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RCEP 交渉 15 年末合意に黄信号?
第 2 回閣僚会合の評価
○ 8月27日に日本を含む東アジアの16カ国が参加して開催された「東アジア地域包括的経済連携
(RCEP)」第2回閣僚会合では、注目されていた「モダリティ」について合意に至らなかった。
○ 物品貿易における自由化の水準や方法を定める「モダリティ」に合意できなかったことは、RCEP交 渉の中核部分について参加各国の意見の隔たりが大きいことを明らかにした。
○ これは、目標とする2015年末までの交渉妥結に黄信号が点ったことを示している。交渉期限の延長 や部分合意のみならず、一部参加国の交渉離脱の可能性も捨てきれない。
1.第 2 回閣僚会合はモダリティ合意に至らず
8月27日、ネピドー(ミャンマー)において、「東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership: RCEP(アールセップ))」の閣僚会合が開催された。RCEP交渉は、ASEAN(東 南アジア諸国連合)10カ国と、ASEANとすでにFTA(自由貿易協定)を締結しているFTAパートナー6カ 国(ASEAN+6:日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランド、インド)の16カ国が参加して2013年5月 に開始された1。閣僚会合は昨年8月に続き、今回が2回目となる。
RCEP交渉では、今次閣僚会合までに5回の交渉会合が開催されている(図表 1)。交渉の進め方につ いては、交渉開始に先立つ2012年8月に「RCEP交渉の基本指針及び目的」(以下、基本指針)が参加国 閣僚により策定されている。基本指針では、8つの基本原則と交渉対象となる8分野の大枠が定められ、
図表 1 RCEP 交渉におけるこれまでの交渉会合概要
政策調査部上席主任研究員 菅原淳一
03-3591-1327
政 策
2014 年 9 月 1 日みずほインサイト
交渉会合(開催国/都市、⽇程) 会合の概要
第1回会合(ブルネイ)2013年5⽉9-13⽇ 物品貿易、サービス貿易、投資に関する各作業部会(WG)開催、交渉の取り進め⽅や、交渉分野等につい て議論
第1回閣僚会合(ブルネイ)2013年8⽉19⽇ 進捗報告、共通譲許を原則とすること、第2 回閣僚会合までにモダリティを固めることに合意
第2回会合(ブリスベン)2013年9⽉23-27⽇ 物品貿易、サービス貿易、投資に関する各作業部会開催、原産地規則、税関⼿続・貿易円滑化に関するサ ブWG設置合意
第3回会合(クアラルンプール)2014年1⽉20-24⽇ 基本指針に基づき、経済技術協⼒、競争、知的財産、紛争処理に関する各作業部会設置合意
第2回閣僚会合(ネピドー)2014年8⽉27⽇ モダリティ合意に⾄らず。2015年末までの交渉妥結を確認 第6回会合(グレーター・ノイダ )2014年12⽉1-5⽇ 予定
第4回会合(南寧)2014年3⽉31⽇-4⽉4⽇
第5回会合(シンガポール)2014年6⽉21-27⽇
物品貿易,サービス貿易,投資,経済技術協⼒,競争、知的財産に関する各作業部会等開催、法的・制 度的事項に関する作業部会、植物衛⽣検疫(SPS)、貿易の技術的障害(TBT/STRACAP)に関する サブWG設置合意
物品貿易,サービス貿易,投資,経済技術協⼒,知的財産,競争、法的・制度的事項に関する各作業 部会、原産地規則、税関⼿続・貿易円滑化、SPS、TBT/STRACAPに関するサブWG等開催
(注)STRACAP(Standards Technical Regulations and Conformity Assessment Procedures):任意規格、強制規格及び適合性評価手続
(資料)外務省・経済産業省・豪外務貿易省・NZ外務貿易省資料によりみずほ総合研究所作成
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2015年末までに交渉を妥結させるとの目標が明記されている2。これまでの交渉では、基本指針に基づ き、分野別の作業部会やその下部組織が設置され、交渉が進められている(図表 2)。
これを受けた今次閣僚会合の最大の注目点は、「モダリティ」に合意できるかどうかであった。モダ リティとは、「交渉の進め方に関する約束事」(経済産業省)であり、2013年8月の第1回閣僚会合に おいて、今次閣僚会合までに「モダリティを固めること」に合意していた3。なかでも物品貿易におけ る自由化の水準や方法について合意できるかが、今次閣僚会合の焦点であった。しかし、今次閣僚会 合ではモダリティ合意に至らず、目標とされている2015年末までの交渉妥結を再確認するに留まった4。
物品貿易の自由化、特にその中心となる関税の削減・撤廃の水準や方法は、FTA交渉の中核部分であ り、交渉参加各国の意見が激しく対立するのが常である。そのため、モダリティ5に合意できれば、関 税交渉は大きく前進する。今回モダリティに合意できなかったということは、目指す自由化水準や方 法について交渉参加国間にある隔たりを、これまでの交渉では埋められなかったということであり、
目標である2015年末までの交渉妥結に黄信号が点ったと言えるだろう。
2.物品貿易のモダリティを巡る交渉
(1)既存の ASEAN+1FTA における自由化率とモダリティ
基本指針では、物品貿易に関し、「RCEP参加国の既存の自由化レベルを基礎として、また、品目数 及び貿易額の双方で高い割合の関税撤廃を通じて、高いレベルの関税自由化を達成することを目指す べきである。関税の譲許は、地域的な経済統合の利益の最大化を追求すべきである。」と記されてお り、モダリティはこれを具体化するものとなる。
3カ国以上が参加するFTA交渉におけるモダリティでは、①自由化約束(譲許)を相手国別とするか
(国別譲許)、相手国に拠らない共通のものとするか(共通譲許)、②自由化率の水準とその計算方 法、③関税撤廃までの年数などの自由化の方法、などが決められる。RCEP交渉では、このうち①に関 しては、第1回閣僚会合において共通譲許を原則とすることがすでに合意されている6。共通譲許では、
ある参加国の関税削減・撤廃の約束は、他の参加15カ国に対して共通のものであり、国ごとに差をつ けない。例えば、日本のRCEPにおける牛肉の関税率は、シンガポールに対しても豪州に対しても同率 になる。これは、RCEPを活用する域内企業にとっては大変重要な点である。国別譲許の場合、RCEP域
図表 2 RCEP 交渉の対象分野・作業部会
(注)吹き出しの中は作業部会(Working Group)の下部組織(sub-Working Group)。「紛争処理」は「法的・制度的事項」の一部となっ たとみられる(筆者推測)。
(資料)外務省・経済産業省・豪外務貿易省・NZ外交貿易省資料よりみずほ総合研究所作成
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内の貿易であってもどの国から輸入するかによって関税率が異なることになり、RCEP活用のためのコ ストが増えてしまう。よって、効率的なサプライチェーンの構築を目指す企業にとっては、共通譲許 が望ましい。基本指針にある「関税の譲許は、地域的な経済統合の利益の最大化を追求すべき」とい う点は、共通譲許によって実現される。したがって、共通譲許を原則とすることで合意できたことは、
交渉における大きな成果である。
同時に、共通譲許を原則としたことで、モダイリティの②及び③に関する参加国間の意見の隔たり はより大きくなる。国別譲許の場合、日本にとってセンシティブな品目でも、相手国が生産・輸出し ている品目でなければ、当該品目を除外品目とする必要はない。つまり、相手国によって除外品目を 選択することができるので、自由化率を高くすることができる。しかし、共通譲許の場合は、実態上 は1カ国に対してのみ除外を求めれば良い品目であっても、交渉ではすべての国に対して除外を求めな ければならない。それだけ自由化率は低くなり、センシティブ品目を抱える国にとっては交渉が難し くなる。
基本指針において、RCEPでは「RCEP参加国の既存の自由化レベルを基礎」として「高いレベルの関 税自由化」を目指すとされているが、RCEPの「基礎」となるのはこれまでにASEANと日本などFTAパー トナー6カ国がそれぞれ結んだFTA(ASEAN+1FTA)である。Kuno, Fukunaga and Kimura(forthcoming) によれば、5つのASEAN+1FTAにおける物品貿易の国別自由化率は図表 3の通りである7。これをみると、
(a)ASEAN諸国のうち後発加盟4カ国(CLMV:カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の自由化率
(5FTA共通)が低いことと、(b)ASEANインドFTA(AIFTA)の自由化率(シンガポール除く)が他の
図表 3 ASEAN+1FTA における国別自由化率
AJCEP AANZFTA ACFTA AIFTA AKFTA 平均① 平均②
ブルネイ 96.4% 98.5% 97.8% 82.6% 97.9% 94.6% 97.7%
インドネシア 88.7% 93.4% 89.0% 50.4% 90.3% 82.3% 90.3%
マレーシア 92.1% 95.5% 93.7% 79.6% 93.5% 90.9% 93.7%
フィリピン 96.0% 94.8% 86.5% 75.8% 97.7% 90.2% 93.8%
シンガポール 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%
タイ 96.9% 98.8% 88.3% 74.3% 93.7% 90.4% 94.4%
カンボジア 76.0% 86.2% 86.7% 84.1% 85.5% 83.7% 83.6%
ラオス 84.2% 90.7% 96.4% 77.5% 85.4% 86.8% 89.2%
ミャンマー 79.4% 86.1% 91.3% 73.6% 87.5% 83.6% 86.1%
ベトナム 84.7% 90.9% 90.4% 69.7% 84.3% 84.0% 87.6%
⽇本 86.2%
豪州 100.0%
ニュージーランド 100.0%
中国 94.6%
インド 74.3%
韓国 92.2%
平均 89.1% 94.6% 92.3% 76.5% 91.6% 88.7% 91.6%
(注1)HS8-10桁水準の最終自由化率。AJCEPのASEAN諸国等を除き、HS2007準拠。
(注2)平均①は全5FTAの国別平均、平均②はAIFTAを除いた4FTAの国別平均。
(注3)各項色分けは、橙:95%以上、薄青:80%台、濃青:80%未満。
(資料)Kuno, A., Y. Fukunaga and F. Kimura (forthcoming), 'Pursuing a Consolidated Tariff Structure in the RCEP: Sensitivity and Inconsistency in ASEAN’s Trade Protection' Table 6.2, In Christopher Findlay ed. ASEAN and Regional Free Trade
Agreements. (Routledge-ERIA Studies in Development Economics)よりみずほ総合研究所作成
AJCEP:ASEAN・日本FTA AANZFTA:ASEAN・豪NZ・FTA ACFTA:ASEAN・中国FTA AIFTA:ASEAN・インドFTA AKFTA:ASEAN・韓国FTA
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ASEAN+1FTAに比べ著しく低いことが明らかである。このうち (a)については、基本指針において「参 加国の異なる発展段階を考慮」することが合意されており、CLMVに対しては関税撤廃までの期間を長 くするなどの一定の配慮をすべきだろう。
(b)については、インドの姿勢が鍵となる。ASEANの先発加盟6カ国(ASEAN6:ブルネイ、インドネシ ア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)の自由化率は、AIFTAを除く4つのASEAN+1FTAの 平均(図表 3「平均②」)ではいずれの国も90%を超えている。したがって、ASEAN諸国がインドに対 する自由化率を他のASEAN+1FTAの水準まで引き上げるには、インドが自由化率を引き上げることが不 可欠となる。
さらに、RCEP交渉では、ASEAN諸国とFTAパートナー6カ国との間の問題に加え、FTAパートナー諸国 間の問題がある。これら6カ国間では15件の二国間FTAが締結されうるが、現時点で発効・署名されて いるものは6件に留まる(図表 4)。しかも、RCEPにおける自由化は、共通譲許や累積原産地規則8の 点を鑑みれば、二国間FTAにおける自由化よりもハードルが高い。例えば、インドは国内産業界の反対 もあり、中国との二国間FTAを交渉していないが、RCEPにおいては共通譲許が原則であるため、中国の みを差別的に扱うことはできない。したがって、インドにとってはモダリティにおいて高い水準の自 由化を受け入れることは難しくなる。報道によれば、今次閣僚会合に向け、インドはモダリティにお ける自由化率の「下限を40%程度と極めて低い水準に設定するよう主張」したとされる。また、今次閣 僚会合にインドの閣僚が参加しなかった背景には、自由化率に関して他国との意見の隔たりが大きか ったことがあるとも言われている9。今後交渉において、インドがどのような姿勢をとるか、これに他 の交渉参加国がどのように対応するかが、合意に向けたひとつの鍵となる。
(2)モダリティにおける日本の主張
物品貿易のモダリティにつき、これまでの交渉で日本は「10 年以内に 90%以上」自由化することを 提案しているとされる10。この日本の主張には検討すべき点が 2 つある。ひとつは「10 年以内に 90%
以上」という水準が目標として適切かという点、もうひとつはこの目標が RCEP 交渉の基本指針と整合 的かということである。
「90%以上」という水準については、図表 3 でみたように、AIFTA を除く 4 つの ASEAN+1FTA では ASEAN6
図表 4 ASEAN の FTA パートナー国間の FTA 締結状況
(注)2014年8月1日現在。◎:発効済、□:署名済、○:交渉中、△:共同研究終了、●:交渉中断中 左側は二国間FTA、右側は多国間FTA(RCEP除く)、橙は二国間FTA発効・署名済
*1:日中韓3カ国で交渉中 *2:TPP交渉
(資料)ジェトロ資料・各種報道等よりみずほ総合研究所作成
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もFTAパートナー5カ国も90%近傍の自由化を約束している。同じ「90%」であっても、RCEPでは共通譲 許と累積原産地規則が適用されること、FTAパートナー諸国間でFTAが未締結なことを考えれば、 RCEP で「90%以上」という水準を「10年以内に」実現するという目標は一定の意味を持つ。しかし、RCEP では「既存のASEAN+1FTAよりも相当程度改善した、より広く、深い約束」をするとの基本指針の原則 からすれば、「90%」という自由化水準は十分とは言い難い。「相当程度改善した」というには、90%
台後半の自由化率が求められるだろう。
ASEAN+1FTAの実績からみると、この目標を実現するのが難しいのは、CLMVを除けば、インドと日本 である。インドについては、AIFTAの自由化率の低さについてすでに述べたが、日本もAJCEPにおいて 自由化率が90%に達していない11。日本は、これまで発効・署名した14件のFTA12において、90%を超える 自由化率を約束したことはない(図表 5)。では、日本はRCEPにおいてこれまでのFTAを上回る自由化 率を約束しようとしているのかというと、そうではなさそうである。報道によれば、日本は自由化率 の算定につき、これまで本稿でみてきた関税品目数をベースにしたものだけでなく、「直近3年の輸 入額に占める割合でも可能とする」ように提案したとされる13。日本の場合、提案の通り貿易金額をベ ースにこれまでのFTAにおける自由化率を計算すると、対メキシコを除くすべてのFTAで90%を超えてい る(前掲図表 5)。これは、高関税等によって保護されている品目の貿易割合が小さいため、関税品 目数ベースの場合よりも自由化率が高くなった結果である。つまり、日本提案は、これまでのFTAを超 える自由化は最小限に留めたいという日本の姿勢の表れと言ってよいだろう。しかし、基本指針には、
「品目数及び貿易額の双方で高い割合の関税撤廃」を目指すことが明記されており、また、「既存の ASEAN+1FTAよりも相当程度改善」するという点からも、日本提案は基本指針と整合的とは言い難い。
日本が RCEP において実質的に新たな自由化を行わないのであれば、他の交渉参加国もさらなる自由 化には応じないだろう。交渉を主導する意味においても、日本自らがさらなる自由化を実行する姿勢 を示す必要がある。
図表 5 日本の FTA における日本側自由化率
80%
85%
90%
95%
100%
貿易金額ベース 関税品目数ベース
(資料)内閣官房・外務省・経済産業省資料よりみずほ総合研究所作成
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3.今後の展望-2015 年末までの交渉妥結は可能か?
2015 年末までの交渉妥結という目標は、16 カ国という参加国の数、経済発展水準等の参加国の多様 性、関税交渉に留まらない交渉対象分野の多さなどを考えれば、そもそもかなり野心的なものである。
今次閣僚会合ではこの目標が再確認されたが、モダリティで合意できなかったことは、その実現に疑 念を抱かせることとなった。
考えられる今後のシナリオは 4 つある。第 1 のシナリオは目標通りの交渉妥結である。期限までま だ 1 年 4 カ月あり、交渉参加各国の足並みが揃うのであれば、十分な時間が残されている。しかし、
今回明らかになったのは、各国の意見の隔たりの大きさである。物品貿易の自由化率目標に関する日 本などとインドの意見の隔たりは容易に埋められる大きさではない。また、今後物品貿易以外の分野 の交渉が進めば、様々な意見対立が顕在化することになるだろう。サービス貿易・投資の自由化、知 的財産権保護や競争政策のルール、物品貿易における原産地規則などの分野で 16 カ国の意見を収斂さ せるのは容易ではない。加えて、交渉対象を広げようとの動きもある。例えば、豪州は前政権時に環 境と労働を交渉対象とするよう求めている14。また、韓国とニュージーランドは政府調達に関する共同 提案を行っている15。すべての分野について目標期限までに合意するのはかなり難しいだろう。
そこで考えられる第 2 のシナリオは、交渉期限の延長である。通商交渉において妥結目標期限が先 延ばしされることは日常茶飯事である。決して望ましいことではないが、その可能性を念頭に置いて おく必要があるだろう。
第3のシナリオは、交渉対象分野の一部分について合意するという部分合意である。これまでの ASEAN+1FTAでは、物品貿易について先行して合意し、サービス貿易や投資については物品貿易協定発 効後に交渉しているものもある。実際、日ASEAN・FTA(AJCEP)は、物品貿易を含む協定全体としては 2008年12月に発効しているが、サービス貿易・投資分野については現在も交渉中である。RCEPについ ても、いわゆる早期収穫方式で、合意できる分野のみの協定発効を先行させることも考えられる。
第4のシナリオは、参加国の一部脱落、つまり16カ国のうちの一部が合意に参加しないというもので ある。今次閣僚会合の様子からすると、インドが合意に参加しないという可能性を捨てきることはで きない。
インドは、AIFTAにおける自由化率の低さ、国内産業界の対中FTAへの警戒心16などをみると、RCEPで 他の交渉参加国が求める自由化に応じることにはかなり慎重な姿勢を続けるものと思われる。今次閣 僚会合でも、閣僚欠席の上、モダリティに関して態度を留保したと伝えられている。こうしたインド の姿勢に、交渉参加国の中からはすでに「インド抜き」の交渉を求める声も上がり始めているという17。
今次閣僚会合の結果から第3、第4のシナリオまで想定するのは時期尚早かもしれない。これらのシナ リオが現実のものとならないよう、日本政府にはRCEP交渉の加速を主導することが期待される。その ためには、日本には率先垂範が求められる。国内事情を優先し、守勢に立つ国が交渉を主導すること はできない。TPP(環太平洋経済連携協定)交渉においても、RCEP交渉においても、日本がすべきこと は同じである。交渉を合意に導くためには、日本も身を切る覚悟が必要である。
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1 RCEP 交渉に至る経緯や交渉の概要については、菅原淳一(2012)「動き出す『東アジア地域包括的経済連携(RCEP)』」(『みずほイ ンサイト』2012 年 11 月 12 日、みずほ総合研究所)参照。
2 基本指針については、菅原(2012)。
3 経済産業省「茂木経済産業大臣がブルネイ・ミャンマーに出張しました」2013 年 8 月 26 日。
4 JOINT MEDIA STATEMENT, THE SECOND REGIONAL COMPREHENSIVE ECONOMIC PARTNERSHIP (RCEP) MINISTERIAL MEETING 27 August 2014, Nay Pyi Taw, Myanmar。
5 以下、本稿における「モダリティ」は、「物品貿易における自由化の水準や方法」の意味で用いる。
6 注 3 に同じ。
7 国別自由化率の算定に関しては、国ごとに品目数に差異がある HS8-10 桁水準の数値は国際比較に適さないとの指摘があるが、TPP
(環太平洋経済連携協定)に関する報道等では HS8-10 桁水準の自由化率の数値が用いられていることを考慮し、本稿では HS8-10 桁水準の自由化率を用いた。なお、この数値を算出した Kuno, Fukunaga and Kimura(forthcoming)では、国際的に共通化された HS6 桁水準の自由化率も算出している。これによれば、例えば、AJCEP における日本の自由化率は 91.9%となる。
8 累積原産地規則とは、「域内の複数国で製造・加工された部分を合計(累積)し、その割合がある一定の基準を上回る場合には当該 産品が原産品であるとみなすというルール」(経済産業省)。自国原産品だけでなく、他の FTA 域内国の原産品も原産品とみなすこ とができるため、原産地規則を満たしやすくなる。例えば、A 国原産品と C 国原産品で製造された製品 X が、A 国と B 国による二国 間 FTA では原産地規則を満たせなかった場合でも、A、B、C、3 カ国が参加する多数国間 FTA では累積によって原産地規則を満たし、
特恵税率が適用されるということが生じる。多くの国に跨がるサプライチェーンを構築している企業にとっては、サプライチェー ンの効率化のために必要な重要なルールである。
9 時事通信、2014 年 8 月 26 日。
10 日本経済新聞、2014 年 1 月 22 日。
11 注 7 参照。
12 日本では EPA と呼ばれるが、本稿では FTA に統一した。
13 注 10 に同じ。
14 エマーソン貿易相の発言。豪外務貿易省、”Groundwork laid for massive Asian regional trade agreement”, 2012 年 9 月 1 日。
15 韓国貿易産業資源省プレスリリース、2014 年 4 月 4 日。
16 例えば、WTO(世界貿易機関)発足(1995 年 1 月 1 日)以降昨年末までの実績で、世界で最もアンチ・ダンピング(AD)措置を発 動したのがインドであり、インドの同措置の 4 分の 1 が対中措置である。また、世界の AD 措置発動国-被発動国関係の中で最も件 数が多いのがインド-中国である。
17 産経新聞、2014 年 8 月 28 日。
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