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長野県東部の山地帯のカラマツ林のテンの食性

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長野県東部の山地帯のカラマツ林のテンの食性

宗兼 明香

1

,南  正人

2

,高槻 成紀

2,3 1株式会社野生動物保護管理事務所 2麻布大学獣医学部動物応用科学科 3麻布大学いのちの博物館 摘     要 長野県東部の御み代田町のカラマツ林に生息するテンよ た (ニホンテンMartes melampus)の食性を糞分析法により 明らかにした.食物組成の量的評価は出現頻度法とポイ ント枠法の占有率によった.平均占有率は,春には哺乳 類(64.1 %), 夏 と 秋 に は 果 実( 夏 は 65.3 %, 秋 は 78.0%)が多かった.種子の出現からわかった果実利用 は月ごとに変化し,春にはミズキCornus controversa な ど,夏にはサクラ属Cerasus spp. など,秋にはマタタビActinidia spp. やアケビ属 Akebia spp. などが多かった. 昆虫は夏でも 4.9%に過ぎず,他の地域より少なかった. これは本調査地に果実が豊富なためと考えられた.出現 頻度法による評価では平均占有率が小さかった昆虫や葉 が過大に評価された.占有率-順位曲線からは平均値や 頻度だけではわからない,食物の供給量とテンの食物選 択性を読み取ることができた.テンに利用された果実に は林縁植物が多いことからテンが林縁植物の指向性散布 をする可能性が示唆された. は じ め に ニホンテンMartes melampus(以下,テン)の食性研 究はこれまで北は岩手県(Otani 2002)から南は九州の 久住山(荒井ほか 2003)までの多くの分析例がある(山 岸 1990;Tatara and Doi 1994;山本 1994;楠井・楠井 1998;中村ほか 2001;Tsuji et al. 2014;Yasumoto and Takatsuki 2015;足立ほか 2016;箕輪ほか 2017 など). それらにより,テンの食性は季節性を示し,春には哺乳 類と果実,夏には昆虫,秋には果実,冬には場所により 果実あるいは哺乳類が高頻度に利用されることが示され ている.このように情報が蓄積されつつあるが,日本列 島の生態系の多様性を考えれば,さらに情報の蓄積が必 要である. 一方,食性の評価は分析法にも影響される.これまで のテンの食性研究は主に糞分析によっており,組成の量 的評価は出現頻度法によるものが多い.ただし,山岸 (1990)は出現頻度法に加えて重量法を,Yasumoto and Takatsuki(2015),Takatsuki et al.(2017)はポイント枠 法を採用した.また箕輪ほか(2017)はテンの糞分析に 占有率-順位曲線(高槻ほか 2018,後述)を採用し, この表現法が数種の哺乳類で有効であることを示した. また,テンは果実食の傾向が強く(高槻 2017),多肉 果 の 種 子 散 布 者 と し て も 重 要 で あ る(Yasumoto and Takatsuki 2015;Tsuji et al. 2020).そこで,本研究では この点にも着目した. こうした背景を踏まえ,ここでは長野県東部の御代田 町にあるカラマツ林が優占する長野・東京ガスの森での 分析事例を報告する. 方     法 調査地としたのは長野県北佐久郡御代田町にある「長 野・東京ガスの森」(以下,「東京ガスの森」)で,関東 山地北部(北緯 36°29’,東経 138°56’)にあり,標高 1,000 m ~ 1,230 m,広さ 194 ha の山林である(図 1). 調査地の北方には北陸新幹線を挟んで浅間山(標高 2,568 m)があり,北東部には碓氷峠がある.調査地の 植生はカラマツLarix kaempferi 林が約 6 割を占め,アカ

マツPinus densiflora,コナラ Quercus serrata などの二次

林もある. 2010 年 4 月~ 10 月までに 9 回,調査地内につけられ た総延長 7 km の遊歩道を歩いて,遊歩道上や倒木およ び岩の上などで合計 52 個のテンの糞を採集した.採集 に際しては糞の直径から他の食肉目の糞と区別した.広 島市安佐動物公園で飼育されているテンおよびアカギツ ©日本哺乳類学会

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Vulpes vulpes の糞の直径はテンが 10.5±1.8 mm(n= 151),アカギツネが 15.2±3.5 mm(n=46)であった. ま た ニ ホ ン イ タ チMustela itatsi の 糞 の 直 径 は 6.5± 1.1 mm であることが知られている(辻ほか 2011).こ れらの基準からテンの糞と判断されるものを採集した. 11 月以降は積雪のため糞が発見しにくくなり,また踏 査に危険が伴うと判断して採集しなかった.採集した糞 は 0.5 mm 間隔のふるいを用いて水洗した.分析にはポ イント枠法(Chamrad and Box 1964;高槻・立脇 2012) を用いた.2 mm 間隔の格子の紙の上に直径 90 mm の シャーレをおき,糞内容物を拡げ,内容物が格子に被っ た交点の数(ポイント)を 200 カウント以上計数した. 内容物を昆虫,その他の節足動物,鳥類,哺乳類,その 他の脊椎動物,その他の動物質,果実,葉,繊維,その 他の 10 項目に分類した.付表 1 には詳細な食物項目を 示した.下記の式で定義される出現頻度百分率,平均占 有率,出現占有率を算出した. 出現頻度百分率(%)=各食物項目の出現糞数/総分析 糞数×100 平均占有率(%)=該当食物のポイント数/全サンプル の総ポイント数×100 出現占有率(%)=該当食物のポイント数/該当食物を 含むサンプルの総ポイント数×100 平均占有率は月ごとに算出したが(付表 1),サンプ ル数が少ない月があるので,季節ごとにまとめた(表 1). 季節の区分は 4 ~ 5 月を春,6 ~ 8 月を夏,9 ~ 10 月を 秋とした.平均占有率が 1 季節でも 5%以上になった食 物を「主要食物」とし,3 季節の占有率をKruskal-Wallis 検定(Steel-Dwass 事後検定)し,隣り合う季節を比較 した(統計ソフト「Mac 統計解析」ver. 3.0,株式会社エ スミ 2017).結果はBonferroni 補正し α=0.05/5=0.01 と した. 次に占有率-順位曲線を求めた.これはそれぞれの食 物項目で占有率の高い糞サンプルから低い糞サンプルへ と配列するもので,個々の糞サンプルにおける占有率の 分布がわかるので,平均占有率では読み取れない情報を 捉えることができる(高槻ほか 2018). 分類した 10 項目のうち,「果実」には果皮,果肉,種 子が含まれており,糞中では消化されて分離しているこ ともあった.そのため果皮や果肉は種名・属名が不明な ものがあったが,種子は多くのものが種・属まで識別で きたので,果実利用の月変化を示すために種子を用いた. 種子は石川(1994),中山ほか(2000),鈴木ほか(2012) などの図鑑類とレファレンス標本により識別した.

動物名はOhdachi et al.(2009),Duff and Lawson(2004), 植物名は植物和名-学名インデックスYList(東北大学, http://ylist.info,2020 年 3 月 5 日確認,掲載責任者,米 倉浩司)に従った. 結     果 1.出現頻度 表 1 に出現頻度百分率を示した. 春 に は 哺 乳 類 と 葉 の 出 現 頻 度 が そ れ ぞ れ 90.0%と 95.0%と非常に高く,そのほかにも昆虫が 45.0%と比 較的高頻度であった.夏になると大きく変化し,果実 (100%),葉(95.0%)が非常に高頻度で,昆虫は 50.0% であった.秋は夏と似ており,果実は 100%で,葉も高 頻度(66.7%)だった. 2.平均占有率 春は哺乳類の平均占有率が 64.1%もの高率を占めた (表 1).そのほかの食物項目は葉が 10.2%,その他の脊 椎動物が 9.4%,昆虫が 7.5%であった.夏になると大き く変化し,哺乳類は 4.8%に大きく減少し(Kruskal-Wallis 検定,χ2=27.476,P<0.001,Steel-Dwass 検定,t2=4.985, P<0.001,以下 2 つの検定結果をセミコロンの前後に示 す),果実は夏に 65.3%となったが有意差はなかった (χ2=10.979,P=0.004;t 2=-2.678,P=0.020).昆虫は 4.9%であり,春より有意に減少した(χ2=32.365,P< 0.001;t2=-5.517,P<0.001).葉は 13.7%であり,春 図 1.調査地の位置図.灰色太線は尾根,黒線は道路,破線は鉄道.

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の 10.2%と有意差がなかった(Kruskal-Wallis 検定,χ2 4.334,P=0.115).その他の脊椎動物は 0.9%で,春よ り 有 意 に 減 少 し た(χ2=15.044,P=0.001;t 2=3.635, P=0.001).秋の組成は全体的に夏と似ていた.果実は 78.0%で夏との有意差はなかった(Kruskal-Wallis 検定, χ2=-1.518,P=0.282).哺乳類は 6.4%で夏と有意差が なかった(χ2=-1.407,P=0.337).葉は 5.9%で夏と有 意差がなかった(χ2=4.334,P=0.115). 3.出現占有率と平均占有率の比較 表 1 には「出現占有率」も示した.平均占有率が 5% 以上になった主要食物のうち,平均占有率に対して出現 占有率が 2 ~ 3 倍,あるいは 3 倍以上である食物を検討 した.春には昆虫の出現占有率が平均占有率の 2 倍以上 であり,果実は 3 倍以上であった.夏には昆虫が 2 倍以 上,哺乳類は 3 倍以上であった.秋には哺乳類が 2 倍以 上であった. 4.占有率-順位曲線 主要食物としては昆虫,哺乳類,その他の脊椎動物, 果実,葉が該当した.これら 5 群について占有率-順位 曲線を描いたところ,主に次の 4 つのパターンが認めら れた(図 2),一つは大きい値が多くて右側になって急 に下がる「右肩折れ」,もう一つは左上から急激に下がっ てそれ以降はない「I 字型」,次は急に下がったあと, 低い値で右まで長い尾を引く「L 字型」,そして最初か ら値が小さくそのまま長く尾を引く「裾野型」である. これらのパターンのほか出現頻度も占有率も小さいもの も少数あった. 春には哺乳類が「右肩折れ」であり,昆虫と果実は「I 字型」,「その他の脊椎動物」と葉は「L 字型」をとった. 夏は果実が「右肩折れ」になり,昆虫は「L 字型」をとっ た.葉は「L 字型」だったが,最高値が低かったため典 型的ではなく,やや「裾野型」となった.哺乳類は「I 字型」になった.「その他の脊椎動物」は占有率も頻度 も小さかった.秋は果実が「右肩折れ」,哺乳類が「I 字型」,葉が「裾野型」をとった.昆虫と「その他の脊 椎動物」は出現頻度も平均占有率も小さかった. 5.種子の月変化 種子は種・属までの識別ができたので,これを用いて テンによる果実利用の月変化を解析した(図 3).キブ

Stachyurus praecox とミズキ Cornus controversa は 4 月

だけに検出された.サクラ属Cerasus = Prunuss は 6 月 と 8 月 に 多 く 出 現 し た.8 月 は 全 て ウ ワ ミ ズ ザ ク ラ

Padus grayana = Prunus grayana であったが,6 月はヤマ

ザクラCerasus jamasakura = Prunus jamasakura もあり,

一部に区別ができないものがあったのでサクラ属とした (新分類体系ではウワミズザクラとヤマザクラは別属と なったが,著者らは識別できなかったので従来のPrunus 属としてまとめた).マタタビ属Actinidia spp. は主にサ ル ナ シActinidia arguta であったが,一部にマタタビ Actinidia polygama の可能性があったので,マタタビ 属とした.マタタビ属は 7 月をピークに非常に多く出 現 し た. ク マ ヤ ナ ギBerchemia racemosa と ノ ブ ド ウ

Ampelopsis glandulosa var. heterophylla は 8 月にだけ出現

表 1.長野県東部のカラマツ林のテンの糞における各食物項目の各季節の出現頻度(%),平均占有率(%),出現占有率(%) 春(n=20) 夏(n=20) 秋(n=12) 出現頻度 (%) 平均占有率 (%) 出現占有率 (%) 出現頻度 (%) 平均占有率 (%) 出現占有率 (%) 出現頻度 (%) 平均占有率 (%) 出現占有率 (%) 昆虫 45.0 7.5 < 16.7 50.0 4.9 < 10.0 33.3 1.4 4.1 その他の節足動物 5.0 0.0 0.5 15.0 0.5 3.5 16.7 0.1 1.0 鳥類 10.0 0.3 2.7 15.0 0.7 4.5 16.7 0.2 1.2 哺乳類 90.0 64.1 71.2 15.0 4.8 ≪ 38.0 41.7 6.4 < 26.3 その他の脊椎動物 70.0 9.4 13.4 10.0 0.9 9.0 33.3 4.6 13.8 その他の動物質 5.0 0.2 4.0 5.0 0.3 2.7 8.3 0.6 6.6 果実 30.0 5.8 ≪ 19.5 100 65.3 72.1 100 78.0 77.9 葉 95.0 10.2 11.6 95.0 13.7 14.5 66.7 5.9 9.1 繊維 0.0 0.0 0.0 30.0 1.8 6.0 8.3 2.6 31.3 その他 25.0 2.6 6.6 20.0 7.1 35.5 25.0 0.4 0.8 合計 100 100 100 季節の後のカッコ内の数字はサンプル数,<:出現占有率が平均占有率の 2 倍以上,≪:出現占有率が平均占有率の 3 倍以上を表す. 主要食物と平均占有率 5%以上は太字で示した.ただし「その他」を除く.

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した.アケビ属Akebia spp. は 10 月だけに出現した. このように,種子は次々と入れ替わりがあった.これ らの植物は,高木になるミズキとサクラ属が林内に生育 するのに対して,他の 5 種はいずれも林縁に生育するつ る植物であった. 考     察 1.既往研究との比較 これまでの研究によると,テンの食性は季節変化が明 瞭で,テンは夏になって増加する昆虫を利用し,秋になっ て昆虫が減少して果実が増加すると,果実にシフトする. 果実が減少する冬には哺乳類への依存度が高くなり,こ れが春まで継続される.哺乳類は季節を通してテンに食 べられるが,捕食効率が悪いので,昆虫や果実が豊富な 季節は利用率が下がると説明されている(山岸 1990; 山本 1994;中村ほか 2001;荒井ほか 2003;Tsuji et al. 2014;Yasumoto and Takatsuki 2015;Takatsuki et al. 2017). 本調査地のテンの食性は,春の糞サンプルに哺乳類が 多く含まれ,秋に果実が多くなるという点では従来の多 くの研究と同様であったが,昆虫の夏の平均占有率がわ ずか 4.9%で果実の平均占有率が 65.3%もの高率を占め 図 2.テンの糞から検出された「主要食物」の各季節の占有率-順位曲線. 図 3.テンの糞から検出された種子の占有率の月変化.

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たのは特異であった.ほかの場所では夏に昆虫の頻度あ るいは平均占有率が大きくなることが知られている.例 えば埼玉県秩父(山岸 1990),東京都あきる野市(中村 ほか 2001),長野県入笠山(山本 1994),京都府芦生(近 藤 1980),大分県久住山(荒井ほか 2003),山梨県上野 原(箕輪ほか 2017)などがその例である. これまでのテンの食性分析で,夏に果実が多い調査例 はほとんどないが,その中で東京都西部のあきる野市の 例では本調査同様,夏に果実が多かった(Yasumoto and Takatsuki 2015).その内訳はキイチゴ類(Rubus),サク ラ類,サルナシなど本調査地と共通種が多かった.東京 ガスの森はカラマツ林が優占する明るい林であり,あき る野市の調査地はスギChryptomeria japonica 人工林であ り,いずれも林縁にキイチゴ類などの低木や,つる植物 が多いので,糞組成はそれを反映しているものと考えら れる. 東京ガスの森とあきる野市で夏に昆虫が少なかった理 由には次の二つの可能性が考えられる.一つは両調査地 の分析ではポイント枠法を用いたが,ほかの場所では出 現頻度だけを用いたために,占有率の小さい昆虫の評価 が他の場所と違った可能性である.しかし秩父の分析で は重量も測定しており,それによっても夏に昆虫が増加 している(山岸 1990).また本調査で夏の昆虫の出現頻 度 は 50.0%であり,他の場所での昆虫の出現頻度が 70%以上であることを考えると,本調査地の昆虫の小さ い値は評価法の違いだけによるものとは考えにくい. 次に考えられるのは食物供給量の絶対量あるいは相対 量の違いである.本調査では供給量は調査していないが, このような結果になったのは,本調査地のカラマツ林や あきる野市の調査地のスギ人工林では昆虫が少なかった ためか,あるいは果実が豊富であるために昆虫を食べる 必要がなかったかのいずれかと考えられる.多肉果は糖 類が豊富であり,初夏と秋から初冬にかけて豊富になる ので,他の調査地でも秋から冬のテンの食物内容で重要 度が大きくなることが知られている(山岸 1990;山本 1994;中村ほか 2001;荒井ほか 2003;Tsuji et al. 2014; Yasumoto and Takatsuki 2015;Takatsuki et al. 2017).一方, 昆虫はタンパク質が豊富であり,夏を中心に供給量が増 加するので,テンの食物内容で増加することが知られて いる(山岸 1990;山本 1994;中村ほか 2001;荒井ほか 2003;Tsuji et al. 2014;Yasumoto and Takatsuki 2015; Takatsuki et al. 2017).テンにとって果実が豊富であるか, あるいは昆虫が少なければ,捕獲に要するエネルギーと 得られる栄養価の関係で,昆虫よりも果実を選択すると いう状況が生じると考えられる. 2.評価法の比較 本調査では出現頻度法,ポイント枠法の 2 つの占有率 (平均占有率と出現占有率)を比較した.以下にこれら 評価法の比較検討をするが,そのためにテンにとっての 主要食物の一般的な特徴を質と量について整理してお く.哺乳類の筋肉や内臓などは栄養価が高いが,供給量 は少ない.昆虫は形態,サイズ,行動なども多様であり, 一概には特徴をあげにくいが,本調査でテンの糞中に多 かったのは鞘翅目と直翅目であった.これらはタンパク 質が豊富で遭遇頻度は高いものの,体サイズが小さく, 逃げるので,捕食効率は低い傾向がある.果実は葉に比 べれば糖分,植物タンパク質,脂質などが豊富なものが あり,季節によっては量も豊富になる.葉は栄養価が低 いが供給量は多い.繊維はその傾向がさらに強い. 主要食物についてこれらの評価法で 30%より大きかっ た項目・季節を取り上げると,昆虫の頻度は大きかった が,占有率は小さかった.これは,昆虫が遭遇頻度は高 いが,体サイズが小さいことと符合する.昆虫は春と夏 に平均占有率よりも出現占有率が 3 倍ほど大きかったが, これは頻度が 30 ~ 50%程度であり,果実(夏,秋)や 葉(春,夏)のように 90%以上もの高頻度にはならなかっ たからであり,昆虫の特性と符合する.哺乳類(春)は 頻度も占有率も高く,夏は出現占有率が,秋は頻度が大 きかった.春は果実も昆虫も乏しいためテンは哺乳類(死 体の可能性がある)を集中的に探索して確保したと考え られる.夏は頻度が低かったために,出現占有率が平均 占有率よりも大きくなったと考えられる.秋に高頻度 だったのはサンプル数が少なかった(n=12)ため,偶 然高頻度になった可能性を否定しきれない.果実は概し て頻度も占有率も大きかったことから,質も量も豊かで あることを反映していた.葉は高頻度,低占有率であり, 供給量は多い一方で栄養価が低いことを反映していた. 従来のテンの食性分析では出現頻度法を用いることが 多かった.出現頻度法も食物の重要性の一つの評価法で あるが,出現頻度法だけで食物を評価すると,高頻度・ 低占有率の食物を,摂取量という意味では過大評価する ことになる(高槻 2011;高槻ほか 2015). 3.占有率-順位曲線 占有率-順位曲線は春の哺乳類と夏,秋の果実が「右 肩折れ」になった.この意味は,多くの糞にこれらの食 物が高い占有率で含まれており,低占有率の糞は一部し かなかったということである.これは,これらの食物の 供給量が豊富であり,しかもテンが好んで食べたことを 示唆する.これと対照的に「I 字型」になった食物には

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哺乳類(夏,秋),昆虫(春),果実(春)があった.こ れは一部のテンだけが大量に食べることができるが,多 くのテンは食べることができなかったことを意味する. 哺乳類(夏,秋)でこのパターンが見られたことは,哺 乳類は栄養価が高いがテンが確保しにくいことと対応す る.確保しにくさは春でも同じだが,春は果実も昆虫も 少なくなるため,テンによる探索の程度が強くなるのか もしれない.昆虫は季節によって曲線の形が違ったが, 春に「I 字型」になったのは昆虫の供給量が限定的だっ たのかもしれない.これは果実も同様で,一般に春の果 実の供給量は限定的である.次に「L 字型」には葉(春, 夏)が該当した.これは一部の糞サンプルは多くの葉を 含むが,多くの糞サンプルは少量しか含まれないことを 意味する.テンが食物として葉を大量に食べることは考 えにくく,その理由は不明である.高頻度であったこと はテンが昆虫など葉の上にいる小動物を食べるときに葉 を混食した結果である可能性がある.また,イヌCanis

familialis やネコ Felis catus がイネ科の葉を食べることが

知られている(Sueda et al. 2008).イヌ・ネコだけでなく, オオカミCanis lupus も多くの例でイネ科の葉を食べる ことが知られており,イエローストーンのオオカミのよ うに出現頻度が 74%に達した例もある(Stahler et al. 2006).このように理由は不明だが,健康な食肉目の動 物が植物の葉を食べるのは事実のようである.このこと から推察すると,テンでも昆虫との混食ではない理由に よる葉の摂取はあるかもしれない.この点は飼育実験な どを含め検討されてよいだろう. 「裾野型」に該当したのは秋の葉であり,夏の葉もや やこれに近いパターンをとった.この意味は,多くの糞 サンプルが少量を含んでいたということであるから,供 給量は多いが,テンが好んでは食べないということであ ろう. このように,占有率-順位曲線による表現は,平均値 と頻度だけの表現よりも,食物資源の供給と利用の関係 を考える上で示唆を与えた. 4.種子散布 テンの糞から検出された果実は次々と入れ替わった (図 3).このことは東京ガスの森が多肉果を生産する植 物相が多様であることを意味する.本調査地で検出され た 7 種・属のうち 5 種・属がつる植物であり,林縁など 明 る い 場 所 に 生 育 す る 植 物 で あ っ た. 高 槻(2017), Takatsuki et al.(2017)が指摘するように,テンは林縁 の植物を利用する傾向があり,実際,八王子市のスギ林 ではテンの糞からつる植物であるサルナシの種子が多数 検出され,テンの糞も生育するサルナシも林縁で多かっ た(Yasumoto and Takatsuki 2015).テンが林縁でこれら 林縁に生育する植物の果実を採食すれば,林縁にいるあ いだに排糞する確率も高くなり,しかも林縁は林内より 明るいからその種子の発芽率も高くなるであろう.実際, 発芽実験によりテンが食べた種子はそうでない種子より も発芽率が高いことが示された(Tsuji et al. 2020).つま り林縁の多肉果をつける植物は,テンによって林縁に効 率的に種子散布をしてもらうことができ,「指向性散布」 (Howe and Smallwood 1982;Wenny 2001)をしている可

能性がある. 謝     辞 東京ガス株式会社には森での調査を受け入れていただ きました.NPO 法人生物多様性研究所あーすわーむ福 江佑子様,中村匡男様には研究のアドバイスをいただき, 佐久森林組合参事(当時)古越修様には東京ガスの森の 木本植物の情報を提供していただきました.広島市安佐 動物公園の江草真治様にはテンとキツネの糞の直径を計 測させていただきました.また麻布大学の塚田英晴先生 には統計処理についてアドバイスいただきました.2 名 の匿名査読者には建設的なコメントをいただき,原稿を 改善することができました.これらの皆様に深くお礼申 し上げます. 引 用 文 献 足立高行・桑原佳子・高槻成紀.2016.福岡県朝倉市北部のテ ンの食性―シカの増加に着目した長期分析.保全生態学研 究 21: 203–217. 荒井秋晴・足立高行・桑原佳子・吉田希代子.2003.久住高原 におけるテンMartes melampus の食性.哺乳類科学 43: 19– 28.

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(8)

ABSTRACT

Food habits of Japanese marten (Martes melampus) in a larch forest

in the montane zone of Nagano Prefecture, central Japan

Haruka Munekane1, Masato Minami2 and Seiki Takatsuki2,3,*

1 Wildlife Management Office Inc., 922-7 Komiya-machi, Hachioji, Tokyo, 192-0031, Japan

2 School of Veterinary Medicine, Azabu University, 1-17-71, Fuchinobe, Chuo-ku, Sagamihara, Kanagawa 252-5201, Japan 3 Life Museum of Azabu University, Azabu University, 1-17-71, Fuchinobe, Chuo-ku, Sagamihara, Kanagawa 252-5201, Japan *E-mail: [email protected]

The food habits of Japanese martens Martes melampus in a larch forest of the montane zone, Nagano Prefecture, Japan, were studied by fecal analysis and by determining occurrence frequency and point-frame methods. Point-frame occupancy showed that the fecal composition was dominated by mammals (64.1%) in spring and fruits in summer (65.3%) and autumn (78.0%). The fruit species, assessed by presence of seeds, changed monthly; species in summer included Cerasus spp., whereas those in autumn in-cluded Akebia spp. and Actinidia spp. One difference between this region and others was that the occupancy of insects in summer was only 4.9%, presumably because of the rich availability of fleshy fruits. Insects and leaves were overestimated by the frequency method. Occupancy-rank curves were used to suggest food supply and marten’s food preferences, which are impossible to deter-mine using only the frequency method and point-frame method. The fruits consumed by martens included those from many forest-edge plants, which suggests the possibility of “directed dispersal” of seeds from these plants.

Key words: fecal analysis, fleshy fruit, Japanese marten, Kanto Mountains, occupation-rank curve

受付日:2020 年 4 月 7 日,受理日:2020 年 10 月 10 日(責任編集者:横畑泰志)

著 者: 宗兼明香,〒 192-0031 東京都八王子市小宮町 922-7 株式会社野生動物保護管理事務所

南 正人,〒 252-5201 神奈川県相模原市中央区淵野辺 1-17-71 麻布大学獣医学部動物応用科学科

(9)

付表 1.長野県東部のカラマツ林のテンのポイント枠法による平均占有率(%) 食物項目 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 試料数 11 9 7 9 4 6 6 大項目 小項目 昆虫 鞘翅目 0.0 6.4 6.3 0.4 11.4 1.8 0.6 昆虫 直翅目 0.0 5.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 昆虫 膜翅目 0.0 0.0 0.2 0.1 0.0 0.0 0.0 昆虫 幼虫 0.0 0.0 0.0 0.2 0.7 0.0 0.3 昆虫 その他 0.0 4.8 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 その他の節足動物 クモなど 0.0 0.0 1.4 0.0 0.0 0.0 0.2 その他の無脊椎動物 ミミズなど 0.0 0.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 鳥類 羽毛 0.0 0.6 0.5 1.1 0.0 0.1 0.3 哺乳類 毛 59.8 53.7 9.8 0.0 4.2 0.3 10.9 その他の脊椎動物 両生類・爬虫類など 8.0 14.6 1.1 0.0 0.6 0.0 1.4 その他の動物質 不明動物質 5.2 5.8 1.3 0.4 2.8 5.3 4.9 果実 果皮・果肉 1.6 1.8 8.1 1.1 25.6 40.8 11.6 果実 アケビ種子 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 8.1 13.0 果実 キブシ種子 1.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 果実 クマヤナギ種子 0.0 0.0 0.0 0.0 3.4 0.0 0.0 果実 サクラ属種子 0.0 0.0 11.5 0.0 30.3 0.0 0.0 果実 ノブドウ種子 0.0 0.0 0.0 0.0 4.3 12.1 0.5 果実 マタタビ属種子 0.0 0.1 27.0 63.4 0.0 25.5 44.0 果実 ミズキ種子 6.1 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 果実 ヤマグワ種子 0.0 0.2 0.0 0.0 0.0 0.0 0.3 果実 不明種子 0.0 0.0 5.9 11.5 0.0 0.0 0.0 葉 双子葉類 1.1 1.4 1.8 0.0 9.7 3.3 0.0 葉 単子葉類 9.6 2.0 12.6 5.5 2.7 1.7 3.6 葉 針葉樹 3.0 2.5 4.4 3.2 3.6 0.3 2.9 植物繊維 0.0 0.0 2.7 2.0 0.0 0.0 5.2 その他 鉱物,不明など 4.3 0.4 5.6 11.2 0.7 0.6 0.2 合計 100 100 100 100 100 100 100 食物項目と季節をまとめたものは表 1 に示した.

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