ジェンダーの視点か らの 「日本事情教育」への示唆

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ジェンダーの視点か らの 「日本事情教育」への示唆

―中国人留学生 ・日本人学生のジェンダー意識調査から一

中河和子 ・濱 田美和 ・神 川康子

S u g g e s t i o n s   f o r ̀ ̀ U n d e r s t a n d i n g   J a 7 p a n e s e   S o c i e t y   a n d   c u l t u r e   f r o m   t h e   P e r s p e c t i v e   o f o e n d e r ' ' for lntemational Students:]Based on an lnvestigation into Gender lssues

of Chinese and Japanese Smdents

NAKAGAWA Kazuko,HAMADA Miwa,KAMIKAWAYasuko

要   旨

ジェンダーの視点か ら日本社会を見直す という作業は,人権教育の一部 として 日本社会で久 しく行われているが, 日本の留学生の過半数を占める中国人留学生は, ジェンダー問題 に関 して 日本は遅れているというだけの皮相な見 方か ら抜けきれない場合 も多いようである。 日本事情教育でのジェンダー教育には,留 学生が他の社会問題へ視点 を深めるきっかけになる可能性があると考える。留学生へのジェンダー教育の在 り方を探 るために,中 国人留学生 と日本人学生のジェンダー意識調査をパイロッ トとして行 った。結果,中 国人留学生は日本人学生に比べ, 日本社 会の差別構造や自社会のジェンダー問題への認識が低いこと,性 別 による規範意識が強 いことなどが観察 された。

これ らか ら,留 学生が社会的 リソースの適切な活用方法 と自文化 リテラシーを留学中に獲得する必要性, 日本事情 教育を日本人学生等 との多文化 クラスで行 う意義についての示唆を得 ることができた。

【キーワー ド】ジェンダー,中 国人留学生, 日本事情教育,自 文化 ・多文化リテラシー

1 は じめ に

日本国内において,社 会 的 0文 化的 に構成 された性 「ジェンダー」 の視点か ら日本社会 を提 え,そ こ か ら社会問題 を見直 してみよ うとい う教育 が,行 政機 関な どによる社会教育 の場や大学 な どの高等教育 機 関による学校教育 の場で行 われて きて久 しい。 このよ うに ジェンダーの視点で現代社会を見直 してみ る教育 を,本 稿 では ジェンダー教育 と呼ぶ ことにす る。 この ジェンダー教育 の基本姿勢 は ご く簡単 に言 えば,女 性 ・男性への従来 の固定観念 を洗 い直 し,人 間それぞれの個性 ・能力 を尊重す る意識 を市民 ・ 学生 の中に醸成す ること,そ れ によ り,少 子 問題,男 女 を取 り巻 く労働環境,高 齢者 の介護 な ど,昨 今 の社会生活の様 々な局面での問題 を提 え直 し,そ の解決への一助 とす ることであると思 う。

留学生教育 に 目を転 じよ う。本稿 で述べ る 「留学生への ジェンダー教育」 は, ジ ェンダーを専 門に研 究す る学生へのそれではない。 それ は当然専門の研究者,す なわ ち社会学や経済学や人類学 な どを 「女 性学 ・男性学」 か らアプローチ しているような研究者 によってな され るべ きである。本稿 で言 うジェン

ダー教育 とは,留学生 の 日本事情教育 に属す るものであ る。 それは 「日本 に対す る文化的知識 を補強 し, それを以 って留学生 の学力 を 日本人学生並 にす ることが主 眼 とされ (中略)各 授業科 目の内容 につ いて は,日本人学生 に対す る一般教養科 目の趣 旨と同様 の教育 的意 図を実現 できるよ うに留意す るとともに, (中略)専 攻分野 に応 じた基礎知識 を持 ち合 わせて学習 し得 るよ うに配慮 …」 (文部省令 21号 1962)に 相 当す る ものである。すなわち, 日本事情教育での ジェンダー教育 が扱 うべ き内容 は, 日本社会 の成員 が一般 的に教養的知識,社会的所産⊃として持 っているとされるジェンダー問題 に関す る知識 と言える。

ただ し,筆 者 らは,留 学生が 「日本事情」 を学ぶ ことは,社 会 的知識 ・所産 を知識注入 され ることで

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はな く,最終的には 自・他 の文化 を読 み解 く能力 を養成す ることであ り,そ してそれは 「学習者 と学習者, 学習者 と授業者 で 日本文化 のイメー ジを共 に探求 し,共 に練 り上 げてい く」 (り│1上1999)作 業 に もつな が る,と 考 えている。 さらに近年,日 本語教育 では,「文化」 を 「ある社会的知識 ・所産」 とのみ捉 えず;

他者 との相互作用 に介在す る文化2)」

個 と しての文化」 (佐々木 2002,他 )と い う捉え方 を してお り, それ らを 日本事情教育 に生かそ うとい う試 みが されている。 この授業実践 は容易ではな く,方 法 も試行 錯誤 の状態であるが,様 々な意欲的な試 みがな されている。

ともあれ留学生への ジェンダー教育が, どのような方針の下 に どのような内容 で行 われ るべ きかの検 証 は,ほ とん どされてお らず,そ れ以前 にその教育 の実態 も明 らか にされてはいない。 それ らの原 因に は,特 に ジェンダーに関す る知識や意識 に関 しては,他 の項 目以上 に,留 学生 を一色 に捉 え ることが非 常 に難 しい ことな ど,様 々な要因が考 え られ るだろ う。例 えば,大 学院 レベルの学生 で も 「ジェンダー」

や 「社会性別 :中 国での ジェンダーの訳語」 とい う概念 に初 めて触 れ る留学生 もいれば,母 国の大学 の 教養課程的な コースで基礎 的な知識 を得 ている学生 もいる。 また ジェンダー教育 は広 く人権教育 に属す る部分 であ り,知 識注入型 の授業方法が特 に不適 当であることが挙 げ られ る。 そ こには他文化 と共 に 自 文化 の捉え直 しが特 に必要 にな って くる。 その授業実践 の方法論 が先 に述べ たよ うに,ま だ確立 してい るとは言 えない。 そ うであれば,ま ず第一 に,個 々の大学 に在籍す る留学生 の 自文化 ・他文化 (この場 合 は 日本)に 関す るジェンダー意識 の調査 ・把握 が必要 にな るだろ う。

先行調査 ・研究 として留学生 の ジェンダー意識調査 はい くつかあ るが,中 国人留学生 に絞 った ものは 多 くない°。 また,そ れ らの調査 を元 に 日本人学生 。日本社会への ジェンダー教育 の提言 とい う形 を取 っ ているものはい くつかあるが4、

留学生への 日本事情教育への示唆を 目的に した ものは,筆 者 らの知 る 限 りではない。

今回の調査では日本人学生 も対象 とした。留学生 と日本人学生それぞれに認識 されるジェンダーの視 点か ら見た現代 日本社会は,留 学生 に対す る 「日本事情教育」に大 きな示唆を与えると同時に, 日本人 学生に対す る教育 にも有用ではないかと考えたか らである。

なお,今 回の調査研究は,中 国人留学生 と日本人学生のジェンダー意識に関す る全体的な傾向を把握 す るために行 ったパイロッ ト調査である。本研究で得 られた示唆と今後の課題を元に,本 調査を行いた い。

2 研 究 の 目的

留学生 を対象 と した ジェンダー教育 につ いての示唆を得 ることを 目的 と し,留 学生 が ジェンダーの視 点か ら 「母国社会」 と 「日本社会」 を どのように認識 しているか,の 項 目を中心 に して留学生 の ジェン

ダー意識 を調査す る。

本研究では,留 学生 の母国を中国一国 に絞 った。 それは,中 国人留学生 は富 山大学 で最 も在籍数が多 く5),また 日本全国か ら見て も最 も在籍数が多 く過半数を占めているのことによる。彼 らのジェンダー 意識傾 向を明 らかにす ることは,留 学生教育 の今後の方 向性 に大 き く貢献す ると思われ る。 さ らに一 国

に絞 った場合,母 国の社会状況,社 会構造,歴 史 の面 か らの分析 も可能 にな るか らである。

ジェンダーに関 しては,中 国は 日本 よ り先進 的であると安易 に思 っている中国人留学生 は,多 いので はないだろ うか。 しか し中国で女性解放運動が女性学 と して認知 され,そ の重要性 が広 く一般 国民 に知 られたのは,欧 米 よ り 20年 ほ ど遅れて 1980年代以 降 と指摘 されている (蘇 2005)。また,市 場 開放経 済政策 を取 った ことによる人 々の価値観 の変化 な どか ら,最 近 中国では若年女性 に 「自強 自立」意識 の 弱 ま りとい うジェンダー的 「揺 り戻 し」 が起 こっていることが指摘 され るな ど (蘇 2005),中 国は ジェ ンダー問題 を克服 した社会 とは言 えない。 また,そ もそ も中国では女性学 の元 となる女性解放運動が民 族革命や社会主義革命 の一部 として行われ,欧 米や 日本 とは似て非なる部分があるが,中 国人留学生 は 日本や他 の欧米諸 国の ジェンダー問題 に関 して,「遅れてい る,規 範 か ら外れて いる」 とい うだけの皮

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相な理解に陥 りがちなこと (この姿勢 は,他 の社会問題の理解 にも当てはまるのではないか, と考え ら れる)が 授業中等にしば しば観察 される。 日本事情教育でのジェンダー教育をきっかけに,他 の社会問 題への視点が深まる可能性 もある。

3 調 査 の概 要

調査期間は,2007年 1月 9日 γ l月 25日 である。

調査項 目は,(1)社会における男女の遇 され方に関する意識,(2)性別役割分業 に関する意識,(3)男 ら しさ 0女 らしさに関する意識である。 この 3項 目は, ジェンダーの視点で社会を分析す る際の代表的な 項 目と考え られる。設間に関 しては,表 1の 先行調査を参考に した。

調査方法 は,集 団質問紙法による。筆者 らが担当するゼ ミや授業で調査票を配布 し,回 答者か ら直接 回収 した。調査は日本語で実施 したが,調 査票の漢字には全て振 り仮名を入れ,一 部英訳,中 国語訳を 加えた。

調査では:富山大学に在籍する外国人留学生 57人 (中国 35人,マ レーシア 10人,韓国 7人 ,ロシア3人 , イ ン ドネ シア,ハ ンガ リー各 1人 )及 び日本人学生 61人 の計 118人か ら回答を得たが,本 稿では,中 国人留学生 35人 (男性 22人,女 性 13人)つと日本人学生 61人 (男性 10人,女 性 51人)①のデータを 元に分析を行 った。

4 調 査結果 の分析

4.1 社 会 にお ける男女 の遇 され方 に関す る意識

日本社会について,男 女の遇 され方を<家 庭生活 ><職 場 ><学 校教育 ><社 会通念 ・慣習。しきた り>の それぞれの視点か ら尋ねたところ,表 2〜 5,図 1〜 3の ような結果にな った。

表 2 家 庭生活 にお ける男女 の遇 され方

中国人留学生

か ら見た 日本社会

日本人学生 か ら見た日本社会

中国人留学生 か ら見た中国社会

男性 の ほ うが非常 に優遇

どち らか と言 えば男性 が優遇 平等

どち らか と言 えば女性 が優遇 女性 の ほ うが非常 に優遇 無 回答

9 人 1 5 人 8 人 2 人 1 人 0 人

( 2 5 . 7 % ) ( 4 2 . 9 % ) ( 2 2 . 9 % ) ( 5 . 7 % ) ( 2 . 9 % ) ( 0 . 0 % )

2 人 33人 1 4 人

4 人 1 人 7 人

(3.3%) (54.1%) (23.0%) (6.6%) (1.6%) (11.5%)

0 人 7 人 2 3 人 4 人 1 人 0 人

( 0 . 0 % ) ( 2 0 . 0 % ) ( 6 5 . 7 % ) ( 1 1 . 4 % ) ( 2 1 9 % ) ( 0 . 0 % )

表 1 調 査の参考 に した ジェンダーに関する先行調査

「女性 の人権 に関す る大 学生の意識調査」

(財団法人 女性 のための アジア平和国民基金)

調査 目的

アジアの留学生 と日本の学生を対象にして,(1)ア ジアの大学生が自国 ・地域での 「女 性の人権」を どのようにとらえているか,(2)日本の 「 女性の人権」意識や実態を どの ように見ているかについて探 り,(3)その比較対照 と大学生がみたアジアの 「女性の人 権」の現状 と課題を明 らかにす ること

調査項 目

性別役割分業 に関す る意識 と実態,男 性優遇 ・女性優遇 に関す る意識な ど

調査対象

首都圏の大学 に通 う韓国,台 湾,中 国出身の留学生及び 日本人大学生

調査 時期

2 0 0 2 年1 2 月〜 2 0 0 3 年1 月

「男女共 同参画社会 に関 す る国際比較調査」

( 内閣府男女共同参画局)

調査 目的

日本の男女共同参画 に関す る問題点を明確 に し, 今 後の施策の推進 に資す ることと同 時に,   日本及 び国際社会の変化を把握す ること

調査項 目

性別役割分業 に関す る意識 と実態,男 性優遇 0女 性優遇 に関す る意識な ど

調査対象 韓国, フ ィリピン, ア メ リカ, ス ウェーデ ン,   ドイツ, イ ギ リスの 2 0 歳か ら5 9 歳 ま での男女

調査 時期 2002年 8月 〜 9月

「高校生の生活 と意識 に 関す る調査」

(財団法人 日本青少年研 究所)

調査 目的 高校生 の男性 ・女性 につ いての相互 の意識 を見 ることによ って,現 状 を正確 に把握 し, 今後 の在 り方 に貢献 す る こと

調査項 目

男 らしさ ・女 らしさに関す る意識,性 別役割分業 に関す る意識な ど

調査対象

日本,ア メリカ,中 国,韓 国の高校生

調査 時期 2003年 9月 〜 10月

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表 3 職 場 における男女 の遇 され方

中国人留学生

か ら見た日本社会

日本人学生 か ら見た 日本社会

中国人留学生 か ら見た中国社会 男性のほうが非常に優遇

どちらか と言えば男性が優遇 平等

どちらか と言えば女性が優遇 女性のほうが非常に優遇 無回答

1 2 人 1 3 人 7 人 3 人 0 人 0 人

( 3 4 . 3 % ) ( 3 7 . 1 % ) ( 2 0 . 0 % ) ( 8 . 6 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % )

1 7 人 3 6 人 1 人 0 人 0 人 7 人

(27.9%) (59.0%) (1.6%) (0.0%) (0.0%) (11.5%)

2 人 1 6 人 1 6 人 1 人 0 人 0 人

( 5 . 7 % ) ( 4 5 . 7 % ) ( 4 5 。7 % )

( 2 . 9 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % )

表 4 学 校教育 における男女の遇され方

中国人留学生 か ら見た日本社会

日本人学生 か ら見た 日本社会

中国人留学生 か ら見た中国社会 男性のほうが非常 に優遇

どちらか と言えば男性が優遇 平等

どちらか と言えば女性が優遇 女性のほうが非常に優遇 無回答

1 人 1 人 3 2 人 1 人 0 人 0 人

( 2 . 9 % ) ( 2 . 9 % ) ( 9 1 . 4 % ) ( 2 . 9 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % )

1 人 3 人 49人 0 人 0 人 8 人

(1.6%) (4.9%) (80.3%) (0.0%) (0.0%) (13.1%)

0 人 1 人 34ノヽ

0 人 0 人 0 人

( 0 . 0 % ) ( 2 . 9 % ) ( 9 7 . 1 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % )

表 5 社 会通念 ・慣習 ・しきた りにおける男女の遇され方

中国人留学生 か ら見 た 日本社会

日本人学生 か ら見た日本社会

中国人留学生 か ら見 た中国社会

男性のほうが非常に優遇

どち らか と言えば男性が優遇 平等

どちらか と言えば女性が優遇 女性のほうが非常 に優遇 無回答

6 人 1 7 人

8 人 3 人 1 人 0 人

( 1 7 . 1 % ) ( 4 8 . 6 % ) ( 2 2 . 9 % ) ( 8 . 6 % ) ( 2 . 9 % ) ( 2 . 9 % )

5 人 4 0 人 8 人 1 人 0 人 7 人

(8.2%) (65.6%) (13.1%) (1.6%) (0.0%) (11.5%)

0 人 1 5 人 1 6 人 3 人 1 人 0 人

( 0 . 0 % ) ( 4 2 . 9 % ) ( 4 5 , 7 % ) ( 8 . 6 % ) ( 2 . 9 % ) ( 0 . 0 % )

2眺       4096      6096      賜       10眺

図 1   中 国人留学生か ら見た 日本社会 にお ける男女 の遇 され方

■ 」馴性のIめ力り絆隷4憂 遇

■ どり勁 せ言 えば男性が優遇

□ 書         .

目 どり勁 せ言 えば女性が優遇

■ 女 朧 初 め が 指 潮 こ優 遇

■ 男性のほうが非常に優遇

■ ど動 せ言えば男性が優遇

□ 警

圏 どらり を言えば女性が優遇

■ 女性 の め 力琲 撒 こ傷饉

□ 簿 落

2KXる      4【治      6(Iる      806       1006

図 2   日 本人学生か ら見た 日本社会 における男女 の遇 され方

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■ 男性の は シ 琲 常 に優過

■ どち勧 セ言 えば男性が優遇

□ 平等

目 ど り 勁 ヽと言 えば麹

■ 女性の lまうが非常 に優遇

2096      郷       6096      8眺       1006

図 3   申 国人留学生か ら見た中国社会 における男女 の遇 され方

「平等 であ る」 とい う認識 が ジェンダー ・イ クォ リテ ィのあ る社会 と認識 してい ると考 え る と, 日本 社会 に関 して,中 国人留学生, 日本人学生 と もに <学 校教育 >以 外 の <家 庭生 活 ><職 場 ><社 会通 念 0慣 習 ・しきた り>で は ジェンダーバ ラ ンスが男性優遇 に振 れてい る (「どち らか と言 えば男性 が優 遇」 も含 む)と い う回答が多か った。一方,中 国人留学生 が母国を見 た場合,<家 庭生活 >で は 6割 以 上,<職 場 ><社 会通念 ・慣習 0し きた り>で も 5割 近 く 「平等」 であると認識 してお り, 日本社会 に 対す る認識 よ りは 2倍 程度高 い。 ア ンバ ラ ンスな部分 は男性優遇 に振 れている。

日本社会 に対す る中国人留学生 と日本人学生 の認識 の差 を見てみ る。大 きな差 は,<職 場 >に おいて 日本人学生 は 「平等」 が 1.6%,「 どち らか と言 えば女性 が優遇」 が 0%な のに比 して,中 国人留学生 は 20.0%が 「平等」 と認識 してお り,8.6%は 「どち らか と言 えば女性 が優遇」 と してい ることであろ う。

つ ま り,<職 場 >に おいて平等 もしくは女性優遇 だ と思 っている日本人学生 はほとん ど皆無 に近 いのに, 中国人留学生 は 3割 近 くが平等 もしくは女性優遇 だ と思 っているとい うことである。 <社 会通念 ・慣習 ・

しきた り>も <職 場 >ほ どではないが,似 た傾 向の差異 が見 られ る。

日本社会 の職場場面 では,男 女間の賃金格差,女 性管理職 の少 な さ,女 性 が補助的役割労働 を行 うの が当然 とされていること,ま た反対 に,女 性 では比較的取 りやす くな った育児休業制度 を男性 が取 りに くい状況 な ど,他 の先進 国 に比べれば不平等 が多 い と指摘 されている (伊藤 ら 2002)。中国人留学生 と 日本人学生 の平等認識 の差 は,双 方 ともプロフィール的 には 日本 での就業経験 があま りない と考 え られ るので,親 や先輩 ・友人 とい った周囲の人 々の就業経験 や メデ ィアな ど他 の情報 リソースによるもの と 考 え られ る。 この よ うな社会 的 リソースか ら情報 を取 るとい うことが留学生 には不足 して いることは, 先行研究か らも指摘 されている (中河 ら 2003)。

4.2 社 会 が 男 女 平 等 にな る た め の 方 策

次 にそれぞれの社会 が平等 にな るためには, どのよ うな ことが一番重要か という問いを した。結果は 表 6と 7,図 4で ある。

表 6 日 本社会が男女平等 になるための方策

中国人留学生 日本人学生

女性差別につながる法律や制度をな くす

女性への偏見,固 定的な社会通念,慣 習 ・しきた りをな くす 女性が知識 0技 術を習得 して,経 済力を持 ち, 自ら力をつける 女性が社会活動 に参加 しやすいよう,施 設やサー ビスを充実す る 政府や企業の重要な役職 に一定の割合で女性を採用す る規則を作 る その他

無回答

2 人 1 9 人 3 人 0 人 7 人 1 人 3 人

( 5 . 7 % ) ( 5 4 . 3 % ) ( 8 . 6 % ) ( 0 . 0 % ) ( 2 0 . 0 % ) ( 2 . 9 % ) ( 8 . 6 % )

5 人 2 2 人 8 人 2 2 人

3 人 1 人 0 人

( 8 . 2 % ) ( 3 6 . 1 % ) ( 1 3 . 1 % ) ( 3 6 . 1 % ) ( 4 . 9 % ) ( 1 . 6 % ) ( 0 . 0 % )

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日本社会について (中国人留学生)

日本社会について (日本人学生)

中国社会について (中国人留学生)

表 7 中 国社会が男女平等 になるための方策

女性差別 につなが る法律 や制度 をな くす

女性 へ の偏見,固 定 的な社会通念,慣 習 0し きた りをな くす 女性 が知識 ・技術 を習得 して,経 済力 を持 ち, 自 ら力 をつ け る 女性 が社会活動 に参加 しやす い よ う,施 設 やサー ビスを充実 す る 政府 や企業 の重要 な役職 に一定 の割合 で女性 を採用 す る規則 を作 る その他

無 回答

中国人留学生 ( 2 . 9 % ) ( 1 1 . 4 % ) ( 3 4 . 3 % ) ( 1 1 . 4 % ) ( 2 5 . 7 % ) ( 5 . 7 % ) ( 8 . 6 % )

■女性差別につながる法律や制度をなくす 回女性への偏見,固 定的な社会通念,慣 習 。

しきた りをなくす

■女性が知識 。技術を習得 して,経 済力を持 ち, 自ら力 をつける

□女性が社会活動に参加 しやすいよう,施 設 やサー ビスを充実す る

■政府や企業の重要な役職に一定の割合で女 性 を採用す る規則 を作 る

日その他

□無回答

20%      40%      60%      80%      100%

図 4   日 本 ・中国社会が男女平等 になるための方策

日本社会 で男女が平等 にな るためには, 日本人学生 は 「女性が社会活動 に参加 しやす いよう,施 設 や サー ビスを充実す ること」 と 「女性への偏見 0固 定的な社会通念,慣 習 。しきた りをな くす こと」 を選 択す る学生 が同率 で一番多か った (36。1%)。中国人留学生 は 「女性への偏見 0固定的な社会通念:慣 習 0 しきた りをな くす こと」 を選択す る学生 が最 も多 く (54.3%),次に 「政府 や企業 の重要 な役職 に二定 の 割合 で女性 を採用す る規則 を作 る」 (20.0%)であ り, 日本人学生 が一番 と考 えている 「女性 が社会活動

に参加 しやす いよ う,施 設 やサー ビスを充実す ること」 に関 しては 0%で あ った。

中国人留学生 の母 国 につ いての ものは,「女性 が知識 ・技術 を習得 して,経 済力 を持 ち,自 ら力 をつ けること」 (34.3%)を選択す る学生 が最 も多 く,「政府 や企業 の重要 な役職 に一定 の割合 で女性 を採用 す る規則 を作 る」 (25.7%)が次 につ けた。

このように 日本社会が平等 になるための方策 につ いては,中 国人留学生 と日本人学生 の間に少 なか ら ぬ差異 が見 られ る。 日本人学生が最 も必要 だ と思 っている 「女性 が社会活動 に参加 しやす いよ う,施 設 やサー ビスを充実す ること」 の中身 は何 であろ うか。 「育児 や介護 を支援 して くれ る施設」 が多 く含 ま れていることは想像 に難 くない。 また育児 を終了 した後 の職業訓練 な ども含 まれているだろう。つ ま り 日本人学生 は,女 性 の職場 での平等 を実現す るためには,そ の前段 階 と して性別役割分業 か らの脱却, またはそれを前提 とした解決策 を求 めているよ うに考 え られ る。一方,中国人留学生が 「女性への偏見 ̀ 固定的な社会通念,慣 習 0し きた りをな くす こと」 を一番多 く挙 げたのは, 日本 の男女平等 を妨 げてい る要因 に対 しては漠然 とした知識 のままでいるとい うことが推測 され る。実際 に 「日本 は男尊女卑 の国 だ」 とい う発言 を中国人留学生か らよ く聞 く。

中国人留学生 が 「政府や企業での重要 な役職への登用」 を 日本社会 に対 して も母国 に対 して も 2割 以 上 の者 が挙 げたのに比 して, 日本人学生 はわずか 4.9%で ある。 これは,何 が達成 されれ ば平等 とす る か に関わ って くるのか もしれない。 中国人留学生 は 「男性 と共 に,政 府 や企業 での重要 な役職 に就 くこ と」 が想起 され, 日本人学生 はそ こまで想起 しない とい うことが考 え られ る。 日本社会 で重要職 に就 い ている女性 は他 の先進 国 に比 して も圧倒 的 に少 ないのだか ら, 日本人学生 がそれに関 して施策が十分 だ

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と考えているとは思えない。 これは平等の達成に 「男性 と共に社会の重要職に就 く」 というイメージが まだできないということだろうか。 これは興味深い問題だが, これ以上の分析はここでは無理だと思わ れる。

中国人留学生の自国社会への方策の特徴 として,自 助努力の要求が高いことが挙げ られる。 これは, 自身の国が一定平等だと思 っているか らとも取れるが,<職 場 >で は5割 (4。1の表 3),<社 会通念・慣習・

しきた り>で は 4割 (4。1の 表 5)が 男性優位だ と思 っていることか ら考えると,他 国にまで勉強 しに 来 る留学生特有の上昇志向,多 少のエ リー ト意識が影響 しているとも思われる。 この上昇志向,多 少の エ リー ト意識が自文化への眼差 しに影響を与えることについては 「5 考 察」で触れる。

4.3 性 別役 割分業 に関す る意識

4.3.1 家庭 にお ける性別役 割分業 に関す る意識

性別役割分業意識を,<働 いて収入を得 ること><家 事 (料理,掃 除,洗 濯など)><子 供の世話 >

<家 計の管理 >に ついて,「夫婦のどちらが責任を持 って行 うべきか」という設間で問 うた。結果は表 8, 図 5と 6で ある。

表 8 家 庭 における性別役割分業 に関す る意識

収入 を得 る 家 事

中国人留学生

日本人学生

中国人留学生

日本人学生

夫が責任を持つべき

どちらか と言えば夫が責任を持つべき 夫 と妻が同程度 に責任を持つべき

どちらか と言えば妻が責任を持つべき 妻が責任を持つべき

無回答

7 人 1 0 人 1 7 人 0 人 0 人 1 人

( 2 0 . 0 % ) ( 2 8 . 6 % ) ( 4 8 . 6 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % ) ( 2 . 9 % )

7 人 3 9 人 1 5 人 0 人 0 人 0 人

( 1 1 . 5 % ) ( 6 3 . 9 % ) ( 2 4 . 6 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % )

0 人 1 人 2 0 人 8 人 5 人 1 人

( 0 . 0 % ) ( 2 . 9 % ) ( 5 7 . 1 % ) ( 2 2 . 9 % ) ( 1 4 . 3 % ) ( 2 . 9 % )

0 人 0 人 2 4 人 3 4 人 3 人 0 人

( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % ) ( 3 9 . 3 % ) ( 5 5 . 7 % ) ( 4 . 9 % ) ( 0 . 0 % )

子供 の世話

家計の管理

中国人留学生

日本人学生 中国人留学生

日本人学生

夫が責任を持つべき

どちらか と言えば夫が責任を持つべき 夫 と妻が同程度に責任を持つべき

どちらか と言えば妻が責任を持つべき 妻が責任を持つべき

無回答

0 人 0 人 2 6 人 6 人 2 人 l A

( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % ) ( 7 4 . 3 % ) ( 1 7 . 1 % ) ( 5 . 7 % ) ( 2 . 9 % )

0 人 0 人 5 2 人 8 人 1 人 0 人

(0.0%) (0.0%) (85.2%) (13.1%) (1.6%) (0.0%)

0 人 3 人 1 6 人

7 人 8 人 1 人

( 0 . 0 % ) ( 8 . 6 % ) ( 4 5 . 7 % ) ( 2 0 . 0 % ) ( 2 2 . 9 % ) ( 2 . 9 % )

1 人 1 人 2 4 人 3 1 人 4 人 0 人

( 1 . 6 % ) ( 1 . 6 % ) ( 3 9 . 3 % ) ( 5 0 . 8 % ) ( 6 . 6 % ) ( 0 . 0 % )

収入を得る

家事

子供の世話

家計の管理

■ 夫が責任を持つべき

■ どちらかと言えば夫が責任を持つべき

□ 夫と妻と同程度に責任を持つべき

□ どちらかと言えば妻が責任を持つべき

■ 妻が責任を持つべき

□ 無回答

20%      40%      60%      80%      100%

図 5   家 庭 における性別役割分業 に関する意識 ( 中国人留学生)

‑19‑

(8)

収入を得る

家事

子供の世話

家計の管理

■夫が責任を持つべき

■ どちらかと言えば夫が責任を持つべき

□ 夫と妻と同程度に責任を持つべき 目 どちらかと言えば妻が責任を持つべき

■ 妻が責任を持つべき

20%      40%      60%      80%      100%

図 6 家 庭における性別役割分業に関する意識 (日本人学生)

まず,中 国 と日本 それぞれの学生 の性別役割分業意識 の傾 向を,各 項 目に関 して 「夫妻が同程度 に責 任 を持つべ き」 と考 えているか,「 どち らかの性 に責任が多 い」 と考 えて いるか とい う点か ら観察 して み る。

中国人留学生 は,<働 いて収入 を得 ること>に 関 して約 5割 が 「夫妻が同程度 に責任 を持つべ き」 と 考 えてお り,残 り5割 は 「どち らか と言 えば」 も含 めて夫 が責任 を持つべ きだ と考 えてい る。つ ま り, 同等/夫 が 1:1で あ ると言 え よ う。 <家 事 >に 関 しては約 6割 が同等 で,残 り4割 の大半 が妻側 に責 任主体 が ある と考 えて い る。 <子 供 の世話 >は 約 7割 が同等 で,残 り3割 が妻側 であ る。 <家 計 の管 理 >は 45。7%が 同等,42.9%が 妻側 に,8.6%が 夫側 に責任主体 があると している。 (表 8)

上記項 目の うち,収 入 ・家事 ・育児の 3項 目の特徴 は,同 等 でな ければ どち らかの性 に役割が完全 に 振れているとい うことで,振 れ方 の割合 は違 うが,収 入 は夫側 に,家 事 ・育児 は妻側 に振 れている。一 方,家 計 の管理 は 4項 目中唯一 同等以外 に,両 方 の性 に (男性割合が低 いが)分 散 している。 (図 5)

日本人学生 は,<働 いて収入 を得 ること>に 関 して約 4分 の 1が 「夫妻 が同程度 に責任 を持つべ き」で, 残 り4分 の 3が 「どち らか と言 えば」 も含 めて,夫 が責任を持つべ きだ と考 えている。 <家 事 >に 関 し ては約 4割 が同等で,残 り6割 全てが妻側 に責任主体 があると考えている。 <子 供の世話 >は 85。2%が 同等 で,残 り全 て (14.8%)が 妻側 で ある。 <家 計 の管理 >は 約 4割 が同等,57.4%が 妻側 に,わ ずか なが ら 3.3%が 夫側 に振 れている。 (表 8)4項 目の振 れ方 の特徴 は中国人留学生 と同 じである。 (図 6)

次 に中国人留学生 と日本人学生 の差異 を 「夫 と妻への振れ方 の大 きさ」 に注 目して見 てみ る。上述 し たよ うに,<働 いて収入 を得 ること>の 責任主体 に関 して,中国人留学生 は同等/夫 が 1:1の 振れ方だ っ たのに比 して, 日本人学生 は同等/夫 が 1:3で 大 き く夫 に振 れている。両国の学生 ともに収入 を得 る ことの責任主体 は夫側 にあるとす る割合が まだ高い ものの, 日本人学生 は中国人留学生 に比 して夫 に責 任主体 を負 う意識がまだ強 い と言 えよ う。

家事 に関 しては,中 国人留学生 が同等/妻 が 3:2の 振れ方 だ ったのに比 して, 日本人学生 は同等/

妻 は 2:3で 妻側 に振れてい る。両 国の学生 ともに家事 の責任主体 は妻側 にあ るとす る割合 が まだ高 い ものの, 日本人学生 は中国人留学生 に比 して妻側 に責任主体 を負 う意識が まだ若千高 い と言え る。

育児 に関 しては,中 国人留学生 が同等/妻 が 3:1, 日 本人学生 は同等/妻 が 6:1で 大 き く同等 に振 れてお り,4項 目中,両 国の学生 ともに同程度 に責任 を持つべ きとい う意識 が最 も高か った。 また片方 の性への依存度 が,収 入 ・家事 は 日本人学生のほ ぅが高か ったが,育 児 のみ中国人留学生 のほうが高 い ことが注 目され る。

ジェンダー ・イ クォリテ ィな社会 とは どうあるべ きか,ま たその実現 は どうあるべ きか とい う問いは 難 しい。夫婦 とい う個人的な単位 が どのよ うに家庭 を維持 してい くかは個人 の問題 としたい とい った情 緒的な反応 も多 いだろ う。 ただ, こ こで述べ るまで もな く 「男 は外で賃金労働 し,女 は家庭 で家事 ・育 児 をす る」 とい う近代 的な性別分業 が女性 の立場 を弱 くした ことは明 らかである。男 =公 的労働 =賃 金 労働,女 =私 的労働 =不 払 い労働 とい う構 図が生 み出 され,そ の役割意識 が,職 場 において も女性 に補

―‑20‑―

(9)

助的役割労働を課すな ど, 公 的な労働場面 に も影響 を与 えているとい う状況 も珍 しくない。 そ して, 女 性が 「仕事 も家事 も介護 も」 とい う 3 重 負担 に喘 ぐとい う現実 はまだ多 い。 また, 昨 今社会問題化 して

いる男性 の過重労働 を考 え ると,性別役割分業意識の偏 りは男性 に も大 きな意味があると言え るだろう。

これ らの問題 に立 ち向か うために,1970年 以降の 日本 の女性運動 が 「性役割 の固定化」 の撤廃 を最優 先課題 として取 り組んで きた とい う事実 もある ( 国広 ら 1 9 9 7 ) 。

中国人留学生 と日本人学生の双方 とも程度の差 こそあれ,性 別役割分業意識は厳然 と存在すると考え てよいだろう。特に日本人学生の 「男性に収入の責任主体を負 う」割合が非常に高いことなども含めて, 中国人留学生 と日本人学生双方のジェンダー教育 という視点で, これ らの性別役割分業意識を捉え直 し てみる必要がある。

4.3.2 母親 の就 業状 況 と女性 の就 業 に関す る意識

性別役割分業意識に大き く影響を与えていると思われる母親の就業状況を調査 した結果が表 9と 図 7 である。

表 9 母 親 の就業状況

中国人留学生

日本人学生

結婚 ・出産 後 もず っとフル タイムで仕事 を した 結婚 ・出産 時 に仕事 を辞 め,専 業主婦 にな った

結婚 ・出産 時 に仕事 を辞 め,そ の後 フル タイムで仕事 を持 った 結婚 ・出産時 に仕事 を辞 め,そ の後時 々アルバ イ ト的な仕事 を した 一度 も働 いた ことがない

その他 無 回答

23A 2 人 6 人 2 人 1 人 0 人 1 人

( 6 5 . 7 % ) ( 5 。7 % ) ( 1 7 . 1 % )

( 5 . 7 % ) ( 2 . 9 % ) ( 0 . 0 % ) ( 2 . 9 % )

2 2 人 4 人 1 8 人 1 5 人 0 人 1 人 1 人

( 3 6 . 1 % ) ( 6 . 6 % ) ( 2 9 . 5 % ) ( 2 4 . 6 % ) ( 0 . 0 % ) ( 1 . 6 % ) ( 1 . 6 % )

中国人留学生

日本人学生

□結婚 。出産後もずつとフルタイムで仕事をした

■結婚 。出産時に仕事を辞め,専 業主婦 になった 圏結婚 。出産時に仕事を辞め,そ の後フルタイムで

仕事を持つた

■結婚 ・出産時に仕事を辞め,そ の後時々アルバイ ト的な仕事をした

■一度も働いたことがない 目その他

60%      80%      100% □無回答

図 7   母 親 の就業状況

これを見 ると,両 国の学生 とも一度 も働 いた ことのない母親 はほとん どいない ものの,そ の就業状況 は,中 国人留学生 が 「ず っとフル タイムで」 が 65。7%と 過半数 なの に比 して, 日本人学生 で は 36.1%

と 3割 強 にとどま り,5割 以上が結婚 ・出産 で一時職を離れ,そ あ後再就業す る,い わゆる M字 曲線 9) を描 いている。

一方,性 別役割分業意識を 「女性の就業」の視点か ら問 うた結果が表 10と 図 8で ある。

表 10 女 性の就業 に関する意識

中国人留学生

日本人学生 女性 は仕事 を持 たない ほ うが いい

結婚 まで は仕事 を持 った ほ うが いい 子供 がで きるまで は仕事 を持 った ほ うが いい 子供 がで きて も仕事 を続 けた ほ うが いい

子供 がで きた ら辞 め,子 供 の成長 後 に再 び仕事 を持 った ほ うがいい その他

無 回答

1 人 1 人 3 人 2 5 人 2 人 1 人 2 人

( 2 . 9 % ) ( 2 . 9 % ) ( 8 . 6 % ) ( 7 1 . 4 % ) ( 5 . 7 % ) ( 2 . 9 % ) ( 5 . 7 % )

0 人 4 人 4 人 2 0 人 2 5 人 8 人 0 人

( 0 . 0 % ) ( 6 . 6 % ) ( 6 . 6 % ) ( 3 2 . 8 % ) ( 4 1 . 0 % ) ( 1 3 . 1 % ) ( 0 . 0 % )

‑ 2 1 ‑

(10)

中国人留学生

■女性は仕事を持たないほうがいい

■結婚までは仕事を持つたほうがいい

■子供ができるまでは仕事を持ったほうがいい

□子供ができても仕事を続けたほうがいい 目子供ができたら辞め,子供の成長後に再び仕事を

持ったほうがいい 圏その他

□無回答 日本人学生

60%      80%      100%

図 8 女 性 の就業 に関す る意識

中国人留学生 の場合 は 「子供がで きて も仕事 を続 けたほうがいい」 を選択す る学生 が約 7割 で最 も多 か ったのに対 し, 日本人学生 の場合 は 「子供ができて も仕事 を続 けたほ うがいい」 を選択す る学生 は約 3割 で 「子供がで きた ら仕事 を辞 め,子 供 が大 き くな った ら再 び仕事 を持つ ほ うがいい」 を選択す る学 生 が約 4割 で最 も多か った。双方 とも生涯何 らかの形 で働 き続 けたい とは思 って いるとい うことだが, 日本人学生 には ここで も日本 の特徴 であ る M字 曲線 が見 られ る。 つ ま り,次 世代 である学生 の意識 に も 「結婚 ・出産 で一時退職」 の意識 が根強 い ことが うかがわれ る。

母親 の就業状況」 がその子供 (学生)の 「女性 の就業 に関す る意識」 に どの よ うな影響 を与 えてい るかを見 るために,「女性 の就業 に関す る意識」に関 して 「子供がで きて も仕事 を続 けたほうがいい」,「 供ができた ら辞 め,子供 の成長後 に再 び仕事 を持 ったほ うがいい」 を選択 した学生 の 「母親 の就業状況」

をまとめた ものが表 11で ある。

表 11 母 親の就業状況 と女性の就業に関する意識

女性 の就業 に関す る意識 母親 の就 業状況

子供ができて も仕事を続 けた ほう力れヽい

子供ができたら辞め,子 供の成長後に 再 び仕事を持 ったほうがいい

中国人留 学生 日本人学生 中国人留学生 日本人学生

結婚 ・出産後 もず っとフル タイム 結婚 ・出産 時 に仕事 を辞 め,専 業主婦 結婚 ・出産 時 に仕事 を辞 め,そ の後 フル タイム 結婚 0出 産 時 に仕事 を辞 め,そ の後 アルバ イ ト ー度 も働 いた ことがない

その他 無 回答 合計

1 7 人 1 人 5 人 1 人 1 人 0 人 0 人 2 5 人

(48.6%) (2.9%) (14.3%)

(2.9%) (2.9%) (0.0%) (0.0%) (71.4%)

1 1 人 0 人 4 人 4 人 0 人 0 人 1 人 2 0 人

(11lli、:セ6) (0.0%) (6.6%) (6.6%) (0.0%) (0.0%) (1.6%) (32.8%)

0 人 1 人 1 人 0 人 0 人 0 人 0 人 2 人

( 0 . 0 % ) ( 2 . 9 % ) ( 2 . 9 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % ) ( 0 . 0 % ) ( 5 。7 % )

6 人 3 人 7 人 8 人 0 人 1 人 0 人 2 5 人

( 9 . 8 % )

(4.9%) ClД4) 嘔3」艶)

(0.0%) (1.6%) (0.0%) (41.0%)

*%の 値は全回答者 (中国人留学生 35人 , 日本人学生 61人 )に 対する割合である。

中国人留学生の場合は,母 親の就業状況 にかかわ らず,「子供ができて も仕事を続 けるべき」 と回答 した学生が多 くな っている (表 11の下線部分を参照)6 方 , 日本人学生の場合,「子供ができて も仕 事を続 けるべ き」 と回答 した学生 は母親がフルタイムで仕事を したと回答 した学生 に多 く (表11の波 線部分を参照),結 婚 ・出産時に母親が一時職を離れたと回答 した学生は 「子供の成長後に仕事を再開」

という回答が多 くなっている (表 11の点線部分を参照)。日本人学生の場合は母親の就業状況が次世代 に影響を与えているようである。つま り母親がモデルになるか否かが比較的重要なファクターになるが, 中国人留学生はそれにあま り左右 されないらしいとぃうことは興味深い。

4。4 男 ら しさ 。女 ら しさ に関す る意識

親に 「男 らしく」「女 らしく」 と言われた経験があるかどうかについては,「よ くある/時 々ある」 と 回答 した学生の割合は,中 国人留学生が 51.4%, 日本人学生が 45。9%で ,両 者の間で大 きな差 は見 られ ない。 (表12,図 9)

―‑22‑

(11)

表 12 親 に 「男 ら しく」「女 ら しく」 と言われた経験

中国人留学生

日本人学生 よ くあ る

時 々あ る あ ま りない ま った くない 無 回答

6 人 1 2 人

6 人 1 0 人

1 人

(17.1%) (34.3%) (17.1%) (28.6%) (2.9%)

1 0 人 1 8 人 2 2 人 8 人 3 人

( 1 6 . 4 % ) ( 2 9 . 5 % ) ( 3 6 . 1 % ) ( 1 3 . 1 % ) ( 4 . 9 % )

中国人留学生

日本人学生

■ よくある

■ 時々ある

■ あまりない

□ まったくない

□ 無回答

096     2096     4096     6096     8096     10096

図 9 親 に 「男 ら しく」「女 ら しく」 と言われた経験

次 に,<活 動的な ><や さ しい><繊 細な ><責 任感 の強 い><は っき り主張す る>な どの性格特性 を どの程度,「男 ら しさ ・女 らしさ」 とい う性 別 に固有 な規範意識 で捉 えて い るか とい う調査 を した。

結果 は表 13,図 10と 11で ある。

表 13「 男ら しさ」「女 ら しさ」の意識

男 ら しい 女 ら しい

区別できない

中国人留 学生 日本人学生* 中国人留学生 日本人学生* 中国人留学生 日本人学生* 力強 い**

責任感 のあ る 頼 りにな る

リー ダマ シ ップのあ る 冗談 の うまい 努力 家 意志 が強 い 活動 的な 不良 っぱ い は っき り主張す る 創造性 のあ る 朗 らか 積極 的な 情熱 的な お とな しい 話好 きな や さ しい 柔軟 な 可愛 い 繊細 な

30A 2 4 人 2 4 人 2 1 人 1 9 人 1 5 人 1 4 人 1 4 人 1 3 人 1 3 人 1 2 人 1 1 人 1 0 人 1 0 人 1 0 人 6 人 4 人 2 人 2 人 1 人

(85.7%) (68.6%) (68.6%) (60.0%) (54.3%) (42.9%) (40.0%) (40.0%) (37.1%) (37.1%) (34.3%) (31.4%) (28.6%) (28.6%) (28.6%) (17.1%) (11.4%) (5。7%) (5.7%) (2.9%)

5 1 人 2 3 人 46人 2 4 人 1 9 人 8 人 1 6 人 1 3 人 3 8 人 1 3 人 5 人 7 人 9 人 1 8 人

0 人 0 人 0 人 5 人 0 人 1 人

(83.6%) (37。7%) (75.4%) (39.3%) (31.1%) (13.1%) (26.2%) (21.3%) (62.3%) (21.3%) (8.2%) (11.5%) (14.8%) (29.5%) (0.0%) (0.0%) (0.0%) (8.2%) (0.0%) (1.6%)

3 人 2 人 4 人 1 人 4 人 2 人 1 人 3 人 2 人 4 人 1 人 4 人 2 人 4 人 7 人 1 2 人 1 3 人 2 8 人 30A 33A

(8.6%) (5。7%) (11.4%)

(2.9%) (11.4%) (5,7%) (2.9%) (8.6%) (5.7%) (11.4%) (2.9%) (11.4%) (5.7%) (11.4%) (20.0%) (34.3%) (37.1%) (80.0%) (85.7%) (94.3%)

0 人 0 人

。1 人 1 人 0 人 1 人 3 人 0 人 0 人 4 人 8 人 2 3 人 3 人 8 人 3 3 人 4 7 人 3 3 人 2 3 人 5 4 人 3 8 人

(0.0%) (0.0%) (1.6%) (1.6%) (0.0%) (1.6%) (4.9%) (0.0%) (0.0%) (6.6%) (13.1%) (37.7%) (4.9%) (13。1%) (54.1%) (77.0%) (54.1%) (37.7%) (88.5%) (62.3%)

2 人 9 人 7 人 1 3 人 1 2 人 1 8 人 2 0 人 1 8 人 2 0 人 1 8 人 2 2 A 2 0 人 2 3 人 2 1 人 1 8 人 1 7 人 1 8 人 5 人 3 人 1 人

(5.7%) (25.7%) (20.0%) (37.1%) (34.3%) (51.4%) (57.1%) (51.4%) (57.1%) (51.4%) (62.9%) ( 5 7 . 1 % )

( 6 5 。7 % ) (60.0%) (51.4%) (48.6%) (51.4%) (14.3%) (8.6%) (2.9%)

9 人 3 7 人 1 3 人 3 5 人 4 1 人 5 1 人 4 1 人 4 7 人 2 2 人 43人 4 7 人 3 0 人 4 8 人 3 4 人 2 7 人 1 3 人 2 7 人 3 2 人 6 人 2 1 人

(14.8%) (60.7%) (21.3%) (54.7%) (67.2%) (83.6%) (67.2%) (77.0%) (36.1%) (70.5%) (77.0%) (49.2%) (78.8%) (55,7%) (44.3%) (21.3%) (44.3%) (52.5%) (9.8%) (34.4%) 20項 目の平均 12.8人 (36.4%) 14.8人 (24.3%) 8 . 0 人 (22.9%) 14.0人 (23.0%) 14.3人 (40,7%) 31.2人 (51.1%)

*こ の他に, 日本人学生については全項 目に無回答の学生 1人 (1.6%)いた。

**20項目は,中 国人留学生の 「男 らしい」 という回答の多い順に並べた。

‑23‑―

(12)

力強い 責任感の強い 頼りになる リーダーシップのある 冗談のうまい 努力家 意志が強い 活動的な 不良っばい はっきり主張する 倉」造性のある 朗らか 積極的な 情熱的な おとなしい 話好きな やさしい 柔軟な 可愛い 繊細な

力強い 頼りになる 不良つぼい リーダーシップのある 責任感の強い

冗談のうまい 情熱的な 意志が強い 活動的な はつきり主張する 積極的な 努力家 朗らか 創造性のある 柔軟な 繊細な おとなしい やさしい 話好きな 可愛い

20%      40%      60%

図 1 0 「 男 ら しさ」「女 ら しさ」 の意識

80%      100%

( 中国人留学生)

*20項目は,中 国人 留 学生 の 「男 ら し い」 とい う回答 の 多いЛ贋に並べた。

■男らしい 国区男Jできない

□女らしい

*20項目は, 日本 人 学 生 の 「男 ら しい」

とい う回答の多い順 に並べた。

■男らしい 国区別できない

■女らしい

□無回答

20%      40%      60%      80%

図 1 1 「 男 ら しさ」「女 ら しさ」 の意識 ( 日本人学生)

―‑24‑一

(13)

これ らの性格特性 を どち らの性 に,よ り固有な規範意識 として捉えているかを観察 してみ ると,中 国 人留学生 と日本人学生 の間では両者 の順位 に多少 の異 同 こそあれ,そ の認知 の有 り様 に大 きな差 は見 ら れない。すなわち,双 方 ともく力強 い ><責 任感が強 い ><頼 りにな る>な どが概 ね男性 の規範意識 と して,<繊 細 な ><可 愛 い><や さ しい>な どが女性 の規範意識 として認知 されていて,そ れ らの認知 の有 り様 に逆転 があるとい ったよ うな大 きな差 はない。

興味深 いのは,「男 ら しさ 0女 らしさの区別 はで きな い」,つ ま り,そ の性格特性 に男性 ・女性 の規 範意識 での区別 はつ け られない とす る回答 は,中 国人留学生 よ り日本人学生 の ほ うが多 い。20項 目中 14項 目で, 日本人学生 の ほうが中国人留学生 よ り多 く 「区別で きない」 と してお り (表 13の ゴシ ック 体部分 を参照),両 者 のパ ーセ ンテー ジの差 も 10%以 上 開 いて い る もの (表 13の 下線部分 を参照)が

ほ とん どだ った (11/14項 目)3反 対 に,中 国人留学生 のほ うが 日本人学生 よ り多 く 「区別 で きない」

と している項 目における両国の学生 のパーセ ンテー ジの差 は小 さ く,10%以 上差があるのは<不 良 っぽ い ><話 し好 き>の みであ った。特筆すべ きは, 日本人 が 「区別 できない」 とよ り多 く認知 している性 格特性 は,両 国の学生 によ って 「男性 の規範意識」 に挙 げ られて い る もの,す なわ ち,<責 任感 が あ

る><リ ーダー シ ップのある><努 力家 ><は っき り主張す る>な どが多 い とい うことであ る。

5 考 察 ―留 学生 への 日本事 情教 育への ジ ェンダーの視 点 か らの示 唆 ―

5.1「 社会 にお ける男女 の遇 され方」 と 「社会 が平等 にな るた めの方策」 の分析 か ら

日本社会 における男女の遇 され方では,特 に<職 場 >に ついて,中 国人留学生が 日本人学生 より 「 等」だと認識 している割合が比較的高いという結果であった。中国人留学生 も日本人学生 も就業経験は ほとん どないが,中 国人留学生は日本人学生 に比べて現代 日本社会の差別構造への認識が低いようであ る。 また, 日本社会が男女平等になる方策 について も 「社会通念を変えることが最 も大切である」 とい う回答をす るなど, 日本社会で久 しくジェンダー問題の主軸 とされてきた 「性別役割分業への具体的な 改善策」 という視点か ら日本社会をほとん ど見ていないことが うかがわれた。 これは,中 国人留学生が 日本社会を見 るとき, 自身の中国社会の革命以前の 「性差別」の根源であった儒教的男尊女卑思想 とい う視点を超えて,新 たな目で 日本社会を見ていないことを示 しているのではないだろうか。

また, 自社会の不平等を改善する手立てとして 「自助努力」に負 うとしている回答が多か った。 この ことは, 自社会の農村部などにおける差別構造への認識の低 さをうかがわせ るなど,自 文化への振 り返 りが十分でないことを示唆 している。授業中に教師の立場か ら観察 していると

,中 国人留学生は自身 の国か らのブローカー結婚の花嫁の存在をほとん ど知 らない (知らされていない)こ とが分かる。 これ

も自文化への振 り返 りの不十分 さの一例 として挙げられるだろう。

これ らのことは,中 国人留学生が 日本で留学年数を重ねて も,社 会的 リソースを活用 して情報を取る 手立てを持たず, ともすれば自身が母国で得た皮相な見方のまま日本社会への分析が終わる恐れがある ことを示 している。社会的 リソースの適切な活用の仕方 と, ジェンダーなど現代 日本社会を見 る上で的 確な問題意識・視点を提示 して,そ れによって自文化 も見直 してみるよう指導す る必要性が示唆された。

5.2「 性 別役割 分業 に関す る意識」 の分析 か ら

中国人留学生 と日本人学生の双方 とも程度の差 こそあれ,性 別役割分業意識は厳然 と存在することが 分か った。

中国人留学生は自国を 「ジェンダー的な問題はかな り解決 されている社会」 と認識 している傾向が授 業中などにも観察 されるが, このような調査結果を元に,彼 らのジェンダ∵意識を もう一度彼 ら自身で 問い直 させる試みは, 自文化の捉え直 しという意味において, 日本事情教育をますます有益な ものとさ せ るだろう。

母親の就業状況」 と 「女性の就業に関する意識」の分析結果か ら,日本人学生の母親やその子供 (学

‑25‑

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