( 1 ) 日本公衆衛生看護学会誌 JJPHN Vol.10 No.1 (2021)
巻頭言
公衆衛生看護グランドデザインの視点で
コロナ対応の保健師活動を見る
副理事長 清田 啓子
1.はじめに
現在,各地で,新型コロナウイルス感染症への拡大対策に多くの看護職が果敢に立ち向かっている.今回,公衆衛 生看護グランドデザインの視点でコロナ対応の保健師活動を見ることを試み,最前線で尽力している看護職が 1 年間 の活動を振り返り,今後に向かうための一助としたい.2.日本公衆衛生看護学会の公衆衛生看護グランドデザイン
平成 28 年 5 月,一般社団法人日本公衆衛生看護学会は公衆衛生看護のグランドデザインを作成した(URL: https:// japhn.jp/about_phn/grand_design).このグランドデザインは,2035 年の社会を見据え,公衆衛生看護の方向性と構想, さらには,公衆衛生看護が果たすべき役割を示したものである.保健医療福祉の状況予測とともに,公衆衛生看護の 理念,公衆衛生看護の目標や役割で構成されている. 2035 年の保健医療福祉の状況としては,(1)地域間の健康格差が拡大し,地域特性に応じた保健医療福祉の自治 強化が求められる,(2) 個人間の健康格差が拡大し,貧困世帯,単身高齢者世帯など社会的に不利な立場にある者 (社会的弱者)の増加が予測され,また,不健康な状態であっても適切な支援が受けられず,社会的に孤立する者が 増加するおそれがある,(3) 健康管理の方法や,人々の保健行動の様式が変化し,多様な選択肢が提示されることに より,自己選択に関する課題が増加するとともに,人間関係の希薄化や健康に関する価値観の多様性が生じ,人々の 保健行動様式が変化する可能性がある,(4) 地球環境の変化などにより,国家間の境界を越えた健康課題が増加し, 他国との協力で健康課題を解決する事案が増加する,などが予測されている.3.グランドデザインの視点でコロナ対策を見る
上記のグランドデザインは 2035 年を予測したものであるが,新興性である新型コロナウイルス感染症には将来を 先取りした対応が求められていると考え,保健師活動を通じた現状を,グランドデザインの視点から見てみたい. (1)地域間の健康格差の拡大 感染拡大に伴い,各地の都市部から保健所や医療現場のひっ迫した現状が発信され続けている.コロナ禍におい て,病床が確保できている地域と不足している地域,PCR 検査を受けられる地域と受けられない地域などの差が, 地域間の健康格差として考えられる.この格差が拡大しないよう全国の自治体では,保健医療福祉領域における自治 強化が求められ,クラスターの発生を想定したマンパワー確保と体制づくりに尽力し続けるとともに,行政と医療機 関の連携体制強化や財政的な支援に迅速に取組みを続けている状況にある.また,広域的な自治強化として,県を越 えた連携と共に,国による専門職の派遣や人材派遣バンクの設置などへと取組みを拡大させている. (2)個人間の健康格差の拡大 コロナ禍は多くの住民の生活に影響し,ひとり親世帯や妊婦などの社会的弱者を浮き彫りにした.また,人との接 触による感染拡大を恐れ,人々の生活様式が変化する中,地域の見守り活動が進まず,一人ぐらし高齢者や障がい者 に適切な支援が届きにくいとの声もあり,社会的に孤立する者の増加が懸念されている.また,外出自粛や学校休校 などにより,閉じこもりや DV,児童虐待などの増加の恐れを心配する声もある.さらに,感染者に対する誹謗中傷 や差別,偏見などが散見されており,個人間の健康格差として根深い現実が浮き彫りとなっている.巻頭言 ( 2 ) (3)健康管理の方法や人々の保健行動の様式が変化 コロナ対策の中で,リモートによる生活が推進され,様々な生活場面で ICT 活用が進んでいる.保健活動において も,ICT を活用した相談対応や教室開催,申請事務や子育て情報の電子化などが導入され,人々の保健行動様式も変 化してきている.その一方で,コロナに関する情報は,新興感染症であることから,多くの誤った情報も拡散され, 人々を不安にするなど,多様な情報が提示される中での自己選択の難しさが際立った状況もあった. (4)国家間の境界を越えた健康課題が増加 中国での発生情報から,瞬く間に地球全体に拡大してきたコロナは,まさしく国家間の境界を越えた健康課題では ある.しかし,その対策は国ごとに様々であり,同じ健康課題であってもその解決策は国家の在り方で大きく異なる ことからも,コロナはまさに,国境を超えた健康課題の増加を顕在化させている.