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認知症予防のための運動効果とこれからの課題

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 811 ~ 812 頁(2015 認知症予防のための運動効果とこれからの課題 年). 811. 分科学会シンポジウム 9(日本予防理学療法学会). 認知症予防のための運動効果とこれからの課題* 牧迫飛雄馬 1) 島 田 裕 之 1) 土 井 剛 彦 1) 1) 1) 1) 堤 本 広 大 中 窪 翔 堀 田 亮. 認知症予防の必要性 認知症のおもな原因疾患であるアルツハイマー病および脳血 管疾患に対する根治療法や予防薬の開発が確立されていない現 在において,非薬物療法による認知症の発症予防もしくは発症 遅延の可能性を検討することは重要な課題と考えられる。 認知症の 50 ~ 75%はアルツハイマー病に起因するものとさ れている。アルツハイマー病の発症リスクと関連する心身機能 状態および生活習慣として,高血圧,糖尿病,喫煙,うつ症状 などが挙げられているが,なかでも身体的な不活動はもっとも 1) 影響力の強い因子であるとされている(図 1) 。また,非薬物. 図 1 アルツハイマー病の危険因子(文献 1 より改変して作図). 療法による認知症予防を目的とした介入方法として,抗酸化物 質や抗炎症成分を多く含む食物の摂取 2),社会参加,知的活動, 生産活動への参加 3),社会的ネットワークの促進 4) が期待さ. 運動による脳機能への影響. れており,これらは認知症発症に対する保護的因子として認め. 運動介入による認知機能の維持・向上の効果を検証している. られている。ただし,これらが認知症を抑制できるとする科学. ランダム化比較試験を概観すると,主として有酸素運動もしく. 的根拠が明示されるには至っていない。現状においては,多彩. は筋力増強運動が採用されている。認知機能の向上に加えて,. な危険因子を最小限に除去することと保護因子を最大限に促進. 脳容量の増大ないしは萎縮抑制の効果も報告されている。しか. することを包括的に検討していくことが重要であろう。. 認知症予防を推進すべきターゲット. し,これらの運動介入による脳機能向上の効果は,健常成人 (高齢者を含む)を対象として示されているものが多く,MCI もしくは認知症のハイリスク者を対象とした先行研究では,そ. 認知症ではないものの正常ともいいがたい軽度の認知機能. の効果は限定的であり,十分な根拠を有しているとはいいがた. 低下を有する状態は,軽度認知障害(mild cognitive impair-. い。MCI 高齢者を対象とした運動介入のメタアナリシスの結. ment:以下,MCI)と呼ばれ,我が国での大規模調査では,地. 果,言語機能以外の認知機能に関しては有意な効果を示すに. 域在住高齢者の 10 ~ 20%程度が MCI に該当すると推定され. 至っておらず. 5). 6). ,今後さらに検証が必要である。. ている 。. また,運動介入によって認知症患者における認知機能の維. MCI 高齢者は認知症への移行する危険が高い一方で,認知. 持・向上の可能性が示されているが,その効果は限定的であ. 機能を回復する可能性が高いことも報告されている。そのた. り,認知機能の低下を緩やかにするにとどまっている 7)。むし. め,特に MCI 高齢者に焦点をあてた認知症予防は積極的に推. ろ,認知症患者においては,運動介入によって日常生活活動能. 進すべきものと考えられ,認知症発症の抑制や認知機能の向上. 力(ADL)の維持や改善,介護者の QOL 改善や負担軽減に対. に対する効果が期待される。. する効果のほうが期待される 8)。 身体活動が認知機能の向上をもたらすメカニズムとしては,. *. The Effects of Exercise for Preventing Dementia and Challenges for the Future ** 国立長寿医療研究センター 予防老年学研究部 (〒 474–8511 愛知県大府市森岡町 7–430) Hyuma Makizako, PT, Hiroyuki Shimada, PT, Takehiko Doi, PT, Kota Tsutsumimoto, PT, Sho Nakakubo, PT, Ryo Hotta: Department of Preventive Gerontology, National Center for Geriatrics and Gerontology キーワード:軽度認知障害,運動,認知機能. 神経炎症の減少,血管新生,および神経内分泌反応などが示唆 されている 9)。とりわけ,認知症の予防に寄与する観点からは, 運動によってアミロイド β 蓄積の抑制に関与が期待されるネプ リライシンの脳内活性 10)や神経細胞の生存・成長およびシナ プスの機能亢進などの神経細胞の成長を調整する脳細胞の増加 に不可欠とされる液状蛋白質のひとつである脳由来神経栄養因 子(brain derived neurotrophic factor:BDNF)の脳内での活.

(2) 812. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 今後の課題 地域在住の高齢者を対象として,地域での運動プログラムに よる介入や習慣的な運動を積極的に実施することは,身体機能 のみならず,認知機能の健康維持・向上に多くの利得をもたら すことが期待されるが,積極的な運動を苦手としていたり,適 図 2 推奨される構成要素. 切な運動が実施困難な高齢者も少なくない。また,運動実施の 意思があっても,実施するための物的および人的環境の制限や 意欲の維持が困難な状況も想定される。今後は,医療・介護施 設のみならず,地域の運動施設,地域住民,行政が協力体制を. 性が期待されている. 11). 。. 運動介入による認知症予防の戦略. とり,多くの高齢者が運動を習慣的に実施可能な環境を創るこ とも重要と考える。 認知症予防という側面からは,運動のみならず,知的活動の. 有酸素運動を中心とした運動介入が認知機能向上のほか,脳. 促進や社会参加の推進,社会的なネットワークの強化も効果が. 活動の活性促進,脳容量の増大にも有効であることが示されて. 期待される。そのため,運動以外のどのような活動をどの程度. いる。しかし,認知症発症の予防効果を有しているか否かにつ. 実施することが,認知症ないしは要介護の予防のために必要で. いては明らかとはなっていない。また,MCI 高齢者に対する. あるのかを明らかとすると同時に,個人の興味に合うように多. 運動効果は,根拠が十分とはいいがたい現状にある。我々は,. 彩なプログラムを提案できることが,認知症予防を含めた広義. 地域在住の MCI 高齢者を対象に有酸素運動,筋力トレーニン. での介護予防を推進するうえでのサービス提供者にとって課題. グ,記憶や思考を賦活しながらの運動課題といった内容を包括. になるであろう。. 的に実施する複合プログラムの効果をランダム化比較試験に よって検証した。 複合プログラムの内容は,先行研究における脳機能の向上へ の寄与が期待される有酸素運動を中心として,筋力トレーニン グや柔軟運動のほか,運動実施中に脳への刺激を同時に負荷し たトレーニング(コグニサイズ),運動習慣化の促進のための 行動変容を取り入れた多面的な運動プログラムを含むものとし た(図 2)。このプログラムでは,認知機能の向上をより効果 的に促進するために主とした有酸素運動課題(exercise)に脳 活性を促す認知課題(cognitive task)を同時に負荷するコグ ニサイズ(cognicise)を導入している。また,自治体などの地 域フィールドにおける保健福祉活動としての実施を見越し,特 殊な大型器具は必要とせずに,集団で実施するプログラムと なっており,一定期間のプログラム終了後には参加者による自 主的な活動継続や自治体としての継続的な支援が可能となるよ う配慮しつつ実施した。 その結果,運動介入によって全般的な認知機能の低下抑制, 記憶力の向上の効果が認められた。また,脳容量の 6 ヵ月間の 変化を調べたところ,運動プログラムに参加しなかった群では 脳内の容量が低下しはじめている部位の割合が 6 ヵ月後に増え る傾向が認められた。一方,運動プログラムに参加した群では 脳内の容量が低下しはじめている部位の割合に変化は認められ ず,脳の萎縮の進行は抑制されていた。これらの結果は,認知 症の予防に直結するかどうかは明らかではないものの,複合的 な運動プログラムを通して,MCI 高齢者の認知機能の向上や脳 の萎縮進行を抑制することは可能となることを示唆しており, 運動による認知症予防の可能性を示唆するものであると考える。. 文 献 1) Barnes DE, Yaffe K: The projected effect of risk factor reduction on Alzheimer’s disease prevalence. Lancet Neurol. 2011; 10(9): 819–828. 2) Morris MC, Evans DA, et al.: Dietary intake of antioxidant nutrients and the risk of incident Alzheimer disease in a biracial community study. JAMA. 2002; 287(24): 3230–3237. 3) Wilson RS, Mendes De Leon CF, et al.: Participation in cognitively stimulating activities and risk of incident Alzheimer disease. JAMA. 2002; 287(6): 742–748. 4) Fratiglioni L, Wang HX, et al.: Influence of social network on occurrence of dementia: a community-based longitudinal study. Lancet. 2000; 355(9212): 1315–1319. 5) Shimada H, Makizako H, et al.: Combined prevalence of frailty and mild cognitive impairment in a population of elderly Japanese people. J Am Med Dir Assoc. 2013; 14(7): 518–524. 6) Gates N, Fiatarone Singh MA, et al.: The effect of exercise training on cognitive function in older adults with mild cognitive impairment: a meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Geriatr Psychiatry. 2013; 21(11): 1086–1097. 7) Venturelli M, Scarsini R, et al.: Six-month walking program changes cognitive and ADL performance in patients with Alzheimer. Am J Alzheimers Dis Other Demen. 2011; 26(5): 381–388. 8) Barnes DE, Mehling W, et al.: Preventing loss of independence through exercise (PLIE): a pilot clinical trial in older adults with dementia. PLoS One. 2015; 10(2): e0113367. 9) Voss MW, Erickson KI, et al.: Neurobiological markers of exerciserelated brain plasticity in older adults. Brain Behav Immun. 2013; 28: 90–99. 10) Lazarov O, Robinson J, et al.: Environmental enrichment reduces Abeta levels and amyloid deposition in transgenic mice. Cell. 2005; 120(5): 701–713. 11) Cotman CW, Berchtold NC: Exercise: a behavioral intervention to enhance brain health and plasticity. Trends Neurosci. 2002; 25(6): 295–301..

(3)

図 1 アルツハイマー病の危険因子(文献 1 より改変して作図)
図 2 推奨される構成要素

参照

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