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教師の若手期における保護者観形成に関する考察 -若手教師のライフストーリーを通して- [ PDF

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教師の若手期における保護者観形成に関する考察

―若手教師のライフストーリーを通して―

キーワード:若手教師、保護者観、ライフストーリー、教師の感情、教師の信念形成、教師教育 所 属 教育システム専攻 氏 名 江藤 将行 論文構成 序章 本研究の課題設定 第1章 研究枠組みの検討 第2章 「ライフヒストリー」と「ライフストーリー」 の方法論の検討 第3章 保護者に関する若手教師のライフストーリー 第4章 若手期における保護者観の形成 終章 本研究の成果と課題 1.本研究の課題設定 学校・教師と保護者との関係について多く研究される ようになった現在、保護者と連携・協働する力も教師の 力量として考えられている。授業観のような教師の信念 が教育実践に影響することが報告され、同様に保護者観 も教師が保護者と良好な関係を築いていく上で影響する と考えた。しかし、保護者との関係構築が求められる中 で、若手教師が保護者との関係づくりに苦悩する現状が 見られる。そこで、そのような現状の中で、若手教師が いかに保護者観を形成するのかという問いを設定した。 保護者観に関する研究はその研究目的と設定枠組みに よって様々であるが、教師の保護者観が形成されるプロ セスに関しての研究は非常に少なく、若手期に限定する というような特定の層に着目して検討されたものはない。 教師にとって若手期には教師の見方や考え方である 「観」や「信念」の基盤を形成することが求められる。 つまり、若手期において保護者観を形成することが保護 者と良好な関係を築いていく力の基盤となる。 ある程度の期間を通して、様々な教師や教師たちの省 察と談話、行為の関係を追うことがこれからの教師の学 習過程研究において必要とされる。つまり、若手教師の 保護者との関わりに関する省察から保護者観の形成過程 を明らかにしようとすることで、教師が保護者との良好 な関係を構築していこうとする学習過程にアプローチす ることができると考える。 そこで本研究は、若手教師を対象に、若手教師のこれ までの保護者に関する省察を追うことで、若手期におい てどのように保護者観が形成されるのかというその形成 要因を明らかにし、教師の若手期における保護者観の形 成プロセスを示すことを目的とする。本研究を明らかに することで、教師の学習過程にアプローチすることがで き、教師の成長を追った教師教育学に寄与することがで きると考えている。 2.研究枠組みの検討 若手教師を捉える視点、保護者観を捉える視点、「教師 の信念」を捉える視点から研究枠組みを検討した。 1)教師にとっての若手期 まず、教師のライフステージにおける若手期はいつを 指すのかを 47 都道府県 20 政令指定都市の教職員研修体 系から分析した。その結果、教師の若手期とは経験年数 10 年以下または年齢 34 歳以下の教師であることが示さ れた。また、若手期は3~5年目までを教師としての基 礎的な力量を養う時期と、4~10 年目までを形成した力 量を向上させる時期に2分されていた。 次に、教師は若手期をどのように捉えているのかを明 らかにするために、若手期を経験した教師 64 名を対象に 自由記述式の質問紙調査を行った。その結果、若手期を 経験した教師は若手期を「時には失敗をしながらも様々 な経験をし、子ども・保護者含む多様な人と出会うこと により、また先輩・同僚からの学びや教育の原理につい ての学びを通して知識・実践を吸収し、教師としての基 礎を固めることにより、教師のアイデンティティ・実践 力・社会人としてのマナーを身につける時期」だと捉え ていることが分かった。 先行研究からも教師のライフステージを 10 年前後で 区切り、教師のアイデンティティなどを確立する時期だ とされている。そのため、本研究における若手期を経験 年数 10 年までの時期とした。 本研究における調査対象を基礎的な力量が形成され た後の4~10 年目までの教師とすることが望ましいと 考え、さらに年齢層による影響を少なくするために 34 歳以下という年齢による区切りを用いた。

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2)保護者観を捉える枠組み 保護者の意識・行動と教師の保護者に対する感情に着 目して、教師の保護者観を分析する際の枠組みを設定し た。 保護者の意識・行動に関して、学校と保護者の「連携・ 協働」が唱えられる中で、学校・教師に自ら行動を起こ す保護者のような「能動的」な保護者観と学校・教師に 消極的な保護者やクライエントとしての保護者のような 教育に対して受動的な意識・行動の「受動的」な保護者 観が存在した。そのため、保護者観を捉える軸として「能 動的―受動的」という軸を設けた。 教師の保護者に対する感情に関して、肯定的に捉える か否定的に捉えるかの保護者観によって保護者との関係 構築に影響があると言える。また、教師は子どもとの信 頼関係構築のために自身や他者の感情を管理する感情労 働が行われている(伊佐 2009)ように、教師が保護者と の信頼関係を構築していくために感情労働を行っている という仮説を立てられる。これらのことより、「肯定的 ―否定的」という軸を設けた。 これまでの多くの研究は保護者の意識・行動に着目し て枠組みが設定されてきた。しかし、それは「どのよう な保護者が存在するか」を示したものであるが、これだ けでは教師個人の保護者観を十分に捉えきれていない。 そこに「保護者をどのように捉えているか」という教師 の感情を軸に加えることで、教師個人の保護者観が分析 しやすくなると考えた。そのため、保護者の意識・行動 に着目した「能動的―受動的」と教師の感情に着目した 「肯定的―否定的」というふたつの軸を用いることとし た。この点が本研究における独自性のひとつである。 3)「教師の信念」に関する分析枠組み 教師の信念に関する研究を概観し、保護者観を分析す る際の手法について模索した。なお教師の信念とは教育 観、授業観、子ども観などの多種多様な「観」を含み、 それらを体系的に包括したものだと言える。 「教師の信念」研究は(1)「教師の信念」の内容に 関する研究、(2)「教師の信念」(へ)の影響に関する研 究、(3)「教師の信念」形成に関する研究に分類するこ とができ、本研究は「教師の信念」形成に関する研究に 位置する。信念形成に関して従来は量的研究法が見られ ていたが、海外から持ち込まれた信念研究により、教師 のナラティヴやストーリーテリングといった質的研究法 が多く見られるようになった。その質的研究法の中でも 多いのがライフヒストリーやライフストーリーであり、 本研究においてもライフヒストリーないしはライフスト ーリーが有効な手法だと考えた。 3.「ライフヒストリー」と「ライフストーリー」の方 法論の検討 1)ライフヒストリーとライフストーリーの相違 ライフヒストリー研究は個人の語りの内容に着目し、 語られた個人史を歴史的・社会的文脈に位置づけ、歴史 としての事実を再構築するものである。一方、ライフス トーリー研究は聞き手の立ち位置を重視し、語り手と聞 き手の相互作用の中でいかに語られたかという語りの様 式にも注意を払い、語られた真実を描き出すものである。 本研究の目的を達成するためには保護者に関する若 手教師の語りを歴史的・社会的文脈に位置づけ、歴史と しての真実を描き出すことではなく、その語りがどう意 味づけられ、構築されているかを分析することによって 検討できると考えた。そのため、本研究では「ライフス トーリー」を用いた。 2)教師研究におけるライフストーリー論の批判的検討 教師のライフストーリー研究の中には方法論が十分 に検討されていないものが多くある。そのため、「CiNii」、 「J-STAGE」、「Google Scholar」において 2015 年9月ま でに公開されていた 31 本の教師のライフストーリー研 究を対象に教師研究におけるライフストーリー論を批判 的に検討した。 用いられていたライフストーリー論は、語り手と聞き 手の相互作用に着目する対話的構築主義と社会構成主義、 帰納的推論を重ねて社会構造的特質についての社会学的 な仮説や理論をたてる解釈的客観主義に分類された。対 話的構築主義や社会構成主義に立ったライフストーリー 論では聞き手の存在にも関心を払い、語りの様式や語り の生成プロセスにまで着目する必要がある。しかし、現 在の教師のライフストーリー研究においては聞き手の役 割が軽視されており、語りの様式や語りの生成プロセス にまで着目した研究が少ない。そこに教師研究における ライフストーリー論の解釈のズレがあった。 3)ライフストーリー研究としての本研究の位置づけ 社会構成主義に基づいた教師のライフストーリー研 究は教師の専門的成長の多様性と固有性の描写を通して、 教師の生活と仕事がもっている潜在的な可能性の鍵を開 くことをめざすのである(高井良 2015)。本研究におい て、社会構成主義に基づくことによって、若手教師の保 護者観という専門的成長の多様性と固有性の描写から教 師の保護者との関わりに関する可能性の鍵を開くことが できると考えたため、本研究では社会構成主義に基づく ライフストーリー論を採用した。 また、教師のライフストーリー研究には1人の教師の 成長プロセスを描き、そこから誰かに当てはまる典型性

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を示すことが求められる。そこで、本研究の位置づけと して教師の成長を描き、典型性を示す事例研究とした。 4.保護者に関する若手教師のライフストーリー 3名の若手教師を仮名で片山綾子、古川由紀、阿部真 奈美とし、ライフストーリーからそれぞれの保護者観に ついて考察を行った。ライフストーリーを描写する方法 として、まず保護者観の形成にかかわるような一連の語 りについてトランスクリプトを作成し、提示した。そう することによって、なぜその語りが生成されたのかを分 かりやすくすることができた。その後、その一連の語り について筆者と語り手の相互のやりとりに着目しながら、 ライフストーリーを叙述した。 1)同じ願いを持って協力していける存在 片山綾子のライフストーリーを以下にまとめた。 片山は大学における授業や塾講師・家庭教師などのア ルバイトを通じて、保護者について考えることや保護者 と接する機会があったため、教師になっても構えずに保 護者と接することができた。 片山にとって初任校での保護者とのエピソードが非 常に印象に残っており、様々な保護者と出会うことにな る。担任になってすぐに保護者対応に困難さを感じなが らも、学生時代にボランティアで出会った教師や校内の 指導教員の教えから学級通信や電話連絡・家庭訪問に力 を入れ、保護者との信頼関係を徐々に築いていくことが できた。 その後の異動先の学校では片山は PTA 行事に頻繁に出 席しており、そのことに関して PTA 会長に言われた言葉 に喜びを感じた。また、この学校で唯一のモンスターペ アレントと出会うも、時が経つごとにその保護者とも 徐々に信頼関係を築けていった。 現任校の保護者は教育熱心で、学級通信なども今まで より読んでもらっていることが伝わってくるという。 上記のようなライフストーリーを語り、学生時代から 思い描いている「同じ願いを持って協力していける存在」 という保護者観は揺らぐことなかった。 2)仲間としての保護者 古川由紀のライフストーリーを以下にまとめた。 古川は教師になる前は、保護者と関わる機会がなく、 先に教師になった同級生からマイナスイメージを抱くよ うな保護者の話を聞き、怖いという印象を抱き、実際に 接する際に漠然とした不安を抱えていた。 そのような否定的な感情を持ったまま教師になり、実 際に保護者と接する際にも保護者対応や三者面談にも苦 労した。しかし、実際に保護者と接していく中で、徐々 に怖さや不安などのような感情は薄れていった。 初任校は中学校であったがその後、高等専修学校に異 動することになる。この異動が古川にとって大きな転機 となる。そこでの保護者は自分と年齢の近い保護者が多 く、それにより子ども観の変容が促された。5年目から はポストを与えられるようになり、教育への意識の変容 が見られ、それが保護者を仲間として捉えるきっかけに なっている。 また、先手でこまめに連絡をすることを実践の軸に保 護者と接し、経験を積むことによって保護者に対する怖 いという感情が完全になくなっていった。 上記のようなライフストーリーを語り、始めは保護者 を否定的に捉えていたが、現在は「仲間としての保護者」 という肯定的な保護者観を持っている。 3)クライエントのような保護者 阿部真奈美のライフストーリーを以下にまとめた。 阿部は大学の頃までは教育養成において保護者につ いて学ぶ機会がなく、保護者について考えたことはなか った。2年間の非常勤講師時代も保護者と直接関わる機 会が少なかったため、他の教師が保護者対応に追われる 姿を見て、漠然とした不安も抱えていた。 その後、教育相談員として教育委員会に6年間勤め、 そこでの経験は今後の保護者と接していく際の大きな基 盤となっている。教育委員会の教育相談員という立場か ら上司、臨床心理士、ベテラン教師から保護者との接し 方を学び、ある1人の保護者との出会いを契機に自ら保 護者に対して行動を起こすようになった。 現任校では育休のため現在勤務ができていないが、自 身が保護者になることによって、保護者の気持ちも分か るようになった。 上記の経験から阿部は保護者を助ける教師になりた いというある種の信念を持ち、ここから阿部が保護者を 「クライエントのような存在」として捉えていることを 読み取れた。 5.若手期における保護者観の形成 1)若手期における保護者観の形成プロセス 3つの事例を検討すると保護者観の形成には4つの 過程が確認できた。それは(1)形成初期、(2)形成途 中、(3)形成における重要な転機、(4)今後の影響が 考えられる転機の4つである。 (1)形成初期において3つの事例から【保護者との 直接的な関わり】があるかないかによって保護者に対す る捉え方が肯定的にもなり、否定的にもなることが言え た。また、この過程では【年齢】が離れているために保

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護者に対して否定的な感情を抱く。 (2)形成途中では【他者からの学び】を通して、実 践を身につけ、実際に保護者と接することで保護者観の 基盤が形成されたり、保護者の捉え方に変化が生じたり した。また、【年齢】が保護者に徐々に近づいていくこと で、保護者に対する見方の変化も見ることができた。 (3)形成における重要な転機は若手期における保護 者観形成に最も大きな影響を与えたと考えられる過程で ある。本研究における事例では<保護者との出会い>と <異動>が見られた。<保護者の出会い>では自身の実 践に対し【保護者からの承認】があり、自身の保護者観 が強化されたり、保護者の捉え方を大きく変化させ、そ の後の実践の基盤になっていたりした。また、<異動> では若い頃から学年主任や生徒指導主事といった役職に 任じられ、【職務上の役割の変化】が保護者観形成におけ る大きな要因となっていた。 今後、新たな保護者観を形成していく上で重要な転機 となり得る出来事を含んだ過程を(4)今後の影響が考 えられる転機とした。女性教師にとって結婚・出産・ 育児の経験時期が、ライフコース上の転機を生み出す と言われる(山﨑 2002)。阿部の事例では出産・育児 により保護者の捉え方が変化しており、今後新たな保 護者観を形成する重要な転機になる可能性を含む要 因として【子どもを持つ】が挙げられた。 2)保護者に対する感情労働 片山と古川の事例から保護者との関係を構築してい く上で、ストラテジーとして感情労働を行っていること がうかがえ、若手期において感情労働者としての側面を 身につけていることが分かった。特に古川の事例では、 保護者観形成に影響を与えていた。このことから感情労 働者としての側面が保護者の捉え方や接し方に対して影 響を与える可能性が言えた。 3)保護者観形成から見えた若手教師の成長 教師の力量形成の要因として、これまで中堅期以降に 見られた【職務上の役割の変化】が古川の事例から若手 期においても見られた。これは中堅教師の不足という学 校現場の課題による影響が考えられ、今後、若手教師の 力量形成においても【職務上の役割の変化】が多く見ら れるようになる可能性を示した。 6.本研究の成果と課題 本研究の成果は4点ある。まず1点目は教師の若手期 における保護者観形成のプロセスを示し、【保護者からの 承認】と【職務上の役割の変化】が保護者観形成におけ る重要な要因になり得る可能性を示唆できた点である。 2点目は教師が保護者に対しストラテジーとして感情 労働を行っていることを示したことであり、これはこれ までの先行研究では言われていない。 3点目はこれまでの教師のライフストーリー研究は桜 井ややまだの論と解釈のズレが生じているものが多く、 語りの様式や語りの生成プロセスについてまで記してい るものが少ないことを明らかにした点である。さらに、 本研究での教師のライフストーリーの示し方は、今後教 師のライフストーリーを描写する際のひとつの形として 提起した。 4点目は【職務上の役割の変化】が若手期においても 見られるという社会的変動に伴う教師の力量形成におけ る変化を表し、今後の教師のライフコースや力量形成を 取り扱う教師教育学において新たな可能性を示すことが できた点である。 また、本研究における3名の若手教師は女性である。 ライフストーリーの中で、教師と保護者の関係において ジェンダーの問題がある可能性を指摘することができた。 このことから教師の保護者観を研究していく上で、男女 における差も考えられ、ジェンダーの問題も踏まえて今 後検討していく必要がある。この点について十分に考察 できなかった点が本研究における大きな課題である。 主要参考文献 ・伊佐夏実「教師ストラテジーとしての感情労働」『教育 社会学研究』84、2009 年、pp.125-144。 ・桜井厚『インタビューの社会学―ライフストーリーの 聞き方』せりか書房、2002 年。 ・高井良健一『教師のライフストーリー―高校教師の中 年期の危機と再生―』勁草書房、2015 年。 ・山崎準二『教師のライフコース研究』創風社、2002 年。 ・やまだようこ編『質的心理学の方法―語りをきく―』 新曜社、2007 年。 図 若手期における保護者観形成のプロセス 【 保 護 者 と の 直 接 的 な 関 わ り 】 【 年 齢 】 【 子 ど も を 持 つ 】 形成初期 形成途中 形成における 重要な転機 考えられる転機 今後の影響が 【 保 護 者 か ら の 承 認 】 【 職 務 上 の 役 割 の 変 化 】 【 他 者 か ら の 学 び 】 【 年 齢 】

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