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財産の隠匿・散逸防止策について
第1 総論
1. 財産保全の必要性
・ 消費者被害事案の中には、事業としての実態がない詐欺的な商法を典 型として、早期に財産を保全する必要性の高い事案が存在する。
・ 個々の消費者としては、自らの債権の保全や被害の回復のために、民 事保全手続や破産申立て等をすることにより、財産保全の手段を講じる ことが制度上は可能である。
・ しかしながら、個々の消費者は、債務者の財産状態や保全対象となる 財産等に関する情報を十分には持たず、法的知識、経済力等の点におい ても十分でないこと等により、自ら財産を保全することは期待できない ことが通常である。
その結果、多数の消費者被害が生じながら、当該事業者について迅速 な財産保全がなされず、消費者被害の回復が十分に図られない事案が多 い。
・ したがって、個々の消費者(債権者)に代わり、第三者が財産保全を 行うこととする必要があるが、実効的かつ適正に財産保全を行うために は、必要十分な調査権限を行使するなどして事業者の違法行為や財務状 況等に関する情報を収集し、分析する能力を有していることが前提とな る。
この点、消費者庁は、消費者被害に関する一定の情報を知り得る立場 にあり、さらに、新たな行政処分権限を創設することとの関係で財産調 査権等の一定の調査権限を整備することを前提として、債務者の財産状 況等について知り得る立場となる。
そこで、消費者利益の擁護の観点から、消費者庁が財産保全を行うこ とが考えられる。
2. 消費者庁による財産保全のための方策
・ 消費者庁が財産保全を行うとしても、個々の消費者(債権者)に対し て、債務者たる事業者の財産状況や財産内容等に関する情報を提供する こと等により個別の保全を促す形での関与もあり得る。
しかしながら、行政保有情報の開示についてはその内容や方法の適切 性の問題や、特定の消費者(債権者)に対してのみ行政保有情報を開示 することの公平性等の問題があるし、そもそも、消費者の利益の擁護等
資料
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を任務とする消費者庁としては、特定の消費者に限らず、消費者全体の ために、財産保全に取り組むべきである。
・ 消費者庁による財産保全のために考えられる具体的な方策としては、
① 行為差止等の命令(業務改善命令)及び業務停止命令の方法、
② 振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回 復分配金の支払等に関する法律)に基づく犯罪利用預金口座等の凍結
(同法第3条)の一層の活用、
③ 会社解散命令及び管理命令(会社法第824条及び第825条)の活用、
④ 消費者庁による破産申立て、
が挙げられる。
・ 上記の①ないし④の方策は、消費者被害事案の個別性に応じて相互に 組み合わせて用いることにより、有効性を一層発揮するとも考えられ、
①ないし④の全てについて、総合的にその導入・活用に取り組むのが適 当と考えられる。
・ そして、上記の方策のうち、④消費者庁による破産申立てについては、
迅速性及び包括的財産保全(預金債権のみならず、現金、有価証券、動 産、不動産等の包括的保全)の観点から特に有効な方策であるから、④ 消費者庁による破産申立てについて、検討を行う。
第2 破産手続開始の申立て
1. 消費者庁による破産申立ての必要性
(1) 消費者被害を生じた事案のうち、特に、いわゆる破綻必至の投資・利殖
詐欺事案(事業者が消費者に高利回り・高配当を約束して資金を集める一 方、実際には当該資金を事業に投資せず、配当はさらに別の消費者から集 める資金を充てる投資・利殖詐欺。いわゆるポンジースキーム)において は、消費者への配当原資は他の消費者が支払った金員以外にはなく(自転 車操業)、事業者は投資参加者数を常に増加・拡大させていくが、投資参加 者数の増加・拡大には限界があるから、当該事業は、その性質上、破綻必 至であり、多数の消費者被害が発生している。
こうした破綻必至事業の事案では、①多数の消費者被害が発生し、迅速 かつ包括的な財産保全がなされないと、多数の消費者に深刻な影響を生じ、
また、②債権者自身による(破産申立てを含む)財産保全が期待できない ため、消費者庁が破産申立てをする必要性が特に高い。具体的には、
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① ・ 多数の消費者被害の発生
破綻必至事業の事案では、当該事業により財産的損害を受ける消費 者(債権者)の数が定型的に多数(数千人から数万人規模。なお、被 害総額は数百億円規模)に及ぶ。こうした事案においては、多数の消 費者が、当該事業者に対して、取引に係る勧誘行為の違法(不実告知、
断定的判断の提供、詐欺行為、説明義務違反)等を理由とする不法行 為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権等を行使し得る と考えられ、これらの潜在的な損害賠償請求権等に係る請求額(負債)
と当該事業者の資産とを比較すると、当該事業者は債務超過の状態に ある場合が多いと考えられる。
・ 消費者被害の拡大
また、このような事案においては、迅速な破産の申立てができない と、当該事業者の行為によってさらに多数の消費者が財産的損害を被 る具体的おそれが認められる。
・ 財産の隠匿・散逸
さらに、このような事案においては、迅速な破産の申立てができな いと、当該事業者が財産を費消して債権者への返還金の配当可能原資 が減少する具体的おそれも認められる。
・ 以上のように、破綻必至事業の事案では、定型的に多数の債権者に 深刻な影響が生ずる具体的なおそれがある。
② それにもかかわらず、消費者事案においては、個々の消費者に財産保 全の手段を講じることは期待できない。例えば、破産手続開始の申立て をなすには、破産手続開始原因(支払不能又は債務超過。破産法第16条)
の疎明が必要(同法第18条第2項)であるところ、一般に債権者は債務 者の財産状態等に関する情報を持たず、特に、個々の消費者は、事業者 である債権者と異なり、法的知識、経済力等の点において、法的手続で ある破産手続に関与することは困難であるため、特に早期の段階におい ては、上記の疎明を行うことは事実上不可能又は著しく困難である。
以上のように、多数の消費者被害を生じさせ、事業者が実質的に債務超 過の状態にあることが多い一方、個別の消費者(債権者)による破産申立 てを期待することができないという消費者事案が存在する。
したがって、上記のような事案(立法事実)を背景として、消費者被害 の発生・拡大を防止し、当該事業者の財産を公平に分配するためには、消 費者利益の擁護等を任務とする消費者庁(消費者庁及び消費者委員会設置 法第3条)が、当該事業者の破産手続開始の申立てを行う必要があり、そ のためには、消費者庁に破産申立権を認める必要性が高いと考えられる。
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(2) 破産法見直しに関する議論とも合致すること
消費者庁に破産申立権を認めることは、以下のとおり、破産法に関する 法制審議会倒産法部会における議論とも整合する。
ア. 平成13年1月から、法制審議会倒産法部会において、会社更生法の改正 作業が行われ、これと並行して同部会に置かれた破産法分科会(その後倒 産法部会)において破産法の見直しに関する議論が行われた。この際に行 われた会社更生、破産に関する幅広い議論の中で、多数の消費者に財産的 被害をもたらすような事案について消費者保護の観点から破産手続を活用 することはできないかとの問題意識も踏まえ、監督官庁による破産申立て の是非についても議論が行われた(議論の経過・詳細について、参考資料 2)。
イ. 監督官庁による破産申立ての是非に関して、上記部会・分科会における 結論としては、監督官庁による破産申立てについては、破産法中に一般的 な規定を設けることはせず、個別法の規定に委ねるものとするとされ、監 督官庁に破産の申立権を認める必要性(立法事実)があると考えることが できる場合として、以下のような場合が示された。
① 定型的に多数の債権者が存在し、かつ迅速な破産の申立てができない と、多数の債権者に深刻な影響が生ずるおそれがある場合であって、
② 債権者自らが破産の申立てを行うことを期待することができない場 合(参考資料2・24頁)
ウ. 前述のとおり、消費者事案には、①多数の消費者被害が発生し、迅速か つ包括的な財産保全がなされないと多数の消費者に深刻な影響を生じ、ま た、②債権者自身による(破産申立てを含む)財産保全が期待できないと いう事案が多数存在する。このような事案は、まさに監督官庁に破産の申 立権を認める必要性(立法事実)があると考えることができる場合として、
法制審議会において示された事案と言える。
したがって、十分な調査権限を持ち事業者の財務状況等をよく知り得る ことを前提として、消費者庁は、消費者利益の擁護等の任務を全うするた め、上述の破綻必至事業の事案について破産申立権を持ち、事業者の早期 の破綻処理を可能にし、消費者利益の擁護を図ることは合理的であり、消 費者庁が破産申立権を持つことは許容されると考えられる。
2. 消費者庁が破産申立てに必要な調査権等を有すること
破産法上、債権者申立ての場合には、債権の存在及び破産手続開始の原 因となる事実の疎明が必要となる(破産法第18条第2項)ところ、これは
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申立ての適法要件であり、裁判所が破産手続開始決定をなすためには、な お破産原因(支払停止又は債務超過)についての証明が必要と解されてい る(伊藤眞『破産法・民事再生法[第2版]』100頁ほか)。したがって、消 費者庁が破産手続開始の申立てを行う場合、破産原因を証明するための資 料を入手する必要がある。
(1) 破産原因(債務超過)を証明するために必要となる資料について
破産原因(債務超過)を証明するためには、債務者の総負債額が総資産 額を超えている事実を申立書に記載する必要がある。
当該事実は、①貸借対照表上の資産の額及び負債(②の債務を除く)並 びに②被害者に対する債務(通常の場合、当該貸借対照表上の資産の額を 超える)の存在により証明できると考えられるため、まずは、債務者(事 業者)に対して、①貸借対照表(作成していない場合には、資産と負債の 状況を記載した資料)及び②顧客名簿、違法行為が会社全体の意思として 行われていることを推認させる勧誘マニュアル等の提出を求める必要があ る。
ア.資産について
通常、貸借対照表上、資産として計上される主なものとしては、①現金、
②預貯金、③有価証券、④不動産、⑤売掛金等が考えられる。
① については、現物を確認する必要があり、事業者又は関係のある事業 者の事業所等に立ち入って検査することが考えられる。
② については、事業者が被害者に対して振込先として指定した銀行等に 対して、預金口座の残高及び入出金記録について報告・資料提出をさ せることが考えられる。また、それ以外の銀行等に対しても、預貯金 口座の有無についての照会に対する協力を依頼することが考えられ る。(この場合、新たに協力依頼に関する規定を設けていることが前 提となる。以下、同じ。)
③ については、入出金記録等から取引している証券会社等が分かる場合 には、当該証券会社等に対して、株式等の有無及び数量等について報 告・資料提出をさせることが考えられる。また、それ以外の証券会社 等に対しても、株式等の有無についての照会に対する協力を依頼する ことが考えられる。
④ については、取引先の不動産会社等が分かる場合には、当該不動産会 社等に対して、不動産取引の有無を報告させることが考えられる。ま た、市区町村において固定資産課税台帳を作成しているので、市区町 村に対して、当該事業者の保有する不動産の有無等の照会への協力を 依頼することが考えられる。
⑤ については、入出金記録等から取引の有無を確認し、取引先の事業者 等に対して、当該売掛金等の基となる契約の有無やその額について、
報告させることが考えられる。
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また、その他の資産についても、事業者等への質問権限に基づき、そ の有無及び在り処を回答させた上で、最終的には事業所等への立入調 査によって当該資産を確認し、帳簿等の必要な物件を提出させること が考えられる。
なお、正当な理由のない検査忌避・質問に対する虚偽の回答等に対して 罰則を設けることにより、実効性を確保することが考えられる。
イ.負債(被害者に対する債務を除く)について
通常、貸借対照表上、負債として計上される主なものとしては、①借入 金、②買掛金、③公租公課等が考えられ、資産の場合と同様に、最終的に は事業者に対して質問・調査することによって、これらの負債を確認し、
必要な物件を提出させることが可能である。
ウ.被害者に対する債務の存在について
被害者に対する債務(被害者に対する(潜在的な)不当利得返還債務又 は不法行為による損害賠償債務)の存在についても、ア.及びイ.の場合 と同様に、最終的に事業者に対して調査・質問を行うことにより、確認す ることができる。
すなわち、最終的に事業者に対して調査・質問を行って勧誘マニュアル 等を確認するなどにより、違法行為が会社全体の方針として行われている ことを立証すれば、顧客名簿に記載されている者のほとんど全てが債務名 義を取得する蓋然性が高いということを説明することが可能である。
(2)(1)で必要となる資料を確認するための消費者庁の権限について
消費者安全法の枠組みにおける調査権限は、広範・深刻な消費者被害を 発生・拡大させる事案に対して、業種横断的に消費者被害の発生・拡大を 防止する措置を適切に行うために必要な場合に認められるものであり、(1) の資料等も含め、幅広く調査することができる。そして、前述のとおり、
この調査については、正当な理由のない検査忌避・質問に対する虚偽の回 答等に対する罰則を設けることにより、実効性が確保されている。
事業者に対して、業所管庁ではない消費者庁が行政処分を行うには、ま ず、当該事業者の全体像を正確に把握する必要があり、当該事業者の事業 内容や資産・負債を含む財産状況等を調べる必要がある。
また、例えば、当該事業者が顧客に対して「元本を保証します」といっ た不実告知をしていたことが問題となる事案においては、告知していた事 項が「不実」であるか否かを確認することは、措置を行うための前提とし て不可欠であり、そのために、当該事業者の事業計画等を調べる必要があ る。そして、当該不実告知が会社全体の方針として行われているものかど うかを明らかにすることは、どのような行政措置が適切か判断するために 不可欠であり、そのために、勧誘マニュアル等の有無・内容等を調べる必
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要がある。
さらに、このような事案においては、事業者に対し、「営業員が、本件社 債は元本保証されていると告げていたことがあるが、それは虚偽である。」 旨を購入者に通知し、その通知結果を消費者庁長官まで書面で報告するこ と、という指示をする必要があるが、この場合、事業者から本件購入者に 対し、適切に通知がなされたか否かを確認するために、対象となる購入者 が誰であるかということを把握する必要があるため、顧客名簿等を確認す る必要がある。
3. 破産申立てに伴う他の規定の整備
消費者庁の破産申立権に関する規定を設ける場合、それに付随して、他 の手続の中止命令等(破産法第24条及び第25条)、保全処分(同第28条)、 保全管理命令(同第91条)の申立権に関する規定も、併せて定める必要が あると考えられる(監督庁による倒産手続開始の申立権が認められている 金融機関等の更生手続の特例等に関する法律についても同様。同法第 493 条ないし第495条参照)。さらに、この他に必要な関連規定について整備す ることとする。
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第3 既存制度の活用による財産の隠匿・散逸防止 1. 振り込め詐欺救済法の活用
・ 振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分 配金の支払等に関する法律)による取組みは、幅広い主体による簡易・迅 速な対応が可能であるという点で、通常の行政措置とは異なる利点がある。
したがって、同法に基づく犯罪利用預金口座等の凍結(同法第3条)のた めに必要な取組みを行う。
・ 具体的には、消費者庁による各種の行政措置(行為の差止め、業務停止、
破産申立て等)の対象事案に関する財産調査等の結果として、犯罪利用預 金口座等を特定する情報を取得し、当該情報に基づき犯罪利用預金口座等 の凍結のための情報提供を積極的に行うこととする。
2. 会社解散命令及び管理命令の活用
・ さらに、①会社の設立が不法な目的に基づいてされた場合等であって、
公益を確保するため会社の存立を許すことができないと認められる場合に、
裁判所が、法務大臣又は株主、社員、債権者その他の利害関係人の申立て によって行う会社解散命令(会社法第 824 条)や、②裁判所が、会社解散 命令の申立てのあった場合に、法務大臣若しくは株主、社員、債権者その 他の利害関係人の申立てにより又は職権で、会社解散命令の申立てにつき 決定があるまでの間、会社財産に関して、管理人による管理を命ずる処分
(管理命令)その他の必要な保全処分の命令(同法第 825 条)の制度があ り、裁判所その他の官庁、検察官等は、職務上会社解散命令の申立て又は 法務大臣による警告をすべき事由があることを知ったときは、法務大臣に その旨を通知しなければならないとされる(同法第826条)。
・ そこで、消費者庁による各種の行政措置の対象事案に関する財産調査等 の結果として、会社法第 824 条所定の事由が認められる事案があれば、法 務大臣への通知を積極的に行うこととする。