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中高年のセクシュアリティ ─これまでの研究から見えてきたこと─

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1. はじめに

1989 年に設置された筑波大学大学院 (カウン セリングコース) に 1 期生として入学,修士論文 のために 1990 年「老年期のセクシュアリティ」 についての調査研究を行った。動機は老年期の性 についての先駆的な研究者,大工原秀子氏の調査 (大工原,1979,1991) を目にし,女性の回答率が 非常に低く,これでは女性の性生活の実態が分か らないと思ったことだった。一方で,性に関わる 内外の先行研究を調べると「男性はいつまで性生 活が可能か」といった男性中心の内容が主であっ た。そのため女性の性生活の実態,思いを知りた いと考えた。 卒業後,老年行動科学研究会,研究会が発展し た日本老年行動科学会に所属し,学会主催の月 2 回の事例検討会に参加した。その中で,介護の現 場で高齢者の性に関わるトラブルに遭遇すること が少なくない事を知り,事例集を編集する機会も 得た。この流れで「高齢者の性とケア」が筆者の 研究のテーマの一つとなった。 一方,高齢者のセクシュアリティについての執 筆や講演を通して,性教育の第一人者である故奈 良林祥氏と出会い,その紹介で日本性科学会の性 症例研究会に参加するようになった。出会ったメ ンバー,産婦人科医師やセックスセラピストが筆 者の調査研究に関心を示してくれ,中年期まで含 む調査をしようと日本性科学会セクシュアリティ 研究会 (代表:荒木) を立ち上げた。その以後, 「中高年のセクシュアリティ」が筆者の 2 つめの 研究テーマになった。 本論ではこの 2 つの研究テーマに関する筆者の これまでの調査・事例研究,主要な著書について, 年代に沿って概観し,調査研究結果のポイント, 筆者らが考えたこと,伝えたかったことについて

中高年のセクシュアリティ

─これまでの研究から見えてきたこと─

荒木 乳根子

* 田園調布学園大学名誉教授 筆者は 1990 年に高齢者のセクシュアリティについての調査研究をして以来,約 30 年にわたって中高年のセク シュアリティおよび高齢者の性と介護に関する調査研究・事例検討を研究テーマにしてきた。本論文では,こ れまでの調査研究について,年代に沿って概要を述べ,そこから見えてきたことをまとめた。さらに調査研究 をベースに上梓した主著を紹介した。中高年のセクシュアリティについては,日本性科学会セクシュアリティ 研究会 (代表:荒木) での調査から夫婦間のセックスレス化が明らかになった。筆者らは性的な触れ合いは人 生の後半の生を豊かにすると考え,セックスレスの要因を分析し,男女双方にとってより良い性生活を築くた めの提案を試みた。高齢者の性と介護については,職員への性的行動,利用者間の好意・恋愛に基づく性的行 動を中心に述べた。前者では,利用者の性的行動をただ問題行動として抑止するのではなく,心理的内的欲求 の理解に基づいて対応する必要性を提案した。後者では,利用者の QOL の充実に軸足を置いて,他の利用者 や家族との調整を図っていく姿勢が望ましいとした。 キーワード ⇒  高齢者介護,中高年,性的行動,セクシュアリティ,セックスレス *[連絡先](自) 〒215-0003 神奈川県川崎市麻生区高石 4-21-11-504

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特別論文 紹介したい。性は私たちの日常に深く関わる事柄 であるにもかかわらず,今なおタブー意識が一般 には強く働いている。性について,特に中高年に ついての研究者,研究は少ない。その意味では参 考に供する価値があると考えている。 テーマ「高齢者の性とケア」については,近年, ハラスメントの一つ,セクシャルハラスメントと して注目されている。しかし,性的行動を単なる 問題行動としてストップをかけるのではなく,本 人の内的心理的欲求の理解に立った支援方法を検 討すべきでは,という筆者の考えが伝われば,と 思っている。 「中高年のセクシュアリティ」の調査研究につ いては,メンバーが女性の臨床心理士,女性の悩 みに寄り添ってきた産婦人科医師ということもあ り,女性の立場に重心を置き,如何に男女双方に とって良好な性生活が築けるかを探求することが 一番の命題だった。本論で筆者らの研究に関心を 持っていただき,著書など読んで検討材料にして いただければと願っている。

2. 調査・事例研究

2-1 中高年のセクシュアリティに関わる調査 (1) 老年期のセクシュアリティ調査 1990 年 ①目的 老年期のセクシュアリティについてトータルに 知りたいと考えた。そのため,性行動だけではな く,異性への愛情や関心,性についての考え方等 幅広く聞いた。また特に女性の思いを知りたいと 考え,女性が反発を感じず回答してくれるような 調査票作りに腐心した。この調査票はその後,中 高年のセクシュアリティ調査の土台となった。 ②方法 時 期:1990 年 対 象:東京,神奈川在住の 60 歳以上の在宅男女。 有効回答数は 60 歳以上の男性 151 人,女性 277 人。有配偶率は男性 93%,女性 42%。 手 続き:老人大学,老人クラブなどに自記式調査 票と返信用封筒を持参し協力を依頼。性に関す る内容のため受け入れ側は慎重で,老人大学で は事前にクラス委員対象の説明会をもつなどし, データ収集には苦労した。 調 査票:基本的属性,異性への関心・交流,性生 活,性についての教え等 39 の設問。 ③研究の成果 男女とも老年期になっても無性化することはな い。異性への関心が全く認められないのは男性の 5〜6%,女性の 20〜30%であった。しかし,性 差は大きく,男性は性的欲求も異性への愛情も女 性よりはるかに強く,異性との交際も求めていた。 図 1 のように「望ましいとする異性との関係」で 男性の 42%が性交渉を求めていたのに対し,女 性は 6%に過ぎず,精神的な愛情でよしとしてい た。実際に,過去 1 年間に性交があった男性は 53%,女性は 18%,有配偶女性に限定すると 41 %だった。女性は 50 歳前後で閉経し,女性ホル モンが減少し性交痛が生じやすくなる。閉経前後 に更年期障害で悩む人も多い。しかし,男性の授 精能力は緩やかな下降を示し,女性のような劇的 な変化はない。このような生理的な違いは性欲の 性差の重大な要因である。しかし,それだけでは ないと思えた。「性についての考えられてきたこ と」では,男女とも半数以上が「性について口に してはいけない」,女性は 49%が「いつでも夫の 求めに従うのが妻の役割だ」,33%が「女性から 求めるのは恥ずかしいことだ」としていた。男性 本位で女性が従属的な性関係,女性にとって魅力 のない性生活だったことが推察された。また,性 的なコミュニケーションの乏しさが閉経後の女性 の性交痛等への男性の無理解に繋がり,女性の性 的欲求の減退に拍車をかけたのではないかと思わ れた。ともあれ,性を挟んで老年期の男女が互い に満足のいく良好な関係をもつことは難しいこと を認識した。本調査の詳細については,井上勝 也・荒木乳根子編 1992 現代のエスプリ 301  老いと性 至文堂 pp104-121.を参照されたい。

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図 1 1990 年調査 高齢者の望ましいとする異性との関係 42 45 45 17 19 13 16 50 33 38 30 33 6 4 9 0 6 10 1 0 9 15 5 0 55 56 59 29 30 19 35 71 0 20 40 60 80 100 総数 60-69歳 70-79歳 80歳以上 総数 60-69歳 70-79歳 80歳以上 男性 性交渉をもつ 肌の触れ合い 精神的な愛情のみ その他・無回答 0 20 40 60 80 100 女性 (2) 30~60 歳代の有配偶女性の性生活調査   1997 年 ①目的 1990 年調査で明らかになった男女の性的欲求 の相違に関して,女性の閉経の影響を詳しく知り たいと思い,更年期を挟んだ女性の性生活調査を 実施した。 ②方法 時 期:1997 年 1〜12 月 対 象:筆者が講師を務めたホームヘルパー養成研 修の受講者。神奈川県,東京都在住の 30〜69 歳までの有配宮女性 309 人。 手 続き:研修会場で調査票と返信用封筒を配布し 依頼した。ほぼ全員が回答。 調 査票:基本的属性,性生活,更年期の影響,夫 婦の関係性等 24 項目。なお高齢者の性に関わ る経験を 1 項目入れた。 ③研究の成果 調査を通して 50 代,特に 50 代後半が性的な意 味で転換期だという印象を強くした。50 代後半 は,性交渉のあった人の 31%が性交痛のため満 足感より苦痛が強いとし,オーガズムを得る割合 も目立って減少していた。閉経後の性生活の変化 としても,図 2 のように 50 代後半は 43%が「自 分の関心の減少」を挙げている。また望ましい性 的関係としては,50 代以降は性交渉が減り,ス キンシップや精神的な愛情が大半を占めた。閉経 による生理的変化が性交渉に与える影響が強いこ とが確認された。一方で「性的コミュニケーショ ン」で「互いに伝え合う」人は性交痛が軽く,最 もオーガズムを得られており,関係性,性交渉の 持ち方も大切な課題だと思われた。なお,苦痛が 強い人は性交をやめるためか,60 代で性交を維 持している人の場合,性交痛の訴えは減少し,オ ーガズムを得る割合が高まり,17%は閉経前より 充実したとしていた。マスターズ&ジョンソンは 「閉経後に第二の新婚時代を楽しむ人がいる」と いっている (Masters & Johnson 謝・竜岡訳, 1966)。子供が巣立ち二人だけの生活に戻った時 期は気兼ねなくカップルが性生活を楽しめる時と も言え,実際にそのような一群がいることが分か った。本調査の詳細については,荒木乳根子  1999 30〜60 歳代の有配偶女性の性生活 日本 性科学会雑誌,17 (1),15-23.を参照されたい。 (3) 中高年有配偶者のセクシュアリティ調査   2000 年 ①目的 筆者が代表となり,調査研究のために設立した セクシュアリティ研究会 (メンバーは産婦人科医 5 名,セックスセラピスト 2 名,筆者) の 1 回目

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特別論文 図 2 閉経後の性交渉の変化 0 0 7 17 60 35 24 9 0 27 43 24 10 0 2 2 20 27 22 43 10 12 2 4 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 45-49歳 50-54歳 55-59歳 60-69歳 無回答 互いに遠ざかる 相手の関心の減少 自分の関心の減少 変化なし 以前より充実 の調査であり,目的は,性生活についての基礎的 なデータを得て,性に関わる臨床に役立てたい, 男女が良好な性的関係を結ぶための示唆を得たい ということである。なお,本調査は JASS (日本 性教育協会) 第 10 回学術研究補助金を得て実施 した。 ②方法 時 期:1999 年 10 月〜2000 年 3 月 対 象:関東圏に在住する 40 歳〜79 歳までの配偶 者がいる男女。3025 部配布。1083 部回収 (回 収率 35.8%),有効回答 1020 人 (男性 419 人, 女性 601 人) 手 続き:研究メンバーが多方面に自記式調査票と 返信用封筒を配布し,協力を依頼。 調 査票:基本的属性,性に関する意識,夫婦の関 係性,性生活の実態などで設問 62,二次的設 問 10 から成る。1990 年の調査票をベースにし たが,医師の参加により,現在や過去の疾病や 出産,性機能や性交の内容などより踏み込んだ 内容を聞く項目が加わった。 ③研究の成果 1990 年調査で認識した男女の性的欲求の乖離 や良好な性関係をもつ難しさが本調査でより詳細 に明らかになった印象をもった。夫婦間の性交頻 度は図 3 のようで年齢とともに減少するが,70 代になっても 28〜43%は性交を維持していた。 一方,「1 年間性交なし」の人の性交停止平均年 齢は男性 57.0 歳,女性 52.0 歳で,性交停止の最 大の理由は「女性側の関心の喪失」であり,性交 痛や性交不能の 2 倍以上であった。ここでは調査 から見えてきた,「生理的変化」だけではない 「女性の関心の喪失の要因」を取り上げたい。① 会話の少ない夫婦関係:女性の 42〜45%が配偶 者と過ごす時間も会話も少ないと回答,夫婦間で 求める交流は男女とも「日常的会話」が最多だっ た。②男性主体の性関係:性交渉を求めるのは大 半が男性からであり,過去 1 年に性交渉があった 女性の 40%が気乗りのしない性交渉に「よく/ ときどき応じる」と回答。③性的コミュニケーシ ョンの不足および乏しい性知識:性障害が生じや すくなる年代により伝え合いが減少しており,加 齢により性交痛が生じやすくなること自体を男性 の 32%,女性の 28%が知らなかった,④日常的 な愛情表現の乏しさ:性交時以外の愛情表現とし ての身体的触れ合いは乏しく,肩もみ・指圧が 39〜41%で最多,29%はほとんどなかった。ある

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図3 夫婦間の性交頻度 22 21 15 3 24 15 5 0 29 26 17 10 25 24 19 10 22 18 16 11 18 16 11 8 18 17 20 19 20 17 19 10 7 16 30 47 10 23 36 48 3 3 2 11 4 5 10 23 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 40代 50代 60代 70代 40代 50代 60代 70代 男性 女性 無回答 1年全くない 年数回程度 月1回 月2-3回 週1回以上 国際学会で発表した折に,身体的な触れ合いが少 なくて,どのように性交渉に移れるのか,といっ た趣旨の質問があったが,触れ合いの乏しさが互 いの欲求を伝えにくくしている側面があると改め て思った。これらの結果はより良い性生活が実現 するためには何が必要かも示唆していた。 本調査の詳細については,日本性科学会セクシ ュアリティ研究会 2000 中高年のセクシュアリ ティ─男女のパートナーシップの現状について ─ 日本性研究会議会報 12 (1) 2-18.を参照 されたい。また,本調査をベースに一般書,後述 の「カラダと気持ち ミドル・シニア版」 (日本 性科学会セクシュアリティ研究会,2002) を上梓 した。 (4) 中高年単身者のセクシュアリティ調査    2003 年 ①目的 有配偶者もいずれ単身者になる。単身者が増え る人生後半期,性は QOL に関わる大切な問題だ と当初から企画していた調査であった。調査目的 は 2000 年調査同様であるが,単身者の恋愛やパ ートナーシップ,性生活に関する現状,要望を知 りたいと考えた。中高年期の単身者に焦点を絞っ たセクシュアリティ調査は画期的との評価を受け たが,データ集めでは大変苦労した。まずは単身 か否かの見分けに迷い,性に関する調査を依頼し ていいかどうかの躊躇いも生じた。我々の中に性 生活を婚姻の中のものとする性道徳が未だに健在 だと自覚する機会にもなった。中高年の単身男性, 中年期の単身女性は絶対数が少ないことも相まっ て調査期間は長くなった。結果的に回答者はどち らかといえば性について開放的で性的に活発な人 に偏った嫌いがあると推察された。 ②方法 時 期:2002 年 9 月〜2003 年 12 月 対 象:主に関東圏に在住する 40 歳〜79 歳までの 単身男女。1838 部配布。439 部回収 (回収率 22.2%),有効回答 408 人 (男性 145 人,女性 263 人) 手 続き:2000 年調査と同じ。一部メディアを通 じて調査への協力者を募集した。 調 査票:基本的属性,性に関する意識,異性との 交際状況,性生活の実態などで設問 56,二次 的設問 14 からなる。有配偶者との共通設問も 多くした。 ③研究の成果 対象者の結婚歴は,男性は未婚 32%,死別 39 %,離婚 28%,女性は未婚 34%,死別 35%,離

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特別論文 図 4 結婚したい理由・したくない理由(複数回答) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 精神的な安定 経済的基盤の共有 性生活の安定 家事や身の回りの世話 病気の時など助け合える 社会的な信用 自由を束縛されたくない 経済的な問題 性生活が負担 家事や身の回りの世話が負担 世間体が悪い 法律的な問題が煩わしい 肉親が反対する 結婚したい理由 結婚したくない 理 由 男性 女性 婚 29%だった。当然ながら若い世代ほど未婚が 多く,高い年代ほど死別が多い。単身者独自の設 問からは以下のようなことが見えてきた。①女性 の方が多様な愛情・関心の対象を持っており,男 性の方がより単身の寂しさを感じている。②現在, 交際相手がいる人は男性 42%,女性 38%。現在 いないから欲しいという人も多く,交際への関心 は高い。交際相手に配偶者がいる割合は男性 21 %,女性 53%と高かった。③結婚願望があるの は男性 57%,女性 25%と男性が多い。結婚した い理由,したくない理由を見ると,図 4 のように 「精神的な安定」や「自由を束縛されたくない」 が突出しているものの,男性に経済力,女性に家 事を期待する保守的な性役割意識が結婚したい理 由にも,結婚を躊躇う理由にもなっていた。中年 期以降の良好な結婚生活の成立には男女ともに生 活面でも経済面でも自立した上でパートナーと人 生を楽しもうという姿勢が望まれよう。 2000 年の有配偶者調査との比較では以下のよ うな興味深い所見が得られた。①過去 1 年間に性 交渉があったのは男性 48%,女性 35%だが,単 身者は性的コミュニケーションが豊かで,性交内 容は前戯のバラエティがあり,かける時間も長く 濃密,性交による女性の心身の満足感は高かった。 ②交際相手のいる単身女性は有配偶女性に比べ閉 経後も高い性的欲求を維持していた。女性の性欲 には生理的な要因も働くものの精神的な要素も大 きく影響することが分かった。③交際相手との関 係では図 5 のように身体的な触れ合いが多い。有 配偶者調査では触れ合いが少なく,欧米と異なり 離れてお辞儀をする触れ合いの少ない文化故と考 えたが,有配偶者の場合はむしろ,子どもの誕生 で父親,母親役割が優先してしまう影響が強いの では,と思われた。 自由既述欄には多くの記載があった。1990 年 調査時には「異性に関心はあるが,周りを気にし, 行動に移せない」というレベルの記述だったが, 本調査では高齢女性から「好意を持っている男性 と旅行を計画しているが,云々」など具体的な記 述もあり,高齢者自身も社会も高齢者の性に関し

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図 5 よくする身体的触れ合い(複数回答) 56 54 51 38 34 14 42 13 16 22 31 12 14 5 41 29 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 単身者 有配偶者 (女性回答) キスをする 手をつなぐ 身体に触る 抱擁する 腕を組む 肩を抱く 肩もみ・指圧など ほとんどない て許容的になってきたことを実感させられた。 本調査の詳細については,日本性科学会セクシ ュアリティ研究会 2005 中高年単身者セクシュ アリティ調査特集号 日本性科学会雑誌 23, suppl.を参照されたい。また,本調査をベース にした一般書,後述の「カラダと気持ち シング ル版」 (日本性科学会セクシュアリティ研究会, 2007) を上梓した。 (5) 中高年のセクシュアリティ調査 2012 年 ①目的 目的は 2000 年,2003 年調査同様であるが,時 代による変遷をみたいと 2012 年調査を企画した。 今回は有配偶者,単身者とも同一の調査票で記入 項目を分ける形にした。しかし,やはり単身者の データが集まりにくいため調査期間が長引いた。 ②方法 時 期:2011 年 1 月〜2012 年 12 月 対 象:関東圏に在住する 40 歳〜79 歳までの男女。 間接的な配布依頼も多く,対象者に渡った部数 は不明。1242 部回収,有効回答 1162 人 (有配 偶者:男性 404 人,女性 459 人,合計 863 人, 単身者:男性 92 人,女性 207 人,合計 299 人) 手 続き:2000 調査と同じ。ただし間接的な配布 が多くなった。 調 査票:Ⅰ全員対象 15 問,二次的設問 3,Ⅱ有 配偶者対象 48 問,二次的設問 6,Ⅲ単身者対 象 49 問,二次的設問 11 から成る。 ③研究の成果 ③ -1 有配偶者 有配偶者について最も注目されたのは夫婦間性 交頻度の顕著な減少だった。配偶者との性交が 「1 年間全くない」人は 2000 年調査では男性 25%, 女性 23%だったが,今回は男性 52%,女性 54% に増加した。日本性科学会はセックスレスについ て「特殊な事情がないにもかかわらず,カップル の合意した性交,およびセクシュアル・コンタク トが 1 ヶ月以上ない場合」と定義しているが,図 6 のように,特に 40〜50 代でセックスレスの増 加が目立った。 セックスレス化の要因は調査項目からだけでも 様々に考えられた。①夫婦間における性の位置づ けの変化:70 代は変化なしだが,性生活が重要 と考えない人が増え,「妻の役割」という意識も 薄れた。②夫婦の関係性の変化:結婚生活の満足 度,配偶者への愛情など見ると男女ともに否定派 が増え,別寝室が増加。③性生活の有無に女性の

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特別論文 図 6 夫婦間のセックスレス 24 32 50 66 30 41 55 58 59 86 79 82 54 75 80 86 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 40代 50代 60代 70代 40代 50代 60代 70代 男性 女性 2000年 2012年 意思が強く反映:配偶者との性交を望んでいて実 際に月 1 回以上性交がある人は,2000 年調査で は男性 78%,女性 79%だったが,2012 年調査で は男性 44%,女性 68%と大幅に減少していた。 つまり,男性は妻との性交渉を望みながら半数以 上が実現できないでいる。女性も 2000 年に比べ ると 10 ポイント低下しており,性交渉の望みを 伝えられないか,拒否される人が増えているわけ だ。不況が続いた社会状況も影響してか,就労し ている女性は増加。家庭内で相対的に女性が強く なり,ジェンダーの縛りが薄れたことも相まって, 自分が望まない場合は「ノー」と言えるように変 化したと思われた。 一方でマスターベーションは男女ともに増加し, 特に 40 代,50 代の男性において顕著に増加して いた。マスターベーションが性欲解消の手段にな っていると思われた。しかし,性交頻度と結婚生 活の満足度をクロスすると,「月 1 回以上」性交 のある男性の 7 割が結婚生活は「満足」としてお り,明らかに満足度が高い。女性の場合は男性ほ ど明確ではないが,結婚生活における性生活の重 要性を示唆しているといえよう。 さらに「過去 1 年間に配偶者以外の異性との親 密な付き合い」がある人は図 7 のように 2〜3 倍 に増加していた。親密な関係といっても精神的な 愛情関係も含み性関係があるとは限らない。愛撫 や性交がある関係に限ると男性は 9%から 24%, 女性は 5%から 8%へと増えていた。男性の場合 は売買春なども含まれる。増加の背景には性規範 の緩みもあると思われる。2000 年に比べ「自分 が配偶者以外の異性との親密な付き合いをするこ と」について,「付き合うべきではない」が減少 し,「性的な関係があっても,家庭に迷惑がかか らないならかまわない」が男性は 17%から 33%, 女性は 6%から 14%へと増加していた。 ③ -2 単身者 単身者は 2003 年調査と比較して性交頻度にあ まり差が見られなかった。単身者の場合,交際相 手がいるか否かで性交頻度が大きく異なる。2012 年調査では交際相手がいる人に限ると 59〜63% が月 1 回以上の性交渉を持っており,有配偶者の 夫婦間性交渉より遙かに活発だった。また,2003 年調査と同様,表 1 のように有配偶者と比較する と性交渉の内容は濃密で,女性が性交渉に対して

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図 7 異性との親密な付き合いがある 13 14 15 8 9 4 4 0 38 32 29 32 15 16 15 5 0 20 40 60 80 100 40代 50代 60代 70代 40代 50代 60代 70代 男性 女性 2000年 2012年 より積極的で満足度が高いことが伺われた。女性 の性交相手はほぼ交際相手であるが,男性の場合 は売買春 18%,行きずりの相手 7%が含まれてい た。性規範の緩みは有配偶者同様の傾向が見られ, 単身者の交際相手に配偶者がいる割合は男性 33 %,女性 56%と,男性において増加がみられた。 本調査の詳細については,日本性科学会セクシ ュアリティ研究会 2014 2012 年・中高年セク シュアリティ調査特集号 32,suppl.を参照さ れたい。また,本調査をベースに一般書,「セッ クスレス時代の中高年性白書」 (日本性科学会セ クシュアリティ研究会,2016) を上梓した。 (6) まとめ 5 つの調査を振り返ってみて以下のような思い を強くした。 ① 1990 年から 2000 年にかけては高齢者が自ら の中の性欲,異性への関心を自認し,それを恥ず かしいこととしてではなく受け入れていった時期 ともいえるのではないか。自由記述欄の内容も一 般論的既述から具体的な自分の交際・恋愛につい ての既述に変化していった。単身女性の異性との 親密な付き合いも,1990 年は 60〜70 代 2%に過 ぎなかったが,2003 年は 60 代 31%,70 代 13% であった。 ② 2000 年から 2012 年にかけては配偶者間のセ ックスレス化が著しく進展し,配偶者以外の異性 との親密な付き合いが増加した。その要因につい ては既述したが,この時期の社会の大きな変化, 経済的には不景気が続き働く女性が増えたこと, 携帯電話の普及率が飛躍的に高まるなどコミュニ ケーション手段が大きく変化し,日常生活の範囲 を超えて様々な人と容易に繋がることが可能にな ったことなども影響したと思われる。 ③単身者については 2003 年と 2012 年調査では 目立った変化は見られなかった。単身者の性生活 は交際相手の有無によって二極化しており,交際 相手がいる人は配偶者以上に性的に活発である。 その意味では性はもはや「結婚」という枠組みを 越え,単身者と有配偶者はボーダーレスになった と言えよう。 ④身体面での生理的な変化が生じてくる中高年 期は特に男女の性欲は乖離が大きくなりがちであ る。配偶者間では,互いの性的な欲求や感情を伝 え合わないまま性交停止に至る場合が多く,双方 が望んでのセックスレスではない場合が多い。長 い人生の後半人生の QOL を思えば,触れ合いを 取り戻す努力が必要なのではないか。そのために はまずは会話のある豊かな関係性を築くこと,性 生活をセックス=挿入ではなく,性的な触れ合い を重視し,女性のセクシュアルプレジャーをもっ

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特別論文 項 目 男 性 女 性 有配偶者 単身者 有意差 有配偶者 単身者 有意差 どちらから 求めるか 自分からだいたい自分から 6123 4047 ****** 38 16 だいたい相手から 4 9 25 56 *** 相手から 5 0 57 32 *** 無回答 8 4 8 5 前戯の有無 いつもする 62 67 42 70 *** することが多い 21 31 36 20 *** しないことが多い 7 0 ** 11 5 しない 1 0 3 0 無回答 8 2 9 5 性交時間 10 分程度以内 27 11 ** 30 5 *** 20 分程度 32 24 34 25 30 ~ 60 分 28 47 *** 24 54 *** 1 時間以上 5 16 *** 2 9 *** 無回答 9 2 * 10 6 肉体的満足感 いつも得られる 29 31 6 20 *** だいたい得られる 50 56 54 53 あまり得られない 11 9 22 19 得られない 1 2 8 4 無回答 9 2 * 10 4 * 精神的満足感 いつも得られる 25 31 8 38 *** だいたい得られる 58 56 58 49 あまり得られない 6 11 19 6 *** 得られない 2 0 7 3 無回答 8 2 9 4 *p<0.10 **p<0.05 ***p<0.01 表 1 2012 年調査 有配偶者・単身者別 性交渉の有り様 と大切に考えること,女性も主体的になり,協力 して双方が満足できる性生活を作り上げること, が求められる。 2-2 高齢者の性とケアに関わる調査・事例研究 (1) 「事例集 高齢者のケア⑥ 性と愛‥セクシ ュアリティ」における事例検討 1995 年  中央法規 日本老年行動科学研究会では「事例検討会 ACS」の積み重ねを基に,研究会会長・井上勝 也氏監修で高齢者ケアにおける行動上の問題に関

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する事例集全 7 巻を企画した。筆者は第 6 巻「性 と愛‥セクシュアリティ」の編集を井口数幸氏と 共に担当した。 編集を通して,性については未だに社会的タブ ー意識が強いことを再認識した。まず事例の執筆 者見つけに苦労した。また,性に関しては他の行 動上の問題のようにカンファレンスの俎上に載せ, 職員間で理解や対応を検討するという作業がされ ず,個人レベルの対応に任せてきた経緯があり, 事例をまとめる自体に難しさがあることも分かっ た。その中にも組織的に取り組んだ施設もあり, やりとりを重ねながら事例をまとめた。さらに, 性についてはコンセンサスの得られる考え方は成 立していないため,どのような立ち位置でコメン トを書くべきか,事例によっては何度も議論を重 ねた。 完成した本は B5 判 254 頁,15 事例と施設の取 り組み 3 例から成る。事例は全巻統一したフォー ム,「どんな問題が起こったか」「当該者のプロフ ィール」「これまでの経緯」「問題の理解」「問題 解決のための目標と方法」「ケアの取り組み」「目 標の達成は?」「まとめ」「 (専門家による) コメ ント」でまとめられている。 筆者自身が事例をまとめる中で学んだことは, 高齢者の性的行動の持つ意味であった。たとえ身 体に触れたり,性交の形をとっていても,若い頃 のような生理的性欲に裏付けられたものではない, むしろ心理的性欲といっていいものでないかと思 われた。事例を見ていると,背後に今までの自分 というアイデンティティが崩れていく不安や喪失 感,病気や死の不安,孤独感や疎外感を抱えてい ることが多い。そして,性的行動は「 (認知症で) 不確かになった自分を確認したい」「過去の自分 を再現したい」「肌の触れ合いによる安らぎが欲 しい」「自分を認めてほしい,受け入れて欲しい」 「人間的な温もりのある関係がもちたい」「楽しい コミュニケーションをもちたい」といったメッセ ージであることが多いと思われた。後日,パーソ ンセンタードケアを創始したトム・キットウッド が認知症の人々の主な心理的ニーズについて触れ た中で,「喪失感に対処しようとするときに他人 と親密になることから安心の感情を得ようとする 『なぐさめ』のニーズは強くなる…性的欲望の 高まりはなぐさめのニーズが部分的に現れたと 解釈できるかもしれない」 ( Kitwood,T.高橋訳, 2005) と述べているのを知り,我が意を得た思い がした。 また,性的行動に対しては,他の行動上の問題 のように「なぜ」その行動をしたのかを考えず, 感情的な反応,対応になってしまいがちであるこ と,しかし,「なぜ」と性的行動の背景を掘り下 げることで,柔軟なバラエティのある対応が生ま れ,性的行動の収束に繋がることが分かった。こ れらの知見がこの後,筆者が高齢者の性的行動の 理解と対応を考える上でのベースとなった。 (2) 全国の老人福祉施設における “ 性 ” 調査    1996 年 ①目的 施設内における男女の性的交流により生じる問 題点とそれに対する施設側の対応について,実態 を全国規模で調査することを目的とする。平成 7 年度厚生科学研究助成金を受け,札幌医大泌尿器 科学名誉教授の熊本悦明氏 (班長) を初めとする 4 人の医師と井上勝也氏,全国老人福祉施設協議 会の石井岱三氏によって調査は実施され,筆者は 研究協力者の一人として参加した。 ②方法 時 期:1996 年 2 月〜6 月 対 象:全国の全老人福祉施設 (特別養護老人ホー ム,養護老人ホーム,軽費老人ホーム,ケアハ ウス),全 4699 施設。回答施設数は 2013 施設 (42.8%) 手 続き:調査票を各施設に送付し,回答は施設長 または代理の記入で,いわゆる寝たきり老人以 外の入所者を対象として考えた場合の意見を求 めた。 調 査票:施設の概要 (10 問),性に関する問題と その対応 (28 問),性の実現 (6 問)

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特別論文 ③研究の成果 回答者は入居者の男性 95%,女性 81%に性欲 があると見なし,約 75%が性欲の実現により QOL が向上するとしていた。過去 1 年間におい て男性 29%,女性 22%に恋愛や性に関するトラ ブルが発生。入居者の恋愛に関する施設側の基本 的な考え方としては 79%が「どちらかといえば」 も含め肯定的で,恋愛に対する具体的な対応も 40%が「自由意志を尊重,助力する」,41%が 「ルールを決め,なるべく認める」だった。しか し,カップルに対する他の入居者の感情は男性 38%,女性 63%が否定的であるとし,42%が他 の利用者にマイナスの影響を与えるとしていた。 職員に対する直接的な性的働きかけに対しては 63%が「自尊心を傷つけず,上手に説得」,「認め ない」は 26%だった。 予想していた以上に施設の考え方は高齢者の恋 愛や職員に対する性的働きかけに関して肯定的・ 許容的だった。今思うと,むしろ近年の方が見方 や対応は厳しくなっているかもしれない。調査の 意見記述欄には多数の記入があり,興味深かった。 利用者の恋愛や性の実現には集団生活という環境, 他の利用者の抵抗感,家族の無理解など様々なハ ードルがあること,職員の性に関する意識が利用 者の意識・行動に大きく影響すること,そして, 職員の意識形成には施設長の考え方が大きく影響 することが理解できた。 同年 10 月に札幌で開催された全国老人福祉施 設長会議のシンポジウム「老人福祉施設における 性」で結果は報告,検討された。性が公式の形で 取り上げられたのは初めてとのことで「老人福祉 施設における性問題検討元年」と位置づけられた。 本調査の詳細については,熊本悦明・塚本泰 治・佐藤嘉一・堀田浩貴・井上勝也・石井岱三  1996 老人福祉施設における“ 性 ”に関する調 査 高齢者のケアと行動科学,4,3-16.を参照 されたい。 (3) 女性訪問介護員対象の高齢者の性に関わる調 査 2008 年 ①目的 2000 年に介護保険が試行され,高齢者の性と 介護に関わる調査も散見されるようになった。そ れらは実態把握が主眼の調査であったが,介護保 険施行後の変化として,利用者の権利意識の高ま りが伺われた。筆者は女性訪問介護員に対する男 性利用者からの性的働きかけの実態とともに,ど のような対応,サポート体制が望まれるのか踏み 込んだ検討をしたいと思った。本調査は大川一郎 氏,井上勝也氏との共同研究「訪問介護利用者 (高齢者) の性行動に対する介護職員の意識と対 応」として,財団法人フランスベッド・メディカ ルホームケア研究・助成財団からの研究助成を受 けて実施した。 ②方法 時 期:2007 年 11 月〜2008 年 2 月 対 象:女性介護訪問員。有効回答は 435 人,304 事例 (65 歳以上は 250 事例) の記載があり,改 善策の自由記述も 197 人の記載があった。なお, 10 名には電話による聞き取りを行った。 手 続き:川崎市, 横浜市などの 291 の事業所, JA 神奈川県中央会等に質問紙および返信用封筒を 計 2680 部送付,女性訪問介護員への配布を依 頼。 調 査票:基本的属性,男性利用者からの性的行動 の有無,性に関する一般的考え,利用者の心理 への理解,学習機会,改善策,経験事例につい て (性的行動の内容・その時の感情・対応等) ③研究の成果 高齢者 250 事例の分析結果を述べると,性的行 動の内容は図 8 のように様々である。その時の介 護員の感情は,「男だな,という思い」,「どんな 風に対応したら良いのかという疑問」が多いが, 次に「嫌悪感,怒りなどの拒否的な感情」25%, 「恐怖感,その場を逃げ出したい感情」18%が続 く。そして,とっさの対応としては図 9 のようで あるが,その後の感情では,22%が利用者への否

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図 9 とっさの対応(複数回答) 4 10 12 17 20 23 25 50 51 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 相手の手を叩く、「やめて」と叫ぶなど感情的に反応 無視した とっさに避けた、逃げた それとなく断った 「止めてください」など、自分の気持ちをはっきり伝えた はぐらかした 違う話、事柄に変えた さりげなく流した 明るく冗談、ユーモアで応えた 図 8 性的働きかけの内容(複数回答) 8 9 10 12 16 22 23 24 24 30 35 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 わざとポルノビデオ、アダルト雑誌、ポルノ写真などを見せた 必要以上に自分の体に触れること(陰部洗浄など)を求めた 自分の陰部に触ることを求めた 性交渉を求められた 好意を告白した、ラブレターを渡した、デイトに誘ったなど わざと胸やお尻、股間を触った 抱きつかれた 体をじろじろ見た 自分の性体験や卑猥な内容の話を聞かせた 介護の際に必要以上に体を接触してきた 体について品評、性体験を聞く、性的からかいの言葉など 定的な感情を持ち,17%は仕事を辞めたいと思い, 8%は実際に担当を辞めていた。訪問介護員は施 設職員と異なり,利用者の自宅という密室で利用 者と 1 対 1 で仕事をすることが多い。簡単に他の 助けを求めることができずそれだけに恐怖や不安 は強いと思われる。訪問介護員にとって看過でき ない問題だと改めて思った。一方で,①何をもっ て「性的行動」というか微妙な境界部分があり, 訪問介護員によって感覚の相違が大きい。②感じ 方が違えば当然とも言えるが,訪問介護員によっ て理解と対応に大きな違いがあった。「セクハラ は犯罪」という断定から「行動の多くは人恋しさ からのもの」という見方まであり,「距離をおく ために極力話さない」「移乗による接触を避けて ベッドで食事」といった対応から,「話題を豊富 にし,刺激的な話を避ける」「触ってきた手を取 って腕相撲をし,喜んでいただけた」という対応 まであった。双方が傷つかない柔軟な対応を考え る上で示唆を得られた。 訪問介護員による対応の差が大きく,余裕のあ

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特別論文 る対応が難しい背景には次のような問題もあった。 ①労働環境の厳しさ:訪問する先々で求められる ことが異なり,葛藤を抱えても直行直勤の勤務形 態の場合などはけ口がない。聞き取り調査に対し 「聞いてもらってありがたかった」の言葉も聞か れた。②各事業所のサポート体制は差が大きい: サービス提供責任者や同僚などに相談して 69% は「よかった」としているが,「受け流して」な ど言われて「相談しなければよかった」の意見も あった。介護員の感覚は各々違う。責任者は介護 員が抱いた嫌悪感,不安などを尊重し,そこを出 発点にどうしたらよいかを一緒に考える必要があ ろう。研修や専門家への相談の要望が記載されて いたが,高齢者の性に関して学ぶ機会を設ける必 要があると思われた。訪問介護員自身が考える改 善策や聞き取りからも様々な示唆が得られた。 本調査の詳細については,荒木乳根子・大川一 郎・井上勝也 2008 訪問介護利用者 (高齢者) の性行動に対する介護職員の意識と対応に関する 研究 財団法人フランスベッド・メディカルホー ムケア研究・助成財団 第 18 回研究助成・事業 助成報告書,862-891.を参照されたい。なお, 調査結果を A4 判 30 頁の報告書としてまとめ, 調査への協力を依頼した事業所に送付した。しか し,特段の反応がなく,活用について疑問が残っ た。事業所で役立てやすいマニュアルを作りたい とも考えたが,果たせなかった。 (4) まとめ 介護現場で見られる高齢者の性的行動は,職員 に対する性的行動,他の利用者に対する合意のな い性的行動,他の利用者との好意・恋愛に基づく 性的行動,対象のいない性的行動などさまざまで ある。まとめとしては,(1) 〜 (3) までの調査・ 事例研究を踏まえて,筆者が特に気になっている 問題について,筆者の考えを述べておきたい。 ①職員への性的行動について 職員への性的行動,特に男性利用者から女性職 員への性的行動は直接的であるだけに当の職員に とっては対応が最も難しいといえよう。(3) の調 査でも女性訪問介護員が拒否感を持ち,担当変更 や離職に繋がることが分かった。厚生労働省も利 用者や家族等によるハラスメントについての実態 調査をし,2019 年 3 月に「介護現場におけるハ ラスメント対策マニュアル」 (三菱総合研究所, 2019 注 1 ) をまとめた。ハラスメントとは身体的 暴力,精神的暴力,セクシュアルハラスメントの 3 つであり,セクシュアルハラスメントは「意に 沿わない性的誘いかけ,好意的態度の要求等,性 的ないやがらせ行為」と定義されている。職員が 安心して働くことが出来る労働環境を構築し,介 護人材を安定的に確保する上でハラスメントへの 取り組みは必須となっているのだ。対策マニュア ルには事業者として取り組むべきことが記されて いる。 筆者としては高齢者の性的行動をセクシュアル ハラスメントとして問題提起し対策を講じること に異論はない。しかし,実際の対人支援において は「セクハラ,問題老人,その行為を止めなさ い」という短絡的対応では問題解決につながらな い。今まで知り得た事例では注意や叱責ではなか なか問題が収束しなかった。性は人間にとって根 源的な問題であるだけに,介護職員が傷つくこと があるし,その対応の如何によっては,当の利用 者自身も傷つく。双方が傷つかないような支援を 目指したい。 (1) で述べたように高齢者が性的行動をとって もむしろ心理的性欲といってよく,さまざまなメ ッセージ・内的心理的欲求が透けて見えることが 多い。(3) の調査では,背景にある心理として訪 問介護員の 68%が「淋しさ,孤独感,疎外感か ら温もりのある人間関係を求めている」としてい た。対応でも「触ってきた手を取って腕相撲をし たらとても喜んでいただけた」といった柔軟な対 応もあった。気持ちをくみ取ることで多様な対応 注 1 三菱総合研究所 2019 介護現場におけるハラス メント対策マニュアル https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05120.html (2020 年 8 月 30 日検索)

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が可能になり,双方が傷つかないですむのではな いか。対人援助の醍醐味はまさにそこにある,と も思った。もちろん,性的行動も内容は様々で職 員の性についての感覚もさまざまである。嫌悪感 をもてば「止めて下さい」といい,その場を外せ ばいい。無理をすることはない。ただできるだけ 穏やかな対応,相手を傷つけない対応が望まれる。 そして余裕のある対応が可能になるためには (3) で触れたように,研修の機会や職員のサポート体 制が必要であろう。 現在の高齢者が若い頃にはセクハラという概念 はなかった。男性が女性に近づきたい時に性的な 言葉かけや軽いタッチは日常的な行為でもあった。 ある利用者は性的行動を厳しく叱責されて「場を 盛り上げようと思っただけなのに」と怒ったとい う。利用者が生きてきた時代性も念頭に置いてお きたい。利用者は嫌な相手ではなく,好感を持っ た相手に働きかけるのだ。筆者は男女関わらず, まずはコミュニケーションの誘いと受け止めてい いのではないかと考えている。 なお,筆者の主張は厳しい労働条件の現場に受 け入れられるかとの危惧もあったが,介護専門職 情報誌「介護福祉」2020 夏季号が介護ハラスメ ント特集をし,依頼があって「高齢者の性と介護 ハラスメント」 (荒木,2020) を執筆した。支援 に際しては筆者の考えはまだ支持されているので は,と意を強くした。 ② 利用者間の好意・恋愛に基づく性的行動への対 (2) の全国の老人福祉施設における“ 性 ”調 査では,入居者同士の恋愛について施設の回答は かなり許容的なものだった。しかし,知り得た事 例では,カップルがいつも一緒にいる,手をつな いで歩いている,レベルまでは許容的でも,それ 以上の性的行為に対しては問題視されることがほ とんどだった。多床室では他者の迷惑になる,で も個室なら許されるかといえばそうでもなかった。 異性が訪れた時はドアを明けておくように,など の注意が入る。個室であっても施設は集団生活の 場であり,性的行動は集団のルールに違反すると いう暗黙のルールがあるかのように感じた。2004 年には愛知県の養護老人ホームで好きな男性との 同室を認められなかった女性が相手の男性を絞殺 するという事件が起きた。女性は男性の部屋に寝 泊まりして夜間の排泄介助をしていたが,施設側 や他の利用者からの圧力が強まり,いよいよ引き 離されるという段になって男性を絞殺したという。 施設職員の考え方如何で利用者の生活が大きく左 右される現実に胸が痛んだ。一部でカップルを支 援し,同室を認める施設はあるものの,いまだに 恋愛や性的行動は集団の風紀を乱す困った問題と とらえる施設も少なくない。今後,団塊世代の利 用者が増え,さらに利用者の権利意識は強まって いくと思われる。施設としては利用者一人一人の QOL の充実に軸足を置いて,他の利用者や家族 との調整を図っていく姿勢が求められるのではな いだろうか。施設長が「死を意識する高齢者は, 触れ合いが大事になるし生きる気力にもなる」と 愛し合うカップルのための夫婦部屋を作った養護 老人ホームがテレビで放映され,筆者もコメント したが,登場した二組のカップルの笑顔は,人は 一人でも自分を愛し必要としてくれる相手がいれ ば幸せになれると伝えてくれるようだった。 デンマークの施設で認知症コーディネーターに 利用者の性に関連して聞いた時「個室は個人の家 なので,その中での行動には関与しない。利用者 が求めれば介入するし,他の利用者,家族との関 係で問題があれば調整する」と話してくれた。 「個室は個人の家」は,重要な視点だと思った。 ちなみに,性の健康世界学会 (WAS) は,2014 年に 16 項目の性の権利宣言を採択している (性 の健康世界学会,2014 注 2 )。その中には①平等・ 差別されない権利:肌の色,財産,年齢,障害の 有無,性的指向などで差別されずに性の権利を享 注 2 性の健康世界学会 (WAS) 2014 性の権利宣言 http://www.worldsexology.org/wp-content/ uploads/2014/10/DSR-Japanese.pdf (2020 年 8 月 30 日検索)

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特別論文 受することができる。③自律性と身体保全に関す る権利:他者の権利を尊重しつつ,性行動,性行 為,性的パートナーや性的関係に関して選択する 権利,等々が謳われている。

3.  中高年のセクシュアリティに関わる 

 著書 (主著を中心に)

3-1 「ホームヘルパーブックシリーズ⑪ 在宅ケ アで出会う高齢者の性」 1999 年 中央法 著 者:荒木乳根子 本 の構成:A5 判 108 頁。目次は,①こんな時あ なたならどうしますか,②老いても性は枯れな い,③高齢者の性の実際を知る,④高齢者にと って性のもつ意味とは─事例を通して,⑤その 時ホームヘルパーは,⑥対応を考える上で知っ ておきたいこと,⑦具体的な対応方法,⑧ヘル パーに求められるもの。 2-1- (2)で触れた 1997 年調査の対象は訪問介 護員対象であり,利用者の性の問題に遭遇した人 に性的行動の内容や対応も記載してもらった。対 象者の 16%が遭遇しており,内容等の記載があ った。本著はそこで知り得た事例をベースにして いる。訪問介護員は利用者の自宅という密室で, 1 対 1 でケアをすることが多い。他職員の助力を 求めることが可能な施設に比べ,利用者の性的行 動に対する戸惑いや対応の困難さははるかに大き いと思われ,執筆動機となった。 内容は基礎的知識から具体的な対応にわたるが, 忙しいヘルパーが気軽に読めるようにと事例を多 用し,具体的な平易な物言いを心がけた。また, 筆者としては利用者の性的行動をただ嫌らしいと 矮小化した受け取り方をするのではなく,行為の 背景にある気持ちや人間を見て欲しいという思い があった。高齢者の心理や性の持つ意味など利用 者理解のベースとなる内容を述べ,具体的な対応 では心理面への理解に基づく対応を述べるよう心 がけた。援助者としては,性的言動を向けられて, その求めは拒否しても,その人自身まで拒否して しまわないで,その内面に目を向ける許容性が求 められると伝えたかった。 3-2 「カラダと気持ち ミドル・シニア版」 (共 著) 2002 年 三五館 著 者・編者:日本性科学会セクシュアリティ研究 会 (荒木乳根子・石田雅巳・大川玲子・金子和 子・早乙女智子・堀口貞夫・堀口雅子・渡辺景 子) 本 の構成:A5 判 267 頁。目次は,①熟年世代の パートナーシップと性,②熟年世代の結婚生活, ③夫婦の寝室,④男性が求める性・女性が求め る性,⑤私たちは,セックスレス? ⑥離婚・ 不倫願望の心理,⑦ミドルライフ・クライシス, ⑧男性にも更年期?まだまだ現役? ⑨最新セ ックス・クリニック,⑩より良いパートナーシ ップのために。 セクシュアリティ研究会で実施した 2000 年調 査をベースにまとめた。調査の自由記述欄から, 性は人にいえず一人悩む問題になっていることを 改めて感じ,一般書としてまとめることを企画し た。本著を読むことで悩みの解決の糸口をつかん で欲しいと考え,データに関連したカウンセリン グの事例 15 を紹介するとともに,よりよいパー トナーシップを作り上げるためのポイントや中高 年からの性生活をサポートする医療についても記 載した。 セクシュアリティ研究会のメンバーは,産婦人 科医師と女性の臨床心理士ということもあり,女 性の性のありようや悩みに寄り添った既述が多い といえるだろう。筆者としてはこれまでの性に係 わる研究や発信は男性側,男性目線のものが多か ったので,もっと女性の「カラダと気持ち」を発 信し,男性の理解を得ることが双方にとってより 良い性生活を築く上で必須と思っている。読者か らは「女性の体と気持ちを分かっていない夫に読 ませたい」,「もう 2 年前にこの本を読んでいたら, 自分は妻と離婚しないで済んだだろう」といった

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感想が寄せられた。 3-3 「カラダと気持ち シングル版」 2007 年  三五館 著 者・編者:日本性科学会セクシュアリティ研究 会 (荒木乳根子・石田雅巳・大川玲子・金子和 子・堀口貞夫・渡辺景子・堀口雅子) 本 の構成:A5 判 272 頁。目次は,①もし突然パ ートナーがいなくなったら,あなたはどうしま すか? ②変わりゆく熟年シングルの「性」,③ 今付き合っている人はいますか? ④熟年シン グル「こころの隙間」の満たし方,⑤熟年シン グル結婚願望の事情,⑥あなたは性についてど う思っていますか? ⑦熟年シングル性白書, ⑧⑨シングルライフ・多様化する胸のうち (女 性篇/男性篇),⑩「恋愛の性」と「結婚の性」 は別物ですか? ⑪⑫結婚歴がセックス意識に 影響する? (女性篇/男性篇),⑬セックスレ スは病気ですか? セクシュアリティ研究会で実施した 2003 年調 査の結果をベースにまとめた。これまで中高年の シングルの性に焦点化した調査・本はなかったの ではないだろうか,画期的との評価をもらった。 現在,配偶者がいる人も将来シングルになるかも しれない。その意味では本著のテーマはみんなの 関心事となり得ると考えた。 シングルの性は結婚の性以上に多様で,まとめ て考察するなど無謀ともいえた。例えば「結婚願 望の事情」という項目でも,男性・女性の思いの 違い,未婚・離婚・死別による思いの違いなどあ ったが,できるだけ実情に肉迫できるよう努力し た。また,個々の回答が活かせるようなまとめを したいと考え,「多様化する胸のうち」として, 回答をもとに,男女別に現在交際相手がいない人, いる人に分けて,全 37 事例を掲載した。シング ルの場合は交際相手の有無で性生活は両極端に分 かれる。データとともに事例を示すことで,中高 年のセクシュアリティには淋しさも豊かさもある ことが分かり,中高年シングルが豊かな性生活を 持つための社会や個人のヒントが示されたと思う。 3-4 「基礎から学ぶ介護シリーズ Q&A で学ぶ 高齢者の性とその対応」 2008 年 中央法 著 者:荒木乳根子 本 の構成:B5 判 122 頁,目次は①高齢者のココ ロとカラダ,②③利用者からの性的な行為への 対応 (男性利用者と女性介護職のケース/女性 利用者と男性介護職のケース),④⑤利用者同 士の関係を支える (合意のない性的行為への対 応/互いに好意をもっているケースへの対応), ⑥利用者個人の性的な行為への対応─相手のい ないケース,⑦家族との関係と接し方,⑧利用 者の人権や羞恥心への配慮,⑨「性と死」を考 えさせられた事例─性の深み ②〜⑦は各々に設問の形で各々4〜7 の事例を 上げて,それに応える形で対象者の行動をどのよ うに理解するかを述べ,理解に基づく対応・留意 点など述べた。また,項目ごとにまとめを書いた。 忙しい現場の職員にここまで求めていいのか,と いうジレンマはあったが,心理的内的欲求を読み 解くことに力点を置いた。 本著では女性利用者から男性職員への性的行動 も取り上げた。女性利用者の場合は恋心から付き まとう,他の女性に嫉妬するといった事例が多い が,男性職員の場合は性的働きかけに困惑しても 嫌悪感を持つことは少ない。しかし,一人で夜勤 の場合など,男性職員自身のセクハラと誤認され ないように配慮する必要がある。また,利用者の 性的行動以外の問題として⑦⑧⑨を加えた。「性 と死」については一般の方からの手紙に書かれて いた事例 (がん末期の高齢男性が外泊を許され, 妻と二人でホテルに行くことを強固に主張した。) をきっかけに考えるようになった。故大工原秀子 氏は「性と死を語る会」を主催し,「最後のセッ クス」の大切さを説いているが,深めるべき課題 の一つだと思っている。 本著のベースになったのは,2006 年に実施し

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特別論文 た日本老年行動科学会の老人福祉施設,在宅サー ビス機関に所属する会員を対象とした高齢者 (利 用者) の性に関わる調査である。介護職員,生活 相談員,看護師,その他の職種の 78 名より回答 を得て,さまざまな事例について知ることが出来 た。また,本の内容が現場の立場からみて,ズレ や違和感がないか,学会員の施設長や現場職員の 方に原稿を読んでもらい,修正を加えた。その意 味で学会所属の現場職員の協力で出版できた本と いえ,心から感謝している。 3-5 「高齢者の在宅・施設介護における性的トラ ブル対応法」 2015 年 黎明書房 著 者:鈴木俊夫・佐藤裕邦・荒木乳根子・遠藤英 俊 本 の構成:A5 判 132 頁,目次は第 1 章:高齢者 の性,現場での苦悩と挑戦─小項目 2,第 2 章:在宅ケアと施設の性的トラブルとその対応 法─小項目 2,第 3 章:高齢者の性とセクシュ アリティについて深める─小項目 2 本著は著者の一人,名古屋の歯科医師で居宅介 護支援事業所・訪問介護ステーションをもつ鈴木 俊夫氏の企画による。第 2 章 2「性的トラブル事 例─その状況と対応」には在宅・施設のさまざま な事例,全 58 事例を掲載。事例ごとに当事者の 対応,事業所の対応,対応後の変化,その他の所 見を掲載。必ずしも望ましい対応とは思えない事 例もあるが,様々な事例,現場の取り組みの現状 が把握できるという点で読み応えがあり,非常に 興味深い。また,第 3 章 2 は「薬剤とセクシュア リティ」で,薬剤との関係についても書かれてい る。 筆者は第 1 章 2「在宅ケアで生じる性の問題と 対応」と第 3 章 1「高齢者の性とセクシュアリテ ィの現実」を執筆した。 3-6 「セックスレス時代の中高年性白書」 (共著) 2016 年 harunosora 著 者・編者:日本性科学会セクシュアリティ研究 会 (荒木乳根子・石田雅巳・大川玲子・金子和 子・堀口貞夫・堀口雅子) 本 の構成:第 1 章:データで見る中高年のセック ス─小項目 21,第 2 章:私の体験,私の思い, 第 3 章:「座談会」中高年のセックスを語る, コラム:15 項目。 セクシュアリティ研究会の 2012 年調査をベー スにまとめた。時代とともに変化する性意識や男 女の関係性,性行動を知りたいと調査を実施した が,結果は 2000 年以降の社会の変化を如実に反 映したものだった。そのため,過去の調査と比較 して変化が大きい,あるいは男女差が大きいなど 興味深い調査結果 21 項目取り上げ,項目ごとに 見開き 2 頁のグラフを提示し,解説を加えた。ま た,自由既述欄には回答者の男性 12%,女性 19 %の記載があったので,「私の体験,私の思い」 として内容を夫婦のセックスレス,婚外セックス, 単身者の恋愛など 6 つのテーマに分けて記載,コ メントを加えた。また,筆者ら研究会メンバーに は性を挟んで男女が対等になり,女性が「ノー」 といえるようになったことを積極的に評価しなが らも,セックスレスが進展し,欲求はマスターベ ーションで解消し,あるいは配偶者以外の異性と の付き合いが増える状況で果たして良いのか,と いう疑問があった。そのため,座談会形式でセッ クスレス化の現状,結婚の枠にとらわれない性, 男女ともに楽しいと思うセックスの条件等につい て思いの丈を語り合い,内容を掲載した。性生活 については気になりながらも流してきた,という 人も多いかもしれない。本著を読んで,もう一度 自分たちの性生活を見つめ,カップルで話し合う きっかけになればと思う。 本著は尾崎純郎氏の編集で卓越したセンスの見 やすく,読みやすい本になった。 3-7 「中高年のための性生活の知恵」 (共著)   2019 年 アチーブメント出版 著 者・編者:日本性科学会セクシュアリティ研究 会 (荒木乳根子・今井伸・大川玲子・金子和

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子・堀口貞夫・堀口雅子) 本 の構成:B6 判 325 頁,目次は第 1 章:心理学 からよみとく中高年の性─小項目 11,第 2 章: 生理学からよみとく中高年の性─小項目 8,第 3 章:性と心を解決する 15 の心得,第 4 章: 性のお悩み 実例とアドバイス─女性 8 事例, 男性 7 事例。 出版元の編集者から,1960 年に出版された謝 国権著「性生活の知恵」はベストセラーとなった, 現在,性情報は溢れていても夫婦やカップルが読 んで本当に役立つ,エビデンスに基づいた性生活 の本がない,性生活の知識,知恵を一冊にまとめ たいとの申し出があった。筆者らのこれまでの研 究と臨床から得た知見を集大成し,カップルのよ り充実した性生活のために伝えたいと思っている ことをまとめる良い機会だと考え受諾した。これ までの本と異なり,本の骨組みを作り,それに沿 って筆者らが話し,ライターが原稿化し,また筆 者らが手を入れるという形で本を作成。なお,男 性の性に関する内容を充実させるためセクシュア リティ研究会メンバーの他に泌尿器科医 1 名をメ ンバーに加えた。 筆者らには夫婦間のセックスレス化が進展する 状況について,果たしてそれでいいのかという疑 問があった。人は生殖を終えた後,何もセックス にこだわる必要はない,他にも関心を惹く事柄は 多様にある,それはそうであるが……。しかし, 調査では多くのカップルでどちらかが欲求が満た されずに我慢していた。かつてのように夫婦にと って性生活は大切な営み,夫の求めに応じるのが 妻の役割といった枠組みが薄れた今,双方が互い の意思を尊重しつつ,合意に至り,双方が満足で きるセックスを営むのは「高度なコミュニケーシ ョン力を要する人間的な営み」であるといってい い。そのため性生活は「面倒くさいこと」に変貌 しつつあるのではないか,そんな不安もよぎる。 筆者らには生殖を目的としない中高年の性交渉は いわゆるセックスである必要はない。セックス= 挿入という意識を変える必要がある。それによっ て男女ともに性機能の衰えを乗り越え,性的な触 れ合い・肌の触れ合いを維持することが出来る。 そして,互いの温もりの中で安らぐことができる 関係性は生を豊かにする,という思いがあった。 内容は心理面,生理面から中高年の性について の知識を提供し,その上で,たとえ現在セックス レス化していても,如何にして触れ合いのある関 係を取り戻すか,具体的な知恵を提案している。 さらに具体的に 15 事例とアドバイスを載せた。 性に関する生理的面・性機能面についての知識は 筆者自身も参考になることが多かった。ネットか ら簡単に情報が得られても,基本的に大切な確か な知識を選択することが難しい。その意味では, 性に関する臨床に数多く携わった産婦人科医,泌 尿器科医の執筆になる第 2 章は参照に値する。性 を正面からまともに扱う本は少ない中,本著が人 生後半生の豊かな性を考えるヒントになってくれ ることを願っている。

4. おわりに

筑波大学大学院での修論を契機に思いがけなく 高齢者の性とケア,中高年のセクシュアリティを 研究テーマとすることになったが,日本老年行動 科学会,日本性科学会という二つの学会の仲間に 恵まれ,他に研究者が少ないことも相まって,調 査研究成果をさまざまな形で公表する機会に恵ま れた。 平成 9 年度版厚生白書は「高齢者は,恋愛や性 に無縁である」という神話が誤りであるというエ ビデンスの一つとして,筆者が「現代のエスプ リ」 (1992) に掲載した図から作成した図 1 を掲 載した。また,老年心理学や高齢者福祉を学ぶ学 生たちの教科書・参考書となる著書に,表 2 の① 〜⑥のように,1 章を割いて高齢者のセクシュア リティについて書く機会を得た。なかでも 1993 年発刊の「新版老年心理学」は老年心理学関係で 「老年期のセクシュアリティ」を取り上げた初め ての本ではないだろうか。

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特別論文 著者 発行年 表題名 編集者名 書籍名 ページ 発行所 ① 荒木 乳根子 1993 老年期のセクシュアリティ 井上勝也・木村修共編 新版老年心理学 pp.129-145 朝倉書店 ② 荒木 乳根子 1996 老年期のセクシュアリティ 上野加世子・村川浩一共編著 高齢者と家族 pp.147-166 中央法規 ③ 荒木 乳根子 1998 老年期のセクシュアリティ 井上勝也責任編集 最新介護福祉全書 老人の心理 と援助 pp.106-126 メジカル フレンド 社 ④ 荒木 乳根子 2000 性・セクシュアリティ-総論/性意識・性行動 日本老年行動科学会監修:編集代表 井上勝也・大川一 郎 高齢者のこころ 事典 pp.54-57pp.66-67 中央法規 ⑤ 荒木 乳根子 2005 性 井上勝也監修 高齢者の心理が分かる Q&A pp.90-102 中央法規 ⑥ 荒木 乳根子 2014 性・セクシュアリティ-総論/セクシュアリティをめ ぐる男女差/在宅高齢者の 性のケア/性と死 日本老年行動科学 会監修:編集代表 大川一郎 高齢者のこころ とからだ事典 pp.488-494pp.498-499 pp.504-505 pp.510-511 中央法規 ⑦ 荒木 乳根子 2001 セクシュアリティ 現状と特性 麻生武志編集 新女性医学大系21 更年期・老 年期医学 pp.239-249 中山書店 ⑧ 荒木 乳根子 2005 老年期の性行動,老年期女性のセックス・カウンセリ ング 日本性科学会監修 セックス・カウ ンセリング入門 pp.200-206 金原出版 ⑨ 荒木 乳根子 2011 更年期以降,メンタルヘルスに影響を与えるその他の 因子─中高年におけるセク シュアリティ 太田博明編集 ウェルエイジン グのための女性 医療 pp.151-156 メディカ ルレビュ ー ⑩ 荒木 乳根子 2018 ライフステージとセックス ・カウンセリング─老年期 女性 日本性科学会監修 セックス・セラ ピー入門 性機 能不全のカウン セリングから治 療まで pp.311-318 金原出版 表 2 書籍への分担執筆

図 1 1990 年調査 高齢者の望ましいとする異性との関係4245451719131650333830336490610109155055565929 30 193571020406080100総数60-69歳70-79歳80歳以上総数60-69歳70-79歳80歳以上男性 性交渉をもつ肌の触れ合い 精神的な愛情のみその他・無回答020406080100女性 (2)  30~60 歳代の有配偶女性の性生活調査   1997 年 ①目的 1990 年調査で明らかになった男女の性的欲求 の相違に関して,女性の
図 5 よくする身体的触れ合い(複数回答)565451383414 42162231 131214541 291002030405060708090100単身者有配偶者 (女性回答)キスをする 手をつなぐ 身体に触る抱擁する腕を組む肩を抱く肩もみ・指圧などほとんどない て許容的になってきたことを実感させられた。 本調査の詳細については,日本性科学会セクシ ュアリティ研究会 2005 中高年単身者セクシュ アリティ調査特集号 日本性科学会雑誌 23, suppl.を参照されたい。また,本調査をベース にした一
図 7 異性との親密な付き合いがある131415894 4 038322932151615 502040608010040代50代60代70代40代50代60代70 代男性女性2000年2012年 より積極的で満足度が高いことが伺われた。女性 の性交相手はほぼ交際相手であるが,男性の場合 は売買春 18%,行きずりの相手 7%が含まれてい た。性規範の緩みは有配偶者同様の傾向が見られ, 単身者の交際相手に配偶者がいる割合は男性 33 %,女性 56%と,男性において増加がみられた。 本調査の詳細については,
図 9 とっさの対応(複数回答)4101217 20 23 25 50 510 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100相手の手を叩く、「やめて」と叫ぶなど感情的に反応無視したとっさに避けた、逃げたそれとなく断った「止めてください」など、自分の気持ちをはっきり伝えたはぐらかした違う話、事柄に変えたさりげなく流した明るく冗談、ユーモアで応えた図 8 性的働きかけの内容(複数回答)891012162223242430350102030405060708090 100わざとポルノビデオ、アダル

参照

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