シ ンガポー ル にお ける高 齢者 とイ ン ドネシア 人家事 労働 者
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シ ンガ ポ ー ル に お け る高 齢 者 と イ ン ドネ シ ア 人家 事 労 働 者
伊 藤 眞
1は じ め に
本 稿 で は、 シ ンガ ポ ー ル にお け る高 齢 者 問 題 に関 す る政 策 的 側 面 とイ ン ドネ シ ア を 中心 と した外 国 人家 事 労働 者 につ い て 報 告 す る1)。
シ ンガ ポ ー ル の 高齢 者 対 策 を見 た場 合 、 い くつ か の 際 だ っ た特 徴 が 認 め られ る。 そ の ひ とつ は、 退 職 者 年 金 の有 無 で あ り、 も う ひ とつ は、 世 帯 内 にお け る高 齢 者 介 護 の 外 国人 労 働 者 、 と くに家 事 労 働 者 へ の 依存 で あ る。 年 金 にお い て 賦 課 方 式 を と り、 外 国人 労 働 者 を受 け入 れ な い 日本 と シ ンガ ポ ー ル で は著 しい 対 象 を なす 。 シ ン ガ ポ ー ル で は、 公 園や デ イ ケ ア セ ン ター で しば しば 車椅 子 に乗 る高 齢 者 を見 か け るが 、 そ の車 椅 子 を押 す 者 の多 くは、 海 外 か らの家 事 労働 者 で あ る。 シ ン ガポ ー ル政 府 は高 齢 者 介 護 にお い て家 族 の果 たす べ き役 割 を強 調 して い るが 、 現 実 に は、 各 世 帯 に住 み 込 み で 働 く、 外 国人 家 事 労 働 者 に よっ て大 半 の介 護 労働 が担 わ れ て い るの で あ る。
シ ン ガ ポ ー ル政 府 が 、 日本 と異 な り、積 極 的 に家 事 労働 者 を導 入 し よ う と してい る こ とは明 瞭 で あ る。 そ れ は、 最 近 、 家 事 労働 者 の 数 が 減 少 傾 向 にあ る に及 んで 、 政 府 が 毎 月 の 給 与 基 準 規 定 を引 き揚 げ る こ とで そ の流 れ を食 い 止 め よ う と して い る こ とか らも容 易 に見 て取 れ る。 一 方 で、 政 府 は ア ジ ア 的価 値 と して の 「家 族 主 義 」 を標 榜 す るの で あ る。 た だ し、この 一 見 あ い 矛 盾 す る政 策 につ い て、政 府 に と って も シ ン ガ ポー ル 国民 に と っ て も必 ず し も矛 盾 と は見 え な い よ う で あ る2)。 シ ン ガ ポ ー ル の 人 々 は、
実 際 、 高 齢 化 問 題 や 高 齢 者 介 護 を外 国 人労 働 者 に依 存 す る とい う現 実 を、 どの よ う に 受 け止 め て い る の で あ ろ うか。 そ う した 問題 意識 に 立 ち つ つ 、 まず は高 齢 者 と家 事 労 働 者 を支 え る制 度 的 側 面 につ い て見 て い くの が本 報 告 の 目的 で あ る。
本 報 告 にお け る デ ー タ は、 お もに2007年 〜2009年 に行 っ た 文 部科 学省 科 学研 究 費 補 助 金 に よ る調 査 研 究 「東 ア ジ ア に お け る高 齢 者 の セ イ フテ ィネ ッ トワー ク構 築 に向 け て の社 会 人 類 学 的 研 究 」(基 盤研 究(B))(研 究 代 表 者 伊 藤 眞)を 通 じて 収 集 した 資 料 に も とつ く。 筆 者 は そ の後 、 香 港 に お け る イ ン ドネ シア家 事 労働 者 につ い て も調 査 を継 続 中 で あ り、 比 較 の た め、 香 港 の状 況 に つ い て も随 時 言 及 す る。
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シ ンガポ ール にお け る高齢者 とイ ン ドネ シア人家 事労 働者皿 シ ンガ ポ ー ル の 人 口構 成
1人 ロ
シ ン ガ ポ ー ル の 面 積 は 東 京23区 あ る い は 淡 路 島 と ほ ぼ 同 規 模 で あ り、 そ こ に お よ そ500万 人(2010年 統 計 で は498.76万 人)の 人 々 が 暮 ら し て い る 。 シ ン ガ ポ ー ル の 人 口 構 成 を 見 る な ら ば 、 華 人 、 マ レ ー 人 、 イ ン ド系 住 民 に よ っ て 大 半 が 占 め ら れ る 。 2000年 統 計 に よ れ ば 、中 国 系(76.8%)、 マ レ ー 系(13.9%)、 イ ン ド系(7.9%)で あ り、
2009年 統 計 で は 、 中 国 系74.2%マ レ ー 系13.4%、 イ ン ド系9.2%で あ る 。 中 国 系 、 マ レ ー 系 が 若 干 減 少 して い る に 対 し て 、 イ ン ド系 の 割 合 が 増 加 す る 傾 向 に あ る 。
住 民 を 在 住 許 可 の カ テ ゴ リ ー 別 に 見 る と 、 市 民 、 永 住 者(permanentresidents)、
非 定 住 者 の 人 口(non‑residents)の3カ テ ゴ リ ー に 区 別 さ れ 、2010年 統 計 に よ れ ば 、 人 口498.76万 人 の 内 訳 は 、 市 民320D7万 人 、 永 住 者53.32万 人 、 非 定 住 者125.37万 人 で あ る 。 シ ン ガ ポ ー ル 人 口 の お お よ そ4人 に1人 が 非 定 住 者 に な る 。
全 体 の 増 加 率 は2009年 度 比3.3%増 で あ る の に 対 し て 、 そ れ ぞ れ の 増 加 率 は 、 市 民 がLl%、 永 住 者11.5%、 そ し て 非 定 住 者4.8%で あ る 。 全 体 の 人 口 増 加 率 よ り も市 民 人 口 の 増 加 率 が 低 い と い う こ と は 、 い う ま で も な く永 住 者 も し く は 非 定 住 者 と い う外 国 人 人 口 の 割 合 が 徐 々 に 増 加 し て い る こ と を示 す 。 な お 付 言 す れ ば 、非 定 住 者 の 場 合 、 前 年 度 は19%増 で あ っ た の に 対 し て4.8%増 と増 加 率 が だ い ぶ 落 ち 込 ん で い る が 、 そ れ は リ ー 万 シ ョ ッ ク 以 降 の 世 界 的 経 済 不 況 に よ る 企 業 活 動 の 停 滞(解 雇 な ど)の 影 響 で あ る と考 え ら れ る 。
2年 齢 別 人 ロ
つ ぎ に 『シ ン ガ ポー ル の人 口動 向』 に よ り、 年 齢 層 別 人 ロ に つ い て 見 て お こ う。
【表1シ ンガ ポ ー ル の 年 齢 層 別 割 合 】
年齢層 1990年(%) 2000年(%) 2010年(%) 20011年(%)
0〜14 23.0 21.9 17.4 16.8
15〜24 16.9 12.9 13.5 13.6
25〜34 21.5 17.0 15.1 14.8
35〜44 16.9 19.4 16.7 16.4
45〜54 9.0 14.3 16.6 16.7
55〜64 6.7 7.2 11.7 12.4
65〜 6.0 7.2 9.0 9.3
【PopulationTrends2011:2】 を も と に 作 成 。
1990年 と2011年 と を 比 較 す る と、15歳 未 満 の 人 口 割 合 は23.0%か ら16.8%へ と 減 少 し て い る の に 対 し て 、65歳 以 上 の 高 齢 者 人 口 は6.0%か ら9.3%に 上 昇 し て い る 。
シ ンガ ポー ルにお け る高齢 者 とイ ン ドネ シア人家 事 労働 者
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国 連 に よ れ ば 、 高 齢 化 社 会 の 定 義 と は 、65歳 以 上 の 割 合 が7%〜14%ま で の 社 会 と 定 義 さ れ る 。 こ の 定 義 に し た が え ば 、 シ ン ガ ポ ー ル は1999年 に 高 齢 化 社 会 の 仲 間 入 り し て い る 。 日 本 の 場 合 、 高 齢 化 社 会 に 入 っ た の は1970年 、14%を 超 え る 超 高 齢 化 社 会 に 達 し た の は1994年 で あ る が 、 シ ン ガ ポ ー ル は こ れ に 約30年 遅 れ て 高 齢 化 社 会 へ の 道 を 歩 み 出 し て い る こ と に な る 。
こ う し た 高 齢 化 の 加 速 化 の 要 因 と して は 、 平 均 余 命 の 長 期 化 と 特 殊 出 産 率 の 低 下 、 そ し て 非 婚 ・晩 婚 化 傾 向 が 指 摘 さ れ て い る 。2010年 度 の シ ン ガ ポ ー ル の 平 均 余 命 は 男 性 が79.3歳 、 女 性 が84.1歳 【ibid.:27】、 ま た 女 性 の 特 殊 出 産 率 は2009年 の1.22 人 か ら2010年 の1.15人 に 減 少 し て い る 。 ま た 、2011年 統 計 で は25〜29歳 男 性 の 74.6%、 同 女 性 の54%が 未 婚 で あ り、30〜34歳 男 性 の37.1%、 同 女 性 の25.1%が 未 婚 で あ る 。 こ れ ら数 値 は 過 去10年 を 見 て も 上 昇 傾 向 に あ る 【ibid.:5】。
皿 シ ン ガポ ール の 高 齢 化 政 策
日本 と比 較 す る な らば 、 シ ンガ ポ ー ル にお け る高 齢 化 は、 現 段 階 で は さ ほ ど深 刻 な社 会 問題 と して は 浮上 して い な い 。 け れ ど も、 高 齢 化 へ と向 か う速 度 にお い て は、 韓 国 と同様 に非 常 に急 ピ ッチ で 進 ん で い る こ とは 事 実 で あ り、 シ ン ガポ ー ルの 研 究 者 も注 目 して い る。 た とえ ば 、 日本 の高 齢 者 問 題 に も詳 しい シ ンガ ポ ー ル 大 学 のThangは つ ぎの よ う に述 べ て い る。
「過 去30年 間 に 、 人 ロ は 成 熟 化 し、 人 口 の 平 均 年 齢(中 間 値)は 、1970年 の20 歳 か ら1997年 に は32歳 に 上 昇 し た 。 現 在 、 人 口 の2/3(67.2%)は 、 生 産 年 齢 の 15‑59歳 で あ る 。60歳 以 上 の 高 齢 者 は 、1970年 の5.7%か ら今 日 は10.1%に 増 加 した 。 人 口 は 、 こ れ か ら30年 間 で も っ と 急 速 に 高 齢 化 す る 。 戦 後 の ベ ビ ー ブ ー マ ー 世 代 は 、 現 在30代 半 ば か ら50代 で あ る が 、2030年 ま で に 、60歳 以 上 の 高 齢 者 に な る 。 そ の 時 ま で に 、60歳 以 上 の 高 齢 者 は 、 人 ロ の24.8%に 増 加 す る と 予 測 さ れ て い る 。 人 口 の 平 均 年 齢(中 間 値)は 、40.5歳 に 上 昇 す る 。」 【Thang,LengLeng2006:56】
日本 は、 高 度 経 済 成 長 期 か らバ ブ ル破 綻 へ と突 き進 む 時期 と並 行 して 、 高 齢 化 社 会 か ら超 高 齢 化 社 会 へ と移 行 して い っ た。一 方 、高 齢 化 問題 に つ い て は後 発 の シ ン ガポ ー ル で は 、 高 齢 化 先 進 国 の 諸 事 例 と高 齢 化 に 関す る統 計 予 測 に も とづ きな が ら、 政 策 が 進 め られ て い る3)。 日本 と比 べ て、圧 倒 的 に小 さい 人 口 規模 と国 土 とい う条 件 の 中で 、 建 国 以 来 人 民行 動 党(PAP=Peoples'ActionParty)に よる一 党 独 裁 に近 い 、圧 倒 的 多 数 与 党 の も とで 、 政 策 立 案 か ら実 行 へ の プ ロセ ス が 迅 速 に進 め られ て い る のが 特 徴 で あ る4)。
冒頭 に述 べ た よ う に、 シ ン ガ ポ ー ル に お け る高 齢 者 政 策 の基 本 は、 ア ジ ア 的価 値5)
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シ ンガポ ール にお け る高齢者 とイ ン ドネシ ア人家 事労 働者と して の 「家 族 主 義 」 で あ る。 西 欧 にお け る個 人 主 義 とは異 な り、 社 会 の基 礎 とな る は 、個 人 で は な く家 族 で あ り集 団 で あ る とい うの が 、 長 年 シ ンガ ポ ー ル を率 い て きた リー ・ク ア ンユ ー の い う 「ア ジア 的 価 値 」 の 基 礎 と な る考 え方 で あ る。 しか し、 言 説 の レベ ル で は 、個 人 主 義(西 欧 的)と 対 比 され る こ との 多 い 「家 族 主義 」(アジ ア 的)が 、 実 際 の 政 策 レベ ル に お い て は個 人 主 義 よ り もむ し ろ社 会 主 義 的 な 考 え方(福 祉 国 家)
と対 比 され 、 強 調 され るの が 、 シ ン ガポ ー ル の 国 家 的 コ ン テ キス トにお け る特 徴 の よ うに 見 え る。 とい うの は、 「英 国 とス ウ ェ ー デ ン の福 祉 コス トを見 て 、 我 々 は、 政 府 を弱 体 化 す る シ ス テ ム を避 け な け れ ば な ら ない と思 った 。 福 祉 は 自助 の精 神 を ひ そ か に 害 す る 。 家族 の 幸 せ の た め に働 く必 要 が ない の だ か ら。 我 々 は、 男 が 自分 の家 族 す な わ ち両 親 、 妻 お よび 子 ど もに 責 任 を持 つ 儒 教 の 伝 統 を補 強 す るの が 最 善 と考 え た。」
【リー ・ク ア ンユ ー:99】 とい う リー の記 述 に示 され る よ う に、 シ ン ガ ポー ル の指 導 者 た ち の多 くは 、国家 に多 くの負 担 を強 い る 「福 祉 国家 」 的政 策 に対 して 否 定 的 で あ り、
そ の代 替 と して 家 族 の 負 担 を強 調 す る か らで あ る6)。 そ う した 考 え方 が も っ と も明確 に 表 れ て い る の が 、 「中央 積 立 基 金 」(CentralProvidentFund=CPF)制 度 で あ る。
1CPF制 度(CentralProvidingFund、 中 央 積 立 基 金)
シ ンガ ポ ー ル に は 、 日本 に お け る よ うな 世 代 間 受 け 渡 し型 の 公 的 年 金 制 度 は存 在 し な い。 ま た 、失 業 保 険 制 度 、国 民健 康 保 険 に相 当 す る もの も存 在 しない 。 そ れ に代 わ っ て あ る の は、 シ ンガ ポ ー ル 市 民 及 び 永 住 権 を保 持 す る給 与 所 得 者 す べ て に強 制 的 に課 せ られ る 個 人 積 立 型 のCPF制 度 で あ る。CPF制 度 の 始 ま りは イ ギ リス 統 治 時 代 に遡 る が7)、 当 初 は給 与 所 得 者 を前 提 と して 始 め られ た制 度 も徐 々 に 対 象 を拡 大 す る こ と で今 日で は社 会 全 体 に浸 透 して い る8)。そ れ を要 約 す る とお お よそ つ ぎの よ うで あ る。
給 与 所 得 者 は会 社 勤 務 を始 め る と同 時 に、 各 自がCPF局 に個 人 口座 を もつ こ と を義 務 づ け られ る 。 そ の ロ座 に給 与 の 一 定 割 合 の 額 を雇 用 者 側 及 び給 与 所 得 者 が 毎 月 積 み 立 て て い く。 雇 用 者 側 及 び給 与所 得 者 の拠 出 割 合 は 、 職 種 ・給 与 所 得 者 の 年 齢 に よ っ て若 干 異 な る が 、基 本 的 に は20%が 給 与 所 得 者 、14.5%が 雇 用 者 で あ る。 この 積 立 金 は給 与 所 得 者 本 人 に所 属 す る が 、家 族 の 入 院 費 、 子 ど もの 教 育 費 、 住 居 購 入 費 な どの 資 金 を 必 要 とす る場 合 を除 い て は 、 本 人 以 外 の者 がCPFの 貯 蓄 を使 用 す る こ と はで きな い。さ らに、本 人 も55歳 の 退 職 年 齢 に達 す る ま で貯 蓄 を 引 き出 す こ とは で きな い 。 ま た 、CPFの 貯 蓄 に は一 定 の 利 子 が つ き、 本 人 は 随 時 貯 蓄 総 額 を確 か め る こ とが 可 能 で あ る9)。
CPF制 度 は、 こ の よ う に優 れ た 透 明性 を もつ 先 進 的 な 制 度 で は あ る が、 た だ し、
近 年 つ ぎの よ うな 問題 点 の指 摘 もあ る 。す な わ ち 、2011年 の ア ンケ ー ト調 査 に よれ ば 、 回答 者 の70%が 退 職 時 に 引 き出 し可 能 な 最 低 貯 蓄 額(2009年 現 在11万7000シ ン ガ ポ ー ル ・ ドル)で は、 退 職 後 の生 活 に不 十分 と答 え て い る こ と に示 され る よ う に、 自 助 努 力 型 のCPF預 金 で は 長 期 間 に わ た る老 後 を 維 持 で き な い とい う 問題 で あ るlo)。
シ ンガポ ール にお け る高齢者 とイ ン ドネシ ア人家 事労 働者
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これ に は イ ン フ レ に よる 物 価 高 がCPF貯 蓄 の実 質 的 目減 りを 引 き起 こ した こ と に加 え、 平 均 余 命 の長 寿 化 に と もな い、 退 職 後 の生 活 の 長期 化 を人 々 が 意 識 し始 め た こ と も帰 因 す る とさ れ る。
2メ デ ィセ イ ブ(medisaveaccount医 療 ロ座)、 メデ ィ シ ール ド
メ デ ィセ イ ブ と は、CPFの 一 部 と して 自動 的 に 給 与 か ら控 除 さ れ 、積 み 立 て られ る もの で 、 シ ンガ ポ ー ル型 の 医療 制 度 で あ る 。 そ の積 立金 は 、加 入 者 や そ の 直 系 親 族 の 医療 費 と し て 引 き出 し可 能 で あ る。55歳 とな る加 入 者 は1万2000シ ンガ ポ ー ル ・
ドル を退 職 後 の 医療 費 と して メ デ ィセ イ ブ の 口座 に貯 蓄 して お くこ と を義 務 づ け られ て い る。 ま た、55歳 未 満 の 加 入 者 は、1万7000シ ンガ ポ ー ル ・ドル に達 す る まで メデ ィ セ イ ブ に貯 蓄 を続 け る こ とが求 め られ て い るll)。
一 方 、 いわ ゆる公 的医療保険 にあた るのが メデ ィシー ル ドであ る。 これはCPF口 座 を 開 い た時 点 で加 入 可 能 で あ り、 年 間保 険料 は 年齢 層 に よ って 定 め られ て い る。 た だ し、 中 田(2009)に よれ ば、2005年 現 在 で の 加 入 率 はCPF口 座 開 設者 の約54%に す ぎな い。 公 立 病 院 の入 院治 療 費及 び 高額 検 査 な ど に使 用 され るが 、 通 常 外 来 や 歯 科 治 療 な どに は適 応 しな い。
3介 護 保 険 制 度(Eldershield/EldershieldSupplimants)
2002年 に 創 設 さ れ た 制 度 で あ り、40歳 以 上 の す べ て の 国 民 ・永 住 権 保 持 者 に 加 入 が 義 務 づ け ら れ て い る 。 月 間 保 険 料 は 収 入 に 関 係 な く400シ ン ガ ポ ー ル ・ ド ル 、 EldershieldSupplementsの 場 合 は 月 額600シ ン ガ ポ ー ル ・ ド ル で あ り、72ヶ 月 間 納
め る と介 護 保 険 の 受 給 資 格 者 と な る 。保 障 内 容 は 介 護 施 設 の 入 所 料 、リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン費 用 な ど で あ る 【中 田:56】 。
4住 宅 制 度
シ ン ガ ポ ー ル で は 国 民 の8割 以 上 が 、HousingDevelopmentBoard(=HDB、 住 宅 開 発 局)が 建 設 し た 公 営 ア パ ー ト(通 称HDBと 呼 ば れ る)に 居 住 し 、 持 ち 家 率 も 84%を 超 え る 。 日 本 の 持 ち 家 率 が 平 均60%で あ る こ と と 比 較 す れ ば そ の 高 さ が わ か る だ ろ う 。 た だ し、 シ ン ガ ポ ー ル で は34歳 ま で は 且DBの 住 宅 を 購 入 で き な い 。 そ の 結 果 と し て60歳 以 上 の 高 齢 者 の85%が 子 ど も と 同 居 し て い る 。 先 の 購 入 制 限 は 、 老 親 と の 同 居 を 促 進 す る か も し れ な い が 、 同 時 に 未 婚 の こ ど も の 経 済 的 自 立 を 妨 げ る 傾 向 に あ る 。
公 営 ア パ ー トの 大 半 が 分 譲 で あ り、部 屋 の タ イ プ は1ル ー ム(35㎡)、2ル ー ム(50
㎡)、3ル ー ム(70㎡)、4ル ー ム(100㎡ 、2004年 で 、2000万 〜3100万 円)、5ル ー ム(120㎡)、 エ グ ゼ ク テ ィ ブ(150㎡)に 分 か れ る12)。 親 世 帯 と の 同 居 も し く は 近 接 居 住 を 望 む 者 に は 、 優 遇 措 置 が と ら れ る13)。 ま た 子 ど も が 独 立 し た 老 親 世 帯 に は 、
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シ ンガポー ル にお ける高 齢者 とイ ン ドネ シア人 家事 労働 者部 屋 数 の 少 な い低 層 の住 宅 との交 換 ・譲 渡 の斡 旋 も行 わ れ て い る(相 互 交換 制 度)。
シ ンガ ポ ー ル に お け る持 ち家 率 の 高 さ は 、住 宅 の分 譲 ・購 入 につ い てCPF貯 蓄 か ら拠 出可 能 な こ とに よ っ て もた ら され る と言 っ て よい だ ろ う。 シ ンガ ポ ー ル 市 民 の 多 くが 自分 の 住 居 を確 保 し、 一 定 の豊 か さを享 受 す る 、 そ れ は今 や 日本 よ りも高 い 個 人 当 た り年 間所 得 の 数 値 に よ っ て も示 さ れ て い る。 そ の基 盤 を支 え て い るの が 、 先 に述 べ て きた 個 人 貯 蓄 型 の 中央 積 立 基 金 制 度(CPF)な の で あ る14)。
亙 高 齢 者 と コ ミ ュ ニ テ ィ ・セ ン タ ー 、 ボ ラ ン テ ィ ア 団 体
1シ ン ガ ポ ー ル に お け る コ ミ ュ ニ テ ィ
シ ン ガ ポ ー ル は5つ の コ ミ ュ ニ テ ィ 開 発 協 議 会(CDC=Commumity
DevelopmentCoucil)に 対 応 す る5の 地 域(zone)に 分 け ら れ 、 さ ら に そ れ ら は 合 わ せ て28区 画(district)に 区 分 さ れ る 。 そ れ ぞ れ の 区 画 に は3〜4の コ ミ ュ ニ テ ィ ・ セ ン タ ー(も し く は コ ミ ュ ニ テ ィ ・ク ラ ブ)が 置 か れ 、 計108の 数 に 達 し て い る 。 な お 、 こ こ で 用 い ら れ る 「コ ミ ュ ニ テ ィ 」 と い う語 は 行 政 上 単 位 で あ り、 伝 統 的 な 集 落
(カ ン ポ ン)と も エ ス ニ ッ ク ・コ ミ ュ ニ テ ィ と も 無 関 係 で あ る 。
現 在 の シ ン ガ ポ ー ル に は 、 エ ス ニ ッ ク ・コ ミ ュ ニ テ ィ の 棲 み 分 け は も は や 存 在 し な い と い っ て い い15)。 地 域 に よ りマ レ ー 人 人 口 の 割 合 が い く ら か 高 い 地 域(た と え ば 南 東 地 域 や 北 地 域)は あ る も の の 、 そ れ は 住 民 人 口 に お け る 相 対 的 割 合 の 高 さ を示 す だ け の も の で あ っ て 集 住 を 意 味 す る も の で は な い 。1970年 頃 ま で に は 、 各 地 に 残 存 し て い た エ ス ニ ッ ク 集 住 地 域 は 取 り壊 わ さ れ 、 そ こ に は 新 た な 団 地 群 が 建 設 さ れ て い っ た 。 且DB(住 宅 開 発 局)は 各 人 種16)の 混 住 を 推 進 し、 そ の 結 果 、 各 団 地 に は 、 CMIO、 す な わ ち 、 華 人 系 、 マ レ ー 系 、 イ ン ド系 、 そ の 他 と い う 人 種 区 分 に も とつ く 人 々 が 混 在 す る よ う に な っ た 。 し か も そ う した 「多 人 種 」 か ら な るHDB公 設 団 地 に 、 シ ン ガ ポ ー ル 市 民 ・永 住 者 の84%が 暮 し て い る17)。 そ れ ら の 団 地 居 住 者 を 主 な 対 象 に 、 コ ミ ュ ニ テ ィ 開 発 協 議 会 は 、 人 種 的 調 和 と 世 代 的 連 帯 を 謳 い 、 そ の 実 践 に コ ミ ュ ニ テ ィ ・セ ン タ ー が 推 進 役 と な っ て い る 。
2コ ミュ ニ テ ィ ・セ ンタ ー 、 ボ ラ ンテ ィア 団体
高齢 者 福 祉 に 関 して コ ミュ ニ テ ィ ・セ ン ター は 、 先 に挙 げ た 高 齢 者 に 関 わ る行 事 を 主 催 す るが 、 デ イ ケ ア な ど高 齢 者 向 け の 日常 的 な実 践 を担 っ て い る の は、 コ ミュ ニ テ ィ ・セ ン ター の管 理 下 に あ る ボ ラ ンテ ィア 団体 で あ り、 ボ ラ ン テ ィ ア団 体 な く して 高 齢 者 福 祉 は運 営 で きな い ほ どそ の役 割 は 大 きい 。 ボ ラ ンテ ィ ア団 体 に は ミ ッシ ョ ン 系 な ど宗 教 的背 景 を もつ もの が 大 半 で 、 団体 を支 え るの は中 高 年 の 婦 人 や 退 職 後 の 男 性 メ ンバ ー な どで あ り、 そ こで は 前期 高 齢 者 が 後 期 高 齢 者 を支 援 す る形 態 を とる こ と が 多 い18)。 ボ ラ ン テ ィア 団 体 の 活 動 の場 の 多 くは 、 団 地 の1階 の ス ペ ー ス を利 用 し
シンガ ポー ル におけ る高齢 者 とイ ン ドネ シア人 家事 労働 者
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て い る の で、 近 隣 の 団地 居 住 者 が容 易 に参 加 可 能 で あ る。 なお 、 各 コ ミュ ニ テ ィ ・セ ン ター は そ れ ぞ れ の地 区 の福 祉 の み な らず 文化 ・ス ポ ー ツの 催 事 の 中心 で も あ る。 ま た 「コ ミュ ニ テ ィ開発 及 び 青 年 ・ス ポ ー ツ」 省(MCYS)が 推 進 す る ア ク テ ィ ブエ イ ジ ング運 動 を推 進 す る担 い 手 で もあ る。
V家 事労働の国際化
1国 際 市 場 と して の 家 事 労働
まず 、 外 国人 家 事 ・介 護 労 働 者 が東 南 ア ジ ア ・東 ア ジ アで 受 け入 れ られ る よ う に な る の は、 香 港 が1974年 、 シ ン ガ ポ ー ルが1978年 で あ り、 これ に十 数 年 遅 れ て台 湾 で は1992年 に、 さ ら に韓 国 で は2002年 に始 ま る 【新 里2006:2】。 香 港 や シ ンガ ポ ー ル にお け る 当初 の ニ ー ズ は、 欧米 の外 国 人駐 在 員 世 帯 か らの もで あ っ た。 そ う した ニ ー ズ に い ち早 く対 応 した の は フ ィ リ ピ ンで あ り、1974年 に は 大 統 領 令 に よ り 「海外 雇 用 開発 局 」 が 設 置 され て い る。
1980年 代 、 著 しい 経 済 発 展 の 中 に あ っ た香 港 、 シ ンガ ポ ー ル で は 、 新 中 間層 の 生 長 が 見 られ 、 女 性 の社 会 進 出が 進 む。 また従 来 の家 政婦(香 港 の 場 合 、 そ の 多 くは大 陸 出 身 の 女 性 で あ っ た)は 、 と うに職 場 を世 帯 か ら工 場 へ 移 して い た 。 そ う した 女 性 労 働 の再 編 の 中 で新 た に 生 まれ た 「家 事 ・介 護 」 とい う労 働 が 国 際 的 市 場 を通 じて 、 相 対 的 に貧 しい ア ジ ア の 国 々 の女 性 を 引 きつ け る こ とに な るの で あ る。香 港 や シ ン ガ ポ ー ル の女 性 は、 男 女 同権 とい う流 れ の な か で 新 しい社 会 的 場 を獲 得 して い っ た が、
彼 女 らの 自 由 を支 え た の は、 貧 しい 隣 国、 あ る い は遠 い 国 か らや って 来 る肌 の 色 を事 にす る女 性 た ちだ っ た ので あ る。
【表2シ ンガ ポ ール にお け る外 国 人 家 事 労 働 者(推 計 値)】
出身国 1991 1993 1995 1999 2004
ブ イ リ ピ ン 30000 50000 55000 40000‑50000 60000‑70000
ス リ ラ ン カ 10000 17000 8000 一 12000
イ ン ドネ シ ア 5000 10000 15000‑18000 50000‑60000 50000‑60000
そ の 他 5000 4000 一 一 一
計 50000 81000 80000‑85000 100000 140000
上 に 掲 げ た 【表2】 は シ ンガ ポ ー ル に お け る外 国人 家 事 労 働 者 の概 数 で あ る。 シ ンガ ポ ー ル で は 出 身 地 別 の 移 民 統 計 を公 表 して い ない が 、 そ の総 数 は17万 人 前 後 で あ り、
そ の うち で は フ ィ リ ピ ン、 イ ン ドネ シ ア出 身 者 が もっ と も多 くを 占 め、 こ れ に ス リラ ンカ が 続 く と考 え られ て い る 。 な お 家 事 労 働 者 と して働 くた め に は、 月収2500シ ン ガ ポ ー ル ・ドル の 非 熟 練 労 働 者 に適 用 され る 「労 働 許 可 」(workpermit)の 取 得 が
26
シ ンガポー ル にお ける高 齢者 とイ ン ドネシア 人家事 労働 者義 務 づ け られ て い る 。
【表3イ ン ドネ シ ア男 女 別 国 際 労 働 移 民 数2002‑2008】
年 男性 女性 総計
数 (%) 数 (%)
2002 116,779 24.31 363,614 75.69 480,393 2003 80,041 27.24 213,824 72.76 293,865
2004 84,075 22.08 296,615 77.92 380,690
2005 149,265 31.46 325,045 68.54 474,310
2006 138,000 20.29 542,000 79.71 680,000 2007 152,887 21.94 543,859 78.06 696,746
2008 一 一 一 一 196,635
(出 典:Skamdi2008)
【表3】 は イ ン ドネ シ ア に お け る2002年 〜2008年 の 国 際 労 働 移 民 数 で あ る。 男 性 労 働 移 民 に比 して圧 倒 的 に女 性 労 働 移 民 が多 く、 通 年 平 均 で75.4%を 占 め る。 そ れ らの 女 性 の大 半 は家 事 労 働 者 と して の労 働 移 民 と考 え て よ い だ ろ う。 ま た、2002‑2007年 の6年 間 に お い て男 性 労 働 者 は30%の 増 加 率 、 こ れ に対 して 女 性 労 働 者 の 増 加 率 は 45%で あ り、 そ の 数 値 か ら も女 性 労 働 移 民 が 占 め る割 合 が 年 々 高 くな って い る こ とが 理 解 で きよ う。
2家 事 労 働 者 は ど こ か ら来 る の か一 イ ン ドネ シ ア の 場合
1970年 〜1980年 代 、 イ ン ドネ シ ア政 府 は、 国 内 で は 家 族 単 位 の トンス ミ グ ラ シ政 策19)が 進 め られ る一 方 、 女 性 を 海外 に 送 り出 す こ と に熱 心 で は なか っ た。 そ の 当 時 、
イ ン ドネ シ ア政 府 は、 女 性 を 開発 の基 本 単位 と して の 家 族 を担 う主 婦 と し て位 置 づ け て い た20)。 した が っ て、 移 民 労 働 者 と して の 女 性 とい う役 割 は 視 野 の外 に あ っ た の で あ る。こ う した 状 況 下 にお い て 、す で に イ ン ドネ シ アで は国 際 的 な労 働 移 民 が 始 ま っ て い たが 、 そ の 当 時 は男 性 中心 で あ り、 また 目的 地 も今 日見 られ る よ う な東 ア ジ ア 圏 (シ ンガ ポ ー ル 、香 港 、 台湾 、 韓 国 な ど)よ りも、 中東 諸 国 、 そ して マ レー シ アが 多 くを 占 め た。 また 、 と くに 隣 国 マ レー シ アへ の 労 働 移 民 は多 くの 場 合 、 イ ンフ ォ ー マ ル な ル ー トを通 じた もの で あ り、 移 民 の 送 り出 し を支 援 す る 国家 的 な体 制 は用 意 さ れ て い な か っ た21)。
【移 民 産 業 】
イ ン ドネ シ ア に お け る 労 働 移 民 の 公 的 な 送 り 出 し は 、 移 民 産 業 の 発 展 と密 接 に 結 び つ い て い る 。 移 民 産 業 の 主 役 は 斡 旋 会 社(pJTKI=Perusahaanjasatenagakerja
シ ンガポ ール にお け る高 齢者 とイ ン ドネ シ ア人家 事労働 者
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Indonesia「 イ ン ドネ シ ア労 働 力 斡 旋 会 社 」)で あ る。PJTKIが=登 場 す るの は1980年 代 だ が 、 イ ン ドネ シ ア政 府 が そ の 法 制 化 に乗 り出 した の は1995年 で あ り、 同年 に は 政 府 支 援 の肝 い りでPJTKI協 会 が 設 立 され た。PJTKIの 役 割 とは 、 将 来 の移 民 労働 候 補 生 を仲 介 人 や 紹 介 者 を通 じて リ ク ル ー トし、 そ れ ら候 補 生 を海 外 の 雇 用 者 側 の ニ ー ズ に合 わ せ て 訓 練 ・教 育(派 遣 先 の言 語 、 習 慣 を含 む)を 施 し、 派 遣 先 が確 定 し た 後 は 、 さ ら に候 補 生 を海 外 に送 り出す た め の法 的書 類 を整 え 、 派遣 先 の 業者 と提 携
し、 移 民 労 働 者 が 雇 用 主 の と こ ろ まで 送 り届 け る こ とで あ る。PJTKIは 大 小 あ わ せ て お よそ500社 あ る とい わ れ、 そ の9割 が ジ ャワ 島、 と くに ジ ャ カル タ に集 中 して い
る。 ち なみ に、 南 ス ラ ウ ェ シ州 で は マ カ ッサ ル市 に1社 の み存 在 す る に過 ぎ ない 。 イ ン ドネ シ ア で 海 外 へ の家 事 労 働 者 の 送 り出 しが 活 発 化 す る の は 、1990年 代 以 降 の こ とで あ る。 送 り出 し地 域 と して は圧 倒 的 に ジ ャ ワ島 が多 く、 中 東 方 面 に は西 ジ ャ ワか ら、 シ ン ガ ポー ル、 香 港 、 台 湾 へ は東 ジ ャワ、 中 部 ジ ャ ワか らが 多 い な どい くら か 地 域 的 な偏 りが 認 め られ る。
家 事 労 働 者 候 補 者 は 仲 介 人 の勧 誘 な どを 通 じてpJTKIに 登 録 す る22)。pJTKIの 訓 練 所 で は、 短 い 者 で 数 週 間、 長 い者 で は1年 近 くの 訓練 期 間 を過 ごす 。 派 遣 国 の エ ー ジ ェ ン トを通 じて雇 用 者 が 見 つ か っ た とい う連 絡 が あ る まで待 機 す るの で あ る。 訓 練 所 内 で は、 厳 しい 規 律 と監 視 下 に置 か れ る。 寝 起 きは20人 、 あ る い はそ れ以 上 の 者 が 同 室 す る こ と もあ り、 洗 面 所 の数 も十分 に確 保 され て い な い場 合 が 多 い 。 また 家 事 労 働 者 候 補 生 は外 出 も許 さ れず 、 家 族 との面 会 も週 末 に 限 られ る。 制服 の 着 用 を義 務 づ け られ 、短 い 髪 が 強 制 され る。 緊 張 を強 い られ る訓 練 所 の 生 活 で は、時 折 ヒス テ リー を起 こす 者 や 逃 亡 す る者 も あ る とい う23)。家 事 労 働 者 の 多 く は 中卒 で あ り、 稀 に 高 校 卒 業 の者 が 見 い だ され る にす ぎな い 。 中 学 校 を 卒 業 後 、 家 事 、 家 の 生 業 の 手 伝 い、
工 場 労 働 、 あ る い は、 そ の 間 に結 婚 ・出 産 を経 て 海 外 に赴 く。 現 在 シ ンガ ポ ー ル で は、
規 定 上 は23歳 以 上 が 条 件 だが 、 多 くの 候 補 生 は 実 年 齢 よ り も数 歳 上 乗 せ した 年 齢 を 申告 してい る場 合 が 多 い24)。
【輸 出 商 品 と して の 女性 家 事 労 働 者 】
イ ン ドネ シ ア で は、 新 聞 記 事 な どで彼 女 ら に対 して 「外 貨 獲 得 の英 雄 」(pahlawan devisa)と い う通 称 が用 い られ る 。実 際 、2007年 に お い て は、彼 女 らに よる外 貨 獲 得(海 外 送 金 額)の 総 額 は、71億 ドル に達 した と さ れ 、 そ れ は 同年 にお け る 国 家 歳 入 の 一 割 を 占 め た とい う。
しか し、 家 事 労 働 者 は 「英 雄 」 と して持 ち 上 げ られ る反 面 、 し ば し ば 「犠 牲 者 」 と して も見 な さ れ て い る。 と りわ け 中東 諸 国へ 向 か った 労働 者 が 現 地 で 暴 力 行 為 を受 け た 結 果 、 身 障 者 に な っ た り、 半 死 半 生 の状 態 で 帰 国 した とい う報 道 が しば しば な され る。 さ らに、 性 的暴 行 を受 け た被 害 者 で あ る に もか か わ らず 、加 害 者 に反 撃 した ため に現 地 で 被 告 と な り、 無 慈 悲 な判 決 を下 さ れ た 例 も多 々 あ る。2011年 、 と りわ け サ
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シ ンガポ ール にお け る高齢者 とイ ン ドネシ ア人家 事労働 者ウ ジ ア ラ ビア に お い て は 、雇 用 者 殺 害 の被 告 と な った 女 性 労 働 者 に対 す る死 刑 執 行 が イ ン ドネ シ ア側 に な ん の事 前 通 告 もな くな され た とい うニ ュー ス は、 国民 的 恥 辱 と し て大 きな 国民 的反 響 を 呼 ぶ こ とに な っ た 。 サ ウ ジ ア ラ ビ アで は イ ン ドネ シ ア人 家 事 労 働 者 に対 す る暴 行 事 件 が多 発 して い る に もか か わ らず 人 権擁 護 な どの 観 点 か らの法 整 備 が 決 定 的 に遅 れ て い る こ とを理 由 に、 イ ン ドネ シ ア政 府 は2011年8月 よ りサ ウ ジ
ア ラ ビ アへ の家 事 労 働 者 の送 り出 し を中止 す る決 定 を行 う に至 って い る。
3家 事 労 働 者 の生 活
シ ンガ ポ ー ル で も香 港 で も、 家 事 労 働 者 は雇 用 者 宅 の住 み 込 み が 条 件 で あ る。 しか し、 雇 用 者 宅 で ど の よ うな 居 住 空 間 が与 え ら れ る か は 、 か な り偏 差 が あ る。 一 般 に 、 比 較 的 自 由が 与 え られ る の は 欧米 人 の家 庭 で あ り、個 人 部屋 を与 え られ る場 合 が 多 い
とい うが25)、 一 般 家 庭 で は そ うで は な く、 台所 の 床 にマ ッ トを敷 い た り、 あ る い は 、 子 ど もや 高 齢 者 の い る部 屋 に マ ッ トを敷 く こ とで よ うや く身体 を安 め る場 所 を確 保 す
る とい った 例 も少 ない 。
「この お ば あ ち ゃ ん に と っ て、 私 は4人 目の メ イ ドで 、2年 ご と に メ イ ドを替 え て きた よ うで す 。 私 の 場 合 、 今 ま で1年 間働 い た の で あ と残 り1年 で す 。寝 る場 所 は 台 所 にマ ッ トを敷 い て い ます 。私 は ク リス チ ャ ンの 家 庭 に育 ち ま した。シ ン ガポ ー ル へ 来 る前 はス マ ラ ン市(ジ ャ ワ 島 東 部 の都 市 二筆 者)に あ るPJTKIで1ヶ 月 間 にわ た って 英 語 と料 理 の 訓 練 を受 け ま した。 お ば あ ち ゃ ん は、 朝4時 〜5時 の 問 に 起 きて まず 聖 書 を読 み ます 。 そ れ か ら7時 に朝 食 を と ります 。 私 が 起 き るの は朝5 時 半 頃 で す 。 夜 、 お ば あ ち ゃん は9時 に就 寝 します 。 そ の前 に お湯 を沸 か し、 お ば あ ち ゃ ん を お風 呂 に入 れ ます 。 これ ま で休 暇 は与 え られ て い ませ ん 。」(ス ワ ル ニ、
24歳 、 中 部 ジ ャ ワ 出身)
ス ワル ニ は イ ン ドネ シア 人 で あ りなが らキ リス ト教 徒 で あ る こ とが メ イ ドと して採 用 され た 理 由 で あ る ら しい 。 彼 女 の 話 しか らわか る よ うに、 寝 場 所 は台 所 で あ る。
シ ンガ ポ ー ル の家 事 労働 者 の 間 で しば しば 問 題 に な って い る の は定 期 休 暇 の 問題 で あ る 。香 港 で は、 法 律 に よ り雇 用 者 は週1回 家 事 労働 者 に24時 間 の休 暇 を与 え る こ とが義 務 づ け られ て い る が 、 シ ンガ ポ ー ル で はそ う した 法 令 化 は進 ん で い な い。 休 暇 を得 る か否 か は 、結 局雇 用 者 側 の 裁 量 に よ る場 合 が 多 い 。
「私 は2年 間 の 契 約 で こ の お ば あ ち ゃ ん の と こ ろ で働 い て い ます 。 市 場 へ 買 い 物 に行 っ た機 会 に友 だ ち が で き ま した が 、 あ ま り話 す 時 間 は あ りませ ん。 こ の お ば あ ち ゃ ん は、 少 しな らば 自分 で歩 け る し、 風 呂 に 入 る こ と もあ ります 。 で も、 一 度 、
シ ンガポー ル にお ける高 齢者 とイ ン ドネ シア人 家事 労働 者
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風 呂場 で うず くまっ て い た こ とが あ り、 心 配 しま した 。 自分 の 部 屋 を与 え られ て い て 、 暇 な と きは ラ ジ オ を聴 き ます 。 毎 朝6時 半 に起 きて 、夜 は9時 半 か ら10時 頃 に寝 る 生 活 で す 。 イ ス ラー ム の お 祈 りをす る と きは、 ドア を しめ て礼 拝 します 。 イ ス ラー ム寺 院 まで は 遠 くて徒 歩 で は行 け ませ ん。 なお 、 豚 肉 を使 用 す る料 理 は しな い こ と に な っ て い ます 。 休 暇 は ま だ も らっ た こ とが あ りませ ん。」(ワ テ ィ、23歳 、 中 部 ジ ャワ 出 身)
ワ テ ィに よれ ば 、働 き始 め て まだ 半 年 で 、 そ の 間一 度 も休 暇 を も らっ て い な い とい う。彼 女 の場 合 、個 室 は 与 え られ て はい る もの の 、 友 人 を作 っ た り、 友 人 と会 っ て話 す 機 会 は ほ とん どな い 。 た だ し、 イ ス ラー ム 教 徒 で あ る こ とは尊 重 され てお り、 豚 肉 料 理 の調 理 は任 され て され て い な い 。
シ ン ガ ポ ー ル で働 く家 事 労 働 者 に は、 定 期 的 な休 暇 が 認 め られ な い ケ ー ス が 多 い が、 そ れ だ か ら とい っ て 、 ワテ ィの よ う に大 半 の 生 活 時 間 を雇 用 者 宅 で 過 ご し、 外 部 か ら隔 て られ た環 境 に 置 か れ て い る者 ば か りで は必 ず しも ない 。 …携帯 電 話 は彼 女 らに とっ て 必 需 品 で あ り26)、同 じ訓 練 所 出 身 の 仲 間、 雇 用 者 との 買 い 物 先 や 子 ど もの 送 り迎 え で 出会 っ た 同郷 者 、 あ る い は 、 車椅 子 を押 して 高 齢 者 を連 れ て 行 っ た デ イ ケ ア 先 で も同 じ同業 者 に 出 会 う機 会 は あ る。 一 方 、香 港 で は イ ン ドネ シ ア人 家 事 労 働 者 が 参 集 す る場 所 と して ビク トリア 公 園 が 著 名 だ が 、シ ンガ ポ ー ル で は シテ ィ ・プ ラザ(ゲ イ ラ ン)、 マ リ ン ・ス ク ウ ェ ア(シ テ ィ ・ホ ー ル)な どが た まの 休 暇 を楽 しむ 場 所 と
して 知 られ る。 シ テ ィ ・プ ラ ザ 入 り口 の 横 に は 、 「ル ピ ア ・イ クス プ レス 」(Rupiah Express)と い う名 の イ ン ドネ シ ア 向 け の 海 外 送 金 所 もあ り、 日曜 日に は 故 郷 の 家 族 へ 仕 送 りす る娘 た ち が列 を な して い る 。
しか し、 多 くの家 事 労 働 者 に とっ て休 暇 は 、 た ん に友 人 と食 事 や 会 話 を して す ごす た め だ け の もの で は な い 。2003年 か ら イ ン ドネ シ ア大 使 館 は、 ボ ラ ン テ ィ ア に よ り 英 語 、 中 国語 や裁 縫 を学 ぶ場 を提 供 して い る。 あ るい は、 通 信 教 育 を利 用 し高 校 や 大 学 な ど高 等 教 育 の キ ャ リア ア ップ を 目指 す 者 もい る。 なか に は、 日曜 日はマ ルチ 商 法 ビ ジ ネ ス な どを副 業 と して行 う者27)や 、 家 事 労 働 で 得 た収 入 を元 手 にバ タム 島(イ
ン ドネ シ ア領 。 シ ンガ ポ ー ル か ら フェ リー で1時 間 余 り)に 小 規 模 住 宅 を購 入 し、 賃 貸 収 入 を え る者 もい る 。 シ ンガ ポ ー ル とい う異 郷 で の 暮 ら しは、 た ん な る労 働 と現 金 収 入 を得 る こ とを だ け を 目的 とす る の で は な く、 彼 女 らの 帰 国 後 の 生 き方 、 考 え方 を 変 え る機 会 を も提 供 して い る の で あ る 銘)。
とこ ろ で シ ンガ ポ ー ル の 高齢 者 とイ ン ドネ シア 人 家 事 労 働 者 と は どの よ う な コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンを とる の だ ろ うか 。香 港 で働 く予 定 の 家 事 労 働 者 の 場 合 に は、 訓 練 所 で 広 東 語 の学 習 が義 務 づ け られ て お り、 少 な くと も初 歩 的 な広 東 語 を身 につ けて か ら香 港 に 向 か う。 実 際 、 香 港 で4、5年 も働 い て い る ベ テ ラ ン の 中 に は広 東 語 を流 暢 に話
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シ ンガポ ール にお け る高齢者 とイ ン ドネシ ア人家 事労 働者す 者 が 多 い 。 一 方 、 シ ン ガポ ー ルへ 向 か う労 働 者 に求 め られ て い る の は、 英 語 会 話 能 力 で あ る。 と はい う もの の 、 い く ら英 語 教 育 が 普 及 して い る シ ンガ ポ ー ル で も、 高齢 世 代 に な る と正 式 の 英 語 教 育 を受 け た者 は稀 で あ り、 必 ず し も十 分 な英 語 力 を有 す る わ け で は な い29)。む し ろ、 片 言 なが らマ レ ー語 を解 す る 者 の 方 が 多 く、 そ れ が イ ン ドネ シ ア人 メ イ ドとの 主 た る コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン手 段 に な る とい う。 た だ し、 言語 の 問 題 につ い て あ るデ イ ケ ア の 運 営 者 は、 「介 護 を要 す る 高 齢 者 と家 事 労 働 者 の 問 の コ ミ ュニ ケ ー シ ョン に は、 必 ず し も高 度 な言 語 能 力 は も とめ られ な い 。 とい うの は 、 高 齢 者 との や りと りは、 多 くの場 合 、 食 事 、 トイ レ、 入 浴 、 寝 起 き動 作 、着 替 え、外 出 とい った 基 本 的 な ル ー テ ィ ンの繰 り返 しに伴 う もの で あ り、 そ れ 以 上 の もの で は ない か らだ 」 と語 っ た。 逆 に言 え ば、 そ の程 度 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン しか 両 者 間 に は期待
され て い ない の で あ る。
つ ぎ に、 あ る高 齢 者(華 人 女 性,78歳)の 話 し を紹介 し よ う。
「これ まで に 私 は3人 の メ イ ドを雇 っ て い ます 。最 初 は フ ィ リ ピ ン人 で した が ホー ム シ ック で い つ も泣 い て ばか りい る の で 、1週 間 で 解 雇 しま した。 次 も フ ィ リ ピ ン 人 で 同 じ く叱 る とす ぐに泣 くの で2週 間 で 解 雇 しま した。3人 目の メ イ ドは息 子 が 探 して きた の です が 、現 在 まで 雇 用 して い る イス ラ ー ム教 徒 の イ ン ドネ シ ア 人 です 。 す で に2回 契約 更新 し、6年 間 働 い て い ます 。 そ の イ ン ドネ シ ア人 メ イ ド(ワ テ ィ
=仮 称)は 、19歳 で シ ンガ ポ ー ル にや っ て来 て、 現 在25歳 に な り ます 。 英 語 が 少 し話 せ ます が コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンが で きる ほ どの 語 学 力 で はあ りませ ん。 メ イ ドに は、 介 護 以 外 に料 理 の仕 事 も させ て い ます 。豚 肉料 理 も作 らせ ます が 、 本 人 は食 べ ませ ん。 日曜 日は休 み に して い ます 。 メ イ ドは 私 と同 じ部屋 で 床 にマ ッ トを敷 い て 寝 て い ます 。 給 与 は 当初 は280シ ンガ ポ ー ル ・ ドル だ っ た の で す が 、 現 在 で は350 シ ンガ ポ ー ル ・ドル(約28000円=当 時)支 払 って い ます 。」
い か に も厳 格 そ うに見 え る この老 婦 人 は フ ィ リ ピ ン人 メ イ ドに ど の よ う な叱 り方 を した の だ ろ うか 。他 方 、 この イ ン ドネ シ ア人 メ イ ドは老 婦 人 と の相 性 が よ く しか も忍 耐 強 い の か、 す で に6年 間 も働 い て い る とい う事 実 は、 一 般 に学 歴 も高 くよ り有 能 と
ミナ され て い る フ ィ リ ピ ン人 メ イ ド像 が 必 ず し も正 鵠 を得 た も の で は な い こ とを示 し て い る 。言 語 的 運 用 能 力 か らみ れ ば、老婦 人 と イ ン ドネ シ ァ人 メ イ ドとは十 分 な コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンは とれ て い な い し、 宗 教 上 の 理 解 につ い て も不 十 分 な点 が 認 め られ る も の の 、 感情 的 交流 が そ れ を補 い う る場 合 もあ る こ と を こ の事 例 は示 して い る。
4家 事 労働 者 に よ るネ ッ トワー ク作 り
シ ンガ ポ ー ル で は 、香 港 に見 られ る よ う な家 事 労 働 者 が 中心 とな っ た公 的 な組 合 や 協 会 組 織 は 認 め られ て い ない 。 しか し、 イ ン フ ォ ーマ ル な ネ ッ トワ ー クづ く りの動 き
が あ る。 そ の 申 心 人 物 で あ る ノ ラ(38歳 、 メ ダ ン出 身)は つ ぎの よ うに 語 る。
シ ンガ ポー ル におけ る高齢 者 とイ ン ドネ シア人 家事 労働 者
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「2002年 、5人 の仲 間 が 集 ま り、〈イ ン ド・フ ァ ミ リー 〉 とい うグ ル ー プ を作 りま した 。 ま もな く仲 間 が 増 え た の で 、あ らた め て45人 が 集 ま っ て 〈イ ン ドネ シ ア ・フ ァ ミ リー ・ ネ ッ トワー ク〉 を結 成 し ま した 。 仲 間 の 出入 りが多 く、 今(2009年8月 時 点 二筆 者) で は12人 だ け が 活 動 を して い ます 。 活 動 の ひ とつ は大 使 館 で 開催 さ れ る技 能 講 習 の 手 伝 い 、 も うひ とつ は 、 困 って い る仲 間 の 相 談 役 一電 話 に よ るヘ ル プ ラ イ ン ー、 そ れ か ら地 元 の 支援 団体 と協 力 し、 家 事 労 働 者 の 地 位 向 上 の た め に活 動 す る こ とです 。 今 一番 力 を入 れ て い るの は、 〈家事労働者 に休暇 を〉 のキ ャンペ ー ンです。イ ン ドネシ ア 大使 館 は イ ン ドネ シア 人 会 を組 織 す る けれ ど も家 事 労 働 者 の権 利 の 問題 に は 関 わ ろ
う と し ませ ん 。」
ノ ラ は 北 ス マ トラ の メ ダ ン出 身 で 商 業 高 校 に2年 ま で 在 籍 した 学 歴 を もつ 。2009 年8月 に筆 者 が 会 っ た と きに 「1999年 に シ ン ガ ポ ー ル に来 て 、 す で に10年 に な る。
長 男 は 自動 車 工(17歳)、 次 男 は15歳 で 高 校 生 。 次 男 が 学 校 を終 え た ら故 郷 に戻 る か も しれ な い 」 と語 った が 、実 際 、2011年6月 に帰 国 した 。 なお 、イ ン ドネ シ ア ・フ ァ ミ リー ・ネ ッ トワ ー ク は、 フ ェ イ ス ・ブ ッ ク を 開 設 して お り、2012年1月 現 在 、 そ の会 員 数 は1005人 に達 して い る。
5家 事 労 働 者 を 支 え る 諸 団 体
シ ン ガ ポ ー ル に お け る 家 事 労 働 者 は 、 入 国 管 理 の 規 定 上 た ん な る 非 熟 練 労 働 者 と し て の 位 置 づ け で あ り、 彼 女 ら に は 働 く こ と以 外 の 政 治 的 、 経 済 的 活 動 は い っ さ い 認 め ら れ て い な い 。 そ の 点 は 、 外 国 人 労 働 者 の 労 働 組 合 の 結 社 の 自 由 を 認 め て い る 香 港 と は 大 き な 相 違 で あ る 。 香 港 で は 、 労 働 組 合 な どの 諸 団 体 が 政 府 と の 交 渉 力 を あ る 程 度
も ち 、 問 題 を 抱 え た 家 事 労 働 者 へ の カ ウ ン セ リ ン グ 活 動 もお こ な っ て い る 。 ま た 、 多 くの 家 事 労 働 者 が 休 日 を と る 日曜 日 に は 、様 々 な コ ン テ ス ト、演 奏 会 、 集 会 が 開 か れ 、 家 事 労 働 者 に 対 す る エ ン パ ワ ー メ ン ト活 動 も活 発 で あ る 。 一 方 、 シ ン ガ ポ ー ル に お い て そ う し た 役 割 を 担 っ て い る の は 、シ ン ガ ポ ー ル に お け るNGOで あ る 。パ ピ エ 【Papier n.d.】 は 、 シ ン ガ ポ ー ル に お け るNGO諸 団 体 を 、1)信 仰 、2)訓 練 セ ン タ ー 、3)シ ェ ル タ ー 、4)Advocacyに 分 け て い る 。 た と え ば 、 「ア ン ・ニ サ 」 は2000年 に 始 ま る イ ン ドネ シ ア 人 家 事 労 働 者 を 対 象 と す る 支 援 団 体 で ア ラ ブ ・ス ト リ ー トに 近 い ス ル タ ン ・モ ス ク の 婦 人 会 が 組 織 し て い る 。 ま た 、 「マ ド ン ナ ・ス キ ル ・セ ン タ ー 」 は ス リ ラ ン カ 出 身 の カ ト リ ッ ク 教 徒 コ ミ ュ ニ テ ィ に よ り運 営 さ れ て い る が 、 他 国 出 身 者 も 受 け 入 れ て 技 術 指 導 を お こ な っ て い る 。 一 方 、団 体 「短 期 滞 在 労 働 者 も 重 要 」(transient workerscounttoo=TWC2)は 、 シ ン ガ ポ ー ル の フ ェ ミ ニ ス ト団 体(AWARE)が 母 体 に な っ て2002年 に 設 立 さ れ 、 女 性 労 働 者 の 教 育 、 電 話 相 談 、 権 利 擁 護 と く に 休 暇 獲 得 の 実 現 を 政 府 に 働 き か け て い る 。 「ホ ー ム 」(HOME=HumanOrganization
forMigrationEconomics)は2004年 に 設 立 さ れ 、 男 性 用 ・女 性 用 ふ た つ の シ ェ ル タ ー を 運 営 し 、 電 話 相 談 を お こ な っ て い る 。 ま た 調 理 、 介 護 、 ア ロ マ セ ラ ピ ー な ど の 技 術
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シ ンガ ポー ルに おけ る高齢 者 とイ ン ドネ シア人 家事 労働 者講 習 を毎 日曜 日 開催 し て い る。 ま た2006年 に 設 立 され た 「ミ グ ラ ン ト ・ヴ ォ イ ス 」 (MigrantsVoces)は 、 移 民 労 働 者 た ち が 芸 術 ・美 術 に接 す る こ とで 日々 の ス トレス を解 放 す る機 会 を提 供 す る こ とを 目的 と し、 移 民 労 働 者 た ち に よ る ダ ンス ・歌 謡発 表 会 、 映 画 鑑 賞 会 を主 催 して い る。
なお 、 最 後 に あ げ た3団 体 は、2009年5月27日 、 定 休 要 求 を政 府 に訴 え る こ と に あ た り共 同で 運 動 を進 め る こ とに合 意 す る な ど、NGOに も共 同行 動 の 動 きが あ る。
VI家 事 労 働 者 をめ ぐる 問題
現 在 の イ ン ドネ シ ア 人 家 事 労 働 者 を取 り囲 む 問題 を 、 イ ン ドネ シ ア に お け る 問題 、 シ ンガ ポ ー ル にお け る 問題 、 雇 用 者 との 問題 とい う三 つ の 角 度 か ら見 て み よ う。
1イ ン ドネ シ ア に お け る 問題 (1)PJTKIと の 契約 と立 替 金 問 題
イ ン ドネ シ ア人 家 事 労 働 者 は、 海 外 の雇 用 者 を個 人 で探 す こ と は制 度 上 許 され て お らず 、pJTKIを 通 じ て探 す こ とが 法 律 上 決 め られ て い る。PJTKIは 派 遣 国側 の 斡 旋 業 者30)と 提 携 して 、家 事 労 働 者 の候 補 者 に対 して 、諸 費 用(健 康 診 断 料 、宿 舎 使 用 料 、 食 費 、 教 育 ・訓 練 費 、 渡 航 費 、 入 国管 理 関係 書 類 手続 き手 数料)な ど を立 て 替 え、 そ れ を受 け入 れ 国 の業 者 が 引 き継 ぎ、 い っ た ん派 遣 候 補 生 が雇 用 者 の も とで働 き始 め る と、 月 割 りで毎 月 の給 与 か ら立 て替 え分 及 び諸 費用 を差 し引 くこ と に な って い る。 あ る家 事 労 働 者 に よれ ば、 当初 の給 与 は250シ ン ガポ ー ル ・ドル で あ っ た が 、 毎 月200 ドルが 天 引 きさ れ、 こ れ か ら生 活 諸 経 費 を除 く と手元 に は 数 ドル しか残 ら なか った と い う。 こ の よ う に天 引 き さ れ る期 間 は、 半 年 か ら1年 に 及 ぶ。 し た が っ て 、 も し も 途 中解 雇 され た 場 合 に は、PJTKI及 び斡 旋 業 者 へ の 巨 額 な負 債 を背 負 う こ と に な る 。
こ のPJTKIに よ る立 て替 え の 算 定 額 が どれ だ け正 当 な もの か に つ い て は疑 問視 され て お り、 イ ン ドネ シ ア 国 内 のNGO団 体 か ら は疑 問 の 声 が 上 が っ てい る31)。
な お、 フ ィ リ ピ ン人家 事 労 働 者 の場 合 、 フ ィ リ ピ ン国 内 の 斡 旋 業 者 を経 な い ま ま、
旅 行 者 と してマ レー シ ア に入 国、 続 い て シ ンガ ポ ー ル に入 国 した 後 に、 知 人 を通 して シ ンガ ポ ー ル 国 内 の斡 旋 業 者 と接 触 し、 働 き口 を確 保 す るケ ー ス が あ る とい う。
(2)「 タ ー ミ ナ ル ・ス リ ー 」 問 題
タ ー ミ ナ ル ・ス リ ー と は 、 イ ン ドネ シ ア の 玄 関 ロ ス カ ル ノ ・バ ッ タ 空 港(ジ ャ カ ル タ 郊 外)に 設 置 さ れ た イ ン ド ネ シ ア 労 働 者(TKI)32)専 用 の タ ー ミ ナ ル で あ る 。 そ の 後 、 移 設 と と も に 名 称 が 変 更 さ れ 、 「タ ー ミ ナ ル ・フ ォ ー 」 ま た は 「イ ン ドネ シ ァ 労 働 者 専 用 タ ー ミ ナ ル 」 と呼 ば れ て い る 。 そ の 設 置 目 的 は 、 海 外 か ら 帰 還 す る 労 働 者 た ち の 入 国 手 続 き の 簡 便 化 、 迅 速 化 で あ る と さ れ て い る 。 し か し 、 現 実 は そ こ で 差 別
シ ンガ ポー ルにお け る高齢 者 とイ ン ドネ シア人家 事労 働 者
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的 な扱 い を受 け る、 不 当 な手 数 料 を請 求 され る 、多 額 の現 金 を持 参 す る里 帰 りの 労 働 者 が ター ミナ ル 出 口周 辺 で事 件 に巻 き込 まれ や す い な どの 問題 点 が 指摘 され 、 イ ン ド
ネ シ ア 国 内 のNGO諸 団体 もそ の撤 廃 を政 府 に訴 えて い る33)。 シ ン ガ ポ ー ルNGOで あ るTWC2の ア ンケ ー ト調 査 に よれ ば、 回答 者96人 中、35人 が ター ミナ ル ・ス リー
を使 った が 、61人 は使 用 し なか った と答 え て い る。61人 の 中 に は 、あ え て他 の空 港(た と え ばス ラバ ヤ の 空 港)を 選 ん で入 国 した り、 個 人旅 行 者 を装 っ て帰 国 した と答 えて い る。2010年 時 点 の 報 道 で は、 「イ ン ドネ シ ア労 働 者 に専 用 ター ミナ ル の使 用 を強 制 せ ず に選 択 制 にす る」、 「近 い将 来 、 専 用 ター ミナ ル は廃 止 す る」 と伝 え られ た が 現在
に至 る まで 存 続 して い る。
問 題 の 背 景 にあ るの は、 実 際 は専 用 ター ミナ ル の有 無 で は な く、女 性 労 働 者 に対 す る差 別 、 弱 者 に対 す る暴 力 の 問 題 で あ る こ とは い うま で もな い。 しか し、残 念 な が ら 政 府 が こ う した 問 題 につ い て な ん らか の具 体 的 な策 を講 ず る とい う報 道 は これ まで な
され て い ない 。
以 上 、PJTKI制 度 、 タ ー ミナ ル ・ス リ ー 問題 を取 り上 げ た が、 イ ン ドネ シ ア政 府 が 海外 派 遣 の 労 働 者 をつ ね に コ ン トロ ー ル可 能 な存 在 に し よ う と して い る こ とは 、 た と え ば、TKIカ ー ドの 創 設 問 題 か ら も見 て 取 れ る。 ま た 、 さ らにPJTKIの 派 遣 は、
相 手 国 との 交 渉 の 取 引 材 料 して も用 い られ る。 ク ウ ェ ー ト、サ ウ ジ ・ア ラ ビ ア、マ レー シア へ の 派 遣 をい った ん 停 止 しつ つ 受 入 国 にお け る法 改 正 を迫 っ て い る。そ の 一 方 で 、 労働 ・移 住 省 長 官 は、 「非 熟 練 労 働 者 の 海 外 送 り出 し数 を段 階 的 に 削 減 し、2017年 ま で に は な くし、 そ れ に代 えて 、 熟 練 労 働 者 の 送 り出 しを強 化 す る」 とい う方 針 を述 べ て い る 。 この 発 言 も、 非 熟 練 労 働 者 の 海 外 送 り出 しが 政 治 的取 引 の材 料 に な り得 る こ
とを 意 識 した もの で あ ろ う34)。
2シ ン ガ ポ ー ル に お け る問 題 (1)厳 しい 規 制
シ ン ガ ポ ー ル に お け る 法 規 制 の 厳 し さは香 港 の 状 況 と比 べ る と容 易 に わ か る。 そ の 中 で もっ と も大 きな 問 題 は 公 休(Day‑off)の 問題 で あ り、外 国人 労 働 者 を支 援 す る NGO諸 団体 が こぞ っ て 指 摘 す る問 題 で もあ る。
そ の根 本 に あ る の は 、 シ ンガ ポ ー ル 政 府 が 非 熟 練 外 国 人 労 働 者 を雇 用 法 の適 用 範 囲 外 に お い て い る 点 で あ る 。 そ の 結 果 、 最 低 賃 金 制 度 につ い て も労 働 時 間 につ い て も法 的保 護 の範 囲外 に彼 ら ・彼 女 ら を置 くこ と に な るの で あ る。 ま た、 年 次 休 暇 、 健 康 休 暇 も保 証 され て い な い 。
公 休 日に 関 して は 、 シ ンガ ポ ー ル の 職 業 紹 介 業 者 協 会 の提 言 もあ り、 シ ンガ ポ ー ル の 人材 省 は よ うや く重 い腰 を上 げ 、2006年6月 よ り月 に 一 度 休 日に休 ませ る こ と、
そ うで な い場 合 に は15〜20S$を 支 給 す る こ と を推 奨 す る とい う法 案 を 出す に 至 っ て い る が、 実 際 に そ れ が 実行 され る か 否 か は 雇 用 者 側 にゆ だ ね られ た ま まで あ る。