九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
反射的効力論の再検討
柳内, 健吾
九州大学法学部
https://doi.org/10.15017/16946
出版情報:学生法政論集. 4, pp.119-135, 2010-03-23. 九州大学法政学会 バージョン:
権利関係:
柳 内 健 吾
1 はじめに
■ 学説
皿 総論的検討
IV
各論的検討V
おわりに1
はじめに
判決の効力に関する重要な概念の1つとして相対性の原則というものがある。これは、
確定判決の効力は、訴訟当事者間にのみ及ぶという原則であり、その例外も口頭弁論終結 後の承継人、請求の目的物の所持者及び訴訟担当の場合の被担当者等、ごく一部の者に限 定されている(民訴法115条1項)。このような原則が採られているのは、①民事訴訟が当 事者間の私的な権利関係をめぐる紛争を解決するための手続である以上、その効力も相対 的に当事者に対してのみ存すれば足りること、②処分権主義および弁論主義の下では、自 らが訴訟追行した当事者だけがその結果である判決に服するべきであって、訴訟に関与す る機会を与えられなかった第三者に対して判決に服するよう求めることは、その者の利益 を不当に害することになること等を考慮した結果である1。ところが、わが国の多くの学説
は、 ドイツの議論に影響を受け、第三者が訴訟当事者の一方と実体法上特別な関係にある 場合には、直接に他人間の確定判決の既判力を受けるわけではないが、当事者が一定内容 の確定判決に拘束され、あたかも一定の実体法上の地位を取得しまたは喪失したと同じ状 態にあることが、この第三者に反射的に有利または不利に法的影響を与えると説き、この
1 兼子一『民事訴訟法』(弘文堂・1972年)171頁、吉村徳重「既判力の第三者への拡張」新堂幸司編『講 座民事訴訟法⑥裁判』(弘文堂・1984年)163−164頁等参照。判決効の相対性をドイツの学説史か
ら仔細に検討するものとして、水谷暢「判決効の相対性理論序説(一)(二)一ドイツ民事訴訟法理 論の歴史的素描のうえにたって一」立命館法学111・112合併号(1973年)482頁以下、113号(1974年)
38頁以下がある。
なお、民訴法115条1項2−4号が例外的に既判力を一定の第三者に拡張することを認めているのは、
立法政策的な決断から、第三者の手続権を害さない範囲で判決による紛争解決の実効性を確保しよう としたためであると説明される。既判力拡張の正当化根拠を考察するものとして、吉村・前掲・139 頁以下、高橋宏志『重点講義民事訴訟法上』(有斐閣・2005年)604頁以下等参照。
反射的影響を確定判決の反射的効力(以下、反射効)と呼んできた2。一般に、反射効が認 められるとされてきた事例として以下のものが挙げられる。①債権者と主債務者間で、主 債務者勝訴の確定判決があれば、保証債務には附従性(民法448条参照)がある以上、保証 人は、上記確定判決を援用して、自らの保証債務の履行を拒絶することができる(第三者 に有利に及ぶ事例)、②無限責任社員のみで設立されている合名会社に対して債務の履行を 命じる判決を取得した債権者が、会社の社員に対する訴訟において上記確定判決を自己に 有利に援用することができる(第三者に不利に及ぶ事例)。
これらは、上述した判決の相対性の原則を破るものであり、訴訟追行の機会を持たなか った第三者の手続保障の問題と微妙な関係に立つ場面であるため、訴訟法上この効力をど う正当化するのかは、非常に難しい問題である。多くの論者がこの反射効を主張してきた が、反射効は、明文の規定に基づくものではないため、そこで語られる反射効の定義、法 的性質、反射効が認められる事例、その理由づけに至るまで、論者によって様々である。
ゆえに、「反射効の実像なり、反射効理論をめぐる議論状況を正確に叙述することはほぼ不 可能である」3と言われるほど、学説は混迷状態にある。このように錯綜する反射効理論に 対して、学説の進展に伴い、反射効と呼ばれてきたものを既判力の拡張として捉える見解
(既判力拡張説)や、判決の相対性原則や手続保障重視の立場から反射効を否定する見解
(反射効否定説)が有力に主張されており、現在、伝統的な意味での反射効を肯定する見 解は劣勢に立たされているといえる。
本稿は、このような学説の状況に鑑み、反射効の理論構造を再検討し、改めて反射効概 念を定立することを試みるものである。具体的に、筆者の主張する反射効概念は、①構成 要件的効力の一種であって、既判力とは別個の制度であること、②実体法の要請による実
.体法上の効力であって、その発生の基準としては、従属関係を中心とした実体法上の規定 の解釈を用いること、③ただし、実体法上発生した反射効が訴訟法上も認められるか否か
(前訴判決を援用することができるか否か)は、別途、訴訟法的な要素の考慮によって決 すること等を特徴とする。この理論構成の背後には、この判決効をあくまでも実体法上の 効力である反射効と捉えることにより、訴訟法上の制度的効力である既判力については相 対性の原則を堅持したい、すなわち、既判力の主観的範囲を厳格に解釈したい(民訴法115 条の類推を簡単に許すべきでない)という筆者の狙いがある。
本稿の構成は以下の通りである。まず、反射効をめぐる学説の展開を概観することで、
反射効の理論的背景を明らかにする【H】。次に、従来の反射効理論を構成要件的効力とし て再構成した上で、既判力拡張子との違いを明確化する【皿(1)】。そして、従来の反射効
2 兼子一『新修民事訴訟法体系〔増訂版〕』(酒井書店・1965年)352頁、竹下守夫「判決の反射的効果 についての覚え書」一橋論叢95巻1号(1986年)30頁参照。
3 原強「反射効、その他」法学教室282号(2004年)29頁。
理論に対する批判に応える形で、反射効概念の妥当性の論証を試みる【皿(2)(3)】。その 上で、反射効概念の欠陥を再認識し、訴訟法的考慮によってその修正を図る【皿(4)】。最 後に、私見の反射効概念を用いて、具体的な事案の解釈に取り組む【IV】。
豆 学説
以下より、反射効をめぐる学説の展開を概観し、その対立点を明らかにしたい。
(D 反射効肯定説
(i)反射効概念の意義
反射効は、「判決の既判力が第三者に及ぶわけではないが、当事者間に既判力の拘束のあ ることが、当事者と特別な関係に立つ第三者に、反射的に利益または不利益な影響を及ぼ すこと」4であると定義される。反射効は、既判力とは異なり、判決の直接の効力ではない から、職権調査事項ではなく、その効力の存在は、当事者の援用を待って顧慮すれば足り るとされる。また、反射効が及ぶときには、.その第三者は、共同訴訟的補助参加の申立て をすることはできず(既判力を受けないから)、補助参加の申立てをすることができるにと どまるが、訴訟当事者間の訴訟が馴合訴訟による場合には、無効の主張をすることができ るといわれる。その他、既判力は判決が第三者に有利か不利かを問わず拡張されるが、反 射効は(従属関係の態様に応じて)第三者に有利または不利に拡張され、既判力は判決主 文について生ずるが、反射効は判決理由中の判断にも生ずる等の特徴:があるとされている5。
反射効の根拠は、第三者の法的地位が、判決当事者のそれに実体法上、従属(依存)関 係にあるという点にある(従属関係説)。兼子博士が、「一般に当事者間で自由に処分でき
る権利関係について、確定判決があったときは、その既判力の標準時に、当事者間の契約 で判決通りに処分したのと同様に見て、第三者が当事者間の関係を判定すべき場合は、既 判力で確定されたところに従って取扱わなければならない」6と述べるのもこのような趣旨 である。この基準は、判決を実体法上の契約(和解契約)と同一視し、そこから判決効の 主観的範囲を画するという考え方を内包している。すなわち、訴訟当事者間で判決内容通 りの和解契約が締結されたと仮定し、この契約の効力に服する第三者に対して、判決効を
及ぼすことを認めるものである7。
4 兼子・前掲注1)171頁。
5 奈良次郎「判決効をめぐる最近の理論と実務」『新・実務民事訴訟法講座(2)』(日本評論社・1981 年)321頁参照。
6 兼子・前掲注2)352頁。
7 鈴木正裕「判決の反射的効果」判タ261号(1971年)7頁参照。
(ii)反射効肯定説に対する批判
反射効理論に対しては、大きく以下の2つの批判が加えられる。第1に、上述した反射 効理論の基準についての批判である。すなわち、その基準とされる実体法上の従属関係が いっ、いかなる場合に存在するか曖昧な上に、それだけでは判決効が第三者に及ぶ現象を 正当化することの説明としてはなお不十分であるという旨の指摘がなされる8。また、そも そも、従属関係説が前提とする当事者の法律行為による処分と裁判所の判決の同一視は妥 当であるかという批判も成り立ちうる9。
第2に、反射効理論は、既判力本質論についての現在の通説である訴訟法説と理論的に 整合しないという旨の批判である。そもそも反射効は、ドイツにおける既判力本質論の争
い、すなわち実体法説と訴訟法説の対立の中から出てきたものであるとされる10。実体法 説では、確定判決により実体法上の権利・法律関係が変動することが認められるため、上 述した判決を実体法上の契約と同一視する考え方を取り入れ、この契約に服する第三者に 対して訴訟上も判決効が拡張されるものと説明することができた。これに対して、訴訟法 説では、判決は裁判所の訴訟行為であり、実体法上の権利・法律関係を変動させるのでは なく、訴訟法の中でのみ拘束力を有するとされるため、以上の効力を既判力の拡張ではな く、反射効という概念で説明しなければならなかったのである。ところが、反射効は実質 的には、実体法説にいう既判力拡張の言い換えにすぎない上、既判力については訴訟法上 の効果のみにとどまるのに対し、反射効については実体法上の効果を認めてしまうという 点で矛盾を抱えており、「訴訟法説を曇らせるもの」と批判された。後述するように、学説 はこの効力を既判力の拡張と位置づけて統一的に把握する方向に議論が進むこととなる。
(iii)近時の反射効理論
近時、反射効を実体法上の解釈として基礎づける見解が有力に主張されている。山本和 彦教授は実体法的な効果としての純粋の反射効と既判力の拡張としての効果との峻別を強 調し、新たな観点から反射効論の復権を試みる11。山本教授:は、既判力の本質論の訴訟法 説との整合性を維持すべく、反射効が認められるのは、「既判力本質論における訴訟法説を 前提とすれば、実体法が二つの債務の問に態様面での牽連性を認めている場合に限られる」
と述べる。けだし、「この場合には、ある債務が債権者の敗訴により訴求不能となったり、
債務者の敗訴により抗争不能になったりすることから、他の債務も同様の態様(訴求不能・
8 高田三二「判決の反射的効力」三ケ月章=青山善充編『民事訴訟法の争点〔旧版〕』(有斐閣・1979年)
301頁。
9 松本博之「反射的効力論と既判力拡張論」同『既判力理論の再検討』(信山社・2006年)284頁以下参
照。
10
@鈴木・前掲注7)2頁以下参照。
11@山本和彦『民事訴訟法の基本問題』(判例タイムズ社・2002年)173頁以下。
抗争不能)に化すると言え、その点を当事者が訟訴で主張できるからである」とされる。
また、松本博之教授:は、従来のわが国における反射的効力の定義を;構成要件的効力との 関係で見直すことを主張する12。構成要件的効力とは、通常、ある実体法または訴訟法の 規定もしくは当事者間の合意が判決(未確定判決を含む)の存在を、その法規または合意 の定める法律効果のための法律要件として定めている場合の判決の効力と定義される13。
松本教授は、反射効とは、構成要件的効力が第三者に及ぶ場面の効力を指して呼ぶはずで あるのに、日本の反射的効力論は、初めから構成要件的効力を問題にしていなかったと指 摘する。上述した兼子説は反射的効力の説明に当たり、当事者間の確定判決の存在を、当 事者の一方と第三者との問における法律効果の要件にする法規または合意の存在を全く問 題とすることなく、単に当事者間の確定判決や存在が第三者に有利または不利な影響を及 ぼす現象として反射的効力を捉えているという。換言すれば、反射的効力説は津南当事者 による法律関係の処分の結果を承認せざるを得ない、前訴当事者間の法律関係に対する強 い従属的地位にある第三者に、前群当事者間の確定判決の判断は間違っているとの主張を 許さないとするものであり、実質は既判力の拡張を説いているとされる。
松本教授は、反射効理論も既判力拡張説も問題点があり、支持することはできないとす るものの、当事者の一方と第三者の結びつきや、関係人の利益の評価に即した関係実体法 規の解釈から、事案によっては、反射効類似の拘束力を肯定する。
(2)既判力拡張説
反射効理論に対して、仮に従属関係にある第三者に判決効を拡張すべき場合があるとし ても、訴訟法的アプローチから既判力の拡張の問題として処理すべきとする見解が有力化 している(既判力拡張説)。まず、鈴木正裕教授は、多数説によって反射的効力が及ぶとさ れている事例では、当事者間の確定判決の判断を第三者が争い得なくすることが問題とさ れており、それはとりも直さず既判力の問題であることを指摘し、実体法上の反射効を「訴 訟法的効果とよびかえる」こと、すなわち既判力の拡張と位置づけることを主張した14。
そして、反射効は、実質的には既判力と異なるところがないにもかかわらず、職権調査事 項とならず、馴合訴訟の場合には生じないとし、補助参加の点でも既判力とは異なるとさ れるが、これらの点が既判力拡張を認めるための障害になるかを仔細に検討し、結論とし て、以上のような差異を設ける実質的理由はなく、従来、反射効と呼ばれてきたものを既 判力の拡張として解するべきであると主張する。
12
@松本・前掲注9)267頁以下。
13@鈴木正裕「判決の法律要件的効力」山木戸克己教授還暦記念『実体法と手続法の交錯(下)』(有斐閣・
1978年)149頁以下。
14
@鈴木・前掲注7)2頁以下。
具体的に民事訴訟法の条文から類推適用の可能性を論じるのが、竹下守夫教授である15。
竹下教授は、「民訴法201条(現行115条1項一引用者)所定の第三者以外にも、特別の場合
に、 確定判決の内容的拘束力をその有利または不利に拡張することがのぞましいと考えら れる第三者があるのであれば、既判力制度の目的および民訴法201条が一定の第三者に既判 力の拡張を認めていることが正当とされる根拠に照らして、その第三者に既判力を拡張す ることが是認されるか否かを検討して行くのが、正しい問題解決のあり方であると思われ
る」 と述べる。
具体的には、実体法上訴訟当事者の地位を先決関係とする地位にある第三者(保証人や 合名会社の社員)、および実体法上訴訟当事者と法的共同関係にある第三者(不真正連帯債
務者、 合同債務者、共同所有者)には、前訴判決の既判力が有利に拡張されるという。な ぜなら、敗訴当事者は手続保障のもとに相手方に対して訴訟を追行し敗訴判決を受けたの であるから、第三者に対する関係で前半の判決効を受けても不測の不利益を受けるもので はなく、また勝訴当事者である主債務者や合名会社は保証人・社員の有利に既判力が拡張 され得なければ、これらの者が敗訴したときに求償請求を受け、前町判決によって得た利 益を確保できなくなるおそれがあるからである。これに対して、先決的地位を有する当事 者や法的共同関係にある当事者が敗訴した場合には、第三者は当事者として法律関係の存 否について主張する機会を与えられなかったことから、原則として第三者に前訴判決の既 判力が拡張されることを否定する。
(3) 法的性質不問説
反射効の作用は、その事項につき裁判所に審理させないということであって、既判力の 作用とその限りで異ならないので、反射効か既判力の拡張かという性質決定にこだわる必 要はないとする見解がある(法的性質不問説)16。そして、実体法上の従属関係は、一応の
基準と
しては有用であるが、「紛争の相対的解決原則や手続保障という現在の考え方のもとでは、 これだけでは十分な説得力は持たない」として、個別に反射効拡張の根拠があるか 否かを判決効が不利に及ぶ場面と有利に及ぶ場面とに分けて検討すべきとする。
まず、反射効が第三者に不利に及ぶ場面では、民訴法115条の既判力拡張の根拠である① 権利関係安定の強い要求、②手続保障をするだけの実質的利益の欠鉄、③利益主張の当事 者による代行を類推して拡張の正当性を探るべきであるとする。その結果、例えば合名会 社については、個々の社員の訴権利益は会社代表者による訴訟追行によって代行されてい
るとみてよく、③の理由に基づき判決効の拡張が認められる。
これに対して、反射効が有利に及ぶ場面では、不利益を受ける敗訴当事者(前訴当事者)
15 竹下・前掲注2)30頁以下。
16 新堂幸司『新民事訴訟法第四版』(弘文堂・2008年)695頁以下、高橋・前掲注1)657頁以下。
の手続保障を考える必要があるとした上で、防御的に援用される場合と、攻撃的に援用さ れる場合とに分けて考えるべきであるという。保証債務の例で説明すると、防御的援用の 場合には、債権者は最も利益関係の濃い主債務者を相手に真剣に訴訟をして主債務がない とされたのであるから、口頭弁論終結後の承継人への既判力の拡張の類推でそれを正当化 することができるという。つまり、債権者による紛争の蒸し返しと評価できること、拡張 を認めても債権者に不測の不利益はないこと、保証人の求償請求により主債務者の既得利 益を奪うのは不当であること等がその拡張根拠となる。これに対して、攻撃的援用の場合
(例えば、飛行機墜落事故に関して遺族の1人が航空会社を相手どり得た判決を他の遺族 が有利に援用した場合)には、拡張を否定する。その理由は、防御的援用の場合には、前 訴当事者が前里で失ったものを取り戻すことができないのみであるのに対し、攻撃的援用 の場合には、町道で失ったものを二重に失うことを意味し、被援用者に与える影響は大き
く、紛争の相対的解決及び公平の観点から妥当でないからであるとされる。
(4)否定説
反射効を否定し、また、明文なき判決効の拡張に慎重な態度を示す見解も存在する(否 定説)17。この見解はまず、「既判力と反射効との違いとして説かれるところはいずれも十 分な根拠をもつものではなく、反射効の内容としていわれる拘束力は、既判力の拘束力と 同質のもの」であるという認識から出発する。
その上で、反射効否定の根拠として以下の点を指摘する。第1に、反射効の根拠とされ る実体法上の従属関係は、口頭弁論終結後の承継人の範囲を決定する場合に基準とされる ものであり、基準時後の承継人には当たらない者に対して判決効を拡張する理由にはなり 難い。よって、反射効によって不利益を受ける者としては、なぜ反射効による拘束力を甘 受しなければならないのかが問題となる。
第2に、手続保障は訴訟物たる権利関係を基準として考えられるべきものである。主債 務と保証債務のような実体法上別個の権利関係が訴訟物となるときには、たとえ同一の事 実が争点となるときでも、それぞれについて手続保障を与えられなければならないという のが法の原則である。よって、同一紛争の蒸し返しの防止を根拠に反射効を主張する見解
は妥当ではない。
第3に、反射効を否定した結果生じるとされる実体法上の矛盾は、当該法律関係につい ての争いを必要的共同訴訟とせずに個別訴訟を認めることから不可避的に生じる結果にす ぎない。主債務者が債権者に勝訴したにもかかわらず、債権者に敗訴した保証人から求償 請求に応じなければならないのも、自己が求償請求訴訟に敗訴した結果であり、手続的に 不当な結果ということはできない。
17@伊藤眞『民事訴訟法 第3版再訂版』(有斐閣・2006年)527頁以下。
皿 総論的検討
以上、反射効をめぐる学説の対立を概観してきた。反射効肯定説は、反射効と呼ばれて きたものを既判力の拡張として捉える既判力拡張説や、判決効の相対性の原則、手続保障 の観点から反射効を認めない否定説からの鋭い批判にさらされており、現在、劣勢に立た されていることが確認できたと思う。また、反射効理論自体も、その中で語られる反射効 の定義、法的性質、反射効が認められる事例、その理由づけに至るまで様々であり、内部 での統一がなされていないという問題を抱えている。そこで、このような学説の状況を踏 まえ、以下より、今までの反射効理論の問題点を検討しながら、改めて反射効概念を定立 することを試みる18。
(1) 反射効再論(反射効≠既判力)
まず、反射効と既判力との違いについて検討しよう。既判力拡張説などの有力説は、第 三者が当事者間の確定判決の内容を争えないという点に着目し、反射効の実質が既判力の 拡張と異ならないことを指摘する。反射効肯定説を主張するならば、既判力との違いを明 確に示す必要がある。ここで、筆者は、上述した松本教授の指摘を真摯に受け止め、反射 効と構成要件的効力との関係を見直すことから出発するべきであると考える。従来から、
反射効は構成要件的効力の一種とされながらも、既判力拡張説の論者が指摘するように、
その実質は訴訟法上の遮断層が説かれてきたといってよい。
そこで、既判力と構成要件的効力が異なることから確認していこう19。民法174条の2は
「確定判決によって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるもので あっても、その時効期間は、10年とする」と規定しており、判決の存在により、短期消滅 時効が普通化されるとされている。判決主文では原告・被告問の債権関係が確定されるだ
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
けであるのに、その判決の存在によって、別に判決主文に宣言されてもいない短期消滅時 効期間が延長されるのであるから、この効力は明らかに既判力とは独立した判決の効力で ある20。これが構成要件的効力であり、この効力が第三者に及ぶ場合を本来、反射効と呼 ぶのである。構成要件的効力はまさしく実体法上の効力であるがゆえに、冒頭に述べた職 権調査の対象とならない等の反射効の特徴が導かれる。ここで注意しなければならないの
18@なお、反射効否定説は、判決の相対性の原則に拘泥し、当事者以外の第三者の判決効を拡張する反射 効なるものは認めないという態度を決め込むものであり、あまりにも安易に複数主体間の統一的な紛 争解決を放棄するという点で、妥当な解決を導き得ない学説であると筆者は考える。よって、本稿に おいては、主に反射効肯定説と既判力拡張説との対立を扱うこととする。
19@鈴木・前掲注13)149頁以下参照。
20@たとえ、既判力本質論についての実体法説に立ったとしても、判決によって変動するのは、訴訟物で ある権利関係そのものであって、その権利関係の属性(消滅時効期間)にまで影響を与えるものでは
ない。
、 、 、 、 、
ヘ、構成要件的効力には、読んで字の如く、一定の法律効果のための法律要件が存在し、
そこには「判決の存在を規定する法規又は当事者の合意の存在」が必要とされるという点 である21。兼子説をはじめとするこれまでの反射効肯定説は、単に実体法上の従属関係を 根拠として、当事者間の確定判決が第三者に及ぶ旨主張していた。ゆえに、今までの肯定 説は、第三者の債務の消滅といった実体法上の効力を論じるものではなく、後訴における 遮断効、すなわち訴訟法上の効力を論じていたのである。後述するように、前訴当事者と 第三者の従属関係という基準は、曖昧に過ぎ、効力発生の一定の目安とはなっても、もは や第三者に対する拘束力の範囲を決定する際の絶対的な基準としては採用し得ない。
これに対し、既判力は、終局判決が確定し、再び同一事項が問題となった場合に、当事 者がその判断と矛盾する主張をすること、及び、裁判所がその判断に矛盾・抵触する判断 をすることを許さない訴訟法上の通用力または拘束力である。これが第三者に拡張される 場合もまた同じであり、後訴の当事者及び裁判所が前唄裁判所の判断内容(原則として訴 訟物たる権利・法律関係の存否の判断)に拘束されることを意味する。すなわち、既判力 の拡張は、第三者が既判力によって終局的に特定された法律関係に関与する場面での効力
、 、 、 、 、 、 、 、
であるのに対して、反射効は、判決の存在により(=明文上の規定又は当事者間の合意に より判決の存在が法律要件として定められる結果)、第三者が他の当事者の間に存する既判 カをもって判断された権利関係をそれとして認めなければならない効力を意味する。くど いようだが、この効力は、既判力にいう前馬裁判所の判断内容と矛盾する主張を許さない という趣旨ではないというところに注意されたい。このように両者の判決効の意味すると ころ、作用は決定的に異なるのであり、既判力と反射効は別個の制度であるとみなければ ならない。
以上の前提を踏まえてはじめて、なぜこのような意味での反射効が認められるべきかを 検討することができる。保証債務の例で説明しよう。相対性の原則を採る民事訴訟におい て、債権者・主債務者間の訴訟では主債務の不存在が確定され、他方、債権者・保証人間 において主債務の存在が認定されることで保証債務の履行が命じられることは何ら背理で はないはずである。ところが、実体法の法理によれば、保証債務の附従性に基づき、主債 務が不存在の場合には保証債務は発生しないのであるから、ここで上記判決による紛争解 決結果とのギャップが生じるわけである22。この実体法と訴訟法との間のギャップを埋め
21@ドイツにおける当初の反射効の議論においては、判決効の発生を認める旨の明文の規定の有無を厳格 に問わずに発生するものであった。それを、明文のある場合(上述の短期消滅時効のケース)と明文 のない場合(実体法上の従属関係が見られるにすぎないケース)とに分けて考え、後者を既判力拡張 で論じようとしたのが鈴木教授である。鈴木教授の議論が定着することで、日本においては反射効と 構成要件的効力の区別が明確に意識されることとなった。鈴木・前掲注7)3頁以下参照。
22@吉野正三郎「判決の反射的効力(1)一保証人敗訴の確定判決」新堂幸司=青山善充編『民事訴訟法 判例百選(第2版)』(有斐閣・1982年)248頁参照。
るのが反射効理論である。つまり、反射効は実体法の構造を補完する概念であるといえる だろう。ここには、実体法と訴訟法の関係、言い換えるならば権利と救済手続の関係が浮 き彫りになっていると見ることができる。すなわち、訴訟法は、私人間の権利関係を規律 する民法などの実体法と区別され、実体法の定める権利の存否を判断するための手続を定 める法という性質をもつ。訴訟法学は、実体法という前提構造に従属しており、必ず理論 上実体法とある程度の整合性を保たなければならないという宿命を負っているのである。
その表れが反射効である。よって、反射効の実質的な理論的根拠は、民事訴訟の判決の相 対性の原則を貫くことによって生じる実体法上の規律と訴訟法の解決結果のギャップを回 避し、統一的紛争の解決を図ることにある。
(2) 既判力拡張論との実質的差異(既判力拡張説批判)
では、本稿が問題とする判決の効力を反射効と捉える場合と既判力の拡張と捉える場合 とでは具体的にどのような差異が生じるのか。この差異を示すことは、この効力を既判力 ではなく反射効で構成しなければならない実質的な理由を示すことをも意味する。
反射効の特徴は既に述べたが(H「学説」参照)、ここで筆者が特に指摘したい点は2点 である。第1に、問題となっている判決効を認めるためには、判決理由中の判断の拘束力 を認めなければならず、単に既判力の拡張を主張するだけでは不十分だという点である。
これは、既判力が相殺の場合を除き(114条2項)、判決主文に包含する判断にのみ生ずる とされているため問題となる23。再び保証債務の例で説明しよう。債権者・主債務者間で 主債務は弁済により消滅したとして敗訴した債権者が、保証人に対して保証債務の履行を 求めた場合、保証人の保証債務は主債務に附従しており、主債務が不存在であると判断さ れれば、保証債務も存在しないことになるというのがこれまでの議論であった。しかし、
民法449条は、主債務が不存在であっても保証債務はなお存続する場合があることを規定し ているため、単に主債務履行請求権の不存在を確認する判決の既判力を拡張させても、保 証人が判決理由中の判断である主債務が主債務者の無能力による取消以外の事由により不 存在であるとの判断を援用することを認めなければ、主観的範囲の拡張を論じる意義はな いのである。この点を既判力拡張説は棚上げしていると思われる。これに対し、構成要件 的効力である反射効は、訴訟法上の遮断効ではなく、判決によって、新しい実体法上の権 利変動が起きるという構成を採るため、実質上、判決理由中の判断に拘束力をもたせるこ
とができる(反射効が判決理由中の判断にも及ぶという特徴を想起してほしい)。
第2に、民訴法115条1項類推の可能性についてである24。果たして115条の趣旨から、
23@この点は、原出教授が明確に指摘されている(ただし、原教授は筆者と異なり反射効肯定説に対して 批判的な立場を採る)。原・前掲注3)29頁以下参照。
24@松本・前掲注9)284頁、木川統一郎『民事訴訟法重要問題講義 下』(成文堂・1993年)550頁参照。
実体法上従属関係にある第三者への既判力拡張という結論を導き得るであろうか。まず115 条の趣旨について考えてみよう。口頭弁論終結後の承継人のために、またはその者に対し て判決効が及ばないとすれば、裁判所はそれらの承継人を当事者とする後訴においても前 訴の訴訟物またはそれと関連する権利関係について再び本案の審判をなすことを要求され る。これでは、訴訟による紛争解決は容易に無意味なものとされ、当事者間の争いが形を 変え無限に続く恐れがあるため、立法者は承継人に対して判決の効力が及ぶことを規定し たのである。そして、その結論は、従属関係だけではなく、第三者保護、当事者の保護、
判決効の拡大という相対立する要素を比較衡量して訴訟上の分析により立法者により決断 されたものである。115条のこのような性格を考慮するとき、単に実体法上の従属関係に基 づく既判力の拡張が許されなかったとしても、その趣旨に必ず反することにはならないは ずである。今回問題となる判決効は、実体法の個別の解釈から生じるものであるといえる ため、訴訟上の効果である既判力で説明するのは、妥当ではないと思われる。
また、115条における承継人概念と比べると、従属関係の代表とされる保証人は、主債務 者の債務を承継しているわけではなく、115条が想定している前主と平岸の関係にあるわけ でもない。この点は、持分会社の無限責任社員にもいえることであり、保証人・無限責任 社員は主債務者・持分会社と別の債務を付加的に負担するものである。ゆえに、従属関係 に基づく既判力拡張の場合においては、115条1項の類推の基礎がないとみるべきであり、
同条の規定を一般化するべきではない。
(3) 既判力本質論との関係
反射効肯定説に向けられる最もメジャーな批判が、既判力本質論の通説である訴訟法説 との整合性である。まず、筆者の素朴な疑問として、なぜ既判力と別個の制度であるはず
、 、 、
の反射効について既判力の本質論との整合性が問われるのであろうか。上述したように、
筆者の見解によれば、両者は別個の制度であるため、その本質が異なっても構わないはず である。しかし、反対説が主張するところによれば、反射効は実質的には既判力の拡張の 言い換えに過ぎないのであるから、反射効もまた既判力の本質と整合的であるべきである という。そもそも、反射効概念は、訴訟法説によると既判力の拡張で説明できないところ がら生まれたという沿革を想起すれば、その指摘も納得できないわけではない。
しかし、仮に反射効もまた既判力の本質の通説である訴訟法説と整合的でなければなら ないとしたとしても、訴訟法説の要請は、そこまで厳格なものであるか疑問である。訴訟 法説といえども、判決効が実体的側面を有していることは、当然想定しているはずである。
法秩序全体から見ると、訴訟上の現象が実体法に影響することを認めている25。上述した 構成要件的効力はまさにその典型例である。そして、反射効もまた、構成要件的効力の一
25@木川・前掲注24)550頁参照。
種であり、実体法上生じる不都合を解消したいという訴訟法に対する要請により、特別に 判決の相対性の原則を破る場面であるといえるのだから、訴訟法説の例外として考慮すれ ば、何ら問題はないと考えられる。
(4)判断基準
以上、概観したように、筆者はこの効力を既判力ではなく、反射効を用いて説明するべ きだと考える。しかしながら、この反射効概念には、なお2点ほど再検討しなければなら ない点があると思われる。その第1が、従属関係という判断基準の曖昧さである。言うま でもなく、その背後には、明文規定の不存在という根本的な問題がある。再度確認すると、
一般的な構成要件的効力は、前門判決の存在を法規または合意により法律要件とされてい ることで認められるものであった。それに対し、反射効は明文を持たない法理下上の効果
、 、 、 、 、 、 、 、
であり、判決を契機として、実体法上の効力を生じさせるものである。この効力を根拠づ けるためには、実体法上の関連規定を解釈する他なく、そこには明らかに法の不備が存在 する。反射効肯定説は、それを補うものとして、従属関係説を持ち出し、判決と当事者間 の契約を同一視することによって反射効の発生を導いたのであった。この考え方は、ドイ ツの議論における古典的正統派的な学説であり26、判決の効力の主観的範囲を割り出して いく一応の基準としてはなお有用であると考えられる。しかし、その根拠とされる従属関 係がいつ、いかなる場合に存在するか曖昧な上に、それだけでは判決効が第三者に及ぶ現 象を正当化することの説明としてはなお不十分であるという旨の指摘は受け入れざるを得 ない。従属関係を中心とした実体法の関連規定を根拠に実体法上の効果としての反射効が 発生するとしても(実体法上、構成要件的効力を定めていると同視できると解釈しても)、
なお、それが訴訟法上も認められるか否かは、別の観点からの根拠づけが必要であると思
われる。
そこで、第2に検討する必要があると思われるのが、妥当な結論を導くための訴訟法的 考慮の必要性である。筆者は、確かに、問題とされる判決効を実体法上の効果である反射 効で構成するべきであると主張した。実体法からの要請としての実体法上の効力と観念さ れる反射効においては、いわゆる親実体法的解釈27が求められることとなり、訴訟法的な 価値概念を持ち出す必要がないという見解もありうる。しかし、訴訟法の立場から見ると、
確定判決の効力が相対性の原則を破り、前訴手続に直接関与することができなかった第三 者に及ぶというのは、重大な場面であると評価し得るはずなのに、「実体法上の効力である から」として論証を終わりとするのでは、訴訟法学としては、あまりに問題を外部へ丸投
26@鈴木正裕「既判力の拡張と反射的効果(一)」神戸法学雑誌9巻4号(1960年)534頁等参照。
27@松本博之「既判力の標準時後の形成権行使について」同『既判力理論の再検討』(信山社・2006年)
178頁以下参照。
げしているのではないか。手続保障など独自の価値概念を精緻化させてきた今日の訴訟法 学は、何のチェックもなしに、安易にそのような効力の発生を認めることは許されないと 考えるべきである。このことは特に判決効が第三者に不利に及ぶ場合に問題とすべきであ る。このような問題意識の下、筆者は、反射効は実体法的な要請を出発点とする実体法的 なアプローチの問題であると認識しつつも、同時に訴訟法上の価値判断を実体法へ反映さ せる方向を探る態度をとりたいと思う。すなわち、上述した従属関係の曖昧さを補完する ため、実体法上発生した反射効が訟法上も認められるべきか否か(判決の援用が訴訟上許 されるか)を別途、訴訟法的な要素を考慮することによって決し、細かに妥当な結論を導 く仕組みを設けるべきであるというのが、筆者の最終的な私見である。この考え方は、原 則として、訴訟物を用いた実体法的アプローチをとり、例外として訴訟法的アプローチ(訴 訟上の信義則等)によって、実質的妥当性を図る見解であるといえるだろう。
具体的な訴訟法上の考慮としては、越訴判決を援用する当事者ないしは第三者に、紛争 の統一的解決に対する合理的期待があり、判決効を不利に受ける者の手続保障の見地から 特に問題がない場合には、相対性の原則にこだわる必要がなく、訴訟法上も反射効を認め るべきである。これに対し、前訴当事者間における判決効を不利に受ける第三者の手続保 障が十分でないと判断される場合や、前訴判決を援用することが信義則に反するとみなさ
、 、 、 、
黷髀鼾№ノは、例外的に、信義則等の訴訟法上の道具を用いて、前訴当事者間の判決の援 用を許さないとするのが当事者間の公平に合致すると思われる。
】V 各論的検討
では、以上の理論枠組みを個別の事案に当てはめて検討していこう。私見の方向性は、
まず、実体法上の解釈によって構成要件的効力(実体法上の効力)が発生するかを検討し、
その上で、訴訟上もそれを主張することが認められるか否かを訴訟法上の考慮要素を勘案 することによって妥当な結論を導くという2段構造をとる。
(1)保証債務の例
本稿において何度も登場した事例である保証人のケースはどのように解決するべきか。
この場合、実体法の解釈の中心となるのは、やはり、保証人の片面的な従属関係である。
何度も述べている通り、従属関係は絶対的な基準とはなりえないが、一応の解釈の基準と してはなお有用であると考える。保証債務は、独立の目的を有しないで、主債務の履行を 担保することを目的としたものであるから、主債務が有効に存続することを前提とする(附 従性)。よって、原則として、主債務が存在しない場合には保証債務も存在せず、また、主 債務が消滅する時には保証債務も消滅するとされている(成立・消滅に関する附従性)。ま
た、 この主債務者に対する従属関係は、保証引受後に、主債務の範囲・態様が加重されて も保証人は何ら影響を受けないのに対して、債権者が主債務者に対して債務免除されれば、
保証人もこれを自己のために援用し、保証債務を免れることができるという性質のもので
ある。 いわば保証人の負う従属性は、自己に有利な片面的なものであるといえる。このよ
うな、 いわば、「主債務なきところに保証債務はありえない」という実体法の論理を貫くた
めには、 主債務が不存在であるにもかかわらず、保証債務の存在が認められるような事態 はなるべく避けるべきものであり、そうすることが紛争の統一的解決の観点から見ても望
ましい。 それに加え、実体法においては、附従性に基づく抗弁権なるものが認められてお
り、 保証人は、債権者からの保証債務の履行請求に対して、主債務の消滅ないし効力制限 を理由とした抗弁を提出することができるとされていることにも着目すべきである。例え
ば、 買主の保証人は、同時履行の抗弁権(民法533条)を有し、主債務が消滅時効にかかっ た場合には、保証人もまた、これをi援用することができる28。また、主債務者が支払確保 のために振り出された手形の返還と引換給付の抗弁権を有すれば、保証人もそれを主張で
きる29。 なぜならば、保証人が主債務者に対する債権の効力を制限する抗弁権を援用して、
自分に対する債権の効力を制限できると解さなければ、保証債務の附従性が貫徹されない からである。
以上のような片面的かつ従属的な保証債務の性質やそれを基礎とした抗弁権の存在を考 慮すれば、主債務者勝訴判決の既判力によって客観的に生じた(手続的に確定した)主債 務不存在という法状態は、実体法上、従属関係にある保証債務に影響を及ぼすと評価でき
るため、 上記判決を保証人が訴訟で援用することによって、自らに対する請求を拒むため
の 「抗弁」が可能であるという効果を実体法上の解釈により導くことができるといえるだ
ろう。
では、 最判昭和51年10月21日民集30巻9号903頁において問題となったように、保証人敗 訴の判決が主債務者勝訴の判決よりも先に下された場合には反射効は認めるべきであろう
か。 反射効は、実体法上の効力であるため、たとえ保証人敗訴の判決が先に確定していよ
うとも、 その後の主債務者勝訴判決により、実体法上主債務がその後消滅した状態と同視 できるため、当該判決の存在は構成要件に該当し、反射効は発生すると考えるべきである。
しかし、 保証人は自己に対する訴訟の事実審口頭弁論終結時までに、主債務者敗訴確定判 決の基礎になった事実を自ら主張して紛争の統一的解決を図る機会を持ったのに、あえて 請求原因事実を認めて敗訴した以上(上記最高裁判決が指摘する点である)、主債務者勝訴 の判決を援用して(上記反射効を利用して)、再び債権者の権利を争うことは、信義則に反
28 大判大正4年7月13日民録21輯1387頁、大判昭和8年10月13日半集12巻2520頁、大判大正5年12,月25 日民録22輯2494頁、大判昭和6年6,月4日民集10巻401頁。
29 最判昭和40年9月21日判決民集19巻6号1542頁。
すると評価できる。ゆえに、保証人が先に債権者に敗訴した場合には、第三者に有利な事 例であるが、例外として保証人による主債務者勝訴判決の援用を訴訟法上許さないという
のが妥当な結論であろう30。
なお、このような事案に対しては、共同訴訟で訴えられたときは、これを極力維持する ようにし、別個に訴えられたときは、極力併合するように努め、それでも別個に訴訟が行 われるときは、訴訟告知を活用するよう、裁判所に行為規範を課すことで紛争解決結果に ギャップが生じることを未然に防ぐべきであろう31。昭和51年判決の事例も元々は主債務 者と保証人を共同被告としていたのに、裁判所が弁論を分離して保証人にだけ先に敗訴判 決を出してしまった点に問題があったと指摘されている32。
(2) 持分会社と無限責任社員の例
次に、第三者に不利にも及び得る事例である無限責任社員の例はどうか33。言うまでも なく、持分会社には法人格が認められているため、会社と社員とは別個の責任財産を有す る別個の権利義務主体である。したがって、会社の負う債務と社員が会社債務のために負 う債務は単一のものではない。しかしながら、持分会社は、人的信頼関係及び社員の経営 への参加を前提とする会社であると同時に、債権者との関係においては、会社という一個 の法主体のみでは完結せず、債権者に対し直接無限責任を有する社員の存在によって会社 の信用が担保されているといってよい。ゆえに、会社の債務関係という局面において、会 社は社員と切り離された存在ではなくなるのであって、会社と社員の問には、いわば「会 社債務なきところに社員の債務はありえない」という附従性、換言すれば、会社債務の無 効ないし消滅は直ちに社員の債務の無効ないし消滅につながり、また会社債務の増減は直 ちに社員の債務の増減につながるという関係が成り立つ。会社法が、持分会社の無限責任 社員は、会社に属する抗弁をもって債権者に対抗することができ(会社法581条)、他方で、
会社債務を自己の債務として弁済すべき責任がある(会社法580条1項)と規定しているの
30@ただし、紛争の統一的解決という観点を強調するならば、この場合にも保証人による主債務者勝訴判 決の援用を認める余地は残る。なぜならば、反射効を認めなければ、敗訴した保証人が主債務者に求 償請求をすることになり、仮にそこで保証人が勝訴したとすると、さらに主債務者は債権者に対して 不当利得の返還を求めていく…というように紛争が後続していくおそれがあるからである。吉野・前 掲注22)249頁参照。しかしながら、主債務者勝訴判決の確定は保証人が自らの訴訟において主張で きた主債務の不存在または消滅に関わる事由と異なる全く新たな事由であるとはいえないので、やは り請求異議事由として認めるのは難しいのではないかと思われる。松本・前掲注9)291頁参照。
31@松浦馨「判決の反射的効力(1)一保証人敗訴の確定判決」新堂幸司=青山善充=高橋宏志編『民事 訴訟法判例百選H[新法対応補正版]』(有斐閣・1998年)349頁参照。
32@高橋・前掲注1)672頁、高橋「判批」『昭和51年度重要判例解説』(有斐閣・!977年)142頁以下等
参照。
33@本間靖規「合名会社の受けた判決の社員に及ぼす効力について(四・完)」北大法学論集34巻1号(1983 年)1頁以下参照。
もこの趣旨である。このように持分会社の無限責任社員は、会社に完全に従属しており、
ここにいう従属関係は、単に債権者と会社の法律関係が、社員の地位の先決関係に立つと いうだけではなく、債権者・会社間の契約により、両者の法律関係を処分した結果を社員 は承認せざるを得ないという意味で用いられている。この点が、上の保証人の例と異なる 点である。それゆえ、会社の受けた判決は勝訴であると敗訴であるとにかかわらず、会社 の勝訴判決を債権者に援用することで債権者からの請求を拒むための「抗弁」が可能であ り、他方で、債権者の援用する会社の敗訴判決も承認しなければならないという効果を実 体法上の解釈によって導くことが可能であると思われる。
なお、この事例は、第三者に反射効が不利に及ぶ事例であるため、筆者の私見によれば、
手続保障等の訴訟法的な観点から警戒的にならざるを得ない。ところが、この事例におい ては、手続保障の問題が生じないといえるのではないだろうか。なぜなら、合名会社等の 持分会社においては社員が強い信頼関係によって結ばれていると同時に、利害関係を共有 しているのだから、会社代表者による訴訟追行は社員の訴求利益をも代表しているもので あり、社員もその結果に全面的に服することを、社員となることによって了解していると 評価し得るため、任意的訴訟担当が当然に行われている関係にあるといえるからである。
よって、社員の手続保障の問題は生じないというべきである。他方、債権者の側には、前 訴の勝訴判決を得た段階で、会社だけでなく、社員との関係でも紛争が解決されただろう という合理的期待があったと評価できるため、訴訟法上、債権者による会社敗訴の判決を 援用を許すのが妥当であると考えられる。
その他、各論で検討すべき事例が数点あるが、文字数の関係上、本稿では省略したい。
V おわりに
判決は、民事訴訟の帰結であり、そこに向けて当事者がお互いの主張を戦わせ、その判 断に拘束されるという意味で、訴訟の中での最重要局面であるといえる。そして、判決効 の領域は民事訴訟法学の中でも最も理論的な側面を有する分野であり、訴訟物論争等との 関係で、戦後民事訴訟法学の主戦場となってきた。本稿は、その効力のうち、反射効と呼 ばれるものについて肯定説の立場から検討を加えてきた。
ただし、このことは、必ずしも実体法を訴訟法よりも重視するという立場を表明するも のではない。冒頭に述べた通り、この効力は、訴訟追行の機会を持たなかった第三者に例 外的に判決の効果が及ぶものであるため、それをあくまでも実体法上の効力である反射効 と捉えることにより、既判力については相対性の原則を堅持したい、すなわち、既判力の 主観的範囲を厳格に解釈したい(115条の類推を簡単に許すべきでない)という狙いがある。
そもそも既判力は、判決によって確定された権利関係の法的安定を図って、訴訟制度の機
能・目的を達成するために不可欠な制度的効力であって、判決の効力が画一的・機械的に 生ずるという点にその制度としての利点がある。よって、その範囲の拡張に当たっては、
慎重な考慮が必要であり、115条をむやみに類推適用するのは望ましくないと考えるのであ
る。
このような筆者の価値判断には、色々と異論があるところではあろうが、いずれにせよ、
この論点は、実体法と訴訟法の関係を考える上でたいへん重要であり、反射効をどのよう な効力と捉えるかという問題は、その論者が民事訴訟法学においてどのようなスタンスを 取るかという問題の縮図であるといっても過言ではない。約2年間、九州大学法学部の民 事訴訟法演習において、既判力を中心に学習してきた筆者としては、学部の集大成として 扱うにふさわしいテーマであったと思う。