護高齢者では,日中の活動性低下と在床時 間および睡眠時間の増加,夜間の総就床時間・中 途覚醒時間・寝床を離れる回数(離床回数)の増 加が顕著となる。筆者らの研究では,介護施設で 生活する 70〜95 歳の認知症高齢者 57 名の平均的 な睡眠状況は,就床時刻が 20 時 14 分,起床時刻 が 6 時 42 分,総就床時間が 10 時間 30 分,総睡 眠時間が 8 時間 8 分,離床回数が 2.9 回,日中に 寝床にいる時間が 1 時間 15 分,日中に寝床にい る間の睡眠時間が 33 分であった(木暮・井上, 2012)。家族に在宅介護されている要介護高齢者 (都内のクリニックに通院するアルツハイマー型 認知症 10 名)は,上記の介護施設で生活する要 介護高齢者の中でアルツハイマー型認知症であっ た 29 名と比較して,離床状況の個人差が大きか った(unpublished data)。介護施設では曜日の 影響は明確に認められなかったが,在宅ではデイ サービスのない日は 1 日の大半をベッド上で過ご す者,休日の朝は平日より 3 時間ほど起床時刻が 遅くなる者,毎日の大半をベッド上で過ごす者が いた。介護施設と比較して在宅では生活の自由度 が高いために離床状況に違いが認められたものと 考えられるが,本人の意向ではなく,介護サービ スや家族介護者の都合に影響を受けている可能性 もある。一方で,家族介護者の睡眠障害の有病率 は一般より高く,介護者自身の健康や QOL に悪 影響を及ぼし在宅介護の継続を困難にする原因に もなる(尾崎,2012)。在宅介護における睡眠の 問題への対処は重要課題であり,効果的な支援法 の開発が望まれる。
(黒縦棒は体動の頻度および強度と相関する活動量) 図 2.要介護高齢者の睡眠 介護施設で生活する要介護高齢者の睡眠状況の 一例を図 2 に示すが,特徴的なのは就床時刻が極 端に早く総就床時間が極端に長いことである。10 時間も睡眠を必要としている要介護高齢者は少な いはずであり,20 時に就床すれば 7 時間眠れた としてもまだ深夜 3 時である。総就床時間が長く なるほど,中途覚醒時間や早朝覚醒が増加する。 要介護高齢者やその家族から「眠れない」もしく は「眠ってくれない」という訴えがある場合,最 初に確認すべきことは就床時刻と起床時刻であり, 就床時刻を遅くすることが効果的な対策となる。 図 2 の例では,夕食後すぐに就床し 2〜4 時間ほ ど経過してから本格的な睡眠が始まっている。す ぐに眠ってしまうよりは良いが,寝床は眠る場所 と決めないと寝床が眠れない場所となってしまう ことがある。寝ついてからは,覚醒は頻回に認め られるものの日曜日の夜を除いて離床は認められ ない。日曜日の夜は覚醒時間が顕著に長く 4 回の 離床が認められることから不眠が徘徊や転倒の原 因になることの一端がうかがえる。また,食事以 外のほとんどの時間を寝床で過ごしていることが 分かる。サーカディアンリズムによる眠気のメリ ハリは加齢とともに低下するため,寝床にいる時 間が長くなるとほぼ確実に睡眠が混入する。日光 のような高照度の光にはサーカディアンリズムを 調整する作用があるが,高照度光を浴びる時間が
特別論文 短い生活習慣も日中の覚醒度低下や夜間睡眠の質 を低下させる原因となる。 当然ではあるが,要介護状態の特徴である ADL(日常生活動作)の低下や認知機能の低下 も睡眠の特徴と密接に関係している。ADL や認 知機能の低下により活動が制限され,意欲が低下 することで日中に睡眠が長時間混入し夜間睡眠の 質が低下する悪循環が形成される。痛み,かゆみ, 疾患,薬剤による影響で睡眠の質が低下している ことも多く,前述した OSAS(閉塞性睡眠時無呼 吸 症 候 群),PLMD(周 期 性 四 肢 運 動 障 害), RBD(レム睡眠行動障害)などの睡眠障害も高 頻度に認められる。また,介護によって睡眠が妨 げられている側面もある。夜間の定時に実施され るトイレ誘導,おむつ交換,安否確認のための訪 室など,どれも必要な介護であるが,これらの介 護が睡眠を妨げている側面もある。このように, 要介護高齢者の睡眠は多様で複合的な原因によっ て障害されていることがほとんどである。
3. 要介護高齢者の睡眠評価法
前述のように要介護高齢者では睡眠に問題を抱 えている者が多く,睡眠の問題を適切に改善する ことは介護の諸問題の解決に役立つものと考える。 夕食後すぐにベッドに入ることをやめて十分に眠 くなってからベッドに入るように促す,毎朝規則 正しく起床し朝日を浴びながら朝食を食べて日中 も太陽の光を浴びて過ごし夕方以降に眠らないよ うに軽運動を習慣化する,などの要介護高齢者の 睡眠の特徴を念頭においた対策は一定の効果を発 揮するものと考えられる。しかし,多様で複合的 な原因による睡眠の問題への対策としては十分で はない。効果的な睡眠改善のためには,睡眠の問 題をもたらしている多様な原因を適切に評価する ことが重要である。 睡眠評価法として質問紙や睡眠日誌があるが, 質問紙や自記式の睡眠日誌は客観性に欠けること が問題となるほか,認知症を罹患している場合は 回答することができない。観察式の睡眠日誌は観 察頻度と労力が相反する関係となり,30 分間隔 以上の頻度で記録することは困難である。さらに 夜間睡眠中の観察は睡眠を妨げる原因となる。 睡眠評価のゴールドスタンダードは睡眠ポリグ ラフ検査 (polysomnography: PSG) である。PSG を実施することにより,脳波(electroencephalog-raphy: EEG)・筋電図 (electromyogを実施することにより,脳波(electroencephalog-raphy: EMG) ・眼電図(electrooculography: EOG)からレム 睡眠とノンレム睡眠のステージ分類を含めた詳細 な睡眠状態を検討することができる。レムは rapid eye movement (急速眼球運動)の頭文字 をとった REM であり,ノンレム睡眠は non-REM sleep,つまりレムでない睡眠という意味で ある。レム睡眠は,覚醒時と類似した脳波を示す, 急速眼球運動が出現する,筋活動が低下するとい う非常に特徴的な睡眠状態であるため,睡眠ステ ージはレムとノンレムに大別される。EMG と EOG は主にレム睡眠を判別するために用いられ ている。ノンレム睡眠はさらに細かく分類される。 最新の米国睡眠医学会(AASM)の判定マニュ アルではノンレム睡眠は 3 段階に分類することに なっているが,従来の R&K 法(Rechtschaffen, & Kales, 1968)による 4 段階分類がまだ一般的 である。鼻気流,胸部・腹部の運動,心電図,動 脈血酸素飽和度,脚部の運動なども同時計測する ので,睡眠中の様々な生理現象を評価することが でき,OSAS(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)や PLMD(周期性四肢運動障害)など多くの睡眠障 害の診断に必須の検査である。専門の教育を受け た臨床検査技師による赤外線ビデオモニタ監視下 で実施され,睡眠の評価は視察判定による労働集 約的な検査である。多数の電極を装着するため検 査時は図 3 のような様子となる。 睡眠覚醒リズムの評価にはアクチグラフ(actig-raphy)が研究用として歴史が古く現在でも広く 使われている(Morgenthaler et al., 2007)。加速 度計により測定した装着部位の動き(活動量)か ら睡眠と覚醒を判別するもので PSG のように睡図 3.睡眠ポリグラフ検査時の患者の様子 図 4. 腕時計型アクチグラフ Micro-Mini Actigraph(AMI 社) 眠状態を詳細に検討することはできないが,日中 も含めた長期間の睡眠評価が可能である。図 4 の ような腕時計型が多く,機種によっては照度を同 時計測できるものもある。アトピー性皮膚炎のか ゆみ(掻破行動)の評価(江畑,2016),周期性 四肢運動障害の評価(Aurora et al., 2012)にも 用いられている。近年では,類似の機能を持つ健 康目的のウェアラブルセンサ(身につけて携帯す ることのできるセンサ)も多く販売されているが, 睡眠中も含めた長期間の装着は不快なだけでなく, 装着忘れ,紛失や故障,電池寿命など介護におけ る睡眠改善に適用するには課題が多い。 PSG やアクチグラフを要介護高齢者に適用す る際に大きな課題となるのは,センサを装着しな ければならないことである。近年,センサを装着 する必要のない睡眠評価方法がいくつか開発され ているが,筆者らが開発した非装着型の睡眠計を 紹介する。眠り SCAN ®(パラマウントベッド株 式会社,東京,日本)はアクチグラフに準じた睡 眠覚醒判定機能(Kogure, Shirakawa, Shimoka-wa, & HosokaShimoka-wa, 2011)と OSAS が疑われる患 者を対象とした中等症以上の OSAS スクリーニ ン グ 機 能(Kogure, Kobayashi, Okawa, Nakaji-ma, & Inoue, 2017)を有するシート型体振動計 (sheet-shaped body vibrometer: SBV)である。
SBV は図 5 のようにマットレスや布団の下に設 置するため装着の煩わしさがなく,AC 給電なの で電池寿命を気にする必要がなく長期連続測定が 可能であり,数秒毎にパソコンなどの端末に測定 データを送信できるので記録されたデータをいつ でも確認することができる。心拍数と呼吸数の測 定も可能である。健常者 20 名を対象とした心拍 数の測定精度は,心電図による心拍数に対して ± 5[回/分]もしくは± 10%の誤差範囲内を一 致とした場合の一致率が 99.0%,Pearson 相関係 数
r
=0.954 であり,間欠的に振動を発するポン プを内蔵したエアマットレスで使用しても統計学 的に有意な精度低下は認められなかったことが報 告されている(木暮・椎野・河原・杉・白川, 2017)。また,術後回復室入院患者を対象とした 一致率は 95.6%,相関係数r
=0.948 であった (郡・木暮・西浦,2015)。呼吸数の測定精度につ いては,健常者 10 名を対象とした鼻気流温度セ ンサによる呼吸数に対して± 2[回/分]もしく は± 10%の誤差範囲内を一致とした場合の一致 率が 99.3%,Pearson 相関係数r
=0.986 であっ たと報告されている(木暮ほか,2013)。また,特別論文
「マットレスの下・胸の下あたり」に設置
図 5. シート型体振動計 眠り SCAN ®(パラマウントベッド株式会社)
SBV で測定した周期性体動指数(periodic body movement index: PBMI)による PLMD スクリ ー ニ ン グ は 感 度 が 低 い 欠 点 が 認 め ら れ た が , PBMI と PSG による periodic leg movement in-dex には相関が認められたことが報告されている (木暮・小林・井上,2016)。体振動の有無からベ ッドに人がいるか否かを判別することによってベ ッドの出入り(離床・在床)が分かるため,図 2 のように就床時刻,起床時刻,夜間の離床回数, 日中の在床状況を測定することができ,睡眠習慣, 夜間の排尿回数および転倒リスク,日中の活動性 などを推定することができる。PSG と比較する と精度が低い,アクチグラフのように寝床以外で の睡眠評価ができない,という欠点があるが,要 介護高齢者の睡眠改善を効率的に実施する点にお いては好適な睡眠評価方法であると考えられる。
4. 要介護高齢者の睡眠改善
4-1 睡眠習慣への介入事例 要介護高齢者を対象として SBV(シート型体 振動計)を用いた睡眠改善を実践した事例を紹介 する。介護施設で生活するアルツハイマー型認知 症の 82 歳男性であるが,2 時間おきに排尿で起 きていて熟睡していないなどの様子が職員の間で 確認されていた。しかし,自室での生活状況が分 からず特に夜間睡眠の状態が分からないというこ とであった。SBV で約 4 週間の測定を実施した ところ,図 6 左(介入前)のような睡眠状況であ ることが確認された。平均すると,就床時刻が 19 時台と早く起床時刻が 7 時台なので 12 時間近 くもベッドにいるが,睡眠時間は約 4 時間で夜間 に平均 6 回も離床していた。日中はベッドを離れ ている日が多いがベッドにいる時は眠っているこ とが多い,夜間の睡眠時間が約 4 時間と短い,の 2 点から,日中にベッド以外の場所で眠っている 可能性が高いと推定された。また,不規則な起床 時刻がサーカディアンリズムを乱していると推定 された。 以上の睡眠状況の評価に基づき,①就床時刻を 遅くし総就床時間を短くすること,②日中に眠ら ないこと,③起床時刻を規則正しくすること,の 3 つが有効な対策として考えられた。そして,対 象者の性格や生活状況も含めて職員で検討した結 果,①夜間は眠くなってからベッドに誘導する, ②日中にベッド以外で居眠りしないように観察す る,③ 14 時以降の居眠りを減らすための活動を 取り入れる,の 3 つの対策を実施した。介入から 約 1〜2 ヶ月後の睡眠状況を確認したところ,図 6 右(介入後)のように平均で睡眠時間が 1 時間 以上増え夜間の離床回数が 2 回以上減る改善結果 が得られた。離床回数
睡眠時間
睡眠効率
就床時刻
起床時刻
6.0回
3時間55分
35%
19時37分
7時29分
3.9回
5時間6分
45%
19時57分
7時28分
Before(介入前)
After(介入後)
図 6.要介護高齢者の睡眠改善介入前後の睡眠 4-2 夜間の介護方法の改善 SBV(シート型体振動計)は夜間の介護方法の 改善にも用いられている。施設内 LAN 環境を整 備することで各居室のベッドに設置された SBV のデータ(睡眠・覚醒・起上り・離床の現在状態, 呼吸数,心拍数の現在値)をパソコンなどの端末 に一覧表示させることができる。このことは,職 員が入居者の状況に応じた効率的な介護を提供す る助けとなる。 例えば,ADL や認知機能の状態によっては睡 眠習慣への介入が困難な場合もある。このような 場合の効果的な介入として,おむつ交換方法の見 直しがある。山中ほか(2011)は,21 時・0 時・ 3 時・6 時と 3 時間ごとに実施していたおむつ交 換を,吸水性の良いおむつを使用して 19 時・0 時・6 時に変更したところ,0 時以降の睡眠状況 が明らかに改善したことを報告している。SBV の導入施設では,おむつ交換を中途覚醒したタイ ミングに実施するように変更することによって睡 眠が改善したという事例が得られている。また, 睡眠中の無駄な訪室は避け入居者の睡眠を妨害し ない,転倒リスクの高い入居者が起き上がったら 駆けつける,なども SBV によって可能となる。 これらの睡眠・覚醒・離床の記録は職員間で共 有して睡眠改善に役立てられるだけでなく,入居 者の家族と共有することもできる。また,呼吸 数・心拍数の記録は体調変化の早期発見や看取り 時などに活用できる。SBV を用いた評価はこの ように直接的または間接的に要介護高齢者の睡眠 改善に役立つものと考える。5. おわりに
本稿では高齢者と要介護高齢者の睡眠の特徴, 要介護高齢者の睡眠評価方法について考察したう えで,要介護高齢者の睡眠改善について事例を交特別論文 えて考察した。大小の違いはあるが,生活のあり とあらゆるものが睡眠に影響を与え,睡眠は生活 のありとあらゆるものに影響を与える。睡眠科学 の知見や睡眠評価を高齢者ケアに取り入れること は今後ますます必要となってこよう。 引用文献
Aurora, R. N., Kristo, D. A., Bista, S. R., Row-ley, J. A., Zak, R. S., Casey, K. R., Lamm, C. I., Tracy, S. L., & Rosenberg, R. S. 2012 The treatment of restless legs syndrome and peri-odic limb movement disorder in adults — an update for 2012: Practice parameters with an evidence-based systematic review and meta-analyses: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline.
Sleep
, 35, 1039-1062.Borbély, A. A. 1982 A two process model of sleep regulation.
Human Neurobiology
, 1, 195-204.Bubu, O. M., Brannick, M., Mortimer, J., Uma-sabor-Bubu, O., Sebastião, Y. V., Wen, Y., Schwartz, S., Borenstein, A. R., Wu, Y., Morgan, D., & Anderson, W. M. 2017 Sleep, Cognitive impairment and Alzheimer’s dis-ease: A systematic review and meta-analysis.
Sleep
, 40, 1-18.Cohen, S., Doyle, W. J., Alper, C. M., Janicki-Deverts, D., & Turner, R. B. 2009 Sleep hab-its and susceptibility to the common cold.
Ar-chives of internal medicine
, 169, 62-67. Dzierzewski, J. M., Williams, J. M., Roditi, D.,Marsiske, M., McCoy, K., McNamara, J., Dautovich, N., Robinson, M. E., & McCrae, C. S. 2010 Daily variations in objective night-time sleep and subjective morning pain in old-er adults with insomnia: Evidence of covaria-tion over time.
Journal of the American
Geriatrics Society
, 58, 925-930.江畑俊哉 2016 アトピー性皮膚炎と睡眠 睡眠 医療,10,71-78.
Jungquist, C. R., O’Brien, C., Matteson-Rusby, S., Smith, M. T., Pigeon, W. R., Xia, Y., Lu, N., & Perlis, M. L. 2010 The efficacy of cogni-tive behavioral therapy for insomnia in pa-tients with chronic pain.
Sleep Medicine
, 11, 302-309.Kim, K., Uchiyama, M., Okawa, M., Liu X., & Ogihara, R. 2000 An epidemiological study of insomnia among the Japanese general popula-tion.
Sleep
, 23, 41-47. 木暮貴政・井上智子 2012 非装着型アクチグラ フィによる認知症高齢者の睡眠状況と離床パタ ーンの把握 日本認知症ケア学会誌,11,590-595. 木暮貴政・萱場桃子・井上智子・本田靖・徳山薫 平・佐藤誠 2013 非装着型センサによる呼吸 数計測の精度検証 日本睡眠学会第 38 回定期 学術集会抄録集,172 木暮貴政・小林美奈・井上雄一 2016 シート型 体振動計による周期性四肢運動障害のスクリー ニングに関する研究 日本睡眠学会第 41 回定 期学術集会抄録集,244Kogure, T., Kobayashi, M., Okawa, T., Nakaji-ma, T., & Inoue, Y. 2017 Validation of a sheet-shaped body vibrometer for screening of obstructive sleep apnea.
Drug Discoveries &
Therapeutics
, 11, 126-132. 木暮貴政・椎野俊秀・河原諒治・杉剛直・白川修 一郎 2017 シート型体振動計による心拍数計 測の精度検証(第 2 報:エアマットレスのポン プ振動ノイズ混入の影響検証) 日本睡眠学会 第 42 回定期学術集会抄録集,193Kogure, T., Shirakawa, S., Shimokawa, M., & Hosokawa, Y. 2011 Automatic sleep/wake scoring from body motion in bed: validation of a newly developed sensor placed under a mat-tress.
The Journal of Psychological
Anthro-pology
, 30, 103-109. 郡隆之・木暮貴政・西浦想太 2015 非接触型体 振動計を用いた心拍数の測定:外科術後患者に おける精度検証 医療情報学,35 (suppl.), 306-307. 三島和夫 2007 高齢者,認知症患者の睡眠障害 と治療上の留意点 精神医学,49,501-510. Morgenthaler, T., Alessi, C., Friedman, L.,Ow-ens, J., Kapur, V., Boehlecke, B., Brown, T., Chesson, A. Jr., Coleman, J., Lee-Chiong, T., Pancer, J., & Swick, T. J. 2007 Practice pa-rameters for the use of actigraphy in the as-sessment of sleep and sleep disorders: An up-date for 2007.
Sleep
, 30, 519-529.Nakagawa, H., Niu, K., Hozawa, A., Ikeda, Y., Kaiho, Y., Ohmori-Matsuda, K., Nakaya, N., Kuriyama, S., Ebihara, S., Nagatomi, R., Tsuji, I., & Arai, Y. 2010 Impact of nocturia on bone fracture and mortality in older indi-viduals: A Japanese longitudinal cohort study.
The Journal of urology
, 184, 1413-1418. 尾崎章子 2012 女性介護者の睡眠障害 睡眠医療,6,465-471.
Rechtschaffen, A., & Kales, A. ( Eds ) 1968
A
manual of standardized terminology,
tech-niques, and scoring systems for sleep stages of
human subjects
. Washington, DC: U. S. Gov-ernment Printing Office.清水徹男 2003 高齢者の睡眠障害 老年精神医 学雑誌,14,1292-1301. 清水徹男 2009 転倒予防と睡眠 ねむりと医療, 2,31-34. 白川修一郎・田中秀樹・駒田陽子・水野康 2003 高齢者の睡眠障害と夜間頻尿 泌尿器外科,16, 15-20.
Vitiello, M. V., Rybarczyk, B., Von Korff, M., & Stepanski, E. J. 2009 Cognitive behavioral therapy for insomnia improves sleep and de-creases pain in older adults with co-morbid
insomnia and osteoarthritis.
Journal of
Clini-cal Sleep Medicine
, 5, 355-362.Xie, L., Kang, H., Xu Q., Chen, M. J., Liao, Y., Thiyagarajan, M., O’Donnell, J., Christensen, D. J., Nicholson, C., Iliff, J. J., Takano, T., Deane, R., & Nedergaard, M. 2013 Sleep drives metabolite clearance from the adult brain.
Science
, 342, 373-377.山中道代・山本菜緒・白石和加枝・吉野真理・安 野可奈子・岡部恭子・原田裕美 おむつ交換方 法の違いによる睡眠の変化 日本老年看護学会 学術集会抄録集,175
Young, T., Peppard, P. E., & Gottlieb, D. J. 2002 Epidemiology of obstructive sleep apnea: A population health perspective.
American
Journal of Respiratory and Critical Care
Medicine
, 165, 1217-1239.(受稿:2017 年 9 月 20 日) (受理:2017 年 10 月 2 日)
特別論文
Sleep characteristics and improvement in elderly care.
Sleep problems of the elderly are partially due to the natural aging process. However sleep habits such as excessive time in bed are also factors. Sleep problems of the elderly in need of care are produced by various mixed factors including excessive early time to bed, excessive time in bed, reduced daytime activ-ity, reduced exposure to light, pain, skin irritation, disease, drugs, and sleep disorders. Proper assessment of the factors is important for effective intervention to improve sleep of the elderly. A sheet-shaped body vibrometer placed under the mattress is preferred for this purpose. Sleep improvement of the elderly in-cluding a case report of intervention to improve sleep is discussed in this paper.
Key words ⇒ the elderly, care, sleep, sheet-shaped body vibrometer, robot