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太陽熱給湯・暖房システムの設計法に関する研究
田中 航 1. 序論 近年、家庭部門のエネルギー消費量は増加傾向にあり、 住宅の性能基準も厳しくなっている。こうした状況から、 設備機器の効率化や再生可能エネルギー利用促進は重要 であるが、地中熱や太陽熱といった熱エネルギーの有効活 用は進んでない。そこで、住宅のエネルギー消費量に占め る割合が大きい給湯、暖房に太陽熱を利用できる、太陽熱 給湯・暖房システムの普及が期待される。 従来の太陽熱給湯システムは 4m²程度の太陽熱集熱パネ ルと 200L 程度のタンクを組み合わせたもので、必ずしも 家庭の負荷に対し十分なサイズでない。 そこで本研究では、大容量の太陽熱給湯・暖房システム の導入効果について実測データと数値シミュレーション から分析し、太陽熱給湯・暖房システムの設計指標を作成 することを目的とする。 2. 実証住宅による実測調査の概要 2.1 実証住宅の建築・設備概要 実証住宅は、太陽熱利用と空気循環式全館空調システム を組み合わせることで住宅の空調、給湯負荷の 50%削減を 目的として建設された。実証住宅は、地域区分(平成 25 年 省エネ基準)の異なる 6 地域に建設された。6 棟の実証住宅 の所在地と建築概要を表 1に示す。 実証住宅には太陽熱給湯・暖房システムとして、太陽熱 を給湯のみに利用する一般的な太陽熱給湯システムとフ ァンコイルユニット(以下 FCU)を組み合わせた太陽熱給 湯・FCU 暖房システムが導入されている。太陽熱給湯・FCU 暖房システムは、太陽熱集熱パネル、貯湯タンク、補助給 湯器、FCU から構成される。これらの設備機器の仕様 は、各地域の住宅によって異なる。各地域の住宅の太陽熱 給湯・FCU 暖房システムの設備機器の概要を表 2 に示す。 表中の太陽熱集熱パネルの方位角は北を 0°として時計回 りに角度を振った。 また、太陽熱集熱パネルは、旭川市、札幌市の住宅では 集熱効率 70%程度と高く、その他の住宅では集熱効率 35% 程度と標準的な性能のパネルを使用している。 2.2 太陽熱給湯・FCU 暖房システムのシステム概要 各住宅の太陽熱給湯・FCU 暖房システムのシステム図を 図 1に示す。各地域の住宅によって設備機器の台数や仕様 が異なるためシステムが異なることが分かる。 また、太陽熱集熱パネルの運転制御が旭川市、札幌市の 住宅とその他の地域の住宅で異なる。旭川市、札幌市の住 宅では、太陽熱集熱パネルが日射を感知すると熱媒が循環 するが、その他の地域では太陽熱集熱パネル出口温度と貯 湯タンクの最下層部の温度差が7℃を超えると熱媒が循環 し、温度差が3℃を下回ると熱媒の循環が停止する。 3. 実験による省エネルギー効果の把握 3.1 計測概要 各棟の計測点は図 1 に示すⓉとⒻである。Ⓣが温度を、 Ⓕが流量を測る計測点である。この他にガス流量、消費電 流を測定している。計測間隔は 10 秒である。計測は、2015 年 3 月から 2017 年 3 月までである。 3.2 実験方法 給湯実験では 4 人世帯の給湯負荷を想定し、1 日 450L を目標出湯量として日没後に水温 40 度で出湯する。 暖房実験では、11 月下旬から 4 月上旬にかけて貯湯タ ンクの温度が25℃を超えた場合に太陽熱を暖房利用する。 3.3 実測結果 3.3.1 集計データの概要 測定期間の実測データを対象に、出湯量が 350L~550L かつ、17 時以前にタンク、補助給湯器へ給水されない日 表 1 各地域の住宅の建築概要 表 2 太陽熱給湯・FCU 暖房システムの設備概要44-2 を抽出し分析を行った。ただし、花巻市の住宅では規定に より実験期間が 2016 年 4 月までだったため、2016 年 4 月 のデータについて分析した。 3.3.2 測定期間の季節別日平均給湯・暖房負荷 各住宅の測定期間の季節別日平均給湯、暖房負荷を図 2 に示す。中間期、冬期において FCU 暖房を使用した期間 を case1、使用しなかった期間を case0 とした。また、札幌 市の住宅の太陽熱給湯・FCU 暖房システムは他地域の住宅 と FCU 暖房のシステムが異なるため給湯負荷のみを示す。 旭川市では、太陽熱集熱パネルの過集熱により、中間期 から夏期にかけて実験方法通りの実験がほとんど出来ず、 太陽熱利用熱量が低い結果となった。 坂井市では補助給湯器として自然冷媒ヒートポンプ湯 機を使用する。そのため、図 1 より坂井市のみ補助給湯 器と貯湯タンクが三方弁で接続されている。三方弁の制 御により、貯湯タンクからの湯が 50℃を上回るとき、貯 湯タンクから優先的に湯が出る。貯湯タンクの湯を暖房 利用することで、タンク内温度が下がり、補助給湯器から 優先的に湯が出るため太陽熱利用熱量が低下した。 その他の地域の住宅では、夏期、中間期(case0)の太陽 熱利用の割合は高く、全ての住宅で冬期の給湯、暖房負荷 に対する太陽熱利用の割合は低い。このことから、実証住 宅に導入した太陽熱給湯・FCU 暖房システムの設備容量 でも、冬期の太陽熱利用の効果は低い。 図 1 各地域の太陽熱給湯・FCU 暖房システムのシステム図 f) 宮崎市 a) 旭川市 b) 札幌市 c) 花巻市 d) 坂井市 e) 春日井市 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 夏期 中間期 (case0) 中間期 (case1) 冬期 (case1) 斜面日射量 (kWh / 日 ) 給湯 ・ 暖房 負荷 (kWh / 日 ) 外気温度 (℃ ) タンク出湯熱量 補助給湯器 FCU暖房 空調機器 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 夏期 中間期 冬期 斜面日射量 (kWh / 日 ) 給湯・ 暖房負荷 (kWh / 日 ) 外気温度 (℃ ) タンク出湯熱量 補助給湯器 外気温度 斜面日射量 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 夏期 中間期 (case0) 中間期 (case1) 冬期 (case0) 冬期 (case1) 斜面日射量 (k W h/ 日 ) 給湯 ・ 暖房 負荷 (k W h/ 日 ) 外気温度 (℃ ) タンク出湯熱量 給湯器処理熱量 a) 旭川市 b) 札幌市 c) 花巻市 d) 坂井市 0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 夏期 中間期 (case0) 中間期 (case1) 冬期 (case1) 斜面日射量 (kWh / 日 ) 給湯・ 空調負荷 (kW h/ 日 ) 外気温度 (℃ ) タンク出湯熱量 補助給湯器 FCU処理熱量 暖房負荷 外気温度 斜面日射量 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 夏期 中間期 (case0) 中間期 (case1) 冬期 (case1) 斜面日射量 (kWh / 日 ) 給湯・ 暖房負荷 (kWh / 日 ) 外気温度 (℃ ) タンク出湯熱量 補助給湯器 FCU処理熱量 空調負荷 外気温度 斜面日射量 e) 春日井市 f) 宮崎市 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 夏期 中間期 (case0) 中間期 (case1) 冬期 (case0) 冬期 (case1) 斜面日射量 (k W h/ 日 ) 太陽 熱、 空調 ・ 給湯 負荷 (k W h/ 日 ) 外気温度 (℃ ) 太陽熱(給湯) 補助給湯器 太陽熱(暖房) 空調機器 外気温 斜面日射量 図 2 測定期間における季節別の各実証住宅の日平均給湯・暖房負荷 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 -15 0 15 30 45 60 75 90 105 120 夏期 中間期 冬期 (case0) 冬期 (case1) 斜面日射量 (k W h/ 日 ) 太陽熱、 空調・ 給湯負荷 (k W h/ 日 ) 外気温度 (℃ ) 太陽熱(給湯) 補助給湯器 太陽熱(暖房) 空調機器
44-3 4. シミュレーションモデルの構築 シミュレーションのモデル図を図 3 に示す 4.1 太陽熱集熱パネル 標準的な集熱効率を示す(式 1)と、集熱量と斜面日射受 熱量の比で表される集熱効率の(式 2)の連立方程式によ って太陽熱集熱パネルの出口温度を求めた。 η = 0.726 − 4.81 (∆t I∙S) − 19.5 ( ∆t I∙S) 2 (式 1) η =CcGc(Tco−Tci) I∗S (式 2) ここで、η:パネルの集熱効率、∆t:パネル出入口の熱媒 平均温度と外気温度の差(K)、Ι:斜面日射量(W/m²)、S: パネルの集熱面積(m²)、Cc:熱媒の比熱(J/L・K)、Gc:集 熱パネル循環水量(L/min)、Tco:集熱パネル出口温度(K)、 Tci:集熱パネル入口温度(K)である。 4.2 温度成層型蓄熱槽(貯湯タンク) 完全混合槽列モデル3)4)を参考に、蓄熱槽のシミュレー ションモデルを構築した。蓄熱槽を垂直方向に仮想分割 し、蓄熱槽の i 層での熱収支を(式 3)に示す。 Mi ∆Tsi ∆t = Cc∙ Gci∙ (Tco− Tsi) ∙ EHex +Cw∙ Gwi∙ (Twi− Tsi) + KAi(TOA − Tsi)
+Cw∙ Gxup(Tsi− Tsi+1) − Cw∙ Gxdn(Tsi−1− Tsi) (式 3)
ここで、M:蓄熱槽各層の熱容量(J/K)、Ts:槽内温度 (K)、t:時間(s)、Cw:水の比熱(J/L・K)、Gw:タンク給 水量(L/min)、Twi:タンク給水温度(K)、KA:タンクの熱 貫流率(W/K)、Tair:外気温度(K)、Gxup:下層より i 層に 流入する仮想移動流量(L/s)、Gxdn:上層より i 層に流入 する仮想移動流量(L/s)である。 4.3 ファンコイルユニット 4.4 (式 5)~(式 8)から FCU の吹き出し温度TaoFCU、 出口水温TwoFCU を求めた。 X = exp { K∙A Ca∙GaiFCU(1 − CaGaiFCU Cw∙GwFCU)} (式 5) Y = TwoFCU − TaiFCU (式 6) TwoFCU = TwiFCU − Y(1−X) 1−Cw∙GwFCU Ca∙GaiFCU∙X (式 7)
TaoFCU = TaiFCU +Ca∙GaiFCUY(1−X)
Cw∙GwFCU−X (式 8) ここで、K:コイルの熱貫流率(kcal/m²・K)、A:コイル 面積(m²)、Ca:空気の比熱(kcal/m³・K)、GaiFCU:吸い込 み空気温度(K)、GwFCU:FCU 循環水量 (L/min)である。 4.5 補助給湯器 住宅への供給温度を 40℃とし、不足した熱量を補助給湯 器で賄うものとする。また、タンクからの湯が 40℃を超え た場合は、市水によって温度調整する。 4.6 機器別の精度検証 太陽熱集熱パネル・貯湯タンク・FCU のシミュレーシ ョンモデルを機器別に精度検証した結果を図4 に示す。 入力値は全て実測値を使用した。 図より実測値と計算値はよく一致しており、シミュレ ーションモデルの精度を確認できた。 4.7 システムの精度検証 各機器のシミュレーションモデルを連成した太陽熱給 湯・FCU 暖房システムのシミュレーションモデルの精度 検証のため、タンクの出湯熱量と FCU の処理熱量につい て実測値と比較した。検証結果を図5、図 6 に示す。 年間の誤差率は、タンクの出湯熱量が+9%、FCU の処 理熱量が-3%と精度を確認できた。 図 3 シミュレーションモデルのモデル図 図 5 タンクの出湯熱量の精度検証結果 0 5 10 15 20 2015/8 2015/9 2015/10 2015/11 2015/12 2016/1 2016/2 2016/3 2016/4 2016/5 2016/6 2016/7 タ ンク 集熱量 (k W h/ 日 ) 実測値 計算値 図 6 FCU の処理熱量の精度検証結果 0 1 2 3 4 5 6 7 2015/8 2015/9 2015/10 2015/11 2015/12 2016/1 2016/2 2016/3 2016/4 2016/5 2016/6 2016/7 FCU 処理熱量 (k W h/ 日 ) 実測値 計算値 a) 太陽熱集熱パネル c) 貯湯タンク b) ファンコイルユニット 図 4 各機器のシミュレーションモデルの精度検証結果 20 25 30 35 40 45 0 1 2 0 1 2 0 1 2 0 1 2 0 1 2 1/1 1/2 1/3 1/4 1/5 吹出し 温度 (℃ ) FCU吹き出し温度(実測値) FCU吹出し温度(計算値) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 0 1 2 0 12 0 12 0 12 0 12 11/19 11/20 11/21 11/22 11/23 タ ン ク温度 (℃ ) Ts1(実測値) Ts2(実測値) Ts3(実測値) Ts4(実測値) Ts5(実測値) Ts1(計算値) Ts2(計算値) Ts3(計算値) Ts4(計算値) Ts5(計算値) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 0 1 2 0 1 2 0 1 2 0 1 2 0 1 2 11/15 11/16 11/17 11/18 11/19 パネ ル出口温度 (℃ ) 集熱パネル出口温度(実測値) 集熱パネル出口温度(計算値)
44-4 5. 太陽熱給湯・FCU 暖房システムのケース検討 5.1 計算対象 平成 25 年省エネ基準の 8 地域区分を対象とした。暖房 居室を、IBEC 標準住宅モデルのリビングとした。計算対 象地域と暖房居室の地域区分別の熱貫流率を表 3に示す。 居住者設定は、世帯人数を 4 人、年間の日平均出湯量 を 467.3L/日とした。生活スケジュールは、アンケート調 査を基に作成されたスケジュール5)を使用した。 5.2 機器サイズの検討ケース 太陽熱を給湯のみに利用するケースと給湯、暖房利用 するケースについて検討した。給湯のみ利用する場合、集 熱面積 4m²、貯湯容量 200L、300L の標準的な仕様。給湯、 暖房に利用する場合は、集熱面積の刻み幅 4m²とし、8m² ~36m²まで、貯湯タンク容量は刻み幅 200L とし、200L~ 1000L まで検討した。FCU のコイル面積は、0.2m²とした。 5.3 計算結果 温暖地(Ⅲ~Ⅵ地域)において標準的な機器サイズを用 いた太陽熱給湯システムと、機器サイズを拡大し給湯、暖 房に太陽熱利用した太陽熱給湯・FCU 暖房システムの太 陽熱利用の効果の比較を図 7 に示す。 集熱面積の拡大によって、太陽熱を給湯、暖房に利用し た場合でも給湯のみに利用した場合と同程度の効果が得 られる。しかし、集熱面積を拡大した場合でもⅠ~Ⅲ地域 の冬期の太陽熱利用の効果は大きく変わらない。 6. 総括 実測調査から機器容量の大きい太陽熱給湯・FCU 暖房シス テムを導入した場合でも冬期の太陽熱利用の効果は低く、数 値シミュレーションから集熱面積の拡大が太陽熱利用の効 果に大きい。しかし、Ⅰ~Ⅲ地域では集熱面積を拡大した場 合でも冬期の効果は大きく変わらない。今後は集熱効率の高 い太陽熱集熱パネルについても検討する必要がある。 【参考文献】 1) 隈裕子ほか:空気循環式全館空調システム住宅に関する研究 その 3 日本建築学会九州支部報告 2016,3 月 p.153~p.156 2) 田中航ほか:空気循環式全館空調システム住宅に関する研究 その 6 日本建築学会九州支部報告 2016,3 月 p.165~p.158 3) 宇田川光弘ほか:パソコンによる空気調和計算法 オーム社 1986, p.203~p.228 4) 佐藤誠ほか:要素モデルによる太陽熱給湯システムシミュレー ションの検証 5) 平田智子ほか:集合住宅における家庭用コジェネを用いた電 力・熱融通システムの調査研究 その 2 日本建築学会九州支 部報告 2016,3 月 p.173~p.176 日本建築学会大会学術講演梗概集 1996,9 月 p.429~p.430 表 3 対象居室の地域区分別熱貫流率 Ⅰa 地域(旭川市) Ⅰb 地域(札幌市) 図 7 地域区分別の給湯への太陽熱利用と給湯、暖房への太陽熱利用の効果の比較(左:年間,右:冬期) Ⅱ地域(盛岡市) Ⅲ地域(長野市) Ⅳb 地域(広島市) Ⅳa 地域(奈良市) Ⅴ地域(鹿児島市) Ⅵ地域(那覇市)