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外国人児童生徒等の日本語指導に関するボトムアップ型教員研修 ――群馬県伊勢崎市の教員研修を事例として――

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Academic year: 2021

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(1)(日本語教育 172 号 2019.4). 〔調査報告〕. 【特集】日本語教師養成・研修の新しい役割と可能性―多様な教育現場,学習者に対応する教師―. 外国人児童生徒等の日本語指導に関する ボトムアップ型教員研修 ――群馬県伊勢崎市の教員研修を事例として――. 小池亜子・古川敦子 要 旨 学校教員の現職研修では教員の主体的な計画による研修の推進が求められている。日本 語指導に関する教員研修については,学習項目の提示や教育実践を基盤とする研修方法の 提言があるが,事例研究は少ない。本研究では,教員の自主的・主体的研修活動である「自 主研究班活動」と市教育委員会主催の「市教委研修」とを関連づけて研修を行っている群 馬県伊勢崎市の約 5 年間の取り組みを対象として,市教委研修の内容や方法の変化とその 要因を考察した。その結果,自主研究班活動に参加した教員が指導主事とともに市教委研 修を企画し運営することにより,地域の教育課題や教員自身の実践上の課題に基づくワー クショップを中心とした課題解決型の研修へと変化する道筋が示された。自らの実践に即 して教員自身が研修の内容を企画し運営する「ボトムアップ型」の研修の促進要因として, 活動を推進する教員の思考と管理職からの助言が影響を与えていることが示唆された。 【キーワード】 外国人児童生徒等教育,日本語指導,教員研修,ボトムアップ型,自主的・主 体的研修活動. 1.問題の所在と研究の目的 本研究は,日本国内の初等中等教育における外国人児童生徒等の日本語指導を担う学校 教員を対象とする教員研修の事例研究である。外国人児童生徒等教育に関する研修の内容 (学習項目)については研究の蓄積があり(新倉 2007,菅原 2011 など),平成 30(2018)年に は日本語教育学会が『外国人児童生徒等教育を担う教員の養成・研修モデルプログラム開 発事業-報告書-』にその詳細をまとめている(日本語教育学会 2018)。このモデルプログ ラムは,一定の内容をどのような学習方法・形態で学ぶかも示しており,研修の企画者が 目的に合わせてカリキュラムを作成できるよう支援するものとなっている。一方,研修の 方法については,石井(2000)が教育実践に基づく「ボトムアップ型の研修(p.12)」を提唱 しているが,教育委員会等が行う行政研修の実施状況を調査した臼井(2007)によれば,研 修の形態として, 「講義」 「ディスカッション」 「グループワーク」の順に多く, 「講義」のよ うな受け身の形態の研修が多い実態が明らかとなっている。このような実態は学校教育に 『日本語教育』172号(2019.4). - 88 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(2) おける現職教員研修一般についても指摘されており,佐藤(2015)は,現職教育のプログラ ムが教育委員会等を主体として提供され, 「学習者である教師の自主的な計画にもとづく ものではないこと(p.144)」に根本的な問題があると述べている。平成 27(2015)年の中央 教育審議会答申では,教員研修に関する課題として, 「研修そのものの在り方や手法も見直 し,主体的・協働的な学びの要素を含んだ研修への転換を図る必要がある(p.12)」として いる。すなわち,教員の自主的・主体的な研修活動とその支援の方法を検討していく必要 がある。 では,教員の自主的・主体的な研修活動の促進はどのようにして可能となるのだろう か。学校教員の経験をもつ田渕(2007)は,在日コリアン教育に携わってきた自身の経験か ら,教育実践の深化を可能にしたのは意識的な実践者によって自主的に組織された研究協 議会での活動を通した学びであったという。そして,その実践上のスローガンや教育理論 は,研究協議会の活動を通して展開された実践の事実のなかから析出されたものであると 述べている(p.54)。児童生徒の多様性を特徴とする外国人児童生徒等教育は,社会や教員 にとって「国民としてのアイデンティティの本質に関わる問題であり,教育において核と なる価値は何かという無視できない問いを突きつけている(OECD 教育研究革新センター 2014,p.52)」ともいえる。したがって,教育の価値の再考によって新たな実践目標を見出 し,教育実践を深化させるためには,自らの実践に即して教員自身が研修の内容を企画し 運営する「ボトムアップ型」の研修が有効であると考える。 そこで,本研究では,外国人児童生徒等の日本語指導に関する教員研修において,現職 教員の自主研究グループが市教育委員会主催の研修の企画と運営に積極的に関わっている 群馬県伊勢崎市の事例を取り上げる。 本研究では,伊勢崎市における平成 24 年度から平成 28 年度までの 5 年間の「日本語指導 担当教員研修」が教員の自主研究グループの関わりによってどのように展開してきたか, その経緯をまとめて記述する。そして, (1)従来の研修と比較して研修の内容や方法がど のように変化したのか, (2)その変化を促進した要因は何かの 2 点を明らかにする。 2.研究の対象と方法 2-1 伊勢崎市における外国人児童生徒等教育の概要 本研究の対象とする群馬県伊勢崎市は,発達した幹線道路網により製造業が進出してお り,商工業が盛んな産業地域である。自動車製造工場のある太田市,大泉町に隣接し,日系 南米人を中心に外国人住民が増加してきた。調査対象期間の平成 28 年度時点における伊 勢崎市の人口は 21 万 2,102 人で,そのうち外国人住民数は 1 万 1,266 人と群馬県内最多,市 の人口に占める割合は約 5.3% である(平成 29 年 2 月 1 日現在)。市内公立小中学校に在籍 する外国籍児童生徒数は 947 人(小学校 622 人,中学校 325 人)で,国籍別構成は,ブラジ ル(31.7%),ペルー(27.3%),ベトナム(16.6%),フィリピン(11.9%),中国(1.1%),その他 (11.4%)の 21 か国 18 言語に上る(平成 28 年 5 月 1 日現在)。 外国人児童生徒等教育の施策として,市教育委員会は平成 3 年に「帰国子女等学校生活 適応指導助手」の任用を開始した。平成 7 年から「外国籍児童生徒学校生活適応指導助手(以 下,指導助手)」に名称が変更され,現在に至るまで,児童生徒の母語に堪能な臨時職員を 『日本語教育』172号(2019.4). - 89 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(3) 市単独で雇用している。取り出し指導を行う「日本語教室」は,市内小中学校 34 校のうち 16 校に設置され,日本語指導担当教員として県費加配教員が 20 名配置されている(平成 28 年度)。伊勢崎市の外国人児童生徒等教育の施策概要を表 1 に示す。 表 1 伊勢崎市における外国人児童生徒等教育の施策概要(平成 28 年 5 月 1 日現在) 学校数 小学校 23 校,中学校 11 校 うち, 「日本語教室」設置 16 校(小 11,中 5) 児童生徒数 小学校 11,982(622)人,中学校 6,197(325)人 ※括弧内は外国籍人数。 要日本語指導 330 人 ※日本国籍の児童生徒を含む。 加配教員 20 人(1 人配置校 13 校,2 人配置校 2 校,3 人配置校 1 校) 指導助手 24 人(ポルトガル語・スペイン語・英語 21,ベトナム語 2,タガログ語 1) 初期適応指導校(最長 5 日間の通級) 小学校 4 校 拠点校(通学区緩和措置) 小学校 8 校,中学校 2 校 伊勢崎市教育委員会事務局(編) (2016)を参考に作成. 2-2 日本語指導に関する自主研究班活動 伊勢崎市では,多文化・多言語化が進み,市内居住地区の集住・分散傾向にも変化が生 じており,従来の教育施策や実践の見直しが必要となってきたことから,外国人児童生徒 等教育のための教員研修の改善策が模索されていた。そこで,平成 24 年度に当時の教育研 究所長と市教育委員会指導主事から教員グループによる自主研究班活動が提案され,平成 25 年度から伊勢崎市教育研究所内に「課題別自主研究:日本語教育研究班(以下,自主研 究班)」が設置された(1)。自主研究班会議がほぼ毎月 1 回開催され,各校の日本語教室訪問 や日本語指導に関する指導ツールの開発が行われている。 本研究で対象とした平成 25 年度から平成 28 年度までの自主研究班の参加者は,有志の 教員 5 ~ 9 名,指導助言者として教育研究所長 1 名,教育委員会指導主事 1 ~ 2 名,大学教 員 2 名(筆者)であった。自主研究班の参加者を表 2 に示す。 表 2 自主研究班の参加者 年度. 幼稚園教員. 小学校教員. 中学校教員. 教育研究所長. 指導主事. 大学教員. H24. -. 2(2). -. 1. 2. 1. H25. -. 4(3). 2(1). 1. 1. 2. H26. -. 3(2). 2(1). 1. 2. 2. H27. -. 2(2). 3(3). 1. 2. 2. H28. 1. 5(3). 3(3). 1. 2. 2. 伊勢崎市教育研究所課題別自主研究日本語教育研究班(2017)を参考に作成 ※平成 24 年度は自主研究班の企画準備に関わった者。このほか,指導助手 2 名も参加した。 ※括弧内の数字は日本語指導担当教員数。※教育研究所長,指導主事,大学教員は指導助言者。 ※平成 25 ~ 28 年度まで 4 年間継続参加は小学校教員 1 名,中学校教員 2 名,大学教員 2 名。. 2-3 自主研究班活動と市教委研修「日本語指導担当教員研修」との関わり 伊勢崎市では,日本語指導担当教員全員を対象とする市教育委員会主催の「日本語指導 担当教員研修(以下,市教委研修)」が毎年度 3 回,定期的に実施されている。平成 24 年度 以前は,研修内容を指導主事が企画し,主に各校の日本語指導の情報交換や教員の指導力 向上を目指した講義を中心とした研修が行われていた。平成 25 年度に自主研究班が設置 されてからは,研究班に参加した教員(以下,研究員)は,研究班活動において市の共通課 『日本語教育』172号(2019.4). - 90 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(4) 題を検討し,その課題解決に向けて指導ツールを開発した。そして,指導主事とともに,開 発した指導ツールを活用した市教委研修の立案と運営を行った。 本研究では,この自主研究班活動と市教委研修について,自主研究班の準備期間である 平成 24 年度から,研修成果のまとめとして小冊子『つながる・ひろがる ISESAKI ステップ』 (伊勢崎市教育研究所課題別自主研究日本語教育研究班 2017)が作成された平成 28 年度末 までの約 5 年間のプロセスを分析の対象とする。 2-4 対象へのアプローチと分析の方法 筆者 2 名は,研究対象期間に実施されたほぼすべての自主研究班活動および市教委研修 に指導助言者という立場で参加した。特に,自主研究班活動においては,教員との対話を 通じて活動のプロセスに積極的に関与し,改善のための手立てを教員とともに探っていっ た。つまり,本研究は,実践者の活動を外部から第三者として客観的に観察するのではな く,実践者とともに活動のプロセスに関わり,その過程で明らかになったことを記述する 「二人称的視点(吉崎 2016,p.13)」の質的研究アプローチをとる共同実践研究である。 分析に使用したデータは,平成 24 年度から平成 28 年度までのフィールドノーツ,自主研究 班会議資料,市教委研修資料,自主研究班に参加した教員への個別インタビュー,自主研究班 が市内の他の教員に向けて発表した教育研究所主催研修講座の参加者アンケートである。自 主研究班に参加した教員への個別インタビューは,平成 26 年 12 月(インタビュイー計 4 名) と平成 28 年 12 月から平成 29 年 1 月(インタビュイー計 7 名,そのうち 3 名は 2 回目)の 2 回行 い,所要時間は 1 人約 40 分から 60 分であった。インタビュアーは 2 名(筆者)で,それまでの 自主研究班活動を振り返っての感想と今後の取り組み等について自由に話してもらい,音声 データはすべて文字化した。これらのデータの収集にあたっては,市教育委員会関係者およ びインタビュイーに対して事前に研究概要と個人情報の取り扱いについて説明し,データ使 用の承諾を得た。また,筆者の所属機関の研究倫理規定に基づく審査を受け,了承を受けた。 分析にあたり,まず,フィールドノーツ,自主研究班会議資料,市教委研修資料から自 主研究班活動と市教委研修の内容を整理して示し,相互の連関の経緯をまとめた。次に, フィールドノーツ,インタビュー文字化データ,アンケート記述のデータから,市教委研 修の企画と運営,および,自主研究班活動と市教委研修との連関についての記述を筆者 2 名で抽出し,カテゴリー化した。そして,市教委研修の内容や方法がどのように変化して いったのか,その変化が組織的・継続的に促進された要因は何かを考察した。 3.自主研究班活動と市教委研修の連関による教員の活動の展開 表 3 は,約 5 年間の自主研究班活動と市教委研修の主な内容をまとめたものである。 自主研究班活動では,自主研究班会議(平成 25 年 5 月から平成 29 年 2 月まで計 35 回)を 中心に,市教委研修の立案・運営協力や,他自治体への訪問見学などが行われた。 市教委研修は,日本語指導担当教員を対象に毎年度 3 回,平成 26 年度は臨時研修を含み 4 回実施された(平成 25 年 2 月から平成 29 年 2 月まで計 14 回)。なお,各年度 8 月の研修は 指導助手との合同研修として実施されている。 伊勢崎市における約 5 年間の自主研究班活動と市教委研修の連関のプロセスは,年度毎 『日本語教育』172号(2019.4). - 91 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(5) 年度 準備期. H24. 表 3 伊勢崎市における自主研究班活動・市教委研修の主な内容と教員の活動の展開 Ⅰ 自主研究班活動の主な内容 4 ~ 10 月 意見交換(計 5 回) 12 月 企画打ち合わせ 1 月 企画委員会:組織・方針確認 2 月 企画委員会:課題整理 3 月 企画委員会:Q & A 作成. Ⅱ 市教委研修の主な内容. Ⅰ・Ⅱの連関による 教員の活動の展開. 2 月 ワ ー ク シ ョ ッ プ「 日 本 語 教 室 運 営 上, 困っていること,不満に思っていること は?」. ニーズ分析 優先課題の決定. 課題分析・共有期. 5 月 ことばの力を見取るための共通指標 作成の検討 6 月 中央研修報告. 教材紹介シート作成 7 月 8 月の市教委研修立案 8 月 A 中学校授業見学 10 月 B 小学校訪問 共通指標検討 11 月 C 小学校訪問 「個別の指導計画」伊 勢崎市様式の検討 1 月 D 小学校訪問 2 月の市教委研修立 案,共通指標「日本語ステップ」試行 版の完成 2 月 次年度 4 月の市教委研修立案. 4 月 自主研究班の紹介と経緯説明  「日本語教室運営上困っていること Q & A」資料説明. 2 月 グループ協議「成果と課題 4 つの観点」 共通指標「日本語ステップ」試行版の紹 介. 指導ツール(2) 「個別の指導計画」 伊勢崎市様式の開発. H26. ツール活用・改善期. 4 月 個別の指導計画例作成の検討 6 月 E 小学校訪問 様式案の検討 7 月 8 月の市教委研修立案 10 月 F 小学校訪問 アンケート調査項目 の検討 11 月 G 中学校訪問 アンケート結果の分 析,様式案の修正 1 月 H 小学校授業見学 2 月 2 月の市教委研修立案. 4 月 共通指標「日本語ステップ」試行版と「個 別の指導計画」の説明,グループ協議で 質疑応答 8 月 ワークショップ「個別の指導計画の立案・ 記入のしかた」. 外部講師の講義(一般公開) 10 月 アンケート調査を各校にて実施 1 月 アンケート調査結果報告 ワークショップ「個別の指導計画作成・ 活用上の課題」 2 月 母語を活用した実践事例の紹介,グルー プ協議「個別の指導計画の実施と評価」. 指導ツール(1) (2)の 試行と評価. H27. 5 月 B 小学校訪問 初期対応再考 7 月① I 中学校訪問 初期対応プログラ ムの検討 7 月② 8 月の市教委研修立案 8 月 初期対応プログラムの検討 9 月 J 小学校訪問 初期対応分析 9 月 X 県 Y 市を訪問見学(6 名) 10 月 K 中学校訪問 Y 市見学報告. 「研究班だより」の定期発行開始 11 月 L 小学校訪問 教育研究所主催の新 たな研修講座について 12 月 M 小学校訪問 指導例の検討 日本語初期指導プログラム案「はじ めの 8 歩」の完成 1 月 「はじめの 8 歩」指導案の検討 2 月 受け入れ時対応案の検討 3 月 いせさき未来会議で発表 3 月 B 小学校訪問 次年度の計画. 【市の教育構想重点 4 項目の一つに「日本語指 導の充実」が掲げられる】. H25. 目標設定期 実践蓄積期. H28. 8 月 ワークショップ「初期日本語指導活動案 の作成」. 教材紹介シートの回覧開始. 4 月 小 4 国語の授業実践事例の紹介 ワークショップ「日本語ステップの活 用」 8 月 ワークショップ「個別の指導計画の立案・ 記入のしかた」. 指導案例の紹介 【実践目標:在籍学級とつなぐ指導】 2 月 日本語初期指導プログラム  「はじめの 8 歩」と実践例の紹介 グループ協議「個に応じた日本語指導の さらなる充実に向けて」. 「おすすめ教材等一覧」配付. 6 月 教 育研究所第 1 回外国籍児童生徒の 【市内全校で「特別の教育課程」としての日本 語指導の実施を開始】 理解講座で実践発表 【日本語指導担当経験者以外の教員にも活 4 月 「特別の教育課程」の運用開始について 動への参加を呼びかける】 6 月 B 小学校訪問 連携推進,授業実践, 情報発信の 3 部会発足 8 月 中央研修報告, 「DLA(対話型アセスメン. 研究員個別の研究課題の設定 7 月 各自の研究課題と方法の検討 ト)」演習 8 月 各自の実践経過の報告と検討 グループ協議「個別の指導計画の作成と 9 月 群馬県 X 市を訪問見学(5 名) 活用について」 10 月 N 中学校訪問 X 市見学報告 11 月 B 小学校訪問 共通指標「日本語ス 各校の日本語指導の実践紹介レター作 成開始 テップ」の見直し 12 月 群馬県 Y 町を訪問見学(5 名) 12 月 O 小学校訪問 共通指標「日本語ス 2 月 研究員の実践研究結果の報告 テップ」の改訂 P 小学校提供資料の紹介. 1 月 各自の実践研究結果の報告 1 月 Q 幼稚園見学(1 名) 2 月① Q 幼稚園見学報告 2 月② 指導ツール小冊子の作成. 『日本語教育』172号(2019.4). - 92 -. 課題・情報の共有 指導ツール(1) ことばの力を見取る 共通指標の開発. 指導ツール(1) (2)の 活用と改善. 実践目標の設定. 指導ツール(3) 日本語初期指導プログラ ムの開発と試行. 指導ツール(1) (2) (3) の活用と改善. 教育実践事例の共有. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(6) に「準備期」 「課題分析・共有期」 「ツール活用・改善期」 「目標設定期」 「実践蓄積期」の 5 つ の段階に分けられる。 1 年目(平成 24 年度)の準備期は,組織的に日本語指導に取り組むために,課題研究を推 進していく場としての自主研究班が企画された時期である。平成 24 年度前半には,自身の 市内小学校長時代の経験から外国人児童生徒等教育に高い関心をもつ教育研究所長(翌年 度より教育長)と,外国人住民有志,地域の NPO 関係者,大学教員(筆者)らによる私的な 意見交換会や,指導主事を交えた意見交換が行われた。そのなかで,日本語指導担当教員 を対象とする研修の課題を解決するために, 「課題研究チームをつくる(教育研究所長)」 ことが提案された。そして,1 月から企画委員会として教員の代表者ら(表 2)で話し合い が行われ,自主研究班が組織されることとなった。企画委員会に参加した教員 2 名は外国 人児童生徒等教育に高い関心をもつ教員経験 20 年以上の教員で,日本語指導担当の経験 をもつ。2 月の市教委研修では,この 2 名の教員がワークショップのファシリテーターとな り,研修に参加した市内の日本語指導担当教員全員による課題分析が行われた。 自主研究班の活動初年度にあたる平成 25 年度は,独立行政法人教員研修センター(平 成 29 年度より独立行政法人教職員支援機構)が主催する「外国人児童生徒等に対する日本 語指導指導者養成研修」を受講した経験のある教員を中心に活動への参加を呼びかけ,5 月から 5 名の研究員が集まり自主研究班活動が始まった。その後,8 月の教育研究所主催夏 季研修講座で自主研究班の発表を聞いて関心をもった教員が 1 名加わった。平成 26 年度以 降は,毎年度 8 月と 2 月の年 2 回行われる教育研究所主催研究成果報告会での発表や,毎月 1 回日本語教室設置校を巡回訪問して行われた研究班会議などを通して自主研究班活動が 広く周知され,希望する教員が研究員として自主的に参加している。 2 年目(平成 25 年度)の課題分析・共有期は,日本語指導担当教員が日々抱えている課 題を共有し,学校間で日本語指導担当教員同士の「横のつながり」ができた時期である。前 年度の市教委研修で行われた課題分析の結果から,子どものことばの力を見取るための共 通指標の作成が優先課題となった。共通指標の開発は自主研究班で行われ,完成した共通 指標「日本語ステップ」 (指導ツール(1))の試行版が 2 月の市教委研修で研究員から紹介さ れた。また,市教育委員会では,平成 26 年度から「特別の教育課程」による日本語指導の編 成・実施が可能となることから,市内全校での実施開始時期を 3 年後の平成 28 年度に設定 し,それまでの 3 年間を試行期間とすることが決定された。これを踏まえ,自主研究班で は「個別の指導計画」の記入様式の検討が行われた。研究員は,文部科学省が例示した様式 を使って実際の子どもを想定した指導計画を作成し,繰り返し改良を加えた。そして, 「個 別の指導計画」伊勢崎市様式(指導ツール(2))を作成した。8 月と 2 月の市教委研修は研究 員が指導主事とともに立案し,課題分析で最も優先度の高かった,児童生徒受け入れ初期 の日本語指導の活動案を作成するワークショップが実施された。 3 年目(平成 26 年度)のツール活用・改善期は,共通指導ツールが開発・試行され,ツー ルを活用した各校での実践事例の相互発信と,それらの実践事例に基づき,指導ツールの 改善が行われた時期である。指導ツール(1)(2)の試行が各校で行われ,自主研究班では, 指導ツール(1) (2)を用いて「個別の指導計画」の具体例が作成された。そして,自主研究 班は市教委研修で指導ツール(1) (2)を使ったワークショップを行うことを指導主事に提 『日本語教育』172号(2019.4). - 93 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(7) 案し,研修会では研究員がグループワークのファシリテーターとして運営に関わった。研 究員は市教委研修での教員の意見をもとに,指導ツール(1) (2)の改善に関するアンケー ト調査項目を作成し,各校で調査が実施された。その結果は自主研究班会議で分析され, 臨時の市教委研修を実施して調査結果のフィードバックとワークショップが行われた。さ らに,この臨時研修での意見交換を踏まえ,各校で第 3 学期の指導計画を作成して実践し, 2 月の市教委研修で実践結果を話し合った。 4 年目(平成 27 年度)の目標設定期は,これまでの活動の成果を踏まえ,研究員が「在籍 学級とつなぐ指導」という実践目標を設定し,子どもの在籍学級担任や学校内のすべての 教員の共通理解を深めるために,日本語指導担当教員が自校内での発信に努めた時期であ る。平成 27 年度は,市の教育構想の重点 4 項目の一つに「日本語指導の充実」が掲げられた (伊勢崎市教育委員会 2015)。そして,各校で指導ツールを活用し,ワークショップでの話 し合いを踏まえ,指導ツール(1)の「日常会話の力」と「学習活動に参加する力」について, より具体的に指導ツール(2)の項目に反映させるなどの改善を行った。この時期には研究 員の代表者が公開研究会や学会で自主研究班活動の発表を行ったり,指導主事とともに他 自治体を訪問見学したりするなど,市外の学校教員や大学の研究者との交流が行われた。 その中で,他市における「在籍学級とつなぐ指導」の実践事例(神田・矢崎 2016)を学ぶ機 会も得た。こうした交流を通して実践目標が明確となり,自主研究班はこの目標を踏まえ た日本語初期指導プログラム「はじめの 8 歩」 (指導ツール(3))を開発した。市教委研修で は,研究員がこのプログラムを活用した実践例を紹介した。実践目標は,翌年度の自主研 究班の研究テーマ「日本語指導の組織的・継続的な取組の充実に向けて―日本語教室と在 籍学級での学びをつなげる指導・支援の工夫をとおして―」に反映された。 5 年目(平成 28 年度)の実践蓄積期は,実践目標に基づいた各校での教育実践が蓄積され 始めた時期である。研究員により, 「在籍学級とつなぐ指導」の実践が行われた(佐藤 2017, 内門・古川 2017) 。この時期には,初めて幼稚園教員が自主研究班活動に参加し,教育研究 所主催の「外国籍児童生徒の理解講座」に日本語教室非設置校の教員も参加するなど,市 内教員の連携が拡大した。3 つの指導ツールを各校での実践において活用・改善した 3 年 間の試行期間を経て,市内全校で「特別の教育課程」としての日本語指導の実施が開始さ れた。また,教育研究所主催の新規講座「外国籍児童生徒の理解講座」が年 2 回実施される ことになった。この講座は市内の全教員を対象とする自由参加の講座で,第 1 回講座では 研究員が実践発表を行い,日本語指導担当教員以外の教員にも自主研究班活動への参加が 呼びかけられた。研究員は学級担任や幼稚園教員を含む 9 名となり,児童生徒の在籍学級 担任の視点や,幼稚園教員の視点も加えた指導ツールの改良がなされた。研究員は市教委 研修で実践事例の情報提供を呼びかけ,各校での実践事例や教材教具の工夫を写真ととも にまとめたレターが定期的に発行された。これにより,実践事例の共有が促進された。さ らに,平成 25 年度からの研修成果をまとめた小冊子『つながる・ひろがる ISESAKI ステッ プ』が自主研究班によって作成され,市内の幼稚園,小学校,中学校に配布された。 このように,自主研究班の研究員は,自らの課題意識と市内教員のニーズに基づいて, 指導主事とともに市教委研修を立案し,ファシリテーターとして研修の運営に携わった。 また,日本語教室設置校を巡回訪問して会議を行い,自主研究の経過を他の教員に発信し 『日本語教育』172号(2019.4). - 94 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(8) ていった。伊勢崎市の 5 年間のプロセスにおいては,研究員が中心となって市内の日本語 指導担当教員と協働して地域の課題を分析・共有し,共通指導ツールを活用しながら授業 実践の積み重ねを通じて具体的な実践目標を見出している。平成 29 年度以降も,実践事例 の共有と分析に基づき,指導ツールの改善やワークショップ型の研修が継続されている。 4.考察 4-1 市教委研修の内容と方法の変化 研修の計画段階から学び手である教員自身が参画し,指導主事とともに研修内容・方法 や運営のしかたを立案したことにより,伊勢崎市の市教委研修はワークショップ中心の課 題解決型の研修へと変化した。これまで研修の運営は指導主事が行っていたが,平成 25 年 度以降の市教委研修では自主研究班の研究員が指導主事とともにワークショップのファ シリテーターとなり,日本語指導担当の豊富な経験をもつ教員が他の教員への助言を行っ た。このような研修方法により,教員個人の指導力向上のみならず地域全体での組織的な 取り組みの充実が意識されるようになった。同じ立場で同じ悩みをもつ教員によって立案 され,仲間からの助言や意見交換を通して学び合う研修では,参加者の活動は協働的な省 察となる。このように,学ぶべき内容を教員自身が計画し,教員同士の対話を深める研修 は,現場の声に基づく「ボトムアップ型」の研修であるといえる。従来の研修と,ボトムアッ プ型の研修との相違点を表 4 に示す。 表 4 伊勢崎市における従来の市教委研修と自主研究班活動との連関による研修の比較 従来の研修(H24 年度以前). 研究班との連関による研修(H25 年度以降). 研修計画・運営. 指導主事,トップダウン型. 教員(研究員)と指導主事,ボトムアップ型. 研修目的. 個人の指導力向上を重視 問題事項への対処,知識の獲得. 組織的な取組の充実を重視 優先課題への取組,参加者間の対話による省察. 研修内容・方法. 講義中心,情報伝達型. ワークショップ中心,課題解決型. 研修参加者の活動. 個別・受け身的. 協働・主体的. 研修運営者の役割. 司会進行. ファシリテーション,助言. 4-2 ボトムアップ型教員研修の促進要因 伊勢崎市におけるボトムアップ型教員研修の取り組みを促進した要因として,第一に, 自主研究班活動を推進した経験豊富な教員の思考,第二に,研修に対する管理職からの支 援と助言が挙げられる。年度毎の 5 つの段階と,自主研究班活動を推進する教員の思考(要 因 1),管理職からの支援と助言(要因 2)を表 5 に示す。 4-2-1 自主研究班活動を推進する教員の思考 伊勢崎市におけるボトムアップ型教員研修を促進した要因の一つは,自主研究班活動を 推進した教員の思考と行動である。本事例では,準備期から参加した 2 名の教員(教員 1, 教員 2)と,2 年目の課題分析・共有期から自主的に活動に参加した教員(教員 3)の思考と 行動が全体の活動を促進していた。この 3 名の教員は,教職経験が 20 年以上であり,かつ, 教育委員会等勤務や教務主任といった組織経営に携わる経験をもつ教員であった。 2 年目の課題分析・共有期では,4 月の市教委研修で「集まる機会を活かして横のつなが 『日本語教育』172号(2019.4). - 95 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(9) 表 5 伊勢崎市におけるボトムアップ型教員研修のプロセスと促進要因 時 期. 要因 1 推進する教員の思考. 要因 2 管理職からの支援と助言. 1 年目 「担当者が替わっても指導を積み上げてい 教育研究所長の企画提案 準備期 くためにはどうするか(教員 1)」 「説明してわかるのではなく,研修の場を 課題研究推進の場作り 通してつくりながらわかっていく(所長)」 4 月 市教委研修に小学校長 1 名参加 「同じ悩みをもつ仲間(教員 1)」 6 月 自主研に教育研究所長参加 「『互助会』にしたい(教員 2)」 2 年目 「皆でやるにはどうしたらいいかを考える 2 月 市教委研修に幼稚園長会顧問 1 名参 課題分析・共有期 (教員 1)」 加 「若い先生に質問をたくさん出してもらう 「研修を通して市内学校の横のつながり 日本語指導担当教員の (教員 2)」 を。19 名の(日本語教室担当の)先生に横 横のつながり作り 「組織立った情報交換が必要(教員 3)」 のつながりの中心になってほしい(4 月市 教委研修時,指導主事)」 「実践をくぐらせて子どものためになるよ 6 月 自主研に教育研究所長参加 8 月 市教委研修で教育長より挨拶,一般 うに精査する(教員 1)」 3 年目 「ワークショップ形式で(何かを)つかめ 公開研修に教育長と教育研究所長参 ツール活用・改善期 る人がいる(教員 2)」 加 「工夫などを相互発信,相互交流できれば 「(皆さんは)伊勢崎市の教育をリードする 実践現場の相互発信 よい(教員 2)」 立場です。助け合って,…今までの方法に も批判的な精神をもって(教育長)」 「X 県 Y 市見学から在籍学級との連携のし 4 月 市教委研修に教育長,学校教育課長, かたを再考している(教員 1)」 係長,歴代の指導主事 3 名参加 「他市との情報交換から『在籍学級とつな 7 月 自主研①に会場中学校長参加 7 月 自主研②に教育研究所長参加 ぐ』というキーワードを得た(教員 3)」 日本語指導担当教員 「校内での教員同士のコミュニケーショ 9 月 他県見学に指導主事 1 名参加 12 月 自主研に小学校長,校長会長参加 から校内の他の教員 ン,共通理解が必要(教員 1)」 への発信 「日本語指導担当から教頭,校長にも具申 「日本語教室担当の先生が中心となって学 していく(教員 1)」 校全体で輪が広がるように(指導主事)」 4 年目 目標設定期. 「在籍学級の担任,日本語指導担当以外の 10 月 教育研究所第 2 回外国籍児童生徒の 教員にわかってもらえるように,今まで以 理解講座に幼稚園長 2 名参加 上に発信していかなくてはならない(教員 「担任,教科担当など,他の先生とのつな 1)」 ぎ役になっていただきたい(4 月市教委研 地域の教員の連携拡大 「(校内で他の)先生たちにもアピールする 修時,指導主事)」 (教員 3)」 5 年目 実践蓄積期. りを密にし,いろいろな方の力,知恵を借りて解決策を見つけよう(教員 1,教員 2)」と呼 びかけられた。この時期には, 「このメンバー(研究員)がやるのではなく,皆で取り組む にはどうしたらいいかを考える(教員 1)」ことで, 「同じ悩みをもつ仲間(教員 1)」の「互 助会(教員 2)」としての研修活動が行われた。 3 年目のツール活用・改善期では,開発された指導ツールを, 「実践をくぐらせて,子ど ものためになるように精査する(教員 1)」ことが重視され,指導ツールに関するアンケー ト調査や,臨時研修でのワークショップが行われた。そして,実際に指導ツールを活用し た教員の声を反映させて指導ツールの改善がなされている。また,ワークショップ型研修 が推進された背景には, 「ワークショップ形式で(何かを)つかめる人がいる。みんなであ あだこうだする時間をとりたい(教員 2)」という教員の考えがあった。 4 年目の目標設定期では,市として「特別の教育課程」による日本語指導を翌年度から実 施することが決まっていたことから,8 月の研修で「これまで以上に学校全体で関わるこ とが必要です。すべての先生で連携し,新制度の共通理解のために皆さんから発信してく ださい(教員 1)」と呼びかけられている。 5 年目の実践蓄積期では, 「在籍学級とつなぐ指導」という実践目標に基づき,校内で日 本語指導担当教員から他の教員に向けて発信し,連携して組織的な指導を目指していくこ 『日本語教育』172号(2019.4). - 96 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(10) とが呼びかけられた。推進する教員自身も,次のように,自校での発信に努めている。 教員 3 の思考と行動(実践蓄積期) (校内で他の)先生たちにもアピールします。 「日本語教室は,学校組織の大事な場所です」と。そして,そ れ(日本語教室での指導のしかた)が日本人の子どもたちにも,影響を与えることだと,アピールするよう にしています。. また,教育研究所主催の「外国籍児童生徒の理解講座」で研究員の実践発表を聞いた参 加者は,次のような感想を述べている。 研修参加者の感想(実践蓄積期) ・昨年度までは日本語教室担当として関わっていましたが,今年度から在籍学級側となり在籍学級として できることを考えているとともに,日本語教室との連携について考えなければいけないと思っています。 学級,学校,市全体での連携が必要だと,お話を聞いて改めて感じました。 ・今日の講義で聞いた在籍学級との連携は本当に大切だと思いました。入り込みの授業で在籍学級の先生 とその子のために良い指導をしていくことが大切だと思いました。そのための学校での発信,特別の教 育課程となった日本語指導をもっと知らせていかなければならないと改めて思いました。. このように,推進する教員の呼びかけにより,学級担任と日本語指導担当教員の双方か ら, 「発信」と「連携」が意識化されるようになってきている。 本事例では,こうした経験豊富な複数の教員が自主研究班活動に継続的に関わることに より,活動の推進力となって組織的・継続的な取り組みを促進したことがわかる。 4-2-2 管理職からの支援と助言 ボトムアップ型の研修を促進した第二の要因は,管理職からの支援と助言である。表 5 に示したように,自主研究班会議,市教委研修には,教育長,教育研究所長,校長が任意で 参加し,ともに学んでいる。また,必要な時期に,教員の活動への励ましや助言がなされ ている。3 年目のツール活用・改善期には,8 月の市教委研修の冒頭で教育長からの挨拶が あった(管理職からの支援 1)。また,4 年目の目標設定期には,8 月の市教委研修の冒頭で 指導主事からの挨拶があった(管理職からの支援 2)。 管理職からの支援 1 市教委研修での教育長の挨拶(ツール活用・改善期) 大変なことを抱えている子どもはたくさんいます。外国籍の子どもの教育が課題解決になるのです。言語 教育が最も大事です。文字を通して概念を学ぶということの困難さを知ること,どんな場合にどんな困難 さがあるかを知ること。 (皆さんは)伊勢崎市の教育をリードする立場です。助け合って,ゆっくりと,着実 に,今までの方法にも批判的な精神をもって取り組んで下さい。. 管理職からの支援 2 市教委研修での指導主事の挨拶(目標設定期) 大変なこともありますが, (先日の)県の研修での「在籍学級とつなぐ指導」を意識すれば,教科指導のポイ ントを押さえることができ,学級の子どもたちにもよい影響を与えると思いますので,ぜひトライして下 さい。日本語教室担当の先生が中心となって学校全体で輪が広がるように,先生方がリーダーシップを発 揮して子どもたちの学習が充実するように。子どもたちの笑顔が増えるように。. 自主研究班活動は,日本語教室設置校巡回訪問や,年 2 回の教育研究所研究報告会での 発表を通して,管理職にも周知された。そして,自主研究班会議では,指導ツールの試行方 『日本語教育』172号(2019.4). - 97 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(11) 法について管理職から具体的な助言がなされた(管理職からの助言 1,2)。 管理職からの助言 1 自主研究班会議での中学校長からの助言(目標設定期) (初期対応プログラムの見直しのために)まずは実態把握からスタートするべき。市で統一したブレのない もの,ベースを作る。そして,共通のものを使いながら改良していく。. 管理職からの助言 2 自主研究班会議での教育研究所長からの助言(目標設定期) (初期対応プログラムの見直しのために)後で変わるにしても,まずは今ある拠点校などのシステムを利用 してはどうか。人材配置とも関連している。実践して,モデルケースやデータを示していくこと。. このように, 「実態把握」を初めに行うこと,実態に基づき開発した共有ツールを「使い ながら改良していく」こと,既存のシステムで新しいツールを試行し,実践事例やデータ を蓄積していくことが助言されている。管理職からの助言は,自主研究班活動と市教委研 修とを関連づけた課題分析・ツール開発・試行・改善・実践のプロセスに反映された。 このような管理職からの支援の意義について,教員 3 は次のように述べている。 管理職からの支援の意義 教員 3 の語り(実践蓄積期) 最近は,管理職をはじめ,理解していただく幅が広くなっていると思います。 (他県の大学での)公開研究 会や学会発表にも多くの先生方が来てくださいました。まず,そこが一つの特徴だと思います。. 教員 3 が語っているように,本事例では管理職が主体的に学ぶ教員たちの活動を「理解 して」見守り,後方から支援している。市教委研修では,学校の組織の中で孤立しがちな日 本語指導担当教員に対して, 「市の教育をリードする立場」, 「日本語教室担当の先生が(学 校の)中心となって」 「リーダーシップを発揮して」といった言葉かけで日本語指導の仕事 を価値づけ,その仕事に携わる教員をエンパワーしている。自主研究班活動では,必要な 時期に適切な助言を行い,組織的な取り組みの充実へと導いている。 このように,ボトムアップ型の研修が組織的・継続的に発展していくためには,組織の トップである管理職が教員の自主的・主体的活動に価値を置き,組織体制の中に明確に位 置づけることが重要である。そして,教員が試行錯誤しながら学んでいく緩やかな学びの プロセスに柔軟に対応し,適切なタイミングで支援を行うことで取り組みが促進される。 5.まとめ 本研究では,教員が指導主事とともに研修の企画と運営に積極的に関わることにより, 研修の内容や方法がボトムアップ型に変化したことを具体的事例で示した。本事例では, 活動を推進する教員の思考と,管理職からの支援と助言がボトムアップ型教員研修を促進 する要因となっていた。ボトムアップ型教員研修のプロセスモデルを図 1 に示す。 ボトムアップ型教員研修モデルの中核に位置づけられるのは自主研究班活動である。こ れは,学び手である教員自身の課題意識に基づき,教員自身によって計画される活動であ る。その外側に位置するのは,地域の学校間で学び合う研修である。ここでは,その地域の 教育課題について複数の学校の教員同士が学び合う。そして,自主研究班活動と研修とが 相互に連関し,①課題分析・共有の段階,②ツール活用・改善の段階,③目標設定の段階, ④実践蓄積の段階を経て,さらに,⑤実践事例の分析から新たな課題を発見する段階とい 『日本語教育』172号(2019.4). - 98 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(12) 員研修を促進する要因となっていた。ボトムアップ型教員研修のプロセスモデルを図 1に示す。 準備 ⑤実践分析・課題発見. 市教委研修. ④実践蓄積. ①課題分析・共有. 自主研究班活動. ③目標設定. ②ツール活用・改善. 図 1 ボトムアップ型教員研修のプロセスモデル 12. う学びの循環のプロセスとなる。 ボトムアップ型教員研修の特徴は,以下 3 点にまとめられる。第一に,学び手である教員 自身が自らの実践上の課題意識に基づき研修の内容と方法を企画し運営に関わること,第 二に,自主研究班活動を推進する教員が研修をファシリテートすることによって,地域の 教員間の共感と協働を促進し,実践の積み重ねを通して具体的な目標が設定されること, 第三に,教育委員会や管理職が教員の自主的・主体的な活動を組織体制の中に位置づける とともに,教員の活動の進捗状況に応じて柔軟に対応し,活動への助言を行うことである。 今後の課題は,このようなボトムアップ型教員研修によって,教員が何を学び,日々の 教育実践にどのように活かされるのかを明らかにすることである。 謝辞 本研究は JSPS 科研費 JP25381042,JSPS 科研費 JP15K04212 の助成を受けたものです。 本研究にご協力を賜りました伊勢崎市教育委員会ならびに関係者の皆様に厚く御礼を申 し上げます。 注 (1) 伊勢崎市教育研究所では,英語指導研究班など市の教育課題に応じた 6 つの研究班が実践 研究を行っている。これらの研究班は,各校から 1 名を基本として研究員が選出される。そ れに対して, 「課題別自主研究」は,市の教育課題解決のために有志の教員が自主的に集ま り,自分たちで主体的に研究テーマを設定して実践研究を行う研究班活動である。 参考文献 (1) 石井恵理子(2000) 「外国人児童生徒に対する教育の充実に向けた教員研修の課題」 『教育と 情報』509,8-13. (2) 伊勢崎市教育委員会(2015)パンフレット「伊勢崎教育構想 2015―ともに輝きそして未来 『日本語教育』172号(2019.4). - 99 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(13) へ―」伊勢崎市教育委員会 (3) 伊勢崎市教育委員会事務局(編) (2016) 『伊勢崎市の教育 平成 28 年度版』伊勢崎市教育委 員会 (4) 伊 勢 崎 市 教 育 研 究 所 課 題 別 自 主 研 究 日 本 語 教 育 研 究 班(2017) 『 つ な が る・ ひ ろ が る ISESAKI ステップ』伊勢崎市教育研究所 「外国人児童生徒教育に関する教員研修の現状と課題」 (5) 臼井智美(2007) 『国際教育評論』4, 17-34. (6) 内門香代子・古川敦子(2017) 「外国人児童の母語を使った在籍学級児童とのことばの交流 ―多言語会話教材『はなしてみよう』を使った実践―」子どもの日本語教育研究会第 2 回研 究会ポスター発表資料< https://www.kodomo-no-nihongo.com/files/uploads/ 子日研第 2 回研 究会ポスター 7.pdf >(2018 年 9 月 1 日) OECD 教育研究革新センター編著(2014) 『多様性を拓く教師教育―多文化時代の各国の取 (7) り組み―』斎藤里美(監訳)布川あゆみ他(訳)明石書店 (8) 神田明治・矢崎満夫(2016) 「外国人児童の学力向上をめざした〈つながる・つなげる〉支 援―在籍学級と支援教室との連携により子どもの学習ニーズに応える―」 『静岡大学教育 実践総合センター紀要』25,297-306. (9) 佐藤学(2015) 『専門家として教師を育てる―教師教育改革のグランドデザイン―』岩波書 店 (10) 佐藤康(2017) 「自らの考えを深め合う作文学習―学習参加者の対話による再構成―」子ど もの日本語教育研究会第 2 回大会ポスター発表資料< https://www.kodomo-no-nihongo.com/ files/uploads/ ポスター 6 原稿(佐藤) .pdf >(2018 年 9 月 1 日) (11) 菅原雅枝(2011) 「JSL 児童生徒教育研修の充実にむけて―求められる研修の姿と実施上の 課題―」 『国際教育評論』8,44-55. 田渕五十生(2007) 「日本の教師教育と異文化間教育」 『異文化間教育』25,45-57. (12) (13) 中央教育審議会(2015) 「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について―学び 合い,高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて―(答申)」 (中教審第 184 号). <http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/01/13/1365896_01. pdf >(2018 年 9 月 1 日). (14) 新倉涼子(2007) 「異文化間教育と教員研修の課題―外国人児童・生徒を受け入れる教師の 資質向上をめざして―」 『千葉大学教育実践研究』14,115-120. 「平成 29 年度文部科学省委託『外国人児童生徒等教育を担う教員の養 (15) 日本語教育学会(2018) 成・研修モデルプログラム開発事業』―報告書―」< http://www.nkg.or.jp/pdf/2017momopro_ hokoku.pdf >(2018 年 9 月 1 日) 「わが国で開発された授業研究法の特徴と意義」 『日本女子大学教職教育開 (16) 吉崎静夫(2016) 発センター年報 2015 年度』2,7-15. . (小池―国士舘大学,古川―大阪教育大学). 『日本語教育』172号(2019.4). - 100 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(14) Bottom-up Faculty Training for Japanese Language Instruction of Foreign Children in Japan: A Case Study of Teachers’ Training at Isesaki City, Gunma Prefecture KOIKE Ako and FURUKAWA Atsuko There is a need for more in-service training of school teachers that incorporates teachers’ self-directed planning. With regards to teacher training for Japanese language instruction, recommendations have been made for training methods based on classroom practice, but few case studies exist. This study, which was conducted over about five years in Isesaki city, Gunma Prefecture, involves a series of training initiatives that associate “autonomous research group activities” featuring autonomous and independent teacher training programs with “board of education training” sponsored by the city’s board of education. The study aims to examine changes in the contents and methods of the city education training initiatives and the related factors. The results indicated that the teachers who participated in the autonomous research group worked together with the supervising director to plan and operate the city’s board of education training, thus showing the way towards converting the program into problem-solving-type training centered on workshops tackling regional educational issues and practical issues formulated by the teachers themselves. One factor of “bottom-up” training, in which teachers themselves plan and manage the contents of the training according to their own practice, is that the thoughts and attitudes of teachers who promote activities and managers’ advice have an actual impact. . (KOIKE: Kokushikan University, FURUKAWA: Osaka Kyoiku University). 『日本語教育』172号(2019.4). - 101 -. ONLINE ISSN: 2424-2039 発行:公益社団法人日本語教育学会.

(15)

表 3 伊勢崎市における自主研究班活動・市教委研修の主な内容と教員の活動の展開 年度 Ⅰ 自主研究班活動の主な内容 Ⅱ 市教委研修の主な内容 Ⅰ・Ⅱの連関による 教員の活動の展開 H24   準備期 4 ~ 10月 意見交換(計5 回)12月 企画打ち合わせ 1 月 企画委員会:組織・方針確認 2 月 企画委員会:課題整理  3 月 企画委員会:Q&A作成 2 月 ワークショップ「日本語教室運営上,困っていること,不満に思っていることは?」 ニーズ分析 優先課題の決定 H25     課題分析・共有期 5

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