HZ/su ワクチン
シングリックス筋注用
第
2 部 CTD の概要
2.2 諸言
目次
頁 2.2 諸言 ... 3 2.2.1 参考文献 ... 5
2.2
諸言
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は α-ヘルペスウイルスであり、2 種類の疾患を引き起こす。最 初のVZV 感染は水痘として発現し、その後 VZV は後根及び脳神経節のニューロンに潜伏する1)。 帯状疱疹(HZ)は、知覚神経節に潜伏している神経向性ヒト α-ヘルペスウイルスである VZV が 再活性化した結果として発現する。典型的なHZ は急性疾患であり、疼痛を伴う皮疹が単一の皮 膚分節に沿って出現する。免疫機能が正常な患者のうちの最大90%に、急性の局所的な神経痛が みられる2)。典型的な場合、発疹は2~4 週間で治癒するが、瘢痕又は色素変化が残る場合もある。 急性期の疼痛の持続期間の中央値は2 週間である3)。 VZV の再活性化及びその後の HZ の発現の引き金が何かはわかっていないが、加齢、疾患又は 医学的介入により細胞性免疫(CMI)が低下している人では HZ の発現リスクが高いことが明ら かになっている 1)。したがって、世界中のほとんどすべての高齢者は HZ の発現リスクがあり、 約25%の人が一生のうちどこかの時期で HZ を発現する4)。本邦では、宮崎県における1995~2006 年の長期疫学前向き研究でのHZ 発現率は、全体では 4.2/1,000 人年であり、加齢とともに増加し 50~59 歳の集団では 5.2/1,000 人年、60~69 歳の集団では 7.0/1,000 人年、70~79 歳の集団では 7.8/1,000 人年であった 5) 。また、2008~2009 年に本邦で行われたコミュニティベースの前向き コホート研究によると、HZ 発現率は 50 歳以上の成人で 10.9/1,000 人年であり、70~79 歳の集団 で最も高かった(12.6/1,000 人年)6)。また、釧路市において2013 年 6 月~2014 年 6 月に実施さ れた前向き観察コホート研究によると、HZ 発現率は 60 歳以上の成人で 10.2/1,000 人年であり、 80 歳以上の成人が最も高かった(12.1/1,000 人年)7)。本邦の国立社会保障・人口問題研究所が発 行した「日本の地域別将来推計人口(平成25 年 3 月推計)」より計算すると、本邦の総人口に対 する50 歳以上の人口の割合は、2015 年の 46%から 2025 年には 52%に増加し 6 千万人を越えると 予測されている8)。加齢とともにHZ 発現率が増加するため5)、HZ は今後高齢化が加速する本邦 において大きな負担になると考えられる 。 主なHZ 関連合併症として、帯状疱疹後神経痛(PHN)、眼部帯状疱疹(HZO)、ラムゼーハン ト症候群等が挙げられる。最も多いHZ 関連合併症は PHN であり、HZ 患者の 10~30%に発現す る9), 10)。PHN は、神経節における VZV の再活性化による神経損傷の結果として起こる神経障害 性疼痛である。PHN の神経痛症状は多様であり、間欠的又は持続的な痛み、深部又は表在性の痛 み、刺すような又は焼けるような痛み、激しいそう痒感、痛覚過敏等が挙げられる11)。PHN の予 測因子には、加齢、免疫機能の低下、HZ の発疹の重症度と持続期間、及び初期の HZ の疼痛の重 症度がある12), 13), 14)。PHN は数ヵ月の期間で改善傾向を示し、約 70~80%の患者が 1 年以内に回 復する。しかし、何年にもわたり持続する場合もあり、加齢とともに症状の持続期間は長くなる 14)。更に、PHN は高齢者の生活の質(QoL)に大きな影響を与えることが知られている15)。 本邦で利用可能なHZ 及びその合併症に対する治療は、「帯状疱疹の診断・治療・予防のコンセ ンサス」16)によると、発疹発現から5 日以内に抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、 ファムシクロビル)の投与を開始し、その後7 日間の投与が推奨されている。PHN に対しては確 立した治療法はないが、抗うつ薬及び抗けいれん薬が推奨されている。 現在、本邦で利用可能なHZ 予防ワクチンには、乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」(一般財団 法人阪大微生物病研究会)がある。海外で承認されている弱毒生(Oka/Merck VZV 株)HZ ワク チン(ZOSTAVAX、Merck 社)と同じ起源を持つワクチンであり、HZ に対する有効性を検証していないものの、ZOSTAVAX との類似性を根拠として公知申請にて承認された。「50 歳以上の者に 対する帯状疱疹の予防」の適応を取得しているが、明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する 者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者に接種してはならないとされている。 GlaxoSmithKline(GSK)社の HZ 候補ワクチン(帯状疱疹サブユニット[HZ/su]ワクチン)は、 VZV に対する免疫を既に持つ、加齢又は免疫不全により HZ を発現するリスクが高い者において 強固な細胞性及び液性免疫応答を誘導するようデザインされた遺伝子組換えサブユニット(VZV 糖タンパクE[gE])ワクチンであり、生ワクチンではない。VZV gE は宿主免疫応答のよい標的 であり17)、かつウイルス感染の過程において重要な機能を果たしているため、サブユニット抗原 として選択された。実際の有効成分としては、VZV gE の配列中の膜貫通領域及び C 末端領域を 欠いており培養上清中に分泌される短縮型のgE(gE 抗原)が選択された。非臨床試験では、gE 抗原の接種により抗 gE 抗体及び gE 特異的 CMI が誘導され、本 HZ/su ワクチンに免疫賦活剤と して添加されるAS01Bは特異的な分子経路を介して局所性の自然免疫系を一過性に活性化するこ とが示された。AS01Bはこの作用により、gE 抗原を提示した抗原提示細胞(APC)の流入領域リ ンパ節への動員及び活性化を促進し、gE 特異的 CD4 陽性 T 細胞及び抗体を誘導する18)。HZ/su ワクチンは、感染性ウイルス粒子を含有しないので、免疫機能の低下した患者への接種に適して いると期待される 。 非臨床試験では、マウスを用いた薬理試験並びにイヌ、ラット及びウサギを用いた安全性試験 において、gE/AS01Bは強力かつ特異的な免疫応答及び良好な忍容性を示した。このことから、最 終製剤として gE/AS01B の選択は適切であり、臨床使用において危惧すべき副反応が発現する可 能性は低いものと考える。 臨床試験では、50 歳以上の成人における HZ 及び PHN に対する HZ/su ワクチンの有効性、免 疫原性及び安全性を、国内外の9 試験で評価した。また、18 歳以上の免疫機能の低下した患者を 対象とした試験のうち完了した2試験を含む10試験を、参考資料として本申請資料概要に加えた。 これらの試験では、本剤より誘導される免疫応答、免疫原性の持続性、HZ 及び PHN 予防に対す る有効性、安全性並びにワクチン製剤の妥当性、接種回数、接種間隔等を評価した。その結果、 年齢を問わず一貫して高い有効性、免疫原性及び安全性が確認され、ベネフィット/リスクプロ ファイルは良好であると結論付けた。HZ 及び PHN は加齢とともに発現率が増加することから、 今後高齢化が進む本邦においては HZ の予防が重要となると考えられる。また、免疫機能の低下 した患者への接種にも適したワクチンとして、本剤の貢献が期待できる。 2017 年 4 月現在、本剤の承認取得国はない。米国では 2016 年 10 月 21 日付、カナダでは 2016 年11 月 14 日付、欧州では 2016 年 11 月 25 日付で承認申請を行い、現在審査中である。 以上を踏まえ、本邦においては、新有効成分含有医薬品として、以下の内容にて製造販売承認 申請を行う。 〔販売名〕シングリックス筋注用 〔一般名〕乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(チャイニーズハムスター卵巣細胞由来) 〔剤形・含量〕注射剤、0.5 mL
〔効能・効果〕帯状疱疹及び帯状疱疹後神経痛の予防
〔用法・用量〕抗原製剤を専用溶解用液全量で溶解し、通常、0.5 mL ずつを 2~6 か月間隔で 2 回、筋肉内に注射する。
2.2.1
参考文献
1) Cohen JI. Clinical practice: Herpes zoster. N Engl J Med. 2013;369:255-63.
2) Dworkin RH. Inadequate evidence for a revised definition of postherpetic neuralgia (PHN). Pain. 2007;128:189-90.
3) Scott FT, Johnson RW, Leedham-Green M, et al. The burden of herpes zoster: a prospective population based study. Vaccine. 2006;24:1308-14.
4) Johnson RW. Herpes zoster and postherpetic neuralgia. Expert Rev Vaccines. 2010;9(3 Suppl):21-26. 5) Toyama N, Shiraki K. Epidemiology of herpes zoster and its relationship to varicella in Japan: A
10-year survey of 48,388 herpes zoster cases in Miyazaki prefecture. J Med Virol. 2009;81:2053-8. 6) Takao Y, Miyazaki Y, Okeda M, et al. Incidences of herpes zoster and postherpetic neuralgia in
Japanese adults aged 50 years and older from a community-based prospective cohort study: The SHEZ study. J Epidemiol. 2015;25(10):617-25.
7) Prospective, observational, multi-centre, physician-practice based cohort study to estimate the incidence of herpes zoster, proportion of postherpetic neuralgia and the economic burden and impact on quality of life, in adults ≥ 60 years of age, in Japan. GlaxoSmithKline Biologicals. Study Report. 2016; Study No.: EPI-ZOSTER-013 BOD. JP.
8) 国立社会保障・人口問題研究所: 日本の地域別将来推計人口(平成 25(2013)年 3 月推計) [Internet]. 2013 Mar. Available from: http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/t-page.asp. Accessed on 26 August 2016.
9) Kawai K, Gebremeskel BG, Acosta CJ. Systematic review of incidence and complications of herpes zoster: towards a global perspective. BMJ Open. 2014;4:e004833.
10) Johnson RW, Rice AS. Clinical practice: Postherpetic neuralgia. N Engl J Med. 2014;371:1526-33. 11) Weinberg JM. Herpes zoster: epidemiology, natural history, and common complications. J Am Acad
Dermatol. 2007;57(6 Suppl):S130-5.
12) Opstelten W, Zuithoff NPA, van Essen GA, et al. Predicting postherpetic neuralgia in elderly primary care patients with herpes zoster: prospective prognostic study. Pain. 2007; 132 Suppl 1: S52-9.
13) Kawai K, Rampakakis E, Tsai TF, et al. Predictors of postherpetic neuralgia in patients with herpes zoster: a pooled analysis of prospective cohort studies from North and Latin America and Asia. Int J Infect Dis. 2015;34:126-31.
14) Christo PJ, Hobelmann G, Maine DN. Post-herpetic neuralgia in older adults: evidence-based approaches to clinical management. Drugs Aging. 2007;24:1-19.
15) Gater A, Uhart M, McCool R, et al. The humanistic, economic and societal burden of herpes zoster in Europe: a critical review. BMC Public Health. 2015;15:193.
16) 渡辺大輔, 浅野喜造, 伊東秀記, ら. 帯状疱疹の診断・治療・予防のコンセンサス-Expert consensus on herpes zoster: diagnosis, treatment and prevention. 臨床医薬. 2012;28(3):161-73. 17) Cohen JI, Straus SE, Arvin AM. Varicella-zoster virus replication, pathogenesis, and management. In
Co., Philadelphia, PA.;2007. p. 2774-818.
18) Didierlaurent AM, Collignon C, Bourguignon P, et al. Enhancement of adaptive immunity by the human vaccine adjuvant AS01 depends on activated dendritic cells. J Immunol. 2014;193:1920-30.