一論 文 ‑ 高 岡 短 期 大 学 紀 要 第9 巻 ‑TF 成9年3月 Bull.Taka oka Natio n al College, V ol.9, M a r ch 1 9 9 7
中国古 代青銅 器 の 鋳造 技 法
‑ その 四, 窒 ・ 脚 の鋳造実験及び考 察 一
三 船 温 尚 ・ 清 水 克 朗
(平 成8 年1 0月31 日受理)
要 旨
こ れ まで, 中 国古代の青銅 器鋳造 技 法の研究は, 出土する外苑, 内 苑, 陶模などの観察や, 青銅 器 自 体に痕 跡する鋳バ リなどの調 査から, そのお おまかな工程 を 「推察」 する に止 ま り, 実際に鋳 造 実 験 を 試み た例は 一 般 的に知 られ て いない。
本 稿は, 我々鋳造 技 術者の目から 観た, こ れまで数 年 間の青銅 器 調 査 を 主に踏 ま え, 窒 なら び に脚
ま ね
を 持 つ, 長削こ類 似 した形 状の青銅 器 を, 真土鋳型で実 際に鋳造 し, その実 験 結 果 を報告するもの であ
E) , 併せ て, これら諸工程から 浮か び上がっ て来た問 題 点 を 含め, 中 匡卜古代の黄 河 流 域に おける青銅 器鋳造 技 法 を 考察するものである。
キ ー ワ ー ド
ま ね
中 国古代 青銅 器, 鋳造 実 験, 真土型鋳造, 蘇, 隻, 脚, 合苑 痕 跡
1 は じ め に
我々 は, 真土 (焼 成 した砂) を 鋳 型 材とする 日本の伝 統 的 鋳 造 技 法 技 術 者の立場か ら, 類 似 した陶 製 鋳型を 使 っ た と さ れ る中 国 古 代 青 銅 器の鋳 造 技 法に関 する調 査 を, こ こ数 年 継 続 して 行 っ て釆た。 この研究は, 可 能 な 限り多数の 「金 文」 と 「爵」 を 集 中 的に観 察 し, 合 箔 鋳 バリ などの鋳 造 痕から, そ れ らの具 体 的 な 鋳 造工程 を 探ろうとい う もの であ っ た。 しかし, 真土を 用 い た鋳 造 技 法が, 鋳 造 後に鋳 型 を 壊して製品を 取り出 すという, 製 作 途 中の重 要 な工程証 拠 を 無 く してしまう 技 法*1 である ことを 考 えれ ば, こうい っ た研 究はい つ までも「推 測」 の域から 出ら れない 宿 命にあるのかも 知れない。 これまで の我々 の研 究は, 金 文や爵の模 (原 型) をど う 作り, 花 をどのように分割し, 更に合指 した の かという 極め て基礎 的な範 囲に限 ら れて お り,
か な か た も ち
中 国 古 代 鋳 造 技 法における, 紋様の製 作 方 法, 金型持 (ス ペ‑ーサ ー) の 固定 方 法, 湯 道 方 案,
注 湯庄 に対 する合 氾 補 強 方 法, 花の焼 成 方 法, 青 銅の配 合 方 法t 溶 解 方 法, 注 揚 方 法, 苑バ ラ
̲b,Aせつ
シ方 法, 研磨 加工仕 上 げ 方 法, こ の他に帰 接 (あ らか じめ鋳 造 した青 銅 製 品 を 鋳 型の 中に埋 め こ み, 次の 注 湯でくる ん で接 着固定 する方 法) などの多くの重 要 な 分 野に及 んで いない。
古 代 中 国にお い て, あれほ ど精 微で複 雑 な 鋳 造が どの よ うな方 法でな さ れたの か‑ , 同じ鋳 造 技 術 者と して た だ た だ知りた い, と いう 想 い から 元来 始めた調 査である。 ある 程度の調 査 を
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経た ら, そ れを 基に我々 自身の鋳 造 経 験と技 術で, 古 代 技 術 者と同じ道 を 辿 っ て み た い という 考 え を 当 初から持っ て い た。 青 銅器 や出土氾か らは全 く 調べ よう もな い前 述の よう な 分 野 も あ り, 実 際の鋳 造 実 験から問 題 点が 一 歩でも 現 実 的に な り, 「推 測の宿 命」 か ら わずか でも 抜 け 出
せる の では と我々 自身が こ の実 験に期 待 した。
今 回の実 験は, これまでの調 査から 推 察 した, (1) 「常温 で固体」
「水に溶 けない」
「比 較 的 低 温で液 化 する」 物 質 を 離 型 材として, 外 苑がう ま く 分 割できる か。 (2) 墓は カ マボ コ を 抜 け 勾 配
に切 っ た陶 模で可能か。 (3) 脚の外 苑が成 形できる か。 などの実 証 を 目 的とし, あわせ て鋳 造,
仕 上 げ まで の全工程で発 生 する諸 問 題 も 重 要 な 実 験デ ー タ 一 になる と予 測 し実 施 した。
また, こ の 実 験と は別に, 高岡 短 期 大 学公開 講 座「中 国 古 代 の鋳 造 技 法 を 探る」 (平 成8 年 7 月19 日 ‑ 7 月28 日 のうち 5 日間, 3 0 時 間) の中で製 作 したひ とつ に,
「金 型 持ちの 固 定」 と 「 帰 接 技 法」 の例があ り 後 半で詳 細 を 報 告 すること とした。
表l 実 験に使 用し た各 種 鋳 物 砂 等 (上 か ら使 用 する工程 順)
模
l; ⊇l
原 型
⑦ 10番の真土+ 埴 汁 + 藁ツ タ+ モ ミ ガ ラ 幅 置 台も含め, 模の全 体 をお お ま かに 形づ く
(2 ‑ 3c m) (少々) る○
㊥3 0番の真土+ 埴 汁 ㊦の表 面に約5 m m の厚さ で付着さ せ, 最終 的
lZ ヨJ
用
の
鋳 物 砂
な 模の形 をつくる○
⑮ lO O番の真土 + 薄 埴 汁 ㊥の上 に筆で薄 く 塗 りつ け, 表 面 を 整 えるo
㊤5 0蕃の真土+ 木節粘土 司:た ぷ の柔ら か さに 水 分 量を調 整 し, 室 模,
(約 l l ) 脚 模 を 形づ く るo
外
㊧ l2 0番の真土 + 薄 埴 汁+ 黒 味 離型 剤 を 塗 つ た模 の 一 層目に塗る, 最も細か ( 炭の微 粉) い砂o 二度 塗りする○
6) lO O番 紙土 (肌 砂)
(lO O番の真土:紙 種:黒 味 ‑3 5 ‑ 40: l l)
一 度目の㊥を 完 全に乾か し, 二度目の㊥を 塗
‑ト◆‑ つ た直後に, 約5 m m の厚さ で模 を 覆 う○ 繊 維 は焼か れ て金 属 凝固ガス の抜け 穴となるo
) 巳 ※紙 種は木節粘土 に和 紙 あるい は綿の繊 維 用
の
を 混ぜ込ん だ もの
⑦ lO番の真土+ 埴 汁+ 藁ツ タ
(外 苑 用に は モ ミ ガ ラを入 れなか つ た)
模 用の⑦と同じ もの○ 水 分 を 吸い取 つ て硬 く 鋳
物 砂
なつ た6)の 上に埴 汁 を 塗り, 約2 c m の厚さ で 外 苑 を 作る○
㊥3 0番の真土+ 埴 汁 幅 置 面(箔と汚 が 接 する合 箔 面) に, ⑦よ り細 か い砂と し て用い る○
(D I 5 0番の真土 + 水 分 割 後の箔 肌 面の ヒ ビ割れ, 気泡の穴 など に 筆 で染み込 ませ, 補 修す る○
内 箔 表 面 用
6) lO O番の真土 + 薄 埴 汁 模を肉 厚 分 削つ た表 面㊥に筆で塗り整え る○
㊦ 黒珠+ 薄 埴 汁 ⑮の上 に更に筆で塗り耐火度 を 高め, 鋳 造 後
の砂バナ レを 良くする○
塗 込 用
⑦ lO番の真土+ 埴 汁+ 藁ツ タ 合 箔 後, 各 箔の固 定のた めl .5 ‑ 2 c m の厚さ で 塗り込め る○
Eel力 力「 イ 用
㊤ 5 0番真土+ 木節粘土+ 黒 味 董 模, 脚 模用 と 同 じ砂だ が, 耐火度を高め る た め黒 味 を 加え る○
中匡 は 代 青 銅器の鋳 造 技 法 7 5
2 鋳造 実験 方 法
2 .1 実 験に用 い た各 材 料
今 回の実 験は高 岡 短 期 大 学 鋳 造 室 で行 っ た が, 鋳 物 砂は10年 前, 近 く の山 砂 (海が隆 起 した 砂と思わ れ る) を 取り寄せ, これを 焼い て真土 として いる。 木 節 粘土 は鋳 物 材 料 店か ら微 粉 状
は じ る
の もの を 購入し, これを 水 溶させ埴 汁と して用い たo 模, 外 苑, 内 苑な どに用 い た鋳 物 砂 を,
j、るい
表l に示した。 こ の鋳 物 砂 一 覧にある番 数は, ふ る っ た節の 目の粗さを 表 し, 目の 一 辺の長さ が 10番で約3 m m, 3 0番で約0.8 m m, 10 0番で約0.2m m程度である。
離型剤は当 時天然で入手 可 能 であっ たと思わ れ る物 質 を 使 用 した が, こ の他 「常 温で固 体」
「水に溶けない 」 「 比 較 的 低温 で液 化 する」 こ の条件 を 満たす もの であれ ば いずれも 使 用 可能で あろう。 また, 古 代 中 国にお い て植 物 油や松 脂な どを 加 え用途に応じた離型剤 を 幅 広 く 作り出 すことも 容 易であっ たと想 像 できる。 使用 した離 型 剤 を 表2 に示 した。
流 し 込ん だ青 銅の成 分は, F R EE R G A LL ER Y O F A R T , The Fr e e r C hin e s e Br o n z e s V ol.ⅠI T e chnic al Studie sにある 三 器の爵の成 分 分 析 数 値 の平 均 値 を 参 考とし, 配 合比を 表 3 に示 した。
さ らあ わ
なお純 銅と純 錫と純 鉛 を 溶か し合わせる更 合せは, 先人の教 えに従い,
一 度 凝 固させイ ン ゴッ
トにしたものを 本 番 で溶か し鋳 込ん だ。
表 2 実 験に使 用し た離型剤
モクロウ
天 然 植 物 蝿に属 し,
る○ 中 国, 西 日本に る○ 模 の表 面に塗り き用に使 う○
(少 中 国 産の木 蝋
㊤ 木 場 + サ ラダ 油(大豆丸 なた ね油) 幅 置 面
の離型 剤に 用
い て も薄く塗れ る○
塗りが可能○ (約 1 l )
マツ ヤニ 脚 外 苑の幅 置 面の湾 能○ 牛脂はス キ ヤ キ
㊨ 牛脂+ サ ラダ 油 少々 + 松 脂 少々
表3 参考に し た爵の分 析 値と鋳 込ん だ青 銅の成 分 値
ハ ゼノ キの果 実か ら採取 す
分 布し, 融 点は5 0 ‑54oC であ
. 離型 剤や厚 塗り し て紋 様 描
い る。 幅 置 面に水 分 が 残 っ て 更にサ ラダ 油 を 増せばよ り薄
薄 塗りが可
離型剤に 用い る。
用の もの を 使 っ た。
T he Fr e er Chine s e Bron ze s Vol.II Te chnic alStudie sよ り 実 験で鋳込 ん だ青銅
iiZ5!B 銅 錫 鉛 ( % ) 計 ( % ) 銅 錫 鉛 計
爵l 8 3 .5 1 3 .4 96 .9 8l .6% l3 .3 % 5.l% lO O%
爵2 80 .5 1 2 .7 5 .0 96 .7 3 .7 k g O .6k g O.23k g
※ 4 .5 3k g の青 銅 を 準 備し, 鋳 造し た青 銅 器の重さ は l 1くgであ つ た○
4.53k g
爵3 80 .8 13 .7 3.5 9 8 .0 平 均 8 l .6 13.3 2 .8 9 7 .7
7 6 三 船 温 尚 ・ 音青 水 克 朗
2 .2 実 験工程
鋳 物 砂の準 備, 模の製作, 外 苑の製 作 まで に約3 0時 間, 更に外 苑 分 割 し再び合 指 するまで に
約10時 間 を 要 した。
いろ み あな
模が完 成 した段 階で の各 寸 法は図‡ の通りであるo また鋳型焼 成 時の色 見穴 は図2 のように
掘っ た。
す ばい
今 回, 離 型 材 (木 城 ・ 牛 脂) を 液 化させ, 型 を 分 離させるための加 熱 方 法 を 「素 灰 焼 き 法」
で行っ た が, 詳 細は図3 で示 した。
また鋳 型 焼 成は焼 竃 (やかまど) を 築 き 松 薪 を 燃やして行っ た が, その詳 細は図4 で示 した。 そして, これら全工程は写 真と短 い解 説 で示した。
3 鋳造 実験 結果お よび考 察
3 .1 離 型 剤の効 果
実 験 に用い た, 木 城, サ ラダ油(大豆油, なた ね油), 牛 脂, 松 脂は そ れ ぞ れ厚 塗り, 薄 塗り
の 用 途に応 じて配 合 を 変 え, 実 験 目 的に かなっ た離 型 剤 を 作る ことが可能であっ た。 特に幅 置 面 ‑ の薄 塗 り 用には, サ ラ ダ油 を加 えること が効 果 的で, 木 蝋 よりも 牛 脂に加 えた もの の方が,
よ り 薄 塗 りが可能である印象を 受 けた。 これらの 離 型 効 果は当 初の予 想 通 りであっ たが, 鋳 肌
19 5%
図 l 完 成し た模の寸法
中匡 は 代 青 銅器の鋳 造 技 法 7 7
を 精 級に鋳 造 する, ひとつ の条 件 であるきれ い な苑の肌 で分 割 するためには様々 な 条 件 を 揃 え る 必要がある と判明した。 すな わ ち, 今 回の実 験では離 型 剤が液 化 しは じ め る 温度 をは るか に
上 まわ る, 約70 0 ℃まで 一 気に (素 灰 焼 き 法により) 加 熱 し分 割 した ため, 外 苑 一 層目の1 20番 真土が娘 煮 え 現象を 起こ し, 鋳 肌が荒れ る結 果となっ た。 こ の実 験 後, 再 度 行 っ た実 験では,
約10 0 ℃ ‑ 20 0 ℃位の比 較 的 低 温 時に分 割 を 試み た が, こ の結 果 も 充 分に納 得 いく もの では なか
っ た。 外 苑 一 層目が分 割 時に模の離型剤 表 面に残 っ て来る部 分 が少 しあっ た。 これ の改 善とし
て外 苑 を 自 然 乾 燥で完 全に白 く なるまで放 置 した後, 加 熱 し 低温時に分 割 する方 法が考 え られ る。 これまでの実 験は どう しても 短 時 間で行 うため, 外 苑の水 分 が残 っ て い るにもかかわ らず 加 熱 し 分 割 する結 果となり, 液 化 した離 型 剤と外 苑 中の水 分が反 応 して外 苑 肌 を 荒 すこ と や,
分 割 時の外 力に耐 え うる強 度が充分 備わら ない で 一 層目の肌 砂が模の方に残るなどのトラ ブル を 引 き 起こす 原 因になる の ではない か と思わ れた。
また, この実 験では 比較 的シン プ ル な 紋 様 を 用い た が, 実 際に古 代 中 国 青 銅 器に みら れ るよ う な 彫 りの 深い雷 紋 などを 実 験と同じ方 法で全 面に施 した場 合, 自 然 乾 燥 で完 全に白 く すれ ば,
紋様の細か い無 数の凸凹 が抵 抗 力となり, 離型剤 を 外 苑の肌に多く 付 着させ たままで分 割でき,
肌 く ずれの ない状 態に な るの ではない か と予 想さ れ る。 しかし, これ は紋 様の製 作 方 法に関 連 するため, 今 後, 青 銅 器の紋 様の本 格 的 な 調 査 を 行 なわな けれ ばな ら ない が, 木 蝋に紋 様 を 描 くこの 方 法 も 古 代 中 国 青 銅 器の紋 様 製 作の 一 つ の 可 能 性と して考 えら れ, 今 後 も 継 続 して実 験
を 試みる意義が少 なから ず あるの ではないか と考 えてい る。
離 型 剤としての特 性 以 外に, 木 城の接 着 力の強さ は, 予 想 以 上であ り, 特に脚 模の器 底 ‑ の 接 着は外 苑 作りを 通 して全 く 不安を 感 じさせなか っ た。 強 力 な 接 着 力と確 実 な 艶型効 果は, 我々
が, これまでの青 銅 器 調 査か ら 予 想 した脚 部の外 苑 製作工程 を, 実 証 するため に必 要 な条件で も あっ た。
また, 低温 で分 割 した場 合 でも, 外 苑, 内 苑 を 一 度 約70 0 ℃で素 焼 き し, 離 型 剤の油 脂 分 を 除 去すること と焼 き しめて強固にして おくこと は, 埴 汁な どの水 分 をは じ かない事や, 水による 肌 く ずれを 起こさ ない事 など, その後の 高い作 業 性 を 得ら れ ることが 工 程写 真㊧, ⑳などで実 証さ れ た。
( 内 苑) ( 外 箔) 塗り込め荒土
図2 色 見 穴の位 置と寸法