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(1)

統計が語るインドの「凶悪犯罪」 (特集 新興途上 国地域における治安問題 ‑‑ 日常的な治安に関する 研究の可能性)

著者 太田 仁志

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 アジ研ワールド・トレンド

巻 261

ページ 20‑24

発行年 2017‑06

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://doi.org/10.20561/00049210

(2)

特 集 新興途上国地域における治安問題

―日常的な治安に関する研究の可能性―

Report)を作成する。つまり犯罪統計は、このFIRに 基づいている。したがって当局が把握・登録していな い犯罪は集計されておらず、本白書が提示するインド の犯罪・治安状況、とくに被害者が警察への届け出を ためらう傾向があると考えられる犯罪(たとえば性犯 罪など)は、実態よりも過小となる。通報内容や警察 による分類如何によっても、犯罪別の登録件数が影響 を受ける点に留意する必要がある。なお、2015年に登 録された裁判権内の犯罪(以下、単に「犯罪」とする)

件数は732万6099件で、うちインド刑法犯罪が40.3%

の294万9400件、特別法・地域法犯罪が59.7%の437万 6699件であった。

白書ではインド刑法犯罪について、以下のものを凶 悪犯罪に分類し、それらをさらに、⑴身体への危害、

⑵財産への危害、⑶公衆安全への危害、そして⑷女性 への危害、の4つに分ける。⑴身体への危害は、(殺意 あ る ) 殺 人(Murder)、 殺 人 未 遂(Attempt to commit murder)、過失殺人(Culpable homicide not amounting to murder)、過失殺人未遂、結婚持参金(ダ ウリー)死(Dowry death)、誘拐(Kidnapping and abduction)を指す。⑵財産への危害は、(武装集団に よる)強奪(Dacocity)、強奪企ての集会・準備、そ して強盗である。また⑶公衆安全への危害は、暴動・

騒擾(Riots)と放火を、⑷女性への危害は、強姦お よび強姦未遂を指す。

2015年の凶悪犯罪の登録件数は計33万5901件で、前 年比1.6%増であった。州別で凶悪犯罪の発生率が最 も高いのはデリーで、97.4件である。次いでアッサム 州の47.1件、アルナーチャル・プラデーシュ州の39.9 件、ハリヤーナー州の37.5件となっている。件数自体 は、州人口が最大のウッタル・プラデーシュ州が4万 613件と最も多い(2015年では全体の12.1%)。次いで マハーラーシュトラ州の3万2790件(同11.1%)、ビハー インドの治安は悪いのだろうか。インドは人口が多

いため、人口10万人あたりの犯罪件数を表す犯罪発生 率が低い場合でも、犯罪件数自体は多くなる。治安の 良し悪しは「体感」にも関わるため、統計が示す以上 に治安の悪さを感じることもあれば、その反対の場合 もある。社会的マイノリティや特定の社会集団を標的 にした犯罪の増加は、そこに属さない人たちにとって、

治安の悪化と認識されない可能性がある。小稿では治 安認識に大きく関連すると考えられる「凶悪犯罪」

(Violent Crimes)について、インド内務省全国犯罪 記録局(National Crime Records Bureau, Ministry of Home Affairs)がまとめる『インドにおける犯罪 2015 年版』(参考文献②、以下白書とする)から、統計が 示すその動態と内実を探る。小稿は参考文献①をベー スにしており、併せて参照されたい。

●インドの犯罪分類と「凶悪犯罪」

白書では犯罪を次のように分類する。インドの刑事 訴訟法(Criminal Procedure Code: Cr.P.C.)は、すべ ての犯罪を「裁判権内の犯罪」(Cognizable Crimes)

と「非裁判権内の犯罪」(Non-Cognizable Crimes)に 分ける。裁判権内の犯罪とは、裁判所の許可なく犯罪 の捜査、逮捕を警察が行うことのできる犯罪である(非 裁判権内の犯罪はそうでないもの)。裁判権内の犯罪 は1860年インド刑法(India Penal Code: IPC、以下イ ンド刑法とする)の規定による犯罪と、「特別法・地 域法」(Special and Local Laws: SLL)の規定による ものに大別される。また、インド刑法犯罪について、

刑事訴訟法の第1別表で裁判権内の犯罪と非裁判権内 の犯罪を区分している。白書で集計されているのは、

前者の裁判権内の犯罪について、通報によって警察が 登録しているものである。警察は事件等の通報がなさ れると、それに基づき調書=FIR(First Information

太 田 仁 志

統計が語るインドの「凶悪犯罪」

(3)

性犠牲者が2万4254人と73.3%を占める。ただし、11 歳以下子どもの犠牲者の男女比の差はさほど大きくな い。他方18歳以上は、犠牲者に占める男性の比率が7 割を超える。また州別では、人口最大州のウッタル・

プラデーシュ州での殺人犠牲者数が最も多く4860人、

次いでビハール州の3183人、マハーラーシュトラ州の 2599人、マディヤ・プラデーシュ州の2381人、そして 西ベンガル州の2133人となっている。首都デリーでの 2015年の殺人犠牲者は598人であった。

殺人の動機は、白書では半数弱の48.2%がその他に 分類されるものの、 個人的復讐・ 対立が最も多く 14.8%、次いで財産をめぐる争いが11.0%を占める。

また利害にかかわるもの(Gain)が7.5%で、男女関 係に関するものと推察される不倫・性的動機を理由と する殺人が4.9%、恋愛関連が4.3%と続く。結婚持参 金死も3.8%で、これらに次いで多い殺人動機である。

殺人事件の5割近くの動機が分類されていないものの、

結婚持参金を含めて広く男女関係に関連するものが1 割強を占めている。被害者が男性である可能性はある が、女性にとっての治安はこの点からみても悪いとい えそうである。

●インドではなぜ「誘拐」が頻発しているのか 2015年の凶悪犯罪で登録が最も多いのが誘拐で(件 数8万2999件)、インドは世界最大の誘拐発生国でもあ る。インド刑法犯罪に誘拐が占める割合は、2011年の 1.9%から2015年の2.8%と増加しており、誘拐登録件 ル州の3万5754件(同10.6%)、 西ベンガル州の2万

9461件(同8.8%)となっている。凶悪犯罪は身体へ の危害が最も多く、凶悪犯罪全体の53.1%を占める。

次いで公衆安全への危害が22.3%、財産への危害が 12.9%、女性への危害が11.6%である。

登録された凶悪犯罪で最も多いのが誘拐の8万2999 件、次いで暴動・騒擾が6万5255件、(過失殺人を除く)

殺人未遂が4万6471件、強盗が3万6188件、強姦が3万 4651件である。殺人および過失殺人の合計としての殺 人件数は3万5303件であった。前者の殺人件数は3万 2127件で、これは1日に88.0件、1時間に3.7件、そして 16分22秒に1件の殺人事件が発生している計算である。

また、人口10万人あたりでみる発生率では、誘拐が最 も高く6.6件、次いで強姦が5.7件、暴動・騒擾が5.2件 となっている。図1は過去20年にさかのぼって統計を 取ることのできる凶悪犯罪の登録件数の推移である。

近年とくに伸びが大きいのが誘拐で、殺人未遂、強盗、

強姦の増加も顕著である。

一方、凶悪犯罪に関する2015年の有罪判決率はわず か26.7%に過ぎない。犯罪別では過失殺人が39.6%、

殺人が39.5%、結婚持参金死が34.7%、そして強盗が 31.6%と、3割を超えるのはこれらのみである。殺人 事件の有罪判決が4割に満たないのは、治安状況の認 知に大きく影響を与えると思われる。強奪企ての集 会・準備、放火、暴動・騒擾、そして強姦未遂の有罪 判決率は2割に満たない。

このようにインドの凶悪犯罪としてとくに顕著なの が、誘拐、暴動・騒擾、

殺人(および殺人未遂)、

強盗、 そして強姦であ る。以下では(殺意ある)

殺人、 誘拐、 女性に対 する犯罪を順にみてい く(暴動・ 騒擾につい ては参考文献①を参照)。

●(殺意ある)殺人 白書では殺人を「(殺 意ある) 殺人」 と「過 失殺人」 に分ける。 前 者の殺人の2015年の犠 牲者は3万3082人で、男

100,000 90,000 80,000 70,000 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

殺人 殺人未遂 過失殺人 強姦 誘拐

武装集団による強奪 強奪企ての集会・準備 強盗

暴動・騒擾 放火

殺人 強盗

強姦 殺人未遂

誘拐

暴動・騒擾

(出所) 参考文献②より筆者作成。

図1 インドの凶悪犯罪件数の推移

(4)

同18.7%、12~15歳は同13.5%と、

これらを合わせると6割を上回る

(60.8%)。つまりインドの誘拐の6 割は、女性の12~29歳の誘拐であ る。なぜこの年齢層の女性の誘拐 が多いのだろうか。

理由は同表下段をみれば一目瞭 然である。結婚のための誘拐が女 性誘拐の理由の52.6%を占めてい る。誘拐理由「その他」が男性の 85.6%、女性の40.4%、全体でも過 半数の52.8%を占めるなかで、女性 についてはその他を上回る比率を

「 結 婚 」 が 占 め、 ま た 全 体 で も 37.8%を占める。インドで誘拐が多 いのは、結婚目的での女性の誘拐 の多発が一因である。実際、女性 の年齢層別の誘拐理由で結婚目的 が 占 め る 比 率 は、18 ~ 29歳 で は 67.5%と3分の2以上を、また16~17 歳では48.4%、12~15歳では37.0%

を占める。12歳未満の女児の誘拐 理由でも結婚は6~11歳で19.0%、6歳未満では31.4%

を占める。他方、30~44歳では50.9%、45~59歳では 24.9%が結婚理由の誘拐であった。

ここで、30歳代以降でも結婚を理由とする女性誘拐 が多いことに、状況理解の手掛かりがあると思われる。

すなわち、この背景には次のような理由もあるようで ある。都市部では若い人たちの恋愛結婚が増えてきた といわれるが、インド、とくに地方や郡部では親・親 族のアレンジによる婚姻が主流である。恋愛結婚の場 合でも家族、とりわけ親の承認はいまも一般には不可 欠といえる。親等に承認されず、それでも結婚を望む 場合、彼らはどうするか。日本でいう、駆け落ちであ る。そこでその女性の親族は警察に、相手の男性が女 性を連れ去ったと通報する。警察としては仮に事情を 察したとしても、通報に基づき捜査を行う。つまり調 書=FIRでは、女性の誘拐事件ということになる。こ れはインド日刊紙

The Hindu

掲載記事 “Why the FIR doesn’t tell you the whole story”(2015年12月22日付)

が示唆するところであるが、このようなケースが全体 でどの程度の比率を占めるか不明であるものの、これ 数は2005~2015年の間、263.5%もの増加となってい

る。州別では、最も多いのが人口最大州のウッタル・

プラデーシュ州で1万1999件(全体の14.5%)、次いで マハーラーシュトラ州の8255件(同9.9%)、デリーの 7730件(同9.3%)、ビハール州の7128件(同8.6%)の 順となっている。誘拐発生率が最も高いのはデリーで 37.0件、次いでアッサム州の18.1件、アルナーチャル・

プラデーシュ州の13.4件、チャンディーガルの13.2件 となっている。面積が小さいにもかかわらず、デリー の誘拐登録はきわめて顕著である。

表1は2015年の被誘拐者を性別および年齢層別にま とめている(表上段)。計8万4483人の被害者のうち、

インドではその7割強(71.8%)が女性の誘拐である。

年齢層の括りが均等ではないが、女性の誘拐について、

18~29歳の誘拐が女性被害者の4割を占め、次いで16

~17歳が26.0%、12~15歳が18.8%と、16~29歳が計 65.9%、12~29歳が計84.6%となっている。男性と比 べると女性被害者の年齢分布の偏りが際立つ(男性は 16~29歳が42.8%、12~29歳が66.6%)。女性の18~29 歳の被害者は全体でみても28.6%を占め、16~17歳も 表1 被誘拐者の年齢構成と誘拐の目的(2015年)

年齢 年齢構成 男性 女性 全体

被誘拐者数 比率 被誘拐者数 比率 被誘拐者数 比率

6歳未満 1061人 4.5% 1102人 1.8% 2163人 2.6%

6 ~11歳 2506人 10.5% 2052人 3.4% 4558人 5.4%

12~15歳 5674人 23.8% 1万1373人 18.8% 1万7047人 20.2%

16~17歳 3433人 14.4% 1万5792人 26.0% 1万9225人 22.8%

18~29歳 6764人 28.4% 2万4159人 39.8% 3万0923人 36.6%

30~44歳 3561人 14.9% 5578人 9.2% 9139人 10.8%

45~59歳 730人 3.1% 579人 1.0% 1309人 1.5%

60歳以上 99人 0.4% 20人 0.0% 119人 0.1%

2万3828人 100.0% 6万655人 100.0% 8万4483人 100.0%

誘拐の目的 被誘拐者数に占める割合 全誘拐件数に

占める割合

男性 女性 全体

養子目的 1.4% 0.6% 0.8% 0.8%

物乞いをさせるため 0.1% 0.0% 0.1% 0.0%

性的目的 0.2% 5.4% 4.0% 4.0%

結婚のため 0.2% 52.6% 37.8% 38.3%

売春をさせるため 0.2% 0.2% 0.2% 0.2%

身代金目的 3.0% 0.2% 1.0% 0.9%

復讐のため 1.4% 0.2% 0.5% 0.5%

人身売買を目的として 0.1% 0.0% 0.0% 0.0%

臓器等身体の売買目的 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%

奴隷として 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%

(その他の)不法行為目的 3.4% 0.7% 1.4% 1.4%

殺人 4.5% 0.2% 1.4% 1.4%

その他 85.6% 40.0% 52.8% 52.2%

100.0% 100.0% 100.0% 100.0%

合計人数/件数 2万3828人 6万655人 8万4483人 8万2999件

(出所) 参考文献③より筆者作成。

(5)

る。次いで女性の品位を侵害する暴行・行為が25.2%、

女性の誘拐が18.1%、そして強姦が10.6%である。女 性に対する犯罪は対前年では減少しているが、対2011 年では全体で43.2%の増加となっている。その伸びが とくに大きいのが2013年以降で、2012年末のデリーで の集団強姦事件を反映させた報告件数の増加と考えら れる。

警察が受理した女性に対する犯罪は、2015年は計31 万4078件で、うち送致件数は24万5341件、送致率は 89.4%であった。2015年末現在、15万7249件が未捜査 もしくはさらなる捜査待ちとなっている。他方、2015 年に裁判所での審理が行われたのは、12万8240件で あった。うち有罪判決はわずか2万7844件で、有罪判 決率は21.7%にとどまっている。2015年末現在、11万 件近くが裁判所で審議・係争中もしくは裁判待ちの状 況である。

強姦は2015年には3万4651件が登録されている。うち、

知り合い・顔見知りによる犯行が95.5%というきわめ て高い比率を占める。また近親相姦は556件で、その 54.5%が18歳未満の子どもに対するものであった。州別 では、強姦の登録件数はマディヤ・プラデーシュ州が 4391件と最も多く、全体の12.7%を占める。次いでマハー ラーシュトラ州(4144件、全体の11.9%)、ラージャスター ン州(順に3644件、10.5%)、ウッタル・プラデーシュ 州(同3025件、8.7%)、オディシャ州(同2251件、6.5%)

がインドで結婚を理由とする女性の誘拐の多い一つの 背景、そしてインドで誘拐事件としての登録が多い理 由の一つと考えられる。旧来の社会慣行が犯罪の発生、

そして犯罪件数に影響を与えている。

なお、2015年12月31日現在、未解決の誘拐事件は計 7万5453件、未発見の被誘拐者数は7万7496人となって いる。未発見被誘拐者は全体の56.1%を占める(性別 では被誘拐男性の57.6%、同女性の55.6%が未発見)。

一方、発見された被誘拐者の遺体での発見率は全被誘 拐者の0.6%であった(男性は1.0%、女性は0.5%)。

●統計でみる女性に対する犯罪

インドの治安問題が世界的に注目されているのは、

インドは女性にとって安全な国ではないという認識が あるからである。2012年末の首都デリーで発生した集 団強姦事件(被害女性はのちに死亡)の衝撃は大きい。

デリーはときに“Rape Capital”などと不名誉な呼ばれ 方をされる。

表2は女性に対する犯罪登録件数をまとめたもので ある(白書および表2の犯罪分類は参考文献①を参照)。

2015年の女性に対する犯罪登録は計32万7391件で、発 生率は53.9件であった。前年からいずれも減少してい るが、それでも1日あたり900件近くの女性に対する犯 罪を警察が登録していることになる。そのうち最も多 いのが夫またはその親族による虐待で、34.6%を占め

統計が語るインドの「凶悪犯罪」

表2 女性に対する犯罪登録件数の推移(件)

2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 各犯罪の

比率 2015年の伸び率 対前年 対2011年

強姦 24,206 24,923 33,707 36,735 34,651 10.6% -5.7% 43.2%

強姦未遂 4,232 4,434 1.4% 4.8%

女性の誘拐 35,565 38,262 51,881 57,311 59,277 18.1% 3.4% 66.7%

結婚持参金死 8,618 8,233 8,083 8,455 7,634 2.3% -9.7% -11.4%

女性の品位を侵害する暴行・行為 42,968 45,351 70,739 82,235 82,422 25.2% 0.2% 91.8%

女性の品位に対する侮辱 8,570 9,173 12,589 9,735 8,685 2.7% -10.8% 1.3%

夫またはその親族による虐待 99,135 106,527 118,866 122,877 113,403 34.6% -7.7% 14.4%

外国からの(21歳までの)女子の輸入 80 59 31 13 6 0.0% -53.8% -92.5%

女性の自殺教唆 3,734 4,060 1.2% 8.7%

インド刑法犯罪件数 計 219,142 232,528 295,896 325,327 314,572 96.1% -3.3% 43.5%

寡婦殉死防止委員会法 0 0 0 0 0 0.0% 0.0% 0.0%

女性の猥褻な描写(禁止)法 453 141 362 47 40 0.0% -14.9% -91.2%

結婚持参金禁止法 6,619 9,038 10,709 10,050 9,894 3.0% -1.6% 49.5%

家庭内暴力からの女性保護法 426 461 0.1% 8.2%

売春(防止)法 2,436 2,563 2,579 2,070 2,424 0.7% 17.1% -0.5%

特別法・地域法犯罪件数 計 9,508 11,742 13,650 12,593 12,819 3.9% 1.8% 34.8%

計 (IPC+SLL) 228,650 244,270 309,546 337,920 327,391 100.0% -3.1% 43.2%

(注)1)2015年のインド刑法犯罪件数計、および2014年の全体の合計犯罪件数は、個別犯罪の数値の合計を筆者が算出し、元表の数値を修正したものである。

本文と異なることに注意。

2)「各犯罪の比率」は2015年に関するもの。

(出所)参考文献②より筆者作成。

(6)

際には、両者を意識する必要がある。

●おわりに

小稿では公刊統計からインドの凶悪犯罪の状況把握 を試みた。とくに誘拐と女性に対する犯罪では、イン ドでは旧来の社会慣行が統計に表れる犯罪件数に影響 を与えることがある。警察への通報に基づき作成され るFIR、「容疑としての犯罪」が集計のベースとなっ ていることも、インドの犯罪統計をみる際に注意が必 要である。不要な警戒心をあおる必要はないが、それ でもインドは人口規模が大きいため犯罪発生件数が多 く、インドは「治安が良い」とするのは難しいように 思われる。

小稿では有罪判決率の低さも確認した。その一因に、

本来犯罪とはならないであろうものまで、少なくとも 容疑にせしめてしまうような状況があることはみたと おりだが、検挙率、そして有罪判決率の向上が治安改 善には不可欠である。

(おおた ひとし/アジア経済研究所 南アジア研究 グループ)

《注》

⑴ 白書での発生率は、当該犯罪の対象となる母集団 を分母として算出している。たとえば、女性に対 する犯罪の発生率は女性人口10万人あたりの犯罪 登録件数である。

⑵ “Why the FIR doesn’t tell you the whole story”

(2015年12月22日付記事、2015年12月23日閲覧)お よび “The many shades of rape cases in Delhi”

(2014年7月29日付記事/2015年6月15日更新、2017 年3月9日最終確認)を参照。

≪参考文献≫

① 太田仁志「インドの治安状況の検討」『新興途上国 地域の治安問題に関する基礎理論研究会』調査研 究報告書、アジア経済研究所、2017年。

② Government of India,

Crime in India 2015:

Compendium

, National Crime Records Bureau, Ministry of Home Affairs, 2016.

③ ―,

Crime in India 2015: Statistics

, National Crime Records Bureau, Ministry of Home Affairs, 2016.

と続く。デリーでの強姦登録件数は2199件で、件数は オディシャ州に次ぐ多さだが、女性人口10万人あたり の発生率は23.7件と、インド全体でみた発生率5.7件を 大きく上回る。州別にみて発生率が20件を超えるのは デリーのみである。女性にとってデリーの治安状況が きわめて悪いことが改めて確認できる。

ただし、女性に対する犯罪、とくに強姦に関する統 計には注意が必要である。先に女性の誘拐件数の多さ についてその背景を指摘したが、日刊紙

The Hindu

が 2013年にデリーの6つの地方裁判所で起訴された強姦 訴訟の動向・内容を分析したところ、次の点が明らか になった。全583件の強姦訴訟のうち、2割強の123 件では原告がみつからなかった、被害者が裁判の出廷 をやめた、被害者が裁判で訴訟内容を否定した等で、

被疑者は無罪判決であった。もちろん、これらのなか には被疑者等からの被害女性への訴訟取り下げの圧力 があったものがあるなどの可能性も否定できない。他 方、お金欲しさに女性が嘘の訴えを起こしていたケー スも1件あった。また、3割近くの174件が実際あるい は元「駆け落ち」である。さらに2割近くの109件の訴 訟では男女間に婚姻約束が事前になされていた。結婚 を前提に同意のうえで性的関係を持ち、しかし破局し たために女性または女性の親族等が男性を強姦で訴え た訴訟である。男性が性的搾取を目的に婚姻約束を 偽ったケースもあるだろうが、それを除けばこれらは

「強姦」として当局に通報された「容疑としての強姦」

であり、一般に考えられている「強姦」とは異なる。

一般に考えられている「強姦」は583件のうちの162件 で、その比率は全体の3割を下回る27.8%である。と くに、未成年の女性が駆け落ちした場合、彼女の親族 は相手の男性を誘拐と強姦で当局に通報することが多 いという。女性が法廷で、男性と実際に恋愛関係にあ ると証言すればもちろん男性は無罪だが、女性が警察 当局に保護された後、親族に引き取られて過ごすうち に、親族からの圧力に屈して、結果、(加害者に仕立 て上げられた)男性が有罪となるケースもあるようで ある。

上記は強姦に関する統計が必ずしも実態を表してい ないことを示唆している。また有罪判決率の低さも、

部分的には説明する。それでも実際の犯罪は間違いな く生じており、女性にとって治安が良くない状況がイ ンドに存在する。女性に対する犯罪を統計で確認する

参照

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貧困指数 (すぐに役立つ開発指標の話 第5回)、階 層社会ブラジルでのフィールド・ワーク (フィール