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ボーアと量子力学の誕生

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Academic year: 2021

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ボーアと量子力学の誕生 伊藤 和行

京都大学大学院文学研究科

20 世紀初頭における量子論の発展は,1925 年の量子力学の誕生を境として,前期量子 論と後期量子論に分けられるのが,ボーアは,この二つの時期を通じて重要な役割を果た したことで知られる.本稿では,前期量子論における成功から危機の時代,そして量子力 学の誕生期における解釈問題までをたどり,radiclal consevative の狭間で揺れ動いてい たボーアの活動を考察する.

1.前期量子論の誕生:ボーアの原子モデル

1913 年の論文「原子および電子の構造について」において提出された原子モデルは前 期量子論の誕生を示すものとして知られる.その理由は,この論文において,ボーアが原 子内への古典物理学の適用に対して限界を設定し,新しい理論が必要なことを明確に提示 したことにある.すなわち原子内の電子の軌道が古典物理学によって計算されつつも,荷 電粒子の加速運動は電磁波を放出するという電磁気学の結論は放棄されている.その代わ りに,「定常状態」に基づく二つの仮定(assumptions)が置かれたのである.

2.前期量子論の発展:「対応原理」

ボーアのアプローチは,古典理論と量子理論を場面によって使い分けるように過度的な 側面を持っていた.新旧二つの理論を接続し,発見法的な役割を果たしていたのが「対応 原理」である.その考えはすでに 1913 年論文において使われていたが,明示的に展開さ れたのは 1917 年の「線スペクトルの量子論について」においてである.それによれば,

量子数nが非常に大きくなって離散的効果が小さくなった場合には,量子理論と古典理論 によって導かれた結果が一致するというものである.

3.前期量子論の危機:仮想振動子理論

1920 年代に入り,前期量子論は,スペクトル線の強度や偏光の問題において大きな壁 に直面する.その解決策として,ボーアは,原子を仮想的な調和振動子の集まりとして考 える BKS 理論(Bohr-Kramers-Slater, 1924)を発表する.それでは,電子の軌道という古 典的な概念が放棄されたのみならず,個々の電子に対してはエネルギーと運動量の保存法 則が成り立たないとされている.保存則は,電子の集団に対してのみ成立する,統計的法 則とされたのである

4,量子力学の誕生:「相補性」

量子力学が二つの形式で,ハイゼンベルクの行列力学(1925 年)とシュレディンガー の波動力学(1926年)として独立に発見されたことは周知の通りである.

量子力学の誕生の最も重要な時期,すなわち1925年から1927年にかけて,ボーアはま ったく量子論に関わる論文を発表していない.前期量子論の崩壊と新しい力学の定式化を 目の当たりにし,以後,彼の量子力学への第一の関心事は量子力学の解釈問題になってい

(2)

る.

1927 年に,ハイゼンベルクの不確定性関係の発見を契機として,ボーアは,量子力学 の数学的理論を物理学的概念の枠組の中にどのように位置付けるのかという問題に向かっ た.彼の解答は「相補性」と呼ばれ,光や物質がもつ波動と粒子の二重性はその端的な表 現である.原子レベルの現象の観測過程においても,量子の有限性のため観測装置と観測 対象との相互作用が無視できなくなることから,観測精度には制限が設定され,時空的記 述と因果的記述,すなわち場所と速度,時間とエネルギーを測定した際の誤差に制限が生 じる.ハイゼンベルクの不確定性関係は,このような相補性の一つの表現なのである.ボ ーアは「相補性」を発表した「量子仮説と原子理論の最近の発見」(1927 年)において,

ハイゼンベルクの思考実験のような測定過程には関わらずに,粒子と波動の二重性から不 確定性を導出していた.

従来ボーアの「相補性」は,不確定性関係や波束の収束とともに「コペンハーゲン解 釈」の中心的主張とみなされてきたが,近年の研究は,ボーアとハイゼンベルクの間では 見解が異なっており,「コペンハーゲン解釈」は専らハイゼンベルクのものであることを 指摘している.ボーアの「相補性」(とハイゼンベルクの見解)に関しては,注意深い再 検討が求められている.

参考文献

西尾成子『現代物理学の父ニールス・ボーア』,中公新書,1993.

Kragh, Biels Bohr and The Quantum Atom, Oxford UP, 1912.

Hendry『量子力学はこうして生まれた』,丸善,1992.

Faye, “Copenhagen Interpretation of Quantum Mechanics”, SEP. など

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