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ヨ ー ロ ッパ 市 民 権 を考 え る

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〈論 説 〉

は じ め に

ヨ ー ロ ッパ 市 民 権 を考 え る

石 井 伸 一

ヨ ー ロ ッパ の 広 域 統 合 圏 に 市 民 権 が 誕 生 した 。1993年11月 に 発 効 し た マ ー ス トリ ヒ ト条 約(欧 州 連 合 条 約)に ,加 盟 国 の 国 籍 を持 つ す べ て の 個 人 は 欧 州 連 合 の 市 民 と な る と規 定 され た 。

第 二 次 大 戦 で 廃 櫨 と化 した ヨ ー ロ ッパ の 復 活 は 統 合 以 外 に な い と して,フ ラ ンス の ロ ベ ー ル ・シ ュ ー マ ン外 相 は ジ ャ ン ・モ ネ の 構 想 を 基 に ドイ ツ

,フ ラ ン ス の 石 炭 と 鋼 鉄 を 共 同 管 理 下 に 置 く こ と を 提 唱 し た 。1951年4月 に6力 国 に よ る 欧 州 石 炭 鉄 鋼 共 同 体 設 立 の 条 約 が 調 印 ,53年2月 に 発 足 し,ヨ ー ロ ッ パ の 統 合 の 礎 が 築 か れ た 。57年3月 に 欧 州 経 済 共 同 体(EEC>と 欧 州 原 子 力 共 同 体(ユ ー ラ トム)設 立 の ロ ー マ 条 約 調 印,67年7月 に3執 行 機 関 を 統 合 し た 欧 州 共 同 体(EC)が 発 足,68年7月 にECの 関 税 同 盟 が 完 成 した。72年1 月 に イ ギ リ ス,デ ンマ ー ク,ア イ ル ラ ン ド,ノ ル ウ ェ ー(後 に 国 民 投 票 で 参 加 を 否 決)の 加 盟 条 約 の 調 印 と,統 合 の 深 化 と拡 大 を 目標 とす る体 制 づ く り に力 点 が 置 か れ て き た 。

欧 州 共 同 体 は93年1月 か ら 人,物,サ ー ビ ス ,資 本 が 自 由 に 移 動 す る 市 場 の 統 合 が ス ター トす る こ と に な る が ,統 合 が 進 展 す る に つ れ 人 の 域 内 の 自 由 な 移 動,労 働,居 住 が 課 題 に な る 。 フ ラ ン ス,ド イ ツ ,ベ ネ ル ッ ク ス3力 国 は 1985年6月14日,ル ク セ ン ブ ル ク の シ ェ ン ゲ ン村 で 国 境 の 検 問 を 漸 次 廃 止 す る 政 府 間 協 定 を 結 ん だ 。90年6月19日 に シ ェ ン ゲ ン協 定 の 適 用 協 定 が 結 ば れ る が,こ の 協 定 に よ り,(1)国 を 出 国 し,他 の 加 盟 国 に 入 国 す る 権 利,(2)居 住 す る権 利,(3)労 働 の 権 利 の 問 題 が 浮 上 し,さ らに,賃 金 な ど の 労 働 条 件 ,社 会 福 祉,職 業 訓 練 犯 罪 対 策 な ど 欧 州 共 同 体 と して 人 の 自 由 な 移 動 に ど の 様 に 対 応

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した ら よ い か の 問 題 に 発 展 して い く。

1987年7月 に 発 効 し た 単 ・欧 州 議i定書 が ロ ー マ 条 約 を … 部 改 定 し た 中 で, 域 内 市場 の 統 合 を1992年12月31日 ま で に 完 成 さ せ る 目標 を 設 定 し た 。 域 内

市 場 の 統 合 とは 「人,物,サ ー ビ ス,資 本 の 自 由 な 移 動 が 保 証 され た 国 境 の な い 領 域 を い う」 と定 義 し た 。 域 内 市場 統 合 の 期 日 を 設 定 した こ と は,た だ 単 に 自 由 な 移 動 に 関 す る 規 則 や 指 令 な ど の 問 題 だ け で は な く,人 の 基 本 的 権 利 を保 有 す る 人 を どの よ う に扱 う か も視 野 に 入 れ な け れ ば な ら な くな り,こ こ に 人 類

史 ヒで は 初 め て,広 域 の 統 合 圏 に 共 通 した 市 民 権 の 導 入 が 求 め られ た 。

1マ ー ス トリ ヒ ト条 約 と市 民 権

1991年12月 に オ ラ ンダの古 都 マ ー ス トリ ヒ トの首 脳 会議(欧 州 理 事 会)で 合 意 し,92年2月 に調 印 された 欧州 連 合 設 立 の条 約 は,8条 に欧 州 連合 市民 権

を設 定 した。 「加 盟 国 の 国籍 を持 つ す べ て の個 人 は,連 合 の 市 民 で あ る」 と謳 い,市 民 に一 定 の制 限 と条件 の ドに域 内 を 自由 に移 動 し居住 す る権利 を規 定 し て い る。 この外,マ ー ス トリ ヒ ト条約 は加 盟 国の市 民 に次 の様 な権 利 を与 えて

い る。

(1)一自国 以外 の加 盟 国 に居 住 す る 市民 は,居 住 国の 地方 選 挙 で投 票 し,ま た 立候 補 で き る。 ま た居住 国で 欧 州 議 会議 員 選挙 で投 票 し,ま た 立候 補 で き る。但 し,加 盟 各 国 は適 用 除外 条 項 を規 定 で き,ま た 市民 は居 住 先 きで投 票,ま た 立候 補 す る場 合 には 自国で の 選挙 に参 加 で きない と2重 投 票 を禁 止 してい る。

(2)一居住 国 に 自国の 代 表 部が 設 置 され て い ない場 合,他 の加 盟 国 の大 使館 ま た は領事 館 か ら保 護 を受 け る こ とが で きる。

(3ト 連 合 市民 は欧 州議 会へ の 請 願権,ま た オ ンブ ズマ ンに請願 す る こ とが で きる。

移動 と滞 在の 自由

人 の 自 由 な 移 動 に つ い て は,ロ ー マ 条 約 の48条 で,労 働 者 の 自 由 な 域 内 移

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ヨ ー ロ ッ パ 市民 権 を 考 え る83

動 を 保 証 し,雇 用,賃 金 そ の 他 の 労 働 条 件 で 差 別 して は な ら な い と規 定 は して い る が,実 施 に つ い て は 各加 盟 国 の 意 思 に 委 ね て い た。 今 回 の マ ー ス トリ ヒ ト 条約 で は そ の 実 施 に つ い て は 意 思 決 定 機 関 で あ る 閣 僚 理 事 会 の 手 に 委 ね た。 ま た,93年1月1日 か ら域 内 市 場 が 統 合 し,人 ,物,サ ー ビ ス,資 本 の 自 由 な 移 動 が ス ター トして い る が,93年11月 発 効 の マ.̲̲̲ス トリ ヒ ト条 約 は 人 の 移 動 に つ い て 追 認 す る 形 と な っ た 。 人 ,物,サ ー ビ ス の 自 由 な 移 動 は,そ れ を容 易 に す る 交 通 網 の 近 代 化 と再 編 成 と も無 関 係 で は な い 。 地 域 統 合 圏 の ヨー ロ ッパ を 層 深 化 へ と導 く要 因 に も な っ て い る,,

こ う して ・1988年 以 来,域 内 の 税 関 標 識 に 欧 州 旗 が と っ て 代 わ り

,欧 州 旅 券 ・ 欧 州 運 転 免 許 証 が 導 入 さ れ て きて お り,国 境 で の 検 問 は 部 を 除 い て 漸 次 廃 氏 され て き た 。 し か し,人 の 自 由 な 移 動 は,麻 薬 や 武 器 の 密 売 や 不 法 な 入 国,滞 在 の 防IL,テ ロ リ ス トの 摘 発 な ど安 全 を侵 害 す る恐 れ の あ る活 動 を 阻 止 で きて は じめ て 可能 と な る わ け で,マ ー ス トリ ヒ ト条 約 で 司法 と 内 務 分 野 の 協 力 が 不 可 分 の0体 と な っ て い る。 ユ ー ロ ポ.̲.̲ル(欧 州 警 察 局) ,司 法 ・内 務 協 力 が 進 ん で き て い る 。

人 の 自 由 な 移 動 はa労 働,居 住,教 育,選 挙 権 ,文 化 交 流 とい っ た 地 域 統 合 圏 の 市民 社 会 の 生 成,転 回,発 展 に 不 可 欠 の 要 素 へ と結 び 付 く。 こ の う ち

,労 働 力 の 自 由 な 移 動 は,相 互 主義 に 立 脚 し,自 由 な 権 利 と結 び付 い て い る とす れ ば,雇 用,給 与,そ の 他 の 労 働 条 件 で 共 同 体 の 保 障 を 伴 わ な け れ ば な ら な い し,ま た,国 籍,男 女 の 性 差 に よ る 差 別 が あ っ て は な らな い とす る の は 自然 な 社 会 労 働 的 な 考 え 方 で あ ろ う。

こ の 点 に つ い て,マ ー ス トリ ヒ トで の 首 脳 会 議 で は,共 同 体 の 社 会 労 働 分 野 に お け る 政 策 の 共 通 化 が 課 題 と な っ た 。 こ の 中 で ,規 制 緩 和 を 基 本 政 策 に掲 げ る 保 守 党 政 権 の イ ギ リス が,社 会 労 働 分 野 へ の 国 家 の 介 入 に 反 対 す る 立場 を と り}結 果 と して,基 本 条 約 の 中 に 新 ら しい 社 会 労 働 政 策 を盛 り込 む こ とが で き ずa代 わ っ て イ ギ リ ス を 除 く11力 国 に 適 用 さ れ る社 会 政 策 議 定 書 と実 質 的 な 適 用 を 取 り決 め た 付 属 の 社 会 政 策 協 定 の 採 決 で 合 意 した 。

労 働 者 に対 す る 共 同 体 の 保 障 の 分 野 で は,す で に 特 定 多 数 決 で 決 定 で き る(1)

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一 労 働 者 の健 康 と安 全 を守 る労 働 環 境 の改 善 に加 えてi社 会政 策 協 定 で新 らた に,(2ト 労 働 条 件,(3>一 労 働 者へ の情 報 と労 働 者 との協 議,(4ト 雇 用 の機 会 と 職場 での 処 遇 に 関す る男女 の 平 等,(5ト 労働 市 場 か ら排 除 され た者 の統 合 につ いて 閣僚 理 事 会 が特 定 多 数決 で決 定 で きる よ うに な った 。 また,ロ ーマ 条約, 単 一 欧州 議 定 書 で言 及 の なか っ た 社 会 保 障 につ い て,同 じ社 会 政 策 協 定 で,

「社 会 保 障 と労 働 者 の 社 会 的 保 護」,「雇 用 契 約 が 終 ゴした 場 合 の 労 働 者 の 保 護」 な どにつ いて の 欧州 委 員 会 の提 案 を,閣 僚 理 事 会が 欧 州 議 会 と経 済社 会 委 員 会 に諮 っ た後 に全 会一 致 で 決定 で き る よ うに な り,イ ギ リス を 除 く加 盟11

力国 の 問で 社 会労 働 政 策 につ いて 更 に改 善 が み られ た。

2ヨ ー ロ ッパ市 民 権 の 経 緯

市 民 権 と市 民 が 初 め てECの 公 式 文 書 に 言 及 さ れ た の はr1961年 一62年 に 遡 り,そ れ に は3つ の 動 機 が あ っ た と され る。 そ の 第1は,ヨ ー ロ ッパ の 統 合 を一 般 の 人 々 に も っ と関 わ りの あ る も の に す る必 要 性 か らで,こ の 点 に つ い て は ヨ ー ロ ッ パ の 人 々 を 一一体 化 す る た め 超 国 家 間 の 協 力 を 求 め た ロ ベ ー ル ・ シ ュ ー マ ン と ジ ャ ン ・モ ネ が は っ き り と そ れ に 気 付 い て い た(il。も っ と最 近 で は,1975年 の 欧 州 連 合 に 関 す る,当 時 ベ ル ギ ー 首 相 だ っ た テ ィ ン デ マ ン ス 報 告 書 に 表 わ れ て い る 。 こ の 報 告 書 で は,市 民 に 身 近 か な ヨ ー ロ ッパ が 提 案 され て い る[z1。次 い で1984年6月 の フ ォ ン テ ー ヌ プ ロ.̲..のEC首 脳 会 議 で 設 け ら れ た 「人 々 の ヨー ロ ッパ 委 員 会(イ タ リ ア の 委 員 長 の 名 に 因 ん で 通 常 は ア ドニ ノ 委 員 会 と 呼 ば れ る)」 が 行 っ た 意 欲 的 な 提 案 が あ る。 ア ド ニ ノ 委 員 会 は,1985年3月 の ブ リュ ッセ ル の 首 脳 会 議 と翌86年6月 の ミラ ノ の 首脳 会 議 に 対 して,そ れ ぞ れ 別 個 に 「市 民 の ヨー ロ ッパ 」 につ い て の 提 案 を 行 な っ た 。 マ ー ス ト リ ヒ ト条 約 の 欧 州 連 合 の 市 民 権 の 条 項 は こ の 提 案 が 具 体 化 さ れ た もの で あ る 。 こ う した 展 開 の 背 景 に は,… 般 市 民 が 委 員 会 や 理 事 会 の 決 定 な ど ヨ ー ロ ッパ 統 合 の 当 事 者 の 政 策 を どの 程 度 理 解 し,ま た 支 持 して い る か と い う点 に つ い て 共 同 体 の エ リ ー ト閣 僚 が 懸 念 を持 っ て い た こ とが 挙 げ られ る。

第2の 動 機 は域 内 市 場 の 統 合 に 関 わ る もの で,市 民 と共 同 体 との 関 係 を 人 の

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ヨ ー ロ ッパ 市 民 権 を 考 え る85

自 由 な移 動 と社 会 的権 利 の2つ の 分 野 で 深 め て 行 く必 要 が あ る と考 え られ た〔3>。統合 され た 単 一市 場 で は,人 ,物,サ ー ビ ス,資 本 の移 動 が 自由 で あ る が,人 の移 動 の うち特 に労 働 者 の移 動 につ い て は社 会 的保 護 を強 め て い く必 要 が あ る と考 え られ た。1985年 に フ ラ ンス の ジ ャ ック ・ドロ ー ル 前蔵 相 が 欧 州 委 員 長 に就 任 す る と,ヨ0ロ ッパ の統 合 は経 済 面 だ けで な く社 会的 側 面 の補 足 が 必 要で あ る と委員 会 は 考 え た。 これ が 導 火 線 とな っ て,1989年12月 にス ト ラス ブー ル で 開 か れ た 首脳 会 議 で,イ ギ リス を除 く11力 国が 労 働 者 の基 本 的 な社 会 的 権利 に関す る社 会 憲 章 を採 択 す るに 至 った 。す で に 多 くの ヨー ロ ッパ の福 祉 国 家 に は,連 帯 や 社会 的結 束 に裏打 ち され た社 会 的 保護 とい った市 民 権 の コ ンセ プ トが存 在 して お り,こ の分 野 を共 同体 の水 準 に 反映 させ るの は至 極

当然 の 成 り行 き とい えた。

第3の 市民 権 に関 す る脈 絡 と して,当 時,ECの 民 主的 欠 陥 と され た考 え に 結 び付 くもので あ る。ECの 制 度 化 が 進展 す る につ れ ,諸 機 関の 民 主 的運 営 や

…般 市民 の参 加 が 課 題 に浮 上 し

,1979年 に欧 州 議 会 議 員 の 直 接 選 挙 制 度 が 発 足 した こ とに よっ て,欧 州 議 会 は民 主 的運 営 の 中心 的 存在 とな り,ま た 人 々の

意 思 決 定へ の 参 加 に 関 す る広 範 な問 題 を包 含 す る に至 っ だ4}。 こ う してyEC は 欧州 議 会 と閣僚理 事 会の 共 同 決定 の よ うに超 国家 的性 格 を強 め る 一・方 で,民 主 的 参加 とか人 の主 権 とい った市 民 権 を ヨー ロ ッパ の レベ ルで考 え る こ とが 可 能 とな った。

市民 権 につ い て,ス ペ イ ンの ゴ ンサ レス 首 相 が1989年6月 の マ ドリー ドの 首脳 会 議 で,市 民 権 を通 貨 統 合(経 済 通 貨 同盟 の 最終 段 階)と 外 交 ・安 全保 障 と並 ぶ3本 の共 通政 策 の柱 の1つ に据 える提 案 を 出 した こ とが あ る。 これ につ い ては,個 人がECの 意 思 決 定 に参加 す る とい う 一般化 され た民 主 的 権 利 を伴 う共 通 の 市 民 権 の概 念 は慎 重 に避 け る こ とで 各 国 の 間 で コ ンセ ンサ ス が 成 立

し,移 動 の 自由 に基 づ く よ り限 定 的 な 市民 権 の 考 え方 で 落 ち着 い た㈲と され る。 この段 階 でそ こ まで踏 み 込 む の は不 可 能 と考 え られ た。

も う1つ,市 民権 の テ ーマ を もっ と加 盟 国 に受 け入 れ 易 くす る要素 と して 基 本 的権 利 に は触 れ な い とい う暗 黙 の 了解 で あ る。 国 連 の 世 界 人権 宣 言 が1948

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年 に採 決 され た 後,欧 州 評 議 会 が 設 立 さ れ る と,人 権 と基 本 的 自由 の 擁護 の 実 現 が 達 成 す べ き 目標 で あ る と して 関 心 が 高 ま っ た 。1950年11月,ロ ー マ で,

こ の 主 旨 に 沿 っ た 人 権 と基 本 的 自 由 の 擁 護 に 関 す る 欧 州 人 権 条 約 が 採 択 さ れ,1953年9月 に 発 効 した 。 欧 州 人 権 条 約 を 本 条 約 の 中 に 盛 り込 む こ と は, EC域 外 か らの 個 人 に 対 して 権 利 の 適 用 拡 大 を 意 味 す る可 能 性 が あ る と して 慎 重 に 避 け られ た と され る。

と は い え,共 同 体 の 条約 の 中 に 人権 に 関 す るt及 が これ まで 無 か っ た わ け で は な い 。1987年7月 に 発 効 した,単 一欧 州 議 定 書(SingleEuropeanAct)の

前 文 で,「EC構 成 国 は,加 盟 国 の 憲 法,法 律,並 び に 欧 州 人 権 条 約 お よ び 欧 州 社 会 憲 章 で 認 め られ て い る 基 本 的 権 利,と りわ け 自 由,平 等,社 会 的 公 正 に 基 づ く民1三i義 を促 進 す る た め に 協 力 す る こ と で 合 意 した」 と謳 っ て お り,民

主三社 会 の 基 本 的 権 利 の 精 神 は 尊 重 す る 姿 勢 を み せ て い る 。

1989年5月 にEC委 員 会 は,ヨ ー ロ ッパ 市 民 権 に 連 動 し て い く社 会 政 策 に つ い て,「EC社 会 憲 章 」 草 案 を 示 し,こ れ を 基 に,閣 僚 理 事 会 が 同 年10月

に,労 働 者 の た め の 基 本 的 な 社 会 的 権 利 の 憲 章 の 原 案 を 練 りhげ た 。 こ の 原 案 は,給 与,生 活 と労 働 条 件 の 改 善,社 会 保 障,労 使 の 団 体 交 渉,労 働 者 の 経 営 へ の 参 加 な ど幅 広 い 分 野 に 及 ん で い る が,イ ギ リ スの サ ッチ ャ ー一首 相 が,「 社 会 憲 章 は労 働 コ ス トを押 し上 げ,そ れ に よ っ て 単 一市場 の 利 益 を無 に す る もの で あ る」 と 反 対 し た の に 対 し,欧 州 委 員 会 の ジ ャ ッ ク ・ド ロ ー ル 委 員 長 が

「ヨー ロ ッ パ 人 は社 会 的 価 値 を 共 有 して い る」 と 反 論 す る な ど論 議 へ 発 展 し て い っ た 。 そ の 結 果1989年12月 の ス トラ ス プ ー ル の 首脳 会 議 で,イ ギ リ ス を 除 く11力 国 が 宣 言 の 形 で 採 択 し,首 脳 会 議 と して 欧 州 委 員 会 が す で に 行 動 計 画 を 作 成 し た こ と に 留 意 し だ61。EC社 会 憲 章(1961年 欧 州 評 議 会 が 採 択 した 欧 州 社 会 憲 章 と は 別)は ヨ ー ロ ッパ 社 会 の モ デ ル に つ い て の 原 則 を宣 言 した もの で,こ の 精 神 を実 効 性 あ る もの に す る の が 社 会 政 策 と い え る 。 こ の 点 に つ い て,マ ー ス トリ ヒ トの 首脳 会 議 で イギ リス は メ イ ジ ャー 首相 が 社 会 政 策 条 項 に 反 対 した が,後 に 労 働 党 の ブ レア 首 相 が 政 策 を 転 換 して 賛 成 す る と い う経 緯 を 辿 っ た 。 ま た,マ ー ス トリ ヒ ト条 約 で は,欧 州 委 員 会 か らの 提 案 に もか か わ ら

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鰯 一 ロ ッ パ 市民 権 を 考 え る87

ず,欧 州 人権 条約 を ヨー ロ ッパ 市民権 の 条項 に盛 り込 む こ とは避 けた 。仮 に押 し込 ん だ と して も,後 にな って 国 に よって は留 保 す るか独 自の 見解 を宣 言 の 形 で 表 明す る こ とは想 像 で き る。 マ ー ス トリ ヒ ト条約 は,代 わ りにF条 で,「 欧 州 人権 条約 が保 障 す る基 本 的権 利,お よび加 盟 国 に共通 の 憲 法Lの 伝 統 か ら崖

じる 基本 的権 利 を共 同体 の権 利 の …般 原則 と して 尊 重す る」 と明記 した。

3地 方 自治体,欧 州 議会 の選挙権

マ ー ス ト リ ヒ ト条 約 で 欧 州 連 合 市 民 は,居 住 先 きの 加 盟 国 で,地 方 自治 体 と 欧 州 議 会 の 選 挙 で 投 票 し,立 候 補 で き る こ と に な っ た 。 選 挙 権 に は 国 政 選 挙 は 含 まれ て い な い 。 地 方 選 挙 権 につ い て は居 住 地 で の 納 税 者 と して 当然 の 権 利 と い う 考 え 方 が あ る が,国 政 選 挙 と な る と ま さ に1国 の 註権 と深 く関 わ る だ け に

一部 の 国 か らの 提 案 は 退 け ら れ た

こ の 選 挙 権 に つ い て は,ヨ ー ロ ッパ は,人 が 絶 え ず 移 動 し,交 流 す る 人 類 の 堆 塙 だ け にf居 住 す る外 国 人 に 対 して 国 に よ っ て は す で に 一定 の 条 件 の 下 で ,

地 方議 会 の 選 挙 権,被 選 挙 権 を 認 め て い る。 例 え ば,デ ンマ ー ク,オ ラ ン ダ , ア イ ル ラ ン ドは こ れ に あ た る 。 デ ンマ ー ク で は,3年 以L在 住 した 外 国 人 に 対

して 地 方 自 治 体 の 選 挙 権 を 認 め,オ ラ ン ダ で は1983年6月 の 憲 法 改 正 で,5 年 以1二在 住 の 外 国 人 に 地 方 自 治 体 選 挙 の 選 挙 権,被 選 挙 権 を 認 め た 。 ま た,ア

イ ル ラ ン ドで は,1974年 か ら6カ 月 以 上 在 住 の 外 国 人 に 同 じ く選 挙 権 と被 選 権 を 認 め て い る。 イ ギ リ ス の 場 合,伝 統 的 に 「イ ギ リ ス 臣 民 」 で あ る イ ギ リ ス 連 邦 の 出 身 者 と ア イ ル ラ ン ド出 身 者 に 地 方 自 治 体 だ け で な く国 政 選 挙 の 投 票 権

を 与 え て い るc、

マ ー ス トリ ヒ 条 約 で 規 定 さ れ た 選 挙 権,被 選 挙 権 が 実 施 に 移 さ れ る た め に は,各 加 盟 国 が 適 用 に 必 要 な 行 政 手 続 き を踏 ま な け れ ば な らず,何 力 国 か で 現 憲 法 の 改 正 が 腰 と な り た 。 同 様 に,(1ト 地 方 参 礁 の 行 使 に は 選 挙 前 の 最 低 限 の 滞 在 を 必 要 と し,(2)一 有 権 者 の 出 身 国 で の 市 民 権 は 消 滅 しな い が,出 身 国 と居 住 国 で 投 票 し,立 候 補 す る とい う二 重 の 選 挙 権 は 禁 止 さ れ て い る。 ま た , 加 盟 国 に特 殊 な 事 情 が あ る場 合 に は,適 用 除 外 の 条 項 を発 動 で き る。 例 え ばy

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ル クセ ン ブル クの場 合 には,居 住 者 の40%近 くが 当地 で な く他 の 加 盟 国 の市 民 で,国 政 を左 右 す る事 項 で あ る と判 断す る場 合 に は適用 除外 が可 能 とな る。

現 憲 法 の改 正 につ い て特 記 した いの は フ ラ ンスの ケ ー スで あ る。 フ ラ ンスで は,地 方 自治体(コ ミュー ン)の 議 会 の 議 員 は,上 院(元 老 院)議 員 選挙 の投 票 権 を持 ち 間接 的 に国政 に関与 す る こ とに な る とい う観 点か ら,加 盟 国 の市 民 も含 め て 自国 以外 の外 国 人 に地 方 参 政 権 を認 め る の に は否 定 的 な考 え 方が 強 い。 この た め連 合市 民 が フ ラ ンス で地 方 自治 体 の 議 員 とな って も 上院議 員選挙 の投 票 権 は無 い こ とを明記 す る必 要 に迫 られ たの で あ る。 同時 に,フ ラ ンス を

は じめベ ル ギーや ル クセ ンブ ル クで は,非 加 盟 国 か らの移 民 に投 票 権 を認め る 糸 口 に なる と して様 々 な政治 勢 力 が 反対 を表 明 した。 この点 は,居 住 者 に地 方 自治 体 の 参政 権 を認 めて い る オラ ンダや デ ンマ ー クな どの対 応 とは異 な って い る。 また,フ ラ ンス で は,地 方 自治 体 の 長 は 国家 に代 わ って 公権 力 を行 使 す る こ とに な って い るた め,こ の 地位 は外 国 人 に は不 適 当 と判 断 され,結 局,フ ラ

ンス憲法 の 改 正 で は,フ ラ ンス国民 で ない 加盟 国の 市民 は,地 方 自治体 の長, また は助 役 に は なれ な い こ と と,ま たk院 議 員選 出の議 員 国 には参 加 で きな い こ とが 明記 され た。

欧 州議会 の選挙権

欧州 議 会 は,構 成 国 の市 民 か ら直接 選 出 され,EU市 民 の民 意 を反 映 した 機 関で あ る。 欧州 議 会 は,1962年 に前 身 のEC総 会 か ら欧 州 議 会 に衣 替 え して か ら も,79年 に直接 選 挙 制 が 導 入 され る まで は加 盟 各 国の 議 会 が 議 員 を任 命 して いた 。直 接 選 挙制 は,EECが1958年 に発 足 し,67年 にECへ と統 合 の 度 合 いが 深 ま り,そ れ に伴 う域 内 の 人の 移動 が 頻 繁 に な る につ れて 市民 の 声が 共 同体 の運 営 に どの 様 に反 映 して い くか が背 景 にあ る。

現 在,議 員定 数626名 の任 期5年 の 欧 州議 会 は,当 初 は諮 問 ・監督 的権 限 に 限 られ て い たが そ の役 割 は次 第 に拡 大 され,欧 州 委 員 会提 案 の法 案 に意 見 を述 べ る外,政 策 分野 に よ って は 閣僚 理事 会 との 共 岡決 定 手続 きに よ り法案 を採 択 す る な ど意思 決 定へ 参 加 す る民 主 的 正 当性 を得 て きて い る。 ただ,議 員 総 数 の

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ヨ ー ロ ッパ 市 民 権 を 考 え る89

枠 が,マ ー ス トリ ヒ ト条 約 を 改 定 した ア ム ス テ ル ダ ム 条 約 に よ っ て 上 限 が700 名 に 設 定 さ れ て い る た め 欧 州 連 合 の 東 方 へ の 拡 大 に 伴 っ て 制 度Lの 検 討 課 題 の

… つ と な り

,2000年12月 の 首脳 会 議 で 合 意 した ニ ー ス 条 約 で はEU加 盟 国 が 27か 国 に 拡 大 した 場 合 に 上 限 が732名 と な っ た 。 加 盟 各 国 の 議 員 定 数 は ,ア

ム ス テ ル ダ ム 条 約 で は,人 口 比 率 を 中 心 に ,ド イ ツ99,イ ギ リ ス,フ ラ ン ス ・ イ タ リ ア が 各87,ス ペ イ ン64,オ ラ ン ダ31 ,ベ ル ギ ー,ギ リ シ ヤ,ポ ル トガ ル 各25,ス ウ ェ ー デ ン22,オ ー ス トリ ア21,デ ンマ ー ク,フ ィ ン ラ ン ド 各16,ア イ ル ラ ン ド15,ル ク セ ン ブ ル ク6と な っ て い る 。

4条 約 をめ ぐる国民投票

欧 州 連 合 の 市民 が ヨ ー ロ ッパ の 統 合 に 関 して 自か らの 意 見 を 直 接 表 明 で き る 機 会 に 国 民 投 票 が あ る 。X992年2月,マ ー ス ト リ ヒ トで 調 印 さ れ た 欧 州 連 合 条 約 は,当 初 は,93年1月 か ら発 効 の 予 定 で あ っ た が,デ ン マ ー ク が92年6 月2日 の 国 民 投 票 で,条 約 の 批 准 を 賛 成49.3%,反 対50.7%で 否 決 し,EU 発 足 に 赤 信 号 が 灯 る と い う デ ンマ ー ク ・シ ョ ッ ク を 誘 発 した 。 デ ン マ ー ク の 議 会 は 承 認 した が 国 民 は 拒 絶 した の で あ る。

デ ンマ ー ク の場 合

国 民 が 反 対 した の は 以 下 の 理 由 か ら で あ る{71。

(1)ECの 官 僚 シ ス テ ム に 対 す る批 判 。 (2)共 通 の 安 全 保 障 の 防 衛 策 。

(3>小 国 企 業 の 競 争 力 が 弱 体 化 す る とい う懸 念 。

㈲ 市 場 統 合,通 貨 統 合 に よ りデ ン マ ー ク の 福 祉 水 準 が 低 下 す る と い う 懸 念 。

樹 デ ンマ ー ク通 貨 が,一 貨 に 吸 収 さ れ る と最 適 水 準 に あ る 経 済 が 犠 牲 と な る とい う懸 念 。

ECの 官 僚 シ ス テ ム に 対 す る 批 判 は,官 僚 に よ る 市 民 権 設 定 に対 す る 疑 問 で あ り,ECの 官 僚 は 果 た して 小 国 の 意 見 を 吸 収 で き る の か とい う もの で あ る 。

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防衛 策 に つ い て は,例 え ば 仏 独 共 同 軍 に 自 国 の 軍 隊 が 組 み 込 ま れ る とデ ンマ ー クの 独 自性 を 喪 失 す る こ と に な りは しな い か と い う心 配 で あ る。 デ ンマ ー ク は よ り中 立 的 な ス タ ン ス を取 っ て きて い る 。 こ の 点 に つ い て は,北 欧 諸 国 の 立 場 に近 く,ま た 大 西 洋 パ ー トナ ー シ ッ プ を よ り重 視 して い た イ ギ リス が 後 に,こ れ ま で の 方 針 を 転 換 して 英 仏 首 脳 会 談 で 欧 州 独 自 の 防 衛 力 構 想 に つ い て 合 意

し,1999年12月 の ヘ ル シ ンキ 首 脳 会 議 で 欧 州 連 合 の 緊 急 対 応 軍 の 創 設 へ と発 展 して 行 っ た 面 も あ る 。 福 祉 水 準 低 ドの 心 配 に つ い て は,高 福 祉 水 準 に あ る デ ンマ ー ク は,加 盟 各 国 が 努 力 して デ ンマ ー ク の 水 準 に接 近 す る の が 望 ま し く}

デ ンマ ー ク 側 か ら の 調 整 の 要 は な い と い う 考 え に 立、っ て い る ㌔ ま た,デ ン マ ー ク 通 貨 ク ロ ー ネ が 単 一 通 貨 「ユ ー ロ」 に 吸 収 さ れ る と い う不 安 に つ い て は,デ ンマ ー ク経 済 省 の ミケ イ ル ・デ ィ ッ トマ ー 事 務 次 官 が,イ ン タ ビ ュ ー の 中 で,「 小 国 は 通 貨 の 動 向 とか 投 機 に 影 響 され や す く,信 頼 性 の あ る 通 貨 政 策 を 取 ら ざ る を え な い 」 と して 第 陣 参 加 は 見 合 わ せ る 考 え を 表 明 し=!9Jo一 方 で,単 一 通 貨 が 発 足 した 後 に デ ンマ ー クで 改 め て 国 民 投 票 が 実 施 さ れ る 見 通 し

も明 らか に した 。

条 約 の 批 准 を め ぐる 問 題 は,条 約 の 発 効 に は 欧 州 議 会 と全 加 盟 国 の 批 准 を要 す る た め,1992年12月 の エ デ ィ ンバ ラ の 首脳 会 議 で,イ ギ リ ス と 共 に,経 済 通 貨 同 盟(EconomicandMonetaryUnion‑EMU)と 共 通 の 外 交 安 全 保 障 政 策(CommonForeignandSecurityPolicy‐CFSP)に 参 加 しな くて も よい 権 利 で あ る 適 用 除 外 が 認 め ら れ,翌93年5月 に 改 め て 国 民 投 票 を実 施 し,投 票 率86.2%,56.8%の 賛 成 で 承 認 さ れ て 決着 した 。 し か しa1回 目の 国 民 投 票 の 結 果 は,条 約 そ の もの が 成 立 し な い の で は な い か と い う 危 惧 を 抱 か せ る シ ョ ッ ク と して そ の 波 紋 が 広 が っ た だ け で な く,加 盟 国 市 民 の 生 活 や 安 全 に 関 す る 問 題 で は広 く民 意 を 反 映 した もの で な け れ ば な ら な い 点 を明 確 に提 示 す る 機 会 と な っ た 。 賛 否 が 接 近 し て い る 点 は,市 民 が ヨ ー ロ ッ パ の 政 治,経 済 の 統 合 の 深 化 に つ い て,期 待 と不 安,明 暗 相 半 ば す る 気 持 が 複 雑 に交 錯 して い る こ

と を如 実 に 物 語 っ て い る 。 同 じ事 象 が フ ラ ン スの 国 民 投 票 で も起 き,マ ー ス ト リ ヒ ト条 約 は,薄 氷 を踏 む 成 立 と な っ た の で あ る。

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ヨ ー ロ ッ パ 市民 権 を 考 え る9ユ

フラ ン ス で の論 争 点

デ ンマ ー ク ・シ ョ ッ ク は ヨー ロ ッパ 統 合 の 主 導 的 役 割 りを 果 た して きた フ ラ ン ス に も波 及 した 。 フ ラ ンス 政 府 は 批 准 に 不 可欠 な憲 法 改 正 案 を 議 会 に 上 提 し た 。 ヒ下 両 院 の 合 同 会 議 で 論 戦 の 後,92年6月 に,フ ラ ン ス 憲 法 の 改 正 案 は,反 対73,賛 成592名 と 有 効 投 票 の3分 の2をUロ1る 賛 成 多 数 で 可 決 さ れ た 。 しか し,国 民 の 間 に は 通 貨 や 防 衛 な ど国 と 国 民 の 命 運 に 関 わ る重 要 な 事 項 を含 む 条 約 に つ い て 批 准 反 対 の 声 が 高 ま っ て き た 。 ミ ッテ ラ ン 大統 領 は こ の た め 条 約 批 准 の 可 否 を 国 民 に 問 う こ と に 決 め,92年9月20日 ,条 約 の 成 立 に 必 要 な フ ラ ン ス憲 法 の 改 正 条 項 に 関 す る 国 民 投 票 が 実 施 され た 。

フ ラ ンス の 国 民 投 票 は,今 後 の ヨー ロ ッパ 統 合 の 鍵 を握 る だ け に 世 界 的 に 注 目 さ れ た が,結 果 は,賛 成51.05%,反 対48.95%の 僅 差 で 町決 さ れ た 。 フ ラ ン ス の 世 論 調 査 機 関IFOPが 国 民 投 票 前 の9月7日 に 実 施 した 調 査 で は}回 答 者 の50.5%が 「ウ ィ」,49.5%が 「ノ ン」 で あ っ た 。 反 対 論 の 見 解 は 様 々 で あ っ た 。 農 民 は 「条 約 を批 准 した ら農 業 保 護 が 打 ち 切 ら れ る 」,一 部 の 労 働 者 は 「社 会 保 障 が 軽 視 さ れ る 」T極 右 派 は 「国 家 の 正 統 性 を 失 う 」,ま た 他 の 理 由 は 「主 権 の 放 棄 に つ な が る 」 で あ っ た㈹}。

IFOPの 世 論 調 査 の4日 前 に は 「ノ ン」 の 意 見 が 急 増 し た た め,ミ ッテ ラ ン 大 統 領 は パ リ大 学 ソ ル ボ ンヌ 校 舎 で 公 開 討 論 会 を 開 い た 。 ヨ ー ロ ッパ 各 地 に も 中継 さ れ た テ レ ビ 中 継 に よ る と,大 統 領 は,「 こ の 条 約 が 欧 州 全 体 の 平 和 を 守 る もの で あ る こ と を 強 く実 感 して い る」 と述 べ,ま た 衛 星 中 継 で 特 別 参 加 した ドイ ツ の コ ー ル 首 相 は,独 仏 の 連 帯 を 表 明 す る か の よ う に,「 条 約 批 准 に 賛 成 か 反 対 か は,フ ラ ン ス 国 民 が 欧 州 の 運 命 を左 右 す る ほ ど重 大 な 問 題 に な る 」 と 述 べ だII}。 ミ ッ テ ラ ン大 統 領 は,聴 衆 を 前 に,農 業,税 制,治 安,貿 易,市 民 権 な ど広 範 な テ0マ を質 問 型 式 で 答 え,批 准 反 対 派 の フ ィ リ ッ プ ・セ ギ ャ ン元 社 会 問 題 相 との 討 論 に も応 じた 。

デ ンマ ー クが92年6月2日 の 国 民 投 票 で 条 約 の 批 准 を 否 決 した 後,ア イ ル ラ ン ドが6月18日 の 国 民 投 票 で 賛 成69.05%,反 対30.95%で 承 認,次 い で

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ル クセ ンブ ル クが7月2日,議 会 で51対6で 可 決,7月31日 にギ リシ ャが 議 会 で286対8の 圧 倒 的 な賛 成 多 数 で可 決 す る とい う情 勢 で推移 して きた。 それ だ け に フラ ンス の 国民投 票 は条 約o是 否 をめ ぐる動 き と して は頂点 に立 つ とい えz議 論 を前提 に物 事 の 諾 否 を決 め る傾 向の 強 い 国民性 か ら して,ミ ッテ ラ ン 大統 領 が 議会 の 可 決 だ けで な く憲 法 に則 っ て直接 民 主主 義 的論 法 に訴 え たの は 正鵠 を得 た とい え る。 マ ー ス トリ ヒ ト条約 は共 同体 に 関わ る事 項 だ け を扱 い, 加 盟 国の 国 民 と共 同体 の市 民 権 との 関係,通 貨 の 統 合 とそ れ に よる加 盟 国通 貨 の 主権 が 消 滅す る意 味 な ど,市 民 に とって は論 理 的 に不 明 瞭 な点 が 背 景 に あ っ た とい え まいか。 共通 の外 交 ・安 全保 障 政 策 は ま さに政治 統 合 の分 野 に大 き く ス テ ップ を踏 み 込 む こ とにな る訳 で,統 合 は,緩 い 国家連 合 の形 を とるの か, 或 る い は連 邦 制 をめ ざす の か とい った疑 問 も市 民 意識 の 中 に沸 き起 こっ た こ と

も考 え られ る。

イ ギ リス の 立 場

ヨー ロ ッパ 統合 に懐疑 的 な イギ リス は,国 家主 権 に抵 触 す る と して経 済通 貨 同盟 の 第 三段 階 で最 終 段 階 で あ る 単 一 通 貨 の 導 入 に は 参 加 し ない 方 針 を取 っ た。91年12月 のマ ース トリ ヒ トの 首脳 会議 で,イ ギ リス は他 の加 盟 国 の 第三 段 階へ の 移行 に は反対 しない とい う前提 で,政 府 また は議会 が 別 途決 定 しない 限 り第 三段 階へ の 移行 は義 務づ け られ ない とい う,イ ギ リス に適 用 除外 の条項

を設 け る こ とで合 意 した。

当時 の イギ リス の保 守 党政 権 は,国 家 主権 を優 先 す る路線 に立 って独 仏 が 主 導 す る統 合 政 策 に対 時 して きた。 イギ リス国民 の 半 数 か それ 以上 が,デ ンマ ー クが 国民 投 票 で 条約 批 准 を否 決 した こ とを支持 し,ま た フラ ンス の 国民投 票 の 結 果 が僅 差 に よる批 准 承 認 だ っ た こ と を受 けて慎 重 に な り,メ ー ジ ャー 政権 に 条 約 の 見 直 しを求 め る立 場 に 立 っ た。 この背 景 に は,国 内 の失 業増,貿 易収 支 の赤 字,民 営 化 の 不徹 底,企 業 の競 争 力 の低 下,物 価 高 とい うマ イナ ス指標 が 連 続 した だ けで な く,メ ー ジ ャー政 権 に と って92年9月 以 降,通 貨 危 機 に 直 面 しポ ン ド防衛 の た め の外 国 為 替 市 場 へ の 介 入 に失 敗 した 点 が あ る(izl。メー

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ヨ ー ロ ッパ 市 民 権 を 考 え る93

ジ ャ ー 首 相 は,一 貫 して 欧 州 通 貨 制 度(EMS)の 維 持 を 唱 え

,景 気 後 退 期 に 入 っ て も,通 貨 の 切 り ドげ を拒 否 して き た 。 しか し,92年9月16日,イ ギ リ ス の ポ ン ド・ イ タ リ ア の リ ラ ,ス ペ イ ンの ペ セ タが 急 落 して,欧 州 為 替 相 場 メ カ ニ ズ ム(ERM)の 下 限 を 割 り込 み ,ポ ン ド と リ ラ がERMか ら 一一時 的 に 離 脱 す る 事 態 に 追 い 込 ま れ,メ ー ジ ャ.̲̲̲政権 に と っ て は 険 しい 情 勢 と な っ た

。 また,マ ー ス トリ ヒ トの 首 脳 会 議 で は,メ ー ジ ャ ー 首 相 は社 会 政 策 に つ い て も適 用 除 外 を提 案 し た が 反 対 多 数 で 受 け 入 れ られ ず ,本 条 約 と切 り離 した 政 策 協 定 と 議 定 書 で 妥 協 を 迫 ら れ る と い う 経 緯 を 辿 っ た 。 し か し,イ ギ リ ス は,1997年5月 の 総 選 挙 で,18年 間 政 権 の 座 に あ っ た 保 守 党 に 対 し て 労 働 党 が 圧 勝 しブ レ ア 政 権 が 誕 生 す る と ヨー ロ ッパ 政 策 を大 き く転 換 して い く

。 欧 州 連 合 と の 関 係 で は,ブ レ ア政 権 発 足 後 間 も な く開 か れ た ア ム ス テ ル ダ ム の 首 脳 会 議 で,マ ー ス トリ ヒ ト条 約 の 改 定 に あ た り社 会 政 策 協 定 を ア ム ス テ ル ダ ム 条 約 の 基 本 条 約 に 取 り入 れ る こ と に 賛 成 しi保 守 党 政 権 か らの 政 策 転 換 を 行 っ た 。 ま た,ブ レ ア 労 働 党 政 権 は ,単 一 通 貨 ユ ー ロ へ 参 加 す る 政 策 を 打 ち 出 し,2002年 に 見 込 ま れ る 次 の 総 選 挙 で 引 き 続 き政 局 を 担 当 す る こ と が 決 ま っ た 場 合 に は,国 民 投 票 で ユ ー ロへ の 参 加 の 是 非 を イギ リス 国 民 に 問 う 方 針 と い

う見 方 が 伝 え られ た 。

5ア ムステル ダム条約 と市民権

マ.̲̲.ス トリ ヒ ト条 約 が1993年11月 に発 効 した 後

,こ の 条 約 を改 定 す る ア ム ス テ ル ダ ム の 首 脳 会 議 が97年6月16 ,17の 両 日開 か れ る ま で に 主 要 な加 盟 国 に 新 しい 政 治 の 潮 流 が み ら れ た 。 保 守 党 政 権 に 代 わ っ て 中 道 左 派 勢 力 が 政 権 の 座 に 就 い た 。 イ タ リ ア で96年4月 の 総 選 挙 で オ リ.̲̲.プの 木 が 第 一勢 力 と な り,プ ロ デ ィ 中 道 左 派 政 権 が 発 足 した 。 翌97年5月 に イ ギ リ ス で ブ レ ア 政 権 が,6月 に は フ ラ ン ス で 社 会 党 と共 産 党 ,緑 の 党 が 連 立 す る ジ ョス パ ン政 権 が 発 足 し た 。 翌 年 の98年9月 に は,ド イ ツ で 社 会 民 主 党 と 緑 の 党 が 連 立 す る

シ ュ レー ダ ー 政 権 が 登 場 した 。

こ っ し た 中 で,96年3月 か ら マ ー ス ト リ ヒ ト条 約 を 見 直 す 討 議 を 重 ね て き

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た 政 府 間 協 議(IGC)を 締 め く くる ア ム ス テ ル ダ ム の 首脳 会 議 で,条 約 の 改 正 に つ い て 合 意 し,97年10月2日,ア ム ス テ ル ダ ム 条 約 が 調 印 さ れ た 。 ヨ ー一

ロ ッパ 市 民 権 に 関 す る件 で は,ブ レ ア 首 相 が 社 会 政 策 協 定 を条 約 の 基 本 条 項 で 明 記 した 点 は 先 きに 触 れ た 。 今 回 の 条 約 で は,ヨ ー ロ ッパ の 統 合 が 始 動 して 以

来 初 め て 雇 用 に 関 す る条 項 が 新 設 さ れ た の が 特 記 で き る 。

こ の 雇 用 テ ー マ は,失 業 対 策 を最 優 先 の 政 策 に掲 げ,フ ラ ン ス 国 民 か ら総 選 挙 で ウ ィの 応 え を得 た フ ラ ンス の ジ ョス パ ン首 相 の イ ニ シ ア チ ブ に よ る。 成 長 と雇 用 の テ ー マ で 提 案 さ れ た 雇 用 問 題 は,フ ラ ンス が ドイ ツの コ ー ル 首相 が 強 く主 張 す る,単 一 通 貨 に 関 わ る財 政 安 定 協 定 を 修 正 な く受 け 入 れ 独 仏 の 妥 協 が 成 立 した こ とで 大 き く前 進 し,首 脳 会 議 で 「成 長 と雇 用 」 に つ い て 決 議 案 が 採 択 さ れ た 。 フ ラ ン ス の 新 聞,ル ・モ ン ドに よ る と,独 仏 の 妥 協 の 内 実 は 異 な

り,フ ラ ンス は 雇 用 が ヨ ー ロ ッパ の優 先 事 項 に な っ た と して 雇 用 基 金 の 創 設 を 提 案 し,各 国 に財 政 支 出 を 求 め た の に 対 し,ド イ ツ は,雇 用 の た め に新 規 の 財 政 追 加 支 出 は 義 務 づ け られ な か っ た と受 け 止 め た 。 イ ギ リ ス,オ ラ ン ダ も柔 軟 な労 働 市 場 政 策 に よ っ て 雇 用 情 勢 を 改 善 す る 考 え に 立 っ た が}各 国 と も失 業 対 策 が 重 要 な こ とは 認 識 して お り,今 回 の 妥 結 と な っ た 。 現 に ドイ ツ 自 身 の 雇 用 情 勢 は 厳 し く,ド イ ツ 連 邦 庁 に よ る と,失 業者 は1997年2月 に467万2000人

と 戦 後 の 最 悪 を 記 録 し,98年1月 に な る と482万 人 と最 高 を 更 新 し た 。 失 業 率 は,12.6%,特 に1日東 ドイ ツ で は21.1%と 初 め て20%をL回 っ た113'。

ア ム ス テ ル ダ ム 条 約 は97年6月 に 合 意 し た 後,99年5月1日 に 発 効 し た が,欧 州 連 合 の 市 民 で あ り労 働 者 の 生 活 権 と して 重 要 な 雇 用 は125条 か ら130 条 ま で の6条 項 に 規 定 さ れ た 。128条 で,欧 州 理 事 会(EU首 脳 会 議i)は,閣 僚 理 事 会 と委 員 会 に よ る 共 同 年 次 報 告 に 基 づ い て,毎 年,共 同 体 内 の 雇 用 情 勢

に つ い て 検 討 し,そ れ に つ い て の 結 論 を採 択 す る とあ り,雇 用 情 勢 の 改 善 が 共 同 体 共 通 の 課 題 と な っ た 。 ま た,128条4で,閣 僚 理 事 会 が 雇 用 委 員 会 の 見 解 を 得 て 加 盟 国 の 雇 用 政 策 の 実 施 状 況 を 毎 年 検 討 し,検 討 の 結 果 妥 当 で あ る と判 断 す る場 合 に は,欧 州 委 員 会 か らの 勧 告 に 基 づ い て 特 定 多 数 決 でT加 盟 国 に 雇 用 の 指 針 を勧 告 で きる こ と に な っ た。 雇 用 に つ い て は,ア ム ス テ ル ダ ム 首脳 会

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一ロ ッ パ 市 民 権 を 考 え る95

議 の発 展 と して97年11月 に ル クセ ンブル クで 欧 州連 合 初 の 雇用 サ ミッ トが 開 か れ,行 動 計 画 の共 通 の ガ イ ドラ イ ンの作 成 ,若 年 失 業 者 と長 期 失 業 者 に対 す る職 業 訓練 と社 会復帰 の 可能性 を高 め る 日標 の設 定 ,目 標 達 成 に今後5年 の期 間 を設 け る とい った議 長 総括 が採 択 され だ141。

また,ア ム ステ ル ダム 首脳 会議 で は ,人 権 な ど人 間の 基 本的 権 利 の 進展 が 注 目され た。 マ ー ス トリヒ ト条 約 で加 盟 国の 市民 が 域 内 を 自由 に移動 し,居 住 す る権利 が 認 め られ た か らに は,例 え ば 自国 で な い加 盟 国の 地 で就 労 す る場 合

, 対 等 の労 働 条件,男 女差 別 の撤 廃 に次 い で 人権 の尊 重 とい っ た 人間 の基 本 的 権 利 に 関心 が 移 り,1950年 に ロー マ で 調 印 され た 欧 州 人 権 条約 の 精 神 が 共 同体 の 法体 系 に編 入 され るか ど うか が1つ の 焦 点 とな った。

ロ.̲̲.̲マ条約 の 第一・次 改 定 とい え る 単… 欧州 議 定 書 で は 前文 で

,加 盟 国 の憲 法 と法律 ・欧 州 人 権条 約,欧 州 社 会 憲 章 で 認め られ て い る基 本的 権 利 につ いて 宣 言 し,マ ー ス トリ ヒ ト条約 で は7条 で,欧 州 人権 条約 が保 障 し,加 盟 国 の 憲法 か ら生 じる基本 的 権 利 を共 同体 法 の一 般 原則 と して尊 重す る と して いた。 ア ム ステ ル ダム 条約 で は6条 で,「 欧 州 連 合 は,加 盟 国 に 共 通 の 原 則 で あ る 自 由, 民 主 セ義,人 権 と基 本的 自由 の尊 重,法 の 支配 の原 則 に基 づ いて 設立 され た」

と基 本条 項 で扱 い,一 歩 前進 した。 そ して7条1で ,加 盟 国 が重 大 で継 続 的 な 違 反 を した場 合,首 脳 会議 が全 会一 致 で違 反 を確 認す る手続 きを経 て,閣 僚 理 事 会 が,特 定 多 数決 で,違 反 した 加盟 国の 閣僚理 事会 で の投 票 権 を含 め て権 利 の …部 を 一時停 止で きる制 裁 措 置 を導 入 して い る。

これ まで 欧州 連 合 と して,基 本 的権 利 との 関連 で制 裁 措 置 を発動 した こ とは な いが,オ ー ス トリアで,2000年2月 に極 右 的 性 格 の 強 い ドi由党 が 政 権 に 参 加 し,右 翼 ・保 守 連 立政 権 が 発 足 した 際,加 盟14力 国が オ ー ス トリア に対 し 2国 間関係 で外 交 上の接 触 を断つ とい う制裁 措 置 を発 動 した。 極 右 政 党 で あ る 自由党 の躍 進 は,政 局 を担 当 して きた社 会民 主党 と国民 党 の 二大 政 党 に よる腐 敗 が そ の 要 因 に挙 げ られ て お り,ナ チ ズ ムへ の 回帰 で は な い と され る。 しか し,ハ イ ダー党 首 は,過 去 に チ ャー チ ル は20世 紀 最 大の 犯 罪 者 の1人 で あ る とか第 三帝 国の 雇 用政 策 は き ちん と して い た と賞 讃 す る な どナ チ ス に好 意 的 な

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コ メ ン トを して い だ15}とい わ れ る 。 こ れ に 対 して フ ラ ン ス とベ ル ギ ー が 素 早 く 反 応 し,外 交 接 触 を 断 つ 制 裁 の 措 置 を取 り,14ヵ 国 が 足 並 み を 揃 え る 結 果 と な っ た 。

これ まで ヨ ー ロ ッパ の 統 合 は 何 回 か 危 機 あ る い は 困 難 に 直 面 して き た 。 最 大 の 危 機 は,欧 州 経 済 共 同 体(EEC)時 代 の1965年7月,フ ラ ン ス の ド ゴ ー ル 大 統 領 が 関 税 同 盟 の 促 進 や 閣 僚 理 事 会 の 特 定 多 数 決 制 の 大 幅 な採 用 な ど を求 め る 欧 州 委 員 会 の ハ ル シ ュ タ イ ン ・プ ラ ンに 反 対 し,6ヶ 月 以Lに わ た っ て 欧 州 司 法 裁 判 所 を 除 く共 同 体 の 諸 機 関 か ら フ ラ ン ス の 代 表 を 総 引 き揚 げ させ た 時 で あ る 。 こ の 時 は,19fi6年1月,ル ク セ ン ブ ル ク の 閣 僚 理 事 会 で,加 盟 国 に と っ て 死 活 的 な 国 益 に 関 す る 問 題 に つ い て は 全 会 ・致 制 とす る こ と で 妥協 が 成 立 し,統 合 の 危 機 は 解 決 した 。93年11月 に 発 足 した 欧 州 連 合 に つ い て は,デ

ンマ ー クが92年6月 の 国 民 投 票 で マ ー ス トリ ヒ ト条 約 を 否 決 した 際 に シ ョ ッ クが 域 内 に 広 が っ た が,今 回 の オ ー ス トリ ア に 誕 生 した 極 右 ・保 守 の 連 立政 権 もア ム ス テ ル ダ ム の 首 脳 会 議 で 掲 げ た 人権 や 基 本 的 自由 に 関 して 一つ の 危 機 と 受 け 止 め られ た 。 ア ム ス テ ル ダム 条 約 で は 人 権 や 基 本 的 権 利 に 対 し,重 大 で 断 続 的 な違 反 を した 場 合 に 制 裁 で き る こ と に な っ て い るが,今 回 の オ ー ス トリ ア

の 件 を 契 機 に も っ と強 い 措 置 を求 め る 声 が 高 ま る こ と も予 想 され る 。

人 権,民 主 主 義,法 の 支 配 の 問 題 は,現 加 盟 国 が 共 有 す べ き価 値 観 に と ど ま らず,新 規 加 盟 の 際 に は これ らの 条 件 を 満 た す こ とが 求 め られ る 。 こ の 点 に つ い て,欧 州 共 同 体(EC)は 中 ・東 欧 諸 国 の 新 規 加 盟 を 予 測 し て,1993年6月 の コペ ンハ ー ゲ ンの 首 脳 会 議iで,新 規 加 盟 の 条 件 の1つ に,q)一 民 主 主 義,(2>

一 法 の 支 配 ,(3>一 人 権 と少 数 民 族 の 保 護 を挙 げ た。 ま た,欧 州 連 合 は,97年6 月 の ア ム ス テ ル ダ ム の 首 脳 会 議 の 合 意 を 受 け て,翌 月 の7月 に 欧 州 委 員 会 が,

「ア ジ ェ ン ダ2000」 と題 す る 報 告 書 を発 表 し,中 ・東 欧 諸 国 につ い て は,チ ェ コ,ポ ー ラ ン ド,ハ ン ガ リ ー,ス ロ ベ ニ ア,エ ス トニ ア の 加 盟 資 格 に 関 し て 中 間 発 表 を し た 。 こ の 中 間 発 表 は,加 盟 の 条 件 に ヒ記 以 外 に,市 場 経 済 が 機 能 し,現 在 の 欧 州 連 合 の 産 業 に 対 抗 で き る 競 争 力 が あ る か,ま た 欧 州 連 合 の 政 治,経 済,通 貨 統 合 を 支 持 し,加 盟 国 と して の 義 務 が 果 た せ る か を条 件 に して

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ヨ ー ロ ッパ 市民 権 を 考 え る97

い る が,中 間 発 表で は5ヵ 国 との 加 盟 交 渉 の 開始 を勧 告

,ま た96年6月 の 首 脳 会議 で 決 まっ た キ プ ロス との加 盟 交 渉の 開始 を改 め て 支持 して い る。

お わ り に

ヨー ロ ッパ に 市 民 権 が 誕 生 した 。 市民 権 は 欧 州 連 合 加 盟15ヵ 国 の 国 籍 保 持 者 に 限 られ て い る が,21世 紀 の 初 頭 に 加 盟 国 が20数 ヶ 国 に な る こ と を 予想 す

る と,世 界 の 新 秩 序 の 観 点 か ら も そ の 行 方 は 大 い に注 目 し た い

、,

ヨー ロ ッパ で は,第 闇二次 大 戦 後,統 合 の 進 展 に伴 い 市 民 に とっ て は域 内 の 自 由 な 移 動 と居 住 の 権 利,域 内 の 居 住 地 で の 地 方 参 政 権,欧 州 議 会 の 選 挙 権,被 選 挙 権 が 認 め られ た 。 自 由 と民 主 主 義 ,人 権 な どの 基 本 的 権 利 も追 加 して 認 め

られ,人 権,民 族,宗 教 な ど に よ る 差 別 が 禁 止 さ れ た

。 こ の よ う な 市 民 権 はs 国 籍 を 超 え た 広 域 の 市 民 権 と して 革 新 的 な 出 来 事 で あ り,差 別 を 禁 じた こ と は 市 民 共 同 体 と して の 規 範 と して 評 価 で き る。

こ う して 統 合 に よ る ヨー ロ ッパ 市民 権 は,枠 組 と して 形 を 整 え て きた が,市 民 が 自発 的 で,ア イ デ ンテ ィ テ ィ を持 つ ヨー ロ ッパ 市民 権 の 実 体 を 形 成 す る の は こ れ か ら の 課 題 で も あ ろ う。 確 か に マ ー ス トリ ヒ ト条 約 の 批 准 を め ぐ る 国 民 投 票 で は,デ ンマ ー ク 市民 は1回 目の 投 票 で 否 決 し,フ ラ ン ス 市民 は僅 差 で 承 認 し,統 合 の 進 展 に 対 して 直接,意 思 を表 明 した 。 また 欧 州 議 会 議 員 の 選 挙 で は 投 票,ま た は 立 候 補 とい う 形 で 市 民 の 意 向 は 反 映 さ れ て い る。 だ が,市 民 は ヨー ロ ッパ 人 と して の ア イ デ ンテ ィテ ィ を ど れ ほ ど持 っ て い る の か

,ま た, ヨ ー ロ ッパ 市 民 を ど の よ う に 育 ん で い る の か を 問 い た い

。 共 同 体 と し て の 国 (ナ シ オ ン)に は 複 数 の 意 味 が あ り,フ ラ ン ス で は 政 治 的 に 定 義 さ れ,そ れ は,憲 法 に 則 っ て 象 徴 と さ れ る 国 民 的 コ ン セ ンサ ス の 基 盤 で あ る社 会 契 約 に基 づ く もの と さ れ ,ド イ ツ で の 定 義 は 文 化 的 で,ア ン グ ロ サ ク ソ ン諸 国 は 領tを 国 の 基 礎 と し て お り,ヨ ー ロ ッパ 人 の 定 義 は 国 に よ っ て ば らつ き が あ る(]61

。 ヨー ロ ッパ 人 の 定 義 が 一様 で な け れ ば,多 様 性 に 富 む ヨ ー ロ ッパ 人 と は 何 か 。

ヨ ー ロ ッパ の 統 合 は,欧 州 連 合 の ユ ー ロ導 入 に 至 っ た 経 済 統 合 に 次 い で ,共 通 の 外 交 ・安 全 保 障 政 策 に み られ る 政 治 統 合 が 進 展 して い る が,人 の 移 動 の 自

(18)

由 に よ っ て,社 会 的,文 化 的 ヨー ロ ッパ も浮 上 して きた 。 言 語,伝 統 慣 習 な どの 多 様 性 に 加 え て,ヨ ー ロ ッパ 文 明 の 一 体 性 も同 時 に 視 野 に 入 っ て くる こ と に な る 。 統 合 が 深 化 し拡 大 す る に つ れ,共 同 体 は 一層 多 民 族 が 共 生 す る 市民 社 会 と な る こ と を期 待 し た い し,日 常 生 活 で の 文化 的 接 触 は 重 要 な要 素 と な っ て

くる で あ ろ う。

ま た,ヨ ー ロ ッパ 市民 権 は 一一面 で は ヨ.̲.,.,.ロッパ 人 を優 先 す る政 治,経 済,社 会 の デ バ イ ド(格 差)を 招 来 す る で あ ろ う。 例 え ば,外 国 人 労 働 者 の 場 合,戦 後 は 国 の 復 興 の た め 進 ん で 外 国 人 労 働 者 を 迎 え 入 れ た り,地 方選 挙 の 参 政 権 を 付 与 した 国 も あ る が,広 域 の 共 同 体 構 成 国 の 市 民 に 移 動,居 住,労 働 な ど の 幅 広 い 権 利 が 認 め ら れ た結 果,域 外 か らの 労 働 者 は 不 利 な 、trに 立 た され る こ と に な ろ う。

反 面,統 合 ヨ ー ロ ッパ に 市民 が 直接 参 加 す る 民 主 主 義 運 動 の 輪 が 広 が れ ば, 多 民 族 共 生 の 社 会 は 確 実 な もの に な っ て い く こ とが 考 え られ る 。 欧 州 連 合 と い

う共 同 体 は,構 成 国 の 市 民 に,一 国 家 枠 を 超 え た 様 々 な 権 利 を 与 え た 。 移 動 居 住,労 働 の 自 由 に加 え,自 由,民 主 主義,人 権 を 共 通 の 市 民 権 と して 設 定 し

た 。 こ の 民 主 主 義,人 権 とい っ た 基 本 的 権 利 は 多 民 族 共 生 の 規 範 に な る わ け で,東 方 へ 拡 大 して い く欧 州 連 合 は,今 後 と も 地 域 の そ し て 世 界 の 新 し い コ

ミュ ニ テ ィの 在 り方 を 提 示 して い くこ とに な ろ う。

(1)EditedbyAndrewDuff,JohnPinderandRoyPryce,"MAASTRICHTandi YOND",Routeledge,London,1996,p.106.

(2}TimothyBainbridgewithAnthonyTeasdale,"EUROPEANUNION",PENGUIN Books,1997,p.364.

{3)AndrewDuffandothers,op.cit.p.106.

(4/"ENCYCLOPEDIAoftheEUROPEANUNION",RiennerPublishers,2000,P・131

‑134 .

(5)AndrewDuffandothers,op.cit.p.108.

(s)"ENCYCLOPEDIAoftheEUROPEANUNION",op.cat.p.424.

(7)清 水 嘉 治,『 新EU論 〔ヨ ー ロ ッ パ の 萩 構 図 〕』,新 評 論,1993,124頁

(19)

iヨー ロ ッ パ 市 民 権 を 考 え る 99

(8)拙 稿 「ヨ ー ロ ッ パ1995年 一EU通 貨 統 合 の 調 査 ・研 究 報 告 一 」,商 経 論 叢 第32

巻 第2号q996.9),神 奈 川 大 学 経 済 学 会,47頁

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(12) (13}

(14)

(15) (]Fi)

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清 水'嘉 治,op,cit.131頁

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ll小 こ糸釜盲斉 新 寸茸11998{f三2タ1611(,

拙 稿 「フ ラ ン ス1997̀rジ ョ ス パ ン 政 権 発 足 の こ の1年 一一1 ,商 経 論 叢 第34巻

第1号(1995.9),103頁

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6安 江 規 ム ヨ ー ロ ッ パ 市 民 権 の 誕 生,丸 善 ラ イ ブ ラ リ ー,・1ξ 成4年C、

参照

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