は じ め に
救急・集中治療領域における患者は,呼吸や循環 を保つため,人工呼吸器や体外膜型人工肺(extra-corporeal membrane oxygenation:以下,ECMO), 持続的腎代替療法(continuous renal replacement therapy:以下,CRRT)を導入されるなどの補助を 必要とすることも多い。ECMO や CRRT 施行時に, 薬物の体内動態が変化することは周知の事実であ り,注意が必要である1)2)。CRRT はサイトカイン 除去目的もある一方で,腎臓の代替として中心的な 役割を果たし,血液浄化量の設定により腎排泄型薬 物のクリアランスが変化する3)。また,CRRT や ECMO の回路や膜に薬物が吸着した場合には,分布 容積(volume of distribution:以下,Vd)も変化する。 近年,薬物動態学 / 薬力学(pharmacokinetics/ pharmacodynamics:以下,PK/PD)理論が提唱さ れており,抗微生物薬では有効性のみならず有害事 象や耐性菌発現率の指標として汎用されている。より 効果的な感染症治療を行うため,血中濃度曲線下面 積 / 最小発育阻止濃度(area under the blood con-centration time curve/minimum inhibitory concen-tration:以下,AUC/MIC),薬物ピーク濃度 / 最小
発育阻止濃度(以下,Cpeak/MIC),Time above MIC
などの PK/PD パラメータを考慮する必要がある。と くに ECMO,CRRT 施行時では,PK パラメータと
トピックス
持続的腎代替療法と膜型人工肺における抗菌薬投与設計の支援
して全身クリアランス(total clearance:以下,CLtot)
と Vd の変動を理解することが重要である。 本稿では CRRT と ECMO 施行時における抗微生 物薬の薬物動態変動因子を概説するとともに,最新 の文献を踏まえ,当院のデータを用いて検証し薬学 的観点から考察した。
Ⅰ.CRRT 施行時における薬物動態の考え方
1.抗菌薬の代謝・排泄 CRRT 施行時に限らず,とくに薬物の維持投与 量を考える際には,消失経路を念頭に置いておく必 要がある。一般的に,体内に入った薬理活性のある 薬物の消失は,肝臓からの代謝または腎臓からの排 泄の 2 つに分類される。薬理活性のある薬物の消失 が肝臓の薬物代謝酵素に依存している場合は肝代謝 型薬物,未変化体のまま腎臓からの排泄に依存して いる場合は腎排泄型薬物と呼ばれる。CRRT は腎 代替療法であることから腎排泄型薬物の薬物動態に 影響を及ぼす。ほとんどの抗菌薬は腎排泄型であり, 水溶性で比較的分子量が小さく,タンパク結合率が 低い,Vd が小さいなどの特徴をもつ。これらの特 徴を持つ抗菌薬を投与する際には,残存腎機能と CRRT による薬物除去を考慮した投与設計を行う 必要がある。一方,基本的に肝代謝型薬物の投与量 は,腎障害時や CRRT 施行時には用量調節の必要 はない。 要旨:重症感染症患者では,抗菌薬の薬物動態パラメータ,とくに分布容積とクリアランスが大きく変動することで至適 投与量にならない可能性がある。その際に使用する持続的腎代替療法(以下,CRRT)や体外膜型人工肺(以下, ECMO)のような生命維持システムは,薬物動態パラメータを変動させる報告もある。本稿では,CRRT および ECMO 施行時における抗微生物薬の薬物動態の注意点を概説する。CRRT や ECMO 施行時で薬物動態が変動するような患者 では,ガイドラインなど,データリソースが不十分であるため,TDM も含めた抗菌薬適正使用支援をすべきである。 東京女子医科大学病院薬剤部 橋本直人,浜田幸宏 【索引用語】 CRRT,ECMO,Antimicrobial stewardship,Pharmacokinetics2.血液浄化の原理 薬物の除去(消失)の原理として,拡散,濾過, 吸着が挙げられる。拡散は血液透析で用いられる原 理であり,Fick の法則に基づき濃度勾配による単 純拡散を利用し,分子量が高い薬物ほど除去効率が 良い。また,アルブミンなどのタンパク質に結合し た薬物は透析膜を通過することができない。透析液 流量(QD)が血液流量(QB)と比較して速度が十 分に遅い場合,血液中と透析液中の非結合型薬物濃 度が等しくなり平衡に達する。そのため,CRRT の ように QBが 80 〜 100mL/min,QDが 10 〜 16mL/ min と Qpが遅い場合,拡散によるクリアランス(CLD) は QDに依存し,非タンパク結合率(fu)を考慮した 式 1 で表現できる。 CLD(mL/min)=fu×QD(mL/min) 式 1 次に濾過は限外濾過圧をかけることで,血液浄化 膜より分子量が小さい薬物を,分子量に依存せず水 分とともに除去する原理である。濾過によるクリア ランス(CLF)は濾過流量(QF)に依存する。CLF は濾過液中薬物濃度と血中薬物濃度の比である,ふ るい係数(Sc)を考慮し式 2 で示せる。血液浄化膜 では分子量が 50,000 〜 60,000Da の物質まで濾過可 能であるが,分子量 66,000Da のアルブミンと結合 した薬物は通さないため Scは fuと等しくなる。
CLF(mL/min)=Sc×Q(mL/min)≈fF u×QF(mL/min) 式 2
式 1,2 より CRRT のクリアランス(CLCRRT)は
式 3 で表せる。また,腎排泄型薬物における無尿患
者の CLtotとしても同様に表せる。
CLtot=CLCRRT(mL/min)≈CLD(mL/min)+ CL(mL/min)≈ fF u×(QD+QF)(mL/min) 式 3
腎排泄型薬物の CLtotは残存腎機能がある場合,
自尿のクレアチニンクリアランス(CLcr)を考慮す
る必要があり,式 4 で表せる。
CLtot(mL/min)=CLCRRT(mL/min)+ fu×CLcr(mL/min) 式 4 式 4 のように透析液流量や濾過流量,残存腎機能 を考慮することで腎排泄型薬物のクリアランスを定 量的に算出することができる。 一方,吸着は膜素材の吸着特性と薬物の物理学的 または生物学的相互作用により,薬物が膜に吸い付 く現象であり,分子量にかかわらず物質の除去が可 能である。血液浄化膜に吸着を考慮しなければなら ない抗菌薬は非常にまれであるが,テイコプラニン (Teicoplanin:以下,TEIC)には注意が必要である。 リネゾリド(Linezolid:以下,LZD),TEIC,バイ コマイシン(Vancomycin:以下,VCM)を用いて 血液濾過透析(Hemofiltration:以下,HDF)の膜 素材による吸着の影響を検討した報告では,溶質除 去能に優れたポリスルホン(PS)膜や吸着性能の 高いポリメチルメタクリレート(PMMA)膜を使 用した場合,TEIC が有意に吸着した4)(図 1)。 さらに TEIC はタンパク結合率が 90%以上と高 いため5),血中のアルブミン濃度が減少するに従い, PS や PMMA の吸着量増加もみられる。そのため, フレイルのような低栄養状態,ネフローゼ症候群, 慢性腎臓病のような低アルブミン血症を起こす病態 の場合は,TEIC の HDF クリアランスが 4 倍以上 増加を示した4)。その結果,遊離型分率の上昇に伴 い,見かけ上の薬物総血中濃度が低下するため注意 が必要である。 3.CRRT モードと薬剤クリアランス CRRT のモードは持続的血液透析(Continuous hemodialysis:以下,CHD),持続的血液濾過(Contin-uous hemofiltration:以下,CHF),持続的血液濾過 透 析(Continuous hemodiafiltration:以 下,CHDF) の 3 つに分類される。一般的に,この CHD,CHF, CHDF では,小分子,水溶性,タンパク結合率が 低いほとんどの抗菌薬ではモードによらず,クリア ランスは同じである。これは,分子量,水溶性・脂 溶性,タンパク結合率の異なるアミカシン(Amika-50 40 30 20 10 0 Blank (%) ** ** PAN LZD TEIC VCM PS PMMA 図 1 抗 MRSA 薬に対する膜吸着による消失率 文献 4 より引用 Blank:膜を除いたコントロール,PAN:ポリアク リルニトリル膜,PS:ポリスルホン膜,PMMA: ポリメチルメタクリレート膜,LZD:リネゾリド, TEIC:テイコプラニン,VCM:バンコマイシン
cin: 以 下,AMK)6), シ プ ロ フ ロ キ サ シ ン7), LZD8)では,CHDF,CHF 時の薬物血中濃度の比 較で有意な差が認められなかったことからも裏付け られる。 したがって,小分子や水溶性の腎排泄型薬物にお いては,モードを考慮することなく,fu×(QD+QF) で CLtotを概算できる。 4.CHDF 施行時における投与設計の注意点 本邦における CHDF 施行時の浄化量(QD+QF) はおおよそ 10 〜 16.6mL/min である。臨床で抗菌 薬の投与設計をするにあたり,参考資料としてサン フォードガイドがよく用いられるが,参照する際に 日本と米国による CRRT の浄化量の設定の違いに 留意しなければならない。米国における CRRT の 浄化量は 33.3mL/min 程度と日本の約 2 倍であるた め,サンフォードの投与量をそのまま適用すると過 量投与となることもあるため注意が必要である9)。 すべての薬剤に当てはまる訳ではないものの,本邦 で無尿に近い患者に適応する場合には,CLtotとし て 10 〜 16.6mL/min 程度の投与量を参考にするこ とで過量投与を防ぐことができる。 Yamamoto ら10)11)は,本邦の CHDF 施行時に おける VCM,TEIC,AMK の投与量を適正化させ るために CHDF クリアランスと PK/PD パラメー タの目標値を考慮した投与レジメンを推奨している (表 1 〜 3)。これらレジメンの血中濃度の予測値は, そのほとんどが実測値の 0.5 〜 2 倍の範囲内となっ ており,臨床応用可能な結果であった。 他方で Oda ら12)の最新報告では,CRRT 時の VCM の母集団薬物動態解析(PPK)から以下の式 を構築し(以下,Oda model),CRRT 条件下での VCM の CLtotは式 5,6,7 で表している。 CLtot(L/h)=CLCRRT(L/h)+CLnonCRRT(L/h) 式 5 CLCRRT(L/h)=0.672×(QD+QF) 式 6 CLnonCRRT(L/h)=2.12×0.16RUO 式 7 式 5 は全身のクリアランス(CLtot)は CRRT に よるクリアランス(CLCRRT)と自己尿クリアランス (CLnonCRRT)の和であり,CLCRRTでは,VCM の非タ ンパク結合率である 0.672 が用いられている13)。一 方で,従来の式と異なる点は CLnonCRRT算出式の式 7 である。残存腎機能である CLnonCRRTを尿量減少の
有無(RUO:reduced urine output)で定義してい る。本モデルでは RUO を VCM の採血時点で尿量 が 0.5mL/kg/h 未満が 1 時間以上続いている場合 1 とし,そうでない場合は 0 としている。つまり 0.5mL/ kg/h 未満が 1 時間以上である場合の CLnonCRRTは 0.34L/h となり,それ以上に尿量が確保されている 場合は 2.12L/h と固定値となる。また Vd について は式 8 のように定義している。 Vdss(L/70kg)=91.3×BW/70 式 8 BW は実体重を示し,70kg で標準化している。 体重 70kg に対する定常状態における Vdssは 91.3L となっている。具体的な VCM 血中濃度算出式の詳 細は Oda らの文献を参照して頂きたい。 5.症例を用いたモデル検証 当院の 2 症例を Oda model と従来の CLCRRT算出 式から VCM 血中濃度を算出し,実測値と予測値を 比較した。ただし,従来の CLCRRT式で計算する際, Vd を平均値である 0.7L/kg とし,非タンパク結合 率を 0.672 と固定して 1─コンパートメントモデル で算出した。 症例 1 42 歳,男性,体重 69.6kg,2 型糖尿病を背景と 表 1 CHDF 時における VCM 投与レジメン 原因菌の MIC パラメータ (CLCHDF+残存 CLcr)/ 体重(mL/h/kg) 10 15 20 25 30 35 40 45 1mg/L 初回投与量(mg/kg) 15 15 15 20 20 20 20 20 維持投与量(mg/kg) 2.5 3.4 5.1 6.4 7.6 8.9 10 12 投与間隔(h) 24 24 24 24 24 24 24 24 予測 Ctrough(mg/L) 14.8 12.3 13.1 12.4 11.7 11.0 10.3 10.2 予測 Cpeak(mg/L) 19.1 17.9 21.5 22.6 23.7 24.8 25.9 28.3 予測 AUC0−24h/MIC 400 400 400 400 400 400 400 420 文献 10 より引用・一部改変
Ctrough:トラフ濃度,Cpeak:ピーク濃度,AUC0─24h:血中濃度曲線下面積,CLCHDF:持続的血液濾過透析クリアラ ンス,CLcr:クレアチニンクリアランス,MIC:最小発育阻止濃度
したフルニエ壊疽による敗血症性ショックを起こし, 腎前性の AKI 疑い(尿量 0.58mL/kg/h;CHDF 導 入直前の CLcr 14.4mL/min)となったため CHDF(透 析流量 0.5L/h,濾過流量 0.5L/h)を施行した症例に 対して VCM が投与された。入院日 day1 の夕方に 負荷投与で 1,500mg を 1.5 時間かけて投与し,day2 の朝に 500mg を 1 時間かけて投与し,day3 の投与 前の実測 VCM トラフ濃度が 17.19μg/mL であった。 Oda model より算出した予測値は 4.95μg/mL,従 来の CLCHDF式の予測値は 16.93μg/mL であった。 表 3 CHDF 時における AMK 投与レジメン 原因菌の MIC パラメータ (CLCHDF+残存 CLcr)/ 体重(mL/h/kg) 10 15 20 25 30 35 40 45 8mg/L 投与量(mg/kg) 20 20 20 20 20 20 20 20 投与間隔(h) 144 96 72 60 48 48 36 36 予測 Cpeak(mg/L) 68.1 67.5 66.8 65.7 65.5 63.3 64.2 62.3 予測 Cpeak/MIC 8.5 8.4 8.4 8.2 8.2 7.9 8 7.8 予測 Ctrough(mg/L) 4.0 4.0 4.0 3.6 4.1 2.6 4.1 3.0 4mg/L 投与量(mg/kg) 10 10 10 10 10 10 10 10 投与間隔(h) 120 72 60 48 36 36 36 24 予測 Cpeak(mg/L) 35.3 35.8 34.6 34.3 34.8 33.2 32.1 33.9 予測 Cpeak/MIC 8.8 9.0 8.7 8.6 8.7 8.3 8.0 8.5 予測 Ctrough(mg/L) 3.2 4.1 3.2 3.2 4.2 2.9 2.1 4.2 文献 10 より引用・一部改変 Ctrough:トラフ濃度,Cpeak:ピーク濃度,CLCHDF:持続的血液濾過透析クリアランス,CLcr:クレアチニンクリア ランス,MIC:最小発育阻止濃度 表 2 CHDF 時における TEIC 投与レジメン アルブミン 原因菌の MIC パラメータ (CLCHDF+残存 CLcr)/ 体重(mL/h/kg) 10 15 20 25 30 35 40 45 5g/dL 4mg/L 維持投与量(mg/kg/24h) 2.9 4.4 5.8 7.3 8.7 10 12 13 予測 Ctrough(mg/L) 53.8 51.9 50.2 48.5 46.9 45.4 44.0 42.6 予測遊離型 Ctrough(mg/L) 11.3 10.9 10.5 10.2 9.9 9.5 9.2 9 2mg/L 維持投与量(mg/kg/24h) 1.5 2.2 2.9 3.6 4.4 5.1 5.8 6.5 予測 Ctrough(mg/L) 26.9 26 25.1 24.2 23.5 22.7 22.0 21.3 予測遊離型 Ctrough(mg/L) 5.7 5.5 5.3 5.1 4.9 4.8 4.6 4.5 2.5g/dL 4mg/L 維持投与量(mg/kg/24h) 4.8 7.2 9.6 12 14 17 19 22 予測 Ctrough(mg/L) 51.4 48.6 46.0 43.6 41.5 39.5 37.6 35.9 予測遊離型 Ctrough(mg/L) 17.8 16.9 16 15.1 14.4 13.7 13.0 12.5 2mg/L 維持投与量(mg/kg/24h) 2.4 3.6 4.8 6.0 7.2 8.4 9.6 11 予測 Ctrough(mg/L) 25.7 24.3 23 21.8 20.7 19.7 18.8 17.9 予測遊離型 Ctrough(mg/L) 8.9 8.4 8.0 7.6 7.2 6.8 6.5 6.2 文献 10 より引用・一部改変 Ctrough:トラフ濃度,CLCHDF:持続的血液濾過透析クリアランス,CLcr:クレアチニンクリアランス,MIC:最小発育阻 止濃度
症例 2 46 歳,女性,体重 67.3kg,自己免疫性肝炎を背景 とした肺炎とカテーテル関連血流感染症疑いより, メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)敗血症に 伴う敗血症性ショックと播種性血管内凝固(DIC)を 合併した患者に対して VCM が投与された。Day4 の 血中濃度が 15.15μg/mL であり,Day4 より CHDF (透析流量 0.8L/h,濾過流量 0.5L/h)導入(導入時 尿量≒ 0mL/day)となり,750mg を 1 日 1 回 1 時 間かけて投与し,Day6 の実測 VCM トラフ濃度が 14.28μg/mL であった。Day6 における Oda model
の予測値は 21.04μg/mL,従来の CLCHDF式の予測 値は 23.14μg/mL であった。 症例 1 に関しては,Oda model の予測値が低かっ た要因として,尿流出があったことから CLnonCRRT が 2.12L/h で血中濃度を算出したが,本症例に対し ては CLtotを過大評価していた可能性がある。一方, 従来の CLCHDF式では残存腎機能を固定値ではなく, 定量的に評価したことで良好な予測になったと考え る。 症例 2 に関しては,無尿のため CLtotは同じであ るが,従来の式で VCM の血中濃度がより高く算出 された要因として Vd の影響が考えられる。本症例 では低アルブミン血症や無尿であったことから一時 的な血管内ボリューム増多による血管外への水分流 出,浮腫や胸水などのサードスペースにより従来の 式では Vd を過小評価していた可能性が考えられる。 以上の 2 症例より,Oda model の CRRT 条件下 における VCM の母集団薬物動態モデルは,尿量の ある症例については CLtotを過大評価する可能性が あり,その場合は血中濃度を低く算出するため,投 与設計時に念頭に置く必要がある。Vd や CLtotの 妥当性について症例を集積し,今後さらなる検証が 必要と考える。
Ⅱ.ECMO 施行時における抗菌薬の薬物動態
ECMO は,重症呼吸不全患者または重症心不全患 者(時に心肺停止状態の蘇生手段として)に対して 行われる生命維持装置である。前提として,ECMO 施行時には患者の病態のみでなく,表 4 に示すよう 表 4 ECMO 施行時における薬物動態の影響因子 薬物動態の変化 治療改善 影響を受ける薬剤 プライミング / 輸液 血液希釈 ↑ Vd ↑負荷投与量 水溶性薬剤(βラクタム系,アミノグリコシド系) ↓ Cmax ↑遊離型血中濃度 ↑負荷投与量 ↑投与回数 テイコプラニン,セフトリアキソンのような高いタンパク結合率の薬剤 回路関係による因子 薬剤吸着 ↑ Vd ↓ Cmax ↑負荷投与量 脂溶性薬剤 フルオロキノロン 薬剤不活性化 ↑ CL ↓バイオアベイラビリティ ↑投与回数 患者因子 全身性炎症 / 敗血症 ↑ Vd ↓ Cmax ↑ CL ↑負荷投与量 水溶性薬剤(βラクタム系,グリコペプチド系) 多臓器不全 ↓ CL ↑ Vd ↓投与回数 腎または肝より排泄される薬剤 薬剤因子 水溶性 ↑ Vd ↓ Cmax ↑↓ CL(腎機能による) ↑負荷投与量 ↑↓投与回数 βラクタム系,アミノグリコシド系 脂溶性 ↑ Vd(薬剤吸着) ↑負荷投与量 ↑投与回数 フルオロキノロン系,マクロライド系 ↑↓ CL(肝機能による) 文献 2 より引用・一部改変 Cmax:最高血中濃度,CL:クリアランス,Vd:分布容積な ECMO 回路の影響や薬物の影響などを考慮する 必要がある2)。 1.ECMO 回路の吸着 ECMO 回路に薬物が吸着されることが報告され ており,特徴として脂溶性が高く,タンパク結合率 が高い薬物が吸着されやすい14)15)。現在,ECMO 回 路 で 汎 用 さ れ て い る 素 材 は ポ リ 塩 化 ビ ニ ル (PVC)が多く,脂溶性薬物は PVC 回路表面に吸 着する。また,可塑剤として主に使用されているジ エチルヘキシルフタレート(DEHP)が溶媒中に溶 出し,薬物によっては PVC 内部に収着し,血中濃 度が減少することもある。また,ECMO 回路に使 用しているチューブ内径や膜の表面積の大きさに応 じて,薬物消失量は大きくなる2)。 リポソーマルアムホテリシン B(liposomal am-photericin B:以下,L─AMB)に対する ECMO 施 行時の PK の影響として,トラフ濃度の低下と回路 交換が必要であったことが報告されている16)。L─ AMB は脂質を構成成分としたリポソーム製剤のた め吸着の可能性があり,血中濃度低下を引き起こす と考えられる。脂肪乳剤含めた脂溶性薬物を投与す る際,溶出による DEHP の曝露,PVC 製回路の破 損を起こすこともあるため,医療材料による影響を 確認するべきである16)17)。 2.プライミングによる血液希釈 水溶性薬物ではプライミングボリュームにより Vd の増大の割合が大きく,とくに新生児や乳児, 小児では血中濃度が低下すると考えられている。 ECMO 回路におけるプライミングボリュームは小 児で約 250 〜 400mL とされており,体重 3 〜 4kg 程度における児の循環血液量とほぼ同等である。そ のため,小児において水溶性薬物の体重当たりの Vd が著明に増加する。同様に,新生児においてタ ンパク結合率が低下すると一過性に遊離型薬物濃度 が上昇し,とくに TEIC やセフトリアキソンなどの タンパク結合率の高い薬物では,Vd が上昇する18)。 VCM の PK 研究では新生児と乳児において Vd が 増大する現象が報告されている19)〜 22)。Mulla ら21) の新生児から成人までを対象とした VCM の PPK では,V1(中心(血液)コンパートメント)は新 生児で 0.45L/kg,小児で 0.46L/kg,成人で 0.37L/ kg と報告している。最近になり成人 ECMO 患者に 関しても VCM の目標トラフ濃度を 15 〜 20μg/mL に設定した後方視的研究が報告された23)。ECMO の種類や年齢,性別,体重などの生理的因子の影響 がなかったものの,開始初期では目標濃度に到達し にくいことから Vd 増大の影響は否定できない。そ のため,小児のみならず成人においても,ECMO 施行時の重症感染症に対して初日から目標とする有 効トラフ濃度である 10 〜 20μg/mL を達成するた めには,Vd 増大を考慮した負荷投与量を検討する 必要がある。 同様に ECMO 施行した新生児と乳児のセフォタ キシムとその活性代謝物であるデスアセチルセフォ タキシムの PK では,血液希釈と考えられる Vd の 増加が認められた24)。この Vd 増加の理由として, ECMO 施行初期段階(24 〜 36 時間)では,総血 中濃度の希釈または毛細血管漏出によって引き起こ されると報告している。 フルコナゾール(Fluconazole:以下,FLCZ)で は ECMO 施行した新生児,乳児を含んだ 18 歳未 満における PPK を実施した。Vd の年齢毎の平均 値として生後 30 日以内で 1.5L/kg,31 日〜 2 歳以 内で 1.2L/kg,2 歳〜 17 歳以内では 1.1L/kg となっ ており,Vd は非 ECMO 時の 40%程度増大すると 報告している25)。そのため ECMO 施行時では乳児, 小児に対して FLCZ の負荷投与量を通常の 1.4 倍増 やすことで,非 ECMO 患児と同等の血中濃度を維 持することが理論上可能となる。 他方では,ECMO 回路は晶質液,コロイド,血液 および pH を調整するための添加物でプライミング され,薬物の吸着がプライミングの種類によって影 響している26)27)。生理的条件下での ex vivo 研究で は晶質液プライミング回路と血液プライミング回路 の比較では,24 時間後にはアンピシリンの血中濃度 がそれぞれ 71.8%と 15.4%,セファゾリンの血中濃 度が 21.6%と 21.9%と減少していた28)。30 分から 24 時間までの薬物濃度が,晶質液プライミング回路 および血液プライミング回路の双方で有意に減少し ており,安全性の高い薬剤では増量の検討や,影響 の少ない薬剤への変更も考慮すべきである。同文献 の検討では,血液プライミング回路ではボリコナ ゾール(Voriconazole:以下,VRCZ)の血中濃度 が 71%減少していた。しかしながら,VRCZ クリア ランスの低下と血中濃度の上昇については,VRCZ の主要薬物代謝酵素である CYP2C19 の遺伝子多型 による考慮がされていないため,代謝が飽和してい た影響も考えられる。ECMO 時の VRCZ 投与では 頻回の TDM の必要性が示唆される。各薬剤での更 なる検証は必要であるが,期待した効果が得られな い場合や血中濃度低下時には,最新のデータを確認 しながら症例ごとに慎重に検討する必要がある。 3.ECMO 施行時におけるクリアランスの影響 一般的に ECMO 施行時における CLtotの影響は,
ECMO 自体でなく,敗血症や多臓器不全のような 病態の影響が大きいとされる2)。敗血症では全身性 炎症反応症候群による血管拡張や心拍出量が増える ことで初期に過大腎クリアランス(ARC)を起こ す場合があることが知られている29)。また,循環 動態を保つため,大量の補液,昇圧剤も ARC に影 響しているとされている。現時点では ARC を加味 した薬物投与設計は難しいが,TDM は,病態を含 め個々の PK パラメータを概算できるため,抗菌薬 適正使用支援の観点から非常に有効である。 VA ─ ECMO を使用する場合,一般的に ECMO の流速を自己心拍出量 50 〜 70%に設定するため, 糸球体濾過量が減少することが報告されている30)。 しかしながら,ECMO 施行した新生児に対してゲ ンタマイシンを投与した報告31)では,半減期が近 似していたことから VA または VV─ECMO におけ るクリアランスの影響は少ないと考えられる。
お わ り に
CRRT や ECMO 施行時における血中濃度変動要 因についてトピックスを交え概説した。CRRT や ECMO 施行時の抗菌薬投与設計についてガイドラ インなどのデータリソースが不十分であるため,臨 床現場では普遍的な投与設計を行うことに難渋する ことも少なくない。しかしながら,抗菌薬適正使用 支援の実現には,刻々と変化する患者の容態を把握 し,リスクとベネフィットをチームで検討したうえ, CRRT や ECMO による PK パラメータの変動を考 慮した投与設計を行うことが肝要である。 その解決方法として,TDM 対象薬であれば血中 濃度測定をすることで PK パラメータが算出でき, 患者個々の至適投与量の設定が可能となる。一方で, 非 TDM 対象薬の場合,文献値の PK パラメータを 参考に予測血中濃度を算出することや,ソフトを用 いたベイズ推定による予測などを考慮するとよい。 以上,本稿が抗菌薬適正使用支援の一助になれば幸 いである。 文 献 1) 小濱華子,竹末芳生,井手 岳,ほか:敗血症,敗 血症性ショック患者に対する持続的血液濾過透析施 行時における抗菌薬投与設計シナリオ.日外感染症 会誌 2017;14:223─2342) Shekar K, Fraser JF, Smith MT, et al : Pharmaco-kinetic changes in patients receiving extracorpo-real membrane oxygenation. J Crit Care 2012 ; 27 : 741.e9─741.e18
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Appar-Antimicrobial dosing for critically ill patients that is derived from other patient groups is likely to be suboptimal be-cause of significant antibiotic pharmacokinetic changes, particularly in terms of drug volume of distribution and clearance. Organ support techniques including continuous renal replacement therapy(CRRT)and extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)increase the pharmacokinetic variability. This article topics the recently published antibiotic pharmacokinetic data associated with infectious disease, those receiving CRRT and ECMO. In the content of such variable pharmacokinetics, a guideline approach to dosing remains elusive because of insufficient available data and, therefore, antimicrobial stewardship including TDM should be considered advantageous where possible.
Naoto Hashimoto, Yukihiro Hamada
Department of Pharmacy, Tokyo Women’s Medical University Hospital
Antimicrobial stewardship of dosing regimen with continuous renal replacement therapy and extracorporeal membrane oxygenation
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