1. はじめに 現在,国内における脳卒中患者の数は100万人を超 えており,その多くが後遺症として運動麻痺を呈して いる.これまで脳卒中患者の麻痺肢の運動機能を改善 する手法の一つとして,非侵襲的脳刺激法を用いて大 脳皮質における一次運動野(M 1 )の興奮性を増大さ せる方法が検討されてきたが,未だ有効な介入方法は 確立されていないのが現状である.またこれまで検討 が進められてきた非侵襲的脳刺激法は,M 1 に対して 介入しているものが大多数であるが,運動遂行や運動 学習にはM 1 だけでなく,複数の脳領域(小脳,運動 前野,補足運動野,大脳基底核など)の活動が関与し ており,これらの領域が形成する神経ネットワークが 適切に機能することが重要である.我々は,大脳皮質 の神経ネットワークを強化することができる新たな非 侵襲的脳刺激法である経頭蓋交流電流刺激(tACS) を用いて,ヒトの運動パフォーマンスおよび運動学習 の向上をもたらす刺激方法の検討を行ってきたため, 本稿にて紹介する. 2. 経頭蓋交流電流刺激とは tACSは,頭部に貼付した 2 つの電極に微弱な交流 電流を付与することによって,電極直下の皮質領域の 律動性脳活動を特定の周波数に変調することができる 非侵襲的脳刺激法である1-4).大脳皮質における律動 性脳活動は,認知,覚醒,記憶,運動系など様々な脳 機能に重要な役割を果たしており,デルタ( 4 …Hz未 満),シータ( 4 - 8 …Hz),アルファ( 8 -12…Hz),ベ
経頭蓋交流電流刺激が運動パフォーマンスに与える効果
宮口 翔太
Effect on motor performance of transcranial alternating current stimulation
Shota Miyaguchi Abstract Transcranial…alternating…current…stimulation…(tACS)…is…a…noninvasive…method…of…brain…stimulation… that…can…modulate…oscillatory…brain…activity…in…the…cortical…region.…By…applying…alternating…current… through…two…electrodes…attached…to…a…subject’s…head,…it…is…possible…to…entrain…the…oscillation…of…the… cortex…directly…under…one…electrode…to…a…specific…frequency.…In…this…review,…we…described…our…recent… findings…that…tACS…to…the…primary…motor…cortex…and…cerebellar…hemisphere…improves…motor…per-formance.…We…also…described…the…effect…of…tACS…on…the…supplementary…motor…cortex…to…modulate… the…maintenance…and…updating…of…motor…plans…in…a…bimanual…motor…task.…These…recent…findings… show…that…individualized…tACS…interventions…can…be…tailored…by…selecting…the…stimulation…area…and… frequency…depending…on…the…subject’s…performance…level…and…exercise…task.…By…further…investigat- ing…the…effects…of…tACS…on…motor…performance,…we…believe…that…tACS…can…be…applied…to…rehabilita-tion. ey words: K Transcranial…alternating…current…stimulation,…Motor…performance,…Motor…learning,… Primary…motor…cortex,…Cerebellar…hemisphere 新潟医療福祉大学…運動機能医科学研究所 Institute…for…Human…Movement…and…Medical…Sciences,…Niigata…Uni-versity…of…Health…and…Welfare,…Niigata,…Japan 投稿責任者:宮口翔太 連絡先:新潟県新潟市北区島見町1398番地 … 新潟医療福祉大学…運動機能医科学研究所 E-mail:[email protected]Title:JJPTF 23- 総説 2 宮口 .indd p8 2021/02/27/ 土 10:35:45 Title:JJPTF 23- 総説 2 宮口 .indd p9 2021/02/27/ 土 10:35:45
日本基礎理学療法学雑誌 第23巻 1 号(2020)
ータ(13-30…Hz),ガンマ(>30…Hz)の 5 つの周波数 帯域に分類される.特にM 1 における
β
帯域の活動とγ
帯域の活動は運動制御に関与しており,β
帯域の活動 は随意運動の前や運動中に減少し5),等尺性収縮中に 増加する6)ことが示されており,γ
帯域の活動は運動遂 行前や運動遂行中に増加し5,7),運動応答時間にも影響 を与える8).そこで近年では,tACSを用いて運動関連 領域のβ
帯域およびγ
帯域の律動活動を人為的に変調さ せることによる運動パフォーマンスへの効果が検討さ れている.これまでの研究では,M 1 に対してβ
帯域 のtACS(β
-tACS)を適用すると,手指の運動速度9) や 発 揮 張力10)が 低 下 す る の に 対 し,γ
帯 域 のtACS (γ
-tACS)では手指の運動速度11)や発揮張力10)が増加 することが報告されている.しかしながら,視覚追従 課題のような精密な運動制御を必要とする運動遂行に は効果が認められていなかった.視覚追従課題のよう な高度な巧緻性を求められるような運動遂行には, M 1 以外の脳領域の関与が大きくなる.またtACSは 頭部に貼付した 2 つの電極直下の皮質領域の律動性脳 活動を変調することが可能であるため,M 1 とそれ以 外の脳領域の律動活動を同時に変調することが可能で ある.さらに,ヒトの脳内機構の仮説の一つとして,Figure 1. The effects of transcranial alternating current stimulation (tACS) over the pri-mary motor cortex and cerebellar.
a)…The…subjects…tracked…the…vertical…movements…of…the…blue…target…marker…as…accurately… as…possible…by…moving…a…red…control…marker…up…and…down…using…abduction…force…of…their… index…finger.…b)…The…tensiometer…was…fixed…to…his…right…index…finger.…c-e)…Correlations…be-tween…the…difference…in…task…error…for…each…γ-tACS…condition…and…task…errors…during…the… sham…condition.…c)…M1…condition.…d)…Cerebellum…condition.…e)…M1-Cerebellum…condition.…f-g)… The… mean… values… of… task… errors… in…γ-tACS… for… each… performance… subgroup.… f)… High-performance…subgroup.…g)…Low-performance…subgroup.…*…p…<…0.05.…Adapted…from…Miyaguchi.,… et…al.13)
異なる皮質領域に存在する神経細胞集団が
γ
帯域の律 動で同期して活動することによって皮質間の神経ネッ トワークが強化される脳内機構(Binding…theory)が 存在する12).そこで我々は,運動の誤差修正に重要な 役割を持ちかつM 1 とも強い神経ネットワークをもつ 小脳領域に着目し,M 1 と小脳領域に対してγ
-tACS を施行することによって,皮質間の神経ネットワーク が強化され,調節を要する複雑な運動課題の成績が向 上するのではないかと考え,この仮説を検証するに至 った. 3. 刺激部位および刺激周波数特異性の検討 上述した仮説を検証するために,M 1 と小脳領域へ のγ
-tACSによって調節を要する運動課題の成績が向 上するかどうか,またその効果は刺激部位および刺激 周波数特異的であるかどうかを明らかにするために 2 つの実験を行った13).対象は,右利き健常成人20名と し,tACS(1.0…mA)施行中に右示指の視覚追従課題 を実施し,運動パフォーマンスを評価した(図 1 a-b).実験 1 では70…Hz(γ
帯域)の周波数,実験 2 で は20…Hz(β
帯域)の周波数を用いた.刺激条件は( 1 ) 左M 1 を刺激する条件,( 2 )右小脳半球を刺激する 条件,( 3 )左M 1 および右小脳半球を同時に刺激す る条件の 3 条件とした.刺激時間はいずれも30秒間と し,各刺激条件における視覚追従課題のエラー値を比 較した.その結果,γ
-tACSでは,M 1 と小脳半球を 同時刺激した条件において疑似刺激条件のエラー値が 大きい被験者ほど,刺激によってエラー値が低下する 関 係 性 が 認 め ら れ た(p…=…0.005,…Pearson’s…r…=… -0.597)(図 1 c-e).またサブグループ解析を行った結 果,疑似刺激条件でのエラー値が高値であった被験者 群では,M 1 と小脳半球を同時刺激することによって エラー値が有意に低下した(p…=…0.004)(図 1 f-g). つまり,運動パフォーマンスが低い被験者では,M 1 と小脳半球をγ
帯域の周波数で同時刺激することによ って運動パフォーマンスの向上が認められた.この効 果はβ
-tACSでは観察されず,γ
帯域の刺激周波数特異 的であることが示された.前述したように,ヒトの脳 内機構の仮説の一つとして,異なる皮質領域に存在す る神経細胞集団がγ
帯域の律動で同期して活動するこ とによって皮質間の神経ネットワークが強化される脳 内機構(Binding…theory)が存在する12).山本らは, 海馬と内嗅皮質のγ
帯域の同期的な活動が空間的作業 記憶課題の実行に寄与することを実証した14).また萩 原らは,ヒトの体性感覚情報処理において,一次体性 感覚野と二次体性感覚野の活動がγ
帯域の周波数で同 期していることを示した15).また,両手運動課題にお いて,両側M 1 におけるγ
帯域の同期的な活動が増加 することが報告されている16).これらの先行研究より, 本研究の結果は,M 1 および小脳領域間におけるγ
帯 域の同期的な活動が関与している可能性が考えられ た.先行研究では,M 1 と小脳半球の間に視床を介し た神経ネットワークが存在することが示されており, この神経ネットワークが運動を円滑に遂行するために 重要な役割を果たしていることが示されている17).そ のため,本研究において視覚追従課題のエラー値が減 少したのは,γ
-tACSによるM 1 と小脳半球の同時刺 激により,皮質間の神経ネットワークが強化されたた めである可能性が考えられた.しかしこの結果は,神 経ネットワークが強化された結果ではなく,各皮質領 域に対するtACSのわずかな効果が加算されたことに よる結果である可能性も考えられたため,次の検討を 行った. 4. 位相特異性の検討 これまでの先行研究では,tACS…を用いて課題遂行 に関与する 2 つの皮質領域の律動神経活動を同期させ ることで神経ネットワークが強化され,記憶課題…18)… や認知課題19,20)… の成績が向上することが示されてい る.またその効果には位相特異性があり,皮質間の神 経ネットワークの変化を伴うことが示唆されてい る18-20).しかし,我々が明らかにしたM 1 と小脳半球 へのtACSの効果においては,…M 1 と小脳半球の間の 神経ネットワークが強化されたことによる効果かどう か詳細は不明であった.そこで我々は,M 1 と小脳半 球へのtACSの効果に位相特異性があるかどうかを検 証した21).対象は,右利き健常成人20名とし,左M 1 および右小脳半球への70…HzのtACS中に,右示指の視 覚追従課題を30秒間実施した.刺激条件は( 1 )擬似 刺激条件,( 2 )逆位相条件,( 3 )同位相条件の 3 条 件とした(図 2 a-b).その結果,逆位相条件において 疑似刺激条件のエラー値が大きい被験者ほど,刺激に よってエラー値が低下する関係性が認められた(p…=… 0.002,…Pearson’s…r…=…-0.649)(図 2 c-d).また逆位相 条件では,疑似刺激条件と比較してエラー値が有意に 低値を示した(p…=…0.021)(図 2 e).本研究により, M 1 および小脳半球へのγ
-tACSの効果には位相特異 性があることが明らかになった.tACSによって同一 の領域を同一の強度,同一の周波数で刺激したにもか かわらず,各電極に流れる電流の位相が異なるだけでTitle:JJPTF 23- 総説 2 宮口 .indd p10 2021/02/27/ 土 10:35:45 Title:JJPTF 23- 総説 2 宮口 .indd p11 2021/02/27/ 土 10:35:45
得られる効果が異なることから,M 1 および小脳半球 への
γ
-tACSの効果は,単に各皮質領域に対する刺激 効果の総和によって得られた効果ではなく,M 1 と小 脳半球間における神経ネットワークの機能的な同期性 の変調が関与していることが示唆された.また先行研 究では同位相の刺激によって神経ネットワークの向上 が認められていたが,本研究では逆位相の刺激によっ て効果が認められた.これに関しては,刺激した皮質 領域間の神経伝達に必要な時間と,刺激周波数の違い が関係していると考えられる.先行研究では,比較的 近接した領域(前頭皮質と頭頂皮質,または両側の後 頭皮質)は,θ
帯域( 6 …Hz)または低周波のγ
帯域(40… Hz)など,比較的低い周波数帯域で刺激されてい た3,18).したがって,同位相の刺激によって各皮質領 域の同期性が高まり,神経ネットワークが強化された 可能性がある.これに対し本研究では,M 1 から比較 的遠い小脳半球をγ
帯域(70…Hz)の周波数で刺激した. 本研究における70…Hzの交流電流 1 周期に要する時間 は,約14…msである.またM 1 と小脳半球との間の神 経伝達に要する時間は約 5 - 7 …ms22)であり,これは70… Hzの交流電流の 1 周期に要する時間の約半分の時間 である.つまりM 1 と小脳半球を同位相で刺激した際 には,両皮質間の神経伝達に要する時間を加味すると, 半周期分の位相シフトが生じることになる.一方で, 逆位相の刺激ではこの位相シフトが生じにくいと考え られる.このことから,M 1 と小脳半球を逆位相で刺 激することにより,両皮質間の機能的な同期性が高ま ったのではないかと考えられる.近年,いくつかの先 行研究においてtACSの効果には位相特異性があるこ とが報告されているが3,14,18,20,23),我々はM 1 および小 脳半球へのtACSが運動パフォーマンスに与える効果 にも位相特異性があり,刺激する皮質領域によって最 適な刺激位相が異なる可能性があることを明らかにし た.Figure 2. The phase specificity of transcranial alternating current stimulation (tACS).
a)…Electrode…placement.…Active…electrodes…(5…×…5…cm,…25…cm2)…were…placed…on…the…scalp…over…the…left…primary…
motor…cortex…and…right…cerebellar…hemisphere.…The…reference…electrode…(5…×…10…cm,…50…cm2)…was…placed…on…
the…right…shoulder.…b)…Phase…differences.…180°…phase…difference…in…the…two…cortical…target…areas…(anti-phase… condition)…and…0°…phase…difference…(in-phase…condition).…c-d)…Correlations…between…the…difference…in…task…error… for… each… tACS… condition… and… task… error… during… the… sham… condition.… c)… Anti-phase… condition.… d)… In-phase… condition.…e)…Mean…task…error…values…for…tACS…over…the…primary…motor…cortex…and…cerebellar…hemisphere…for… each…condition.…Gray…lines…indicate…the…task…error…of…all…participants…for…each…condition.…The…black…line…indi-cates…the…mean…value…of…the…task…error…for…each…condition.…*…p…<…0.05.…Adapted…from…Miyaguchi.,…et…al.21)
5. 刺激強度依存性の検討 M 1 へのtACSが皮質興奮性に与える効果は,刺激 強度にも依存することが報告されている24,25),先行研 究では0.4…mAの強度で140…HzのtACSを10分間介入す ることでM 1 の興奮性が低下し,1.0…mAの強度の tACSでは興奮性を増加させることが報告されてい る25).さらに,0.8~0.9…mAの強度で20…HzのtACSを1.5 分間行うとM 1 の興奮性が低下し,2.1~2.2…mAの強 度では興奮性が増大することが示されている24).我々 は,大脳皮質の興奮性に対するtACSの効果が電流強 度に依存しているのであれば,運動パフォーマンスへ の効果も電流強度に依存する可能性があると考え,刺 激強度依存性についても検証した26).対象は,右利き 健常成人20名とし,左M 1 および右小脳半球への70… HzのtACS中に,右示指の視覚追従課題を30秒間実施 し た. 刺 激 条 件 は,( 1 ) 擬 似 刺 激 条 件,( 2 )1.0… mA条件,( 3 )2.0…mA条件の 3 条件とした.その結果, 電流強度にかかわらず,運動パフォーマンスの低い被 験者ほど運動パフォーマンスが向上する結果となった (1.0…mA条件;p…=…0.048,…Spearman’s…r…=…-0.447,2.0… mA条件;p…=…0.019,…Spearman’s…r…=…-0.520).また疑 似刺激条件では同様の関係性は認められなかったこと から,左M 1 および右小脳半球への70…HzのtACSの効 果は電流強度に依存せず,運動パフォーマンスの低い 被験者の運動パフォーマンスを改善することが明らか になった.
Figure 3. The effects on motor learning of transcranial alternating current stimulation (tACS) applied over the primary motor cortex and cerebellar.
a)…The…mesurement…of…abduction…force.…The…abduction…force…was…measured…using…a…tensiometer…fixed…to…the…subject’s… left…index…finger.…b)…The…target…waveform…and…control…marker.…The…blue…curve…shows…the…target…waveform…and…the… black…circle…shows…the…control…marker.…A…laptop…with…20-inch…screen…was…placed…60…cm…in…front…of…the…subjects;…this… displayed…a…moving…waveform…(the…target…waveform)…and…a…control…marker…that…moved…up…and…down…according…to… the…abduction…force…of…a…subject’s…left…index…finger.…The…target…waveform…was…presented…as…moving…from…right…to… left.…The…subjects…were…instructed…to…apply…appropriate…pressure…with…their…finger…to…cause…the…control…marker…to… track…the…target…waveform…as…accurately…as…possible.…c)…The…mean…error…rates…under…the…γ-tACS…and…sham…conditions.… The…solid…and…dashed…lines…show…the…mean…error…rates…under…the…γ-tACS…and…sham…conditions,…respectively.…Error… bars…indicate…standard…deviation.…d-f)…Comparison…of…motor…learning…between…conditions.…d)…Motor…learning…efficiency.… e)…Motor…learning…retention.…The…motor…learning…retention…in…the…γ-tACS…condition…was…significantly…higher…than…that… in…the…sham…condition…(Unpaired…t-test,…p…=…0.031).…f)…Re-motor…learning…efficiency.…*…p…<…0.05.…Adapted…from…Miyaguchi.,… et…al.30)
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6. 運動学習に与える効果の検討 次に我々は,M 1 および小脳半球へのtACS介入が 運動学習に与える効果について検討した.これまでの 先行研究においても…tACS… の運動学習への効果が検 討されてきたが,その効果は初期の運動学習にのみ有 効であったり,反対に運動学習を阻害するものであっ たりと,運動学習効率や運動学習の定着を高める効果 は見出されておらず,さらなる検討が必要とされてい た.運動学習におけるM 1 と小脳半球間の神経ネット ワークは,運動エラーの検出や運動計画の修正に機能 しており27),M 1 と小脳はともに運動学習の保持に重 要な役割を持つ領域であるため28,29),M 1 と小脳半球 に
γ
-tACSを適用することで,運動学習が向上するの ではないかと仮説を立て,検証した30).対象は,右利 き健常成人30名(女性14名,男性16名)とし,右小脳 M 1 および左小脳にγ
-tACSを施行する条件と疑似刺 激条件(各条件15名)を設け,各条件試行中に視覚追 従課題( 8 試行)を実施した(図 3 a-b).各被験者は 24時間後に再度 5 回の試行を行い,各条件における運 動学習効率,運動学習の保持率,再運動学習効率を比 較した.その結果,γ
-tACS施行群の運動学習保持率は, 疑 似 刺 激 群 に 比 べ て 有 意 に 高 か っ た(p=0.031) (図 3 e).このように,γ
-tACSを施行された被験者は, 疑似刺激を受けた被験者よりも翌日の運動パフォーマ ンスを良好に保持していた.また,運動学習効率と再 運動学習効率には,両条件間で有意差は認められなか った.これらの結果から,運動学習課題を遂行する際 にM 1 および小脳半球にγ
-tACSを施行することで, 運動学習の保持を高められることが明らかになった. 本研究で観察されたγ
-tACSによる運動学習の保持の 向上には,γ
-tACSによるM 1 と小脳半球の間の神経 ネットワークの強化が関与した可能性が考えられた. M 1 におけるγ
帯域の活動は,感覚運動統合時の情報 伝達に関与している31).また小脳におけるγ
帯域の活 動は,感覚野と運動野の同期活動にも重要とされてい る32).さらに,M 1 および小脳半球間の神経ネットワ ークは,運動エラーの検出や運動計画の修正に関与し ており27),運動学習に重要な役割を果たしている.こ れらの先行研究より,本研究では,運動学習課題中にγ
-tACSを施行することによってM 1 と小脳半球間の 神経ネットワークが強化されたことで,運動学習の保 持が向上した可能性が考えられた.しかしながら,そ の効果はわずかであったため今後さらなる検討が必要 であると考えている. 7. 運動計画の維持および更新に対する効果 補足運動野(SMA)は,ブロードマン領域の 6 野 に分類される領域であり,両手運動課題の遂行に重要 であることが示されている33).またSMAにおけるβ
帯 域の活動は運動の計画と維持に関与し,γ
帯域の活動 は運動計画の更新に関与していることが報告されてい る34).これらの先行研究から,SMAは連続的な両手 運動課題の運動計画と実行に重要な皮質領域であり, tACSをSMAに施行することで両手運動課題のパフォFigure 4. Purdue pegboard test.
a)…The…Purdue…Pegboard…Test.…Participants…first…placed…a…pin…in…the…hole…with…their…right…hand…and…then…covered…the… pin…with…a…washer…with…their…left…hand.…Then,…the…collar…was…threaded…through…the…top…of…the…pin…with…their…right… hand…and…finally…a…washer…was…placed…over…the…collar…with…their…left…hand…to…assemble…one…unit.…b)…The…number…of… parts…in…each…trial.…The…red…line…shows…the…mean…of…parts…for…all…participants…in…each…trial,…and…gray…lines…show…the… number…of…parts…for…each…participant.…Adapted…from…Miyaguchi.,…et…al.35)
ーマンスが変化する可能性があると考えた.そこで 我々は,SMAにおける両手運動課題の運動計画の維 持および更新は,
β
-tACSまたはγ
-tACSによって変調 されるのではないかと仮説を立て,検証した35).対象 は,右利き健常成人32名とし,SMAに対してβ
-tACS (20Hz),γ
-tACS(80Hz),または疑似刺激のいずれ か を 施 行 し て い る 際 中 に,Purdue…Pegboard…Test (PPT)を遂行し, 1 分間に組み立てたパーツ数を計 測した(図 4 a-b).被験者は,各刺激条件で 3 回ずつ 計 9 回のPPTを行った.各被験者が遂行した 9 回の PPTのパーツ数の近似直線を算出した.また近似直線 と実際に遂行したパーツ数との差を算出し,刺激によ る成績変化量の指標とした.さらに近似直線の切片の 値をベースライン成績の指標とした.β
-tACS条件で は成績変化量とベースライン成績との間に有意な正の 相 関 が 認 め ら れ(p…=…0.007,Pearson’s…r…=…0.464),γ
-tACS条件では有意な負の相関が認められた(p…=… 0.012,Pearson’s…r…=…-0.438)(図 5 a-c).またベース ライン成績に応じて32名の被験者を低成績群と高成績 群の各16名に分けて行ったサブグループ解析の結果, 低成績群では,γ
-tACS条件における成績変化量の平 均値は,β
-tACS条件よりも有意に大きい値となり(p… =…0.048),高成績群では,γ
-tACS条件よりもβ
-tACS 条件(p…=…0.002)および疑似刺激条件(p…=…0.014) において有意に大きい値となった(図 5 d-e).これら の結果から,SMAに対するtACSの効果は,刺激周波 数と被験者のベースラインにおけるパフォーマンスレ ベルに依存しており,ベースラインの運動成績が高い 被験者にはβ
帯域の刺激が有効であり,反対にベース ラインの運動成績が低い被験者にはγ
帯域の刺激が有 効である可能性が示唆された.この結果には,SMA に対するtACSによって,運動計画の維持および更新Figure 5. The effects of stimulating the supplementary motor area with a transcranial alternating current for bi-manual movement performance.
a-c)…The…relationships…between…the…values…of…the…differences…from…linear…approximation…in…each…condition…and…the… intercept…of…the…linear…approximation.…a)…sham…condition.…b)…β-tACS…condition.…A…significant…positive…correlation…was… found…for…the…β-tACS…condition…(p…=…0.007,…Pearson’s…r…=…0.464).…c)…γ-tACS…condition.…A…significant…negative…correlation… was…found…for…the…γ-tACS…condition…(p…=…0.012,…Pearson’s…r…=…-0.438).…d-e)…The…mean…values…of…the…differences…from… linear…approximation…for…each…condition…for…each…subgroup.…The…error…bars…indicate…the…standard…error.…*…p…<…0.05,…**… p…<…0.01.…Adapted…from…Miyaguchi.,…et…al.35)
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が変調されたことが関係している可能性が考えられ た.本研究によって,SMAに対するtACSは,全ての 被験者に対して同一の刺激周波数を用いるのではな く,各被験者のパフォーマンスレベルに応じて刺激周 波数を決定することで,より効果的に運動パフォーマ ンスおよび運動学習を促進できる可能性が考えられ た. 8. おわりに 本稿では,tACSが運動パフォーマンスに与える影 響について我々がこれまで検証した内容について紹介 した.我々の検証の結果,M 1 および小脳半球に対す る
γ
帯域のtACSによって,刺激中の運動パフォーマン スが向上することが明らかになった.またこの刺激効 果には皮質間の神経ネットワークの変化が関与してお り,刺激中に運動練習を行うことで運動学習の保持を 高める効果があることが示唆された.さらにSMAへ のtACSは,両手運動課題のパフォーマンスを変化さ せることが明らかになり,この効果には,SMAにお ける運動計画の維持および更新の変調が関与している ことが示唆された.非侵襲的脳刺激法を用いたこれま での先行研究では,運動学習に関与する領域(一次運 動野,小脳,運動前野,補足運動野など)の中の,単 一領域のみの興奮性を高めることに着目した検討が多 くされてきた.一方,tACSは単一領域の興奮性を変 調するのではなく,複数の皮質領域の神経ネットワー クを高めることが可能な脳刺激法である.今後,運動 学習に寄与する神経ネットワークの詳細を明らかにし た上で,tACSのより効果的な介入方法を明らかにし ていくことで,将来的に脳卒中患者の麻痺肢の運動機 能改善に向けた有効な刺激方法になり得ると考えてい る.また同様の手法を用いて,下肢の運動機能やバラ ンス機能,感覚機能や認知機能,記憶機能などにも応 用できる可能性があり,さらにはtACSを併用した新 たな運動学習プログラムの考案および脳卒中患者に対 する効果的なリハビリテーションの発展にも貢献し得 る脳刺激法ではないかと考えている. 献 文 1 )…Abd…Hamid…AI,…Gall…C,…Speck…O,…Antal…A,…Sabel… BA:…Effects…of…alternating…current…stimulation…on… the…healthy…and…diseased…brain.…Front…Neurosci… 9:…391,…2015 2 )…Antal…A,…Herrmann…CS:…Transcranial…alternating…current… and… random… noise… stimulation:… possible… mechanisms.…Neural…Plast…2016:…3616807,…2016 3 )…Helfrich… RF,… Knepper… H,… Nolte… G,… Strüber… D,…
Rach… S,… Herrmann… SC,… Schneider… R… T,… Engel… KA: … Selective… modulation… of… interhemispheric… functional… connectivity… by… HD- tACS… shapes… perception.…PLoS…Biol…12:…e1002031,…2014
4 )…Helfrich…RF:…Entrainment…of…brain…oscillations…by… transcranial… alternating… current… stimulation.… Curr…Biol…24:…333-339,…2014
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