日本小児循環器学会雑誌 13巻1号 19〜21頁(1997年)
<Editorial Comment>
川崎病の免疫グロブリン療法無効例の臨床的予測
日本大学小児科 原田 研介,鮎沢 衛 川崎富作先生が川崎病を一つのentityとしてまとめられてから,ちょうど30年が経過した.現在,解決しな
くてはならない問題は,第一に原因の究明であり,第二にガンマグロブリン静注療法(IVGG)を行っても冠 動脈病変を合併する「IVGG不応例」の抑止策である.
本号に掲載されている三浦らの論文1}は,「IVGG不応例」を的確に予測し,追加治療を行う基準を確立する ことを目的とした研究であり,川崎病を診療する小児科医および小児循環器医にとって関心のあるテーマであ
る.
1970年代前半に川崎病に冠動脈瘤が発生することが判明してから,冠動脈瘤の発生を予測する方法が検討さ れ,冠動脈造影の適応を決める目的で浅井・草川2)のスコアが提唱された.また古庄ら3}によってIVGGの有効 性が報告されてからは,冠動脈瘤の発生をIVGG施行前の病初期に予測する方法が検討されるようになった.
その目的で,泉田4),中野5),岩佐6)らがそれぞれ自施設でのデータをもとに独自の方法を提唱した.IVGGは 血液製剤を用いるリスクを考慮し,わが国では健康保険制度によって制約をうけ,適応の対象を選択する方針 があったため,筆者ら7)は厚生省川崎病研究班のテーマとして,IVGGの適応を判定し,使用対象を全患者の 60〜70%程度に選択する基準(現在は原田のスコアと呼ばれている)を,多施設から集めた865例のデータをも とに作成した.しかし,少なくとも現在までガンマグロブリンの副作用は少なく,川崎病では症状が抑えられ るまで制約なしに投与したいと考える医師が多いことも事実である.米国では,より速やかな炎症の改善と入 院期間の短縮を目的として,ここ3,4年は全例に2g/kgの1回投与法を標準に行っている8).この点で,日本
と米国の川崎病の治療に違いが生じている.
Case−control studyで有意差が出た検討項目を用いて予後や重症度を判定するスコアを作成する方法は2 つある.一つは,原田のスコアで用いられた帰納的方法で,有意差が出た検討項目について実用的なcut−offラ インを設定して,それらを組を合わせたスコアを作成する方法で,三浦らの方法もこの考え方で作成されてい る.もう一つは,判別分析あるいは多変量解析により各項目に数量的な重みをつけて評価するもので,泉田,
中野,岩佐それぞれのスコアがある.この方法は結果が複雑な数式になるため実用面で問題がある.中野のス コアはその問題を近似値で点数化して改善させたが,結果的には原田のスコアと採用項目もcut−off値も非常 に似かよったものになっている.考案されたスコアを用いて症例を判別し,2×2tableでスコアの成績を評価す るが,研究目的によってその評価の基準となる鋭敏度(sensitivity),特異度(specificity)の目標値が妥当で なくてはならない.冠動脈瘤の予防のためには100%の鋭敏度が要求されるが,GGの過剰な投与を避けるため には特異度が高いことが必要である.
追加療法の適応に関して,筆者らは厚生省研究班の研究として,巨大冠動脈瘤のみをIVGG不応例として Case−control studyを行った9).その方が, IVGGが無効な例の特徴がより現われやすいと考えたためである.
研究協力者からIVGG後に巨大冠動脈瘤(巨大瘤)を合併した52例と正常冠動脈であった52例のデータを集 め,性,年齢の特徴と,IVGG前と後で両群間に有意差のある検査項目を組み合わせてスコア化し,鋭敏度90%
以上,特異度を70%程度にする予測法を検討した.性別は実に男45:女7であり,性別罹患率で補正しても男 児における巨大瘤の発生率が女児の4.7倍であること,年齢は1歳未満が25例(48.1%)で,特に6カ月未満が 18例(34.6%)と多く,6カ月以上1歳未満の児に比べて年齢別罹患率で補正した巨大瘤発生率が3.7倍である ことから,男児と6カ月未満の乳児はIVGG不応例となるhigh risk groupであると考えた.同様のことが米 国からも報告されている1°).三浦らのデータではこの要因は有意差がでなかったが,筆者らのデータでは無視 できない要因であると思われた.
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20 (20) 日小循誌 13(1),1997 IVGG前のデータからは,香坂ら1 )や尾内ら12)も報告しているように, GPT,総ビリルビン,好中球比率に 有意差を認めた.それらの項目で作成された予測法では,鋭敏度83.3%,特異度59.0%であり,ともに目標値 に達しなかった.これは,急性期最早期のデータからIVGGの効果を予測することの限界を数値的に示してい る.いっぽうIVGG後には,体温をはじめ,白血球数,好中球,ヘモグロビン,ヘマトクリット,CRP,赤沈,
アルブミンといった多数の項目で,両群問に有意差を認めた.それらの項目で最も判別力の高いcut−off値を組 み合わせたスコアは鋭敏度87.8%,特異度79.6%で,鋭敏度にやや不足があり,項目も多く煩雑であった.
この数字に比べ,体温37.5℃以上という項目は単独項目としても鋭敏度89.8%,特異度81.6%と最も予測能 が高かった.そのためより簡便に,IVGG終了直後の原田スコア4項目以ヒか,または発熱(37.5°C)が持続 している場合に巨大瘤になると予測する方法を追加療法の基準としたところ,鋭敏度93.9%,特異度68.1%で ほぼ目標とした条件を満たした.この方法を追加療法の基準とすると,32%が追加療法を受けることになる.
三浦らの論文ではIVGG後の体温白血球数, CRPを用いて,鋭敏度92%,特異度86%の成績を得ている.
この成績はかなり良好なものであり,結果として提唱された方法も非常に簡便で実用的なものである.ただし,
三浦らも述べているように,実際に臨床で実用する場合,追加療法を行ったとしても偽陰1生の発生があること は避けられないと思われる.試みに筆者らが検討した巨大瘤のデータベースに適用してみると44例中6例(52 例中8例がデータ不足)の偽陰1生例があり,鋭敏度86.4%で,三浦らの標本によるデータより低下している.
この反面,90%と特異度が非常に高い.筆者らも全国調査の2年間で101例あった巨大瘤の症例について,
IVGG開始前に病変がなく,9病日以内にIVGGを開始しているといった条件で52例にしぼって検討した.そ れでも多施設からのデータを集めると,どうしても偽陰性の発生は避けられないのである.その要因の一つに
は,初診医が不全型や容疑例をどう診断するかによって病日判定が不正確になる可能性や,検査所見を修飾す るステロイド療法が行われている可能性が考えられる.三浦らのように,診療方針や検査室の体制がほぼ同一 と思われる施設のみからのデータに拠る場合には,全国的なstudyよりもそろったデータが得られる可能性が 高く,そのためcut−off値の条件を鋭敏度,特異度ともに80%として,体温,白血球数, CRPという3つの要 因を選択できたと思われる.筆者らの検討ではcut−off値の決定に際して,鋭敏度,特異度ともに80%に設定す ると,採用できる項目は体温37.5℃とCRP 4.Omg/dlのみであった.三浦らの偽陰性例は2度の冠動脈病変で あったが,症例が増えたときに巨大瘤の偽陰性例が発生する可能性については不明である.そのような点から,
prospectiveに多施設研究へ応用するためには,特異度は少し下がっても鋭敏度を100%に近づけた方が安全で あるという意見もあると思われる.
後方視的調査では,調査標本を母集団にフィードバックして考え,実際に追加治療の適応になる人数と,偽 陰性として見逃される人数を試算することが必要である.三浦らの標本数は76例であり,全体の冠動脈瘤発生 率は12/76−15.8%で,母集団での発生率12.8%(第13回全国調査)と有意差はない.年間約6,000人とされる 川崎病患者のうち,スコア陽「生で追加療法を受ける人数は6,000×(11+9)/76−1,578人(全患者の26.3%)で あり,スコア陰性として追加療法を受けない例の中には偽陰性例が(6,000 1,578)×1/56=79人(/年)生じ る計算になる.その中に巨大瘤が発生する可能性は否定できない.今後多施設においてprospective studyを 開始する場合に,これらのことが容認されている必要がある.
Prospective studyに際してのもう一つの問題は,追加療法の投与薬剤,投与量である.米国でも,この点 はまだ議論があり,現時点では一回目のIVGG終了後24時間以上を経過して38.0℃以上の発熱が続く例は,2 g/kgのIVGGを追加し,それでも効果がなければステロイドを考慮する方向である.一回目のIVGG終了後
に追加療法としてのIVGGを行う場合には分割投与ではさらに日数を要してしまうため,一回大量投与がよ いと思われるが,その量を1g/kgにするか2g/kgにするか,あるいはIVGG以外の治療を行うか,早々に方針 を確立する必要があろう.
参考文献
1)三浦 大,小島好文,佐藤正昭,石原 淳,徳村光昭,笠井秀明,堅田泰樹,古田俊哉,福島裕之,山岸敬幸,前田 潤二免疫グロブリン療法終了後に川崎病の冠動脈瘤発生を予測する方法について.日小循誌 1997;13:12−18
2)浅井利夫,木口博之,渡辺千春:川崎病(MCLS)の心臓障害に関する研究 特に冠状動脈造影の適応について .
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平成9年1月1日 21 (21)
小児科臨床 1976;29:1086 1092
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12)尾内善四朗ほか:ガンマグロブリン追加療法の適応とその投与量に関する検討.厚生省心身障害予防,治療システム に関する研究平成6年度研究報告書,1995,pp5556