• 検索結果がありません。

J. Jpn. Inst. Light Met. 63(9): (2013)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "J. Jpn. Inst. Light Met. 63(9): (2013)"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

解説:軽金属学会賞

軽金属 第63巻 第9号(2013),318–328

Al–Mg–Si系合金の時効析出研究を振り返って

池野 進

*

Journal of The Japan Institute of Light Metals, Vol. 63, No. 9(2013), 318–328 © 2013 The Japan Institute of Light Metals

My story about research for precipitation sequence in Al–Mg–Si alloys

Susumu IKENO

*

1.は じ め に

アルミニウムと出会ったと明瞭に覚えているのは,父の勤 務先であった富山県高岡市の北陸軽金属㈱の鋳造工場であっ た。そのときは砂型に鋳造していた釜がアルミニウムででき ていることをそれほど強く自覚していたわけではない。強烈 な思いは幼稚園のころに焼きつけられた。父の恩師である森 永卓一先生のご自宅に遊びに行ったときに,出会ったご息女 がジュラルミンから由来して寿良と名付けられていたことで ある。このとき以来,私の中ではアルミニウムよりジュラル ミンの方が現実的な言葉となった。 今でも不思議に思うのは,森永先生が満州から引き揚げて こられて拓かれた富山大学工学部金属工学科非鉄材料講座に 学生時代に在籍し,大阪から戻って当講座の教授となったと いう廻り合わせである。幼少のころから,父のアルミニウム の製造と研究に馴染んできたために,富山に戻ってきたとき にはアルミニウムを研究対象とすることが当然となってい た。 富山県はアルミニウム産業の拠点であることから大学に寄 せられる期待も大きかったので,さまざまなテーマを対象と して研究を行ったが,本稿では解説に主体を置くのでそれら の中で 6000 系アルミニウム合金の時効過程を取り上げて以 下に述べる。 Al–Mg–Si 系合金は,時効硬化型アルミニウム合金中では 中程度の強度を持ち,耐食性と加工性に優れていることか ら,最も多用されている実用材である。使用分野として, サッシ材がよく知られており,ビルの外装,ドア等に使われ ている。6000系合金ではアルミニウム98.5%という高い純度 が JISで定められており,この純度は驚くべきことに,工業 用純アルミニウム(2S)の98.7%と同程度の高さである。成 分からだけでは純アルミニウムと言ってよく,当然のことな がら純アルミニウムに近い耐食性,加工性が存在する。一方 で,時効処理で強度が純アルミニウムでは到底得られないほ どの高強度となるのであるから,実用が一気に進んだ理由が よくわかる。この合金の特性のよさがかえって仇となり,本 質的な研究なくしてもっぱら現場的に都合のよい応用面に興 味が集中したのであろう。約 35 年前に富山に赴任し,6000 系のアルミニウム合金を研究しようとしたときに,基礎的特 性の解明がほとんどなされていないのに驚いたが,今にして 思うと現場的には当時はまったく困っていなかったことに思 い至る。 ほぼ 20 年前に,カナダやアメリカでアルミニウムを自動 車ボディ用に使用し,軽量化を図ろうという研究が盛んに なった。そのときに注目されたのが,当然,加工性に優れた 6000 系合金である。ここに至って初めて,6000 系合金にお ける時効析出過程の本質的な基礎研究が開始されたと言って もよいであろう。6000 系合金の時効過程が機構の解明に遅 れた理由の一つは,その構成元素にあった。すなわち,Al とMgとSiは原子番号が並んでおり,ほとんど同じ質量とい う偶然が思いもかけない障害を与えているのである。材料開 発では,対象とする素材の結晶構造を知ることがあらゆる特 性解明の基礎となる。結晶構造解析の最も有力な手段はX線 および電子線回折であるが,原子番号が隣接するということ は回折現象がほぼ重複するという致命的な欠陥を持つことを 意味する。したがって,6000 系合金の構造解析が困難であ るというとんでもない特性を持っているのである。したがっ て,30 年以前では,6000 系合金の時効析出過程はほとんど 未知であり,Al–Cu系合金のジュラルミンと同様の過程が生 じていると簡単に信じられており,それ以上の研究はなされ ていなかった。 本研究の先駆者は富山工業高等専門学校の前 健彦名誉教 授であり,構成元素の SiおよびMgの含有量を変えることで 強度が大きく変わることを見出しておられた。そこで,Si量 だけを増加させて過剰Siとした合金,Mgのみを増加させた 過剰 Mg 型合金の添加量を整理してその時効挙動を調べた。 過剰 Si 型合金は強度が高く,押出抵抗が小さいことから将 来有望な合金と判断し,なおかつもともと構成元素に含まれ ていることからアルマイト処理で色変わりの心配が少ないと 推察して,過剰 Si 型合金に焦点を絞った。過剰 Si 合金で大 きな問題となっていたのは,添加量とともに増大する粒界破 *富山大学名誉教授,北陸職業能力開発大学校校長(〒937–0856 富山県魚津市川縁 1289–1)。Professor Emeritus of University of Toyama,

Hokuriku Polytechnic College(1289–1, Kawabuchi, Uozu-shi, Toyama, 937–0856). E-mail: [email protected] 受付日:平成25年7月17日  受理日:平成25年8月8日

(2)

断現象の発露であった。 そこで,Si添加量による粒界破断の整理を行い,Mn添加 により,結晶粒の微細化を図って延性の改良に成功するとと もに,粒界破断が Mn添加による分散物の影響で改良される のではなく,単純な結晶粒の微細化効果であり,臨界結晶粒 の大きさがあることを明らかにした1),2)。Cr や Zr ではなく Mnを結晶粒微細化元素として選んだのは,Mnを微量添加し たぐらいではアルマイトの色変わりが起こらないという現場 の報告に根拠をおいていた。自分としては,現場に最も役立 つと思って選んだ研究であった。 ときあたかも,ようやく高分解能透過電子顕微鏡を手に入 れたエポックとタイミングがあったのである。天の配剤か, そのとき,若い学生であった松田健二教授を配下に得たとき でもあった。以下に述べるのは,広範囲にわたる一連の研究 のうち,基礎的部分を構成する,6000 系合金の時効析出過 程を高分解能透過電子顕微鏡で明らかとした研究の概要であ る。 本解説を参考とし,アルミニウムの本格的な構造材料への 展開を大学および産業界の研究者達が発展させることを祈っ ている。

2.Al–Mg–Si系合金の時効析出

2. 1 6000系アルミニウム合金 6000 系合金は文字通り Al–Mg–Si 三元系合金であり,図1 に示したように Mg/Si 比が 2 の Mg2Si のラインコンパウンド を有する。図中に太破線でMg2Si組成を示したが,この破線 より上は過剰 Mg 領域,下は過剰 Si 領域として分類される。 この三元状態図からわかるように,左下隅に存在するα- 固 溶体,そしてその他存在しうるのは平衡相のMg2SiとSiであ る。基本的に平衡状態図はこのように単純なものであるが, 実際には,種々の準安定状態が存在し,この平衡状態図通り に析出過程が進行しないのが問題である。この研究を始めて 驚き続けているのは,平衡状態に至る前の準安定状態で出現 する析出物の種類の多さであり,時には平衡相の組成でさえ 一定ではないのではないかと疑わされる現状である。 複雑怪奇な本系合金の析出過程を理解するには,まずこの 平衡状態図を理解し,頭に入れて常に思い浮かべることが必 要である。図2は展伸材としての実用6000系合金の種類であ り,ほとんどの合金がMg2Si擬二元のラインをたどるものと 過剰 Si側に位置するものに分かれている。すでに述べたが, 本系合金の多くは熱間加工で製造されており,熱間加工性に 有利な過剰 Si 合金が好まれているのであろう。ただし,過 剰Si量が多いように見える合金種でもFe, Mn, Cr等の添加元 素により結晶粒の微細化を図るときに,それらの元素が主に Si 原子を化合物として取り込むために相対的に母相中の Si 量が減少する。したがって時効析出する量の減少に対応する ために,Siを余分に添加せざるを得ないという結果があるこ とを忘れてはならない。ただし,強度の若干の上昇は好まし いものであることから,最近は実質的に過剰 Si に調整して いる合金も増えているようである。また過剰 Mg側では過剰 Si側よりも延性に優れ,安定した特性を持つが,押出抵抗が 大きいために,本格的な実用化はなされていないことも指摘 しておく。6000 系アルミニウム合金の時効析出過程は基本 的に G. P.ゾーン→中間相β″→中間相β′→平衡相β とされている。しかし,1990 年代までの結果は主に,電気 比抵抗,比熱測定,X 線回折,通常の TEM 観察等によって いる3)∼14)。したがって,ナノオーダの析出相の解析は間接 的な測定結果から推定されているだけで,直接観察によって 析出物の構造解析を行って事実を裏づけたものではない。 Al–Cu 系や Al–Zn–Mg 系合金では,Al と原子番号が遠く離れ た ZnやCuといった重元素があるために,X線回折結果が明 瞭であり,電気比抵抗や比熱の結果を裏づけ可能であっ た15),16)が,Al–Mg–Si系合金にはそのような利点はなかった。 したがって,上記の基本的な析出過程はあくまでAl–Cu系合 金を手本としているに過ぎず,その過程が正しいかどうかお よび相変態の詳細がどうなっているかは予測の域を出ていな かった。以下に,我々が高分解能透過電子顕微鏡を用いて明 瞭にした結果の概略を示す。 我々が使用した合金成分を図3の状態図中に示した。バラ ンス組成の合金を基準として,それに過剰Siおよび過剰Mg 側の合金を作製して使用した。先ほどの実用展伸用 6000 系 合金と違い,仕込み組成が過剰 Si 側になっているのではな く,Fe 等の含有量が 0.01% 未満の 99.99%Al インゴットを用 図1 Al–Mg–Si三元系合金の平衡状態図 図2  展伸材としての代表的な実用6000系アルミニウム合金の種類とその化学組成の範囲

(3)

いて試料作製を行い,名実ともに過剰 Si 成分となっている 合金を作製している。実用的には使用されていない過剰 Mg 側の合金も作製した。図中の各点にはそれぞれの化学組成を Mg2Si 濃度(mass%,以後濃度は % のみで表記)として示し ており,過剰 Si および過剰 Mg 組成の合金には,それぞれ Mg2Si と過剰の Si あるいは Mg の濃度を示している。すでに 述べたが,アルミニウム合金の実用では,耐食性を増すとと もに着色して製品化することが不可欠であり,異種元素を添 加すれば,着色の色合いあるいは色むらといった問題を引き 起こす。これは現場的には非常に重要であり,しばしばク レームを引き起こす元となる。したがって,成分を変えず添 加量のみを変えて機械的性質を向上できれば,実用的で大変 有利となると考えられる。現在は使われていないが過剰 Mg 側でも顕著な強度上昇があり,何よりも伸びが大きいという 利点がある以上,過剰 Mg 側の成分も重要であると考えた。 さらに学術的興味も大きく,6000 系合金の時効過程を理解 する上で,重要な合金であると予測した。もし我々の一連の 研究結果を見て,過剰 Mg側の合金の実用化ができれば,望 みうる最高の結果である。 2. 2 バランス組成の合金 Mg と Si の割合が化学両論組成にある合金を,ここではバ ランス組成の合金と呼ぶ。図4の硬さの変化曲線から,1.6% とMg2Si濃度の高い合金では,時効初期から硬さの大きな上 昇が認められ,非常に早い段階から何らかの析出が起こって いると推測される。図5の電気比抵抗を見ると,時効初期に 抵抗の上昇が認められ,いわゆる G. P. ゾーンの生成がある と予測され17),硬さの初期の上昇が G. P. ゾーンの生成によ るのではないかと考えた。そこで,透過電子顕微鏡観察を 行ったが,通常の倍率では析出物が観察できなかった。しか し電子回折図形にはストリークが認められ,ストリークに垂 直方向に生成したG. P.ゾーンがあるものと推測した。 以上のように,間接的には本合金に G. P. ゾーンが存在す るという強い示唆があったので,HRTEM観察を行った。し かし本系合金の時効初期における析出物の観察で難しいのは 観察領域がナノオーダであることから全体像が捕らえにくい ことと,回折コントラストがつきにくいという根本的な特性 があることである。このような研究では克服しなければなら ない重要な技術的課題である。以下にその結果を記述してい くが,この部分の研究は当時研究室に所属した大学院生に負 うところが大きい。 図6は時効初期に見られる母相中の変化をコントラストの 差違から見出した歴史的な組織写真である17)。(a)の矢印の 間に明るい輝点と暗い輝点が交互に並んだ配列が見られる。 このように明るい原子列と暗い原子列を交互に見出したこと は,いわゆるG. P.ゾーンの特性とよく合致した結果である。 すなわち,G. P.ゾーンの基本特性は母相と異なる結晶構造を 持つのではなく,母相を構成する原子の位置に異種原子が置 換して寄り集まり,ぼやけた領域を形成することであり,母 相の基本格子を変えることなく,析出もしくは分解反応が生 じることである。この写真は母相の格子を変えることなく, 異種原子が集まったため,回折強度が変化し,ある種のゾー ンを形成したことを示している。ただし,ゾーンという言葉 からイメージされるぼやけた領域というのではなく,かなり 明瞭な境界が存在するように推測される。この結果は,Al– Cu 系合金に見られる G. P. ゾーンに類似している。そこでは アルミニウム母相中に銅原子が一列に配列した構造がX線測 定結果から推測され,高分解能透過電子顕微鏡の結果からも 立証されている18)。6000 系合金でも異種原子が一列に配列 図3  実験に使用した6000系アルミニウム合金の化学組 成。各点は分析値に合せてプロットしている 図4  473 K で時効した Mg2Si 濃度の異なる Al–Mg–Si 系 合金の硬さ変化曲線19) 図5  373 および 423 K で時効した Al–1.6mass%Mg2Si 合 金の電気比抵抗変化曲線17)

(4)

した構造が発見されたので,初めて G. P. ゾーンの存在が直 接に立証されたのである。このように母相の結晶格子上に 載った形で回折パターンのストリークと直角方向に異種原子 が配列することは,ストリークの発生因を素直に説明するも のでもある。ここで我々が提案した G. P. ゾーンは形の上で はAl–Cu系と類似しているが,内容が異なる。わかりやすい ように図7に示したように,原子列一層内に MgとSi原子が 交互に配列したものである。この結果は透過電子顕微鏡が, 薄片試料を透過するという特性を考えた結果であり,異種原 子1個が存在する程度では,強烈な回折斑点の明るさを変え ることが困難である。すなわち,1個の斑点が生じるために はその背後に大量の原子がなくてはならないということか ら,一列に並んだ原子という概念を引き出したのである。明 るい斑点と暗い斑点が交互に並ぶのであるから,この場合は Mg 原子の列と Si 原子の列が並んでいると仮定し,コン ピュータシミュレーションを行った。ここではその詳細は省 くが,おおむね予測とシミュレーション結果はよい一致を示 した。透過電子顕微鏡からこのような構造を決定することに は,まださまざまな問題が存在している。しかし,世界的に 発展してきた高分解能 TEM の実績から,解析結果がほぼ間 違いないと受け入れられている。 この結果の大きな仮定は,G. P. ゾーンの組成が Mg1 個に Si1 個が交互に配列することであり,G. P. ゾーンが Mg : Si=1 という成分であることである。合金の仕込み組成がMg2Si組 成であることから,初期には Si が多く,平衡状態に近づく につれてMgが増加することになる。 ここまで見てきたように,G. P.ゾーンの生成は一列の原子 であり,図 6 の(b)に見るとおり,G. P. ゾーンの列が増え ていることで,その体積を増すというわかりやすい結果で あった。しかし,G. P.ゾーンが成長するに従い,その部分が 領域を広げていき,図8(a)に見られるように,ついには斑 点に規則性が見られなくなるという結果に非常に困惑した。 このとき,前述の大学院生が析出物の厚さ方向を見るという 至難の技術に挑戦した。図8(b)に見られるように,見事な 映像を映し出したが,その結果の解析も見事であった。彼は 単に母相と異なる明るさの斑点が非常に入り組んだ形状で長 さ方向が一定方向に並んであるだけではなく,非常に慎重に 観察すれば,図 8(c)に示したように,断面方向と同じよう に明るい斑点と暗い斑点が交互に並んでおり,ただその連続 性が析出物内部で領域ごとに変わっていると主張したのであ る。その結果を踏まえ,G. P.ゾーンの成長がさまざまな方向 を向いたゾーンの合体あるいは凝集過程にあるというモデル が生まれた。 このモデルは,その後の中間状態の析出物の構造が不安定 きわまりなく,斑点の周期性として無限に近い数の間隔と角 度を持っているという奇妙な事実を説明するものでもあっ た。後期のG. P.ゾーンでは領域ごとにMgとSiが綺麗に配列 しているとはいえ,マクロ的には MgとSiが混在している状 態であり,綺麗な配列に向かおうとしているのが遷移段階で あると推察できる。内部に周期的配列が認めにくい析出物 は,やがて周期的配列を持つように変化していく。これが厄 介なことに周期性が個々の析出物で変化する。一例を図9に 示すが,輝点が明瞭な平行四辺形の周期的配列を示してい る。しかし,この周期性は一様ではなく,その整理が困難で ある。我々は周期性を整理し,内角の変化と母相〈100〉方 位とのなす角度の変化でそれを整理した。図10から明らか なように,内角も母相〈100〉方位とのなす角度もばらばら 図6 423 Kで60 ks時効したAl–1.6mass%Mg2Si合金中に観察されたG. P.ゾーンのHRTEM像

        (a)単層および(b)多層G. P.ゾーン17)

(5)

であるが,内角が約 80°近辺,母相との角度差がほぼ 20°近 辺に集積が見られる。ただし,この関係は時効温度と時間, 溶質濃度によって異なっており,現在のところ,系統的整理 が完全にはできていない。このような奇妙な周期性を持つ析 出物を平行四辺形型の析出物と名づけた19)。この析出物の 周期性は Mg2Si 濃度が高いかもしくは時効温度が低いと 2 つ ないし3つのピークに集約されていくような傾向がある。す なわち,母相と溶質原子の拘束が高い場合はある程度の規則 性が生まれ,拘束が弱くなると規則性が崩れる。この辺りを 整理できれば,6000 系合金の G. P. ゾーンから中間相への相 変態過程が明らかになると思われる重要な結果である。従来 から報告されている通り,最終的な中間相はβ′ 相である。 輝点は非常にきれいな正六角形を示しており,a, b, c軸も定 まっている。分析結果では,Mg2Siに近い化学組成を取って おり,疑う余地は少ない。しかし,結晶構造では,まだ明快 な結論を出すに至っていない。図11は平行四辺形型析出物, β″, β′, Q′ 相と Al 母相の結晶格子の関係が類似していること を示した一例である20)。G. P. ゾーンから平行四辺形型の中 間析出物に成長した後,MgとSiが六方晶であるβ′相へと再 配列しながら成長する過程において,内角の異なる平行四辺 図8 423 Kで600 ks時効したAl–1.6mass%Mg2Si合金中に観察された針状析出物のHRTEM像         (a)長手方向に垂直な断面17),(b)上下方向に長く伸びた針状析出物のHRTEM像と         (c)その模式図 図9 平行四辺形型の析出物19) 図10  平行四辺形型の析出部における(a)平行四辺 形の内角と(b)母相〈100〉方位となす角度関 係26)

(6)

形型の析出物やβ″相,あるいはCuが添加されていればQ′相 にも変化することが可能である。つまり本系合金の一連の析 出過程は Al 母相の結晶格子を基本として連続的に起こりう る。これらの統合的な解析は現在進行中であり,より正確で 系統的な解析結果が待たれる。ここで示したように,従来, 常識とされてきた事象のどの部分が真実であり,どこからが 未知であるかは研究してみなければわからない。若い研究者 達は,先入観を持たず果敢にさまざまな事象に挑戦してもら いたい。 これまで述べてきた結果から,非常に重要な結論が導き出 される。すなわち高 HRTEM観察の結果からは,G. P.ゾーン から中間相への変化は非常に連続的に起こるということであ る。事実,今までの結果からは G. P. ゾーンがそのまま中間 相の核となり,原子の位置が変動しながら一定の格子を組ん でいくということになる。従来言われていた, β″ とβ′ 相と いう明確な中間相の分離は困難であり,比熱測定の結果から 推測されたβ″相の存在7)は中間相β′に移行していく途上の 反応が急激に発生するときを捕らえているに過ぎないという ことである。 この結論は,バランス組成の合金に適用できるが,後に述 べる過剰 Si 型合金の特定の成分と特定の時効条件では, β″ 相と明確に決定できる相が存在した。この複雑な現象が一般 に本系合金においては,どの成分,どの時効条件でもβ″ 相 が生成するという誤った結果を導き出したのであろう。 一方,本結果でも中間状態の析出物の断面が母相との特定 の方位関係を持たない結果21)を考慮すると,析出物が母相 の拘束からある程度の自由度を持つような条件下でのみ, β″ 相という特定の結晶構造を取らずになし崩し的にβ′ 相へ と変化しているのではないかと推測できる。この推測も,今 後の大きな課題である。 2. 3 過剰Mg型合金 過剰 Mg型合金は硬さの改良効果が大きく,材料全体の均 一性も良好であるが,唯一,変形抵抗の大きさ,特に高温に おける押出抵抗の増加が実用化を阻んでいるため,現在の実 用材では過剰 Mg型の組成はほとんど開発されていない。し かし,6000 系合金が自動車等に利用拡大をはかりつつある 中で,異種元素の添加なしに強度増加が可能である本系合金 の利用は図るべきであろう。 本合金の研究を系統的に遂行し,整理した結果では基本的 な時効析出過程はバランス組成の合金とほぼ同じである22) この結果は,後に述べる過剰 Si 型合金とは大きく異なり, 析出過程に果たすMgの役割は謎に包まれている。最近,ア トムプローブによる研究で,ノルウェーのR. Holmestad教授 のグループが研究を開始したので,その結果が楽しみであ る23)。HRTEM 像で見ると,Mg の添加ではバランス組成の 合金と同種類の G. P. ゾーンと思われるコントラストしか得 られなかった。その後の変化もバランス組成の合金と同様で あり,輝点がランダムな配列を取るようになるところまで変 わりがない。低倍率で観察すると,明らかに析出物の数が増 えており,強度の上昇は析出物密度の増加によることは明確 である。では,Mgはこの析出物の数密度の増加にどのよう にかかわっているのか,これは大きな謎である。電子顕微鏡 で見る限りはコントラストにバランス組成の合金と大きな差 異は認められず,組成の異なった G. P. ゾーンが生成した証 拠はない。したがって,Mgが核となり,G. P.ゾーンの生成 を促進するという機構はそう簡単に受け入れられるものでは なく,核生成に効くのかそれとも成長を促進するのかといっ た基本的な問いかけには応える段階にない。 ランダム配列から平行四辺形配列に輝点の配列が変化する 過程も過剰 Mg 合金ではバランス組成の合金と変わらない が,系統的に整理すると若干の特徴がみられる。すなわち, まったく整理の付かなかったバランス組成の合金とは平行四 辺形型の析出物の生成する段階にわずかながら傾向が見られ たことである。整理したグラフの一例を図12に示すが,当 初は HRTEM像における平行四辺形型析出物は輝点の間隔が 若干小さいものが多く,時効時間の進行に伴い,平行四辺形 の内角も 90°近辺から 60°へと変わって行くようである。当 初,ランダムであった原子配列が,Mg原子が母相から析出 物の中に拡散し,取り込まれることから周期的な配列が生ま れ出す。Mg原子の半径はSiに比べて大きいので,輝点の間 隔は少しずつ大きくなっていくと同時に内角が 60°になり, 60°になると六方晶のβ′ 相になるので,変態が完了する。こ のような過程はバランス組成の合金と同様と考えられるが, 過剰 Mg 型合金で明瞭な傾向が出たのである。過剰 Mg 型合 金で変化の過程が明瞭になる理由は定かではなく,実質的な 溶質元素の増加で母相からの拘束が大きくなったのかそれと も Mg独特の関与があるのかは未知である。これも,今後の 大きな課題と言ってよい。 2. 4 過剰Si型合金 何度か述べてきたように,過剰 Si 型合金の特徴は以下の とおりである。 (1)手軽に組成を変えることができる。 (2)組成を変えても元素の種類が変わらないので,アルマイ ト工程で最大の課題である色むらが発生しない。 図11  平行四辺形型析出物,β″, β′, Q′相とAl母相の結晶 格子の関係20)     – –:平行四辺形型(65°),—:β″ 相(75°), - - - -:平行四辺形型(90°), :β′相,●:Q′相, ○:Al母相

(7)

(3)強度が上昇するにもかかわらず,押出時の変形抵抗が低 くなる。 このような利点はあるが,実用化を阻む最大の欠点は, ピーク時効で粒界破断を起こし,ほとんど延性を持たなくな る24)という点にある。過剰 Mg 型合金ほどではないが,そ の時効析出過程はまったく未知であった。もちろん,Mg, Al, Si と原子番号が並んでいることも研究が進まなかった大 きな原因ではあるが,時効析出過程の解明が切実に要求され なかったことが最大の原因であろう。実際,取りかかってみ ると大変に複雑怪奇な合金であり,かつ,6000 系合金のあ らゆる組成の合金の縮図とも言える典型的な材料であること がわかった。すなわち,過剰 Si 型合金で見出される析出物 は非常に多種であり,ここで見られる析出物は結晶系,構造 ともにほとんどの6000系合金の基礎となっている。 過剰 Mg型合金とは異なり,時効初期の輝点配列が奇妙で ある。一列に明暗が異なる輝点が交互に配列する前に, 0.405 nm の間隔で正方形に 4 個の輝点が並ぶ。コンピュータ シミュレーションでは,Mg原子とSi原子がAl母相の格子定 数と同じ0.405 nmの間隔で交互に並ぶとこのコントラストが 得られる。これが基本となって G. P. ゾーンが生成するか否 かは,明確な生成機構を打ち立てて改めて議論する必要があ る。ただし,このような輝点配列が存在することは観察事実 であり,その数密度が高いことも事実である。時効過程の もっとも初期に現れる析出の導入として大変重要な位置を占 めることは明らかである。 少し高い時効温度では平行四辺形型の析出物とランダム型 の析出物が混在することはバランス組成の合金と反応は同じ であり,過剰 Mg型とも異ならない。しかし,時効温度を下 げると,松田らがβ″ 相と定義した相で 90% が占められる。 過剰 Si型合金の大きな特徴であるが,すでに述べたように, バランス組成の合金でも濃度,時効温度等の条件を整えれ ば,同じ結果が得られるかもしれないので,その確認も今後 の大きな課題である。 過剰Si型合金においても,過剰Mg型合金と同様に析出物 の密度は高くなっており,これが強度上昇の原因と思われる が,例えば,過剰Si型合金における密度上昇と過剰Mg型合 金の密度上昇の割合が同じでも同じ最高硬さになるとは言え ず,6000 系合金の強度上昇の機構を総合的,系統的に検討 する必要がある。 通常,6000 系合金ではごく当たり前のようにβ′ 相の前に β″ 相が析出すると言われている。その推測は主に熱分析結 果から出ており,析出に伴うピークが条件によって明瞭に2 つに分けられるからである7),25)。しかしβ″ 相の結晶構造に ついては当時わかっていなかった。学会等で HRTEM観察で 得た新しい結果発表を幾度となく行ったが,単に当時の研究 論文発表の競争となったのみで,構造と時効過程を明らかに するという研究には程遠く悲しい思いをしたものである。図 13にその HRTEM 像を示したが,結晶系は単斜晶系で,a= 0.67 nm, b=0.77 nm, c=0.405 nm,内角は約 75°といずれも確定 したが,Mg と Si の原子の位置がまだ確定されていない26) 原因はこの析出物の大きさにあり,小さいために確定した輝 点の明暗が定量化できていない点にある。制限視野回折図形 も含めて,結晶構造の決定は今後の大きな課題である。 さて,過剰 Si 型合金においてもバランス組成の合金や過 剰Mg型合金と同様にβ′相の生成が見られる。まったく違う のは後者の場合は中間相の最終形態がβ′ 相であり,中間相 ではあるが本系合金においては非常に安定な析出物であるこ とである。過剰 Si 型合金においては,β′ 相は析出するが時 効時間の経過とともに消えて行き,他の 3 種類の中間相に とって代わられる。これは大変な驚きであった。すなわち, 過剰Si型合金においても生成するβ′相の組成はMg2Siと同定 され,結晶構造も通常のものと同じと結論されるからであ る。組成が Mg2Si であることは平衡相β と同じであり,それ が原因でβ′ 相が非常に安定であると考えられる。最も安定 な Mg2Si 組成からこれから述べる Al を含む三元系の中間相 に移るとは予想しにくいからである。図14は重要な写真で あり27),同一視野に構造の違う3種類の析出物が鮮明に撮影 できることは稀である。この写真 1枚でタイプの異なる3種 類の析出物が同時に存在することが一目瞭然であり,疑問の 余地がない。当初,これらの析出物が同じ結晶構造をもつも のであり,単に違う方向からの観察結果ではないかと疑っ た。松田らは最初に大きさの違いに目を付けた。HRTEM像 における輝点の周期的な配列が似ている析出物は,ほぼその 断面の大きさが似通っているというのである。結晶構造が違 うという強い確信からそれぞれの析出物の結晶構造決定の作 業が始まった。最後には析出物を取りだすために,母相のみ を溶かして抽出するという高等技法を用いた。ナノオーダの 析出物をメッシュですくい,透過電子顕微鏡で観察するとい うことは大変複雑で慎重な扱いを必要とする。歴代の学生は 大変な努力を払ったものである。これらの3種類の析出物の うち,図15に示した A 型析出物と名づけた析出物は最も大 きい析出物であり,最も後期まで残り,かつ最後にはこのタ イプの析出物が試料全面を覆うに至る。大きいために,抽出 しやすく,制限視野電子回折も析出物の垂直な3方向から取 ることが容易であり,かつ元素分析も比較的に信頼のおける ものであった。図16に示したように得られた制限視野電子 回折図形をつなぎ合せると六方晶であると推測された28) 元素分析では Al, Mg および Si が同時に検出され,三元系の 析出物であることがわかった。いまのところ,AlとMgがほ ぼ同一サイトを占めており,Si : Al : Mg=5 : 4 : 1であると推測 図12  過剰Mg型合金における平行四辺形型析出物の時 効時間に対する内角の変化22)

(8)

している27) 図17に示した B型析出物はその断面径が小さいために,3 方向からの制限視野回折図形が撮影しにくかったため,A型 析出物とは異なり,地道に母相の方位を傾けながら電子回折 図形を次々と撮影していった。析出物のサイズが小さいた め,透過電子顕微鏡の傾斜角が限界までくると,違う析出物 を傾けて共通のパターンを見つけ出し,つなぎ合せていくと いう気の遠くなる作業を繰り返した。結晶格子は斜方晶系と 推測され29),その電子回折図形のシミュレーション結果 を図18に示した。化学組成は Si : Al : Mg=5 : 4 : 2 と推測され た27) 図19に示した C 型析出物は小さい上に存在が稀であり, データを取得するのは困難を極めた。メッシュ上で傾けるこ とはできず,大量のパターンを取り,共通点を見つけ出して 整理するという地道な作業を繰り返した。組成分析も同様に 大量のデータを取って取捨選択するという一見,不毛とも思 われる努力を積み重ねた。過剰 Si 型合金で新たに見出され た 3 つの析出物の中で,この析出物のみが Mg/Si 比が 1 に近 図14 過剰Si合金における析出物の断面組織27) 図15  523 K で 60 ks 時効した過剰 Si 型合金に観察され たA型析出物のHRTEM像28) 図16  523 K で 60 ks 時効した過剰 Si 型合金に観察され たA型析出物のHRTEM像28) 図13  423 K で 600 ks 時効した過剰 Si 型合金に観察され た β″相のHRTEM像26) 図17 B型析出物のHRTEM像29)

(9)

い。また後述するように,この析出物はAlMgSiCu 四元型の Q 相もしくは Q′ 相に近い構造を持つ。この過剰 Si 型合金の 結果が最も我々を悩ませた結果である。数多くの中間相の出 現とその結晶格子,結晶構造の決定が困難を極めた。成分決 定はさらに困難であり,微細な析出物の抽出など大変な労力 を要した。この研究の後,さまざまな成分の合金を作製して 研究を継続しているが,本質的に過剰 Si 型合金で見出した 構造以外の析出物は見出していない。 過剰 Mg型合金では生成しなかったこれらの多種の中間相 がなぜ過剰 Si 型合金に発生するのかという基本的な機構が 明確になれば,6000 系合金の時効析出の大きな部分が解決 されると思われ,今後の課題の一つである。最近,ノル ウェーのAndersenらが基本的にSiの結晶格子に構造(Siネッ トワーク)がまず発生し,それが中間相に変化していく過程 で種々の中間的析出物が発生するというモデルを提案してい る30)。このモデルは魅力的ではあるが,G. P. ゾーンの生成 過程の説明が困難であり,Siネットワークがいつ形成され, なぜその段階で優勢になるかといった基本的機構が未知であ り,すべての現象を説明するようには思われない。さらなる 検討が必要であろう。結晶系から各種の中間相への移行を説 明するのは大変厄介である。ここでは,表1の各中間相の特 性を俯瞰しながら,過程を考察する。バランス組成の合金の ランダム型析出物のモデルからわかるように,G. P.ゾーンの 末期は母相に存在する Al を巻き込んで平行四辺形型析出物 へと成長すると考えられる。したがって,バランス組成の合 金では,G. P. ゾーンから中間相β′ 相へ連続的に移行してい く段階で,ゾーン中に含まれていた Al 原子が母相中に排出 されて行く過程が同時に進行するものと考えられる。過剰Si 型合金では,MgとSiが再配列する際にAlを母相中に吐き出 すということがしにくいようであり,たまたま MgとSiのみ でできたβ′ 相は早々に他の析出物に吸収される。また,バ ランス組成の合金では,G. P. ゾーンの組成が Mg : Si=1 : 1 な ので,Mg2Si 組成のβ′ 相になるには Mg 原子の母相からの拡 散が必要である。この Mg原子の拡散を要する機構は,Aお よび B型析出物でも同様に起こっている。表1からわかるよ うに,唯一,C 型析出物は Mg : Si が 1 : 1 であり,化学組成か ら考えると,G. P.ゾーンから直接,MgとSiの位置の再配列 のみで変態が可能である。過剰Si型合金でC型析出物が主流 ではなく,存在割合が小さいことは謎であるが,Cu を添加 した合金では中間相のほとんどがC型析出物であり,後から のCuの拡散でQ′相が形成されるという事実31),さらに加工 後に時効した過剰Si型合金にこのC型析出物が多く観察され たという事実は大変に興味深いものである。また最近では本 系合金に Ag 添加するとβ′ 中間相中に Ag が含まれること (β′Ag)32),それらは結晶の対称性が異なることも見出されて おり33),今後の研究が期待される。

3.ま と め

図20に本合金系における時効析出過程をまとめて示す。 図からわかるように, (1)バランス組成の合金 母相中にMgとSi原子が交互に一列に並んだG. P.ゾーンが 生成し,列の数が増加することで大きくなって行く。この多 数の列で構成されたゾーンが三次元的に組み合さることで, 輝点の配列が一見無秩序に見られるような G. P. ゾーンへと 成長していく。G. P. ゾーン内に含まれた Al が母相中に排出 されると同時に,MgとSi原子のG. P.ゾーン内部での再配列 が起こって,さまざまな間隔を持つ平行四辺形型の中間生成 物へと変化する。さらに,平行四辺形型の生成物の中の Mg と Si は次第に正六角形を取るように変化していき,β′ 相と 図18 B型析出物の結晶構造のシミュレーション結果29) 図19 C型析出物のHRTEM像27)

(10)

なって変化を終了する。この中間相β′は大変安定であるが, さらなる時効時間の経過とともに新たに核生成した平衡相β にとって代わられる。 (2)過剰Mg型合金 過剰 Mg型合金では基本的な析出過程はバランス組成の合 金と類似している。異なるのは中間相 β′の析出と平衡相βの 析出の中間状態で鈴木ら34)が立方体状晶と名づけた析出物 が存在することである。また,立方体状相の濃度はMg2Siの ものと Mg3Si 状態のものが併存する35)ようであり,詳細な 整理が必要である。 (3)過剰Si型合金 過剰 Si 型合金においても G. P. ゾーンの生成,成長過程は バランス組成の合金と類似しており,比較的に高温の時効で はバランス組成の合金と同様に平行四辺形型析出物に移行す る。一方,比較的に低温で高シリコン濃度の合金となると, G. P. ゾーンからβ″ 中間相が生成し, β′ 相が生成する。 β′ 相 はどの時効温度,Si濃度の合金においても生成するが,時効 時間の進行とともに消滅する。大概はB型析出物が次に生成 し,引続き,A型析出物,そしてわずかにC型析出物が生成 する。過剰Si型の合金では,B型およびC型の析出物はやが て消滅していき,A型析出物が試料全面を覆うに至る。過剰 Si型合金においては最終的に平衡相β と余剰に含まれるSiが 単体となって析出し,両者が併存して生成する。 C 型析出物は Cu 添加合金においても存在し,G. P. ゾーン から中間相として析出する。Cu 添加合金において生成した C 型析出物は析出物と母相界面に周囲を取り囲むように Cu の偏析を有する。さらに大きくなると周囲にあった Cu原子 が析出物の中に取り込まれて,Mg, Al, Cu と Si との 4 元素で 構成されるQ′相となる。また,銅添加合金の平衡相はβ相で あるが,元素分析ではこうしたβ 相中には Cu が含まれ,形 態も正方形の板状から正六角形の板状となる。 Al–Mg–Si 系合金の時効析出過程は一応上述のように整理 されるが,本系合金の時効析出過程の研究をさらに推し進め て解明するうえで重要な基本的な事項は, (1) 本系合金には多種多様な析出物が存在し,それらの結 晶構造を含め,析出過程中に移動していく元素の分布 図20 Al–Mg–Si系合金の時効析出過程 表1 著者らの研究によって見出されたAl–Mg–Si系合金における中間相 結晶系格子定数 化学組成 母相との結晶方位関係 文献 β″相 単斜晶a=0.77 nm, b=0.67 nm, c=0.405 nm Si : Al : Mg=6 : 3 : 1 [001]β″//[001]m [100]β″//[310]m [010]β″//[230]m 26 A型析出物(β′A) 六方晶a=0.405 nm, c=0.67 nm Si : Al : Mg=5 : 4 : 1 (1 ¯21¯0)A//(001)m [0001]A∧[100]m=20° 27, 28 B型析出物(β′B) 斜方晶 a=0.69 nm, b=0.79 nm, c=0.405 nm Si : Al : Mg=5 : 4 : 2 (001)B//(001)m [010]B∧[010]m=20° 27, 28 C型析出物(β′C) 六方晶a=1.04 nm, c=0.405 nm Si : Mg=1 : 1 (0001)[21¯1¯0]C//(001)m C∧[100]m=10° 27 β′相 六方晶a=0.71 nm, c=0.405 nm Si : Mg=1 : 2 (0001)β′//(001)m [1¯21¯0]β′//[100]m [1¯100]β′//[110]m (c軸を回転軸とした回転関係をもつ) 21

(11)

等がいまだに完全に整理されていない。 (2) また G. P. ゾーンから数多くの中間相に変化する過程 は非常に連続的であるように見られ,多種多様の析出 物は平衡相を除けば,新しい核生成場所を必要としな いように見られる。 特に,この2の事項を実証するのが今後の大きな課題であ ろう。 最後に,軽金属学会ならびに本研究に関与いただいた大 学,研究機関,企業の関係各位,多数の卒業生に謝意を表し て筆をおく。 参 考 文 献

1) S. Ikeno, Y. Yamamoto, Y. Uetani and S. Tada: J. Jpn. Inst. Light Met., 35(1985), 154.

2) S. Ikeno, Y. Fukumochi, Y. Uetani and S. Tada: J. Jpn. Inst. Light Met., 36(1986), 429.

3) H. Suzuki, M. Kanno and Y. Shiraishi: J. Jpn. Inst. Light Met., 28(1978), 233.

4) A. Lutts: Acta Metall., 20(1972), 577.

5) I. Kovacs, J. Lendvai and E. Nagy : Acta Metall., 20(1972), 975. 6) T. Miyauchi, S. Fujikawa and K. Hirano: J. Jpn. Inst. Light Met.,

21(1971), 565.

7) I. Dutta and S. M. Allen: J. Mater. Sci. Lett., 10(1991), 323. 8) A. H. Geisler and J. K. Hill: Acta Cryst., 1(1948), 238. 9) A. Guinier: Acta Cryst., 5(1953), 121.

10) D. E. Pashley, J. W. Rhodes and A. Sendrek: J. Inst. Met., 94(1966), 41.

11) M. H. Jacobs: Philos. Mag., 26(1972), 1. 12) G. Thomas: J. Inst. Met., 90(1961–62), 57.

13) J. P. Lynch, L. M. Brown and M. H. Jacobs: Acta Metall., 30(1982), 1389.

14) C. Panseri and T. Federigh: J. Inst. Met., 94(1966), 99.

15) J. M. Silcock, T. J. Heal and H. K. Hardy: J. Inst. Metall., 82(1953– 54), 239.

16) H. Schmalzried and V. Gerold: Z. Metallkd., 49(1958), 291.

17) K. Matsuda, H. Gamada, K. Fujii, Y. Uetani, T. Sato, A. Kamio and S.

Ikeno: Met. Mater. Trans., 29A(1998), 1161. 18) T. Sato and T. Takahashi: Trans. JIM, 24(1983), 386.

19) K. Matsuda, H. Gamada, K. Fujii, T. Yoshida, T. Sato, A. Kamio and S. Ikeno: J. Jpn. Inst. Light Met., 47(1997), 493.

20) J. Nakamura, K. Matsuda, A. Furihata, T. Niwa, T. Kawabata and S. Ikeno: J. Jpn. Inst. Light Met., 60(2010), 164.

21) K. Matsuda, S. Tada and S. Ikeno: J. Electron Microsc., 42(1993), 1. 22) K. Matsuda, T. Yoshida, T. Wada, M. Yoshida, Y. Uetani, T. Sato, A.

Kamio and S. Ikeno: J. Jpn. Inst. Met., 62(1988), 718.

23) H. S. Hasting, A. G. Frøseth, S. J. Andersen, R. Vissers, J. C. Walmsley, C. D. Marioara, F. Danoix, W. Lefebvre and R. Holmestad: J. Appl. Phys., 106(2009), 123527-1.

24) S. Ikeno, K. Matsuda, Y. Uetani and S. Tada: J. Jpn. Inst. Light Met., 38(1988), 394.

25) K. Matsuda, S. Ikeno, H. Matsui, T. Sato, K. Terayama and Y. Uetani: Met. Mater. Trans., 36A(2005), 2007.

26) K. Matsuda, T. Naoi, K. Fujii, Y. Uetani, T. Sato, A. Kamio and S. Ikeno: Mater. Sci. Eng., A262(1999), 232.

27) K. Matsuda, Y. Sakaguchi, Y. Miyata, Y. Uetani, T. Sato, A. Kamio and S. Ikeno: J. Mater. Sci., 35(2000), 179.

28) K. Matsuda, S. Tada, S. Ikeno, T. Sato and A. Kamio: Scr. Met. Mater., 32(1995), 1175.

29) K. Matsuda, S. Ikeno, T. Sato and A. Kamio: Scr. Met. Mater., 34(1996), 1797.

30) S. J. Andersen, C. D. Marioara, R. Vissers, A. G. Frøseth and H. W. Zandbergen: Mater. Sci. Eng. A, A444(2007), 157.

31) K. Matsuda, D. Teguri, T. Sato, Y. Uetani and S. Ikeno: Mater. Trans., 48(2007), 967.

32) J. Nakamura, K. Matsuda, T. Kawabata, T. Sato, Y. Yoshida and S. Ikeno: J. Jpn. Insts. Met., 75(2011), 179.

33) C. D. Marioara, J. Nakamura, K. Matsuda, S. J. Andersen, R. Holmes-tad, T. Sato, T. Kawabata and S. Ikeno: Philos. Mag. A, 92(2012), 1149.

34) H. Suzuki, M. Kanno and Y. Shiraishi: J. Jpn. Inst. Light Met., 28(1978), 233.

35) K. Matsuda, Y. Ishida, I. Mullerova, L. Frank and S. Ikeno: J. Mater. Sci., 41(2006), 2605.

図 7  単層G. P.ゾーンのモデル図 17)

参照

関連したドキュメント

睡眠を十分とらないと身体にこたえる 社会的な人とのつき合いは大切にしている

出てくる、と思っていた。ところが、恐竜は喉のところに笛みたいな、管みた

この 文書 はコンピューターによって 英語 から 自動的 に 翻訳 されているため、 言語 が 不明瞭 になる 可能性 があります。.. このドキュメントは、 元 のドキュメントに 比 べて

「父なき世界」あるいは「父なき社会」という概念を最初に提唱したのはウィーン出身 の精神分析学者ポール・フェダーン( Paul Federn,

63―9 法第 63 条第 3 項に規定する確認は、保税運送の承認の際併せて行って

• 教員の専門性や教え方の技術が高いと感じる生徒は 66 %、保護者は 70 %、互いに学び合う環境があると 感じる教員は 65 %とどちらも控えめな評価になった。 Both ratings

「PTA聖書を学ぶ会」の通常例会の出席者数の平均は 2011 年度は 43 名だったのに対して、2012 年度は 61 名となり約 1.5

FEED (FRONT END ENGINEERING DESIGN) – TOPSIDE FACILITIES AND NAVAL & STRUCTURE (FLOATING PRODUCTIO SYSTEMS, FIXED. PRODUCTION SYSTEMS