吉 山 大 学 教 育 実 践 総 合センタ ー紀 要 No.2:5 9 ‑6 6
小
学
生の性
教育
の効果
に関 する 一 研 究一自己 ・ 他者受容の変 容に着目して ‑
稲 垣 応 顕
(2 001年8月2 9 日受理)
A Stud y o n t h e E f fe ct of S e x Ed u c atio n A p plied S ch o ol C hil d
‑ A i m at E x ch a nge of Self‑a c c ep tand, a nd Oth e r ac c ep ta nd ‑
M a s a ak i I N A G A K I
キー ワ ー ド: 性 教 育, 小 学 生, 自 己受 容, 他 者 受 容
Key w o rds : s ex edu c ation ,s cho ol childr e n, s ell‑a c c ep tan ce, other‑a cc ep tance
Ⅰ. は じ めに
近 年のわ が国におい ては,、 多 様な価 値 観に振り回さ れ 自分を見 失 って いる若 者 達が見 受け ら れ る。 そ の端 的な 徴 候が, 少 年 犯 罪の多 発 化であ ろ う。 筆 者は, そ れ ら若 者の心理特 性と して, 自 己 受 容 ・ 他 者 受 容 能 力の欠 如を 考えて いる。 これに閲し犬 塚 (2 00 0) は, 「よ り早 く・ よ り正 確に ・ よ り効 率よ く を求め るス トレ ス社 会の中で,
< 中 略> 自ら を駆り立て, 煽り, 振り回し」 て いる若 者 が目につ くと指 摘して いる。 ま た心の重 要 性に つい ては,
神 谷 (19 82) が 「 人の生に こ んなに も重み が感ぜ ら れ る
のは, その生 命に心な るものが あ ま りにも発 達して備わ っ
てし まっ た か ら なのだ ろ う。 人生と は, 生き る本人にとっ
て, 何よ り も まず 心の旅なの で あ る」 と述べ, E llis
(1 98 7) も 「 自 分の感 情に嘘をつい て, 自 分の問 題を解 決 すること はできない」 と述べて いる。 筆 者は, 子ども た ちの人 格の完 成を目 指 す学 校 教 育におい て, 教 科 教 育 と共に豊か な人 間 性を育てること が肝要であ り, そのた め にはJL、の教 育が不 可 欠であ る と考えて い る。 心の教 育 と は, 橋 本 内 閣 ( 当 時) にお け る中央 教 育 審 議套(1 99 7)
で の, 教 育 改 革プロ グラム に向け た答 申 以 降 注 目さ れて
いる言 葉であ る。 答 申では, 子どもた ちに育 成し たいJL、
の内容を 「 ① 美しいものや自 然に感 動 するJL、な ど柔ら か な感 性, ② 正 義 感や公 正さ を重ん じ る心, ③ 生 命を大 切
にし, 人 権を尊 重 する心な ど基 本 的な倫理観, ④ 他 人を 思いや る'L、や社 会 貢 献の精 神, ⑤ 自 立JL、, 自 己抑 制 力,
責 任 感, ⑥ 他 者との共 生や異 質な もの へ の寛 容,」 と し て いる。 筆 者は, こ の答 申の内容に異 論は ない。 た だ し,
子ギもた ちの発 達 段 階を考 慮し た と き, 小 学 生 段 階で は 自 己受 容 能 力 ・ 他 者 受 容 能 力の基 礎を育 成 すること が大 切であ る と考えて いる。 換 言 すれ ば, そ れ は自己 および 他 者を大 切にする教 育が必 要ということであ り, 互い の
生 命を尊 重し大 切にする教 育が不 可 欠であ る ということ を意 味して いる。
こ の課 題に取り組む切り口 の 1 つ と して, 性 教 育が考 え ら れ る。 文 部 省 (1 9 99) も 性 教 育を 「 人 間 尊 重 ・ 男 女 平 等の精 神に基づ き, 人 格の発 達を目 指 す指 導であ り,
人 間と して の在り方 ・ 生き方に直 接 関わ る教 育 活 動であ る」 と述べて いる. すな わ ち,
̀ ̀
性 教 育イ コ ー ル生 教 育''
で あ る と考え ること が出 来るの であ る。
そこ で, 性 教 育を どのよ うに実 践し評 価 する かに つい
て の示 唆が求め ら れ る。
Ⅱ. 目 的
筆 者が作 成し た性 教 育のプロ グラムを小 学 生に適 用し,
彼らの自 己受 容およ び他 者 受 容の資 質を向 上さ せ ること を第1 の目 的とする。 ま た, 上 記 資 質が どの よ うに変 容 し た か を検 討 すること を第2 の目 的とする。
Ⅲ. 方 法
1 . 対 象児童
C 県K 市の小 学 校3 校にお け る全 児 童12 6名 ( 男 子59 名, 女 子6 7名)0
2 . 年 間 計 画お よ び授 業 実 践
表1 で示し た計 画に基づぐ 性教 育の授 業 実 践を学 級 活 動に位 置づけて行 っ た。 その期 間は, 1 9 99年4 月か ら 7 月であっ た。 な お, これ は当 県にお け る養 護 部 会で の年
間 計 画か ら題 材 名を拾い上げ, 他の各 教 科にお け る性 教 育 関 連 事 項を検 討し, ま た性 教 育におい て重 要と おもわ れ る事 柄を加 味し独 自に作 成し た もの であ る。 具 体 的な 授 業は表2 のよ うに計 画し た。
学年 題 材 名 目 標 主な指 導 内 容 1 体を き れい に.
誘い に乗ら ない
・ 体の汚れ やすいところ や, 目に見え ない汚れの あ ること を知るo ・ 目に見え ない汚れ
・ 下 着の取り替え や, 入 浴の大 切さを理解し, 自 分の体を大 切にする気 持 ・ 身辺 処 理と清 潔
・最 近の誘拐 事 件 ち を育て る○
・ 知ら ない人に誘わ れ た時の対 応や危 険な場 所につ いての理解を持た せ るo
・ 自 分は家 庭の愛 情と保 護に よ り そ だて ら れて いることの認 識を高め, 自 ・知ら ない人に誘わ れ た時の 分 を 大 切にする気 持ち を育てるo 対 処の仕 方
2 み ん な仲 良 く
おへ妄.の秘 密
・ 仲 間と他 者 受 容の大 切さの認 識 を高め る (いじ めの排 除を含む)o
・仲 間 外れをしない○
・ いじ め が他 者の心を傷つ け ることの意 識を育て る○ ・相 手の心をいた わ るo
・ へその緒の役 割 を通して, 目分 速が母親の体 内で大 切に そ だてら れてき ・ おへ その有る無し さ が し
たことへの理廃を促 すo ・ おへ その役 割
・ 両 額への感 謝の気 持ち を高め, 命の大 切さ への意 識を高め るo ・
両琴の気 持ち や願いを知る.
3 血 液の働 き
男の子 女の子
・ 赤 血 球, 白血 球, 血 小 板の働 きを知 り, 血 液の仕 組今や働 きへ の理 解を ・血 液 型の理 解
促 すo ・ 白血 球 .赤 血 球 .血 小 板
・ 血 液の働 きや仕 組みを通して, 人 間の体や両 親との つな が り へ の認 識を 深め るo
・ 男 女の性 差に気 付き, 互い の気 持ち や感じ方への理 解を持た せ るo
・ 自 分の性を理 解し受け入れ ることを 促 すo
4 体を守る働 き
育つか ら だ
・ 血 液 中の白血 球は, 体を守る重 要な働き を し てい ること を 理解さ せ るo ・ 白血 球の仕 組み と働 き
・ 免 疫の仕 組み を理 解し, 体を大 切にする気 持ち を育て るo
・免 疫の仕 組み
・ 大 人と子ど もの体の違いを知ることで, 自 分 達の体の変 化を予 測 するo
・大 人と子どもの体の貫い
・ 体の成 長の個 人 差や男 女 差を 理解し, 他者や異 性‑ の いた わりの気 持ち ・大 人の体の特 徴
を育てるo
5 体の成 長
男 女 協 力 (エイ ズ
・ 二次 成 長の発 達 特 徴を 理解し, 自分の体と気 持ちの変 化 を 受 容でき る よ ・男 女や個 人の違い う促 すo
・ 男女の体の特 徴
・ 大 人に近 付 く 自分を自覚し, 自 他共に大 切に でき る気 持ち を育て るo
・共に大 切な存在
教 育)
生 命 誕 生
・男 女の, 物 事に対 する感.じ方や考え方の違いを踏ま え, その上で互い に ・信 頼と友 情
▲出生の喜び, 命の大 切さ
仲 良く し よ う とする心を育て.るo
・ 生 命の神 秘に触れ, 自 分の命が単 独で存在し ない ことへ の理解を促 す
( 生 命の伝 達)○
・母 体の中の胎 児
・ 全ての命の尊さへの実 感を深め る去 ・胎 児の成 長 過 程
l一病 気の予 防 (エ イ
ズ教 育を含む)
共に生 きる
・ エイ ズの概 念, 感 染 経 路, 病 状, 予 防への知 識 を持た せ るo
・ エ イ ズへ の正しい理解を通し, 他 者と共に生 きて い こう とする態 度を育
・病 原 体, 抵 抗 力と免 疫,
・概 念, 感 染, 経 路, 病 状,
予 防
・共 生,.共 存, 差 別, 偏 見,
てるo 人 権 尊 重
表2 具 体 的 な 授 業 計 画 案
学 年 単 元 目
. 棟 備 考
1 体をきれいに 自 分の体を大 切に使 用とする気 持ち を育て るo ロ ー ルプレイング 読み聞か せ
自作 教 材 教 具 2 お
.へ その秘 密 両 親 ‑ の感 謝の気 持ち と自 分 を大 切にする気 持ち を深め る○ 人 材 活 用
ロ.‑ ルプレイ ング
読み聞か せ 3 男の子 女の子 自分の性への理 解と受 容 を 促し, 互い の性への尊重と受 容の態度を育て る○ 自 作 教 材 教 具.
読み聞か せ 4 育つか ら だ 男 女 差や個 人 差 を認め, 自 他 共に大 切な存 在であ ることの意識や仲 良 くし よ う とする 自 作 教 材 教 具
気 持ち を深め るo
5 体の成 長 大 人に近 付 く 自分 を理解し, 自 他 共に大 切■
な存 在であることの認 識や仲良く し よ う と 自 作 教 材 教 具 する気持ち を深め るo
6 エイ ズ エ Jf
/i
‑
l こつ いての偏見や差 別を な く し, 思 いやりの心を育て るo . ロ ー ルプレイ ング‑ 自 作教材 教 具 読み聞か せ
小 学 生の性 教 育の効 果に関 する 一 研 究
3 . 測 定お よ び 分析 方 法
一 言で心と言 っ ても, その捉え方は多 様であ る。 そこ
で, 筆 者は山田 ・ 大 塚・ 稲垣 (1 9 96) お よ び稲 垣・ 犬 塚 ・ 山田(1 99 7) の自己受 容・ 他 者 受 容 ・ グル ー プコ ンセ ン
サス の効 果 測 定に関す る研 究を参 考に, 心を表 層 面 ・ 中 間 層 ・ 深 層 面に分けて捉え, 自己受 容 ・ 他 者 受 容の変 容 を分 析の視 点に エ ゴグラムチ ェ ッ クリス L, 筆 者ら が作 成し た S C T ( 表3), バウム テス トを授 業 実 践の前 後で
実 施し た。
な お, そ れ ぞ れの テス ト の位 置づけ は, 構 成さ れ た質 問 紙 法であ るエ ゴグラムチ ェ ッ クリスト で心の表 層 面を, 半 構 成 的な質 問 紙 法であ る S C T で心の中 間 層を, 非 構 成 的な投 影 法であ るバ ウム テス ト で心の深 層 面を測 定 す ること が可 能であ る と考え た。 ま た, 分 析 方 法につ い て は, エ ゴグラムチ ェ ッ クリス トとバウムテス ト に関して は, すで に手 引き と して刊 行さ れて いる資 料を基にし た ( 杉田, 19 90; 林 ・ 国 吉 ・ ‑ 谷, 1 97 0)。 S C T に つ い て は, 筆 者ら が書 き 出さ れ た反 応 文を各 自ポ ジ テ ィプ反 応 と ネ ガティブ反 応に振り分け, そ れ を持ち寄り 一 致 率を 高め る方 法を採っ た。
表3 S CT の刺 激 文
① 僕は ( 私は), 男の子 ・女の子に生ま れて‑ ・
② 男 ( 女) の子は・‑
(卦僕 ( 私) にとっ て友 達と は ‑
④ 一人で いる時 僕 ( 私) は ‑
⑤ 僕 ( 私) に とっ て両 親は ‑ (昏家 族の中で僕 ( 私) は ‑
⑦ 赤ちゃん を見る と僕 ( 臥) は ‑
⑧ 僕 ( 私) は, お じいさ ん ・ お ばあさ ん と話をする と・‑
Ⅳ. 結 果
1 . 量的な 分析
小 学 生とい っても, そ の実 年 齢は 6 歳か ら1 2歳までと 幅が広い。 そこ で, 各JL、理テス トを 1 ‑ 3 年 生の低 学 年 群と 4 ‑ 6 年 生の高 学 年 群に分けて分 析し た。
(1) ェ ゴグラムチ ェ ッ クリス ト
エ ゴグラム ・ チ ェ ッ クリス トと は, 交 流 分 析の考え方 を基に考 案さ れ た心理テス ト であ る。 人 間の心の要 素を C P ‑ C litical Pa rent ( 父 親 的な要 素) , N P ‑ N urthin g Pa r e nt( 母 親 的 要 素) , A ‑ A dult( 大 人の要 素), FC ‑ Fr e e C hild( 自 由な子 供の要 素) , A C ‑ A dapded C h ild ( 従 順な子 供の要 素) に分けて考え, そ れ らの傾 向が強
いか弱いか を測 定 するもの であ る。
図1 で示し たように, 低 学 年では総 体 的に N P が高 く F C が低い パタ ー ンが描か れ た。 た だ し, そ れ ぞ れの得 点に大き な差は な くフラ ッ トなパ ター ンと な っ た。 こ の こと か ら, 彼ら が ま だ さはど自我に目 覚めて いない こと, 母 子 愛 着の強さ か ら と思わ れ る優し さ や純 粋さ を有 する 者が多い傾 向が示さ れ た。 ま た, 協 調 性も さはど育 って
N ‑6 6 ( 男 子3 3 女 子3 3)
図1 低 学 年の エゴグラム パタ ‑ ン
N ‑ 6 0 ( 男子26 女 子3 4)
図2 高 学 年の エゴグラム パタ ー ン
お らず, 一 人 一 人が孤 立し た状 況にあ ること が推 察さ れ た。
一 方, 男 女の性 差 もはとん ど認め ら れ な か っ た。 こ れ は, 彼ら が低 学 年の た め性 差が著し く現れて いないた めであ る と考え ら れ る。 た だ し, プレテス トとポス ト テ
ス ト の比 較か ら, わずか な が ら男 子の場 合N P が上 昇し A C が下 降して いる。 こ の こと か ら, 他 者に対 する優し さの向上と周 囲に流さ れ ることの抑 制 力の高ま り が窺わ れ た。 ま た女 子の場 合, これ も わずか な が ら F C が上 昇 し C P が下 降して いる。 すな わ ち, 感 情の開放 性が高ま りつ つ も自 己 中心性を抑 制しっ つあ る傾 向が読み取れ る。
次に図2 で示し た よ うに, 高 学 年の全 体 的特 徴と して! N P と A が低く F C が高い パターンが描か れ た。 ま た, 男 女 差で は女 子の得 点が高く, こ の グループにお け る女 子の積 極 性も しくは成 長の早さ が感じ ら れ る。 プレテ ス
トとポス ト テス ト の比 較か ら は, 男 子は C P が上 昇して お り自 我の強ま り や自 己主 張能 力が高まっ た反 面, 自己 中心性や わ が ま ま さも 強まっ た傾 向が示さ れ た. 一 方 女 子につ い ては, プレテス ト に対して ほと ん ど変 化は ない が, 若 干F C が下 降して いる。 こ の こと か ら, 自 分を見
つめ る力や妥 協 性 ・ 協 調 性の高ま り が感じ ら れ る。 特に, 男 子に比べN P の得 点が高い こと か ら, 母 性 的な意 識の 芽 生え が推 察さ れる。
(2) S C T
表4 で示し た よ うに, それ ぞ れの刺 激 文に対 する プレ
テス トと ポス トテス ト の反 応 文の分 析に大き な変 容は認