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著者 田淵 洋

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<書評>A. AlariestとR. Lidbergの絵で見るラップ ランドの気候

著者 田淵 洋

出版者 法政大学多摩研究報告編集委員会

雑誌名 法政大学多摩研究報告

巻 14

ページ 17‑26

発行年 1999‑03‑30

URL http://doi.org/10.15002/00003169

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法政大学多摩研究報告14:17~26,1999 17

書評:AAlariestとR・Lidbergの絵で見る ラップランドの気候

田渕洋

Bookreview:ClimateofLaplandisfOundedonpicture

HiroshiTABUCHI

はじめに

絵画は、歴史時代の異常気象や気候変化、あるいは小氷期の気候を示す有効な地理的資料と して用いられることが多い。例えばHHLamb(1977)は、その著書、Climate-Present,PastandFuturc の中で、1565年2月に描かれたPBruegelの「雪の中の狩人」を、その後200年間継続した厳しい 冬の始まりを示す資料として紹介している。

また河川の結氷を描いたものとしては、1683-4年の冬のロンドンにおけるテームズ川の氷上祭 り(Platel)が冬の異常低温を示す記録として有名である(Lamb,1977)。最も完全にテームズ川 が凍りついたのは、1608年1月の凍結で、川は完全に凍りつき、サザックからロンドンまで歩い て渡ることが出来たといわれている(RJMitchellandMDRLeys,1958)。また1698年には氷上

を6頭だての馬車が走ったといわれている。だがこの氷上祭りも1813年から1814年にかけての冬

が最後になった。

これらの絵画は、その地域の平均的な気候を示すものではなく、冬季の異常低温や寒冷期を

示す資料として、紹介されている。

この小論では、西ヨーロッパに比べて日本ではあまり知られていないスカンジナビア北部の 気候を示す絵画と絵本を紹介する。

AndreasAlariestoの「ラップランドの絵」

ここで紹介するAAlariesto(1977)の「ラップランドの絵」(Plate2)には、スカンジナビア北

(3)

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PIatell683-4年の冬のロンドンにおけるテームズ川の氷上祭り

Plate2の絵は、放牧されたトナカイが、夏にはfell(山)の山頂付近に群がっている様子を示 している。これは夏になると氷食谷であるU字谷の谷底の気温が山頂に比べて高くなり、とく に無風状態の時には谷底の水辺が最も高温になり、蚊や馬蠅(horseflies)の活動が活発になり、

トナカイにとっても谷底は快適な場所でなくなってしまう。そこでトナカイが谷底を避け、風 のよく吹<山頂に集まっている様子が描かれている。第1図はこのPlatc2の絵が気候学的に正し いこと説明している。

第1図は1989年から1990年にかけて、フィンランド最北部のケボ(北緯69.45′)で実施した、

森林限界より高い標高300mのツンドラの山頂から標高70mの湖岸まで、6地点での夏3ヶ月の月 平均気温を示している(原・田渕、1997)。6月と7月には谷底が山頂よりおよそ2℃高温になる様 子が読み取れる。

また第2図は夏季3ヶ月間の中で、どのような条件の日に気温逆転が発生するかを1時間毎の気 温で示している(原・田渕、1997)。

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書評:AAlariestとRLidbergの絵で見るラップランドの気候 19

Plate2ラップランドの夏

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第1図ケボの6地点における月平均気温(原・田渕.1997)

K-lは山頂の気温、K-6は谷底の気温を示している。そしてT6-Tlは、山頂と谷底の気温差 を示している。夏には、晴天時に山頂の気温が20℃以上になっている。また8月上旬には、最大

で10℃近い気温逆転が発生している。

Alariest(1977)は、サーメの人々が夏でも谷底で生活しているのは、男性は魚を獲り、女性は 編み物をしたり、靴下を編んだりするためであると説明している。サーメの人々はログハウス で生活しているが、その屋根と壁面には樹齢の大きい古い立ち枯れたマツ(P伽sq)wes伽)の樹 幹が使われており、その屋根には断熱材として泥炭が用いられている。これらの材料はいずれ

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(5)

20 田渕洋

も谷底で入手出来るものである。

このサーメの人々の生活は、現在でも基本的には19世紀と同じである。例えば、谷底が白夜の

夏に意外に高温になることを利用して、北緯70℃付近でも、大きさはゴルフポールぐらいにしか ならないが、ジャガイモが栽培されている。これは北緯70℃付近で夏に白夜が2ヶ月前後継続す るという地理的位置と、U字谷の谷底での著しい気温上昇によって、植物の生育に必要な有効積 算温度が谷底で非常に大きくなることによっている。

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第2図K-1の気温(TI)とK-6(T6)との気温差(TO-T,)(原・田渕,1997)

しかし秋になると、夜間の放射冷却が盛んになり気温逆転が発生する。この気温逆転は、谷 底から始まるので、初霜の訪れが一番早いのは、谷底である。そこで谷底より少し標高の高い

ところが“暖温帯,,となり、そこは霜害に対して谷底よりも安全な耕地となっている。

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書評:AAlariestとRLidbergの絵で見るラップランドの気候 21

RolfLidbergの「トロールの本」

RLidberg(1986,1992)の本は子供の絵本であるが、スカンジナビアの北極圏内の自然を大変

よく表現している。トロールを使ってラップランドの四季を紹介している。先に紹介したテー ムズ川の「氷上祭り」の絵やPBruegel(1565)の「雪の中の狩人」が冬の異常低温を示している

のに対して、Lidberg(1986,1992)の絵はAlariesto(1977)の絵と共に、我々のよく知らない平均的

なスカンジナビアの四季を非常によく表現している。Lidbergの絵は、スカンジナビア北部(北極 圏内)の地形、気候、植生などについて少し知っていれば、大人が読んでも大変楽しい絵本であ り、スカンジナビアの人々がどのように自然の中で生活を楽しんでいるかを知ることが出来る。

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Plate3ラップランドの冬

Plate3(Lidberg,1986)は紹介者がこの絵本の中で一番気に入った絵である。この絵は、最も よくラップランドの冬の気候を示している。山(fell)の頂上から二人の子供のトロールが満天の 星空を眺めている。そして眼下には、数軒の家が点在している。いずれの家も屋根の上の積雪 は少なく、湿った雪が厚く積もっている日本の豪雪地帯の冬景色とは異なっている。谷底の家々 から立ち昇る煙は、まつすぐに立ち上っており、無風で晴天であることが、典型的なラップラ ンドの冬であることを示している。第3図はフィンランド最北部のケポにおける山頂から谷底ま での6地点の月平均気温を示した図である(田渕・原,1998)。夏には大変暖かい日もあった谷底が

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田渕洋 22

12月には山頂より5℃も低くなっている。この図は、雲量が少なく、無風か風速の弱い時に、気

温逆転によって谷底が著しく低温になるのを示している。

Plate4ラップランドの秋

Ridbergの絵本(Lidberg,1986)の中には、冬に満天の星空の下でスケートを楽しむ子供のトロー ルが描かれている。満月が出ているが、スカンジナビア北部では真冬は極夜である(第4図)こと を考えて絵を見なければならない。夜遊びではないのかもしれない。意外に早い時間を示して いるのかもしれない。第4図は北緯69.以北では12月には全く太陽が地平線より上に顔を出さない

極夜となることを示している。

Plate3は冬の様子を示していたが、Plate4(Lidberg,1986)は秋の気候を示している。秋の夕暮 れには、日の沈む前から放射冷却によって気温が低下する様子を、大人が沼地から立ち上がる 水蒸気を、妖精に見立てて子供に説明している。植生に眼を向けると、沼地の周囲には、湿っ たところを好むモミ(PjceMbjeS)が多い。しかしこのモミはあまり生育がよくなく、枝は短く、

いわゆるcandletreeになっており、ここがモミの森林限界(北限)に近いことを示している。

森林限界(北限)に近いところでよく見られる地形は泥炭地である(Plate5:Lidberg,1986)。泥

炭地の凹地がワタスゲ(ErjOp"olwscAc肌chze()で覆われるのは、ラップランドでよく見られる風

景である。この集めたワタスゲは枕の詰め物としていまでも使われている。

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書評:AAlariestとRLidbergの絵で見るラップランドの気候 23

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Tomporatur。(℃)

第3図ケボにおける山頂から谷底までの6地点の月平均気温(TabuchiandHara,1998)

しかし泥炭地を歩く時には、植生の違いを色合いで判断して歩かないと足を取られ’mぐらい

もぐることもある(Plate6:Lidberg,1992)。泥炭地の周囲にはカンパ(BeMas“bqp.To""Csα)があ

り、それより高いところがモミとなっている。

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24 田渕洋

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第4図緯度による日照時間の季節変化

AlalammiP.(1987):AtlasofFinlandによる. ローマ数字は月を示す.

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Plate5ラップランドの秋

この絵本にはマツが泥炭 またマツの生えている

これに対しマツ(P伽ssylvestrjs)は水はけのいいところに生育する。

地より標高の高い乾燥したところに生育している様子が描かれている。またマツの生えてぃ6

地表には、一面に熟した木の実(リノncj"、',MtjS-jdaeα)が広がっている。人々はいろいろな木の実 の色合いや、真夏の緑色から黄緑色にその色合いを微妙に変化していくたカンパの葉の色から

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ンドの気候 25

書評:AAlariestとRLidbergの絵で見るラツプラ

Plate6

秋の訪れを知る。

長い冬に比べて、あっという間に過ぎていく北極圏の春、夏、秋を迎えたり、それを追っか けるのもなかなか楽しい生活である。

参考文献

Alalammi,Penti(1987):AtlasofFinland・Foliol3LClimateHelsinki・GeographicalSocietyofFinland 32pp

Alariesto,Andreas(1977):PicturesofLaplandHelsinki.WSOY・l11pp・

Lamb,HH(1977):Climate-Present,PastandFuture-・VOL2,C1imaticHistoryandFuture、London・

Methuen835pp

Lidberg,Rolf(1986):Trollboka・Oslo・Litor、32pp

Lidberg,Rolf(1992):TrollWedding・StockholmCarlsson32pp・

Mitchell,RJ・andLeys,M、,.R・(1958):AHistoryofLondonLife、LondonLongmans・

ミッチェル/リーズ著,松村越訳、ロンドン庶民生活史、1971年、みすず書房

原芳生・田渕洋(1997):フィンランド最北部における夏季の気温逆転,法政大学多摩研究 報告,1213-22.

(11)

田渕洋 26

ンランド最北部ケポ谷の斜面における気温の日変化(資料),

田渕洋・原芳生(1998ルフインラ 法政大学多摩研究報告,13,23-36.

参照

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