博 士 ( 医 学 ) 大 野 和 則
学 位 論 文 題 名
EFFECTS OF COIVIPLETE STRESS‑SHIELDING ON THE MECHANICAL PROPERTIES AND HISTOLOGY OF IN SITU FROZEN PATELLAR TENDON
(凍 結膝 蓋腱の カ学 的及 び組 織学的特性に与える除負荷の影響)
学 位 論 文 内容 の 要 旨
【研究目的】
近 年、 膝前 十字 靭帯 損傷 に対す る靭 帯再 建術が盛んに行われるようになり、
術後の移植腱のカ学的特性の変化の解明は整形外科やスホ゜ーッ医学の分野にお い て 主 要 な 研 究対 象 に な っ てい る。 この 靭帯 再建 術の 中に 移植腱 を過 度の 負 荷 か ら 保 護 す るた め に 人 工 材料 で移 植腱 を補 強す る方 法が ある。 しか しな が ら人 工材 料に て補 強す る際 に移植 腱に 生じ る除 負荷 (stress―shielding)が 移 植 腱 に 与 え る影 響 は こ れ まで 明か にさ れて いな ぃ。 関節 内に移 植さ れた 腱 の 線 維 芽 細 胞 は術 後 に 一 度 死滅 する こと から 、本 研究 では 液体窒 素を 用い て in situで 細胞 を凍結し死滅させた膝蓋腱を移植腱のモテ゛ルとして使用した。
次 に こ れ に 張 カが 完 全 に か から ない 無負 荷の 状態 を作 成し 、この 凍結 膝蓋 腱 のカ学的及び組織学的特性の変化を経時的に検討した。
【材料と方法】
実 験動 物に は体重4.0土0. lkg(平均土標準誤差)の成熟日本白色家兎63羽 を 使 用 し た 。 全家 兎 の 右 膝 関節 にお いて 膝蓋 腱の みを 周囲 組織か ら隔 離し た 後 、 液 体 窒 素 を用 い てin situで1分 間凍 結処 理し た。 次に これを 膝蓋 腱の 凍 結 群 (35羽 ) と 凍 結 除 負荷 群 (28羽 ) の ニ 群 に 分 け た 。 凍 結 除 負 荷 群 に は ステ レス製ワイヤーを膝蓋骨と脛骨結節間に設置して膝蓋骨を脛骨側に引き寄せる こ と に よ り 膝 蓋腱 に か か る 張カ を完 全に 除去 した 。左 側膝 蓋腱は 対照 群と し た 。 術 後 は 膝 関節 に 外 固 定 を加 えず ケー ジ内 で飼 育し た。 凍結群 では 術直 後 および1、2、3、6週後、凍結除負荷群では術後1、2′、3、6週後に家兎を各7羽ずっ 屠殺 し、 両側 膝か ら膝 蓋骨 ー膝蓋 腱一 脛骨 複合体を採取した。力学的特性の評 ―61―
価に各5羽、組織学的評価に各2羽を使用した。
力 学 的 特 性 の 計 測 の た め の 膝 蓋 骨 ー 膝 蓋 腱 ー 脛 骨 複 合 体 は 採 取 後ー32゜Cで 凍 結 保 存さ れ 、 試験 前 に4゜Cで 徐々 に 解 凍し た 。 膝蓋 腱 の 断 面積 (rrirri2) はarea micrometerを作 製 し0.12MPaの 圧力 下 で 測 定し 、 長 さ(mm)は0.5Nの 加 重下 に ′ キ ゛ ス を用 い て 骨へ の 腱 付着 部 間 を測 定 し た。 次 に 膝 蓋骨 と脛骨 を特製の ク゛リ ッ フ ゜ に 固 定 し 、 万 能 試 験 機 に て 毎 分20mmの 速 度 で 引 張 試 験 を 行 っ た 。 膝 蓋 腱 の 歪 の 計 測 に はvideo dimension analyzerを 用 い た 。 膝 蓋 腱 の 応 力 一 歪 曲 線 を 求 め て引 張 強 度(MPa) 、 弾 性係 数 (MPa) 及び 破 断 伸 び(X) につ い て 検討 し た 。 有 意 差 の 検 定 に はtwo‑way analysisof variancセ とt検 定 を 用 い た 。 組 織 学 的 観 察 のため の膝蓋骨 一膝蓋 腱一脛骨 複合体 は採取直 後に10% ホルマリ フ液に て固定し た。脱灰、ハ゜ラ7イ)包埋された7゛ロックを膝蓋腱の矢状面にて薄切し、ヘマトキシリンーエ オシ゛ン染色を行って顕微鏡にて観察した。
【結果】
凍 結 除 負 荷 群 の 膝 蓋 腱 の 断 面 積 は 術 後1週 か ら 凍 結 群 や 対 照 群 よ り 有 意 に 増 加 し 始 め 、3週 ま で 漸 次 増 加 し た 。 こ れ に 対 し て 凍 結 除 負 荷 群 の 引 張 強 度 と 弾 性 係 数 は 術 後1週 か ら 凍 結 群 や 対 照 群 よ り も 有 意 に 減 少 し 、 術 後6週 で は と も に 対 照 群 の15% ま で 著 明 に 低 下 し た 。 凍 結 除 負 荷 群 の 膝 蓋 腱 の 長 さ や 破 断 伸 び は 術 後3週 で は 凍 結 群 や 対 照 群 の 膝 蓋 腱 よ り 有 意 に 長 さ が 短 縮 し 破 断 伸 び が 大 き か っ た が 、 術 後1、2、6週 で は 両 実 験 群 お よ び 対 照 群 間 に と も に 有 意 な 差 は な か っ た 。 凍 結 群 の 膝 蓋 腱 は 術 後3、6週 で 対 照 群 と 比 較 し て 断 面 積 は 有 意 に 増 加 し 引 張 強 度 や 弾 性 係 数 は 有 意 に 減 少 し た が 、 膝 蓋 腱 の 長 さ や 破 断 伸 び に は 各 週 で 有 意 な 変 化 は な か っ た 。 組 織 学 的 に は 両 実 験 群 で 術 後2週 ま で は 膝 蓋 腱 に 細 胞 は 見 ら れ な ぃ が 、3週 よ り 膝 蓋 腱 に 再 生 細 胞 が 観 察 さ れ た 。 術 後6週 で は こ の 再 生 し た 細 胞 は 膝 蓋 腱 の ほ ぼ 全 域 に 散 在 し た が 、 一 部 無 細 胞 域 も 残 存 し て い た 。 凍 結 除 負 荷 群 で は 術 後2週 よ り 膝 蓋 腱 の 膠 原 線 維 束の分裂、分節化が観察された。
【考察】
膝 前 十 字 靭 帯 再 建 術 後 の 移 植 腱 の 強 度 低 下 に は 移 植 腱 に か か る 負 荷 変 化 や 骨 に よ る 移 植 腱 の 摩 耗 劣 化 、 関 節 内 血 行 障 害 、 炎 症 な ど の さ ま ざ ま な 原 因 が 考 え ら れ て い る が 、 術 後 の 移 植 腱 の 線 維 芽 細 胞 壊 死 も そ の 一 因 と さ れ て い る 。 こ の insituで の 凍 結 方 法 は こ の 線 維 芽 細 胞 壊 死 の 影 響 を 検 討 す る 目 的 で 開 発 さ れ た も の で あ る 。 こ れ に よ り 外 科 的 に 膝 蓋 腱 お よ び 膝 蓋 腱 骨 付 着 部 位 を 損 傷 す る こ と な く 細 胞 を 死 滅 さ せ る こ とが 可 能 であ り 、 膝 蓋腱 の 移 植腱 モ テ ゛ル ‑ 62ー−
として本研究で使用した。
凍 結 処理 の み を施 さ れた 膝 蓋 腱は 細 胞が 死 滅 して い る 術後1、2週 はその 断 面 積 や 強 度 に 変 化 は な かっ た が 、細 胞 が 再生 し 始め た 術 後3週よ り は膝 蓋 腱 の断 面 積 増加 や 強 度低 下 がみ ら れ た。 こ れは 膝 蓋 腱の 断 面積 や 強 度の 変化が 起き た 時 期が 再 生 細胞 に よる 膝 蓋 腱の 組 織改 変 の 時期 と 一致 し て いる ことを 示し て い る。 一 方 、完 全 に負 荷 が かか ら ない 状 態 にし た 凍結 処 理 膝蓋 腱は術 後1週か ら 断 面積 は 著し く 増 加し 、 強 度は著 しく低下 した。こ れは無負 荷の状 態で は 、 術後1、2週の細胞 が死滅し 膝蓋腱の線 維芽細胞 による組 織改変が 欠如 して い る 時期 に も 膝蓋 腱 の断 面 積 や強 度 の変 化 が 生じ る こと を 示 して いる。
膝 蓋 腱 は 線 維 芽 細 胞 と 膠 原 線 維 、 基 質 か ら 構 成 さ れ て いる 。 無負 荷 の 状 態が こ れ らの ど の 要素 に 影響 を 与 えた か を明 ら か にす る こと は 極 めて 重要で あ る 。 術 後2週 ま で は 凍 結 除負 荷 群 およ び 凍結 群 の 両群 に 再 生細 胞 はな ぃ こ とか ら 、 術後1、2週の両群 間のカ学 的特性の相 違は除負 荷による ものであ る。
よ っ て 術 後2週 ま で の 凍 結 除負 荷 群 の膝 蓋 腱の 膠 原 線維 や 基 質は 、 線維 芽 細 胞に よ る 組織 改 変 から で はな く 、 無負 荷 によ る 影 響を 直 接受 け た もの と考え られ た 。 さら に 膝 蓋腱 の 膠原 線 維 束の 分 裂、 分 節 化の よ うな 組 織 学上 の変性 変 化 も 無 負 荷 の 状 態 に 膠 原 線 維 や 基 質 が 反 応 し た 結 果 と 考 え ら れ た 。 こ れ らの 研 究 結果 か ら全 く 負 荷の か からな い完全なstress―shieldingの状 態は 短 期 間に 移 植 膝蓋 腱 のカ 学 的 特性 に 悪影 響 を 与え る こと が 示 唆さ れた。
近年、膝前十字靭帯再建術後のりハヒ゛リテーションの期間に移植腱を過度の負荷から 保護 す る 目的 で 、 いろ い ろな 人 工 補強 材 料が 開 発 され 臨 床応 用 さ れて いる。
しか し な がら こ れ らの 補 強材 料 に より 移 植腱 に 生 じる 様 々な 程 度 のstress― shieldingが 移 植 腱 に 悪 影 響を 与 え るの か 、 移植 腱 の保 護 に 有効 な のか は 依 然と し て 明ら か に され て はい な ぃ 。今 後 、臨 床 的 に有 用 な再 建 靭 帯補 強材料 を開発す るため、 移植腱へ の至適ストレスに関するさらなる研究が必要である。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
EFFECTS OF COMPLETE STRESS‑SHIELDING ON THE MECHANICAL PROPERTIES AND HISTOLOGY OF IN SITU FROZEN PATELLAR TENDON
(凍結 膝蓋腱の カ学的及 び組織学 的特性に 与える除負 荷の影響)
本 研 究 の目 的 : 膝前 十 字靭 帯 損 傷に 対 する靭帯 再建術で 移植腱を 過度の負 荷から保 護 す るために 人工材料 で移植腱 を補強す る方法が ある。人工 材料にて 補強する際に移植腱 に 生じる除 負荷(stress・shielding)が 移植腱に与える影響はこれまで明かにされていな い。本研究では液体窒素を用いてin situで細胞を凍結し死滅させた膝蓋腱を移植腱のモデ ル とレて使 用し、こ れに張カ が完全に かからな い無負荷の 状態を作 成し、この凍結膝蓋 腱 の カ 学 的 及 び 組 織 学 的 特 性 の 変 化 の 経 時 的 を 観 察 す る こ と で あ る 。 材 料と方法 :実験動 物には成 熟日本白 色家兎63羽 を使用し、 全家兎の右膝関節において 膝 蓋腱のみ を液体窒 素を用い てin situで1分間 凍結処理 した。これ を二凍結群と凍結除 負荷群の群に分け、凍結除負荷群にはステンレス製ワイヤーを膝蓋骨と頸骨結節間に設置し て 膝蓋腱に かかる張 カを完全 に除去し た。左側 膝蓋腱は対 照群とし た。術後は膝関節に 外 固定を加 えずケー ジ内で飼 育した。 力学的特 性の計測の ための膝 蓋骨一膝蓋腱一脛骨 複 合 体 は採 取 後‑32℃ で 凍結 保 存 され 、試 験前に4℃ で徐々に 解凍した 。膝蓋腱 の断面 積(1111‑112)、長さ(mm2)を測定 した。次に膝蓋骨と頸骨を特製のグリップに固定し、
万 能 試 験機 に て 毎分20mmの 測度 で 引 張試験 を行った 。組織学 的観察の ための膝 蓋骨・
膝 蓋腱一頸 骨複合体 は採取直 後に10%ホ ルマリン 液にて固定 し、顕微鏡にて観察した。
結 果 : 凍結 除負荷 群の膝蓋 腱の断面積 は術後1週 から凍結 群や対照 群より有 意に増加 し
志 彦
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始 め 、3週 ま で 漸 次 増 加 し た 。 こ れ に 対 し て 凍 結 除 負 荷 群 の 引 張 強 度 と 弾 性 係 数 は 術 後1 週 か ら 凍 結 群 や 対 照 群 よ り も 有 意 に 滅 少 し 、 術 後6週 で は と も に 対 照 群 の15% ま で 著 明 に 低 下 し た 。 凍 結 除 負 荷 群 の 膝 蓋 腱 の 長 さ や 歪 は 術 後3週 で は 凍 結 群 や 対 照 群 の 膝 蓋 腱 よ り 有 意 に 長 さ が 短 縮 レ 歪 が 大 き か っ た が 、 術 後1、2、6週 で は 両 実 験 群 お よ び 対 照 群 間 に と も に 有 意 な 差 は な か っ た 。 凍 結 群 の 膝 蓋 腱 は 術 後3、6週 で 対 照 群 と 比 較 し て 断 面 積 は 有 意 に 増 加 し 引 張 強 度 や 弾 性 係 数 は 有 意 に 減 少 し た が 、 膝 蓋 腱 の 長 さ や 歪 に は 各 週 で 有 意 な 変 化 は な か っ た 。 組 織 学 的 に は 両 実 験 群 で 術 後2週 ま で は 膝 蓋 腱 に 細 胞 は 見 ら れ な い が 、3週 よ り 膝 蓋 腱 に 再 生 細 胞 が 観 察 さ れ た 。 術 後6週 で は こ の 再 生 し た 細 胞 は 膝 蓋 腱 の ほ ぼ 全 域 に 散 在 し た が 、 一 部 無 細 胞 域 も 残 存 レ て い た 。 凍 結 除 負 荷 群 で は 術 後2 週より膝蓋腱の 膠原線維束の分裂、分節化が観察された。
考 察 : こ れ ら の 研 究 結 果 か ら 全 く 負 荷 の か から ない 完全 なstress・shieldingの 状態 は短 期 間 に 移 植 膝 蓋 腱 の カ 学 的 特 性 に 悪 影 響 を 与 え る こ と が 示 唆 さ れ た 。 近 年 、 膝 前 十 字 靭 帯 再建術後のりハ ヒ゛リテーションの期間に移植腱を過度の負荷から保護する目的で、いろいろな人 工 補 強 材 料 が 開 発 さ れ 臨 床 応 用 さ れ て い る 。 レ か し な が ら こ れ ら の 補 強 材 料 に よ り 移 植 腱 に 生 じ る 様 々 な 程 度 のstress: shieldingが移 植腱 に悪 影響 を与 える のか 、移 植腱 の保 護 に 有 効 な の か は 依 然 と し て 明 ら か に さ れ て は い な い 。 今 後 、 臨 床 的 に 有 用 な 再 建 靭 帯 補 強 材 料 を 開 発 す る た め 、 移 植 腱 へ の 至 適 スIレ ス に 関 す る さ ら な る 研 究 が 必 要 で あ る 。 本 論 文 の 口 頭 発 表 に あ た り 、 大 浦 教 授 よ り 線 維 芽 細 胞 のremodelingに 与 え る 影 響 に つ い て 、 寺 沢 教 授 か ら 腱 の 断 面 積 の 測 り 方 、 腱 の 引 張 速 度 な ど に っ き 質 問 が あ り 、 申 請 者 は 概 ね 妥 当 な 解 答 を な し え た 。 そ の 後 、 大 浦 教 授 、 寺 沢 教 授 か ら 個 別 に 審 査 を 受 け 合 格 との返事を戴い た。
本 論 文 は 移 植 腱 の 実 験 モ デ ル と な り 、 本 法 を 応 用 し て 移 植 腱 に 関 す る 各 種 の 実 験 が 行 な わ れ る よ う に な り 本 領 域 の 研 究 に 寄 与 す る こ と が 極 め て 大 き く 、 博 士 ( 医 学 ) に 相 当 す るものと認めた 。