博 士 ( 農 学 ) 小 林 弘 明
学位論文 題名
米価 政策の経 済効果 と米の供給構造に関する計量分析
学位論文内容の要旨
わが 国の 米経済 ある いは これ に関連 する 政策 のあり 方に 関する議 論 は近 年に なるほ どそ の厳 しさ を増し てき てい るとい う状 況を踏ま え 、本 論文 では、 マク ロ的 な視 点に立 ちつ つ、 わが国 米経 済のゆく え を見 通す うえで の知 見と なる 、現行 の米 にか かわる 諸施 策の影響 にっいて計量的に評価する分析を行った。
第1 章では、゛第1 に、実態分析として、米の需給と関連諸施策の動向を 叨らかにし、第2 に、米の需要、供給の各価格弾力性の火きさを計量的に 検討した。需要の価格弾力性については、従来行われてきたタイムシリー ズデ一夕を用いた統計分析の範囲内においても、結果は、常識的に許容さ れやすい範囲に収束することが示された。今なお検討すべき余地が大きい と判断されたのは、特にわが国における米供給の価格弾力性の計量的把握 にあり、過去の計測例をみても、安定的な結果の得られていなぃことが確 認された。この点に関する主要な結諭は、従来のような計量的分析の中で 米供給の価格弾力性を捉えることは基本的に困難であり、代替的な手法が 必要ということである。
第2 章では、まず米の生産調整にかかわる実態を明らかにし、さらにそ の事実認識のもとで、農産物需給の動向、水田を中心とするわが国農用地 利用の動向および繁殖メス牛飼養の動向という3 っの祝点から、「水田転 作政策」における経済効果の諸側面が計量的に明らかにされた。ここで、
水田転作政策の展開と農川地利用との相互関連は、わが国の米の潜在生産
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カを規定する転作田の稲作への復帰可能性について考察する上での知見を 提供するものとなる。また、農用地利用との関連においては、水田転作に よる米以外の作物生産の支持が、結果として従来の生産活動を圧迫するな いしは後退させるものであることが指摘された。
この最後の点は、農産物需給の巾でも、特に野菜需給と水田転作との関 連を考察する場合に重要性が高い。野菜需給との関連について詳細な分析 を行ったのが第3 章である。
第3 章では、第
1に、米生産調整の開始から昭和
50年代後半にかけて、
丶 一
転作による野菜作付の増加を、転作によらない従来の野菜作付の減少が相 殺するかたちで、作付面積全体の調整が達成されてきたことが示され、第
2に、野菜価格の変動を、転作をはじめとするいくっかの要因により定量 的に説明する要囚分解分析を行い、特に昭和50 年代後半の時期に、転作野 菜 が 野 菜 需 給 を 緩 和 さ せ る 重要 な 要因 と なっ た こと が 示さ れ た。
第4 章以下の分析は、第
1章におぃて提起された,わが国米供給における 価格反応を計量的に捉えるための代替的方法の必要性を念頭においた米の 供給構造の分析であり、通常行われているマクロ的な視点からの需給分析 を、生産費分布および規模分布という生産構造に関連づけることに主眼を おぃたものである。
第4 章におぃては、第1 に、米生産費分布と供給構造との関連が、新古 典派的な部分均衡分析の枠組みの中で理論的に整理されるとともに、生産 費分布により米の供給構造なぃしは供給曲線の形状を類推することの意義 を明らかにした。第1 に実証分析として、現実の生産費分布が、゛『米生産 費調査』の個票を組み替え集計することにより把握され、さらにいかなる 価格水準のもとで、米の供給ないしは生産が放棄されるかという意味での 米生産者の採算を考慮した新たな生産費分布が試算された。この新たな生 産費分布は、多くの場合小規模な生産者の稲作労働の自己評価は低く、彼 らは相当程度の低米価のもとでも米生産を放棄することはないという見解
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に つ い て 、 一 定 の 計 量 的 な 評 価 を 与 え た 生 産 費 を 計 測 し た も の で あ る 。 こ の 試 算 結 果 は 、 実 績 と し て 観 察 さ れ る 米 生 産 者 の 退 出 行 動 と 矛 盾 す る も の で は な い こ と が 示 さ れ た 。
第5章 で は 、 第1に 、 氷 市 場 の 開 放 を 主 弓 長 す る 見 解 の 一 例 と し て1990年 に 発 表 さ れ た 政 策 構 想 フ オ ー ラ ム に よ る 政 策 提 言 を 取 り 上 げ 、 第4章 で 試 算 さ れ た 生 産 費 分 布 が わ が 国 の 米 の 供 給 構 造 を 反 映 す る と み た 場 合 、l司捉 言 の 前 提 条 件 が 現 実 妥 当 性 を 有 す る も の か 否 か を 検 討 し た 。 こ れ は 第4章 で 示 さ れ た 分 析 結 果 の ひ と っ の 適 用 例 で あ る 。 同 提 言 の 現 実 妥 当 性 に 対 し て は 否 定 的 な 結 諭 が 導 か れ た が 、 よ り 立 ち 入 っ た 評 価 を 与 え る た め に は 、 将 来 の 生 産 費 水 準 を 左 右 す る ひ と っ の 人 き な 構 成 要 素 で あ る 稲 作 に お け る 規 模 拡 大 な い し は 規 模 分 布 構 造 変 化 の 方 向 性 に 関 す る 評 価 が 必 要 で あ る こ と が あ わ せ て 指 摘 さ れ た 。
第2に 、 第4章 の 分 析 結 果 の 第2の 適 用 例 で あ る 「 生 産 費 分 布 か ら 類 推 さ れ る 」 わ が 国 米 の 国 内 「 需 給 均 衡 価 格 」 の 試 算 が 示 さ れ た 。 米 の 国 内 需 給 均 衡 が 昭 和 63年 産 基 準 で み た 現 状 よ り も20% 以 上 低 い 米 価 水 準 で は 達 成 で き ず 、 し た が っ て 仮 に 米 の 「 国 内 自 由 化 」 の も と で も 、 そ れ ほ ど 大 幅 な 米 価 の 下 落 は 予 想 で き な い こ と が 示 さ れ た 。 実 績 と し て 得 ら れ る と こ ろ の 生 産 費 分 布 に 基 礎 を お く 第4お よ び 第5章 に お け る 分 析 は 、 時 間 の 経 過 な い し は 生 産 構 造 の 変 化 を 前 提 と し な い と い う 意 味 で 、 少 な か ら ず 静 態 的 な も の で あ る 。
所 与 の 技 術 的 条 件 を 前 提 と し た 場 合 で も 、 規 模 分 布 構 造 の 変 動 は マ ク ロ で み た 生 産 費 を 変 化 さ せ る 。 従 来 の 多 く の 研 究 で も 、 規 模 分 布 で み た 生 産 構 造 の 改 善 、 っ ま り よ り 規 模 の 大 き な 生 産 者 へ の 生 産 の 集 積 如 何 が 主 要 な 論 点 と さ れ 、 ま た 、 政 策 的 与 件 と し て の 重 要 性 が 大 き な 米 価 と の 関 連 を し ば し ば 論 点 の ひ と っ と な っ て い る 。
第6章 は 、 こ の 規 模 分 布 で 示 さ れ る と こ ろ の わ が 国 の 稲 作 生 産 構 造 を 取 り 扱 っ た も の で あ り 、 米 価 お よ び 生 産 調 整 と い う 、 マ ク ロ 的 祝 点 か ら 捉 え
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た場合に、最も重要と思われる2 っの政策変数との関連が分析された。主 要な結論は、稲作における構造改善は趨勢としては進みつっある中で、米 価の下落は比較的小規模層の生産者数シェアを低下させ、生産調整の強化 は比較的小規模層の生産者数シェアを上昇させる、また、ある程度の時間 的経過を考慮すれば、米価を引き下げることが稲作における構造改善を進 めるものであるが、その効果は大きなものではなく、近い将来に例えば2
ha以上層が広範に存在するという状況は期待しがたぃというものである。
以上のように本論文は、実態としてのわが国の米の需給構造を統計的に
明らかにするとともに、所与の経済環境のもとで予想される米経済の展望
を示すものである。また、米の供給構造を計量的に把握するための分析方
法として、従来一般的であったマク口データによるタイムシリーズ分析の
限界を明らかにし、代替的な方法としての生産費分布を用いた分析手法を
提示している。それは従来の計量経済学的な研究には見られなぃ、方法諭
上の利点を有しており、他のいくっかの農産物の供給構造に関する分析に
も適川可能である。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学 位 論 文 題 名
米 価 政 策 の 経 済 効 果 と 米 の 供 給 構 造 に 関 す る 計 量 分 析
本論文は、総頁数
195頁、図27 、表37 を含む邦文論文である。別に 参考論文16 編が添えられている。
本論文は、わが国の米の供給構造に関する従来の計量経済学的研 究において試みられることのなかった、生産費分布および規模分布 を用いた分析方法を提示し、さらにこの分析方法を実証的に適用し、
マクロ的な視点に立ちっつ、わが国米経済のゆくえを見通すうえで の有益な知見を提供している。
第1 章では、第
1に米の需給と関連諸施策の動向を明らかにし、
第
2に米の需要と供給の各価格弾力性の大きさを計量的に再検討し た。需要の価格弾力性について
iま、従来言われてきたほぼゼロとい う統計分析結果が有効性をもっが、米供給の価格弾力性の計量的把 握には解決されるべき問題が残されており、従来の手法に代わる分 析手法が必要であると結諭づけられた。
第2 章では、農産物需給の動向、農用地利用の動向および繁殖メ ス牛飼養の動向という3 っの祝点から、「水田転作政策」の経済効 果の単収変動等を計量的に明らかにした。水田転作による米以外の 作物生産支持政策が、結果として従来の生産活動を圧迫ないしは後 退させること等が明らかにされた。
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雄 生
久 彦
俊 長
時 克
柳 戸
井 村
黒 七
土 出
授 授
授 授
教
教 教
教 助
査 .
査 査
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主 副
副 副
第3章 で は 、 水 田 転 作 と 野 菜 需 給 と の 関 連 構 造 が 分 析 さ れ 、 転 作 に よ る 作 付 の 増 加 を 、 転 作 に よ ら な い 従 来 の 野 菜 作 付 の 減 少 が 相 殺 す る か た ち で 、 作 付 面 積 全 体 の 調 整 が 達 成 さ れ て き た こ と が 示 さ れ た 。 さ ら に 、 野 菜 の 価 格 伸 縮 性 関 数 及 び 野 菜 価 格 変 動 の 要 因 分 解 の 分 、 析 に よ り 、 特 に 昭 和50年 代 後半 の 時 期に 、 転作 野 菜 が野 菜 需給 を 緩 和 さ せ る 重 要 な 要 因 と な っ た こ と が 示 さ れ た 。
第4章 以 下 は 、 本 論 文 に よ り 提 示 さ れ た 新 た な 生 産 費 分 布 を 用 い た 米 の 供 給 構 造 の 分 析 で あ る 。
ま ず 第4章 で は 、 第1に 、 米 生 産 費 分 布 と 供 給 構 造 と の 関 連 が 、 新 古 典 派 的 な 部 分 均 衡 分 析 の 枠 組 み の 中 で 理 論 的 に 整 理 さ れ る と と も に 、 生 産 費 分 布 に よ り 米 の 供 給 構 造 な い し は 供 給 曲 線 の 形 状 を 分 析 す る こ と の 意 義 が 明 ら か に さ れ た 。 第2に 実 証 分 析 と し て 、 現 実 の 生 産 費 . 分 布 が 、 『 米 生 産 費 調 査』 の 個票 を 組 み替 え 集 計す る こと に よ り 把 握 さ れ た 。 さ ら に 生 産 者 米 価 を 低 く 想 定 す る ケ ー ス 別 に 、 米 の 供 給 な い し 生 産 放 棄 と い う 意 味 で の 米 生 産 者 の 採 算 を 考 慮 し た 新 た な 生 産 費 分 布 が 推 定 さ れ た 。
第5章 で は 、 第 1に 、 米 市 場 の 開 放 を 主 張 す る 政 策 構 想 フ ォ ー ラ ム に よ る 政 策 提 言 (1990年 ) を 取 り 上 げ 、 第4章 で 得 ら れ た 分 析 結 果 に も と づ く な ら ば 、 同 提 言 に よ る 生 産 費 低 減 の 可 能 性 は 現 実 妥 当 性 を も た な い こ と が 明 ら か に な っ た 。 第2に 、 「 生 産 費 分 布 か ら 推 定 さ れ る 」 わ が 国 米 の 国 内 「 需 給 均 衡 価 格 」 を 試 算 し 、 米 の 国 内 需 給 均 衡 は 現 状 よ り も20% 以 上 低 い 米 価 水 準 で は 達 成 さ れ ず ら い こ と が 明 ら か に さ れ た 。
第6章 で は 、 規 模 分 布 変 動 の 回 帰 分 析 に よ り 生 産 者 米 価 の 下 落 お よ び 生 産 調 整 の 緩 和 が 生 産 者 数 の シ ェ ア に 与 え る 影 響 を み る と 、 あ る 程 度 の 時 間 的 経 過 を 考 慮 す れ ば 、大 規 模層 ・ の 生産 者 シ ェア を 増大 さ せ る と い う 結 果 か ら 稲 作 に お け る 構 造 改 善 を あ る て い ど 進 め る も
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のであるが、それらの係数の大きさから構造改善の効果は大きなも のではなく、 階層別効果か ら近い将来
2ha以上層が広範に存在す る と い う 状 況 は 期 待 じ が た ぃ こ と が 明 ら か に さ れ た 。
以上のように本論文は、わが国米の需給構造を計量経済学的分析 により明らかにするとともに、所与の経済環境のもとで予想される 米経済の展望を示すものである。また、米の供給構造の計量的把握 に関して・、従来の分析の限界を明らかにし、代替的な方法としての 生産費分布および規模分布を用いた全く新たな分析手法を提示して いる。それは従来の計量経済学的な研究には見られない、方法論上 の利点を有することにより、他の農産物の供給構造に関する分析に も極めて有用であると認められる。
よって、審査員一同は別に行った学力確認試験の結果と合わせて、
本論文の提出者小林弘明は、博士(農学)の学位を受けるに十分な 資格があるものと認.定した。
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