博 士 ( 医 学 ) 島 明 子
学 位 論 文 題 名
農業従事者と非正規雇用者における更年期症状の発現頻度と ス トレ ス対処能力,職業的要因の影響に関する検討
学位 論文内容の要旨
【背景と目的】
中 高 年 女 性 のQOLは 更 年 期症 状 に よ って 低 下 す る. 更 年 期 症状 の 発 現 に影 響 す る 要因 に は , 卵 巣 機 能 の 低 下 に よ る 身体 的 要 因 や心 理 的 要 因, 社 会 文 化的 要 因 の3要 因 があ る . 多 要 因 が相 互 に 影 響す る た め に, 更 年 期 症状 の 発 現 の仕 方 に は 個人 差 が 大 きく , 症 状も 多様 で あ るこ と , 症 状の 性 質 は 必ず し も更 年期に 特有の もので はなぃ, などが その特 徴であ る.
し た がっ て , 更 年期 症 状 の 緩和 の た め には 単 一 の 治療 法 で は なく , 女 性 の生 活 全 体を 包括 したアプローチが必要となっている.
更年 期 症 状 への 影 響 要 因に 関 し て ,心 理 的 側 面で は 神 経 気質 な ど の 性格 特 性 , 加齢や 閉 経 に 対す る 否 定 的な 考 え 方 が症 状 の 発 現を 高 め る とい う 報 告 があ る が , 症状 の 緩 和要 因を 検 証 し た 調 査 は 少 な ぃ , 症 状 の 緩 和 要 因 の ー っ で あ る ス ト レ ス 対 処 能 力 (Sense of Coherence:SOC)の 影 響 に つ いて 韓 国 人 女性 を 対 象 とし た 報 告(Cliung,1999)があ る が , 更 年 期症 状 の 発 現の 仕 方 は 女性 が 帰 属 する 集 団 の 文化 風 土 が影響 するた め(Melby,2005), 社 会 文 化 的 背 景 が 異 な る 日 本人 女 性 に おい て もSOCが 症状 の 緩 和 要因 で あ る かど う か は 明 ら か で な い . 社 会 的 側 面 で は , 職 業 性 ス ト レ ス が 閉 経 年 齢 を 早 め る と い う 報 告 (Cassou,2007)は あ る もの の , 女 性の 就 労 が 更年 期 症 状 の発 現 に ど の程 度 影 響 する かに 着 目 し た研 究 は 少 ない . 女 性 の労 働 力 率 が増 加 し , 雇用 情 勢 が 変化 す る 現 在に お い て, 女性 の 職 業 的 要 因 と 更 年 期 症 状 発現 と の 関 連性 を 検 討 する こ と は ,就 労 女 性 のQOL維 持 の た め 重要である,
本調 査 の 目 的は , 就 労 女性 の 持 つ 心理 社 会 的 要因 が 更 年 期症 状 発 現 にど の 程 度 影響す る か に つ い て , 第 一 点 は ス ト レス 対 処 能 力(SOC)と 更年 期 症 状 の発 現 と の 関連 性 を , 第二 点 は 職 種 や 職 業 性 ス ト レ ス と 更 年 期 症 状 と の 関 連 性 を 明 ら か に す る こ と で あ る .
【対象と方法】
本調 査 は 質 問紙 郵 送 法 によ っ て 横 断的 調 査 を 実施 し た . 目的 変 数 に は更 年 期 症 状を設 定 し , 説明 変 数 に は, 閉 経 の 状態 ,SOC, 職業 的 要 因 (職 種 , 職業性 ストレ ス度,仕 事の不 安 定さ),ライフスタイル要因(肥満度,喫煙)を設定した.
対象 者 は , 年齢 が 日 本 人の 閉 経 年齢で ある45〜 55歳で 自然閉 経の時期 に該当 する女 性を 対 象 とし た , 職 業は 農 業 従 事者 と 非 正 規雇 用 労 働 者を 設 定 し ,各 職 種 に1,000名ず つ合 計 2,000名 へ 質 問 紙 を 配 布 し た . 調 査 期 間 は , 平 成19年12月 〜 平 成21年3月 と し た . 質 問 紙 は , 更 年 期 症 状 の発 現 頻 度 を把 握 す る ため に 簡 略 式更 年 期 指 数(SMI)を 用い た . SMIは,「のばせ」,「汗をかく」,「手足・腰の冷え」,「動悸」,「憂鬱」,「いらいら・怒りや すい」,「不眠」,「頭痛・眩暈」,「肩こり」,「疲労」の10症状で構成されている,0点〜100 点 の 範囲 で 高 得 点ほ ど 重 症 化を 示 し ,51点 以 上 では 何 ら か の医 学 的 介 入を 要 す る という 診 断 基 準 が あ る . ス ト レ ス 対 処 能 カ の 把 握 に は , 日 本 語 版SOC13項 目5件法 を 用 い た, 職 業
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性 ス ト レ ス の 把 握 に は , 日 本 語 版JCQを 使 用 し て 職 業性 スト レス 度 と仕 事の 不安 定さ の 程 度 を 測 定 し た . 倫 理 的配 慮に つ いて ,北 海道 大学 ・ 医の 倫理 委員 会 の承 認を 得て 研究 を 開 始 し , 疫 学 調 査 指 針 に 則 っ て 調 査 を 遂 行 し , 個 人 情 報 保 護 に 配 慮 し た .
【結果】
全 体 で868名 か ら 回 答 が あ り , 回 収 率 は43.4% で あっ た. 年齢45〜 55歳 の自 然閉 経 に 該 当す る女 性 は454名で あ った ,職 種の 内 訳は ,農 業従 事者 が293名 (64.5%) で 非正 規雇 用者が161名(35. 5Y0)であった.対象 者の特性にっいては,平均年 齢はMean50. 53歳土SD2. 91 歳 であ った .BMI23 (kg/m2)以上に該当した者は,非正規 雇用者では55名(34.2%) ,農業従 事 者 で は137名 (46.8% ) を 示 し , 農 業 従 事 者 のBMIが 有 意 に 高 か っ た(p:ニ ,01) . 更 年 期 症 状 の 発 現 割 合 は , 本 調 査 で はSMI51点 以 上の 「医 学的 介 入を 要す る」 に該 当 す る 女 性 が21.1% を 占 め て い た .SOC得 点 は , 全 体 でMean 42.9土SD 6.9,Median 43.0と な っ た ,SMI得 点 お よ びSOC得 点 は , 職 種 間 で 統 計 的 有 意 な 差 異 を 認 め な か っ た. 職業 性 ス ト レ ス 指 数 は , 非 正 規雇 用者 で はMean0.58土SD0.14, 農業 従事 者 はMean0.49土SDO.10 を 示 し , 非 正 規 雇 用 者 の ス ト レ ス 指 数 が 農 業 従 事 者 に 比 べ て 有 意 に 高 か っ た . SMI51点 以 上 の 医 学 的 介 入 を 要 す る 重 症 群 に 影 響 を 示 し た 要 因 は , 「 閉 経 の 有 無 」 (OR=1. 73,95%CI:1.05―2.85)と「SOCj (OR=2.22,95%CI:1.33―3.72)の2要因であった.
既 閉 経 者 は 未 閉 経 者 に 比 較 し て 重 症 化 の り ス ク が高 く,SOCの低 得 点者 が高 得点 者に 比 較 し て重 症化 の りス クが 高か った . 症状 の重 症度 に対 す る職 業的 要因の影響は認めな かった.
【考察】
先 行 研 究 に よ る と , 更 年 期 症 状 はSMI51点 以 上 の 医学 的介 入を 要 する レベ ルの 発現 頻 度 は , 都 市 部 と 農 村 地 域に おけ る45 ‑ 58歳の 女性1,461名 の うち 、約6〜70で ある と報 告 が あ る ( 工 藤 ら ,2005) . 先 行 研 究 に 比 較 す る と 本 調 査 対 象 者 の 更 年 期 症 状 の発 現割 合 は 21.1% で 高 頻 度 で あ った .更 年 期症 状の 発現 割合 が 高か った 理由 と して ,先 行研 究と 比 較 す ると ,「 ほ てり 」と 「発 汗」 の 発現 頻度 が高 かっ た こと ,BMI23 (kg/m2)以上 に 該当 する 群 の頻 度が 高 かっ たこ とが 挙げ ら れる .先 行研 究で は ,「 ほて り」の発現頻度は36. 9%であ る のに 比べ て 本調 査で は46.7% を 示し ,「 発汗 」の 発 現頻 度は ,先行研究による45.6%に比 較 し て 本 調 査 で は62.3% と 高 頻 度 で あ り , 卵 巣 機 能 の 低 下 に 特 異 的 に 反 応 し や す い Vasomotor symptomsの 頻 度 が 高 か っ た め で あ る と考 える .Vasomotor symptomの 発現 頻 度 はBMI23 (kg/m2)以 上 の 女 性 で 有 意 に 高 く な る と 指 摘(Ishizukaら,2008)が あり ,本 調 査 で BMI23 (kg/m2)以 上 に 42.3% が 該 当 し た こ と が 影 響 し た と 思 わ れ る . 本 調 査 に 韜 い て もSOCが 更 年 期 症 状 の 緩 衝 機 能 を 果た して いる こ とが 示唆 され ,先 行 研 究 を 支 持 し た . 山 崎 ら は ,SOCと は 環 境 と 自 己 と の 相互 関係 から な るそ の人 の感 覚や 向 き 合 い 方 の 表 現 で あ る と 述 べ て い る . 本 対 象 者 に おい てSOCが 更年 期 症状 の影 響要 因で あ る こ と を 示 し た こ と は ,個 人の 物 事や 状況 に対 する 向 き合 い方 や構 え の特 性が ,症 状の 発 現 頻 度 ヘ 影 響 す る こ と をあ らわ し てい る. 一方 で, 職 業的 要因 は更 年 期症 状に 影響 を認 め な か っ た こ と か ら , 職 業性 スト レ スよ りも むし ろ個 々 の女 性の スト レ ス対 処カ の影 響が 大 き いと考えら れる,
研 究 の 限 界 と し て ,非 正規 雇 用者 や農 業従 事者 の 調査 対象 者の 偏 りを 排除 でき なか っ た こ と や , 地 域 差 と 職 種 の 差 異 の 影 響 を 判 別 し き れ な か っ た こ と が あ げ ら れ る .
【結論】
本 調 査 対 象 者 の 更 年 期 症 状 の 発 現 頻 度 は 先 行 研究 に比 較 して 高頻 度で あり ,Vasomotor symptomsとBMI23 (kg/m2)以上 の該 当者 が 多い こと が影 響し て いた .更 年期 症状 に 対す る影 響 要 因 と し て ,SOCが 症 状 の 発 現 に 緩 衝 作 用 を 示 す こと が明 らか と なっ た, 個々 の女 性 が 生 活 の な か で 培 っ た 物 事 へ の 向 き 合 い 方 の 特 性 を 踏 ま え た ケ ア の 重 要 性 が 示唆 され た .
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学位 論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
農業従事者と非正規雇用者における更年期症状の発現頻度と ス トレス 対処能力,職業的要因の影響に関する検討
近年、本邦だけでなく世界的に就労女性の更 年期症状と労働環境の関わりにっいて研究 が進められている。本研究は閉経の有無、ストレス対処能力(SOC)、職業的要因(職種・職 業性ストレス)、ライフスタイル要因(肥満度・喫煙)、抑うつ度と、更年期症状の関連性 を 質 問 紙 郵 送 法 に よ る 横 断 的 調 査 に よ っ て 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し た 。 申請者は、質問紙郵送法による横断的調査を 実施し、目的変数には、簡略式更年期指数 (SMDを、説明変数には、閉経の有無、ストレス 対処能力(SOC)、職業的要因 (職種・職業 性ストレス)、ライフスタイル要因(肥満度・喫煙)、抑うつ度を設定した。45〜55歳の女 性を 該当 基準 の対 象とした。 職業は農業従事者と非正規雇用労働者を設定し、各職種 に 1,000名 ずつ 合計2,000名ヘ 質問紙を配布した。調査期間は、平成19年12月〜平成21年 3月を設定した。
結果として、有効回答数868名(回収率43.4%)、うち、該当基準の対象に含まれた女性 は454名(52.3%) であった。 更年期症状の発現頻度を示す簡略式更年期指数(SMI) 51点 以上の医学的介入を要する重症群に影響を示した要因は、「閉経の有無(オッズ比‑1.73、 95%信頼区間:1.05‑2.85)」と「SOC(オッズ比‑ 2.22、95%信頼区間:1.33‑3.72)」の2 要因であった。既閉経者は未閉経者に比較して 重症化のりスクが高く、SOCの低得点者が 高得点者に比較して重症化のりスクが高かった 。
本研究の考察として、更年期症状の発現に影 響を与える要因のうち、SOCが症状の発現 に緩衝作用を示すことが明らかとなった。SOCが更年期症状の発現に緩衝機 能を果たして いることは、山崎らの先行研究(「SOCとは環境と自己との相互関係からなるその人の感覚 や向き合い方の表現である」と述べている)を 支持するものである。本研究においてSOC が更年期症状の発現に影響を与える要因である ことを示したことは、個人の物事や状況に 対する向き合い方や構えの特性が、症状の発現頻度へ影響することを示唆し、結論として、
個々の女性がそれぞれの生活の中で培った物事 への向き合い方の特性を踏まえたケアを行 うことが重要であることが示された。
本研究の公開発表では、まず始めに、副査の 水上教授から、特に臨床症状に焦点を当て た問題、すなわち、職業性ストレスとSMIの各症状項目との間の関連性、ホ ットフラッシ ユの症状と肥満の間の関連性についての質問が あった。次いで、副査の寺沢教授から、手 法に焦点を当てた問題、すなわち、年齢範囲の 設定の妥当性、アンケート回収率の問題に
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次
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一
政
尚
浩
沢
上
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授
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教
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査
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主
副
副
ついての質問があった。最後に、主査・指導教員の前沢から、研究上必要な幅広い関連知 識に焦点を当てた問題、すなわち、男性農業従事者における健康格差、更年期障害とうつ 病の症状の重複に関する質問をした。
水上教授からの質問に対して、申請者は、調査対象者が農業従事者とパート労働者でい ずれもストレスの多い状況であり、SMI に影響を与える可能性が高かったこと、肥満であ ると自律神経のコントロールが乱れやすいためホットフラッシュを起こしやすい可能性が ある旨を回答した。寺沢教授からの質問に対して、申請者は、対象年齢はアンケート配布 者の判断に委ねられた点、回答欄が多く全項目回答者が少なくなった旨を回答した。前沢 からの質問に対して、申請者は、男性農業従事者で健康格差が大きい可能性があること、
今回はうつ病の可能性のある群を除外したために全体的な健康状態の把握に結びっきにく い旨を 回答した 。申請者 の回答は いずれの 質問・指摘に対しても的確であった。
この論文は、北海道医学雑誌で高く評価され、今後の就労女性の更年期症状と労働環境 の関わりを調査する上での基盤的研究として、さらなる研究の進展が期待される。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。
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