1. 緒言
近年,幼児期の運動能力の低下が問題視されている。 運動能力は大きく分けて筋力や瞬発力などのエネルギー 系の運動能力と,身体を目的に応じてコントロールする 神経系の運動能力があるといわれており(Hartmann, 2013),幼児期ではとりわけ神経系の発達や運動制御に 関わるコオーディネーション能力へのアプローチが重要 視されるようになっている(加納ほか,2016)。コオーディ ネーション能力は,7つの能力を3つの段階に区分して 構造化され注1),運動や感覚に関わる様々な能力を合理 的に組み合わせて,エネルギー的な要素も含めた高度な 機能を創り上げる能力である(荒木,2008)。また,コオー ディネーション能力の中でも,定位能力の重要な機能は 感覚情報処理,分化能力の重要な機能は運動反応であり, これらの能力は判断と実行の一連の課題の中で相互に関 連しながら出現し(荒木,2016),コオーディネーショ ン能力の全体構造の中核を成している。 幼児期の運動遊びには,鬼ごっこやボール運動,縄遊 びなど,対象となる人や物に対して,自分の身体をコン トロールする場面が多くみられ,時空間を正確に把握す る定位能力や正確な動作のために筋出力を調整する分化幼児期の跳動作における定位能力・分化能力の発達的特性
―移動標的に対する空間移動課題に着目して―
Developmental characteristics of orientation and differentiation abilities
of jumping motion in early childhood
-A focus on the spatial movement task of the moving
target-加納 裕久
1)・ 久我 アレキサンデル
2)Kano H
IROHISA1), Kuga A
LEXANDER2)Abstract
This study elucidates the developmental characteristics of orientation and differentiation abilities of jumping motion in early childhood. Therefore, we conducted the Moving Target Jump (MTJ) test to predict the target movement and jumping in a timely manner. The test was conducted twice per person. On examining the characteristics of changes on the basis of gender, age, and the number of trials, the following results were obtained. (1) With respect to the difference in the absolute value between the first and second tests, the absolute value in the second test was significantly smaller in the late three-year-old children, suggesting a learning effect due to the repetition of the task. (2) In the distribution of movement angles, a large variation was observed between the late three-year-old and the early four-year-old children; however, beyond the late four years of age, there was a tendency to gather around 360° , the reference value. (3) With respect to the gender characteristics, a study of the proportion of premature reaction (355° > movement angle) and delayed reaction (365° < movement angle) suggested that girls had a greater proportion of delayed reactions than boys. Hence, the development of orientation and differentiation abilities to predict the moving targets and time their landing and jumping in early childhood revealed different developmental tendencies between boys and girls, suggesting that the prediction of the moving target or the start of the jump motion tended to be delayed in girls. Additionally, it was suggested that the learning effect of the test task appeared in the late three-year-olds and that orientation and differentiation abilities necessary for the MTJ test were acquired in the late four-year-olds.
Keywords : preschool children, coordination ability, motor development, prediction, spatio-temporal recognition
[Received October 31, 2019 ; Accepted May 18, 2020]
1) 愛知県立大学客員共同研究員 Visiting Scholar, Aichi Prefectural University
能力が重要な能力として位置づけられている(Blume, 1978;Hirtz,1985;Zimmermann, 1991)。また,幼児 期は時間と空間が認識されるようになり(佐々木, 1992),動くものに対して予測して運動を行うことがで きるようになる時期でもある(森ほか,1993)。 以上から,幼児の運動遊びを考慮するならば,対象物 の動きを予測し,自身の空間移動を正確にコントロール する定位能力や分化能力は重要な役割を果たしていると 考えられる。 これまで幼児を対象とし,移動する標的(対象物)に 自己の動作を正確に合わせるという課題を検討した研究 は,時空間的動作調整の研究として投動作に関する研究 (Hirtz,1985;加納ほか,2016)や捕球動作に関する研 究(宮丸,1980;宮丸ほか,1981;森ほか,1993:梅本 ほか,2017)などがある。一方,跳動作に関する研究は 移動標的に対する跳躍のタイミングを測定する研究(渡 部ほか,1983)や長縄跳び越し動作に関する研究(佐々 木,1992)がある。森ほか(1993)によると,幼児期の 運動発達を理解するには時間的空間的適応や予測的行動 の研究は欠かすことのできない領域であるとされてお り,これらは幼児期の跳動作における時間的,空間的要 素の予測に関わる貴重な研究である。しかしながら,こ れまでの研究はその場での跳動作に焦点を当てたもので あり,自身の空間移動を伴う跳動作についての研究はな されていない。したがって,幼児期の運動発達研究や認 知発達研究の今日的課題として,神経系に関わるコオー ディネーション能力の観点から,移動標的に対する予測 や自身の空間移動を伴う跳動作を対象とした研究が必要 になってくると考えられる。 そこで,本研究では移動標的に対する空間移動課題を 用いて,幼児期の跳動作における定位能力及び分化能力 の発達的特性を明らかにすることを目的とした。 そのため,本研究では性別,年齢別,回数別に測定結 果を分析,検討する。加納ほか(2016)によると,幼児 期の跳動作における定位能力,分化能力の発達的特性と して,4歳半頃に一度停滞し,5歳前半にかけて著しく 向上していくことが明らかにされている。したがって本 研究においても,性別や回数別の測定結果は年齢が上が るにつれ向上していくと考えられ,とりわけ 4 歳半頃か ら 5 歳前半にかけて一定の水準に達していくことが期待 される。
2. 方法
2.1. 対象者
本研究では,幼稚園及び保育園に通う3歳後半~6歳 前半の幼児 288 名を対象とし,年齢は半年単位で区分し た。参加児の身体的特性を表1に示す。本研究の実施に 際しては,事前に参加児の保護者に書面で趣旨を説明し, 同意を得られた者のみ実施した。また,実施の前に参加 児の意思確認を行った。なお,本研究について愛知県立 大学の研究倫理審査委員会の承認を得た。2.2. 測定方法
本研究では,移動標的を時空間的に予測し,目的地点 でタイミングよく移動標的に跳び乗る定位能力及び分化 能力を測定するため,Moving Target Jump test(以下MTJ テスト)注2)を開発,実施した(図1)。テスト内 容は,説明者のスタートの合図でスタート地点から時計 回りに床面を一定の速さで円弧上に動く標的に対して, 表1.参加児の身体的特性
体重(kg)
(M ± SD)
3歳後半
20
97.1 ± 4.1
15.0 ± 1.4
16
96.4 ± 3.7
14.6 ± 1.7
4歳前半
17 102.3 ± 4.0
16.7 ± 1.4
21 101.2 ± 3.9
15.9 ± 1.6
4歳後半
35 103.1 ± 4.4
16.5 ± 1.7
22 102.7 ± 3.8
16.6 ± 2.1
5歳前半
27 108.1 ± 3.9
18.0 ± 1.7
34 106.4 ± 3.7
17.6 ± 2.2
5歳後半
24 109.8 ± 4.1
19.0 ± 2.1
26 110.1 ± 4.0
18.2 ± 2.9
6歳前半
24 111.9 ± 4.4
19.8 ± 2.7
22 111.1 ± 4.9
18.9 ± 2.3
注)M:平均値,SD:標準偏差(M ± SD)
年齢区分
男児
女児
N
身長(cm)
体重(kg)
N
身長(cm)
(M ± SD)
(M ± SD)
参加児が標的の動きを予測して再び標的がスタート地点 に戻ってくるタイミングで 40cm 離れた跳躍ライン注3) から標的に跳び乗るものである。移動標的の大きさは直 径約 25cm で,直径約 65cm の円弧上を速さ約 0.45m/s(約 80deg/s)注4)で動き,参加児が標的に跳び乗った時点 で標的は停止音とともに停止し,スタート地点から停止 地点までの移動角度が測定される。なお,標的がスター ト地点に戻ってくる1周 360°を評価の基準として,移 動標的が目的地点を通り過ぎる前に跳び乗った場合を尚 早反応,目的地点を通り過ぎた後に跳び乗った場合を遅 延反応とした。360°前後注5)で標的に跳び乗ることが できれば,移動標的を時空間的に予測し,目的地点でタ イミングよく移動標的に跳び乗る定位能力及び分化能力 が優れていると考えられる。テストは1度説明者がお手 本を見せた後,2回続けて実施する。測定は幼児体育指 導者及び幼児の運動能力測定において経験豊富な保育士 が行った。なお,幼児が楽しみながら遊び感覚で取り組 めるよう,移動標的を“月”に見立てて実施した。 本研究の実施に当たり,床面への映像の投影にはモバ イルプロジェクター(SONY 製 MP–CD1)を用いた。 映像を投影した白色のシートの下には,センサーマット (Nexeed ステップマニアマットコントローラ DDR)を 使用し,特定の場所に着地すると映像が停止し,PC に データが転送されるよう設定した。
2.3. 解析方法
統計解析には SPSS 統計パッケージ PASW Statistics25 を使用した。測定値の試行間信頼性は,級内相関係数に より検討した。まず,基準値 360°と移動角度の差(以下, 絶対値)を求め,2要因に対応がなく,1要因に対応が ある3要因分散分析(性別×年齢×回数)を実施した。 こ れ ら の 結 果, 交 互 作 用 が 有 意 で あ っ た 場 合 は, Bonferroni 法による単純主効果の検定を行った。次に, 移動標的に対する反応の傾向を把握するため,尚早反応 (移動角度< 355°),360°前後(355°~ 365°),遅延 反応(365°<移動角度)に分類し,性別,年齢別に比 率の差の検定を行った。なお,本研究における結果の統 計的有意水準についてはいずれの場合も5%とした。3. 結果
3.1. 性別・年齢別・回数別による絶対値の変化
本研究における2回の測定値の級内相関係数は表2に 示した。表3は絶対値の平均値,表4は3要因分散分析 の結果,図2は絶対値の年齢別変化を示した。 表2.試行間の級内相関係数 ICC ICC 3歳後半 0.362 ( -0.08 - 0.69 ) -0.006 ( -0.48 - 0.47 ) 4歳前半 -0.289 ( -0.66 - 0.20 ) 0.128 ( -0.30 - 0.52 ) 4歳後半 0.041 ( -0.29 - 0.36 ) 0.479 ( 0.09 - 0.74 ) 5歳前半 0.177 ( -0.21 - 0.52 ) 0.226 ( -0.11 - 0.52 ) 5歳後半 0.316 ( -0.09 - 0.63 ) 0.300 ( -0.09 - 0.61 ) 6歳前半 -0.179 ( -0.53 - 0.23 ) -0.051 ( -0.45 - 0.37 ) 注)ICC:級内相関係数,95%CI:95%信頼区間 年齢 95%CI 95%CI 男児 女児図1.Moving Target Jump test
40cm プロジェクター 移動角度 跳躍ライン PC 移動標的 スタート地点
分析の結果(表4),被験者間要因については,性別 ×年齢で交互作用が認められ,年齢の主効果も有意で あった。多重比較検定の結果,男児では3歳後半は4歳 前半以降の年齢よりも,女児では3歳後半は5歳前半以 降,4歳前半は5歳前半及び後半の年齢よりも絶対値の 平均値は大きくなることが認められた。また,3歳後半 では男児の方が,4歳前半では女児の方が絶対値の平均 値が大きくなることが認められた。 被験者内要因については2次の交互作用は認められな かったが,年齢×回数で交互作用が認められ,回数の 主効果も有意であった。多重比較検定の結果,1回目と 2回目ともに3歳後半は4歳前半以降の年齢に比べ絶対 値の平均値は大きくなり,2回目において4歳前半は5 歳後半に比べ絶対値の平均値は大きくなることが認めら 表4.3要因分散分析(性別 × 年齢 × 回数)の結果 df F P 偏η² 被験者間要因 性別 1 0.24 0.627 0.00 男児: 4歳前半・後半,5歳前半・後半,6歳前半<3歳後半 年齢 5 23.93 0.000 ** 0.30 女児: 5歳前半・後半,6歳前半<3歳後半,5歳前半・後半<4歳前半 性別×年齢 5 4.99 0.000 ** 0.08 3歳後半: 女児<男児,4歳前半:男児<女児 被験者内要因 回数 1 14.55 0.000 ** 0.05 1回目: 4歳前半・後半,5歳前半・後半,6歳前半<3歳後半 性別×回数 1 2.04 0.154 0.01 2回目: 4歳前半・後半,5歳前半・後半,6歳前半<3歳後半 年齢×回数 5 2.63 0.024 * 0.05 5歳後半<4歳前半 性別×年齢×回数 5 0.56 0.734 0.01 3歳後半: 2回目<1回目 注)**:p<0.01,*:p<0.05 変動因 多重比較検定 表3.絶対値(360°と移動角度の差)の平均値
M
SD
M
SD
M
SD
M
SD
3歳後半 80.40 87.91
60.30 68.30
60.56 93.21
21.00 17.90
4歳前半 17.47 13.43
16.59 14.27
42.71 43.66
25.57 23.94
4歳後半 15.77 12.53
10.29 11.23
21.82 13.68
19.50 14.31
5歳前半 12.22
8.68
11.44
7.81
18.09 11.50
14.12 11.57
5歳後半
9.75
7.78
7.13
7.18
16.04 13.89
7.15
8.40
6歳前半 13.25
9.02
8.75
7.50
17.86 12.81
14.18 10.48
年齢
1回目
女児
1回目
2回目
2回目
男児
図2.絶対値の年齢別変化 0 20 40 60 80 100 平均角 度 1回目 2回目 0 20 40 60 80 100 1回目 2回目 移 動 角 度 の 絶 対 値( ° ) 男児 女児 移 動 角 度 の 絶 対 値( ° )れた。また,3歳後半では,1回目の方が2回目に比べ 絶対値の平均値は大きくなることが認められた。
3.2. 移動角度の分布
図3には,移動角度における1回目と2回目の散布図 を示した。1回目,2回目ともに3歳後半,4歳前半の 男女では移動角度の分布に大きなばらつきがみられた が,4歳後半以降では 360°付近にまとまっていく傾向 がみられた。 表5には,尚早反応,360°前後,遅延反応における 比率の差の結果を示した。その結果,男児において1回 目は3歳後半と4歳後半から6歳前半に,2回目は5歳 前半と6歳前半に何れも遅延反応の割合が尚早反応また は 360°前後より多いことが認められた。女児において 1回目は4歳前半から6歳前半に,2回目は3歳後半か ら5歳前半に何れも遅延反応の割合が尚早反応または 360°前後より多いことが認められた。4. 考察
本研究は移動角度 360°を基準とし,360 °前後で標 的に跳び乗ることができれば移動標的を時空間的に予測 し,目的地点でタイミングよく移動標的に跳び乗る定位 能力及び分化能力が優れているとした。 1回目から2回目の絶対値の変化について,とりわけ 3歳後半は,1回目よりも2回目の方が絶対値は有意に 小さくなり,基準値 360°に近づくことが認められた。 3歳児は物体の移動に伴う追視の経験をすることによっ て,移動する物体の速度や方向,空間における位置関係 を認識することができるようになり(坂本,1984),目で 見ながら運動を調整する能力が高まっていく時期である が(白石,2011),本研究では同じ課題を繰り返し行った ことによる即時的な学習効果があったと考えられる。こ のことに関連して,1歳後半から6歳後半を対象とした 森ほか(1993)の研究によると,転がってくるボールに 対する対応動作においては,3歳後半頃になるとボール を後から追いかける動きからボールを先回りしてから拾 う動きへの切り替えが可能になり,学習効果が認められ たことが報告されている。本研究においても,参加児が 図3.移動角度における1回目と2回目の散布図 (3歳後半,4歳前半はばらつきが大きいため,最小値60°,最大値480°の範囲で散布図を示した。 3歳後半,4歳前半の散布図内の□は,4歳後半以降の散布図の移動角度の範囲を示す。) 300 320 340 360 380 400 420 300 320 340 360 380 400 420 2 回 目 移動 角 度 ( ° ) 1回目移動角度(°) 4歳後半 300 320 340 360 380 400 420 300 320 340 360 380 400 420 2 回 目 移動 角 度 ( ° ) 1回目移動角度(°) 5歳前半 300 320 340 360 380 400 420 300 320 340 360 380 400 420 2 回 目 移動 角 度 ( ° ) 1回目移動角度(°) 5歳後半 300 320 340 360 380 400 420 300 320 340 360 380 400 420 2 回 目 移動 角 度 ( ° ) 1回目移動角度(°) 6歳前半 男児 女児 60 120 180 240 300 360 420 480 60 120 180 240 300 360 420 480 2 回 目 移動 角 度 ( ° ) 1回目移動角度(°) 3歳後半 60 120 180 240 300 360 420 480 60 120 180 240 300 360 420 480 2 回 目 移 動 角 度 ( ° ) 1回目移動角度(°) 4歳前半2回目の実施において標的の動きを予測してタイミング を合わせるようになったと考えられ,遅くとも3歳後半 頃から学習効果が現れるようになることが推察される。 MTJ テストの信頼性が低い値であったことについて は,3歳後半と4歳前半の低年齢ほど移動角度の分布に ばらつきがあったことなどが影響しているのではないか と考えられる。幼児の場合,成人よりも信頼性の高い値 が得られにくいことも指摘されている(横谷ほか, 2017)。また,低年齢の結果のばらつきについて, 3歳 後半と4歳前半の尚早反応と遅延反応の割合(表5)は, 1回目において男女とも尚早,遅延との間に差はみられ ず,どちらかに大きく偏ることなく分布していることが 示された。とりわけ3歳後半の絶対値(表4)において, 男女とも他の年齢に比べ絶対値の平均値は大きくなるこ とが認められたことからも,3歳後半はばらつきが大き いことが窺える。対して,4歳後半以降は男女ともに4 歳前半以前に比べ絶対値が小さくなることが認められた (図2)。渡部ほか(1983)が行った移動標的の目的時点 に全身跳躍(垂直方向への跳躍)を合わせることを課題 とした研究においては,3歳児は予測動作開始が早く, ばらつきが大きいことが指摘されている。また,佐々木 (1992)は長縄跳び越し動作における時空間的認知と動 作調整について研究を行った結果,2回の実施において も4歳児に動作タイミングにばらつきがみられ,動作の 再現性が低いこと,早く動作を開始しすぎたり,遅すぎ たりという事例が観察されたことを示している。これら のことに関連して,乾(2016)は,幼児期は動作を伴う 情報処理の際,その時点だけの情報に頼り,情報の系列 的な捉え方や前後関係に気づかず,予測動作が不十分で あると指摘している。一方,予測が現れてくる年齢につ いて森ほか(1993)の研究では,転がってくるボールに 対する予測動作は4歳半頃に現れてくると示されてい る。また,加納ほか(2016)によると,投動作における 定位能力及び分化能力についても,動くものに対して予 測してボールをコントロールする能力は4歳半頃から発 達していくと示されている。本研究においてもこれらの 先行研究と類似した測定結果が得られ,3歳後半から4 歳前半においては,標的の動きの予測または跳動作の開 始のタイミングに著しくずれのある参加児が散見された が,4歳後半以降はばらつきが少なくなることが認めら れた。このことから,3歳後半から4歳前半においては, 移動標的を時空間的に予測し,目的地点でタイミングよ く移動標的に跳び乗るために必要な定位能力及び分化能 力は未発達であるが,4歳後半頃に一定の水準に達する ことが示唆された。 性別の特徴については,尚早反応と遅延反応の比率の 差(表5)より,1回目,2回目ともに男児に比べ女児 の方が多くの年齢で尚早反応より遅延反応の割合が有意 に高いことが認められた。3歳から6歳までは男児に比 べ女児の方がタイミング誤差は大きい傾向を示すと指摘 されているが(渡部ほか,1983),本研究においては女 児の方が移動標的の動きを慎重に見ようとするあまり予 測または跳動作の開始が遅れる傾向がみられ,その結果, タイミング誤差のなかでも,遅延反応の方が有意に多く なったと推察される。 以上から,移動標的を時空間的に予測し,目的地点で タイミングよく移動標的に跳び乗る定位能力及び分化能 力は,3歳後半から4歳前半までは未発達であったが, 4歳後半頃に一定の水準に達することが示唆された。ま た,それ以降の発達については本研究で行った MTJ テ ストの課題内容では特徴的な結果は得られなかった。 コオーディネーション能力を測定するテストがボール 表5.尚早反応, 360 °前後,遅延反応における比率の差の検定結果 n % n % n % n % n % n % 3歳後半 10 (50.00) 1 (5.00) 9 (45.00) 7.30 * 0.026 前後<尚早,遅延 8 (40.00) 2 (10.00) 10 (50.00) 5.20 0.074 4歳前半 7 (41.18) 3 (17.65) 7 (41.18) 1.88 0.390 5 (29.41) 2 (11.76) 10 (58.82) 5.77 0.056 4歳後半 11 (31.43) 6 (17.14) 18 (51.43) 6.23 * 0.044 前後<遅延 14 (40.00) 11 (31.43) 10 (28.57) 0.74 0.690 5歳前半 5 (18.52) 4 (14.81) 18 (66.67) 13.56 ** 0.001 尚早,前後<遅延 5 (18.52) 4 (14.81) 18 (66.67) 13.56 ** 0.001 尚早,前後<遅延 5歳後半 5 (20.83) 5 (20.83) 14 (58.33) 6.75 * 0.034 尚早,前後<遅延 7 (29.17) 10 (41.67) 7 (29.17) 0.75 0.687 6歳前半 6 (25.00) 4 (16.67) 14 (58.33) 7.00 * 0.030 前後<遅延 3 (12.50) 8 (33.33) 13 (54.17) 6.25 * 0.044 尚早<遅延 3歳後半 5 (31.25) 3 (18.75) 8 (50.00) 2.38 0.305 2 (12.50) 3 (18.75) 11 (68.75) 9.13 ** 0.010 尚早,前後<遅延 4歳前半 6 (28.57) 1 (4.76) 14 (66.67) 12.29 ** 0.002 前後<遅延 4 (19.05) 4 (19.05) 13 (61.90) 7.71 * 0.021 尚早,前後<遅延 4歳後半 2 (9.09) 2 (9.09) 18 (81.82) 23.27 ** 0.000 尚早,前後<遅延 3 (13.64) 3 (13.64) 16 (72.73) 15.36 ** 0.000 尚早,前後<遅延 5歳前半 6 (17.65) 4 (11.76) 24 (70.59) 21.41 ** 0.000 尚早,前後<遅延 1 (2.94) 6 (17.65) 27 (79.41) 33.59 ** 0.000 尚早,前後<遅延 5歳後半 5 (19.23) 6 (23.08) 15 (57.69) 7.00 * 0.030 尚早,前後<遅延 4 (15.38) 11 (42.31) 11 (42.31) 3.77 0.152 6歳前半 5 (22.73) 4 (18.18) 13 (59.09) 6.64 * 0.036 前後<遅延 6 (27.27) 4 (18.18) 12 (54.55) 4.73 0.094 注)**:p<0.01,*:p<0.05, 尚早反応:移動角度<355°,360°前後:355°以上-365°以下,遅延反応:365°<移動角度 男児 女児 尚早反応 360°前後 遅延反応 χ² (df=2) p 多重比較検定 性別 年齢 移動角度 1回目 移動角度 2回目 尚早反応 360°前後 遅延反応 χ² (df=2) p 多重比較検定
投げや立ち幅跳びなどの最大能力発揮による運動能力テ ストと異なるのは,目の前の課題に合わせて身体や用具 をコントロールするという点であり,数回の実施の中で 学習効果が現れることもある。本研究のように同一条件 のもとで同じ運動課題を 2 回実施した場合,1回目の運 動結果を情報として取り入れ,2回目以降に運動を修正 するフィードバック制御が行われ,誤差が修正されてい く(杉原,2008)。さらに,距離や速度等の諸条件が変 化したとしても,2回とも同様のパフォーマンスが発揮 できればコオーディネーション能力が高いことを示して いると考えられる。したがって,コオーディネーション 能力の発達的特性は,同一条件の運動課題の結果のみか ら解明しようとするのではなく,実施回数によって諸条 件を変化させ,これに応じたパフォーマンスが発揮され るかどうかに着目し検討していくことが今後の課題とな る。加えて,運動遂行時の身体部位の質的分析(跳躍時, 着地時の視線や四肢の角度等)や認知発達と関連させて 検討していくことが必要だと考えられる。
5. まとめ
本研究の目的は,幼児期の跳動作における定位能力及 び分化能力の発達的特性を明らかにすることであった。 そのため,移動標的を時空間的に予測し,移動標的の目 的地点にタイミングよく跳び乗るという課題の MTJ テ ストを開発し,実施した。性別,年齢別,回数別変化の 特徴を検討した結果,以下のような結果が得られた。 ⑴ 1回目から2回目の絶対値の変化について,3歳 後半では2回目の方が有意に小さくなり,課題を繰 り返し行ったことによる即時的な学習効果があるこ とが示唆された。 ⑵ 移動角度の分布について,3歳後半から4歳前半 の低年齢ほどばらつきが大きいことが認められた が,4歳後半以降は基準値 360°付近にまとまって いく傾向が示された。 ⑶ 性別の特徴について,尚早反応と遅延反応の割合 を検討した結果,女児の方が男児に比べ,多くの年 齢で遅延反応の割合が有意に高く,移動標的に対す る予測または跳動作の開始が遅れる傾向にあること が示唆された。 以上より,幼児期において,移動標的を時空間的に予 測し,目的地点でタイミングよく移動標的に跳び乗る定 位能力及び分化能力については,男女で発達傾向が異な り,女児の方が移動標的に対する予測または跳動作の開 始が遅れる傾向にあることが示唆された。また,3歳後 半頃から運動課題に対する即時的な学習効果が現れるこ とが示唆され,MTJ テストに対して必要となる定位能 力及び分化能力は4歳後半頃に一定の水準に達すること が認められた。 注1) 荒木(2013)は7つのコオーディネーション能 力を3つの段階に区分している。第1の段階に 「身体運動の基礎となる能力」として平衡能力, 第2の段階に「豊かな運動と多彩な運動を発揮 する能力」として定位能力,分化能力,反応能 力,リズム能力,第3の段階に「創造性に満ち た運動を発揮する能力」として運動結合能力, 運動変換能力を位置付けている。 注2) 本研究で実施した MTJ テストは,対象となる 移動標的が等速円運動をするものであった。移 動標的に対して,自身の空間移動を伴う運動課 題については,速さが異なるもの,円運動だけ でなく,直線運動や回転運動,また水平方向や 奥行方向などあらゆる動きが考えられる。今後, このような動きのバリエーションに対する予測 や空間移動における定位能力及び分化能力の発 達的特性についても検討することが必要だと考 えられる。 注3) 移動標的から跳躍ラインまでの距離については, 加納ほか(2016)で用いられたコオーディネー ションテスト(ターゲットジャンプ)を参考に して,40cm とした。なお,本研究と並行して 実施した立ち幅跳び(加納,2019)では,3歳 後半の平均値は約 67cm であり,40cm という 距離は,この立ち幅跳びの平均値の約 60%の 距離にあたる。古賀ほか(1996)によると,最 大跳躍距離 100cm 未満では,40%,60%の短 い目標距離の方が 80%の目標距離に比べて調 整が正確であるとされていることからも,本研 究で設定した 40cm という距離は妥当であると 判断した。 注4) 移 動 標 的 の 速 度 に つ い て は,Chohan et al.(2008)の「捕捉行為(interceptive action) 課題」を参考にして,0.45m/s とした。Chohan et al.(2008)は,5歳~ 12 歳を対象に,一定 の速度で水平方向に移動を開始する標的を,目 的地点に到達するまでの間に捕捉するという課 題を行っており,この時の移動標的の速さが, 低速 0.45m/s,中速 0.65m/s,高速 0.85m/s の 3段階で示されている。本研究では,これらの速度を参考に予備実験を行い,低年齢の幼児が 十分に予測・反応できる速度として,低速 0.45m/s を採用した。また本研究は移動角度を 評価対象としているため,角速度(約 80deg/s) も併記した。 注5) 分析の便宜上,本研究では 355°~ 365°の間 を 360°前後として位置付けた。
付記
本研究は,JSPS 科研費(17H07006)及び笹川スポー ツ財団の助成を受けた研究成果の一部である。文献
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