すべり面の三次元構造を考慮した大規模地すべりの安定性評価に関する研究
研究予算 :運営費交付金 研究期間 :平 24 ~平 28 担当チーム:地すべりチーム
研究担当者:石井 靖雄、高木 将行
【要旨】
高品質ボーリングコア観察によって、すべり面における微細構造を明らかにした。また、従来、困難であった 側面抵抗等のすべり面の不均一性を考慮したパラメータについて検討を行った。これらの成果から、より正確な 地すべりブロックの挙動の理解が可能となる。また、地すべりブロックにおける再分割検討などに資するもので ある。
キーワード:すべり面構造、三次元斜面安定解析、土質強度設定
1 .はじめに
地すべりの安定性の評価を精度よく行うためには、
解析手法及びパラメータの精度を高めていく必要が ある。特に、地すべりの安定性の評価において地す べり土塊の側面抵抗の重要性が指摘されており、精 度良く評価するためには、三次元解析を行うことが 望ましい。
しかし、地すべりの三次元解析に際して重要とな る地すべり土塊側面のすべり面については調査事例 が少ないことから、その構造や強度等の知見は少な く、認定方法も確立されていないのが実情である。
また一方で、形状が複雑な地すべりでは主測線にお ける二次元解析だけの検討では安定性の評価や対策 工の計画が合理的でない場合があり、そのような場 合にも三次元解析を行うことが望ましい。加えて、
解析に使用するパラメータの取得、設定手法は確立 されていない 1) 。
一方、近年ではコアリング技術の向上により高品 質なボーリングコアの採取が可能となったことから、
以前は確認することができなかった微細な構造、性 状をボーリングコアから判定できるようになってき た。その結果、場所によるすべり面性状の不均一性 の実態も明らかとなってきた。すべり面性状が不均 一であるということは、発現される強度も不均一で あることが予想されることから、今後地すべりの安 定性評価においては、すべり面の不均一性を考慮し た解析パラメータの設定が望まれる。
本研究では、地すべり対策技術の高度化を図るた め、地すべり土塊のすべり面における微細構造の調 査を行うとともに、混合試料による強度特性の検討
を行い、さらに地すべり土塊の側面抵抗を考慮した 三次元解析による地すべりの安定性評価手法を提案 するものである。
2.すべり面における微細構造の調査 2.1 調査方法
石川県南部の甚之助谷地すべり中間尾根ブロック 中央から末端部(図 -1 )で採取した 4 孔のコアの樹 脂固定法によるすべり面標本 2 ) (図 -2 )を用いて、
すべり面付近の微細構造の調査を実施した。また、
平成 22 年 10 月~平成 23 年 6 月間の孔内傾斜計によ る観測では、 BV-90 孔は深度 31m で挿入不能となり、
BV-91 孔では深度31m 及び深度 33m 付近に比較的大
きなせん断変位が確認された(図-3) 。 2.2 調査結果
孔内傾斜計により変位が観測される図-4 上:
BV-90 における主すべり面(深度 31m 付近)の傾斜
は約 25°で順傾斜であり、基盤の細粒砂岩には、主
図 -1 ボーリング位置図
隆起域
TN
中 間 尾 根 ブ ロ ッ
甚之助谷 別当谷
福井県 富山県
岐阜県 長野県 石川県
BV-90 BV-91 BV-93
BV-92
すべり面とほぼ平行である。図 -4 右上: BV-91 (深
度 32.5m 付近)では、主すべり面は約 20°の逆傾斜
である。基盤の砂岩泥岩互層には主すべり面と斜交 していることが確認できる。また、すべり面直上の 移動体には、流紋岩礫が含まれ、礫の周囲にはさら
に破砕されて細かくなったものがたなびくように分 布する。図 -4 右下: BV-92 (深度 139m 付近)では、
亀裂の発達した岩盤の上面には、せん断面が連続的 に発達していた。また、図-5 左:BV-91(深度 31m 付近)では、流紋岩・砂岩・泥岩が各々の同種の礫 を含むゾーンとして分布し、それぞれの礫とさらに 破砕され細粒となった礫が数珠つなぎのように連な りながら引き伸ばされ右上がりに分布している。
次に、既往調査結果から地すべり移動体に相当す
る図 -5 右: BV-93 (深度 75m 付近)では、樹脂固定
標本を地すべり移動方向とこれに直行する方向の 2 方向で観察した。すべり面方向での切断面では、泥 岩に挟まれた流紋岩は、細礫を含みながら幅数 mm の薄層として観察されるが、これに直行する方向で 切断した面での流紋岩を含む層は、幅数 cm と膨ら み、レンズ状となっている。
以上より、 樹脂固定すべり面標本を用いることで、
主にコア外周を見る通常の観察と比較して、すべり 面やすべり面付近の構成物などを詳細な観察が容易 に可能となった。
砂泥互層 流紋岩礫
砂岩礫
2cm
砂岩礫
砂岩
図-4 樹脂固定標本及びスケッチ
上:BV-90(深度 31m 付近)
右上:BV-91(深度32.5m 付近)
右下:BV-92(深度139m付近)
泥岩礫
泥岩礫
砂岩礫 流紋岩礫
砂岩礫
すべり面直 行方向 すべり面方向
流紋岩礫
泥岩 泥岩 流紋岩礫
泥岩 泥岩 砂岩 砂岩
流紋岩礫濃集箇所 石英脈断片
左:
BV-91
(深度31m
付近)右:
BV-93
(深度75m
付近)図-5 樹脂固定標本及びスケッチ
移動土塊 基盤
B B’
1590 1580 1570 1560 1550 1540 1530 1520
移動土塊
基盤
BV-90 A
1580 1570 1560 1550 1540 1530 1520 1510 1500 1490
露岩 1590
深度(m)
0 20 40 60
10
20
30
40 X方向(mm) 累積変位
BV‐91傾斜計観測結果
0 20 40 60
10
20
30
40 X方向(mm) 累積変位 深度(m)
0
BV‐90傾斜計観測結果
図 -3 ボーリング孔付近の断面図及び 孔内傾斜計観測結果
図 -2 樹脂固定すべり面標本と観察結果概要(四角
で囲われた範囲は、図 -4~5 の位置を示す)
3.混合試料を用いた試験による強度特性の検討 粘土と砂の混合試料の強度特性を検討するために、
カオリン粘土と珪砂を用いて、それらの混合率を表 -1 のとおりに設定した土質試料の 8 試料に対して、
圧密定体積一面せん断試験(JGS0560)及び圧密定 圧一面せん断試験( JGS0561 )を表 -2 の条件のとお り、供試体寸法を直径 60 ㎜、高さ 20 ㎜、せん断速 度を 0.02mm/min 、圧密応力を 50 、 125 、 200kPa でそ れぞれ行った。
一面せん断試験の結果(図 -6 )より、粘土の混合 率はある値を境として、粘土の混合率が増加させる とせん断抵抗角が減少しながら変化する結果が得ら れた。粘土混合率が 0~40%のとき、せん断抵抗角
は概ね 35°を示し、一定の値を示した。粘土混合率
が 40~80%のときは、粘土混合率が大きくなるにつ
れ、せん断抵抗角が減少する傾向が見られた。最後 に 80 ~ 100 %のとき、せん断抵抗角が 20 ~ 25 °付近 の値を示した。ゆえに砂と粘土の混合試料について は、その混合率をいくつかに区分して試料のせん断 抵抗角を設定できる可能性について示すことができ た。
4.すべり面区分による強度設定手法の調査 4.1 調査手法
本調査では、三波川結晶片岩地帯に位置する徳島 県善徳地すべり防止区域内の Z2-1(F)ブロックを
対象とし、すべり面の傾斜に着目し、すべり面を複 数に区分の上、安定解析による土質強度パラメータ の設定を試みた結果を報告する。
安定解析には、極限平衡法による三次元安定解析 式の一つである三次元簡易 Janbu 法 4 ) を用いた。土 質強度パラメータの設定には、すべり面傾斜区分ご とに完全軟化強度または残留強度を与えて行い、解 析ケース数は、完全軟化強度と残留強度の組合せと して考えられる 32 ケースについて実施した。なお、
完全軟化強度は再調整試料による一面せん断試験値 を、残留強度は既往文献値 5) を使用した。
また、地下水位条件として、孔内傾斜計の観測結 果で変動B相当の変位速度となった平成 23 年最高 水位(地下水位①) 、及び変動C相当の変位速度と なった同年の最低水位(地下水位②)とした。解析 結果の妥当性については、三次元安定解析より得ら れた安全率が変動 B 時に Fs<1.00 、変動 C 時に Fs ≒ 1.00 を満足するかどうかで判定した。
4 . 2 調査結果
解析結果の一部(表 -3 )を示すと、変動 B 時に Fs<1.00 、 変動 C 時に Fs ≒ 1.00 を満たしたのは 13 ケー スであった。表-3 に各解析ケースでの土質強度パラ メータ組み合わせとそのときの安全率と判定結果を 示す。以上より、実際の地すべりブロック挙動と調 和する土質強度パラメータの組合せをいくつか絞り 込むことができた。
さらに絞り込まれたケースのうち、地すべりブ ロック内で観測された孔内傾斜計の変位速度結果と 比較し、変位速度と調和する土質強度パラメータの 組合せの検討を行う。ブロック区分と孔内傾斜計観 カオリン粘土 珪砂※
No.1 0% 100%
No.2 20% 80%
No.3 40% 60%
No.4 50% 50%
No.5 60% 40%
No.6 70% 30%
No.7 80% 20%
No.8 100% 0%
混合率(重量比)
試料名
※ φ=425~750µm
表 -1 各試料のカオリン粘土と珪砂の混合率
試験名 圧密定体積一面せん断試験 圧密定圧一面せん断試験 供試体寸法
せん断速度 0.2mm/min 0.02mm/min 圧密応力
直径60mm,高さ20mm
50,125,200kPa
表-2 一面せん断試験条件
20.0 25.0 30.0 35.0 40.0
0% 20% 40% 60% 80% 100%
せん断抵抗角(°)
粘土混合率
圧密定体積 一面せん断試験 圧密定圧 一面せん断試験
図-6 粘土混合率とせん断抵抗角の関係
測による変位速度結果(図 -7 )より、当該ブロック における変位速度は頭部、中部、末端部、右側部、
左側部の順に大きくなる傾向があった。ただし、頭 部内・左側部内では孔内傾斜計による観測が実施さ れていないため、頭部・左側部にそれぞれ比較的近 い中部での観測結果を頭部・左側部での観測値とし て採用している。ここで、変位速度が相対的に大き なすべり面傾斜区分では小さい強度が、変位速度が 小さな区分では大きな強度が発現されていることが 考えられることから、 頭部・中部に完全軟化強度を、
大きな変位速度が観測されている末端部・左右側部 に残留強度と設定した。この組み合わせは前述の解 析ではケース⑧に該当し、そのときの解析から得ら れた安全率は妥当と判定されている。以上の検討に より、三次元安定解析を実施し、すべり面区分ごと
の変位速度を考慮することで、実際のブロック挙動 と調和する土質強度パラメータの組み合わせを絞り 込むことができた。
5.まとめ
本研究で得られた主な知見は以下である。
・以上より、樹脂固定すべり面標本を用いること で、 主にコア外周を見る通常の観察と比較して、
すべり面やすべり面付近の構成物などを詳細な 観察が容易に可能となった。
・砂と粘土の混合試料を用いた一面せん断試験か ら、粘土の配合率によって、せん断抵抗角が大 きく変化する結果が得られた。その配合率から いくつかに区分して試料のせん断抵抗角を設定 できる可能性を示した。
・すべり面を傾斜に着目した区分に土質強度パラ メータを設定して三次元安定解析を実施する ことで、実際の地すべり挙動と調和した結果が 得られた。さらに地すべりの動態観測結果に基 づき、土質強度パラメータを設定することによ り、適当と考えられる土質強度パラメータの絞 り込みが可能となった。
参考文献
1)山崎孝成: 「すべり面の構造とせん断強度研究の現状と
課題」 、日本地すべり学会誌、 Vol.48、 No.3、 pp.1-14,平 成 23 年年 5 月
2)武士俊也・杉本宏之・本間宏樹・宇都忠和: 「樹脂固定
法によるすべり面標本作製マニュアル(案) 」土木研究 所資料 4227 号、平成 24 年 5 月
3 )脇坂安彦・上妻睦男・綿谷博之・豊口佳之: 「地すべり 移動体を特徴づける破砕岩-四万十帯の地すべりを例 として-」 、応用地質、 Vol.52 、 No.6 、 pp.231-247 、平成 24 年 2 月
4) 鵜飼恵三: 「簡易 Janbu 法による斜面の 3 次元安定解析」 、 地すべり、Vol.24、No.3、pp.8-14、昭和 62 年 12 月
5)眞弓孝之・柴崎達也・山崎孝成: 「すべり面せん断試験
によるすべり面のせん断強度評価」 、日本地すべり学会 誌、Vol.40、No.4、pp.273-282、平成 15 年 11 月
解 析 ケース
土質強度パラメータ組合せ 安全率 Fs 判定 頭部 中部 末端部 左側部 右側部 水位①
(変動 B) 水位② (変動 C)
④ 軟化 軟化 軟化 残留 残留 0.981 1.010 ○
⑧ 軟化 軟化 残留 残留 残留 0.945 0.981 ○
⑩ 軟化 残留 軟化 軟化 残留 0.932 0.974 ○
⑪ 軟化 残留 軟化 残留 軟化 0.952 1.010 ○
⑬ 軟化 残留 残留 軟化 軟化 0.934 0.994 ○
⑮ 軟化 残留 残留 残留 軟化 0.917 0.981 ○
⑱ 残留 軟化 軟化 軟化 残留 0.988 1.016 ○
⑳ 残留 軟化 軟化 残留 残留 0.971 1.003 ○
㉒ 残留 軟化 残留 軟化 残留 0.952 0.987 ○
㉔ 残留 軟化 残留 残留 残留 0.936 0.974 ○
㉕ 残留 残留 軟化 軟化 軟化 0.959 1.016 ○
㉙ 残留 残留 残留 軟化 軟化 0.924 0.987 ○
㉛ 残留 残留 残留 残留 軟化 0.907 0.974 ○
表-3 三次元安定解析結果
N
0.02mm/月(22.5m)
0.45mm/月(40.0m) 0.19mm/月(43.5m)
0.17mm/月(40.0m)
0.99mm/月(46.5m)
0.32mm/月(21.0m)
100m