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大阪大学と産業技術総合研究所との 連携に期待すること

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Academic year: 2021

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夢はバラ色

和 田 成 生

Shigeo WADA

− 101 − 1963年10月生

大阪大学 大学院基礎工学研究科 物理 系専攻修了(1991年)

現在、大阪大学 大学院基礎工学研究科 副研究科長(研究企画推進担当) 機能 創成専攻 生体工学領域 教授 工学博 士 バイオメカニクス

TEL & FAX:06-6850-6170

E-mail:shigeo@me.es.osaka-u.ac.jp

大阪大学と産業技術総合研究所との 連携に期待すること

Expectations for the collaboration between the Osaka University and  National Institute of Advanced Industrial Science and Technology

Key Words:University, Institute, Industry, Collaboration, Organizational coordination

生 産 と 技 術  第63巻 第4号(2011)

 2011 年 3 月 22 日に大阪大学と産業技術総合研究 所(以下,産総研)との間で,連携協力の推進に係 る協定が締結された.本稿では,夢はばら色とまで はいかないが,大学の立場からこの連携協定に期待 することを述べてみたい.

 産総研は 1882 年に創立された地質調査所をはじ めとする産業技術系の旧国立研究所群を統合して 2001 年に発足した研究機関で,「持続的発展可能な 社会の構築,技術を社会へ」という理念のもとに,

世界を先導する研究開発を推進し,我が国の産業競 争力強化と持続発展可能な社会の実現のため基礎研 究から製品化研究まで幅広い連続した研究を実施し てきた.一方,大阪大学は 1931 年,大阪帝国大学 として創設以来,その精神的源流である適塾と懐徳 堂の学風を継承しつつ,合理的な学知と豊かな教養 を究めることを通じて,研究における「基本」と「と きめき」と「責任」を強く意識しながら,基礎研究 に深く根を下ろし,かつ学知の新しい地平を切りひ らく先端的な研究を推進してきた.これら両機関の 連携により,産学連携に通じる以下の効果が期待さ れている.

(1)「学」の中核に位置付けられる大阪大学と,そ の「学」の成果を「産」に橋渡しする位置にある産 総研の連携による相乗効果で,基礎から応用までの 研究成果を活用する社会への貢献を更に加速させる.

(2)独立行政法人と国立大学法人という異なる基 盤とその特色を生かし,研究・教育内容の充実,学 術・文化の発展,および科学・技術の高度化を図る.

(3)これまでに阪大と産総研が推進してきた人間 と機械の融合領域,情報研究の産業応用分野,理工 学と医学の連携分野等における共同研究,産官学連 携による産業振興,科学技術立国を目指した基礎学 術研究などにおいて,研究・教育・社会貢献の迅速 な推進を図る.

(4)省庁をまたぐ大型研究プロジェクトを提案し,

縦割り行政を打開して,先端的研究および学生から 社会人にわたる教育をさらに精力的に推進しうる学 術的土壌を醸成する.

 もちろん,協定が結ばれたからといって,それで 連携が進むものではないことは重々承知しているが,

教育から研究,産学連携までスーパーマン的な対応 を求められている大学にとっては,こうした協定を 活用して役割分担の体制を整えていくことが,実質 的かつ持続的な社会連携を生み出していく一つの手 段になるのではないかと私は期待している.大学内 にも産学連携を事務的にサポートする部署が作られ てきているが,具体的な研究レベルの話となると,

ニーズとシーズの調整から,研究の実施,コンサル ティング,成果に対する責任まで,当事者の負担は 大きい.大学の研究がそのまま企業で応用できるこ とは稀で,その穴埋めを若い研究者や大学院生が行 っているのが現状である.実学に接する産学連携を 人材育成に活用することには賛成であるが,外部資 金獲得を意識するあまり,本来大学が担うべき基盤 となる専門教育や将来への可能性を秘めた基礎研究 の空洞化が進んできているのも事実である.また,

技術系企業の統合が加速してきているように,基礎

研究から応用研究,人材育成まで科学技術に対する

産業界の要望も多様化・高度化してきており,これ

(2)

− 102 − 生 産 と 技 術  第63巻 第4号(2011)

までのように個人レベルで全てを対応するのではな く,組織として対応できる体制が求められている.

大学の本来の使命と役割を維持しつつ産学連携を推 進していくうえで,大学と企業を結び付ける研究機 関との組織的な連携の意義は大きい.

 さて,話を阪大と産総研の連携に戻そう.具体的 な研究分野の取り組みとしては,以下のテーマが挙 げられている.

(1)人間と機械の融合領域における共同研究  21 世紀型の健康な暮らしに貢献するライフ・イ ノベーションによる産業変革が強く求められている.

大阪大学と産総研は,ロボットなどの知能機械シス テムや人間を科学するライフサイエンスについて長 年にわたる研究実績を有しており,双方の連携を一 層推進し,新しい融合領域を創出して,成果の社会 還元を進める.

(2)情報研究の産業応用分野における共同研究  情報技術はあらゆるものづくりの基盤となってお り,これを強化し拡充することは我が国の産業振興 に欠かせない.産総研と大阪大学は,組込みシステ ム技術の進展・普及の観点から,産業界の人材育成 のための「組込み適塾」活動を連携してきた.今後 は,相互交流によりこの分野の基礎研究を推進する とともに,産業基盤の拡充に貢献できる連携体制を 構築する.

(3)理工学と医学の連携分野における共同研究  産総研と大阪大学には,ナノバイオテクノロジー,

炭素材料,高分子科学,生物工学などの理工学分野 での先端的研究成果が蓄積されており,これらの基 礎的な研究を,創薬基盤技術,診断技術,医療機器 などの開発に結びつけるための連携研究体制を構築 し,安全・安心な生活環境の創出につとめる.

 以上の共同研究やそれに関連した人材育成を通じ て,オープンイノベーションシステムの構築や産業 競争力の強化に寄与できればと考えられている.

 こうした連携のキックオフとして,2011 年 3 月 30 日に梅田のブリーゼプラザにおいて「ライフサ イエンスとロボティクス融合技術による新産業創成」

と銘打ったシンポジウムを開催した(写真).ライ フサイエンスとロボティクスは,大阪大学および産 総研が取り組んでいる主要テーマの一つであり,そ れらの研究成果が融合すれば,再生医療や診断,治 療,手術支援など医療に直結した技術革新だけでな

く,福祉機器や高度な介護システム,ヒューマノイ ド,次世代ヒューマンマシンインタフェースの開発 など,人間とロボットとの調和から生まれる新しい 産業技術の創成につながると期待される.これらに は,機械工学,電気工学,制御工学といった基礎工 学から,マイクロマシン,バイオセンサー,細胞操 作,MEMS,ナノデバイス,生体計測など様々な 先端の要素技術が関連する.関西においては,これ らの要素開発のための強い技術基盤があり,大学お よび研究所における基礎から応用までの多様な研究 をつなげて,組織的に産学官が結集できるテーマで ある.そのことは,年度末の開催にもかかわらず,

シンポジウムには産業界,学界,経済界を含め 183 名もの参加があったことからも伺える.

 2006 年に 59 年ぶりに改正された教育基本法には,

「大学は,学術の中心として,高い教養と専門的能 力を培うとともに,深く真理を探究して新たな知見 を創造し,これらの成果を広く社会に提供すること により,社会の発展に寄与するものとする.」とある.

前文に掲げられた「新しい文化の創造」から比べれ ば,「社会発展への寄与」を「産学連携」とするの はいささか短略的であるが,「これらの成果」に「深 く真理を探究する」基礎研究と「高い教養と専門的 能力を培う」教育を含めた「産学連携」は,大学の 使命である.これを実現するには,組織としての対 応が不可欠である.今回の大阪大学と産総研の連携 が,これまでの個人レベルの産学連携から,官民一 体となった組織レベルの真の産学連携に向けて動き 出すきっかけとなればと思う.

 本稿の執筆にあたり,産総研のプレスリリースの 関連記事を参考にさせて頂いた.

シンポジウムの様子

参照

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