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雑誌名 同志社政策科学研究

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(1)

著者 平井 弓子

雑誌名 同志社政策科学研究

巻 5

ページ 49‑66

発行年 2004‑02‑10

権利 同志社大学大学院総合政策科学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004771

(2)

あらまし

 本論文は、PFI(Private Finance Initiative)の抱え る多くの問題点の改善処置を、リアル・オプショ ンという投資の意思決定の手法を適用すること によって見出し、PFIの事業手法としての技術の 向上、確立を目的としている。

 まず、日本における PFI の現状を概観し、代表 的な問題点を抽出している。

 次に、リアル・オプションの概要を説明してい る。リアル・オプションは、事業に内包する不確 実性に対する意思決定者(経営)に与えられてい る選択権(戦略の自由度)をオプション価値評価 するものであり、各オプションは数個のパラ メーターの影響を受け、事業価値が変動する。

 これを更に展開させ、PFI とリアル・オプショ ンの共通概念を整理した上で、PFIについて事業 分野別にリアル・オプションの適性を比較検討 している。

 事例研究では、調布市立調和小学校整備並び に運用及び維持管理事業と近江八幡市民病院整 備運営事業を事例として選出し検証を行ってい る。施設の運営・維持管理において、成長オプ ションや柔軟性オプションを適用する可能性や 病院のITシステム等の付加価値において、段 階的オプション、タイミングオプションを適用 することの効果を検証の結果としている。

 まとめとして、リアル・オプションの適用が、

PFIの課題の改善にどのように寄与するか論述し ている。多段階選抜の過程、VFM算定及びリス ク分担、契約、ファイナンス組成、モニタリング システムなどとの関連でその有効性をまとめ、

反面、施設整備の付加価値の問題やPFIにおける 事業性と公共性のバランスなどの問題点も指摘

し、最後に今後の課題にも触れている。

1.はじめに

 1999年にPFI推進法(民間資金等の活用による 公共施設等の整備等の促進に関する法律)が成 立して以来、4年余りが経過しようとしている。

PFI(Private Finance Initiative)は、民間の資金、経 営能力、創意工夫等を活用して公共施設の建設・

維持管理・運営等を行う社会資本整備や公共 サービスを提供する一つの手法である。

 PFI は、「官」と「民」が両者のメリットを活か した協働体制を前提とし、長引く景気低迷から 構造改革が不可欠となってきている日本にとっ て、新しい行財政のあり方への糸口としての大 きな期待を背負っているとも言える。

 日本においては、地方自治体の事業が先行し ていたが、2001 年度になって文部科学省の国立 大学施設のPFI導入可能性調査から始まり、議員 宿舎、合同庁舎等中央省庁関係のPFI導入の検討 も相次ぎ、実施方針を公表した事業は、現在 100 件を超えると言われている。

 しかしながら、その理想を背負い順風満帆に 事業が進んでいるかというと、そうとは言い切 れない現実が存在する。事業内容も施設整備事 業を中心として、単に性能発注と民間資金を適 用しているだけと思わされる事例が散見され、

民間企業にとっては、過大なリスク負担がある など事業メリットが見出せず難航している側面 もある。施設整備主導による公共投資が、今日の 公共財政の危機を生み出したことを振り返ると、

その轍を踏まないためにも、サービス供用段階 に入りつつあるこの時期に、今一度PFIを見直す

PFIとリアル・オプション

平 井  弓 子

  

(3)

 1  NPM(New Public Management)とは 1980 年代半ば以降、行政実務の現場主導で形成されたマネジメント論であり、民間企業の経営 の考え方・手法を公共部門に導入することにより、公共部門の効率化・活性化を図ることを目的としている。NPM の基本的な考 え方は、①業績/成果による統制、②市場メカニズムによる統制、③顧客主義への転換、④ヒエラルキーの簡素化の4点に整理 できる。

 2〔関西経済連合会/日本 PFI 協会 02〕

 3  公募により提案書を作成し、予め示された評価基準に従って最優秀提案書を特定した後、その提案書の提案者との間で契約を締 結する方式。

 4  入札における落札者の決定において、価格その他の要素を総合的に判断して最も有利な申込みをした者を落札者とする方式。

 5  BTO(Build, Transfer and Operate):民間事業者が施設を建設し(Build)、施設完成直後に公共に所有権を移転し(Transfer)、民間事業 者が維持管理及び運営を行う(Operate)事業方式。

必要があると考えられる。

 よって、この論文では PFI の問題点を抽出し、

その改善の処置方法をリアル・オプションとい う実資産の投資に関して行う不確実性下におけ る合理的な意思決定の手法を適用することに よって見出すことを目的とし、PFIの事業手法と しての確立を目指すものである。

2.PFI の現状と課題 2.1 PFI の現状

 日本版PFIの導入には、地方制度の改革、規制緩 和の徹底、補助金・交付金制度の改革など、様々な 基盤整備が必要である。本来 PFI は、NPM(New Public Management)1の流れを汲み、行政改革、地 方分権、規制緩和の三本柱の具現化したものであ る。しかしながら、日本では、統一した概念を打ち 出せないまま、個々のプロジェクトが走り出して いるため、行政改革、地方分権、規制緩和が後ろ手 にまわっている感を免れない。そのため実施面に おいても、制度面においても課題が山積みである。

 この節においては、PFIの現状について、PFI協 会の発表による資料2をもとに整理してみる。

(1)サービス供用開始事業の代表例

①東京都水道局金町浄水場常用発電PFIモデル 事業(2000 年 10 月運営開始)

②上越市市民プラザ整備事業(2001年3月運営 開始)

③兵庫県神戸市摩耶ロッジ「オテル・ド・摩耶」

整備等事業(2001 年7月運営開始)

④兵庫県マリンピア神戸フィッシャリーナ施 設整備事業(2001 年 10 月運営開始)

⑤福岡市臨海工場余熱利用施設整備事業「タ ラソ福岡」(2002 年4月運営開始)

⑥東京都調布市立調和小学校整備・運営・維持 管理事業(2002 年9月運営開始)

⑦千葉市消費者生活センター・計量検査所複 合施設整備事業(2002 年9月運営開始)

(2)PFI 検討事業分野別・地域別割合(報道案件 ベース)

①分野別

 教育文化施設 27%、庁舎 12%、社会福祉施 設 10%、医療3%

 これらを見ると、教育・福祉関係の事業が多 く取り上げられているのがわかる。社会イン フラ事業が対象となっているケースは殆ど見 られない。また老朽化に伴い庁舎の建替えは 必要性が高く、検討はされているものの、市町 村合併の問題もあり、実施方針迄至っていな いケースが多い。

 その他は、廃棄物処理施設7%、上下水道 2%などである。

②地域別

国 10%、関東 33%、関西 14%。都市圏に集 中している。

③都道府県別

関東圏 ... 東京 14%、神奈川8%、千 葉6%、埼玉5%

関西圏 ... 大阪7%、兵庫4%

 関東圏・関西圏を比較すると幾分「東高西 低」となっており、関西圏における経済の低迷 の影響もあると考えられる。

(3)PFI 事業者の募集・選定方式及び事業方式

①民間事業者の募集・選定方式割合 公募型プロポーザル方式3  54%

総合評価一般競争入札方式4 34%(大学 等)

② PFI 事業方式の比較 BTO 方式5 50%

(4)

 6  BOT(Build, Operate and Transfer ):民間事業者が施設を建設し(Build)、維持管理及び運営し(Operate)、事業終了後に公共に施設所 有権を移転する(Transfer)事業方式。

 7  BOO(Build, Operate and Own ):民間事業者が施設を建設し(Build)、維持管理及び運営をするが(Operate)、公共への所有権移転は行 わない(Own)事業方式。

 8  PFIにおける事業形態の一つで、民間事業者が公共の要求水準に合うサービスを提供し、公共がサービスの提供に対して対価を支 払うタイプ。

 9  PFI における事業形態の一つで、公共は出資はするが、経営には関与しない事業。補助金・政府融資・施設移転など公的支援を受 けながら民間が運営する事業等が挙げられる。公共の負担は民間収入では賄えない社会便益の部分を主に担うことになる。

10  PFI における事業形態の一つで、民間事業者が施設の設計、建設、運営を行い、最終利用者からの料金収入によってその費用を 回収するタイプ。公共の関与は事業計画の策定や許認可などに限られる。

11  PSC(Public Sector Comparator):公共サイドのコストモデル。PFI 提案の可否の材料判断となる。PSC は、従来の手法により調達し た場合に、契約期間全体を通じて公共に発生するすべてのコストを積算したもので、提案されたPFI事業が従来型の公共事業方式 に比べ、より良い VFM が得られるか否かの評価を行う際に使用される。PSC 算定にあたっての原則として、①現在価値で比較す る。②現在価値への割引時点は、PFI 入札で想定されている時期と同時点とする。③共通の割引率・インフレ率を用いる。の3点 がある。

12  LCC(Life Cycle Cost):建物生涯費用。建物の企画・設計から建設、修繕、解体・撤去までの建物の生涯にかかる総費用。

その他(BOT6、BOO7etc) 50%

③ PFI 事業タイプの比較 サービス購入型8 59%

ジョイントベンチャー型9 27%

独立採算型10 14%

 図書館の場合、食堂が独立採算型のため、

ジョイントベンチャーに分類されている。そ れを含めるとサービス購入型で約 7 割を占め る。

(4)PFI 事業イニシャルコスト事業契約(年度別)

H12 年 148 億円 H13 年 115 億円 H14 年 2,027 億円

H15 年 3,000 億円(予想)増額を見込んで いる要因:合同庁舎、大学。

2.2 PFI の課題

 本節では、まず、PFI 事業の課題を実施面、制 度面の両面から抽出する作業を行った。先行研

意見・立場 主な課題・論点

行政 民間 双方

実施方針のパターン化、当該事業の事業内容、リスク内容の把握 の不十分さ

実施方針の段階的な改定手続の必要性 

事業の公募から事業者選定までの十分なディスクローズ期間の 必要性

当初事業スケジュールの遵守

公共側事由で公募スケジュールや重大な項目が変更になる場合、

適切な提案期間の必要性

多段階選定の導入

公募型プロポーザル方式の適用の検討

(含アドバイザーの選定方式)

契約交渉を導入し得る手法、条件、留意点等の検討、提示 

PSC11、PFI事業のLCC12の簡易な算定方法の検討 PFI事業のLCC算定に関する参考指標の提示

PSC算定についての統一的な方針の必要性

リスクの定量化についてのモデル指標の提示

VFM評価における算定根拠の公表

金融機関との直接契約の検討とノウハウの蓄積

契約書に定めるべきリスク分担についての不可抗力における 統一した定義づけ

民間への過度のリスク移転の防止

過度のリスク移転となりうる具体的な例示等の収集

長期プロジェクト・ファイナンス組成のリスク

サービス購入費の減額に繋がるモニタリングシステムの明確化

図表1 PFI における主な課題

(5)

13 〔野田 01a〕〔野田 01b〕〔永井 02〕

14 〔関東通産商業局 00〕〔土木計画学研究会 00〕(社)関西経済連合会 / 国土復興対策委員会 00〕〔新エネルギー・リサイクル等 PFI 推進協議会 02〕〔日本経済連合会 02〕〔関西経済連合会 / 経済産業省 02〕〔関西経済連合会 / 日本 PFI 協会 02〕

15  日本経済新聞、日経産業新聞、建設通信新聞等より。

16  日本におけるリアル・オプションの先行研究には、情報化投資に関する〔加藤 02〕や不動産開発における〔山口 00〕〔川口 01〕

〔刈屋 03〕等がある。

17  DCF(Discounted Cash Flow):将来発生するキャッシュ・フローを現在時点で評価する場合、その期間中の金利を考慮するもので、

一定の割引率(Discount Rate)によって現在価値に引き戻すもの。NPV 法とも言う。

究論文13、各種研究会・団体のセミナー、提言資 料14及び報道記事15等より、①実施プロセス、② VFMの評価、③リスク分担、契約締結、④業務 範囲、⑤支援措置、⑥資金調達、⑦事業の実施の 各段階において、民間側の意見であるか、行政側 の意見であるか、または双方に関わる意見であ るかを判断しながら抽出を行うと 66 点の課題が 抽出された。その中から事業の特徴を見極め、本 稿のリアル・オプション適用を前提とし、主な課 題を抽出すると図表1の通りになる。

 PFIでは、公共サービスを提供するということ において、VFM(Value for Money)すなわち、一定 の支払いに対して提供されるサービスの価値を 最大にするというコンセプトが基本となってい る。事業を選定してサービスを供給するという 長期の間に、公共と民間は、VFM を機軸にリス クを含めて膨大な量の役割を分担し、契約規定 を行なわなければならない。何を指標にして役 割分担をし、またそれを契約としてどのように 明示していくのか、大きな課題がそこに集約さ れている。これは、プロジェクト・ファイナンス によって資金調達を行なう民間にとっても、

サービスの提供を監視し、サービス購入費を支 払う公共にとっても重要な課題であり、早急か つ具体的な課題への対応が必要となってくるの である。

3.PFI へのリアル・オプションの適用

 本論文においては、プロジェクトライフの長 い PFI 事業において、リアル・オプションを適用 することによって、リスクプレミアムをより小 さくしたり、事業価値を高めたりすることがで きないか検証し、提案することを目的としてい る。この章ではリアル・オプションを PFI に適用 するための基本的な考え方を整理する。

3.1 リアル・オプションの概要

 リアル・オプション16は、金融オプションでの 株式を実資産に置き換えたものであり、実資産 の投資に関して、不確実性下での合理的な意志 決定を行うことのできる代表的手法の一つであ る。リアル・オプションとは、企業における事業 に内包する不確実性に関して、意思決定者(経 営)に与えられている選択権のことを言う。「オ プション(Options)」はもともと「選択肢、選択権」

を意味し、「リアル(Real)」という形容詞は、「本 当の、実際の、実物的な」を意味している。よっ て、ここでいう実資産としては、土地・建物の不 動産、生産設備、製品、更には研究・開発等も含 まれることとする。

 実資産に関する投資にも不確実性は、多く存 在する。その不確実性は金融資産よりも多くか つ複雑であるかもしれない。土地、製品等も市場 で取引され、金融資産と同様に様々な要因で変 動する。リアル・オプションにおいては、事業(プ ロジェクト)の意志決定者に与えられている 様々な選択権、例えば事業を①直ちに実施する。

②しばらく待つ。③実施しない。などの選択権の 価値を金融オプション評価法を用いて評価し、

事業の価値を詳細に分析することを目的として いる。従って、リアル・オプションは、「事業に 大きなコストがかかり、一旦スタートするとそ のコストは直ちに回収不能なサンクコスト(埋 没費用)として事業者に重くのしかかり、又、投 資コストの回収に時間を要し、事業が失敗する と大きな損失として実現するような不確実性の 高い事業の評価に適している。」と言える。

 事業における投資の意思決定には、NPV法(現 在価値法、Net Present Value Method、DCF 法17) が広く用いられているが、リアル・オプション は、NPV 法の持つ恣意性の存在や投資の可逆性 などの問題を補完し、①投資の不可逆性、②投資 の先送り、③不確実性のオプション価値化を前 提とする。

(6)

18  資産価格の変動率。通常株式オプションなどの分析では、株式の収益率に関する標準偏差が用いられる。

19  金融プションの世界は「無裁定価格理論」と「完備市場」の成立が前提となっている。リアル・オプションにおいては、必ずし もこの前提条件が満たされるわけではないが、本稿ではリアル・オプションの直観的な理解を目指し、数字による詳細な検証に まで及ばない為、理論としては金融オプションの前提をもとに論考を進める。従って金利については、リアル・オプションも PFI もリスクフリー・レート(安全資産利子率)を前提とする。

20  競合他社による影響もパラメーターとして考慮する場合がある。

 代表的なオプションは図表2の通りである。

リアル・オプションの価値は、金融オプションと 同様、原資産の市場価値、行使価格、行使期間、

ボラティリティ18、リスクフリー・レート19とい う5つのパラメーター20の影響を受ける。リアル・

オプションには、情報の入手状況に応じて意志 決定ができる自由度があり、①事業の不確実性 が高く、新たな情報が入ってくる可能性が高い。

②戦略の自由度が高く、新たな情報が入ってき た場合に適切に経営の方向を変えることができ る。などの条件があるとオプション価値評価の 結果が高くなる。

3.2 PFIとリアル・オプションの共通概念

 本節では、PFI とリアル・オプションの共通概 念を整理する。

3.2.1 事業期間・事業規模

 PFIによる事業は、現実面においてファイナン ス組成のブレーキがかかっているとはいうもの の、その事業期間は、15 〜 30 年とわたり、事業 規模も大きい。PFI 事業による財政支出は、民間 への公共サービス提供開始後、契約期間全体に わたって民間事業者へサービスの対価として支 払うことになるため、財政負担の平準化を期待 することができる。また、事業規模は、PFI 特有 の手続等に費用がかかり、それを上回る経費の 削減が必要となるため、事業には一定の規模が 必要となる。適度なリスク分担、資金調達という 観点からも事業規模はある程度を満たさなけれ ばならない。事業規模がある一定以上で、事業期 間が超長期にわたるとなると、そこには、必ず埋 没的な費用が発生し、様々な不確実性が存在す ることになる。すなわち、公共サービスを提供す るという事業への投資のタイミングは非常に重

オプションの種類 オプションの内容

タイミングオプション Timing Options

投資を現在行うか、延期するかどうかのオプション。投資 待ちオプション(Waiting - to - Invest Options )とも言う。

事例:油田開発、不動産開発 成長オプション

Growth Options

次期の投資を考慮して、初期投資そのものによるリターン を上回る価値(次期投資分)を創出するオプション。

事例:生産の追加的投資 柔軟性オプション

Flexibility Options

社会経済情勢の変化を考慮して、複数パターンの投資を柔 軟に選択できることによるオプション。

事例:オペレーションの切り替え 撤退オプション

Exit Options

投資を実施したが、市場や社会経済情勢から不利な状況に なる可能性が予想された場合に、プロジェクトから撤退す るかどうかのオプション。

事例:炭鉱を閉鎖する権利 学習オプション

Learning Options

投資の初期段階で市場調査または投資の一部を実施(学習)

し、本投資のための戦略を構築するオプション。

事例:新製品開発、新薬の開発 段階的オプション

Staging Options

投資を一度に実施するのではなく、数段階に分けて投資を 行い、各段階での投資結果により継続するかどうかを判断 するオプション。

事例:石油探査

〔Martha Amram /Nalin Kulatilaka 01 〕に加筆 図表2 代表的なオプションの種類

(7)

要なものとなってくる。例えば、1年投資を先送 りすることによって、事業価値つまり公共サー ビスの価値は倍増するかもしれない。

 従って、前節で述べたリアル・オプションの代 表的な前提条件である①投資の不可逆性と②投 資の先送りを満たしていると言えることから、

PFI事業にリアル・オプション評価を適用するこ とは有効ではないかと考えることができる。

3.2.2 プロジェクト・ファイナンスによ る資金調達

 P F I において、民間事業者は特別目的会社

(SPC:Special Purpose Company)と呼ばれる PFI 事業の運営会社を設立し、プロジェクト・ファイ ナンスで資金調達されることが多い。プロジェ クト・ファイナンスは、当該事業から生み出され る収益を返済原資とし、担保は当該事業に係る 資産や権利に限定され、SPC の出資者への遡及 はされないため、融資返済は、企業の信用ではな く、事業性に依存することになる。例えば、将来 のリスク負担が確定されておらずPFI事業者の不 確定要因が多いと金融機関は、融資に二の足を 踏むか、又は不確定要因を金利に織り込んで高 い金利設定をすることが考えられる。最悪は金 融機関とのプロジェクト・ファイナンスの組成 が不成立になる可能性も出てくる。

 従って、プロジェクト・ファイナンスという資 金調達の上でも、事業そのものの価値評価は重 要な基準となる。事業の価値を担保とすること は、リアル・オプションとの共通概念であり、こ の場合にも事業のオプション価値を評価するこ とによって事業全体の価値が変動するとすれば、

リアル・オプションを適用することは有効であ ると考えられる。

3.2.3 不確実性(リスク)考慮の必要性

 PFI法において、対象とする公共施設は図表3 の通りである。

 PFI は、公共事業、公共サービスの提供に係る 財政負担の軽減を目的の一つに掲げており、従 来型手法に比較し、財政負担を減らすことがで きれば、対象となるため、その適用範囲は広い。

 これらの公共サービスをひと括りで判断する ことは可能ではないが、公共サービスを提供す ることの中には様々な不確実性が存在すること がわかる。公共サービスの提供は、その計画から 建設も含めて非常にその事業のライフサイクル が長い。そのため、①社会経済情勢の変化による 社会的需要の変化、②国民の価値観・ライフスタ イルの変化による需要の変化、③技術進歩等に よる施設やサービスの陳腐化等の不確実性が存 在し、これらは原因となる要素が変化すること によって、事業が提供する公共サービスの必要 性も大きく変化することになるのである。もち ろんこれまでもこれらのリスクに対して何らか の対応がなされてきたわけであるが、その内容 は、NPV 法においてより大きな数値を採用する など、経験的に決定される要素が大きかった。そ の理由としては、まず、不確実性の評価が技術的 に困難で未成熟であることが考えられる。そし て、公共という立場を考えると、事業の意思決定 時にリスク回避的態度をとる傾向が高く、また リスクが顕在化してもそれをフォローできる体 力的な仕組が存在したことがあるのではないか と考えられる。この理由は第三セクターの問題 にも当てはまるところである。

 では、これらの公共サービスにおける不確実 性を考慮しなかった場合、どのようなことにな るであろうか。不確実性を考慮しない確実な方

区  分 対  象  施  設  等

公共施設 道路、鉄道、港湾、空港、河川、公園、水道、下水道

公用施設 庁舎、宿舎等

公益的施設 公営住宅、教育文化施設、廃棄物処理施設、医療施設、社会福祉施 設、更生保護施設、駐車場、地下街等

その他の施設 情報通信施設、熱供給施設、新エネルギー施設、リサイクル施設、

観光施設、研究施設

図表3 PFI の対象となる施設

(8)

法をとった場合、不確実性を考慮した場合に得 ることができたであろうより大きな社会的便益 を逃すということになる。これはいわゆる機会 費用の発生である。また、逆にリスクを認知せ ず、リスクの大きな投資を行った場合は、大きな 損失を被る可能性が高くなる。つまり、不確実性 を認識することによって可能となる合理的な採 択の意思決定が妨げられ、結果的に公共サービ スを享受する納税者の損失となっているのである。

 以上のことから考えると、公共サービスの提 供という事業の実施においては、「不確実性を考 慮して適度にリスクをとりながら、そのサービ スによる便益を最大化することが望ましい。」と 結論づけることができる。不確実性を考慮し、意 思決定の戦略に自由度を持たせるということは、

まさしくリアル・オプションの手法であり、リス クを官民で適度に分担することによりVFMを達 成し、効率的に公共サービスを提供するというPFI はこの意味では、既にリアル・オプションの考え 方を適用していると言うことができるのである。

3.2.4 意思決定における戦略の自由度

 前項を引継いだ形になるが、意思決定におけ

る戦略の自由度という意味においても、リアル・

オプションとPFIは共通の概念を持つ。PFIでは、

民間の資金のみならず運営におけるノウハウを 施設の維持及び管理にまで適用することで効果 をもたらすものである。施設の運営・維持管理を 民間に任せるということは、必然的に事業者の 意思決定における戦略の自由度を高めることに なり、それが事業全体の価値を引き上げること になる。但し、これは、民間のみで意思決定をす ることを良しとするものではなく、あるPFI事業 に対して、①投資を行うか行わないか、②投資を 行うとすればいつ行うのか、③投資をどの規模 でどういう段階で行うか、④途中、中断・再開、

変更が可能なのか、⑤撤退又は、その公共サービ スの社会的需要が低下した場合、施設の提供す るサービスを全く別のものに切り替えることが可 能か等の各段階における判断を、行政と民間が契 約等を通じて柔軟にやりとりをすることでリスク プレミアムをより小さくし、事業の効率性を高め ることができはしないかと示唆するものである。

3.3 PFI とリアル・オプションの適性

 これまで見てきたように PFI とリアル・オプ

事 業 の 不 確 実 性

資 金 と 時 間

経 営 オ プ シ ョ ン

投 資 機 会 の 独 占

契 約 型 ビ ジ ネ ス

段 階 的 開 発

業 界 デー

タ 市 場 で の 取 引

①教育文化施設 △ △ △ △ △ △ △ ×

②社会福祉施設 △ △ △ △ △ △ △ ×

③廃棄物処理施設 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

④医療施設 ○ ○ △ ○ ○ △ ○ △

⑤駐車場 ○ ○ ○ ○ ○ △ ○ ○

公 益 的 施 設

⑥公営住宅 △ ○ △ △ ○ △ ○ △

⑥庁舎 △ △ △ △ △ △ △ ×

公 用 施 設

⑦宿舎/公舎 △ △ △ △ △ △ △ ×

公 供 施 設

⑨下水道 ○ ○ △ ○ ○ ○ ○ ×

他 ⑩研究施設 △ △ △ △ △ △ △ ×

図表4 PFI 事業別リアル・オプション適性検討表

(9)

ションには共通する概念やアプローチがあり、

PFI事業にリアル・オプション評価を適用するこ とは有効である可能性が非常に高いと思われる が、この節においては、更に PFI とリアル・オプ ションの特徴を具体的に比較検討してみる。

 現状PFIとして取り上げられている件数の多い ものから10施設を選出し、事業分野別にリアル・

オプションの適性項目について検討してみると 図表4の通りになる。

 PFI としては、民間事業者が、施設技術や事業 運営に専門の技術を持っており、また事業のラ イフサイクル・コストにおける運営・維持管理費 の比率の高いものが、適正が高いと評価できる。

更にリアル・オプションによる①不確実性が高 い②経営戦略の自由度が高い、という条件下で の判断となった場合も、PFIと同様、事業の運営・

維持管理の比率が高い事業が適していると判断 できる。従って、廃棄物処理・下水処理場・駐車 場等が適していると言える。例えば廃棄物処理 事業における不確実性には、ごみ量変動リスク、

ごみ質変動リスク、電力引取りに関するリスク 等がある。

 また、一般的に医療・教育・福祉・文化施設、

庁舎、宿舎/公舎、研究施設等、市場性の低いも のをリアル・オプションで評価することは難し い。この場合、専門業務を民間に任せることによ りファシリティ管理を強化したり、施設の整備 に付加価値のついているものに対しては、需要 変動のリスクをオプション価値として評価し、

契約に織り込んだりすると事業全体の価値、効 率性が高まる可能性がある。

3.4 PFI におけるリアル・オプションの パラメーター

3.4.1 PFI とリアル・オプションのパラ メーターの対比

 リアル・オプションを金融オプション、更に PFIとも対比させてその関係を見ると図表5の通 りになる。

 PFI 事業は、一つのプロジェクトであるから、

リアル・オプションのパラメーターと基本的に は変わりないと考えられるが、プロジェクトか ら提供される価値が公共サービスであり、その 収益の価値をどう測るかについては、実資産の ようにはいかない面がある。実資産プロジェク トの場合、プロジェクトの価値は、その企業の株 式評価額、市場価値を持つ製品やサービス等に よる将来収益の現在価値等で算出される。しか しながら、PFIによって提供される公共サービス には一部を除いて市場が存在しない。その価値 の算出の基準として何を使用し、その便益を測 るかというのは慎重に検討しなければならない 問題である。特に公共サービスは、必ずしもすべ ての要因を金銭化して考えることができない面 があり、その公共サービスの影響が及ぶ地理的 条件、社会経済的条件等によってその効果に大 きな違いが生じることもある。本稿においては、

独立採算性の高いものに対しては、事業の価値 とし、サービス購入型の場合は、公共から PFI 事 業者に支払われるサービス購入費をPFI事業者か ら提供される公共サービスへの対価として捉え て検討を進めることにする。

金融資産

(オプション)

実資産への投資

(リアル・オプション)

PFI

(リアル・オプション)

株  価 事業の現在価値 事業の価値又は、PFIによっ

て提供される公共サービスの収 益( 公共側から支払われるサー ビス購入費) の現在価値

権利行使価格 投下資本額 投下資本額

満  期 意思決定を延期できる期間又

は、その投資が有効である期間

意 思 決 定 を 延 期 で き る 期 間 又 は、その投資が有効である期間 リスクフリー・レート リスクフリー・レート リスクフリー・レート

株価の変動性 事業の現在価値の変動性 PFIによって提供される公共 サービスの価値の変動性

〔山本  01 〕に加筆 図表5 金融オプションとリアル・オプション及び PFI のパラメータ比較表

(10)

3.4.2 PFI のオプション価値を決めるパ ラメーター

 続いて、リアル・オプションを PFI に適用した 場合に、オプション価値の増減に影響を与える パラメーターについてまとめると図表6の通り になる。

 これも基本的にはリアル・オプションのオプ ション価値に影響を与えるパラメーターと変わ りはないが、事業から生み出される価値に公共 性があるため、その公共性がオプションをオプ ション価値として捉える自由度を低下させる可 能性がある。例えば、教育や福祉等は、社会的需 要が減少しても、公共性が高いため、すぐには サービスの提供を変更することが困難な可能性 があり、この場合戦略の自由度を低下させる。ま た当然事業によっては、個別の法規制があり、そ の法規制によりPFI事業者である民間に適度のリ スク移転を許さない(運営の自由を与えない)場 合、民間の戦略の自由度が低下し、結果的にオプ ション価値を減少させることになる。逆に規制

緩和がなされた場合は、オプション価値を増大 させる。

 リアル・オプションをPFIに適用させようとす る場合、公共サービスの性質上、オプション価値 を減少させる要因となるものの存在を考慮する 必要があることに留意する。

4.PFI へのリアル・オプション適用事例

 前章の基本的な考え方をもとに、実際のPFI案 件について、リアル・オプションが適用できそう な項目を検証してみる。検証の作業としては、各 案件のリスク分担表の中から不確実性の高そう な要因を抽出し、実際のリスク分担の確認と契 約済のものに関しては、事業契約の規定を確認 する。そして、その不確実性の要因について、オ プション価値評価によるプラスの価値が見出せ るかどうか検証する。という順序で進めること とする。

影響を与えるパラメーター 影響の内容 増 大 か

減少か 事業の価値又は、PFIによ

って提供される公共サービス の収益(公共側から支払われ るサービス購入費)の現在価 値

事業が提供する内容が公共サービスであろうと事業 の現在価値の増大は、プロジェクト価値(NPV)を  

必要投資コスト 投資額が大きいと、戦略の自由度がないNPVが減

少し、従ってオプション価値も減少する。 ↓

行使期間 行使期間が長いほど、将来明らかになるであろう不

確実なことが多く、オプション価値は増大する。 ↑ リスクフリー・レート リスクフリー・レートの上昇は、投資コストを延期

することによる価値、すなわち時間の価値を増加さ せ、オプション価値の増大をもたらす。

公共性と市場性の比率 PFIにより提供される公共サービスの性質があま りにも公共性の高いものである場合、不確実性が増 大しても、自由度が少ないため、オプション価値を 減少させる。

法的規制等が強い場合、PFI事業者へのリスク移 転が難しく、結果的に事業の自由度が低下し、オプ ション価値も減少する。

↓ 法的規制等

法的規制が緩和される場合、事業の自由度の大幅な 増加が見込まれ、オプション価値が増大する。 ↑ 増加させ、従ってオプション価値の増大をもたらす。

図表6 PFI のオプション価値に影響を与えるパラメーター

(11)

4.1 調布市立調和小学校整備並びに運 用及び維持管理事業

4.1.1 事業の概要

 東京都調布市は、少子化に伴う学校規模の適 正化方策として、1998 年に野川小学校と大町小 学校の両校を統合する「統合新設校基本構想書」

を作成、1999年には実施設計が完了していた。し かし、調布市財政状況の厳しさから、財政負担 の軽減を目的に 2000 年2月に PFI 導入の調査に 入り、2000 年 11 月 30 日に実施方針を公表した。

12 企業グループから応募があり、2001 年2月1 日には参加資格審査結果を通知、2月19日入札、

同月 26 日に三井物産グループが落札者に決定 し、3月 22 日に事業協定締結が行われた。

 事業目的として、「21 世紀にふさわしい、夢の ある学校施設」を目指し、児童の教育効果面は もとより生涯学習施設としての機能面、地域の 拠点としての学校の役割等が十分に発揮できる よう、「特色のある学校づくり」、「地域に開かれ た学校づくり」を行うことを目的として、新校 舎等の整備及び運用・維持管理業務をPFI事業と して実施することとした。

 公立義務教育施設であり、非常時には防災備 蓄倉庫を備えた避難場所としての使用が見込ま れ、また現行の国庫補助制度の対象が、市が支 出した建物の新築または増築に要する経費とな

り、所有権の市への移転が必須となるため、BTO (Build Transfer Operate)方式とした。

 建築期間は、2001年4月〜2002年7月まで、事 業期間は、15 年間。事業終了後、市に譲渡する。

施設建設は、市が実施した設計図書に基づき、調 和小学校の校舎及び体育館棟、付属棟を建設す る。施設の一部である温水プールは、学校教育で 優先使用するが、それ以外の時間帯を個人及び団 体に解放する。事業者は施設の引渡し後、調和小 学校の施設等の維持管理を事業期間中に実施す る。

4.1.2 調和小学校の事例における不確実性

 事業概要でも述べた通り、施設の建設後、民間 の PFI 事業者に任されている項目が、①施設等の 維持管理(清掃業務、建築物保守管理業務、設備 保守管理業務、警備業務)、②温水プールの運営

(受付案内業務、プール監視業務、スケジュール 管理業務及び団体利用の予約管理、利用料金徴収 業務(市の代行)、水質管理業務、衛生管理業務、

利用者への情報提供業務、水泳教室、アクア フィットネス等の市民開放事業運営業務)に限ら れているため、PFI 事業者による維持管理・運営 面における比率が一概に高いとは言えない。しか しながら、施設の維持管理・運営費の上昇や性能 によるリスク分担はそれぞれ民間事業者の負担と なっており、この部分と温水プールの運営につい

出資者保証

富 PFI 契約

士 返済 出資

行 融資 配当

建設請負 プール運営

鹿島・間・林 建設企業体 調布市

三井物産㈱

調和小学校市民サービス 株式会社

㈱ハリマビステム

㈱ハリマビステム 鹿島建設㈱

㈱間組

  図表7 事業スキーム

(12)

てオプション評価を試みる。

 この事業の運営の中における不確実性は、(1)施 設の維持管理における不確実性、及び(2) 温水 プールの運営における不確実性となる。

(1)施設の維持管理における不確実性

 本件の特定事業契約約款のうち施設の維持管 理における契約条項によって、本件施設は、市と PFI事業者が協議によって維持管理仕様書を作成 し、これに従って施設の維持管理業務を遂行す ることになっている(第 44 条)。また、事業者は、

各事業年度の維持管理業務計画書を事業年度開 始前 30 日前までに市に提出して確認を受けなけ ればならない(第45条)。維持管理仕様書は、市と 事業者が合意することで変更が可能である(第44 条 -2)。市は、施設の維持管理が仕様書通りに運 営されていることをモニタリング等を通して確 認し、事業者に対してサービス購入費を支払う。

なお、当該確認の結果、事業者に対するサービス 購入費の支払額が減額されることがある(第 52 条)。

 施設に関する不確実性は、①設備の老朽化に よる性能の低下と②児童の減少による需要の低 下が考えられる。不確実性の判断の前に、その基 準となる維持管理仕様書の見直しを5年置きに 必ず行う等仕様書の更新を義務づけることが必 要である。そして、施設の性能の確認であるモニ タリングは定期的に行わなければならない。そ の上で、①及び②の不確実性について確認を行 う。①については、施設の修繕等の規定が第 46 条に設定されている。②については、その不確実 性の予測がたてられないこともあり、特に契約 の条項に織り込まれてはいない。しかし、仮に児 童が減少した後も必要のなくなった施設やス ペースの管理にだけ費用を費やし、定額のサー ビス購入費を支払い続けることは、税金の損失 に他ならない。この場合柔軟性のオプション評 価を適用し、児童数に比して使用しなくなった 施設の分、学校の施設としての規模を縮小し、空 いたスペースを市民に開放するなどして有効利 用することが可能となれば、施設の維持管理と いう事業の価値は、利用方法の選択肢を増やし、

高まることになる。児童が減少するという前提 の裏には高齢化という問題が潜んでいるとも考 えられるから、高齢者向けのサービスの提供を 考えるとなお有効かもしれない。現実にも学校

の建替 PFI 事業などでは、学校のみならず他の サービスと併せた複合型の事業も考えられてい る。

(2)温水プールの運営における不確実性

 温水プールに関しても、施設同様、本件の特定 事業契約約款のうち施設の維持管理における契 約条項によって、本件施設は、市と PFI 事業者が 協議によって運営仕様書を作成し、これに従っ て温水プールの運営を遂行することになってい る(第 47 条)。また、事業者は、各事業年度の運営 業務計画書を事業年度開始前 30 日前までに市に 提出して確認を受けなければならない(第48条)。

運営仕様書は、市と事業者が合意することで変 更が可能である(第47条-2)。市は、温水プールの 運営が仕様書通りに運営されていることをモニ タリング等を通して確認し、事業者に対して サービス購入費を支払う。なお、当該確認の結 果、事業者に対するサービス購入費の支払額が 減額されることがある(第52条)。温水プールの運 営と施設の維持管理の違う部分は、温水プール は学校教育で使用する以外に、一般開放される ので、事業者は、それについてのサービスプログ ラムを運営仕様書に従って提供する(第49条)。ま た、サービス購入費の支払いにおいても、プール の利用者数に関しては、基本利用者数をもとに 利用実績を確認し変動費を支払うこととなって いる(第 52 条 -2)。

 温水プールの運営は、一般開放も含むので、一 見事業者の経営戦略の自由度が高いと思われる が、運営仕様書の変更は市との協議の上であり、

費用の増加分の負担も市側の負担になるので、

公共側の管理体制のもとにあると考えられる。

温水プールの運営に関しても施設同様、①設備 の老朽化による性能の低下と②児童の減少によ る需要の低下の2つの不確実性が考えられ、そ の上、③一般市民の需要の増減という不確実性 が加わる。①については、施設の修繕等の規定が 第 46 条に設定されている通りである。では、② 児童の減少による需要の低下という不確実性が 発生したらどうなるであろうか。プールの運営 に関しては、既に一般市民へ開放されているの で、この場合は、③一般市民の需要の増減と合せ て考える必要がある。児童は減少したが、プール の利用者全体は増えている場合と、児童が減少 し、プールの利用者全体も減少している場合と

(13)

21  日本経済新聞 2002 年8月 14 日付より。

に分けて考えなければならない。この場合は、前 者については、成長オプションにより施設及び 運営内容を拡大させたり、後者については、柔軟 性オプションによりプールの運営内容を何通り か考えたりすることによって、オプション価値 が加わり、事業全体の価値が増大する可能性が ある。

4.1.3 学校 PFI における不確実性とオプ ションについて

 学校 PFI 事業については、維持管理・運営に民 間事業者が加わる比率が高くないため、不確実 性に伴うオプション価値は相対的には高くない と考えられる。しかし、まず施設の維持管理・運 営に関しては、オプション価値評価を導入する ことにより、ファシリティ面を効率的かつ柔軟 性を持ったものにする可能性がある。また、調和 小学校の例のように温水プールの運営という付 加価値を加えることによって、民間事業者が加 わる余地が拡大され、それにより民間事業者の 経営における意思決定(判断)が加わる余地も拡 大されるため、全体的に事業の柔軟性は高まり、

効率的な運営がなされることが期待できる。し かしながら、学校PFIにおける不確実性が生徒の 増加減少による需要の変化であるため、情報を 入手しても即座に方向性を転換できるかどうか 疑問は残る。但し、少なくとも児童が出生してか ら学校に入る迄の期間を考慮しながら計画的に 見直しを行っていけば、方向性の転換も困難で ないかもしれない。そういう意味においては、学 校PFI全体に言及できることであるが、少子化傾 向が見込まれる現在、学校の統合についても長 期の計画を立て、リアル・オプションアプロー チを行うことにより、学校開業の適切な年度及 び規模を設定する手法を構築できる可能性があ る。今後数量的なリアル・オプション評価も加え ていくと有効であると思われるのである。

4.2 近江八幡市民病院整備運営事業

 続いて、日本においてPFI事業化の可能性の高

いと思われる病院PFIの事例を取り上げることと する。近江八幡市民病院整備運営事業において は、事業契約が現在公表されていないので(2003 年8月現在)、それ以外の実施方針、募集要項、条 件規定書等の資料からデータを収集することに する。

4.2.1 事業の概要

 近江八幡市民病院は、滋賀県東近江地域の中 核病院である。健全経営を続けているが、病院施 設の老朽化、診察業務拡大による院内の狭隘化 が進んでいること、併せて新医療技術の導入や 医療体制の確立を求める市民の要望を満たすた め、改築計画の着手が望まれていた。

 市は、2001年6月、この計画について PFI 方式 の導入を正式に決定した。その理由として、市の 直接事業で、建設、30 年間運営した場合は、建 屋とガス、水道、電気といった基本設備の建設・

運営費等最低限必要な費用だけで、約340億円か かるが、PFI導入で財政負担が8〜11%削減、330 億円で済むという試算を根拠として挙げている。

 2001 年5月に実施方針と基本構想を公表。11 月 30 日に募集要項(公募・総合評価方式)を公 表した。その後募集要項の改訂を経て、2002 年 8月に優先交渉権者を大林グループに決定した。

2003 年6月の市議会での承認後、正式契約し、

2005 年の開院を目指している。今回優先交渉権 者となった大林グループが示した提案価格は、

約661億円であり、当初の市試算の2倍前後に膨 張した。その理由を市は「試算では盛り込まな かった情報技術(IT)関係や医療機器の導入・維 持管理などを追加し、市民の高い医療ニーズに 応えるため」と説明している(市新病院建設整備 課)。21

 BOT(Build Operate Transfer)方式で、市が分担す るのは、病院事業の経営と診療行為。選定事業者 は、病院施設の設計・建設、運営、大型医療機器 の調達・整備、電子カルテを中心とした総合医療 情報システムの開発・整備、物品管理や医療事 務、健診センターの運営やエレベーターの保守 点検、レストラン経営や図書室運営を行う。医療 行為と施設運営の分離を図ったものである。開

(14)

院後 30 年にわたる所有・維持管理並びに運営の 一部業務を遂行した後、選定事業者は市に施設 を無償で譲渡する。

4.2.2 近江八幡市民病院の事例におけ る不確実性

 調和小学校の事例と同様に、施設の運営にお ける維持管理・運営段階のリスク分担より不確 実性の項目を抽出し、近江八幡市民病院からは、

施設の運営である(1)病院運営サポート業務にお ける不確実性と(2)総合医療情報システムにおけ る不確実性を考えてみたい。

(1)病院サポート業務における不確実性

 施設の運営である病院運営サポート業務には サービスの対価を変更させるいくつかの不確実 性がある。①物価変動、②医療保険制度改正、③ 不可抗力、④病院規模変更、⑤法令変更、⑥市場 実勢価格変動、⑦患者数変動、⑧減額、要求水準 未達ペナルティ等が考えられるが、これらのう ち⑧の減額、要求水準未達ペナルティ以外はPFI 事業者側が主となって責任を負うことはないの で、PFI 事業者は、要求水準書の基準を満たすこ とを心掛けていれば、リスクはないかのように 思われる。しかし、要求水準の基準には、⑦患者 数変動による需要の増減と、調和小学校の例と 同様に⑨設備の老朽化による性能の低下の2つ の不確実性が存在し、この不確実性を管理する 必要がある。需要変動リスクも運営コストリス クも市側が主負担し、民間側が従負担すること になっているが、施設のファシリティ管理とい う意味においては、民間側が主に分担を請け負 い、施設のスペースをどのように使用して管理 するのかという点に自由度を持たせ、需要減に より空きスペースが生じた場合は、学校PFIと同 様に柔軟性オプションを持たせることにより有 効活用できれば、施設の総体的な価値は上がる と考えられる。病院施設内ということを考えれ ば、在宅医療や在宅介護を支援する機能の導入 なども考えられる。また、需要増が生じた場合に は速やかに施設の拡大が可能となる資金を確保 しておく等の準備が必要となるのである。

(2)総合医療情報システムにおける不確実性

 近江八幡市民病院PFIにおいては、総合医療シ ステムの整備・運営が加えられており、当該業務 は対象期間を 10 年間としている。優先交渉権者 が確定した際、提案価格が倍増した理由がIT を盛り込んだことを考えると、総合医療システ ムの事業規模はかなり大きな数字が予想される。

システムの更新は、事業開始後 10 年間のいずれ かの時期に更新計画に従って行うことになって いる。当該対象物の保守・管理・運営期間中はPFI 事業者が保有し、当該期間終了後、市に無償譲渡 する。病院経営への IT の導入による運営面の効 率化においては、高い成果が期待できるが、これ には、技術・知識に関する不確実性が存在してい る。情報システムの導入に係る費用は大きく、IT のような技術進歩の早いものには大きな不確実 性が存在している。情報システムの導入段階に 段階的オプションを利用し、システムの稼動状 況を確認しながら第一段階で基盤整備を行い、

ネットワークを拡大できれば、ある程度の埋没 費用を節約することが可能となるであろう。ま た、導入の段階で数次に分けることが不可能で あった場合には、システムの更新時期をタイミ ングオプションを利用することで決定すること も考えられる。近江八幡市民病院の場合、総合医 療情報システムの運営期間は 10 年であるが、IT の技術進歩の速度を考慮すると、10 年よりは早 い段階でシステムそのものを更新したほうが、

システムによる効果が最大化される可能性があ る。このような市場リスクではない内生的な不 確実性に対しては、リアル・オプションを適用 し、段階的に意思決定をしていくことが有効と なるのである。

4.2.3 病院 PFI における不確実性とオ プションについて

 病院PFIについては、2005年3月開院を目指し ている高知医療センター整備運営事業と本稿の 近江八幡市民病院整備運営事業と、既に2件、公 立病院事業へのPFI適用が走り出している。日本 における公立病院は、本来的には僻地医療や救 命救急医療、感染症対策等の政策医療、高次医療 等の不採算医療を担う役割になっているが、実 際には診療報酬体系は民間病院と同様であり、

外来医療を受け入れるなど、機能的な差は見ら

(15)

れない。民間病院が十分に医療サービスの提供 ができるようになった現在、公立病院の収益構 造及び存在意義が問われている。このような状 況の中で、公立病院事業へのPFI適用は慎重に検 討しなければならない問題となる。しかし、一方 では恒常的赤字決算の経営を続けている公立病 院が多く存在するという現実がある。そして、病 院事業の中で人件費に代表される運営経費の負 担の重さを考えると、PFIを適用することによっ て運営面の効率化を図ることが期待できる。現 状の医療法制下においては、医療経営と医療管 理の分離が議論されているところであるが、近 江八幡市民病院の場合は、まず医療経営から施 設運営を独立させたことが、経営合理化の端緒 を開いたと言える。更に総合医療情報システム を独立運営させることが加わり、複合的な価値 を持たせることにより、PFIにおける民間経営の 自由度を高めている。

 学校と同様施設運営管理のみでは、オプショ ン価値評価を導入するメリットは大きいとは言 えないが、柔軟性を持たせることにより工夫の 余地は存在する。更に IT システムという付加価 値がついたために、IT の導入段階や更新時期に ついて、オプション価値評価をすることによっ て、経営戦略の自由度が高まり、事業全体の価値 を高めていると判断することができる。

 また、病院 PFI は地域に密着したものであり、

その社会的需要の変動は大きいと推測されるこ とから、その需要に合わせて、実施、拡大、縮小、

最終的には撤退することも含めてオプション価 値評価することは、公共サービスをマネジメン トするという意味においても意義のあることと 思われるのである。

5.PFI へのリアル・オプション適用の評価

 具体的な事例においてリアル・オプション評 価の有効性を見てきたが、最後にこれらのオプ ション価値評価が、2 . 2において提示した実際 のPFIの課題の改善にどのように寄与するかまと めてみる。

5.1 PFI の課題と有効性 5.1.1 多段階選抜と有効性

 PFI事業の内容が広範囲で複雑多岐であり、ま た応札に係る埋没的なコスト負担も見逃すこと ができないため、多段階にわたる選抜にし、その 間公共と民間側が、契約交渉・協議の場を持つこ とが大切であるが、その作業自体が既にリアル・

オプションのアプローチとなっている。協議と いう段階を経て、その結果を見て、次ぎの段階へ 進めることは、コスト的にも作業的にも無駄を 省き効率性を高めている。この段階で一番重要 なことは、実際いつの時期にその事業を開始す るかという投資のタイミングを定めることであ る。公共サービスの提供という社会性を持った 事業に対して、事業として投資をするタイミン グを決める段階から、公共と民間協働で決定で きるかどうかは現行体制では判断が難しいが、

今後の社会需要の変動の激しさを考えると、公 共サービスにもタイミングオプションを取り入 れることが自然の流れであると思われる。国土 交通政策研究第4号22において、橋梁の更新時期 の決定について、タイミングオプションのモデ ルケースとして検討を行っている。橋梁建設後 25 年が経過し、耐用年数の 50 年目までに更新す べきかどうかの意思決定にリアル・オプション を用いているが、その結果では、35 年目で、総 純便益が最大となり、更新最適時期と判断でき た。

5.1.2 VFM 算定及びリスク分担と有効性

 PFI 事業において VFM を最大化できる重要な 要素として、官と民とで適切なリスク分担つま り「リスクを最もよく管理することができる者 が当該リスクを分担する。」というものがあっ た。リスク分担については、官がリスクをとりす ぎると、民間の創意工夫が活かせる余地が狭く なり、逆に社会性の高いリスクを民間がとりす ぎるとコストに転嫁され、VFM が低下するとい う非常に繊細な判断を必要とし、リスクの定量 化という技術面においても課題があった。この

22 〔大谷/安達 01〕 71 〜 73 ページ。

(16)

場合においては、リスクの転嫁により効率性が 高まることを示している。しかし、ここで、リス クによってオプション価値がつくと考えるとど うなるであろうか。リスクへの判断をいつ、誰 が、どのように行うかによってそのリスクは事 業にとってプラスの価値を生む可能性が出てく るのである。つまり、どちらにリスクを移し、管 理するかではなく、リスクを一つのプラスの価 値として捉え、オプションの行使を含む契約と してリスク分担する。これにより新しい情報を 入手した上で、オプションを行使することに よって、経営戦略の意思決定の変更が可能とな るため、事業自体の戦略の自由度は高まり、事業 全体の価値も増大すると考えられる。

 但し、この場合のリスク回避への判断をどこ まで認めるかによって、オプション価値がプラ スになるかマイナスになるかの問題が生じてく る。また、リスクをどこまで詳細化してオプショ ン価値評価していくか適切な規模を想定する必 要も生じてくる。この問題はリスクの定量化の 問題と全体のリスク分担との整合性の問題を含 めて、更に議論を必要とするであろう。

5.1.3 契約と有効性

 PFI事業の契約は、①公共部門と民間事業者に よる長期事業契約(PFI 事業契約)、②民間事業 者(SPC:特別目的会社)と建設会社、運営会社 等による契約、③ SPC 出資者による株主間契約、

④民間事業者(SPC:特別目的会社)と金融機関 等によるローン契約、⑤公共部門と民間事業者

(金融機関)による直接契約と広範囲にわたる。

本論文では、契約と表現している場合は、①の事 業契約を指しているが、前項のリスク分担は、①

〜⑤までの全ての契約に関連しており、その影 響が大きい。オプション価値評価の利点は、戦略 の意思決定の自由度であるが、それは事業の展 開を一通りではなく、少なくとも上昇・下降の二 つのシナリオで考えている。慣れてくれば、シナ リオは何通りにもなるかもしれないが、このシ ナリオは先のリスク分担において、高い確率で 起こり得るリスクを整理し、どのような情報が 入手できれば、リスクに対するオプション価値 を判断できるのかを明確にするため、契約にお いて重要項目のポイントが絞れることに貢献し

ていると考えられる。契約時点で契約すべきこ とが不明確なまま、事業が進展した段階で協議 するよりは、契約時点で協議事項をある程度シ ナリオとして用意しているほうが、事業の流れ は効率的になると判断される。これにより、契約 で事業の安定性が担保されない可能性や、契約 により明確なリスク分担に合意せずリスクを先 送りにする可能性などを回避し、民間の参入意 欲も向上することにつながると考えられる。

5.1.4 ファイナンス組成と有効性

 プロジェクト・ファイナンスという資金調達 の上でも、事業そのものの価値評価は重要な基 準となることは既に述べた通りであるが、事業 の価値を担保とする以上、事業のプラスの面が リアル・オプションを適用することで明確にな るということは非常に有効であると考えられる。

規制緩和が行われた場合には、大幅な事業価値 の増大も予想される。特に金融機関との協働に おいて、オプション価値の数量的判断の根拠と なる参考指標を作成してゆくことは今後の課題 の一つにもなるであろう。

5.1.5 モニタリングシステムと有効性

 モニタリングシステムは、①公共が民間に サービス購入費を支払う際の事業の監視と②金 融機関がプロジェクト・ファイナンスにおいて 当該キャッシュ・フローを実現させるための契 約の遂行状況が厳守されているかどうかの監視 と二つのモニタリングが考えられる。①のサー ビス購入費を支払うためのモニタリングについ ては、調和小学校の事例でも示されているが、も ともとモニタリングとは、サービス購入費を必 要と認められる場合、減額するために作ったシ ステムである。つまり、仕様書に従って適切に維 持管理されているかを確認するため多くの項目 を設定し、ペナルティポイントが要求水準を満 たさない場合には減額されることとなる。仮に サービスの減額が始まると、忽ち P F I 事業者

(SPC:特別目的会社)のキャッシュ・フローが 悪化するという影響が出る。従って、モニタリン グの基準となる仕様書については、長期にわた

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