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一 技能訓練 における日独比較の観点から 一

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研究論文

ドイツにおけるデュアル ・システムの実際 ( Ⅰ)

一 技能訓練 における日独比較の観点から 一

杯 悦 子

要 旨

本号 と次号 とにわた り ドイ ツの職業教育にお けるデ ュアル ・システムについて、 とくに 養成訓練の技能実習 を受 けもつ企業の役割 を中心に、 日本 の企業内教育訓練 との比較研究 の視点か ら論述す る。 中心論点は、以下の

3

点である。第

1

に、 ドイツでは、職業教育が 社会経済システムの中に堅固に組み込まれてお り、その構造の理解がまず肝要であること。

2

に、経済界、 とくに大企業 における職業訓練施設 を含 めた訓練サー ビスの提供 は、そ の費用負担 において、"ノーブ レス ・オブ リー ジ"とも言 うべ き社会貢献の要素が濃厚であ ること。そ して、第3に、職業訓練修 了試験の実権 を握 る商工会議所のツンフ トの伝統遵 守の精神 と、生産 システ ムのIT化 ・統合化‑の転換著 しい今 日の産業競争力 との兼ね合い は如何 なるものか、 とい う

3

点である。

ドイツにおける職業訓練、特に養成訓練は、社会全体で将来‑投資す ることを是 とす る。

産 ・官 ・学が一体 となった職業教育システム形成 の歴史的背景 と文化 の理解 、す なわち、

産業にお けるいわゆる ドイツ人気質の形成 を現場か ら考察す るとい う作業 を行 う中か ら、

技能形成 を中心に職業教育の全体像 をつかみ、それが次世代 に受 け継 がれてい く様子 を捉 まえる。技術革新 と伝統 とは相克 しつつ も、現代 においては企業の グローバル化戦略 とい う接点でつながってい る と考 え られ る。専門的分業 による確かな技術力 をベース とした競 争力 を以て、グローバル化す る経済に独 自の存在意義 を堅持 しよ うとす る点が指摘できる。

その背景 には、中等教育の早い段階で行 われ る、子 どもの職業選択 にお ける父親 の役割 も 垣間見 える。 また、時間がかか るとい う難点はあるが、技能修得 と高等教育 を同一個人の うち に形 成 す る とい う選 択 も、 ご く一 般 的 に行 われ て い る。

"Gu tDi ng wi l lWe i l e ha be n. "

(良い ものは時間がかか る) とい う ドイ ツの格言 は、そのまま人材形成 にも適用 できよ う

洋 の東西 を問わず、少子高齢化が進む先進 国において、次の世代の能力開発 を どう進 め るかは、今後の産業の成長力 を左右す る喫緊の課題 である。今後の 日本 の製造業における 中長期的人材育成の方針 を見極 める上で も、伝統 ある ドイツの職業訓練 システムについて、

現時点での製造現場か らの実証分析 は意義 あるもの と思われ る。

キ ー ワー ド :職業訓練 ・ツンフ ト(‑ギル ド)・伝統 と革新 ・グローバル化 ・競争力

ドイツにおけるデュアル ・システムの実際(Ⅰ) 145

(2)

目 次

は じめに

第1章 ドイツ デ ュアル ・システムの概要 とその社会文化的背景 第 1節 社会経済 システム における職業教育の位置づけ

1

項 歴史的背景

(

1 3

世紀

〜1 9

世紀;手工業 とツンフ トを中心 に) 第

2

項 歴史的背景

Ⅱ ( 20

世紀;デュアル ・システム成立か ら現代 まで) 第2節 学校か ら職業へ ー デ ュアル ・システムの現在一

以上、前編 (Ⅰ) 以下、後編 (Ⅱ) 第2章 デ ュアル ・システムの枠組み 一 職業教育訓練 にお ける産 ・官 ・学の役割 一 第3章 実証研究 ‑ デ ュアル ・システムの企業 内実務訓練 を中心に 一

第 1節 大企業にお ける教育訓練 第 1項 鉄鋼業の事例 第

2

項 自動車工業の事例 第

2

節 中小企業における技能訓練

工作機械工業の事例

1

.はじめに

本稿では、 ドイ ツの職業教育にお けるデ ュア ル ・システ ムについて1、 とくに養成 訓練 の技 能実習 を受 けもつ企業の役割 を中心に、 日本 の 企業 内教育訓練 との比較研究の視点か ら論述す る。前編 (Ⅰ)では、その社会文化的な意味 を 解 き明かすべ く、 ドイ ツにお ける職業訓練 の歴 史的背景 を中心に論述 し、後編 (Ⅱ)では、具 体的な産 ・官 ・学の枠組みの理解 とともに、実 証研究か ら現状 と課題 を考察す る。

洋 の東西 を問わず、少子高齢化 が進む先進 国 において、次の世代の能力開発 をど う進 めるか は、今後の産業の成長力 を左右す る喫緊の課題 である。 とくに

汀技術の進展に伴い、電子化 ・ 統合化の進む製造業に係 る能力開発 については、

新生産 システム‑の対応 のみな らず 、競争力維 持のための国際分業の問題 にも影響 を与 える。

はた して、生産工程 のシステム化 ・無人化 の方 向性 と個人技能の育成 は二律背反 の問題 として 捉 えるべ き問題 であるのだろ うか。 また、職業 能力の確 立 と労働 に対す る意識 は どのよ うな環 境の中か ら生まれ るのであろ うか。今後の 日本 の製造業 にお ける中長期的人材育成 の方針 を見 極 める上で も、伝統 ある ドイ ツの職業訓練 シス テムについて、現時点での製造現場 か らの実証 分析 は意義 あるもの と思われ る。

これまで ドイツの職業教育については、国内 外 で さま ざまな研究 がな され てい る2。 日本 に おいて も、 とくに、デ ュアル ・システムについ ては、 日本カール ・デ ュイスベル ク協会

( 1 9 92 )

が文字 どお り 「二元教育制度」 として詳 しく紹

lデ ュアル ・システム とは、直訳す る と 「二元教育制度」 (日本カール ・デ ュイ スベル ク協会)、意訳 をす る と、 「 練生教育」 (久本,2008)となる。いずれ も、産学協 同で行 う ドイ ツの職業訓練制度 を指す。

2 ドイ ツの職業教育訓練 のデ ュアル ・システム、また、マイス ター制度 については、その質実剛健 で高い精度 を誇 る 工業製 品晶質や 、政府 と民間が協働 でつ くりあげた制度その ものに対す る国際的評価 が高い。 とくに、生産立国 を 目標 としてきた 日本 では人気が高い。 その反面、マイスター制度 、デ ュアル ・システムな どの用語 については、甚 だ暖味な使用例が多 く存在す ることも事実である。本論では、必要各箇所 で用語の意味 と実際 を考察す る。

146国際経 営論集 No.39 2010

(3)

介 し3、また、 日本 労働研究機構

( 2 0 0 0)

が公 共職業訓練 の国際比較 シ リーズの一環 として特 集 を組 んでい る4。

本 国 ドイ ツでの最新情報については、 ドイ ツ 連邦政府教育研究省

( 2 0 0 3 )

か ら英語版 で ドイ ツ の 職 業 教 育 に 関 す る報 告 書 (GeTmany's Vocatl'onalEduca

t l ' o

n ataglance)が発行 され てお り、 さらには、 ヨー ロッパ連合全体か らみ た各国の職業教育の取 り組みについて、その 目 標 とこれ までの歩みに関 しては、会議 の開催 さ れ たポル トガル ・リスボ ンの地名 を とって、

「リスボン ・ゴールの達成 に向けて」 (Achl'evl'ng theLl'sbon Goal:m e Contn'butl'on ofVET)5

として

2 0 0 5

年 に報告書が出 されてい る。

これ らとは別 に、 田中

( 2 00

1)では、 ドイ ツ 企 業社 会 の形成 と変容 につ いて、 本論 文後編 (Ⅱ) で扱 う

T K

鉄鋼 につ いて、設 立 当初 か ら の経 営史 的考 察 が丹念 に行 われ てい る そ の

「労働篇」や 「生活篇 は、現代 に通ず る ドイ ツ近代産業社会の創成 と文化 的背景 を知 る上で 示唆 に富む6。 また、上述、 (旧) 日本労働研究 機構

( 2 0 0 0)

で も

鉄鋼

・βC

自動 車 な ど大 企業の教育訓練事例 を扱 っているが、調査対象 となった

1 9 9 0

年代 と

2 0 0 0

年代 では、既 にその訓 練結果 についての対応、具体的には、経済環境 の変化 か ら訓練生の就職事情等に変化が生 じて きてい ることが判 る。 さらには、最近では久本

( 2 0 0 8)

が、現業職 の教育訓練 とともに、 ドイ

ツで も増加 に転 じ始 めた大学進学者 の動 向を調 査 し、大学卒の職業観 を労働市場‑の参入 の観 点か ら論 じている。

本論では、 こ うした文献資料 によって得 られ た知識 を理論枠組み とし

、2 0 06

年度 に渡欧 して 行 った実証研究 を中心に、 ドイ ツの職業訓練の 実際について報告す る。研 究方法 としては、現 地の大学の専門研究者 による産業訓練 に関す る 付帯事項 の解説 を参考 に、事前 に当該企業宛 に 質問状 を提 出す る形 で行 った訓練担 当者お よび 現場の管理者‑のイ ンタビュー と工程観察が主 た る方法で ある7。 す なわ ち、本論 で は、 ドイ ツの職業教育 におけるデ ュアル ・システムにつ いて、 とくに技能実習 を受 け持つ企業の役割 を 中心に、実際の訓練 の様子や工程観察、現場管 理者 と教育担 当者‑ のイ ンタ ビューか ら見 えて きた ものを、 日独 の社会文化的差異 を考慮 に入 れなが ら考察す る。

本論 の中心論点は、以下の

3

点である。第一 に、 ドイツでは、その職業教育が社会経済 シス テムの中に堅固に組み込まれているため、その 歴史的背景や 、州 ごとに構築 された国を挙 げて の訓練 システ ム構造 の理解 がまず肝要であるこ と。第二に、経済界、 とくに大企業における職 業訓練施設 を含 めた訓練サー ビスの提供 は、そ の費用負担 において、"Noblesse Obligeノーブ レ ス ・オブ リージ8"とも言 うべき社会貢献の要素が 濃厚であること。 この点は、養成 訓練 は社 会全

日本 カール ・デ ュイスベル ク協会 は、 日独産業界 の協力 に よる国際的職業能力 向上訓練 のた めの公益 法人 (Ejne gemelnntitzlge Organization deutscherundjapanischerUnternehmen FtirinternationaleberuflicheWeiterbildung)とし て、 ドイ ツの職業訓練制度 について、 日独比較 の観 点 も含 めて詳解 してい る。 なお、同協会 に よる本書 は、Georg et.al(1991)DasdeutscheBerursblldLJngSSyStemの邦訳版である。

日本労働研究機構 は、現在 、独立行政法人 労働政策研究 ・研修機構 と改称 されている。

VETとは、VocationalEducation andTraining(職業教育 ・訓練)の略であるO 3章第1節 大企業における教育訓練 参照。

本研究は、2006年度神奈川大学在外研究の一環 として行 われた。 関係各位 に謝 して御礼 申 し上 げる次第である。 ま た、 ドイツ国内で在外研究受入先大学 を中心に、以下の各氏 に教 えを受 けた。鉄鋼業 については、冶金 工学の基礎 と大学工学部の現状 を含 めて、デ ュースブル ク‑エ ッセ ン大学のProf.Dr.‑Ing.Hungerお よびProf.DrJ ng.Mauk また、 ドイ ツの職業教育全般 の基本枠組 みの特徴 と留意点については、同大学東亜研 究所 のDr.Demelに教 えを受 けた。機械 工業 (とくに 自動車) については、ブ レーメン大学 と関係 の深 い、 ∂C社 のProf.Dr.Rekeit、また、機 械 工業 を中心 とす る教育訓練 システム一般 につ いては、ブ レー メン大学 のDr.Ruthな らび にDr.Detrichに、それぞ れ貴重 な助言 と資料の提供 をいただいた。各氏の貢献に対 し、御礼 を申 し上げたい。

高い身分に伴 う徳義上の義務 (『リーダーズ英和辞典』研究社 による)0

ドイツにおけるデュアル ・システムの実際(Ⅰ) 147

(4)

体か らみた将来‑の投 資 、 と捉 える ドイツ的精 神 を抜 きに論ず ることはできない。そ して、第三 に、修 了試 験の実権 を握 る商工会議所 の 「ツン フ ト」の伝 統遵守の精神 と9、生産 システムの

I T

化 ・統合化‑の転換著 しい今 日の産業競争 力 と の兼ね合いは如何なるものか、 とい う3点である。

具体的 には、産 ・官 ・学が一体 となった職業 教育 システ ム形成 の歴 史的背景 と文化 の理解 、 す なわち、産業 にお けるいわゆる ドイ ツ人気質 の形成 を 「現場 か ら捉 える」 とい う作業 を行 う 中か ら、技能形成 を中心に職業教育の全体像 を つかみ 、それが次世代 に ど う受 け継 がれてい く のか、また、技術革新 と伝統 とは どの よ うな接 点でつ ながっていて、如何 な る競争力 を以て グ ローバル化す る経済 にその独 自の存在意義 を堅 持 しよ うとしてい るのか を考 える。

事例研 究 では、鉄鋼業 と自動車産業大手 と、

中小 の工作機械 工業 にお ける技能訓練 を扱 う。

そ もそ もこれ らの産業 は産業革命 を発端 に英 国 で芽生 え、その後 、西 ヨー ロ ッパお よび北アメ リカで高度 に発 達 した。 日本 は、開国 とともに その技術 ・技法 を列強 に学び、20世紀後半に著

しい発展 を遂 げてきた10。

今 日、機械 工業 を中心 とす る製造業 は、英 ・ 米においてはサー ビス産業化‑の構造転換 によっ てその比重 が低 下す る一方、欧州 では ドイ ツを 中心にスイスや北欧、そ してアジアでは 日本 を 中心 に韓 国 ・台湾 ・中国な どが台頭 してい る。

そ こで、 ドイ ツ と日本 を比較 した場合 、上述 の ごとく、 日本 は製 品の晶質 な らび に価格競争力 においてほぼ桔抗す るまでになった ものの、そ の技能者養成 の理念 と方法 については、全 く異 なった様相 を呈 してい る。製 品を作 り上 げ る人

9 ツンフ ト(ZunR)とは、 ドイツ語で同業組合 の こと0

10日本の近代産業発展 の背景 を鑑み るに、木村 (2001) る と、以下の二つの次元の動 きが重要であるとい う。

材 を育成す る過程 が、今後 の製 品開発や産業 の 発展 に どの よ うな影響 を与 えてい くのか、産業

と人材 育成 のあ り方 が問われ よ う。

比較研 究の観 点か ら技能形成 に注 目す るにあ た り、2006年 の渡欧 に先 立 って2005年 に 日本 の 自動 車部 品産 業 DE社 にお いて、企 業 内教 育訓 練 と製 品開発 、生産 工程 のシステ ム化 とその グ ローバル展 開についての見解 な どに関す る聞 き 取 り調 査 を行 って い る11。 当該 DE社 の訓練 制 度 は、 ドイ ツのいわゆるマイ ス ター制度 を手本 として出発 し、現在 では企業 内教育訓練 システ ムを高度 に発展 させ てい る。 この事前調査結果 を踏 まえ、且つ 、彼我 の社会文化 的背景 の違 い を認識 しつつ 、本稿 では2回にわたって ドイ ツ にお ける職業教育 の理念 と実際の両面か ら考察 を行 う。

1

章 ドイツ

デュアル ・システムの

概要 とその社会文化的背景

本章では、デ ュアル ・システ ム として知 られ る、 ドイ ツの職業教育制度 について、その歴 史 に照 らしなが ら、当該制度成 立の社会文化 的背 景 を考察す る。

第 1節 社会経済 システム にお ける職業教育 の 位置づ け

は じめに述べた よ うに、 ドイ ツでは、その職 業教育が社会経済 システ ムの 中に しっか りと組 み込 まれてお り、そ の構造 の理解 な くしてデ ュ アル ・システ ムを論ず るこ とはで きない。 この ため、まず、その制度 的枠組み の理解 か ら説 き 起 こす。

英語 のギル ド(Guild)にあた る。

に よれ ば、 日本 と ドイ ツの関係 を歴史学の問題 としてみてみ ひ とつは、 ドイ ツを国家建設 と近代化 のモデル に して、 日本 が明治以来 ドイ ツか ら学び、その成果 を取 り入れ る とい う教師 と学び手 との関係 である。 明治憲法 をは じめ とす る 近代的法体系、陸軍を中心 とした軍事組織や装備 、医学 ・法学 ・哲学 ・歴 史学 ・文学 な どの近代諸科学 と大学制度 な どは、 もっぱ ら ドイ ツの制度や成果が取 り入れ られてい る。 (‑ヰ 略‑)第二次世界大戦後 になって、アメ リカ 合衆国が ドイ ツに取 って代 わる地位 を得たが、戦前 に蓄積 された ドイツ文化 の影響力は、 とりわけ知的世界 におい てなお根強 く残 ってい る (木村,2001,pp.1卜12)0

'1詳細 については、林 (2008)を参照の こと。

148国際経 営論 集 No.39 2010

(5)

大多数の職業‑の就業が学校教育の修 了資格 で可能 で 、就 業後 の フォ ロー ・ア ップ はOJT

(職場訓練)やoff‑JT (集合研修) で十分 だ と 考 え られている多 くの先進工業国 とは異 な り、

ドイツの専門労働者 の技能養成 と職業知識 の酒 養 は、州政府 との連携 をとりなが ら、多 くは企 業組織 の 中で行 われてい る12。 その大半は修業 期 間3年‑ 3半年 の職業養成 訓練課程 であ り13、 この養成訓練 と職業教育 との二元制度 の下で、

ドイ ツの青少年 は将来の熟練労働者 としての就 業資格 を取得す る

今 日のデ ュアル ・システムは、堅牢で妥協の ない"ドイツ的 ものづ くり"を生んだ、手工業の 技能形成史の流れ を色濃 く反映 してい る。そ こ で、本節 では二項 に分 けてデ ュアル ・システ ム 成立の史的背景 を考察す る。

1

項 歴史的背景

Ⅰ ( 1 3

世紀

〜1 9

世紀;

手工業 とツンフ トを中心 に)

ドイツのデ ュアル ・システム成立の歴史的背 景は、中世 の職人の伝統 にまで遡 る

。1 3

世紀以 来、手工業の親方 (マイスター)の仕事場では、

後継者の教育は、組織的には、徒弟 (Lehrlinge)、 職人 (Geselle)、親方 (Meister)の3段階か ら

なる、親方の家族構造の中に組み込まれていた。

そ こでは、 「尊敬 に値す る

職人 の生活 内容 を 吸収す ることこそ最 も大事 な 目標 で、専門資格 の取得 な どはむ しろ二義的であった。徒弟 を引 き受 け、教育 し、年季明けを以て一人前 とす る 徒弟 関係 か ら生 じる双方の義務 を果たす のが、

職人 と親方の職業組織である 「ツンフ ト(Zunft)」、 すなわち、英語でい うところの 「ギル ド(Guild)

の役割 であった (ゲオル ク,1992,p.42;日本 労働研究機構,2000,p.94)0

徒弟制度 自体は、 日本 にお ける 「住み込み」

の徒弟奉公 に類似す るもの と考 え られ るが、 こ の強力 な同業組合 の存在 は、西 ヨー ロッパ に特 異な組織形態である。特 に、強い兄弟愛 に貫か れた ドイツの手工業者組合組織は、その社会的、

政治的、経済的威信 に加 えて、営業権益が組織 内外 に広 く効力 を発揮 した点でつ とに有名 であ る。す なわち、 「組合 強制」 を以て、 ツンフ ト に所属す る職人の親方だけが さま ざまな手工業 の仕事 を行い、その製 品を都 市圏で販売可能 な ことを意味 したか らである。 こ うした古い伝統 を残す手工業分野では、現在 で も職業資格がな い と職人の立場で働 くことができない。商工業 分野で も労働者 として働 いてい る人た ちの大半 が職業資格 を取得 して働 いてい る。

さて、 この強大 なツンフ トも

、1 7 ‑1 8

世紀 に 入 り、国家が拡大的な経済政策 の採用 に転ず る と、手工業者 の職業意識 が新 しい生産形態 を求 める国家の方針 と乱蝶 を起 こす よ うになる。す なわち、問屋制度お よび工業的な大量生産 の前 段階が、職人 の経済的な存在基盤 を危 うくす る に至 るまでになっていたのである。つづ く19世 紀初頭 には、営業の 自由、並びに経済一般 の 自 由が導入 され、手工業 とツンフ トとい う旧式 な 組織形態は解体 した。

ゲオル ク (1992)によれ ば、ツンフ トの解体 は、また、職業 ごとに行 われていた職業教育の 終蔦 をも意味 した。経済の 自由化 は、経済活動 にお ける競争 を促進す ることにあ り、 これ はツ ンフ トの 「強制」 とは相容れないものであった。

12専門労働者 とは熟練労働者 と同義であるが、 ここでは、将来 の熟練工 として正式の養成 訓練 を受 け、その修 了資格 を得た者 とい う意味になる。 日本流 に言 えば、正社員 で技能職 にある者 とい えるが、oJT中心の企業 内訓練 が主流 である 日本 の熟練工養成 とは、そのスター トの概念 が異なる。専門労働者 の対義語 は、非専門労働者 あるいは補助 労働者 (不熟練工、 もしくは未熟練工) であ り、多 くは補助的業務や臨時の仕事 に従事す ることになるが、その職 業的地位 は一般 に著 しく不安定である (その歴史的経緯 については、第2項参照)。 また、一部 、最新技術が職種 として未認定の場合 に 「不専門労働者」 とい う用語 を用いることがあるが、 これ については、第3章で後述す る。

13養成訓練 中、訓練生は企業で実務訓練 をす るので、多 くは労働協約 で定め られた額 の賃金 が支払われ る。金額 は職 種 によって異 なるが、現在全 ドイ ツでの平均月額 は628ユー ロである (久本,2008,p.51)。 また、 旧西 ドイ ツ と東

ドイツな ど地域 による差異 も見 られ るo

ドイツにおけるデュアル ・システムの実際(Ⅰ) 149

(6)

営業の 自由の導入 は、徒弟関係 の契約 の 自由の 問題 となった。す なわち、職業養成訓練条件 と 労働条件 は 自由競争 の問題 となって、徒弟関係 は、双方がいつで も破棄できるよ うになったか らである (ゲオル ク

,1 9 9 2

,p

. 4 3 )

しか しなが ら、この 「自由契約」では、破棄 の可能性 があるゆえに、徒弟 を安い労働力 とし て利用できな くなったばか りでな く、手工業に おける経済状況の悪化 をも招 く結果 となった。

本来、手工業の親方、職人、徒弟 の関係 は量的 に釣 り合 いが取れてお り、そのため、原則 的に は どの徒弟 に も将来、親方 (マイスター)の肩 書が取得可能で、独立 して 自前の事業所 を経営 す るチャンスがあった。そ うした均衡 が失われ た 自由競争社会では、新 しい社会階層 として、

生涯 を通 じて独立できない、給与 をもらうだけ の職人が発生 した。加 えて、青少年 は次第に職 業養成訓練 を経 ないまま、新たに生まれて急増 す る工場で仕事 をす るよ うになっていった。

社会制度 の安定性 を長い間にわたって保 障 し たのが手工業であった とされ るが、経済の 自由 化は身分制度 に基づ くあ らゆる社会制度 に変革 をもた らした。古 くか らの中産階級、すなわち、

手工業、小規模商業、小規模農家は、次第 にそ の経済的な存立基盤 を失い、増加 の一途 をた ど る工場労働者階級 と一緒 になって、政治的、社 会的制度 に脅威 を与えるよ うになった。 そのた め

、1 9

世紀後半の ドイツ帝国の保守勢力は、次 第 に台頭す る新興勢力である社会民主主義勢力 に対す る対抗策 を打ち出す こととなった。

その大きな柱 の一つである営業権 については、

1 8 9 7

年 に 「手工業保護法」によって手工業会議 所が設立 され、手工業界 の 自主統制 を再度定着 させ る措置が とられた。 これ によって、手工業 会議所 は徒弟教育の調整や監督、お よび修 了試 験の実施権 を与 え られた。マイスター修行 は こ

うして再び標準化 された組織形態 を獲得 し、 こ の形態で職業教育の内容 、期 間 と教育契約 の形 式が定め られた。加 えて、手工業会議所 は修 了

試験の独 占的実施権 を通 じて、工業の事業所 に おいて もその影響力 を行使す るよ うになる。 こ のよ うな経緯か ら、手工業マイスターの修行 は、

工業的な職種 について も重要 なモデル としての 機能 を果 たす よ うになっていった (ゲオル ク,

1 9 9 2

,pp

. 4 3 ‑ 4 4 )

0

その後

、1 9 3 8

年 になって、は じめて商工会議 所 による国家公認 の熟練工試験が創設 され、伝 統 ある手工業会議所 の主催す る職人試験 と同格 の扱い を受 けることとなるが、産業拡大の最盛 期 の

1 9

世紀後半における手工業界の職業養成訓 練モデル と、同業組合 による試験 の実施 とい う 二大要因は、 ドイツ職業訓練史にお ける重要 な 要素 として今 日に続いている。その社会現象 と しての出来事は

、1 9

世紀終盤 の、今 日のデ ュア ル ・システムの基 となる職業学校の発展である。

この

、1 8

世紀 の 日曜学校 を起源 とす る庶 民のた めの学校 に14、職業的内容 の授 業 が追加 された 職業学校 に通 うことは、20世紀 に入 る と次第 に ドイ ツのあ らゆる地方で、すべての徒弟 と若 い 労働者 の義務 となっていった。

第2項 歴 史 的背景Ⅱ (20世 紀;デ ュアル ・ システム成立か ら現代 まで)

20世紀以降の職業養成訓練 は、熟練工養成 の ための工業教育 が中心 とな る。 「専門労働者 」 としての熟練工のステー タスは、職業養成訓練 を受 けていない 「補助労働者」 (不熟練工)や、

短期 間の現場での教育 を受 けただけの未熟練工 と次第に明確 に区別 され るよ うになっていった。

前項で述べた よ うに、熟練工試験 を手工業職 人試験 と法律的に同格 に した ことで、工業界で も要職業養成訓練職種 を定 めることにな り、 こ れ によって、その法的拘束力、教育計画、適性 要件、試験規程 が制定 され、国家か らも認定 さ れ るこ ととなった。デ ュアル ・システム成立の 直接 の契機 は

、1 9 3 8

年 に職業学校 が義務教育法 によって法制化 され、全 国統一的に導入 された 点にあるが、 この時点では企業内教育 に関す る

14 日曜学校 では、小学校卒業者 のために、読み書 き、算数、宗教 の授業 を継続 的に行 った (ゲオル ク,1992,p.44)0

150国際経 営論集

No . 3 9

2010

(7)

法律 は未整 理 の状態 にあった。

そ の後

、1 9 6 9

年 に職 業教 育法 が可決成 立す る に及 んで、それ まで一方 的 に経営者 が 関与 して きた職 業教 育訓練 に変化 が生 じ、国や 労働組 合 にも職業養成 訓練 に参画す る権利 が拡大 された。

こ うして、職業教育 は、経営者 、労働者 、国の 三者 が、計画立案 か ら実施 管理 に至 るまで参加 す る公 的課題 となっていった。 この点 が、後発 ゆえにそ の経 済発展 のス ピー ドに公 的職 業 訓練 が追 いつ いてい けない状態 で、個別 に発達せ ざ るを得 なか った 日本 の企業 内訓練 の歴 史 と決定 的 に異 な る点で あろ う。

また、前 出の よ うに、 ドイ ツでは

1 9

世紀末 か ら

2 0

世紀初頭 にか けて手 工業マイ ス ター の修行 を復活 させ たが、 これ は復古 的な意 味 あいが あ るので は な く、 「マ イ ス ター の修行 の外 形 だ け を残 して、その 中に、工業的、手 工業 的、商業 的教 育 コー ス を確 立 した ものであ り、 この職 業 養成 訓練 の形式 が、熟練 工が広 く認 め られ るよ うになる上で貢献 した (ゲオル ク

,1 9 92,p. 4 4 )

」、

とす る指摘 は意義深 い。

こ うして、現在 ドイ ツでは同世代 の過 半数 の 青少年 が、企業 と学校 の同時研修 に よって職 業 人 と して の第一歩 を踏 み 出す。彼 らは工場 、作 業所 、実験 室、オ フィス、 あ るいは商店 で学習 す る。 そ して 同時 に、週 の うち

1

日か

2

日、職 業学校 に通 う。 これ らは相互 に関連 し、補完 し あ う二つ の教育現場 で あ る。 これ がデ ュアル ・ システ ム、す なわ ち二元教育制度 で あ る (日本 カール ・デ ュイ スベル ク協会

,1 9 9 2,p. 5 )

章末 の [図1]に示 す よ うに、 ドイ ツの前期 中等教育 を修 了 した若者 の、実 に

51

パーセ ン ト が養 成 訓練 に入 って い る15。 彼 らがデ ュアル ・ システ ム‑ 向か うのは、職 業選択 の幅 と将来 の

昇進 可能性 が格段 に拡 が る とい う点が あ るか ら で あ る。 ただ し

、1 5 ‑1 6

歳 の青少年 に とって、

3 6 0

余 の職 種 に及 ぶ選 択 肢 の 中か ら、 将 来 の職 業選択 を照準 に入れ なが ら、そ の職 業 に見合 っ た養 成 訓練 を選 ぶ とい うのは事 実上 困難 で あ る とい え よ う。 よって、そ の選択 は、初等教 育お よび前期 中等教 育 にお け る学校 教諭 の意見 な ら び に両親 の意 向 を色濃 く反 映 した もの とな る。

と りわ け、決 定 に関 しては、家庭 にお ける父親 の役割 の大 きい こ とが特徴 と して挙 げ られ る'6。

また、大企 業 の設備 の良い訓練施設 を希望す る 場合 には、競争 率 が高 いた めに、基幹学校 で優 秀 な成績 を修 め る とともに、在 学 中の企業 実習 に応募 し、良い成績 を残 す こ とで、事 実上将来 の訓練席 (就職 先) を確保 してお くこ とが求 め られ る場合 もあ る。応募者選 考 では、実習 時 の 成績 を参考にす るこ とが多 いか らで あ る。

第2節 学校 か ら職 業 へ ‑ デ ュアル ・シス テムの現在 ‑

"schooltowork"‑ か に学校 教 育 か ら職 莱‑ の橋渡 しをす るかは、先進諸 国 にお け る若 年層 の人材 育成 に関す る共通 の問題 で あ る。 こ の課題 に対 して 、 ドイ ツで は、 「養 成 訓練 は未 莱 ‑ の投 資」 と位 置 づ け る17。 それ は、 勤 労者 の職 業教育 が、企業 の経済 的成 功 のみ な らず 国 民経 済全体 の成 功 に とって、決 定的 な意義 を も つ とい う国民的合意 が あ るか らに他 な らない。

ドイ ツはまた、資格社会 で あ る。製造 、サー ビス、管理 のいずれ の部 門で も、それ らの仕事 を 自らの職 業 と して選 び 、営 んでい く うえで、

2年 か ら 3年 半 にわた る養成 訓練 を受 け、 これ を修 了 して必 要 な資格 を得 るこ とが将来 の熟練 労働 者 と して就 業す る条件 とな る。反 対 に、修

15厳密には、義務教育を修了せずともデュアル ・システムに参加することは可能である。なぜなら、デュアル ・システム を受ける資格審査というものは存在しないからである (日本カール ・デュイスベルク協会,1992,p.6)。また、心身に 障害を持つ青少年も保護特典付きでこの制度に参加する。制度の恩恵はあまねく平等に、というのはいかにもドイツ 的である。なお、次節で述べるように、デュアル ・システムの費用は官民で負担されるが、このうち現場における訓 練を受けもつ企業がその大半を自前で費用負担する。詳しくは、第2章 デュアル ・システムの枠組み 参照。

16詳しくは、第3章 第2節 中小企業における養成訓練 参照。

17 「養成訓練は未来‑の投資」とは、日本カール ・デュイスベルク協会 (1992)のサブタイ トルである

ドイツにおけるデュアル ・システムの実際(Ⅰ

) 1 5 1

(8)

了資格 をもたない不熟練 ・未熟練 の労働者 は、

労働 市場 で大 きな リスクを負 うこ とにな る18。 ゆえに、 ドイ ツ政府 と経済界 は、次世代 のため に文字 どお り官民を挙 げて職業教育 に取 り組 ん でい る。

デ ュアル ・システム、す なわち、二元教育訓 練制度 の うち、養成訓練 での実習 については、

大企業の場合 を例 に とる と、企業 内訓練 として 実習施設お よび資格 を有す る指導者 の提供 か ら 職業養成訓練手当の支給 に至 る一切 を引き受 け る形で、 これ を費用負担す る。実技学習 を補完 す る職業学校教育については、連邦各州 と地方 公共団体が これ を財政負担 してい る。 中小企業 の場合でも、特定の人的 ・物的条件 を満たせば、

研修生の養成訓練 を引き受 けることができる。

この うち、人的条件 とは、最低 1人のマイスター 資格 もしくは養成訓練指導者適性試験合格者 の 存在 で あ りg、物的条件面で職業教育条例 に定 め られている技能 と知識 の付与 を満 たせ ない場 合には、企業外訓練所で補 うことも可能である。

将来 を担 う青少年 を対象 とした職業教育 にお いては、教育課題 としての理論のみ を教 える学 校 と企業 にお ける実践的な養成訓練 を厳密 に区 別す るや り方 は、今 日では次第 に 目的に合 わな くなっている。最近では、学校教育サイ ドに、

企業内の実際の仕事の流れ を理論的に説 明す る ことが教育的に重要であるとの意識が高ま り、

両者 の融合が求め られてい る。そのため、職業 学校 における養成訓練 は、通常の教室だけでは な く、デモ ンス トレー シ ョン用の工場、実習オ フィス、実習用実験室な どで行われてい る。他

方、多 くの中規模企業や大企業では、研修生 に 対 し、職業学校 の授業 に加 えて独 自の実践的な 授業 を行 ってい る (日本カール ・デ ュイスベル ク協会

,1 9 92,p. 8 )

0

後述す る事例研究 に詳 しいが、 中小企業の場 合 には、養成 した研修生全員の雇用例 もあ り、

子飼 いの研修生 を鍛 える 目的であれば、 ミクロ レベル での費用対効果 が期待 で きる20。 その一 方で、大企業 においては、実質、数パーセ ン ト の研修生の雇用のために企業内の施設 を提供 し、

且つ費用一切 を引き受 けてデ ュアル ・システム に寄与す る。それ に して も、なぜそれ ほ どまで に ドイ ツ企業はデ ュアル ・システムに貢献す る のであろ うか。 ちなみに

、2 0 0 3

年 の実績 で民間 の支出割合は

7 3

パーセン ト、金額にして

1 4, 7 0 0, 0 0 0

ユー ロであ り、政府 の支出は補完教育部 門を中 心 に

2 7

パ ーセ ン ト、金額 に して6

, 2 2 0, 0 0 0

ユー ロである (OECD

,2 0 0 4)

これ に対す る答 えは明快 だ、 と日本カール ・ デ ュイスベル ク協会

( 1 9 9 2)

は断 じてい る。前 出の 「養成訓練 は未来‑の投資」 とい う見解 で ある。企業がその業績 を維持す るためには、き ちん とした資格 を持 った労働者 が必要だか ら、

とい うのがその理 由である。 さらには、熟練 工 を使 った方が、 コス ト的に有利 である とい う。

養成訓練で学習 した基礎知識 (専門資格) と、

たえず新 しい課題 に立ち向か う能力 (行動資格)、

また、新 しい事柄 を学習す ることで絶 えず変化 す るさま ざまな課題分野に、熟練工を柔軟 に、

コス ト的に有利 に投入できるよ うになる。理 由 は未熟練工 よ りも熟練工の方がはるかに迅速 に

18ツ ンフ ト(Zunft;同業組合‑ (英)Guild;ギル ド) において、徒弟 (Lehrlinge)、職人 (Geselle)、親方 (Meister) といった古いつなが りを残す手工業分野では、職業資格がない と職人 の立場で働 くことができない。商工業分野で も労働者 として働 いてい る人たちの大半が職業資格 をもって働 いている。

19複数 回登場 してい る Meisterマイスター」であるが、 ここに示 され るとお り資格 であ り、厳密 には、単 なる 「 の道 の達人」 とい う意味では用い られ ない。[1]の左上に示 され る継続教育 を続 ける中で、所轄 の商工会議所 も しくは手 工業会議所 が定 める規程 による資格試験 に合格 しては じめて 「マイスター」資格 を取得 し、その称号 を名 乗 ることがで きる。本稿 で主に扱 うデ ュアル ・システム修 了者 は、初期職業教育訓練修 了資格取得者 であ り、マイ スター とは大 き く異 なる。 ただ し、その資格 はマイスター‑の遠 い道 の りの第一歩で もある。 ちなみに、後編 の第 3章 第1 大企業 にお ける教育訓練 に登場す る 自動車工業 の金型部 門のマイスターは

、3 0

年 に及ぶ経験 を経 る 中でマイスター資格 を取得 してい る。

20詳 しくは、第3章 第2 中小企業 にお ける技能訓練 参照。

1 5 2

国際経営論集

No . 3 9 2 0 1 0

(9)

新 しい課題 をマスターできるか らだ (日本カー ル ・デ ュイスベル ク協会,1992,pp.14‑15)、 と

の見解 である。

ドイ ツ にお け る調 査 (FederalMinistry of Education and Research,2003)におい て も、

デ ュアル ・システムでは、第 1に、訓練 を提供 してい る94パーセ ン トの企業が、企業に有用 な 能力 を直接 開発できるか らとい う回答であ り、

単に技能のみな らず、訓練生の社会的スキルや 個性 まで酒養 できるか らであるとしてい る。第 2に、90パーセ ン トを超 える企業が、 これ ら熟 練労働力は、一般の外部労働 市場では調達でき ない と回答 してい る。第3に、80パーセ ン ト以 上の企業が、訓練 を提供す ることで、訓練期 間 中に訓練生 との間に結びつきが強まることによっ て人材 の確保 が可能になるとしてい る。第

4

、 第

5

の理 由は、75パーセ ン ト以上の企業か らの 回答であるが、訓練期 間中に優秀 な訓練生 を選 別で き、それ ゆえ、採用時に誤 った判断を回避 す ることができるとしている。 これは、いわゆ るミスマ ッチ を防 ぐ効果 があるもの と考 え られ る。第6には、上記の各企業における訓練 とは、

要す るに"企業特殊的訓練"を提供す るものであ り、結果的 にムダがない こ と21。 そ して、第 7 に、 「この企 業 で は職 業 訓練 を行 ってい る」

(DieselBetriebbildetaus.;Thiscompany offers training.)とい う事実が、優 良企業の証 し、 と世 間が認 めるか らで ある とい う (BMBF;Federal Ministry of Education and Research,2003, p.19)220

上述の各理 由は、規模 の大小 を問わずそれぞ れの企業が訓練 を提供す るに見合 う理 由を示す ものであるが、 この うち、 とくに第

4

、第

5

理 由は、なぜ大企業が このデ ュアル ・システム に貢献す るかを如実 に示 してい る。す なわち、

技能エ リー トの選別 である。そ して第7の理 由 は、技術 ・技能 に対す る ドイ ツ的精神 と熟練工 に対す る高い認知度 を示す もの とい えよ う。

しか しなが ら、グローバル な視野 に立つ と、

本件 については、積極的に支持す る意見 と、否 定的な意見に見解 が分かれ るの も事実である。

現在 のデ ュアル ・システムを概観す るに、その 現況 には次 の よ うな課題 が見受 け られ る。第 1 に、少子高齢化 の進む先進 国 として、訓練対象 年齢層 の年齢別人 口比が減少 してい ることであ る。第2に、若年層 の大学等‑の進学傾 向が強 くなってい ることが挙げ られ る。従来、 ドイツ の大学 (Universitit) では実利 よ り理念 が重 ん じられ、アカデ ミックな学問研究中心の場であっ たが、 1972年 の教育制度改革以降、近年では、

実学系統 の専 門大学 (Fachhochschule)の台頭 がある23。 また、EU (ヨー ロッパ連合)統合 に 関連 して、加盟 国大学間の単位 互換性 の整備計 画 に伴 い、 これ まで無料であった学費徴収計画 の問題 な ど、その高等教育制度 に対す る改革圧 力 も無視できない。

3

に、従来の訓練では、メカ トロニ クスや 生産設備一般 の近年 のデ ジタル化‑の対応 が遅 れがちであった ことは否 めない。 これ に対す る カ リキュラムの見直 しや、ツンフ ト (ギル ド) の伝統遵守に加 えて技術革新 に対応 した修 了試 験制度‑の対応が喫緊の課題であるといえよ う。

また、第

4

に、社会経済の国際化 の流れは、教 育訓練や職業資格 について も各国間での共通化 や認 定 の問題 を もた らしてい る とくに、EU では、 「労働者 の移動 の 自由 を謳 った新 たな

2■ただ し、 これ については、商工会議所 による共通修 了試験が行われ るため、"一般的訓練"も同時に確保 され る ( 者注)

22これ らの調査は、 ドイ ツ連邦教育 ・研究省 が2000年 に行 われた職業訓練研 究所お よび産業研 究所等 の調査結果 をま とめた ものである。

23 日本労働研 究機構 (2000)p.102参照。 なお、実践的な教育 を含 めた専 門分野の高度 な勉学 の場 として新 たに設 け られた専門大学は、また、専門職養成 の要素 を残 してお り、その学位 は職業資格 的な要素 をもってい る。 この よ う に、 ドイツでは、職業上の上位 資格 を取得す ることが、職業継続 において向上‑ のイ ンセ ンテ ィブにつ ながってい る。最近では、久本 (2008)が大学教育 における学部 ・専攻 の選択が職業選択 に多大な影響 を及ぼす として、増加 す る進学者 において も実質的な職業能力の酒養 を 目的 とす る ドイツ的なものの考 え方について論 じてい る。

ドイツにおけるデュアル ・システムの実際(Ⅰ) 153

(10)

図1 ドイ ツの教育 ・訓 練 制 度 概 念 図

労働市場

ュアル ・システム (51%)

大 学

ギムナ ジ ウム (37%)

基 礎 学 校

職業専(12%)

主として、マイスター、

テヒニカー等、上級職業 資格取得希望者対象 高等教育 レベル

(19歳以上)

後期中等教育 (15‑ 19歳)

前期中等教育 (10‑15/16歳)

初等教育 (6‑ 10歳)

出典 :BIBB;Bundesinstitut丘irBerufsbildung

(FederalInstitutefわrVocationalEducationandTraining)よ り筆者 作成

労働 市 場 の形 成 に伴 い

、EU

レベ ル で の学 校 修 了証や職 業 資格 の認 定お よび流 通 とい った新 た な課題 ‑ の取 り組 み が不 可欠 で あ る

。EU

で は、

加 盟 国 の どこの職 場 で も必 要 に応 じて仕 事 がで き る環 境 づ く りを 目指 してい る。 これ に伴 い 、 ドイ ツ もそ の加 盟 す る

EU

とい う統 合 市 場 の 労 働 需 要 に関連 して 、デ ュアル ・シス テ ム に代 表 され る教 育 訓練や職 業資格 制度 な ど、 ドイ ツ的 枠組 み の もた らす 技術 と技能 に係 る競争 力 を残 しなが ら、今 後 これ を どの よ うに調 整 してい く かが課題 とな ろ う。

参考文献

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図 1 ドイ ツの教育 ・訓 練 制 度 概 念 図 労働市場 デ ュア ル ・システム ( 51 %) 大 学ギムナ ジ ウム(37%) 」 基 礎 学 校 職業専門学校(12%) 主として、マイスター、テヒニカー等、上級職業資格取得希望者対象高等教育 レベル(19歳以上)後期中等教育(15‑ 19歳)前期中等教育(10‑15/16歳)初等教育 ( 6‑ 1 0 歳)

参照

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