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「相続させる」遺言の解釈をめぐる諸問題

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(1)

「相続させる」遺言の解釈をめぐる諸問題

その他のタイトル Sur le sens du testament "Sozoku saseru"

著者 千藤 洋三

雑誌名 關西大學法學論集

巻 48

号 3‑4

ページ 809‑872

発行年 1998‑12‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/2020

(2)

﹁ 相 続 さ せ る

千 藤 洋

遺 ︱

︱ ︱

口 の

解 釈

を め

ぐ る

諸 問

(3)

は じ め に

一判例・学説の展開

一個別具体的な諸問題

(4)

﹁ 相

続 さ

せ る

﹂ 遺

言 の

解 釈

を め

ぐ る

諸 問

遺言が問題となるケースは︑主に︑①遺言書の真否性︑②遺言者の遺言能力の有無︑③遺言中の文言の意味︑④

遺言の対象物件が本当に遺言者の所有に属するか否か︑⑤遺言がどのような条文を根拠とした法的性質を有し︑その

効果は何か︑などである︒本稿で取り上げようとする課題は︑③と⑤に関するものである︒昭和四 0 年代の公証実務

から始まったといわれる特定の財産を特定の相続人に承継させる趣旨で﹁相続させる﹂との文言を用いた遺言の解釈

をめぐり︑学説︑判例︑実務において理論上の対立がある︒具体的には︑﹁相続させる﹂趣旨の遺言は︑遺贈か︑そ

れとも遺産分割方法の指定か︑あるいは独立した概念か︑といった法的性質と︑﹁相続させる﹂とされた対象不動産

を遺産分割協議を経ることなしにその特定相続人が単独で登記申請できるか否かといった効果に関する見解の相違で

ある︒さらには︑登録免許税はどうなるのか︑またこうした遺言がある場合に寄与分や特別受益などをどのように処

理すればよいか︑といった扱いなどで差が出てくる︒そして︑とりわけ遺贈説を主張する一部学説から他説に対する

批判が︑近年︑ますます強まっているが︑判例や公証実務は︑こうした批判をものともせず更なる方向に展開を遂げ

ようとしている︒行き着く先はどこなのだろうか︒不安すら感じられる状況になってきている︒

( 1 )  

本稿は︑数多くの判例や先達のすぐれた諸見解が山積している状況のなかで︑傑出した論稿に教えを受けつつ︑

屋上に屋を架するの愚を恐れつつも敢えていま一度︑これまでの判例・学説の展開を振り返り︑判例の到達点からみ

た諸問題を明確にしようと試みたものである︒しかし︑結果は︑単に判例や学説を集めたに過ぎなかったようである︒

は じ め に

三三五

︵ 八

︱ ‑

(5)

( 2 )  

第四八巻第三•四合併号

︵ 八

︱ ︱

‑ ︶

( 2 )  

本稿をもって︑この課題についての筆者の出発点としたい︒ともあれ︑まず第二章で︑﹁相続させる﹂旨の遺言の解

釈をめぐり︑判例︵主だった判例を中心とし︑他は要旨のみ︶並びに学説の展開を追ってみる︒これらの作業を行う

ことにより︑問題の所在が歴史的な流れの中で理解しやすくなるであろう︒こうした編年的な作業のあとで︑第三章

で︑個別具体的な問題について検討を加えたい︒できるだけ多くの問題点を指摘する︒最後に︑第四章のおわりにで︑

筆者の感想のようなものを述べることができれば幸いである︒

本稿で述べようとする点のうち︑私見らしきものをあらかじめまとめれば︑以下のようになろう︒

民法九

0 ‑

︱ 一

条 の

特 別

受 益

法 理

や 民

法 九

0 四条の二の寄与分制度の検討に微力を注いできた者として︑わが国の

相続法体系全体から判断するならば︑﹁相続させる﹂遺言は︑遺言による三種の処分形態のうち︑遺贈に該当す

ると解すべきではなかろうかと思う︒わが民法は遺贈については︑その効力規定などの用意を行なっているが︑

他の相続分の指定︑並びに遺産分割方法の指定は補充的制度として位置づけられており︑その効力などに関する

十分な手当てがなされていない︒したがって︑﹁相続させる﹂遺言の法的性質を遺贈以外に求めても︑その効力

については遺贈規定を類推適用するしか方法がない︒そのようにしてまで︑遺贈制度を回避する必要があるのか

と 思

う ︒

この問題は︑もともと相続に比して遺贈の場合に高額の不動産登録免許税を課していることから議論があらぬ

方向に行ってしまった感が強い︒わが民法が法定相続人への遺贈を例外的にしか認めていないかのような議論す

ら横行している︒また元来︑遺産分割方法の指定は︑遺産分割を前提とした制度であると理解されていたのに︑

法理論の発展の美名のもとに︑遺産分割協議は不要である︑というところまで行き着いてしまった︒そこで改め 関法 六

(6)

( 4 )   3  存在を否定することになるであろう︒ ときには︑むしろ不利な扱いを受けるという変なことになってしまうのではないか︑その意味で特別受益制度の 遺言者の死亡により格別の好意を受けた遺言の名宛人である当該相続人は︑当該財産以外に他にも遺産があった 別受益に該当するが︑遺贈でもない単なる遺産分割方法の指定で︑特別受益に該当しないということになると︑ ではなく︑諸制度の立法理念を覆してしまう恐れがある︒たとえば︑遺贈であれば︑持戻し免除がない以上︑特 許税については相続扱いをし︑遺産分割については遺贈扱いをするといういわばいいとこ取りは︑好ましいこと て︑遺産分割方法の指定とは一体何なんだ︑という疑問が沸き上がるのを止めようがない︒このように︑登録免

行なわしめるのを原則としたい︑という点に︑今一度︑立ち戻るべきではないかと思う︒遺贈でできることを︑ もともと︑明治の立法時に穂積起草委員が述べていたように︑相続分の指定や遺産分割方法の指定は︑生前に

他の諸制度をゆがめる形で利用すべきではない︒ましてや︑登録免許税逃れのため︑新たな法理論を生み出すの

に膨大な時間とエネルギーを費やしたことが︑本当に良い結果をもたらしたといえるのであろうか︒紛争の激化

を招くことになっただけでは︑何とも悲劇という他はない︒

もっとも︑﹁相続させる﹂遺言は︑公証人実務より始められたものであるが︑今日では︑市民の間にも定着し

た方法である︒遺産分割方法の指定という立法時に予想しえなかった規定が論拠となっているものの︑もはや︑

こうした遺言を遺贈扱いすることは不可能ともいえよう︒そうすると︑このことを前提にして生じてくる解釈論

上の諸問題に対処するのが︑現実的である︒しかし︑特別受益の持戻し制度や寄与分制度︑遺留分制度などとの

整合性に︑あまりに大きな障壁が立ちはだかっている︒遺贈制度を全面的に表に出して作られていたわが国の相

﹁ 相

続 さ

せ る

﹂ 遺

言 の

解 釈

を め

ぐ る

諸 問

三 ︳ ︱ ‑

︵ 八

一 三

(7)

( 1 )

体系書などを除いた主な業績には︑以下のようなものがある︒見落としがあるのではないかと危惧している︵頁数は初出

箇 所

︶ ︒

青 木

堅 一

1 1

広畑克巳﹁遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹄趣旨の遺言の解釈及び賃貸借契約における契約解除権

行使の不可分性︑賃料債権の不可分性と執行文付与﹂書研所報四三号︵平一

0 )

二四五頁︑阿部隆彦﹁相続方法の指定﹂金

法︱二六二号︵平二︶八 0 頁︑天野佳洋﹁﹃相続させる﹄との遺言の効力﹂金法一四三三号︵平七︶三六頁︑有地亨﹁一

﹃相続させる﹄旨の遺言と目的財産の帰属二遺言の対象となった土地の合筆︑分筆及び一部処分と遺言の効力﹂私法判

例リマークス一九九一︿下﹀八二頁︑有吉春代﹁遺言の内容と文言の趣旨﹂ジュリ一 0 一五号︵平五︶三一五頁︑石井慎司

1 1

上野隆司﹁﹃相続させる﹄との遺言文言で預金の払戻しはできるか﹂金法︱ニー七号︵平元︶三 0 頁︑石井真司

1 1

伊藤進

1 1

上野隆司﹁相続と銀行実務ー特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる

j

旨の遺言の意味をめぐる判例を中心にー︵鼎

談・金融法務を語る︶﹂手形研究四六六号︵平四︶四 0 頁︑伊藤昌司﹁相続分の指定を含む遺産分割方法の指定﹂判夕六四 三号(昭六二)一四四頁、同「共同相続と相続人への遺言処分」大阪市大法学雑誌三五巻三•四号(平元)一九 0 頁、同

﹁解説﹂﹃昭和六三年度主要民事判例解説︵判夕七 0 六号︶﹄︵平元︶一六二頁︑同﹁﹃相続させる﹄遺言は遺贈と異なる財産

処分であるか﹂九大法政研究五七巻四号︵平三︶一六七頁︑同﹁特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹂趣旨の遺言の

解釈﹂﹃ジュリ平成三年度重要判例解説﹄︵平四︶八三頁︑同﹁判批﹂民商法雑誌一〇七巻一号︵平四︶︱ニニ頁︑同﹁特定

の不動産を﹃相続させる﹄旨の遺言と遺言執行者の登記手続義務﹂判例評論四四一号︵判時一五四 0

号 ︶

︵ 平

七 ︶

0

二 頁

泉久雄﹁特定の遺産を特定の相続人に取得させる旨の遺言と遺産の帰属﹂﹃家族法判例百選︹第四版︺﹄︵昭六三︶一五〇

頁︑同﹁遺言と遺産分割﹂太田他編﹃家事審判事件の研究②

(一粒社︑昭六三︶五二頁︑同﹁遺言法の新たな展開﹂川井

他編 n 講座・現代家族法第6巻﹄︵日本評論社︑平四︶三頁︑同﹁解説﹂﹃判例セレクト・月刊法学教室一三八号﹄︵有斐 ぎるように思われる︒ 続法体系は︑補充的な遺産分割方法の指定制度を全面的に表に出したことによって︑最初から構築しなおさなけ ればならないという危機に瀕しているといっては言い過ぎであろうか︒しかし︑ 多大な意味付けを与えられた﹁遺産分割方法の指定﹂にとっては︑残された諸課題に応えて行くには︑荷が重す

関法 第四八巻第三•四合併号

一挙に表舞台に引きずり出され︑ 三

三 八

︵ 八

一 四

(8)

閣︑平四︶二八頁︑同﹁相続法に残されたもの﹂ケース研究二三九号︵平六︶二頁︑同﹁﹃相続させる﹄旨の遺言の解釈﹂

﹃家族法判例百選︹第五版︺﹄︵有斐閣︑平七︶一四八頁︑泉久雄

1 1

水澤慎

1 1

森保﹁︿鼎談﹀遺言の活かし方﹂ジュリ八八

一号︵昭六二︶六頁︑稲垣明博﹁特定人に対して特定物を﹃相続させる﹄との遺言の解釈﹂﹃内山

1 1 黒木

1 1

石川先生古希記

念・続現代民法学の基本問題﹄︵第一法規︑平五︶七六九頁︑稲田龍樹﹁解説﹂﹁平成四年度主要民事判例解説︵判夕八ニ︱

号 ︶

j

︵平五︶一三二頁︑犬伏由子﹁遺言の解釈﹂久貴編﹃親族法・相続法一

0

0 講﹄︵学陽書房︑昭六一︶二五八頁︑揖斐

潔﹁﹃相続させる﹄旨の遺言の解釈ー最高裁平成三年四月一九日第二小法廷判決についてー﹂登記研究五二三号︵平三︶一

頁︑岩城謙二﹁﹃相続させる﹄遺言の解釈﹂

NBL

四八二号︵平三︶六頁︑岩志和一郎﹁いわゆる﹃相続させる﹄遺言の解

釈ー平成三年最高裁判決に対する若干の疑問ー﹂公証法学二五巻︵平八︶一頁︑右近健男﹁判批﹂判例評論三二七号︵判時

︱︱八三号︶︵昭六一︶四三頁︑同﹁預金を﹃相続させる﹄遺言と銀行の払戻し﹂金融法務事情︱ニニ九号︵平元︶ニニ頁︑

同﹁判批﹂判例評論︱二九五号︵判時一四

0

0 号 ︶ ︵ 平 四 ︶ 一 七 0 頁︑同﹁特定の財産を特定の相続人に﹃相続させる﹄旨の

遺言の意味﹂大阪府大経済研究三五巻二号︵平二︶ニー四頁︑内田恒久﹁特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹄趣旨

の遺言の概念﹂﹃貞家最高裁判事退官記念・民事法と裁判︵上︶

j

︵ き ん ざ い ︑ 平 七 ︶ 五 0 一頁︑同﹁﹃相続させる﹄趣旨の遺 言に関する最高裁判例の射程距離等について(上)(中)(下完)」公証一〇七号(平六)五頁•

1 0

九号五頁・︱︱一号八

頁︑浦本寛雄﹁相続分の指定・遺贈・遺産分割方法の指定﹂山畠

1 1 泉 編 ﹃ 演 習 民 法 ︵ 親 族 相 続 ︶ ﹄ ︵ 青 林 書 院 新 社 ︑ 昭 四 七 ︶

三五六頁︑太田武男﹃判例・学説家族法[増補版 H ︵有斐閣ヽ平三)二五云只︑増補七二尺同﹃現代家族法研究﹄︵有斐

閣︑昭五七︶三八八頁︑小笠原浄二﹁﹃相続させる﹄旨の遺言があった場合の対応﹂手形研究四八八号︵平六︶四六頁︑加

藤永一﹁﹃誰々に相続させる﹄旨の遺言の解釈﹂判夕六八八号︵平元︶三四五頁︑同﹃遺言の判例と法理﹄︵一粒社︑平二︶

一四二頁︑同﹃総合判例五七遺言﹄︵一粒社︑昭五三︶五七頁︑同﹃中川

1 1

加藤編・新版注釈民法姻﹄︵有斐閣︑昭六三︶五

九頁︑川淳一﹁﹃相続させる﹄旨の遺言と相続分に関する遺言者の意思ー遺産分割に関する問題の整理のための覚書ー﹂

﹃ 内

1 1

黒木

1 1

石川先生古希記念・続現代民法学の基本問題﹄︵第一法規︑平五︶七五三頁︑北野俊光﹁判例解説﹂﹃平成四

年度主要民事判例解説︵判夕八ニ︱号︶﹄︵平五︶一四六頁︑倉田卓次﹁裁判例評釈﹂家月三八巻八号︵昭六一︶︱二三頁

︵後に﹁﹃相続させる﹂の所有権移転効﹂﹃公証制度百年記念論文集﹄二五七頁以下に掲載︒さらに﹃遺言・公証﹄三頁以下

に所収︶︑同﹁﹃相続させる﹄との遺言と権利移転の効力﹂判夕六八七号︵平元︶四 0 頁︵後に東京公証人会会報平成元年八

﹁相続させる﹂遺言の解釈をめぐる諸問題 三三九

︵ 八

一 五

(9)

関 法 第四八巻第三•四合併号 三 四 〇 月号に掲載︒さらに﹃遺言・公証﹄二八頁以下に所収︶︑同﹁﹃相続させる﹄遺言は遺産分割方法の指定で︑権利移転︵相続 による承継︶の効力がある﹂判夕七五六号︵平三︶一〇一頁︵後に﹃遺言・公証﹄四二頁以下に所収︶︑同﹃遺言・公証﹄

︵日本評論社︑平四︶三頁︑同﹃解説・遺言判例一四 0

﹄︵判例タイムズ社︑平五︶一八八頁以下︑國府剛﹁特定の相続財 産を特定の共同相続人に相続させる旨の遺言の趣旨ほか﹂同志社法学二八巻三号︵昭五一︶一四八頁︑同﹁遺言の趣旨の解 釈﹂﹃家族法判例百選︹第三版︺﹄︵有斐閣︑昭五五︶二四六頁︑小林亘﹁一特定の遺産を特定の相続人に﹁相続させる﹂

趣旨の遺言の解釈二特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹄趣旨の遺言があった場合における当該遺産の承継﹂金

法ニニ 0 六号︵平三︶一 0 頁︑五味由典﹁﹃相続させる﹄と記された遺言条項の性質と効果﹂創価法学ニ︱巻四号︵平四︶

1 0

九頁︑坂巻豊﹁遺言者が︑その者の法定相続人中の一人である

A に対し︑﹃甲不動産を A に相続させる﹄旨の遺言を

して死亡したが︑すでに A が遺言者より先に死亡していて︑ A の直系卑属 Z がいる場合の登記の取扱いについて﹂金法︱︱

七一号︵昭六二︶ニニ頁︑坂本由喜子﹁﹃相続させる﹄旨の遺言がある場合の遺産分割﹂判時一五九九号︵平九︶六頁︑佐 久間弘道﹁特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹄旨の遺言とその実務対応﹂手形研究四五七号︵平三︶四頁︑澤田省 三﹁特定の相続財産を共同相続人の一人に﹃相続させる﹄旨の遺言の解釈﹂法律のひろば四二巻五号︵平元︶四六頁︑塩崎 勤﹁特定の不動産を特定の相続人に﹃相続させる﹄旨の遺言の効力﹂金法︱二二三号︵平元︶︱二頁︑塩月秀平﹁一特定 の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹄趣旨の遺言の解釈二特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹂趣旨の遺言が あった場合における当該遺産の承継﹂法曹時報四四巻二号︵平四︶五二七頁︑同﹁解説﹂ジュリ九八六号︵平三︶八三頁︑

同﹁解説﹂公証九八号︵平三︶八頁︑島津一郎﹁分割方法指定遺言の性質と効カーいわゆる﹃相続させる遺言﹄について ー﹂判時一三七四号︵平︱︱‑︶三頁︑島田充子﹁遺産分割事件の処理について﹂判時=三五七号︵平二︶三頁︑清水他﹁座談 会・公証実務にあらわれた遺言の諸問題﹂東京公証人会会報︵昭五二年三月号︶︵未見︶︑鈴木重光﹁特定財産を特定の相続 人に帰属させる旨の遺言について﹂東公会報昭五二年三月遺言特集号︱一頁︑瀬戸正二﹁﹃相続させる﹄という遺言と多田 判決」『公証法解釈の諸問題」(昭五九)一四九頁(未見)、同『公正証書モデル文例集』(新日本法規、平元)ニ―頁•四一 頁︑同﹁遺言・死因贈与の理論と実務﹂日本弁護士連合会編﹃現代法律実務の諸問題︵上︶﹄︵昭六三︶三八一頁︵未見︶︑

同﹁﹃相続させる﹄との遺言の効力﹂金融法務事情︱ニ︱ 0 号︵平元︶六頁︑同﹁遺産に属する特定の不動産を特定の相続

人に帰属させる旨の遺言に反して︑相続人が法定相続分による共有の相続登記をした場合に︑遺言執行者からの抹消請求が

八 一

六 ︶

(10)

認容された事例﹂公証法学一九号︵平二︶六︳二頁︑同﹁﹃相続させる﹄判例の回顧ー多田判決から香川判決まで﹂公証法学

二︱号︵平四︶一三一頁︑角敬﹁特定の不動産を特定の相続人に﹃相続させる﹄趣旨の遺言と遺言執行者指定の要否﹂公

証法学二二号︵平五︶一頁︑瀬戸正二﹁﹃相続させる﹄との遺言の効力﹂金法︱ニ︱ 0 号 ︵ 平 元 ︶ 六 頁 ︑ 同 ﹁ ﹃ 相 続 さ せ る ﹂

という遺言と多田判決﹂﹃公証法解釈の諸問題﹄︵新日本法規︑昭五九︶︵未見︶︑同﹁﹃相続させる﹄判例の回顧│多田判決

から香川判決まで﹂公証法学ニ︱号︵平四︶一三一頁︑田尾桃二﹁不動産を﹃相続させる﹄旨の遺言と遺言執行者の登記申

請義務︵平成七・一・ニ四最高三小判︶﹂

NBL

五九四号︵平八︶六四頁︑峠野愈﹁遺言書の﹃相続させる﹄という言葉

の問題点ー判例・学説と実務のくい違い﹂時の法令一三七四号︵平二︶六一頁︑高野耕一﹁特定の遺産を特定の相続人に

﹃相続させる﹄趣旨の遺言の性質及び効力︵上︶︵下︶﹂法律のひろぱ平三年︱一月号六六頁・︱︱一月号三 0

頁 ︑

同 ﹁

解 説

﹃平成三年度主要民事判例解説︵判夕七九 0

号 ︶

﹄ ︵

平 四

︶ 一

0 頁︑竹下史郎﹁﹃相続させる

j

旨の遺言の最高裁判決は遺

言執行者の関与を排除したものか﹂判夕八二三号︵平五︶二八頁︑同﹁解説﹂﹃平成五年度主要民事判例解説︵判夕八五二

号︶﹄︵平六︶一五六頁︑高橋忠次郎﹁遺言の解釈﹂別冊判夕八号︵昭五五︶三八二頁︑田島潤﹁﹃相続させる﹂旨の遺言﹂

﹃東京弁護士会相続遺言研究部編・遺産分割・遺言の法律相談﹄︵青林書院︑平六︶二五四頁︑同﹁﹃相続させる﹄旨の遺言

の効力﹂法律実務研究九号︵平六︶三 0 七頁︑橘勝治﹁遺産分割事件と遺言書の取扱い﹂﹃現代家族法大系 5

﹄ ︵

有 斐

閣 ︑

昭五四︶五八頁︑東京弁護士会法律研究部︵横山弘

1 1

有坂正孝

1 1

田 島 潤

1 1

杉田時男︶﹁﹃相続させる﹂という遺言の解釈﹂法

律実務研究四号︵平元︶︱‑三頁︑床谷文雄﹁特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹄旨の遺言の性質とその効力﹂法

学セミナー四四一︳一号︵平三︶︱‑︱‑九頁︑中川良延﹁一特定の財産を特定の共同相続人に相続︵取得︶させる旨の遺言の趣

旨二遺産分割前の相続財産たる建物全部を︑共同相続人の一人が相続開始前より引き続き使用収益している場合におけ

る︑他の相続人に対する不法行為の成否﹂判時六 0 二号︿判例評論一四 0 号﹀︵昭四五︶一三二頁︑西岡徳寿・東公会報昭

六三年︱一月号二頁︑中山孝雄﹁紹介﹂民事研修︵平九︶四九頁︑西尾信一﹁甲の遺言で特定の遺産を相続させると指定さ

れた乙が甲よりも先に死亡した場合の右遺言書の該当部分の効力﹂銀行法務四 0 巻一二号︵平八︶六四頁︑西口元﹁﹃相続

させる

j

遺言の効力をめぐる諸問題﹂判夕八二二号︵平五︶四八頁︑同﹁解説﹂﹃平成六年度主要民事判例解説︵判夕八八

二号︶﹄︵平七︶一八二頁︑沼邊愛一﹁﹃相続させる

j

旨の遺言の解釈﹂判夕七七九号︵平四︶六頁︑野村重信﹁﹃相続させ

る﹄趣旨の遺言と今後﹂金融・商事判例八七四号︵平三︶二頁︑野山宏﹁解説﹂ジュリ︱一三六号︵平一

0 )

I o 六

頁 ︑

﹁相続させる﹂遺言の解釈をめぐる諸問題

三 四

︵ 八

一 七

(11)

関法 第四八巻第三•四合併号

三 四

︵ 八

一 八

橋本昇二﹁﹃相続させる﹄趣旨の遺言をめぐって﹂ケース研究二三二号︵平四︶六 0 頁︑秦光昭﹁﹃相続させる﹄旨の遺言

の効力﹂金融法務事情︱二九三号︵平三︶二頁︑半田吉信﹁特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言の解釈﹂

ジュリ九九六号︵平四︶一〇六頁︑原島克己﹁遺言による遺産分割﹂公証法学二 0 号︵平三︶五一頁︑同﹁﹃相続させる﹄

遺言雑考│遺言実務ノート︵その一︶ー﹂判夕七三四号︵平二︶二三頁︑曳野久男﹁裁判例評釈﹂家月四六巻八号︵平六︶

一七一頁︑星野明一﹁﹃相続させる﹄趣旨の遺言について﹂民事研修四︱二号︵平三︶五五頁︑松尾知子﹁特定の不動産を 特定の相続人に﹃相続させる﹄旨の遺言と遺言執行者の登記手続義務﹂判夕九〇一号︵平八︶七九頁︑松川正毅﹁特定の相

続人に﹃相続させる﹄旨の遺言は遺贈かそれとも遺産の分配か﹂法学教室一三七号︵平四︶一

0

0 頁︑水野謙﹁﹃相続さ

せる﹄旨の遺言に関する一視点﹂法時六二巻七号︵平二︶七八頁︑三好徳郎﹁多田判決等のもう︱つの見方﹂公証八四号

︵昭六三︶一四頁︑村重慶一﹁相続関係訴訟の問題点﹂民事研修三六六号︵昭六二︶一五頁︑同﹁遺言の解釈﹂村重編﹃法

律知識ライプラリー家族法﹄︵青林書院︑平六︶三 0 三頁︑山口純夫﹁遺言の解釈ー遺贈か遺産分割方法の指定か﹂判夕六

一 三 号 ︵ 昭 六 ︱ ) ︱

1 0

頁・﹁同︵続︶﹂判夕六二八号︵昭六二︶一三 0 頁︑同﹁解説﹂法セミ四 0 九号︵平元︶一〇一頁︑

同﹁解説﹂﹃昭和六三年度主要民事判例解説︵判夕七 0 六 号 ︶ ﹄ ︵ 平 元 ︶ 一 六 0 頁︑同﹁一特定の遺産を特定の相続人に

﹃相続させる﹄趣旨の遺言の解釈二特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹄趣旨の遺言があった場合における当該

遺産の承継﹂私法判例リマークス一九九︱‑︿上﹀九三頁︑同﹁特定の財産を特定の相続人に﹃相続させる﹂遺言について﹂

甲南法学三一巻三•四号(平三)三六五頁、同「遺言執行者の職務権限」『奥田昌道先生還暦·民事法理論の諸問題下巻』

︵成文堂︑平七︶五四一頁︑山崎勉﹁解説﹂﹃昭和六二年度主要民事判例解説︵判夕六七七号︶﹂︵昭六三︶一七四頁︑同

﹁解説﹂﹃平成二年度主要民事判例解説︵判夕七六二号︶﹄︵平三︶一八二頁︑山野井勇作﹁解説﹂﹃平成六年度主要民事判例 解説︵判夕八八二号︶﹄︵平七︶一八四頁︑山畠正男﹁相続分の指定﹂﹃中川還暦記念・家族法大系

V I ﹄︵有斐閣︑昭三五︶ニ

六九頁︑吉田光碩﹁﹃相続させる﹄遺言に関する最高裁判例と残された問題点﹂判夕七六四号︵平三︶六八頁︑吉野衛

﹁遺言執行者の権限ー﹃相続させる﹄旨の遺言を中心としてー﹂登記研究五七六号︵平八︶一三頁︑渡辺知行﹁﹃相続させ

る﹄趣旨の遺言の解釈と効力﹂名大法政一四三号︵平四︶四四七頁︒

( 2

)

筆者は︑かつて︑公正証書遺言の遺言作成件数︑手数料︑いわゆる名寄せを含めた管理等について調べたことがある︵千

藤洋三﹁公正証書遺言に関する若干の疑問点ー主として︑遺言件数︑手数料︑管理について│'﹂関大法学三七巻五・六合併

(12)

節立ては︑昭和四五

に 止 め る ︒

一括して扱うことにする︒そうすると当然の

号︵昭六三︶二九一頁以下︶︒その際に︑大阪の公証人から昭和四五年のいわゆる多田判決について教示を得た︒その後︑ 武藤判決や香川判決が出され︑また多くの論稿の輩出をみた︒多田判決には解決すべき課題があることは認識していたもの

の︑近年稀なほどの議論百出といった状況になるとは︑当時︑予測しえなかった︒その後︑平成七年三月八日に︑関西大学 において﹁公正証書遺言をめぐる課題﹂という総合テーマのもとに第一 0 回現代法セミナー︵関大法学研究所主催︶が開か

れ︑﹁相続させる旨の遺言の解釈﹂に関して︑九州大学の伊藤昌司教授と大阪・上六公証役場公証人の中川臣朗氏に講演を

賜り︑ついで筆者の司会の下に︑関西大学の圃府剛教授と月岡利男教授に討論者として加わって頂いた︒ここでの講演や

討 論 等 が 結 実 し た も の が ︑ ﹁ 公 正 証 書 遺 言 を め ぐ る 課 題 ﹂ ﹃ ノ モ ス 第 六 号 ﹄ ︵ 関 大 法 学 研 究 所 刊 ︑ 平 七 ︶ 一 四 一 頁 以 下 で あ る ︒

今回ようやく︑このテーマに取りかかることができたが︑注

( 1

) で紹介したように︑山のような文献の数々に驚くばかりで

あ る

判 例

・ 学 説 の 展 開 本章は︑﹁相続させる﹂旨の遺言︵以下︑﹁相続させる﹂遺言とする︶

年的にみていく︒これまで学説は︑どちらかといえば︑判決が出されるたびに判例研究や批評など後追いの形で進展 してきたといえよう︒そこで︑本章では判例と学説とを章分けせずに︑

の解釈をめぐる判例並びに学説の変遷を編 ことながら︑学説を紹介する際に︑何時の判例のどのような問題状況下において批判や検討が加えられたかを厳密に

しておくことが欠かせない︒しかし本稿では︑こうした詳細な位置づけをやや乱暴に無視して︑いわば本流のみをお おまかにフォローしたい︒同様に︑判例についても流れを大きく変えたケースのみを取り上げ︑他は要旨のみの紹介

︵ 一

九 七

0 )

年のいわゆる多田判決に至るまでと︑多田判決︑村重判決︑武藤判決︑そして

﹁相続させる﹂遺言の解釈をめぐる諸問題

三 四

︵ 八

一 九

(13)

﹁相続させる﹂遺言の解釈に関する初期の判例として︑①東京地判昭

4 1

. 6

. 2

5 判タ一九五号一三五頁は︑遺

言者が自筆証書遺言により︑第一建物を原告に︑第二建物を被告四名に相続せしめる旨の意思表示をしていた事案で︑

﹁特定の相続財産を特定の共同相続人に指定した場合︑特別の事情のない限り︑遺産分割方法の指定であって遺贈な いし相続分の指定ではない﹂と述べ︑﹁遺産分割方法の指定に従い遺産分割がなされたころの主張立証のない以上︑

本件第一建物は相続により原告の所有に属することになったが︑それは法定相続分︵三分の一︶にしたがい三分の一 の持分権を取得したにとどまる﹂と判示した︒既にこの時点で︑判例は︑当該遺言を遺産分割方法の指定と解し︑遺 産分割︵協議︶を要求していることが分かる︒これに比して︑裁判長の名を冠した多田判決が現れるまで学界ではほ

{ l )  

とんど論じられてこなかったといえよう︒ただ学説の中には︑﹁相続させる﹂遺言の直接的な解釈論としてではなく︑

遺産分割方法の指定などに関する論究という形で︑この種の遺言は︑原則として特定遺贈であり︑事情に応じて遺産 分割方法の指定︑もしくは法定相続分を超えるときには相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定と解するものがみら

( 2 )  

れた︒このように︑当時にあっては遺贈説が通説的地位を占めていたといえようが︑これに対して︑当初からごく少

数ではあったが︑原則と例外が逆の解釈︑ 曰多田判決に至るまでの経緯 ることができよう︒ 関法 第四八巻第一―-•四合併号

‑ =

四 四

︵ 八

0 )

平成一︱‑︵一九九一︶年最高裁香川判決の五つの時代区分による︒これらの時間経過の中で︑判例・学説では何が問題 となり︑それに対していかなる判断がなされ︑その後において事態はどういう方向に変わっていったのか︑などを知

つまり遺言者の遺贈の意思が明確でない限り︑この種の遺言を原則として

(14)

頁 ︶

相 ﹁

続 さ

せ る

﹂ 遺

言 の

解 釈

を め

ぐ る

諸 問

( 1 )   ( 二 )

多田判決とその後の状況

多田判決︵②東京高判昭

4 5 . 3 . 3 0 高民集二三巻二号一︳︱‑五頁︑判時五九五号五八頁︑判タニ四八号一三三

1 )

 

2 )

 

化を狙ったのである︒ 遺産分割方法の指定︑あるいは相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定と解する見解があり︑次にみる多田判決へと

遺言による財産処分に関する民法規定には︑①相続分の指定︵九 0 二条︶②遺産分割方法の指定︵九 0

八 条

︶ ︑

③遺贈︵九六四条︶ の三種がある︒そこで︑ある特定財産を特定の相続人に取得させるために用いられる﹁相続させ

る﹂遺言があったとき︑しかも遺言者が明確な意思表示をしていない場合には︑どの規定を根拠にしているのかが問 われる︒遺言者の意思解釈に委ねられることになるが︑結局は︑三種の効果の違いに解答を求めざるを得ない︒そし て︑この当時にあっては︑①②では遺産分割協議︵もしくは審判︶が必要であったのに対して︑遺贈中の特定遺贈は 所有権移転の効果が寵ちに生じると解されていた︒そこで右にみたように︑この種の遺言は遺贈であるとの解釈が学 説では有力であった︒ところが︑遺贈を原因とした所有権移転登記の登録免許税は当該物件額の千分の二十五に対し て︑相続を原因とした場合は千分の六でよいことから︑公証実務は︑﹁相続させる﹂文言を用いて登録免許税の低額

山畠•前掲二七一頁、浦本・前掲三五九頁。なお犬伏・前掲二六 0 頁参照。

中川善之助

1 1

泉久雄﹃相続法︹第三版︺﹄︵有斐閣︑昭六三︶三二四頁︑加藤・前掲﹃総合判例研究﹄五九頁︒

繋がるのである︒

三 四 五

︵ 八

ニ ︱

)

(15)

第四八巻第三•四合併号

︹ 事

案 ︺

遺 言

A は︑昭和三八年四月に作成した自筆遺言証書に︑未登記建物を後妻 X に﹁相続せしめる﹂旨の

文言を記載していた︒そこで X は︑建物の所有権を取得したとして︑当該建物の保存登記を経由した長男

Y(A

と 先

妻間の子︶に対し所有権移転登記を訴求した︒原審 x

敗 訴

X 控

訴 ︒

二︹判旨︺控訴棄却︒﹁被相続人が自己の所有に属する特定の財産を特定の共同相続人に取得させる旨の指示を遺

言でした場合に︑これを相続分の指定︑遺産分割方法の指定もしくは遺贈のいずれとみるべきかは︑被相続人の意思

解釈の問題にほかならないが︑被相続人において右の財産を相続財産の範囲から除外し︑右特定の相統人が相続を承

認すると否とにかかわりなく︵たとえばその相続人が相続を放棄したとしても︶︑その相続人に取得させようとする

一般には遺産分割に際し特定の相続人に特定の財産を取得させるべきことを指示

する遺産分割方法の指定であり︑もしその特定の財産が特定の相続人の法定相続分の割合を超える場合には相続分の

指定を伴なう遺産分割方法を定めたものであると解するのが相当である﹂︒

要するに裁判所は︑それまでの通説である遺贈説を斥けて︑遺産分割方法の指定説︑もしくは相続分の指定を

伴う遺産分割方法の指定説を採用し︑これがリーディング・ケースとなった︒前述の①東京地判と異なる点は︑単な

る遺産分割方法の指定ではなく︑相続分の指定を伴うところに画然とした差異がみられる︒もっとも︑具体的な紛争

解決としては︑未だ遺産分割がなされていないという理由で︵この点では︑①判例と同様︶︑ X が右建物につき確定

的な所有権を有するものではないとして X の請求を棄却した一審判決を支持している︒ともあれ︑本判決は︑学界や

実務界において評判を呼び︑とりわけ公証実務においては︑

ん︑その主な理由は︑この種の遺言を遺贈と解さなくてよいところにあった︒ など特別な事情がある場合は格別︑ 関法

一時期バイプル的な役割を果たすことになった︒もちろ

四 六

︵ 八

二 二

(16)

︳特筆すべきは︑多田判決後︑登記実務の扱いに変化が生じ︑昭和四七年四月一七日民事甲第一四四二号民事局 長通達は︑﹁相続させる﹂との文言に基づく相続を登記原因とする移転登記を認め︑続いて同年八月ニ︱日民事甲第

( 8 )  

三五六五号民事局長回答は︑遺産分割方法の指定として特定不動産を特定相続人に取得させる旨の遺言書に基づき︑

( 2 )  

﹁ 相

続 さ

せ る

﹂ 遺

言 の

解 釈

を め

ぐ る

諸 問

多田判決に対し︑学説の中には遺贈説の立場から﹁特定財産を特定相続人に取得させる旨の遺言は︑一応︑こ

( 1 )

2

)  

れを遺贈とする立場をとらざるをえない﹂との批判︑あるいは判決のように遺贈の範囲を限定的に解することに反対 との意見がみられた︒実際︑その後も︑この種遺言を遺贈と解する判例︵後述︑⑧東京地判昭

6 2

. 1

1 .

2 4

)

が出てき

( 3 )  

たし︑また東京家裁での遺産分割事件処理は︑遺贈説の立場で行なわれた︒しかし︑学界は︑遺贈説を斥けた多田判 ところが︑多田判決に対する公証人界からの評価は︑当初︑この種の遺言を遺産分割方法の指定と解する点で

高かったものの︑ほどなく認められることになった現実の相続登記実務︵後述参照︶に反し多田判決が遺産分割協議 等を要求したことから︑公証人の指導で作成した遺言公正証書の効力が登記所では認められても裁判所では否定され

( 4 )  

ることになるという点に批判が集中していった︒公証人の中から︑分割協議なくして特定の相続人が直接に登記申請 できるという理論的な論拠を探る動きが出てきて︑公表されたのが倉田論文や瀬戸論文であった︒展開された論法は︑

この種の遺言は民法九六四条の﹁処分﹂の一っとして遺産分割そのものであり︑民法一七六条が適用され遺産分割手

( 5 )  

続を経ることなく当然に相続開始と同時にその相続人に遺産が帰属するというものであった︒そして学説にも︑これ

( 6 )  

に追随する動きが出てきた︒

その後の状況

決に対して概ね好意的であったといえよう︒

三 四 七

︵ 八

二 三

(17)

第四八巻第三•四合併号

三 四

︵ 八

二 四

︶ ( 9 )  

相続を登記原因とする移転登記が単独申請によってなしうるとした︒このことは︑﹁相続させる﹂遺言は遺贈ではな

く︑遺産分割方法の指定であると同時に︑相続開始後︑共同相続人間での遺産分割協議の成立を待っことなく︑特定

( 1 0 )  

相続人単独で相続を原因とする所有権移転登記を申請できる途を開くことになった︒このことは︑本テーマに関して

決定的な影響をもたらした︒もっとも︑このように登記実務での扱いが変わったとしても︑なおこうした遺言に遺贈

と同様の効果があるとまではいえないこと︑いいかえれば遺産分割協議が成立するまでは共同相続人の共有に属する

判例は︑多田判決と同様の立場をとり︑遺産分割協議が必要であると解するものが相次いだ︒③東京高判昭

6 0 . 8 . 2

7 家月三八巻五号五九頁︑判時︱︱六三号六四頁︑金法︱︱二三号四二頁︵被相続人が特定の財産を特定の

共同相続人に取得させる旨の遺言をした場合には︑特段の事情のない限り︑これを遺贈とみるべきではなく︑相続分

の指定を併せ含む遺産分割方法の指定とみるべきであるから︑遺産分割手続によって遺産の分割により初めて相続開

始時に遡って各人への権利帰属が具体化する︶︑④札幌高決昭

6 1 . 3 . 1

7 家月三八巻八号六七頁︑判夕六一六号一四

八頁︵特定の財産を特定の共同相続人に譲渡する旨の遺言は︑遺産分割方法の指定と解され︑受遺者の先死による遺

贈の失効に関する民法九九四条一項および同法九九五条ただし書の適用はない︶⑤東京地判昭

6 1 . 1 1 . 2 8

判時︱二

二六号八一頁︵共同相続人に対し遺産を相続させる旨の遺言は︑遺贈と解すべき特段の事情を認めるに足りる証拠は

なく︑相続分の指定を含む遺産分割方法の指定と解する︶⑥東京地判昭

6 2 . 9 . 1

6 判夕六六五号一八一頁︵特定の

遺産を共同相続人の一人に取得させる旨の遺言の解釈として︑相続分の指定をも併せ含む遺産分割方法の指定と認め︑

遺産分割が実施されることにより初めて持分権を取得するが︑被告が持分権について単独名義で所有権移転登記を経 のではないか︑との疑問は残っていた︒ 関法

(18)

( 1 )   曰 村 重 判 決 と そ の 後 の 状 況

由していることにつき︑原告の共有持分権に基づく抹消登記請求は実質的に実益がない︶⑦東京地判昭和

6 2 . 1 1 .

1 8 判夕六七五号二七一頁︵遺言の趣旨を遺産分割方法の指定と解し︑遺産分割が行われていない本件では︑当該不動

(1) 中川良延•前掲二八頁。

( 2

)

國 府 ・ 前 掲 百 選 二 四 七 頁 ︒

( 3

)

島田・前掲判時一三五七号三頁︒

( 4

) 瀬戸公証人は︑平成元年の論文でも﹁多田判決のようなことをいわれたのでは︑遺言を作成する意味がなくなってしま

う﹂とまで公言された︵瀬戸・前掲金融法務事情︱ニ︱ 0

号 八

頁 ︶

( 5

)

岩城・前掲 NBL

四 八

二 号

一 ︱

頁 ︒

( 6

)

加藤・前掲﹃民法総合判例研究﹄六 0 頁︑米倉明ほか﹃民法講義 8

相 続

﹄ ︵

有 斐

閣 ︑

昭 五

三 ︶

一 八

一 頁

︹ 久

貴 忠

彦 分

担 ︺

︑ 水野・前掲七八頁︒水野氏によれば︑﹁立法者の意思は︑遺産分割を要せず︑遺言のみで遺産分割の効果を生じさせようと

す る

も の

で あ

っ た

と い

う ﹂

( 7

) 民事月報二七巻五号一六五頁︒

( 8

)

東 公 会 報 昭 和 四 七 年 九 月 号 一 三 頁 ︵ 筆 者 未 見 ︶ ︒

( 9

)

倉田・前掲﹃解説・判例一四 0

﹄ 一

九 四

頁 ︒

( 1 0 )

岩 城

・ 前

掲 九

頁 ︒

村重判決︵⑧東京地判昭

6 2 . 1 1 . 2 4 判夕六七二号二

0 一頁︑金法︱二 0 六号三七頁︶

︹事案︺遺言者 A は︑登記済の土地賃借権を﹁長男 y に相続させる﹂旨の公正証書遺言を残して昭和六 0

年一〇

﹁相続させる﹂遺言の解釈をめぐる諸問題 産は遺産共有の状態にある︶︑などである︒

三 四

︵ 八

二 五

(19)

も原則として遺贈であると解するのが相当である﹂︒ 登記先例はこのような取扱いをしていること 第四八巻第一――•四合併号 三五〇

月 二

0 日に死亡した︒そこで︑ Y は︑その遺言を相続を証する書面として︑相続による移転登記を経由したが︑共同

相続人である A の二女 X から︑遺産分割協議の成立または審判がないため共有状態にあるとして︑更正登記手続等を

二︹判旨︺請求棄却︒﹁原告は﹃長男 Y に相続させる﹄旨の遺言の趣旨は︑相続分の指定を伴う遺産分割方法を定

めたもので遺贈の意思表示ではないと主張し︑これに副う裁判例が存することも事実である︒しかしながら︑本件に

おいては︑︿証拠﹀によれば A から長男 Y に本件借地権を遺産分割協議の手続を経ることなく確定的に取得するため

の遺言の依頼を受けた弁護士がその旨を公証人に伝え遺言公正証書を作成したこと︑公証人は﹃相続させる﹄旨の表 現をとった方が登録免許税が遺贈の場合の四分の一ですむこと︑借地の場合には賃借人の承諾を要しないこと︑単独 で移転登記できる利便があり︑法的効果には変わりがないことを伝え本件公正証書遺言がなされたことが認められ︑

︵昭和四七年四月一七日法務省民事局長通達・民事月報二七巻五号一六

五頁︶︑遺言の解釈は民法という実体的規範が基準であり︑わが民法はフランス民法にならい相続人に対する場合で

も遺贈を原則として規定し︑相続分の指定と遺産分割方法の指定には一か条しか用意せず九 0 三条ではもとより遺留

分減殺の対象を定めた一

O l l i

一条でも触れていない脇役であることを考慮すれば︑﹃相続させる﹄旨の表現であって

本判決は︑裁判長の名を冠して村重判決と呼ばれているもので︑遺言者の死亡と同時に当該特定財産の所有権 が名宛人に移転するという遺贈の権利移転効果を重視し︑﹁相続させる﹂遺言を遺贈と解した画期的なものである︒

これまでの多田判決の流れに悼をさす形で︑遺贈説に与し強い援護を与えた︒﹁相続させる﹂という文言を遺産分割 請

求 さ

れ た

関法

︵ 八

二 六

(20)

伊藤•前掲判夕六四三号一四七頁。 きたのが︑裁判長の名をもって呼ばれる武藤判決であった︒ 方法の指定であると解した場合には︑いろんな点で問題が出てくるという遺贈説からの批判に謙虚に耳を傾けたとも いえる︒しかし︑今日的状況からかえりみれば︑大きな潮流への原動力とはなりえず︑特異な判決のまま留まってし まった︒その後の判例の展開をみれば明らかなように︑村重判決が権利移転効を重視した姿勢は︑高く評価されるで あろう︒だが︑公証実務にあっては︑遺贈ということになれば︑どうしても登録免許税問題を克服できないというジ レンマを解消することができなかったといわざるを得ない︒

その後の状況

このように︑遺贈説を採用した村重判決に続く裁判例はみられない︒なお︑⑨名古屋高判昭

6 3

. 4

. 2

8 民事月報四

四巻三号一三九頁︵遺言公正証書が遺産分割の方法を指定したにすぎず︑右同女︵遺言の名宛人ー筆者注︶ のために

遺産分割したものでないとしても︑本件各登記は︑右のような遺産分割協議ないしは審判書等の添付がないまま登記

されたものであり︑それは︑不登法四九条七号又は八号に該当するにすぎず︑そうすると︑本件各登記が当該無効に

なると解すべき同条二号に該当するものとは解することはできない︶は︑法務局による相続登記を弁護した形の判決

となっている︒その分だけ︑多田判決を超えているともいえた︒ともあれ︑﹁遺贈﹂であっては困るが︑しかし遺贈

の有する権利移転効を何とか認めて欲しいという実務界からの熱い期待に応えるべく︑裁判所の模索が続くことにな

る︒遺産分割協議が未了だけでは更生登記を認める実益はないとした前述の⑤東京地判昭

6 1

. 1

1 .

2 8

の判旨にも︑こ

( 2 )  

うした模索の一端を垣間見ることができよう︒結局︑多田判決と相続登記実務の乖離の膠着状態を打開する形で出て

﹁ 相

続 さ

せ る

﹂ 遺

言 の

解 釈

を め

ぐ る

諸 問

( 2 )  

三 五

︵ 八

二 七

(21)

その限度で遺産の一部の分割協議が成立したものと評価する︒

囮 )

第四八巻第三•四合併号

武藤判決とその後の状況

示し︑法定相続分の範囲で請求を一部認容した︒二女らが控訴︒

三 五

︵ 八

二 八

武藤判決︵⑩東京高判昭

6 3

. 7

. 1

1 家月四 0 巻︱一号七四頁︑判夕六七五号二六六頁︑金法︱二 0

九 号

七 頁

︹ 事

案 ︺

遺 言

A 女には︑夫および三人の娘がいたが︑二女とその夫︑および一二女に所有地を与える旨の遺言を

残して昭和六一年四月=一日に死亡した︒二女らは︑ A の夫と長女を相手として︑遺言の対象となった土地所有権の確

認を求めて提訴した︒第一審は︑﹁相続させる﹂旨の遺言の趣旨は︑﹁遺産分割方法の指定﹂と解されるとし︑この遺

言により当該相続人は直ちに権利を取得するのではなく︑遺言に従った遺産分割により権利の帰属が確定されると判

二︹判旨︺①この遺言は︑二女の夫に対するものを除いて︑遺産分割方法の指定である︒②すでに遺言で分割方法

が指定されている以上︑遺産分割協議では指定を受けた者甲の意思が絶対的に優先し︑甲が所有権を放棄しない限り︑

他の相続人はこれを覆すことはできず︑審判でも遺言にしたがう他はない︒甲が優先権を主張するかぎり︑その遺産

に関しては︑それを甲に帰属させるという結論は出ているから︑審判をする意味がなく︑優先権を主張した時点で︑

武藤判決は︑当該遺言を二女の夫に対するものを除いて遺産分割方法の指定と解し︑指定通りに従うか否かは︑

指定を受けた者の意思が優先すると判示したところに︑多田判決がみせた迷路からの脱出をはかった飛躍があったと

r

ー ︑

, 9

金商八 0

五 号

二 七

頁 ︶

( 2

 

判 夕

六 七

二 号

0

一 頁

コ メ

ン ト

参 照

関法

(22)

﹁ 相

続 さ

せ る

﹂ 遺

言 の

解 釈

を め

ぐ る

諸 問

いえよう︒要するに︑指定を受けた者が優先権を主張するかぎり︑その遺産に関してはその者に帰属させるという結

論は出ているから︑協議や審判をする意味がなく︑優先権が主張された時点で遺産の一部の分割協議が成立したもの

と判断したのである︒特定相続人の意思に優先権を付与した点で︑論理的に筋が通っており︑法理論として大きく前

進したものであった︒この武藤判決は︑⑦事件の控訴審で︑もともと原審が少し風穴を開けていたものを︑

その後の状況

この武藤判決後にも︑⑪大阪地判昭

6 3 . 7 . 1

8 判時一三五三号九六頁︵遺言が自筆証書によるものであって︑

しかも︑その内容が︑相続財産の全部を共同相続人の全員に対して割り付けるものではなく︑相続財産の一部につい

て︑各相続人がそのうちのどの財産を取得することになるかを決めているにすぎないときは︑遺言書の文言自体に

よって一義的に明確に遺贈であることが明らかでない限り︑これを遺産分割方法の指定と解するほかない︶

のような

従来型の判決がみられた︒しかし︑⑫東京地判平

1 . 2 . 2 7

判夕六八九号二八九頁︑金法︱二三四号三九頁︵公正証

書遺言により︑特定の財産をあげて共同相続人間の遺産の分配を具体的に指示するという方法でもって相続分の指定

を伴う遺産分割方法の指定をし︑あわせて︑遺言執行者を指定したときには︑遺言者は︑共同相続人間において法定

相続分による相続登記という遺言者が定めた遺産分割の方法に反する遺産分割協議をすることを許さず︑遺言執行者

に遺言者が指定した遺産分割の方法に従った遺産分割の実行を委ねたものと解するのが相当である︶

方法の指定に反する協議が許されないとした点に︑従来の判例理論を少しだけ進展させたといえよう︒そして︑武藤

判決に追随したものとしては︑⑬大阪高判平

2 . 2 . 2 8

判夕七三七号ニ︱ 0 頁︵被相続人が﹁相続させる﹂旨の遺言

( 2 )  

げたともいえよう︒

三五三 では︑遺産分割

︵ 八

二 九

挙 一

に 広

(23)

第四八巻第三•四合併号 をすることによって遺産分割の方法を指定した場合には︑右財産についての被相続人の意思は︑遺留分の規定に反す る場合を除いては絶対的に優先するものというべきであるから︑当該遺言において相続するものとされた相続人がそ の優先権を放棄する場合を除いては︑審判若しくは判決によっても被相続人の意思を無視することはできない︶があ る︒ここにようやく︑武藤判決が認知されることになった︒しかし︑武藤判決をもってしてもなお︑優先権の主張が 要求されるという点に問題が残り︑上告審判断が待たれることになった︒

ここで特筆すべきは︑武藤判決の前後に︑学界での意見の全貌がほぼ明らかになってきたことである︒従来か ら遺産分割方法の指定説並びに遺贈説以外に︑遺産分割手続を不要と解する直接効果説と呼ばれる遺産分割処分説と 遺産分割効果説の二説が加わり︑百花練乱の如き観を呈してきたことである︒学説の検討は︑後述︵三

な諸問題︵一︶﹁相続させる﹂遺言の根拠規定と効果︶に譲る︒ 三五四

︵ 八

0 )

香川判決︵⑭最判平

3 . 4 . 1 9 民集四五巻四号四七七頁︑判時一三八四号二四頁︑判夕七五六号一〇七頁︶

裁判長の名をとって香川判決と呼ばれるもので︑いわゆる武藤判決の上告審である︒︹事案︺は前述した武藤 判決参照︒︹判旨︺は︑﹁遺言者において特定の遺産を特定の相続人に﹃相続させる﹄趣旨の遺言者の意思が表明され ている場合︑当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば︑

遺言者の意思は︑右の各般の事情を配慮して︑当該遺産を当該相続人をして︑他の共同相続人と共にではなくして︑

単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり︑遺言書の記載から︑

( 1 )  

田 香 川 判 決 と そ の 後 の 状 況

関法

個別具体的

(24)

い も

の と

い う

べ き

で あ

る ﹂

その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り︑遺贈と解すべきではない﹂

﹁当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り︑何ら

の行為を要せずして︑被相続人の死亡の時︵遺言の効力の生じた時︶に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承

継されるものと解すべきである︒そしてその場合︑遺産分割の協議又は審判においては︑当該遺産の承継を参酌して

残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても︑当該遺産については︑右の協議又は審判を経る余地はな

本最高裁判決により︑﹁相続させる﹂遺言の法的性質は︑遺贈と解すべきなど特段の事情がない限り遺産分割

方法の指定であること︑当該相続人の受諾の意思表示は原則として不要であること︑遺産分割協議もしくは審判も不

要であり︑遺言者死亡と同時に当該遺産が特定相続人に承継されること︑遺留分の問題等は別に解決すればよいこと︑

という到達点とでもいうべきものが示された︒良い悪いは別にして︑最高裁としては︑非常に明晰に問題点にアプ

ローチし︑それに対する答えを用意したものと評価しえよう︒ともあれ︑判決をめぐって様々な議論が渦巻くことに

なるが︑とりわけ︑遺産分割協議等が不要との点で︑学界には賛否両論の熾烈な対立をもたらした︒

遺産分割協議を不要としたやり方は︑当該特定財産の外に遺産があれば︑その分割をめぐって他の相続人との

間で紛争の激化を招き兼ねないし︑そこでは後述するように︑寄与分や特別受益の扱いをめぐって厳しい裁判が予測

され︑また残りの遺産がなければ︑当該遺言書の無効争いや遺留分減殺請求問題が出てくることになろう︒受益者単

独申請による相続を原因とした所有権移転登記をめぐっては︑学説の中に︑特定相続人が不動産の所有権移転登記を

早々と済ませてしまうことにより︑他の相続人たちとの紛争を激化させることにならないであろうかとの危惧を表明

﹁ 相

続 さ

せ る

﹂ 遺

言 の

解 釈

を め

ぐ る

諸 問

三五五

︵ 八

三 一

(25)

その後の状況

︵ 八

三 二

関法第四八巻第三•四合併号

( 1 )  

する者がいる︒そうした事態の招来が︑遺言者の意思の結果︑出たものであったとしても︑遺言者とて死後の紛争ま

で望んだわけではあるまい︒要するに︑所有権移転登記を︑なぜそれほど早く認める必要があったのか︑遺産分割協

議を必要とした多田判決のレベルで十分ではなかったかとの疑問が残る︒ともあれ︑本判決は︑遺産分割をスムーズ

に行なうという理念とはほど遠い結果を招来する危険性を学んだ判決となったのではなかろうか︒

香川判決後︑ほどなくして︑⑯最判平

3 . 9 . 1 2

判夕七九六号八一頁が現われ︑香川判決を追認した︒判旨は

二点あり︑いずれも香川判決と同内容といえるものであった︒ただ︑相続分の指定に触れていないこと︑なぜ遺産分

割協議など何らかの行為を要することなく直ちに当該遺産が承継されるのか明確でない︑などの批判が向けられよう︒

その他︑以下のような判例が続出している︒⑮東京地判平

3 . 7 . 2 5

判夕八二二号二七四頁︵共同相続人の一部の者

に全遺産を﹁相続させる﹂旨の公正証書遺言は︑相続分の指定と解され︑この遺言に基づき︑当該相続人が共有持分

二分の一とする所有権移転登記を経たところ︑他の共同相続人が遺留分減殺請求をし共有持分移転登記手続を求めた

が︑この手続は遺産分割の手続を経ない限り許されない︶⑰東京家審平

3 . 1 1 . 5

家月四四巻八号二三頁︵遺言の

名宛人が遺言者死亡時に既に死亡していた場合には︑名宛人の相続人が引き継ぐものではなく︑遺産として残余遺産

とともに全体的に分割すべきである︶⑱高松高決平

3 . 1 1 . 2

7 家月四四巻︱二号八九頁︑判時一四一八号九三頁

︵遺産全部について財産を特定し各相続人に﹁相続させる﹂遺言は︑遺産全部を指定分割した趣旨であり︑共同相続

人間の協議により分割されるべき遺産は残存しておらず︑遺留分減殺請求権行使後の共有状態の解消は︑民法二五八

条に依拠する訴えによらなければならない︶⑲東京地判平

4 . 4 . 1 4

家月四五巻四号一︱二頁︑判夕八 0 三号二四

五 六

参照

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