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『英琉辞書』にみる助数詞と量詞について

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『英琉辞書』にみる助数詞と量詞について

         兼 本   敏

はじめに

 琉球方言の研究資料としてベッテルハイム (Bernard J. Bettelheim,  伯徳令 ) が編ん だ『English-Loochooan Dictionary』( 以下「英琉辞書」) が大英図書館に存在する。i 沖縄国際大学にはハワイ大学の宝玲文庫に所蔵されているものの複写版があるが解像 度に難があり、ベッテルハイムの手書きの判読には困難な箇所が多々ある。『英琉辞書』

は彼が 1846 〜 1854 年の間、琉球滞在中に語彙を収集し手書きで完成させた辞書で ある。辞書には10,400 語余りの語句が収録されている。辞書の作成段階あるいは校 正段階で追記、補足挿入された項目がかなりの数あり拙論では見出し語の正確な数値、

配列に関しては論じない。

 これまでに伊波 (1987)、高橋 (2008) が『英琉辞書』について対照研究を行って いる。伊波はメドハーストが編纂した辞書『An English and Japanese And Japanese  and English Vocabulary』と、高橋はモリソンの『華英字典』との当該辞書との比 較・対照を基にその特徴を述べている。伊波はベッテルハイムの『英琉辞書』と既 刊されていたメドハーストの『An English and Japanese And Japanese and English  Vocabulary』(Batavia1830) を参考に琉球語との音韻比較を通して両語の類似性を述 べているが、結論として英琉辞書の記述の類似は僅か 77 語にしか過ぎないと述べ ている。ii また、高橋は伊波の「・・・名詞における分析から英琉辞書の編集作業は メドハーストに依っているとは言い難い・・・」iii を受け、モリソンの「ENGLISH  AND CHINESE」『華英字典』との比較を行っている。

 高橋の論文には「助数詞の記述」(p71.2008) の部分に「1 から 10 までの和語と漢 語などが記載されている。さらに・・・最初の数詞の組は、普通次のような分類詞と ともに用いられる。・・・」と記述してあり、分類詞 ( 助数詞 ) を 80 例ほど説明して いると述べ、類似性の高い『華英字典』とはこの点において相違がみられるとしている。

 拙論は、高橋が述べる助数詞 ( 分類詞 ) に注目し『英琉辞書』に記載されている助 数詞の特徴を検討するものである。

(2)

 助数詞に焦点を当てた理由は、助数詞は中国語の中で量詞として分類され、語彙と して豊富に存在し、欧米言語と際立った対比を示していること。更に、ベッテルハイ ムが辞書編纂においてアルファベット順に見出し語を列挙したと予想し、そのひな形 になった辞書が存在していたと推測した。その場合、収録された語彙が参照した書籍 からの転写や借用があることは否めないと考える。参考にした書籍は伊波が比較対照 したメドハーストの語彙集あるいは高橋が検討したモリソンの字典か、その他の書籍 であるにせよ欧米言語を軸に編まれていると推察する。高橋の指定するベッテルハイ ムの記載した助数詞の多さは、モリソンの書籍およびメドハーストにも少なく、彼自 身が日本語における助数詞の豊富さ、欧米言語 ( 英語 ) との際立った差異と捉えてい たと判断する。また、ベッテルハイムが中国語を理解しながら、通訳も同行した事実、

当時の琉球のインフォーマントも中国語を理解していたことを考慮すると量詞 ( 助数 詞 ) が豊富な中国語と日本語のそれとの混在、区別、使い分けが行われていたのかを 知ることができると推察したからである。

1. 助数詞 = 量詞について

 検討対象になる語彙は和語と漢語から成り、ベッテルハイムが琉球人のインフォー マントや持参していた中国語辞書を参考にしたと考える。当該辞書にはローマ字表記 で琉球語の語彙が記されている。当該辞書に記載された助数詞は日本語、中国語、琉 球語独特のものだと仮定し、その特徴を示唆するために拙論における助数詞とは日本 語の語彙の特徴を示す術語とし、同様な性格を持つ中国語語彙を表すものを「量詞」

と称することにした。

 量詞の定義に関しては次の二つを基本とする。iv

 Ⅰ ) 通常用来表示人、事物或 作的数量 位的 , 叫做量 。量  liàngcí, 与代表可 数或可量度物体的名 用或与数 用的 或 素 , 常用来指示某一 , 名 所 指派的物体可按其形状或功用而被 入 一 ( 如 “ 三本 ” 中的 “ 本 ”)。

 量 分 物量 和 量 。物量 表示人和事物的 算 位 , 如 “ 一个人 ” 中的

“ 个 ”。 量 表示 作次数和 生的 量 , 如 “ 看三次 ” 中的 “ 次 ”、“看三天 ” 中的 “ 天 ”。

修 名 的量 , 又可根据名 是否可数分 情形 : 可数名 , 如人、 子 ; 不可数 名 , 如糖、水。在常 的外 中 , 一般来 可数名 没有量 , 直接把数 后面跟随可

(3)

− 2 − − 3 −

− 2 − − 3 −

数名 , 例如 :three dogs。外国人学 , 常常 可数名 使用量 感到 , 量 与可数名 的固定搭配用法就更困 了。全世界各 言中 , 不可数名 都要与作

度量 位的量 搭配使用 , 是普遍的必然 律 , 例如 : 一  a piece of paper; 三克 糖 three grams of sugar;  杯水 two cup of water. 所以 言学家研究的焦点是可数名

的量 一 特有的 法 象。

中国語の助数詞 [ 量詞 ]v

 中国語では量詞 ( リヤンツー liàngcí) というのが普通であり、日本の中国語学でも そのまま量詞と呼ぶことが多い。ただしかならずしも「量」を表さないので、類別詞 などと呼ぶ場合もある。中国語の場合、「個」・「張」などのように、名詞を修飾する ものは「名量詞」、「回」・「次」などのように、動詞を修飾するものは「動量詞」と呼 んでいる。

 現代の中国語 ( 普通話 ) では、量詞は 200 種前後が用いられており、量詞に近い使 い方をする単位も含めると 350 種以上になる。最も常用される代表的なものは「個 ( 箇・个 )」であり、近年ますます多用されるようになってきている。日本語と共通 する漢字を用いるものでも、使える対象が異なる場合がある。例えば、「匹」はもっ ぱらウマ、ロバ、ラクダに用いる他、反物にも用いるが、他の動物は「隻 ( 只 )」や「頭」

を用いるなどの違いがある。

 中国語の量詞の用法は日本語とは大きく異なる。量詞とそれが修飾する名詞の間に は日本語の「の」にあたる「的」を入れてはならない。また、指示詞 ( この・その・どの ) や「毎」なども名詞を直接修飾することはなく、間に量詞を入れて「這個人」( この人 )、

「毎個人」のように言わなければならない。数 ( とくに「一」・「幾」) と量詞の組み合 わせは、それが修飾する名詞が不定であることを示すために使われる。とくに存在や 出現を表す「存現文」では量詞を必要とすることが多い。 

  この人は留学生である。  ⇒ 這個人是 ( 一 ) 個留学生   車の中に三人の学生がいる。⇒ 車子里有三個学生   三人の学生が車内にいる。 ⇒  有三個学生在車子里 日本語の助数詞

 日本語では、岩田が (p9 〜 13) 先行研究の要約を総括して述べているように 500

(4)

以上が提示され常用が 27 から 32 と挙げられている。これまでの多くの研究が日本 語 ( 和語 ) 独特の助数詞の存在の有無が焦点になっているが、中国語からの影響が大 きいことは否定できないとしている。

 多くの場合、助数詞は数詞と伴に現れるが、日本語の数詞 ( 和語の数詞 ) は「ひとつ」

〜「ここのつ」と「和数詞」+「つ」で表し、「とう」までと限られている。10 以上 を表す場合は漢語を使用することになる。漢語の数詞は生産性に富み、「ジュウ」+「イ チ」から「ニ」+「ジュウ ( 十進法の桁 )」+「イチ」と数えることが可能である。一方、

和語で十以上を「とう、あまり / と、一つ」と数えるのは慣用的ではない。

 「ひとつ」「ふたつ」にみられる数詞 +「つ」の場合の「つ」は日本語の助数詞と看 做すことは可能ではあるが、無生物を数える場合の助数詞であり 9 までの和数詞に のみ接尾する。人間を数える場合には「ひと」+「り」、「ふた」+「り」となり、3 人 以上は漢数詞を使用し「漢数詞」+「にん ( 助数詞 )」となる。「つ」と「り」に関し ては日本語の助数詞と論じるには独立した品詞として扱うには非常に限定的であると 指摘されている。vi

 以上、量詞と助数詞について数詞との関係の概観し。琉球語における助数詞、量詞 はどのような性質があるのか『英琉辞書』に挙げられた語彙を検討してみる。

2. 対象語彙

 『英琉辞書』に記載されている助数詞および量詞を挙げる次の語句が対象となる。

 見出し語はそのまま転写した。当該辞書はローマ字表記で手書きであるので翻字し、

記号は伊波と高橋の論文を借用している。vii 日本語での注釈は原文の翻訳や琉球語か らの翻訳である。

 以下は高橋が指摘した『英琉辞書』に記載されている助数詞と数詞である。ローマ 字は辞書に記載された通りで日本語は翻字あるいは高橋・伊波が補足、追記したもの である。

○ An 一つ ; [s.] one,& numeral

○ Horse 馬 'mma; 1 頭、2 頭など íppíchi, nyī fíchi,1 匹、2 匹など ; [s.] numeral

○ Numerals 数詞 ; 単に数を数えるには次のように言う : t

ī

tsi {fitótsi の変化。また短

(5)

− 4 − − 5 −

− 4 − − 5 −

縮して t

ī

}, t

ā

tsi {ftatsi と変化。短縮して tá},m

ī

tsi {mi} y

ū

tsi {y

ū

} itsítsi {ítsi}, m

ū

tsi {mu},  nanatsi {nána}, yātsi {yā},kukunutsi {kū, chū}, tū; またもう一組別の数詞もあり、次の ようである : ichi, nyí, san, shí, gú, ruku, shtchi, fatchi, ku, dj

ū

; dj

ū

 ítchi 11; dj

ū

 ny

ī

, 12; 

nyī djū íchi 21; hāku {fïaku} 100, íppeku, one hundred; nyī haku 200, san péku 300,  rúppeku 600, fáppeku 800; shíng, íshshing 1000; máng 一万 .

 最初の数詞の組は、普通次のような分類詞とともに用いられる。{t

ī

tsi(1 つ ) の場合 のみ chǔ が用いられる}. firu (尋) {5フィートの単位}は物の長さを測るのに使われる; 

chu firu 1 尋、または 5 フィート ; ta firu 10 フィート ; 次のように、数詞を分類詞の 後に置くこともある firu tītsi, firu tātsi など ; háni { 翼は鳥を数えるのに使われる } yu  háni {fháni} 4 羽 ; 時には名詞と数詞を一緒に言うこともある tuï chu hani, または chu  hanínu tuï,1 羽 ; また、名詞だけ言うこともある tuï t

ī

tsi( 鳥 1 つ );  k

ū

ga chu k

ū

, tá k

ū

卵 1、2 個 ;  kútu 事 ;  káki { 個体の } かけら ;  s

ī

dji { ひもの類 };  k

ū

ndji 束ねた物 ; ny

ī

  荷 ;  katami 肩で運ぶ荷 ;  tskáng 手の 1 つかみ ; taï 滴れ ;  vaï 断片 ;  chíri 切れ ;  tsízi 粒 ;  murushi { 多くは丸い } 塊または積んだ物 ;  mazíng 積んだ物 ;  narabi,nami,djó 条、

列 ;  núchi { 珠、銅銭など貫いた物 }; ábushi, úni { 田の道 }; mow, f

ū

, すべて田畑の単 位 ; kútchi 口一杯 ;  yūdju 用事 ;  kén, kéng 回数 ,chu ken, ta keng 1 回、2 回 ;  butchi  打つこと ;  matchi 巻き ; dé 食台 ;  só 竹または棒 ;  z

ū

. 尾 , chu z

ū

, ï' u ta z

ū

 魚 1、2 匹 ;   fsha { 靴の } 片方 ;  gū 対 ; { 後者の二組の数詞において ichi,san,rfku,fatchi,dju が分類 詞と一緒になる時は、たいてい短縮され、分類詞の中に縮約されることに注意すべ きである。chíng< 斤 >{ キャティ、ポンド } の場合は、次のようになる íttchíng, san  djíng, lúching, fatchíng; djíching, または djíchi 10 キャティ , nyidjíchi 20 キャティ ;   sa djíchi 30 キャティ ; djūは一般に djí に変わる djíttu, djíppu, 分類詞の語頭の子音が 重ねられるからである .

   第二の数詞の組は、次の分類詞の前に使われる nyín 人 ,ichi nyín,nyi nyin; しかし、

4 人まではむしろ次のように用いる ; chúï 1 人 ;  táï, mittchaï, yúttaï 2,3,4 人 ; chíng<

斤 >, キャティ ; fítchi,1 匹 { 家畜や製品 ( 布 ) の } íppichi など ; 艘 s

ū

 船の分類詞 ; íssu,  nyī su 1 艘 ,2 艘 ;  mé〈枚〉 紙、布、その他平たい物、またコインなどの枚数 ; 1 ドル ;  han zíng ichi mé 1 ドル ; 集合体 , ダース ; ts

ī

 ; sátsi 〈冊〉, 1 冊 íssatsi など ; bung 1

(6)

部分 {などとも使われる} chu, ta, sábbu ; gó 米の量; 紙の帖(24枚);  dú 紙の帖(24枚); 

míng 鏡について ; chó { 硯などの四角い塊 }、また、ろうそくなどについても ;  kwan 

〈巻〉章 ;  ló+< 両 > テイル ;  múmi< 匁 > メイス ; fung< 分 > キャンダレイン ;  lí< 厘 > 

キャッシュ ;  mó< 毛 > 十分の一厘 ; tang< 反 > 布切れ。íttang 〈一反〉など .

○ One 1 ítchi, t

ī

tsi; 1 つの事 chu kutu; 1 人 chúï; [s.] numerals; 1{1 組 } ítchimi; 1 つ となる tītsi { 人の場合は chúï}  tushung; 心が 1 つになる

○ Set ① [s.] numerals;; 1 セット íssuku;  本 1 セット shumútsi ítchi b

ǔ

;  陶器 1 セッ ト íssúkunu yachimúng;

以上の語彙を対象に辞書に記載されている量詞および助数詞としての特徴を吟味して いく。

3. 見出し語として記載のある語句の特徴

 最初に見出し語として記載されている次の 4 つの語句を検討する。

○ An 一つ ; [s.] one,& numeral

 一般的な認識としては和語として数字を表す語彙であるが、歴史的に見て「ひと」

と「つ」が組み合わされてできたと考える。その場合、「つ」を和語における助数 詞と看做すことになる。三保は『数え方の日本史』において、「・・・「つ」は一か ら九までの和語数字に付き、漢語数詞にはつかない・・・」(p59 − 79) と述べている。

○ Horse 馬 'mma; 1 頭、2 頭など íppíchi, ny

ī

 fíchi,1 頭、2 頭など ; [s.] numeral  助数詞では「頭」( トウ ) であるが量詞では「匹」( ピキ ) となる。日本語と中国 語では対象になる名詞 ( この場合は馬 ) の形態 ( 大きさ ) に対する感覚の違いで選 択する助数詞が異なる。琉球語が記載されている表現 ( 匹 ) であるなら感覚的に「馬」

に対する見方は漢語に近いことになる。

○ One 1 ítchi, t

ī

tsi; 1 つの事 chu kutu; 1 人 chúï; [s.] numerals; 1{1 組 } ítchimi; 1 つ となる tītsi { 人の場合は chúï}  tushung; 心が 1 つになる。

(7)

− 6 − − 7 −

− 6 − − 7 −

○ Set ① [s.] numerals;; 1 セット  íssuku; 本 1 セット shumútsi ítchi b

ǔ

; 陶器 1 セット  íssúkunu yachimúng;

   「íssuku」は漢語数字の「ítchi」( 一 ) と「shiki」( 式 ) の音便変化を生じた結果 である。次に、「shumútsi ítchi bǔ」は「( 書物 )( 一 )( 部 )」となるが、助数詞であ る「部」は量詞としても文字や書籍、映画などを数えるが、「書物 ( 全体 ) の一部」

と理解される恐れがあり「1set( 式 )」との曖昧さを生じる。中国語の場合、量詞 は数字の後に位置し、対象物の前に置かれる。例えば、小説一部なら「一部小説」

と表記し、小説の一部分とする場合「小説的一部分」となる。

 以上、これら四つの見出し語に記載されている助数詞および量詞を見る限りでは、

「イチ、ニ、サン、シ / ヨン、ゴ・・・ク / キュウ、ジュウ」漢語の数詞に由来とす るもの、「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、・・・ここのつ、とう」のよう な日本語の数詞、それに対応する琉球語の数詞 t

ī

tsi、t

ā

tsi、・・・kukunutsi {k

ū

,ch

ū

},t

ū

が観察できる。

 見出しの項目の「ítchi」は漢語数字の「一」であり、「t

ī

tsi」は琉球語であるが日本の「一 つ」に対応している。但し、「一つ」に関しては日本語も「イチ」と「ひとつ」の二 種類の使用が可能であるように琉球語でも「tītsi」と「chu」が使われる。記載され ている「t

ī

tsi」+「kutu」( 事 ) の日本語と同じ語句の琉球語読みと考える。一方、琉 球語に見られる人間を数える場合の「chúï」( 一人 ) は、「chú( 一 ) と ï( 人 )」と観察 でき数字と助数詞の組み合わせと考えられる。

 「ï」に関しては「ta」+「ï」=( 二人 ) となり、さらに三人は「mītsi {mi}」+「ï」= 「miQcai」

viiiと音韻変化を伴う。この事例で「ï」を琉球語独特の助数詞 ( 量詞 ) と看做すには、

1 から 4 までにしか接尾しないことから品詞として確定するのは限定的である。

 「chú( 一 )」に関しては「「chú( 一 )」は『沖縄語辞典』では見出し語「cu-」として ( 接頭 ) として、「cukaki( ひとかけら )」「cuhudi( ひとふで )」などが採録されている。

 数詞と助数詞の組み合わせにおいては琉球語と日本語が類似している事例が多く観 察できる。日本語における助数詞は『数え方の日本史』三保忠夫 (p23:2006) によれば、

 「・・・数詞が和語であれば助数詞も和語で、数詞が漢語であれば助数詞も漢語で 読まれる傾向があるが、10 前後から上の数字になると、数詞も助数詞も漢語で読ま れることになる。・・・」

(8)

と指摘している。

 馬を数える場合を例にみると『英琉辞書』では、一匹 (ippiki ⇒ íppíchi) となっており、

日本語の「一頭」ではなく漢語の量詞の「匹」が借用され漢語読み ( 音読み ) となっ ている。当時の琉球では日本語と同様に漢語から借用してきた助数詞が使用されてい たことになる。

 次に、○ Numerals(数詞)の項目に記載されている助数詞および量詞について考 察したい。

 数字に見られる顕著な点を挙げておきたい。

  hāku {fïaku} 100, íppeku,one hundred;

であるが、百 ( ひゃく ) は数字の単位として機能するのだが日本語の慣用的な読み 方は ( ひゃく ) であるが、中国語では、百は一つの区切り単位としての認識であり、

一百と表記し、数字の一を単位の百に付けて読む。 英琉辞書に「íppeku」と記載され ているのは中国語からの影響と考えられる。

 しかし、

  shíng, íshshing 1000; 

の場合は、日本語での読みと同様 ( せん ) であり、( いっせん )「一千」でもある。

 ところが、

  máng 一万

 「万」においては ( まん ) のみが記載されており、( いちまん ) は記載がない。

 先に述べた『数え方の日本史』には、日本語における助数詞の実際は、

   ( 日 ) 漢語を字音語のまま読んで使用    ( 月 ) 訓読して和語助数詞を作る     ( 火 )( 日 )( 月 ) を踏まえ新たに作成する

とあり、「・・・日本固有の助数詞である「つ」は、1 から 9 までの和語数字に付き、

漢語数詞にはつかない・・・(p76)」と述べている。『英琉辞書』に記載されている次 の語句を検討してみると、 

   háni { 翼は鳥を数えるのに使われる } yu háni {fháni} 4 羽 ; 時には名詞と数詞    を一緒に言うこともある tuï chu hani, または chu hanínu tuï,1 羽 ; 

   また、名詞だけ言うこともある tuï t

ī

tsi( 鳥 1 つ ); 

(9)

− 8 − − 9 −

− 8 − − 9 −

鳥を数える場合であるが、「羽」( わ ) と読む場合は『数え方の日本史』における ( 日 ) と考えられる。ところが、辞書の記載は「háni」あるいは「fháni」とある。これは「羽」

の文字にあたる。量詞ではなく助数詞であるといえる。「tuï chu hani」は、「tuï 」(鳥 )、

「chu」( 一 )、「 hani」( 羽 : はね ) である。つまり、『数え方の日本史』における ( 月 ) に相当すると考察できる。

 次に見る語句は中国語の量詞と字音共に借用して使用している例と考えられる。

  zū 尾 , chu zū, ï'u ta zū 魚 1、2 匹

    高橋・伊波の資料では便宜上、魚を数える助数詞として「尾」を当てているが、「zu」

から推測すると中国語の量詞で「枝、只」(zhi:pinyin 表記 ) が考えられる。ix 量詞と 助数詞の違いで観察できる同様な事例として「míng 鏡」が挙げられる。

 この鏡についても、魚と同様に「鏡」を数える量詞は「面」(mian; pinyin 表記 ) で あり、琉球語では量詞からの借用で、字音も借用したと思える。鏡のように面を利用 している名詞を数える場合、現代中国語では「面」以外に「張」など鏡の反射面に着 目した量詞の使用がある。辞書では琉球語は日本語より中国語の量詞との類似が多く 記載されている。一方、日本語から借用した助数詞の例も観察される。

  「kūga chu kū, tá kū( 卵 1 個、2 個 )」;

  「chu kútu( 一事 ; いちじ )」

 日本語で汎用性の高い助数詞に「個」( こ ) がある。同様に中国語における汎用性 の高い量詞も「个」(ge) である。両言語における漢字表記は本来同一漢字である。現 代中国語では文字改革により簡体字を標準使用している。それに対し日本語での表記 は旧漢字を使用していることになる。「個」が使用される対象は類似しているが日中 両言語には違いがみられる。数える対象物が「生き物」所謂「生物」である場合、日 本語は「個」の使用ができない。これは、生き物に対して独特なマーカーを持ってい る日本語の特徴である。しかし、この助数詞が漢語から来た形跡として「個人」とい う語句がある。中国語の場合、「個人」は ( 一人の人 ) と使用するが、時に日本語が 持つ意味と同様の「個人」(individual) とする名詞と見做せる。

最後に

 『英琉辞書』における助数詞および量詞を観察してきたが、日本語の助数詞の変遷

(10)

と同様に琉球語にも次のような語彙があることが分かった。

   ① 漢語を字音語のまま読んで使用    ② 訓読して和語助数詞とする    ③ ①②を踏まえ新たに作成する

 特筆すべきは「羽」( わ・はね ) の読み方である。当時の琉球語では①で挙げるよ うな字音語をそのまま使用して鳥を対象に数えていたようだ。しかし、中国語の量詞 としては鳥を数えることには用いない。

 「魚 ( さかな・うお )」を数える助数詞は漢語の量詞で、ある程度の長さを持つもの を対象とした「枝・只」を琉球語が使用している例が記載されている。

 その他、日本語の和語と同様に一から九までは独特な数え方があり和語との対応が 認められた。数詞と助数詞の日本語との類似性、漢語の量詞の借用例から当時の琉球 語を収録したとされる『英琉辞書』には既に日本語からの影響が大きいと考えられる。

 助数詞は必要に応じて生産され、使用頻度によって衰退していくものだと考えられ るが日本語および琉球語に見られる共通な語彙である。琉球語で使用されている助数 詞は当時のインフォーマント ( おそらく通訳 ) の言語環境、学習環境の反映されたも のであろうが当時既に日本語の影響が大きいと観察できる。助数詞と量詞の対照・比 較を通して同形意義語、異形同義語の考察行い、助数詞・量詞の決定における歴史的、

文化的要因も視野に入れ今後も更に考察していきたい。

  i 大英図書館『英琉辞書』のデジタル資料は沖縄国際大学特別研究費による。

 ii 「 A contrastive Study of Medhurst and Bettelheim(Ⅰ):Verb」『沖縄国際大学文学部紀要』第10巻第1号1987 iii 「メドハーストとベッテルハイムの比較(Ⅲ):名詞(1)」『沖縄国際大学外国語研究』第2巻第2号1998 iv 『中国語量詞500』

 v 筆者訳『 代 典』商 印  

 『中国語学習ハンドブック』相原茂p78〜79 1988 vi 岩田:第8章

vii 伊波・高橋による翻字・翻訳 viii 『沖縄語辞典』P380

ix 現代中国語の漢字の読みをローマ字での表記(併音:pinyin)

(11)

− 10 − − 11 −

− 10 − − 11 −

串  事  册  丘  乘  下  丈   

  具  美  包  厘  刀  分  列 

  副  些  匝    陌    部  出 

个  介  令      件  任  倍 

      双        茎 

  落  蓬    巡      通  造 

遍  道  遭    尊    套  弓  引 

  弯    庄  床  座    帖 

席  常  幅  幢  口  句  号  台  只 

吊  合  名    和  味     

    宗  客  家  彪    尾  届 

声  扎  打  扣  把  抛  批  抔  抱 

  担  拉  抬    挂  挑  挺 

掬  排  捧    搭  提  握   

  撮  汪  泓  泡  注    派  湾 

溜    滴       

      堵 

堆  堂  塔    回      圈  孔 

  点  煎  熟         

料  卷  截    房  所  扇  炉 

  斤    本    杆  束  条  杯 

枚  枝  柄    架  根    梃 

株    梭  桶      槽    爿 

片  版  歇  手  拳  段  沓  班  文 

曲  替  股  肩    腔  支    武 

瓣  秒  秩       

    章  盆      眉  眼  石 

    碗  磴  票      番 

  缶    粒  索  累    般  艘 

竿  筥  筒    管  篇  箱  簇  角 

重  身  躯  酲  起    面  首 

      群  袋 

量 ( 中文量 大全より )

(12)

参考文献

相原 茂 (1988)『中国語ハンドブック』 大修館 井上和子 (1978)『日本語の文法規則』 大修館

伊波和正 (1987)「A Contrastive Study of Medhurst and Bettelheim(1) Verb」『沖縄 国際大学文学部紀要』沖縄国際大学

伊波和正 (1992)「ベッテルハイム『英琉辞書』: 漢語」 『琉球の方言』 法政大学沖縄 文化研究所 

岩田一成 (2013)『日本語数量詞の諸相』 くろしお出版

内間直仁・野原三義 (2006) 『沖縄語辞典̶那覇方言を中心に̶』  研究社

白川博之 ( 監修 ) 庵功雄・高梨信乃・中西久美子・山田敏弘 (2001)『中上級を教える 人のための日本語文法ハンドブック』 スリーエーネットワーク

藤堂明保・相原茂 (1996)『中国語概論』 大修館

喜名朝昭・伊波和正・森庸夫・高橋俊三 (1980)「翻訳 B・J ベッテルハイム著『琉球 語と日本語の文法の要綱』」(1)『南島文化』第 2 号 沖縄国際大学

喜名朝昭・伊波和正・森庸夫・高橋俊三 (1981) 「翻訳 B・J ベッテルハイム著『琉球 語と日本語の文法の要綱』」(2)『南島文化』第 3 号 沖縄国際大学

喜名朝昭・伊波和正・森庸夫・高橋俊三 (1982) 「翻訳 B・J ベッテルハイム著『琉球 語と日本語の文法の要綱』」(3) 『南島文化』第 4 号 沖縄国際大学

喜名朝昭・伊波和正・森庸夫・高橋俊三 (1983) 「翻訳 B・J ベッテルハイム著『琉球 語と日本語の文法の要綱』」(4) 『南島文化』第 5 号 沖縄国際大学

喜名朝昭・伊波和正・森庸夫・高橋俊三 (1984) 「翻訳 B・J ベッテルハイム著『琉球 語と日本語の文法の要綱』」(5) 『南島文化』第 6 号 沖縄国際大学

高橋俊三 (1995)「『英琉辞書』の表記法」『南島文化』第 17 号 沖縄国際大学  高橋俊三 (2001)「『英琉辞書』における動詞の活用」『南島文化』第 23 号 沖縄国際

大学  

高橋俊三 (2008)「ベッテルハイムの『英琉辞書』とモリソンの『華英字典』との比較」 

『南島文化』 沖縄国際大学

三保忠夫 (2000)『日本語助数詞の歴史的研究 近世書札礼を中心に』 風間書房 三保忠夫 (2006)『数え方の日本史』 吉川弘文館

武柏索・王淑文・周国強 (1955)『中国語量詞 500』中華書店

『現代漢語詞典』 (1983) 商務印書館 修訂本 

『沖縄語辞典』   (2001) 国立国語研究所編 財務省印刷局 

『中文量 大全』(2014 年 10 月 16 日 ) 新華字典    中文量 大全 - 在 新 字典

    xh.5156edu.com/page/z7949m2560j18586.html

参照

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