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―タイの日本企業への日本語ニーズ調査から―

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言語教育研究 第8号(2017年度)

タイの日本企業が求める日本語人材育成に向けた日本語授業の提案

―タイの日本企業への日本語ニーズ調査から―

鹿目 葉子・大橋 真由美

キーワード

タイ人日本語スタッフ,高度人材,人材育成,コミュニケーション能力,ファシリテー ション

はじめに

 2015年末,ASEAN加盟国10カ国が一つにまとまり,ASEAN経済共同体(以下:AEC)が発 足された。人口6億人を超える規模の一大経済圏の誕生であり,“ヒト,モノ,カネ” の行き来が 今まで以上に自由になることから,日本企業にとっても大きなビジネスチャンスを得ることに なると報告されている(小野寺 2013)。

 近年,上述のような状況の変化に伴い,タイの大学へ優秀な人材を探しに足を運ぶ日本やタ イの日本企業が多く見られるようになった。タイの日本企業に就職を希望しているタイ人日本 語学習者にとっては望ましい機会ではあるが,タイの日本企業はあらゆるビジネス場面で活躍 できるタイ人の高度人材(1)を求めており(鹿目 2015),タイの日本語学習者の大半が望む通訳 といった言語面の専門家とはずれが生じている。また,タイ人日本語学習者の中には日本の日 本企業へ就職を希望する者も見られる。一方,日本の日本企業に就職を希望している日本滞在 の留学生は約6割だが,そのうちわずか4割しか就職できないのが現状である(久保田2015)。

その主な要因に,日本語能力の問題が挙げられており,日本語能力こそが日本の日本企業への 就職の鍵をにぎっていると推測できる。では,タイ人日本語学習者の就職希望先の一つである タイの日本企業が求める採用要件とはどういうものだろうか。

 そこで,筆者らはタイの日本企業がタイ人日本語スタッフに求めている人材像とはどういう ものなのか,また日本企業が求める日本語能力とは何を指すのか,これら2点を問題提起とし て先行研究を概観し,タイの日本企業にアンケート調査を実施した。

 本稿では前述の結果をもとに,タイの日本語学習者のためのタイの大学における日本語授業 の方法について考える。

1.先行研究

1.1 タイの大学における日本語教育の現状と問題点

 国際交流基金(2016)の調査によると,タイの日本語教育は1960年代中頃,タマサート大学 およびチュラローンコーン大学に日本語講座が設置されたことに始まり,大学(特にバンコク

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翻訳,通訳などの専門科目,会話,スピーチ,日本文化,作文などの教養科目,観光日本語,ビ ジネス会話やビジネスライティングといった実践的な科目まで幅広く提供されている。  

 基礎科目や専門科目は非母語話者教師(以下:NNT)がタイ語で教えており,教養科目や実 践的な科目は日本語母語話者教師(以下:NT)が担当している。筆者らの1人(鹿目)が以前勤 務していた大学を含むタイの国立総合大学上位3校では,アカデミックな内容が重視されてお り,日本語学や日本文学などの研究者を育てることが主な目的とされている。そのため,職業 に関連する実践的な科目はあるものの重きは置かれていない。また,本来ならば,職歴や資格 に応じた科目を担当させるのが望ましいが,大学によっては

NTであるという理由だけで,企業

経験のない新卒者にビジネス日本語を任せるケースも見られる。これは,一種の母語話者崇拝 主義(原田 2004)に近く,日本語ネイティブであればその背景を問われないことが多い(鹿目 2015)。

 近年,短期・長期にかかわらずタイ人日本語学習者の日本の大学への留学者数は増加傾向に ある。筆者らの1人(鹿目)が以前勤務していたタイの大学では,年によってはクラスの8割以 上が日本への留学経験者だった。留学後の彼らの希望進路先としては,タイおよび日本の日本 企業への就職が挙げられる。2012年の留学生就職支援ネットワークの調査によると,調査に参 加した日本の日本企業433社が外国人留学生に求める日本語コミュニケーションレベル,すな わち日本語能力は,面接時に必要とされる「聞く力」と「話す力」に加え,社外のクライアント や協力会社,顧客との打合せや営業でのコミュニケーション能力としてビジネスで使用される 尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分けやビジネス用語,日本企業文化,ビジネスマナーなどの高い 日本語能力であった。また,採用時に求める日本語能力については,BJTビジネス日本語能力

テストの

J2レベル以上が必要であると回答した企業も約9割を占めたという。

 さらに,留学生の採用時に留学生に求める資質として「コミュニケーション能力」,「語学力(日 本語)」,「バイタリティ」,「熱意」,「専門性 」が重要視される項目として挙げられていた。

 上記から,タイの大学における日本語教育のカリキュラムはアカデミックな面を重視してお り,企業経験のない新卒者がビジネス日本語を教えている大学が多数を占めていることから,

現時点においてタイ人日本語学習者が日本やタイの日本企業の就職要件とされる必要な高い日 本語能力を身につけることは容易ではないと考えられる。

1.2 タイ人日本語スタッフについて

 タイの日本企業におけるタイ人日本語スタッフについての研究はそれほど多くは見られな い。その中で原田(2004)は,企業側が求める日本語能力とタイ人の学習者が考える日本語能力 の相違について探り,レベルの高い学習者とレベルの低い学習者では,後者ほど企業の日本語 ニーズを的確に理解していないと述べている。タナサーンセーニー他(2005)は企業,大学,卒 業生の現状調査から,企業での実地体験を通して知識を理解に結びつける重要性と,タイ人と 日本人間における言語的,文化的ギャップから生じる問題への解決能力の必要性を述べている。

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言語教育研究 第8号(2017年度)

 また,チンプラサートスック(2005)は,日本人駐在員とタイ人社員とのビジネスコミュニケー ションを通して生じる問題について,その両者の受け止め方の相違に着目し,産学協力による 効果的な学習カリキュラムへの改善やビジネス文化の相違を意識させる教育,OJT(On the Job

Training)を通して学習可能な日本語プログラムの開発を今後のビジネス日本語の課題に挙げ

ている。

 さらに,前野他(2013)はタイにおける日系企業がどのような日本語人材を求めているのか について,タイの日系企業63社にアンケート調査を実施している。アンケートの質問項目は,

職場での従業員間の使用言語,タイ人従業員の性格や資質,言語能力やパソコンスキル等で構 成されている。

 その調査結果によると,職場での双方のコミュニケーション言語としてタイ語・日本語・英 語を状況に合わせて使い分けており,仕事の場面では日本語よりも英語の比重が高いという。

日系企業が重視しているタイ人社員の資質は,責任感,積極性,協調性,向上心が上位を占めて おり,入社時に必要な日本語能力は,日本語での日常会話や業務上の会話,基礎的な読み書き,

日タイ通訳,日本語での

Eメールのやりとりが挙げられており,敬語や仕事で使う専門用語は

比較的重視されていないと述べている。また,英語能力や基本的な文書作成,表計算ができる ことも求められている。

 一方,自由記述の回答には,日本語の文法の正確さ,JLPTのN-2レベル以上や専門用語の知 識等の高度な日本語能力を求める声が多く,社交性やコミュニケーション能力,日本企業文化 や日本人の働き方への理解を求める意見も見られたという。前野他(2013)は,日系企業が重視 しているタイ人社員の資質の重要性を学習者に実感させるためには,日本語教育機関が,ピア・

ラーニング等を取り入れた授業,企業研修等の実施に取り組むことが望ましいと述べている。

 上記の先行研究は,タイの日本企業とタイ人日本語スタッフ双方に生じる問題とその対応策 の必要性や,タイの日系企業が求めるタイ人日本語スタッフの基礎的データと課題は述べられ ているものの,タイの日本企業が求めているタイ人の高度人材育成のための具体的な日本語授 業の取り組み方については言及されていない。

 そこで,筆者らは上記のような課題の解明が緊急かつ重要であると認め,タイの日本企業へ アンケート調査を実施することにした。

2. タイの日本企業へのアンケート調査 2.1 調査の概要

 本調査は,以下の2つに関してアンケート調査を対象者に実施し,その結果を分析考察し,タ イの日本語学習者のためのタイの大学における日本語授業の方法について考えることを目的と する。

①タイの日本企業がタイ人日本語スタッフ(Japanese speaking local staff 以下:JSLS)に 求めている人材像について

②タイの日本企業がJSLSに求める日本語能力について

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 アンケート調査(別紙参照)を依頼したタイの日本企業は31社である。その業種の内訳は図 1のとおりであり,製造業が一番多く全体の55%を占めた。タイの日本企業ということから,ま ず会社内でのタイ人従業員と日本人従業員のコミュニケーション言語について質問をした。

図1 タイの日本企業の業種

 その結果,日本語のみと回答した企業は見られず,英語のみが26%,タイ語・英語・日本語の うち2つ以上の言語を組み合わせて使用している企業が70%を超えた。また,業務上でのコミュ ニケーション言語については,英語のみ使用が39%,日本語のみ使用はわずか3%足らずであ り,2つ以上の言語を組み合わせて使用している企業が55%であった。このことから,

企業内

でのコミュニケーション言語としては,日本語の比重はそれほど大きくないことが窺える。

 次に,現在のタイ人従業員の職種について質問をした。その結果,総務・事務

, 一般事務など

事務関連の仕事が全体の80%近くを占め,タイの日本語学習者の大半が希望する通訳・翻訳は 8%に満たなかった。また,今後タイ人従業員に望む職種についての質問では,事務関係の仕事 が全体の78%を占め,通訳・翻訳は7%未満であった。少数ではあるが,タイ人リーダーと回答 した企業も見られた。これは,2015年に

AEC

(ASEAN経済共同体)が発足し,ヒト・モノ・カネ の行き来が自由になり,タイの日本企業が労働者をタイの近隣諸国から求めるようになったこ とに起因する。

2.3 調査協力企業がJSLSに求める人材像

 タイの日本企業はどのような人材を求めているのだろうか。まず,最終学歴であるが学士号

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言語教育研究 第8号(2017年度)

取得者を希望する企業は全体の86.2%であり,学士号取得先としてはタイの有名国立大学や私 立大学を希望する企業が全体の46.4%であった。ここにタイの日本企業が有する学歴フィル ターが窺える。また,日本や

ASEANの大学を挙げる企業も見られた。これは,タイの日本企業

がASEANでビジネスを展開していくことを考えた場合,学習者がASEANの諸事情に精通して いることはタイの日本企業にプラスの効果をもたらすと考えられるからである。

 さらに,大半の企業はビジネスをスムーズに進めていく上で日本人の考え方や文化(和を尊 ぶ心,他者への配慮等),日本の企業文化(会社の理念や経営方針への理解,

協調性,仕事への

熱意等)を知っているほうがより望ましいと回答した。これは,タイの日本企業とのビジネス も行われているからである。つまり,前述から高度人材としての

JSLSが望まれていることがわ

かる。

2.4 調査協力企業が求める日本語能力

 タイの日本企業はどの程度の,またどのような日本語能力を

JSLSに求めているのだろうか。

アンケート調査では,各企業とも

JLPTのレベルに関して特に言及はしていなかった。いくつか

の企業では,日本人従業員が現地の言語や英語を使用するため,JSLSに高度な日本語能力ではな く,意思疎通程度の日本語能力があればよいという。

 次に

,タイ人日本語学習者がタイの日本企業に就職する前に学習しておくべき日本語の科目

には

,

ビジネス会話,日常会話,日本事情(文化社会)

,ビジネスライティングが挙げられた。授業

の中に取り入れたほうがよい科目には,前述と同様,ビジネス会話,日本事情(文化社会)

,

ビジ ネスライティングが挙げられた。また

,アンケート内の自由記述欄には ASEAN事情なども書か

れていた。

 つまり

,

タイの日本企業は,JLPTのレベルに関して言及していないものの

,ビジネス会話 ,ビジ

ネスライティングという高い日本語能力を求めていることがわかる。

3.考察

3.1 タイの日本企業が求める高度人材像

 本調査の結果から,タイの日本企業が求めているのは,高度人材としての

JSLSである。その

高度人材に必要な能力はビジネスを円滑に進めていく上での能力であり,多岐にわたる。日本 語能力に関しては,企業内外でのコミュニケーション能力,ビジネスで使用される尊敬語,謙 譲語,丁寧語の使い分けやビジネス用語,メールや手紙などのビジネスライティングといった 上級レベルのものである。また,日本語能力だけでなく,日本人の考え方や文化,日本企業文化 を理解し,対応する能力,ビジネスマナー,他者と仕事を進めるための協調性,チームワーク,

そして,バイタリティ,熱意といったチャレンジ精神などが求められている。

 では,日本語教師はこのような高度人材の育成に向けて,どのように日本語の授業を進めて いけばよいのだろうか。

(6)

 高度人材は,短期間で育成できるものではなく,長期的な視点からその育成に取り組んでい かなければならないと考える。3.1の企業が求める日本語能力等を養うためには,初級レベル から授業の中に関連する内容を組み込み,対応していく必要がある。そこで,筆者らは各日本 語レベルで扱う企業が求める日本語能力等の対応表を以下のとおりに考えた(表1参照)。

 全レベルに共通している項目は,「聞く力/話す力」,「コミュニケーション能力」,「チャレン ジ精神」(2)である。初級レベルおよび中級レベルでは,「異文化対応力」(3)のうち日本人の考え 方や文化を授業に取り入れることは可能であるが,日本企業文化に関してはビジネス関連の内 容と連携して教えるほうが望ましいと考える。なお,筆者らはタイの日本企業が求める「コミュ ニケーション能力」を文部科学省(2011)のコミュニケーション教育推進会議審議経過報告を 参考に,①他者との関係を構築する能力,②相手の意図や問題を理解する能力,③自分の意見 を表現する能力と定義する。

表1 各日本語レベルで扱う企業が求める能力等の対応表 聞く力/話す力 コミュニケーション能力(チームワークを含む) ビジネス上級日本語

ビジネスマナー 異文化対応力 チャレンジ精神

初級 ○ ○ ▲ △ ○

中級 ○ ○ ▲ △ ○

上級 ○ ○ ○ ○ ○

○:扱う △:内容次第 ▲:扱わない

 「聞く力/話す力」,「コミュニケーション能力」は「人」との関係において求められる必要な 力であるといえる。また,「チャレンジ精神」は自らの意欲や熱心な気持ちであるが,「人」との 関係からも生じ得るものである。つまり,「人」がキーワードになり,ビジネスにおいても重要 な要因である。ビジネスでは,「人と人との関係性」を重視し,会議やプロジェクトなどが円滑 に進むように,また成果が上がるように支援をしながら課題の解決に取り組む「ファシリテー ション」が使用されている。筆者らはビジネスで用いられ,「人と人との関係性」において課題 解決をするという考えがベースにある「ファシリテーション」を授業の方法に取り入れれば,

企業が求める人材像の育成が可能となり,必要な日本語能力等が養えるのではないかと考えた。

 橋本(2013)によると,「ファシリテーション」は教育分野でも用いられており,日本語教育 でも見受けられるようになったという。『月刊日本語』の連載記事を取り上げ,橋本は日本語教 師のスタイルが支援型,すなわちファシリテーター型の場合,支援を得る「相手の可能性を引 き出し,育成」したり,「チームを立ち上げ,激励し,自立させ」たりすると紹介している。この ファシリテーターとはファシリテーションを行う人であり,日本語教育の場合,日本語教師が 相当する。津村(2010)は,ファシリテーターが行う教育を「参加・対話型教育」で「プロセス志 向,心理・関係的過程尊重」の教育と捉え,学習プロセスに注目し,学習者の動機づけを高め,

自分から学びたいという意欲を学習者に持たせ,教師対学習者,学習者同士がコミュニケーショ ンの中で学んでいくようにする教授法だと述べている。つまり,「聞く力/話す力」や「コミュ

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言語教育研究 第8号(2017年度)

ニケーション能力」は対話を通して養え,学習者の動機づけを高めることで「チャレンジ精神」

を持たせることが可能だと思われる。日本語教育において言語能力だけではなく,非言語・コ ミュニケーション能力の向上が重視されるようになり,「ファシリテーション」の考え方を日本 語教育に取り入れることは十分意義がある。

 では,どのように「ファシリテーション」を授業に取り入れたらよいのだろうか。鹿目(2014)

は,スピーチの上達に向けてピア・レスポンスを取り入れた授業を展開しているが,これは日 産自動車の「V-up:ファシリテーション」(漆原2012)に近い授業の試みと思われる。

 そこで,一例として表2に挙げる。鹿目(2014)の考察は,スピーチの上達のための取り組み を主要目的としており,「ファシリテーション」という考え方を特に意識して授業を展開したと は述べられていない。

表2 鹿目(2014)のスピーチの授業と企業のファシリテーションの対応表 授業内容と流れ 学習者の役割 教師の役割 企業のファシリテーション

(V-up)漆原(2012)

1 トピックの決定 話したいトピックについ

て各自考える 前半の授業では教師が提 示し,後半の授業では学 習者に提示させる

議題等を会議参加者に挙げさせ る(ファシリテーター)

2 スピーチプラン

(S.P.)の作成 スピーチプランを考える

(話すための構成を考え る)

構成項目を提示し,学習 者に考えさせ,アイデア を引き出す

会議前に,どの議題を話し合うの か,進行の仕方を打ち合わせた り,具体的な計画をたてる

(ファシリテーターと会議におけ る責任者)

3 S.P.の話し合い ペアでS.P.の発表とコメ

ント,アドバイスを行う 質問へのアドバイスやア イデアを引き出す 4 原稿作成 各自,次の授業までに原

稿を作成する 原稿の作成条件やスピー チ時の注意点等を指示す

5 原稿の読みあい

練習 作成した原稿の読み合い をし,アドバイスをもら い修正する

質問があれば,アドバイ スを行う

6 発表 スピーチをする 司会をする 参加者の意見やアイデアを引き 出し,会議を進行する.会議の視 覚化のための表作成や,デジカメ を使用して記録を残し,最大限の 成果が得られるよう働きかける

(ファシリテーター)

7 他者評価と自己

(ビデオ撮影)評価

評価シートに他者評価を 書き込み,意見を述べ,各 自撮影したビデオをもと に内省等の自己評価も行

評価を発表させ,次回の 発表に向けて良い点,改 善点等を伝える

 しかし,考察の結果には学習者が協働作業を通して考える力や読解力を養い,モチベーショ ンを高め,目標を持って話すことの大切さ,自分と聞き手の考えの相違,客観的なものの見方 やスピーチの改善に向けて何をするべきかを学習したことが浮かび上がってきた。

 つまり,表1の全レベルに共通している項目である「聞く力/話す力」,「コミュニケーション 能力」,「チャレンジ精神」を養っていることから,「ファシリテーション」を取り入れた授業の 方法は企業が求める日本語能力を養成するのに有効な方法であることが示唆されている。

4.おわりに

 2015年末,ASEAN経済共同体の発足にともない,タイの大学へ優秀な人材を探しに足を運

(8)

よれば,ASEANへ進出した日本企業は1万1328社あり,そのうち,4788社がタイへ進出して

おり,

ASEAN内ではトップである。タイ人日本語学習者にとっては,好ましい機会ではあるが,

タイの日本企業が

JSLSに求める条件は高く,語学能力だけではなく,異文化対応力,チャレン

ジ精神なども求められていることがわかった。

 そこで,筆者らは日本企業が求める高度人材育成のための日本語の授業の方法を探ることに 焦点をあて考察した。日本企業が求める高度人材は,短期間で育成できるものではなく,長期 的な視点からその育成に取り組まなければならないと考え,その取り組みとして,「ファシリ テーション」を取り入れた授業を提案した。

 本稿では,一例として鹿目(2014)のスピーチの授業の方法を提示するにとどめるが,「ファ シリテーション」を取り入れることが可能な活動として,会話,プレゼンテーション,ディスカッ ション,ディベート,作文など表現力,理解力,協調性,創造性などを総合的に包括するものと 推測できる。

 今後の課題として,各科目に「ファシリテーション」を取り入れる具体的な方法や「ファシリ テーション」が日本企業が求める日本語能力の向上に真につながるのかを検討していきたい。

(1)大学卒以上で,専門的な技術あるいは知識を有する優秀な人材であり,ビジネスのあらゆる場 面で活躍できる人材のことである。

(2)意欲を持ち,何事にも積極果敢に挑んでいく精神のことである。

(3)異文化環境下で仕事をするために必要なコミュニケーション能力のことであり,語学力,他者 とのコミュニケーション能力,異文化を理解する力を指す。

引用文献

漆原次郎(2012)『日産 驚異の会議』,東洋経済新報社.

鹿目葉子(2014)「中上級学習者のスピーチの上達に向けた授業とは‐ピア・レスポンスと評価活動 を授業に取り入れた試みから‐」『国際交流基金バンコク日本文化センター日本語教育紀要』第 11号,51-60.

鹿目葉子(2015)「日本語母語話者教師の質の向上に向けた対応策- タイの高等教育機関の日本語学 習者及び日系企業のアンケート調査から‐」『タイ国情報』第49号巻第3号,90-99

久保田学(2015)「外国人留学生への就職支援の現状と対応策‐大学に求められる外国人留学生キャ リア戦略-」『ウェブマガジン留学交流』2015(3)Vol.40,22-30,独立行政法人日本学生支援機構 タナサーンセーニー美香・高坂千夏子・當山純・中井雅也・深澤伸子(2005)「ビジネスで使う日本語

を考える−企業と教育現場の視点から−」『国際交流基金バンコク日本文化センター日本語教育 紀要』第2号, 207-222.

チンプラサートスック・パチャリー(2005)「タイ人と日本人との間のビジネス・コミュニケーショ ンの問題に関する研究」『共生時代を生きる日本語教育:言語学博士上野田鶴子先生古稀記念論 集』お茶の水女子大学日本語文化学研究会『共生時代を生きる日本語教育‐言語学博士上野田鶴 子先生古稀記念論集‐』編集委員会,349-376.

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言語教育研究 第8号(2017年度)

津村俊充(2010)「“教育ファシリテーター” になること」『ファシリテーター・トレーニング‐自己実 現を促す教育ファシリテーションへのアプローチ』12-16,ナカニシヤ出版.

橋本智(2013)「日本語教育における「ファシリテータ」の役割」『徳島大学国際センター紀要』,17- 22

原田朋子 (2004)「バンコクの日系企業の求める日本語ニーズに関する分析−ビジネスパーソンによ る日本語学習動機との比較から−」『早稲田大学日本語教育研究』第5号,早稲田大学大学院日本 語教育研究科,169-181.

前野文康・勝田千絵・Nida LARPSRISAWAD(2013)「在タイ日系企業が求める日本語人材−アンケー ト調査より−」『国際交流基金バンコク日本文化センター日本語教育紀要』第10号,国際交流基 金バンコク日本文化センター,67-76.

小野寺晋(2013)「ASEAN経済共同体(AEC)の発足に見る “ASEANマーケットの今後の可能性”」,

株式会社矢野経済研究所.https://www.yano.co.jp/ (2017年7月21日閲覧)

株式会社帝国データバンク(2016)「ASEAN 進出の日本企業は1 万1,328 社〜製造業,卸売業で約7 割,

サービス業では小規模企業の進出も目立つ〜」『特別企画:ASEAN 進出企業実態調査』

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p160504.pdf(2017年8月25日閲覧)

国際交流基金(2016)「日本語教育国別情報 2016年度 タイ」『国際交流基金』

https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2016/thailand.html(2017年8月16日閲覧)

財団法人留学生支援ネットワーク(2012)「平成24年度アジア人財資金構想プロジェクトサポートセ ンター事業『日本企業における高度外国人材の採用・活用に関する調査』報告書」

https://issn.or.jp/pdf/surveydata_2012.pdf(2017年7月27日閲覧)

文部科学省(2011)http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/commu/1294421.htm(2017年6月20日閲覧)

(10)

①業種

□製造業(自動車関連) □製造業(電機・機械) □製造業(金属) □製造業(繊維)

□製造業(化学・窯業) □製造業(食品) □製造業(その他:      )

□商業・貿易 □ホテル・宿泊業 □広告・出版・書籍 □金融・保険業 □百貨店・小売業

□教育・学習支援業 □土木・建設業 □レストラン・飲食業 □情報通信業 

□旅行代理店 □航空・運輸業 □不動産業 □団体 □医療・福祉業 

□その他:(       ) 

②タイ人従業員と日本人従業員のコミュニケーション言語(日常会話)

□主にタイ語 □主に日本語 □主に英語 □タイ語と英語 □日本語と英語 

□タイ語と日本語 □タイ語・日本語・英語のすべて □その他(       )

③業務上でのタイ人従業員と日本人従業員のコミュニケーション言語

□主にタイ語 □主に日本語 □主に英語 □タイ語と英語 □日本語と英語 

□タイ語と日本語 □タイ語・日本語・英語のすべて □その他(       )

④現在のタイ人従業員の職種

□総務・人事 □一般事務 □会社事務 □生産関連事務 □営業・販売事務

□営業 □秘書 □通訳・翻訳 □電話オペレーター □受付 □その他(       )

⑤これからタイ人従業員に望む職種

□総務・人事 □一般事務 □会社事務 □生産関連事務 □営業・販売事務

□営業 □秘書 □通訳・翻訳 □電話オペレーター □受付 □その他(       )

⑥タイ人日本語スタッフに求める条件 (学位)

□有名国立大学(チュラローンコーン,タマサート,カセサート,マヒドン,チェンマイ )

□有名私立大学(アサンプション,バンコク,ホーガンカータイ) □その他の国立大学 

□その他の私立大学  □ラチャパット系の大学 □その他(       )

⑦日本語能力試験のレベル

□ N1   □ N2   □ N3  □ 特に要求しない □ その他(       )

⑧タイ人日本語学習者が就職する前に学習しておくべき日本語の科目

□日本事情(文化社会)□日本研究 □ビジネス会話 □ビジネスライティング □翻訳

□通訳 □作文 □文学史 □映像メディアの日本語 □日常会話 □スピーチ 

□発音 □パブリックスピーキング □漢字学 □観光・ホテル日本語 

□その他(         )

⑨授業の中に取り入れたほうがよい科目

□日本事情(文化社会)□日本研究 □ビジネス会話 □ビジネスライティング □翻訳

□通訳 □作文 □文学史 □映像メディアの日本語 □日常会話 □スピーチ 

□発音 □パブリックスピーキング □漢字学 □観光・ホテル日本語 

□その他(         )

【その他,ご意見等ございましたらご記入ください】

参照

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