都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について
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(2) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). 1.フランス 1)行政の責任 2)不動産の売主または賃貸人の責任 2.日本 1)行政の責任 2)宅地建物取引業者の責任 おわりに 参考文献. はじめに 地震、津波、洪水、暴風雨、火事などの災害は、時として大きな損害をもた ら す。世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)に よ る と、 2014 年の平均気温は、1961 年から 1990 年までの年間平均気温(14° C)より 1,03 ° C 高く、観測史上最も気温の高い年になった。そのため、世界中で大雨によ る洪水被害が多発した 1)。 フランスにおいて最も深刻な被害をもたらす自然災害は洪水であり、全被害 件数の 20% を占める 2)。フランスは、6 角形の国土(海外県・領土を除く)の うち 3 辺 3)が海岸で、その全長は 3427km となっている(日本はその約 10 倍 の 3 万 3 千 km4))5)。そのため、洪水の被害が予測される場所は建築不可の土 1)«Climat. Record de température, pluies et inondations exceptionnelles pour 2014», OuestFrance、2014 年 12 月 4 日。 2)落雷と雪崩がこれに続く(共に 17%) 。 3)北から、北海、大西洋、地中海と接している。 4)Japon, Le Guide vert, Michelin, 2009、112 ページ。 5)Direction générale des politiques internes, Département thématique B : Politiques structuelles et de cohésion, Situation éconmique, sociale et territoriale en France, 2010, 10 ページ。 230.
(3) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. 地に区分される等、規制が設けられている。しかし、そうした規制は完全では ない。また、本来建築が許可されない場所であるにもかかわらず建築許可が出 され、災害の危険に晒されてしまう例も数多い(第 1 章) 。海や湖、川沿いの 土地は、永住する人だけでなく、バカンス客にも人気があるため、別荘やキャ ンピング場、ホテル等の建設が次々に許可されているのが現状である。そうし た地域では、地球温暖化や環境破壊の影響もあって、未曾有の豪雨で洪水被害 を受けることも多くなっている。被災地は建設禁止地域に指定されたり、復興 事業により、安全性の高い建造物に建て変えられたりするが、当該土地の所有 関係が障害になって、事業がなかなか進まなくなることもある(第 2 章) 。事 業者と土地所有者との交渉がまとまらなかった場合は土地収用手続きが採られ るが、日本の場合は、仮に災害の起こった土地を更地にしても代替地を見つけ るのが困難だったり、土地の所有関係が複雑だったりで、土地収用も思うよう に進まない。被害を最小限にするには、事後策よりも予防策の方が望ましく、 災害が起こる危険性の高い地区での建築を厳しく制限することである(第 3 章) 。 しかし、建築不可に指定されている土地に建築許可が出されてしまうことが ある。違法な建築許可を出した市長または知事は行政責任に問われるが、刑事 責任が問われることもある。フランスでは、2010 年に大被害を出した洪水に 対して、建築許可を出した市長及び助役が過失致死及び公共危険罪に問われた。 日本では 1999 年以降、民間の建築基準適合判断資格者が建築確認審査を行う ことができるようになり、違法な建築確認に対して行政が責任を問われるのか、 それとも民間機関の責任なのか意見が分かれており、現状では必ずしも行政が 責任を問われるわけではない。 被害を事前に予防するためには、不動産の販売主の責任も重要である。フラ ンスでも日本でも、売主が買い主に瑕疵の存在を説明する義務を負う。 そして、日本もフランスも、自然災害に対して、被害を最小限に抑えられる ような対策を講じ、復興事業もスムーズに行えるような制度を整えている。し 231.
(4) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). かし、2 つの制度は必ずしも似たような性質のものではない。日本はフランス に比べて公開空地が少ないため、建築禁止地区を設定することをためらうこと も多く、災害危険地域の住民を移転させることは難しいが、そういった面を差 し引いても、災害に強い復興計画が実施されにくい。その原因の一つには、関 係住民の声を汲み取らず、行政が一方的に計画を押しつけることが挙げられる。 反対に、住民の意見を聞きすぎて、少数意見までを尊重しようとするがあまり 計画が進まなくなってしまう場合もある。そこで本稿は、 都市政策において「民 主主義」のシステムが日本より整備されているフランスと比較することで、日 本の制度の弱点を浮き彫りにすることを目的にしている。 日本にも日本とフランスの災害防止対策を比較分析する研究は数多くある が、フランスの都市計画法についての研究では、都市開発の手法の紹介が主で あり 6)、都市計画法の側面から見た自然災害対策に関する論文は多くない 7)。 フランスの都市計画法は土地利用と自然環境の保護の分野で環境法と補完関係 にあり、 過度な都市化を抑制するために 1986 年に制定された「沿岸法」及び「山 岳法」は、都市計画法典に編纂されている。また、フランスの都市計画は、計 画作成段階から住民参加が義務付けられ(都市計画法第 300-2 条) 、国家公開 討論委員会(CNDP8))が住民参加の原則が守られているかを監視している(環. 6)最近のフランスの都市計画法の研究には、財団法人自治体国際化協会(パリ事務所) 「フ ランスの都市計画 - その制度と現状 -」 『Clair Report』257 号 2004 年 6 月 30 日、内海麻利 「フランスの都市計画法世の動向 - グルネル I・II 法に見るコンパクトシティー政策 -」 『土 地総合研究』2013 年春号がある。 7)都市計画法と自然災害の関係についての研究は、例えば、北村和生「フランスにおける 行政の自然災害防止義務と損害賠償責任」 『立命館法学』1998 年 6 号(262 号) 、北村和生 「フランスにおける都市計画と自然災害制度 -PER と PPR を中心に -」 『政策科学』7 号 3 巻(通巻 15 号)2000 年 3 月、磯貝敬智「シンシア暴風雨災害とフランスの災害対策」 『河 川』平成 23 年 2 月号等がある。 8)Commission nationale du débat public. 232.
(5) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. 境法第 L .121-1 条から L.121-15 条及び第 R.121-1 から R.121-16 条) 。土地収用手 続きに関しても、公用収用決定に先立ち、意見公聴の手続が採られる(土地収 用法第 L.110-1、L.110-2) 。一方日本では、利害関係者が公聴会の開催を請求し た場合または必要があると認められる場合にしか公聴会が開かれない(土地収 用法第 23 条) 。 市民参加は、1998 年 6 月 25 日採択された「環境に関する、 情報へのアクセス、 意思決定における市民参加、 司法へのアクセス関する条約(オーフス条約) 」で、 健康で幸福な生活環境で生活するために必要な権利として保証されなくてはな らないとされ、フランスは 2002 年 7 月 8 日に批准し、 「オーフス条約の承認を 許可する 2002 年 2 月 28 日の法律第 2002-285 号」及び「オーフス条約の公布 に関する 2002 年 9 月 12 日のデクレ第 2002-1187 号」により、2002 年 10 月 6 日に施行された。そして、この条約の原則は、2004 年 6 月 24 日に採択された 環境憲章にも盛り込まれている。更に、1958 年 10 月 4 日の第 5 共和国憲法前 文 に、 「1946 年 10 月 27 日第 4 共和国憲法前文」 、 「1789 年 8 月 26 日人権宣言」 と共に「環境憲章」が「共和国の法律によって承認された基本的諸原理」と明 記され、憲法評議会は 2005 年 4 月 28 日、これらの基本的緒原理が「憲法ブロッ ク」だということを確認している 9)。つまり環境憲章は憲法と同格とみなされ ているのである。日本は残念ながら、未だにオーフス条約を批准していないし、 都市・環境計画における民主主義的手法の仕組みもまだ完全ではない。 紙面の制約上、詳細は他の研究に任すことにするが 10)、計画をより民主的、 効率的に実行できるフランスの制度が日本の制度整備の参考になることを期待 する。. 9)Décision n° 2005-514 DC du 28 avril 2005。 10)例えば、ミシェル・モロー「土地所有権の日仏比較:フランス法における土地所有権 近時の動向 -」 『北大法学論集』46(6) : 215-257 がある。 233.
(6) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). 第 1 章:保全 1.フランスにおける洪水被害 フランスで 2001 年から 2010 年までの 10 年間に起こった自然災害は洪水が 一番多く(20%) 、雪崩と雷がそれに続き(共に 17%) 、地震は極めて少ない。 しかし、フランスでも、一部の地域ではしばしば地震による被害(2%)が報 告されている。大きな被害の出る地震は日本に比べれば極めて少ないが、建築 物の被害を少なくするために、2010 年 10 月 22 日に、 「地震のリスク保全に関 するデクレ第 2010-1254 号 11)」 、 「フランス全土の地震地域の範囲の限定に関す るデクレ第 2010-1255 号 12)」及び( 「 『中ぐらいの危険度』に判定された建築物 に適用する耐震建築物及び判定に関するアレテ 13)」が出され、5 つのゾーン 14)に 区分けした地震の被害予測図が作成され、2011 年 5 月 11 日以降、新築の建物 は危険度に応じて耐震建築にしなくてはならなくなった。また、2011 年 5 月 1 日から、Eurocode 815)が欧州基準の規則として、新しく建てられる建築物に 適用されることになった。 先の 2 つのデクレによって新たに区分けされた、地震の起きやすい地域の地 図では、パリは地震の危険性がほとんどない地域(レベル 1)であるが、洪水 の危険度は高い。 1910 年 1 月 29 日、セーヌ河の水位が 8,62 メートルも上がり、パリで大規模 11)Décret n°2010-1254 du 22 octobre 2010 relatif à la prévention du risque sismique. 12)Décret n°2010-1255 du 22 octobre 2010 portant délimitation des zones de sismicité du territoire français. 13)Arrêté du 22 octobre 2010 relatif à la classification et aux règles de construction parasismique applicables aux bâtiments de la classe dite « à risque normal ». 14)ゾーンに含まれる市町村の詳細は、環境法第 D.563-8-1 条に記されている。 15)耐震構造の計算 234.
(7) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. な洪水が発生した。8 万棟の建物のうち 2 万棟が浸水し、15 万人が被災した。 郊外では、住居を失った人の数が 20 万人にも達した 16)。被害額は 4 億フラン、 現在の 10 億ユーロ 17)以上だったと推定されている 18)。 1992 年 9 月 22 日には、南フランスを流れるウべズ川が氾濫し、32 人の犠牲 者が出たヴェゾン・ラ・ロメン村を含めて、42 人の命が奪われた 19)。ヴォー クリューズ県の被害だけで、保険会社グループラマは 3 億フラン(約 4600 万 ユーロ)の損害が出たと試算している 20)。 ヴェゾン・ラ・ロメン村は、ガロ・ローマ時代の遺跡が残るプロバンス地方 の有名観光地の 1 つであったため、不動産需要が高まり、川岸にまで建物が建 てられていた 21)。 実は、洪水の危険性を無視して水際に住宅等が建設されているのはヴェゾ ン・ラ・ロメンだけではない。例えば、ヴァール県 22)では、57 万 4 千戸の住 宅のうち 5 万 9 千戸(約 1 割)が洪水の危険性の高い地域に建てられている。 これらの住宅は、満潮時の水際線から平均 130 メートルしか離れていない 23)。 16)Bibliothèque historique de la ville de Paris, Paris inondé 1910, Dossier de presse, décembre 2009、9 ページ。 17)約 1400 億万円(1 ユーロ= 140 円) 。 18)同上、10 ページ。 19)COMBY (J.), «Bilan social et économique de la séquence orageuse du 22 septembre 1992 dans le sud du couloir rhodanien», Revue de géographie de Lyon, Vol. 68, n° 2-3、182 ページ。 20)同上、186 ページ。 21)COSTE (C.), MALKAIRE (V.), MOTTET (G.), « Fortes pluies et crues de septembre 1992 sur le bassin cristallin de l’Ardèche en amant d’Aubenas : causes et conséquences », Revue de géographie de Lyon, Vol. 68, n° 2-3、169 ページ。 22)地中海に面したプロヴァンス・アルプ・コートダジュール地方の県。県庁所在地はトゥー ロン。 23)«Var : 10% des logements en zone inondable», France-Soir、2010 年 6 月 19 日。 235.
(8) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). 人気のある土地では、需要に応えるために、海や川の至近距離に住宅が建設さ れてしまっているのが現状である。フランスでは 1700 万人が洪水の危険性の ある土地で暮らし、140 万人は高潮による浸水の危険に晒されている 24)。1999 年から 2006 年の 7 年間に、人口 1 万人以上の 424 の市町村で、洪水の危険性 のある地域に約 10 万戸の住宅が建設された 25)。海際の土地は特に人気があり、 海岸沿いの家を求める人の数が増加している。 災害の危険性が高い地域と、洪水の危険性のある都市化されていない地域で は、住宅等の建設が禁止されているが、洪水の危険性のない地域では、7 年間 の住宅建設の伸び率が 5,91% であったのに対し、洪水の危険性のある地域では、 6,9% も増加した 26)。 市町村長は、洪水のリスクを知っていても、事務所や住居の建設による経済 効果を期待し、都市計画を変更して建築可能な土地にし、また、違法だとわかっ ても建築許可を出してしまうことがある。本来なら県知事が市町村長の出した 建築許可の合法性を審査し、違法な建築許可を摘発するのだが、常時膨大な申 請書類を抱えているため、入念なチェックがされず、容易に審査をすり抜けて しまうことが多いからだ 27)。国も、危険な区域での建築への対応が不十分だ と指摘されている 28)。 24)Première évaluation nationale des risques d’inondation, Principaux résultants, EPRI 2011, Ministère de l’Écologie, du Développement durable et de l’Énergie, juillet 2012、16 ページ。 25)«Zones inondables : le gouvernement va revoir les règles de construction», Le Point、2010 年 3 月 1 日。 26)Commissariat général au Développement durable, «Croissance du nombre de logements en zones inondables», Le Point sur, n° 6, Service de l’observation et des statistiques、2009 年 2 月、1 ページ。 27)« Permis de construire : Ici ou là, les amis des élus peuvent bâtir en zone inondable », Capital、2010 年 12 月 20 日。 28)«La tempête Xynthia soulève la question des constructions en zone inondable», Le Monde、 3 janvier 2010. 236.
(9) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. 水際の土地の建設需要がこのまま続けば、2040 年には、海岸沿いの土地で 暮らす人の数が全人口の 40% になることが予測されている 29)。. 2.災害予防策 1)洪水リスク予防計画 フランスでは、台風や地震などの自然災害対策は、1982 年以降法制化され ていった。 「自然災害の被害者の補償に関する 1982 年 7 月 13 日法律第 82-600 号 30)」は、国が災害リスク地図を作成し、自然災害の被害を受ける可能性の ある地域を指定することとした。当該土地の所有者及び、土地が所在する市町 村が実施し、国務院のデクレに規定された条件に沿って、自然災害防止計画が 見直されることになった(第 5 条 31)) 。 「民間安全保障の体制、森林防火及び 大規模な危険の防止に関する 1987 年 7 月 22 日法律第 87-565 号 32)」は、自然 災害及び産業事故が起こり得る地域の住民は、そのリスクやリスク対策の情報 を得る権利を有する、としている。その権利行使の条件は、国務院のデクレが 規定することになっている(第 21 条 33)) 。これらの法律は、 「環境保護の強化 に関する 1995 年 2 月 2 日法律第 95-101 号(バル二エ法)34)」によって改正さ れ、 環境法第L .562-1 条以降の条文に組み込まれた。これによって国は、 「洪水、 29)同上、11 ページ。 30)Loi n°82-600 du 13 juillet 1982 relative à l’indemnisation des victimes de catastrophes naturelles. 31)第 5 条は、1995 年 2 月 2 日法律第 95-101 によって廃止された。 32)Loi n° 87-565 du 22 juillet 1987 relative à l’organisation de la sécurité civile, à la protection de la forêt contre l’incendie et à la prévention des risques majeurs. 33)第 21 条は、2000 年 9 月 18 日のオルドナンス第 2000-914 号により廃止され、新たに環境 法第 L.124-2 条に規定されている。 34)Loi n° 95-101 du 2 février 1995 relative au renforcement de la protection de l’ environnement. 237.
(10) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). 崖崩れ、雪崩、森林火災、地震、火山噴火、暴風雨、低気圧等の予見可能な自 然災害計画(PPRN) 」を作成し、 実行することになった(環境法第L .562-1 条) 。 PPRN は、県知事が計画作成の方法を定め、意見公聴会と市町村議会の答申 を得た後、知事のアレテで承認される(第 L.562-3 条) 。承認された計画に含ま れる地域は都市計画法の定める都市計画に組み込まれ、公益上の地役とみなさ れる。承認された計画は市町村役所に掲示され、 地元の新聞にも掲載される(第 L.562-4 条) 。 PPRN のうち、 「洪水リスク予防計画(PPRI) 」では浸水リスクの度合いに 応じて地域が定められる 35)。 例えば、パリの PPRI では、 「グリーン・ゾーン」 、 「レッド・ゾーン」 、 「パー ル・ブルー・ゾーン」 、 「ダーク・ブルー・ゾーン」に区分けされている。 グリーン・ゾーンでは例外 36)を除き、新たな建築が禁じられる 37)。レッド・ ゾーンでは、①一時的な荷物の倉庫または保税倉庫、②水難救助及び監視等を 含む、水上の利用、③鉄道、陸上、水上輸送、④川岸で催される観光事業とし て使用することができる 38)。ブルー・ゾーンでは、建築は許可されるが、環 境汚染の恐れのある物、危険物、繊細な物 39)または高価な物を恒久的に保管 している場合、計画が施行されてから、または改訂されてから 5 年以内に、所 35)Bibliothèque historique de la ville de Paris, Paris inondé 1910, Dossier de presse, décembre 2009、11 ページ。 36)①既存の建築物、②運動場やレジャー施設、③公園、④ブローニュの森のキャンプ場、 ⑤受け入れ施設及び一時的な動力付きの車両の駐車場、⑥上記の施設の管理人の住居は、 例外的に建設が許可される。 37)Direction de l’Urbanisme du Logement et de l’Équipement, Plan de prévention des risques d’inondation du département de Paris révisé, Document approuvé le 19 avril 2007, 2. Règlement、6 ページ。 38)同上、7 ページ。 39)例えば、発電装置やデータベース等。 238.
(11) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. 有者または管理責任者は、保険会社に保管物の存在を申告しなければならない。 また、リスクの防止策も表明しなければならない 40)。 ゾーン分けが正しくない場合は、リスク予防計画は取り消される。例えば、 浸水すると予想される高さより標高の高い場所が災害危険度の高い建築禁止の 地区に指定された場合や、逆に氾濫が予想される川より低い土地が危険度の低 い地区に指定された場合 41)、計画の作成過程に瑕疵がある場合 42)等である。 しかし、裁判所が取り消した事例は多くない。1998 年から 2005 年までの 8 年 間で、行政裁判所で 195 件、高等行政裁判所で 47 件、国務院で 7 件の関連裁 判の判決が出されたが、リスク予防計画が取り消されたのはそのうち 26 件の みである 43)。 洪水の危機管理は、EU のレベルでも協議され、海岸及び河岸における洪水 被害を軽減するために、2007 年 10 月 23 日、洪水の危機管理と評価に関する 欧州議会および欧州理事会指令 2007/60/CE が出された。この指令は、2007 年 11 月 26 日に施行され、2009 年 11 月 26 日までに欧州連合加盟国は立法手続き をしなくてはならず、そのためフランスでは、環境に対する国家的政策に関す る 2010 年 7 月 12 日法(法律第 2010-788 号)及び洪水の危機管理と評価に関 する 2011 年 3 月 2 日のデクレ(デクレ第 2011-227 号)に欧州指令の規定が盛 り込まれた。2010 年 7 月 12 日法第 221 条は、環境法第 6 章「洪水の危機管理 40)Plan de prévention des risques d’inondation du département de Paris révisé, Document approuvé le 19 avril 2007, 2. Règlement, Direction de l’Urbanisme du Logement et de l’Équipement、 9 ページ。 41)Tribunal administratif de Lille, n° 99-1469 / 99-1470 / 99-1522 / 99-1603 / 99-1619, Mme Mireille Vandroy et autres contre Préfet du Pas-de-Calais, 5ème chambre, 23 avril 2001. 42)Tribunal administratif de Saint-Denis de la Réunion, n° 99001003 / 9901028, Commune de Saint-Paul Association Action Ouest et autres contre Préfet de la Réunion, 3 mai 2000. 43)Ministère de l’Écologie et du Développement, Actualité de la jurisprudence administrative relative aux PPR、2006 年 3 月 1 日、1 ページ。 239.
(12) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). と評価」に挿入され、2011 年 12 月 22 日までに全国規模で洪水の危険性の事 前評価を実施し、2018 年 12 月 22 日までに第 1 回目の改定を行い、その後は 6 年ごとに見直しをすることとした(環境法第 L.566-3 条) 。また、2013 年 12 月 22 日までに洪水の危険性を示す地図を作成し、6 年ごとに改定し(第 L.566-6 条) 、2015 年 12 月 22 年までに地域ごとの洪水の危機管理計画を定めることに なっている(第 L.556-7 条) 。 フランスでは、2010 年時点で、8417 市町村が PPRI を承認済みだが、4013 市町村は PPRI を作成してはいても、未だに議会で承認されていない 44)。しか し、PPRI が未承認であっても、地域計画にリスク保全計画を盛り込み、補完 することができる。地域総合計画(SCOT45))はリスク保全を考慮しなければ ならず(都市計画法第 L.122-1 条) 、地域都市計画(PLU46))に災害危険地域を 指定することができる(L.110 条) 。また、都市計画法第 R.111-2 条は、建設許 可の交付は、公共の安全を脅かす恐れがある場合は受理されないとしている。 このように、災害の危険性の高い土地には建物を建設できないように、何重に も歯止めがかかっている。 2)沿岸法 自然災害の防止のためではなく、環境保全及びスプロール化と不動産投機の 抑制のために、海・川・湖・沼・湿地帯などの付近の建設を禁止しているのが 沿岸法である。 フランスにおける海岸整備・保護及び開発に関する法律(沿岸法)47)は、 44)Info Maire : Guide, Le plan de prévention des risques naturels prévisibles、2014 年 4 月 12 日、1 ページ。 45)Schéma de cohérence territorial. 46)Plan local d’urbanisme. 47)Loi n°86-2 du 3 janvier 1986 relative à l’aménagement, la protection et la mise en valeur du littoral. 240.
(13) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. 1986 年 1 月 4 日 に 公布 さ れ、都市計画法 L.146-1 条以降 に 組 み 込 ま れ た。 L.146-4 条 III 項は、満潮時の水際線から 100 メートル以内への建築を禁じてい る。例えば、海産物の加工作業場 48)、ホテル、レストラン 49)、駐車場 50)は、 海岸のすぐ傍に設置する必要がないため、建設できない。すでに建築物が立ち 並び都市化している場合は、建築が許可されるが、建築予定地が自然保護区に 指定されている場合は、建築は許可されない 51)。また、水際線から 500 メー トルから 1km 程離れていても、市街地と接していない場合は、広大な敷地を 有する大型リゾートホテルやマンションの開発は許可されない 52)。一方、海 岸近くではないと経済活動に支障をきたす公共サービス及び経済活動に必要な 施設の建設は、例外的に許可される。しかし、自動的に許可が下りるわけでは なく、環境法第 L.123-1 条の規定により、公聴会に付される 53)。 沿岸法は、①沿岸部の都市化の制限、②沿岸部の自然および文化遺産の保護 を目的として制定されたが、残念ながら期待どおりの成果は上がっていない。 沿岸部の市町村の人口は、法律の施行された 1986 年から 2006 年までの 20 年 間で 53 万人(8,8%)増加し、県単位だと 230 万人(12%)も増加している 54)。 沿岸法の施行後も沿岸での住宅建設は増加し続け、1986 年から 2006 年の 20 年間に、フランス国内で建設された 620 万戸の住宅の内、約 250 万戸が沿岸 48)Conseil d’État, 23 juillet 1993, Commune de Plouguerneau, n° 127513, 3/5 SSR. 49)Cour administrative d’appel de Douai, 26 novembre 2009, Commune de Cayeux-sur-mer, n° 08DA00447, 1ère chambre-formation à 3. 50)Conseil d’État, 10 mai 1996, Commune de Saint-Joriotz, n° 155169, 7/10 SSR. 51)Conseil d’État, 12 janvier 2005, Commune d’Arzon, n° 226269, 5ème et 4ème sous-sections réunies. 52)Conseil d’État, 12 février 1993, Commune de Gassin, n° 128251 / 129406, Section. 53)Conseil d’État, 19 mai 1993, Association « Les Verts Var », n° 124983, 6/2 SSR. 54)Délégation à l’aménagement et à la compétitivité des territoires, Bilan de la loi littoral et des measures en faveur du littoral, La Documentation française, septembre 2007、7 ページ。 241.
(14) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). 部に位置している 55)。その一方で、水際線から 250 メートル以内の市街地の 22,8% の土地が浸食されている。そして、水際線から 250 メートル以内の浸食 されている土地の 28,2% が海岸、砂丘、湿地帯であり、生物の多様性が失われ るだけでなく、災害が引き起こされる要因ともなっている 56)。 2006 年 6 月に CSA57)が行った世論調査によると、39% が沿岸法は効果的に 適用されていると答えたのに対し、過半数の 53% が適用されていないと回答 している 58)。45% は、現在の法律のままで良いが、もっと取り締まりを厳し くすべきとし、48% は、新たな規定で規制を強化すべきだとしている 59)。沿 岸法は沿岸地域の経済を阻害しないと答えたのは全体の 57%(反対は 39%) で、81% の回答者は、沿岸法が景勝地でのコンクリートの建物を制限するべき とし(反対は 16%) 、79% が、沿岸の保全と経済発展が妥協し合うのは当然だ としている(反対は 18%)60)。 実際、沿岸法は、場所や時期や解釈などによって適用にばらつきがある。 また、市街地が広がった市町村では、沿岸法による建築規制が適用されない ため 61)、厳格に法を解釈する市町村に比べて自由に経済政策を立案できるの で、公平さに欠けるという指摘もある 62)。そのため、解釈を統一して抜け道 55)同上、9 ページ。 56)同上、50 ページ。 57)市場調査及び世論調査が主業務の会社。1983 年に設立。CSA は、Conseil(コンサルタ ント) 、Sondage(調査) 、Analyse(分析)の略語。 58)CAS Opinion Institutionnel, Les Français et la loi littoral : Sondage de l’Institut CSA, Ministère de l’Écologie et du Développement durable, n° 0600492, 2006 年 6 月、11 ページ。 59)同上、12 ページ。 60)同上、13 ページ。 61)Cour administrative d’appel de Marseille, 22 septembre 2011, n° 09MA03196. 62)Sénat, Pladoyer pour une décentralisation de la loi littoral : un retour aux origines, Rapport n° 297 (2013-2014)présenté par Odette HERVIAUX et Jean BIZET, Note de synthèse, 2014 年 1 月 , 2 ページ。 242.
(15) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. を作らないようにすることが望まれている 63)。実際、 経済的利益を得るために、 建築禁止事項を適用除外して建設できるようにしたり 64)、法律を改正して建 設禁止の建築物を合法的に建築してしまう例もある 65)。 環境保護連盟「フランス・ナチュール・アンビロヌモン 66)」は、市長が地 域都市計画(PLU)を変更したり、違法と知りながら、建設業者のために建設 許可を出したりすることで水際の環境破壊が進んでいるとし、現在の建設禁止 区域の水際線から 100 メートルを 200 メートルに延長し、市町村が交付した建 築許可に対し、県知事が違法性をチェックすることを提案している 67)。 上院は 2014 年 7 月 1 日、建設禁止地区の決定権を市町村に与え、沿岸に位 置する自治体の経済発展を図るために、沿岸法改正案 68)を提出した。しかし、 2014 年 6 月に IFOP が行った世論調査では、91% のフランス人が、 自然を守り、 海岸線にコンクリートの建物が林立しないようにするためには、沿岸法を改正 すべきではないと回答している 69)。. 63)同上、4 ページ。 64)例えば、1999 年の農業進路法第 109 条は、県用地委員会の意見を聞いた後、知事の同意 を得れば、農業・林業に必要な施設を沿岸に建設できるとし、大規模な養豚場や養鶏場 を設置することができるようになった。また、2005 年 2 月 23 日には沿岸法が修正され、 1000 ヘクタール以上の湖周辺の市町村に適用除外が認められ、湖岸での都市開発が認め られるようになった。 65)« La loi littoral n’arrive pas à freiner l’urbanisation », Libération、2006 年 1 月 2 日。 66)France Nature Environnement は、1968 年に設立された自然・環境保護協会連盟で、約 3000 の団体が加盟している。 67)France Nature Environnement、25 ans de la loi « Littoral » : une loi toujours aussi mal appliquée, Communiqué de presse、2011 年 1 月 3 日。 68)Sénat, Proposition de loi, n° 667、2014 年 7 月 1 日。 69)IFOP / SUD OUEST dimanche, Les Français et l’aménagement du littoral, Ifop pour Sud Ouest Dimanche、2014 年 6 月、9 ページ。 243.
(16) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). 3.日本における災害予防策 1)津波被害のための建築禁止地区 日本では沿岸部、特に太平洋岸では都市化が進み、海岸や川岸のすぐ傍にも 建物がぎっしり並んでいる。しかし、建設が法で規制されたこともあった。 昭和 8(1933)年 6 月 30 日、昭和三陸沖地震後 に 宮城県令第 33 号(海嘯罹 災地建築取締規則)で建築禁止地区が設けられ、知事の許可なしには住宅の 建設が禁止された。しかし、この規則は昭和 29(1954)年に編纂された宮城 県例規集には記載されておらず、いつの間にか廃止の取り扱いがされたらし い。そして、昭和 27(1952)年には、この規則により高地移転を行った地区で、 被害を受けた低地に住宅が建設され始めた。その理由は、 ①移転策での人口が飽和状態になり、新たに居住地が必要になったこと ②防災対策をすることで安心してしまったこと ③津波被害経験のない移住者が警戒をしなかったこと である 70)。 昭和 25(1950)年に制定された建築基準法は、洪水の被害を受ける地域を 対象に、地方公共団体が条例で津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を 災害危険区域に指定できることとし(第 39 条第 1 項) 、災害危険区域での建築 制限等は条例で定めることになった(第 2 項) 。 東日本大震災後、宮城県では 2014 年 6 月 20 日現在、仙台市を含めた 12 の 市町 71)で、災害危険区域条例による建築制限が実施され 72)、主に住居の用に 70)内閣府中央防災会議、 「過去に行われた建築規制と現在の建築基準法による措置」 、東北 地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会(第 6 回) 、資料 4、 平成 23 年 7 月 31 日、3 ページ。 71)山元町、仙台市、東松島市、亘理町、気仙沼市、南三陸町、七ヶ浜町、名取市、石巻市、 女川町、岩沼市、塩竈市。 72) 「危 険 災 害 区 域 に つ い て」 、 宮 城 県、http://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kentaku/ saigaikikenkuiki.html、2014 年 10 月 1 日。 244.
(17) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. 供する建築が禁止されている。例えば南三陸町では、児童福祉施設、宿泊施設、 医療機関なども建設することができない 73)。 しかし、この規制にもいくつかの問題点が指摘されている。例えば、災害危 険地域内の被災した土地を買い取ってもらって新たな場所に移る場合、土地の 売却より購入費用の方が高ければ、安全な場所に住居を新築できないことであ る 74)。経済的負担が重ければ、災害危険地域に指定されても、今までの生活 を維持しようと考える人が出てきても不思議ではない。実際、岩手県内では、 行政の決定にしびれを切らし、作業場や店舗を流され生活の手段を失った被 災者が、県に建築確認を申請した 75)。県は、 「建築を制限する条例がないので 76). 、 申請があれば手続きを進める」とし、 その結果、 津波で浸水した土地にショッ. ピング・センターが建設されたりしている 77)。また、人口 25 万人以下の市町 村には建築主事が置かれていないことが多く、建築確認は都道府県の特定行政 庁が執り行うことになるため、市町村が指定した災害危険区域内であっても、 建築確認が下りることがあり得る 78)。そして、住民の合意を得るのが困難な ことや転出による過疎化を恐れ、市町村は条例による災害危険区域を指定する. 73) 「南三陸町災害危険区域設定条例 の 一部 を 改正 す る 条例(最終改正:平成 25 年 6 月 25 日) 」 、 南 三陸町、http://www.town.minamisanriku.miyagi.jp/index.cfm/6,0,22,294,html、 2014 年 6 月 10 日。 74) 「市民意見一覧」 、仙台市震災復興検討会議、第 6 回、資料 1、平成 23 年 11 月 14 日、3 ペー ジ。 75)2011 年 7 月末までに申請は 65 件あった。 76)平成 25 年 8 月 13 日付の伊吹衆議院長の質問に対する安部首相の答弁書(内閣衆質 184 第 2 号)によると、平成 25 年 4 月 1 日現在で、23 市町村が条例で災害危険区域を指定 している。 77) 「行政決定、待てない、本県津波浸水区域への店舗再建」 、 『岩手日報』 、2011 年 8 月 14 日。 78)島田恵司、 「岩手県大槌町 に み る 東日本大震災 の 復興課題」 、 『自治総研』 、通巻 421 号、 2013 年 11 月号、12 ページ。 245.
(18) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). のに消極的で、建築自粛を「お願い」するに留まっている 79)。 建築基準法 39 条の災害危険区域の指定による建築規制には期限の指定がな いのに対し、建築基準法第 84 条による建築制限は、災害の発生した日から 1 ヵ 月以内に限定される。市街地が被災した場合、都市計画法または土地区画整理 法による土地区画整理事業のために建築を最大 1 ヵ月間制限または禁止するこ とができる。特定行政庁は、更に 1 ヵ月を限度に期間を延長することが可能で あるが、東北大震災では被害が大きすぎて 2 ヵ月間では復興計画を定めるのが 困難なため、 「東日本大震災により甚大な被害を受けた市街地における建築制 限の特例に関する法律」が、甚大な被害を受けた市街地の健全な復興と土地区 画事業に必要な場合は、当該市街地の区域を指定し、建築の制限または禁止す ることができる(第 1 条第 1 項)とした。この規定の適用は平成 23 年 9 月 11 日までの 6 ヵ月間であるが(第 2 項) 、特定行政庁が必要と認める場合に限り、 更に2ヵ月間の期間延長が可能であった(第 3 項) 。 石巻市は、期間延長が 11 月 10 日に終了するため、該当地区を「被災市街地 復興推進地域」に指定した。この地域における建築制限は、平成 25 年 3 月 10 日に解除され、都市施設、市街地開発事業等の都市計画が決定された区域での み、建築基準法第 53 条による建築制限が行われている 80)。 しかし、建築基準法 84 条による建築規制も、土地区画整理事業のため必要 があると認められる時に限られるため、必要がなければ行われない。そして、 人命や財産を災害から守るための規制であっても、経済活動の再開が重要との 判断から、商業地での建築規制が解除されたりしている 81)。 79)姥浦道生、 『土地利用規制 と 東日本大震災』 、 「都市計画」 、291 号、緊急特集「東日本大 震災」 、2011 年 6 月、日本都市計画学会、63-64 ページ。 80) 「被災市街地復興推進地域内 の 建築制限 の 解除 に つ い て」 、石巻市、http://www.city. ishinomaki.lg.jp/cont/10184000/0100/20130322165813.html、2013 年 3 月 29 日。 81)姥浦道生、 『土地利用規制 と 東日本大震災』 、 「都市計画」 、291 号、緊急特集「東日本大 震災」 、2011 年 6 月、日本都市計画学会、63 ページ。 246.
(19) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. その他の自然災害防止制度としては、大雨などによる土砂災害の被害から住 民の生命を守るため、平成 12(2000)年 5 月に公布され、翌年 4 月 1 日に施 行された「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」 が挙げられる。この法律によると、国土交通大臣は、 「土砂災害の防止のため の推進に関する基本的な指針」を定めなければならず(第 3 条) 、都道府県知 事は基本指針に基づき、土砂災害警戒区域を指定することができる(第 6 条) 。 都道府県は基本指針に基づき、おおむね 5 年毎に基礎調査を行い、関係市町村 長に通知する (第 4 条) 。平成 14 年度以降、 土砂災害警戒区域等の指定が増加し、 平成 23(2011)年 8 月 31 日時点で、22 万 7804 ヵ所の土砂災害警告区域と 10 万 7963 ヵ所の土砂災害特別警戒区域が指定されているが 82)、基礎調査を終え た後も多くの箇所で土砂災害警告区域等が指定されていない(土砂災害警告区 域:7 万 322 ヵ所、土砂災害特別警戒区域:7 万 7 千 922 ヵ所)83)。多 く の 箇 所が指定されていないのは、市町村が、 「住民が反対している 84)」という理由 で指定に反対しているからである 85)。反対住民は、 「土地の価格の低下(41%) 」 や「建築物の構造規制(25%) 」 、 「過疎化(4%) 」 、 「観光産業などへの風評被害 (4%) 」に懸念を抱いているからであるが 86)、47 の都道府県のうち 34% が、 「市 町村の理解を得られるまで粘り強く説得する」としている一方で、9% は、 「市 町村が反対する場合には区域指定は行わない」と回答している 87)。経済や目 先の利益も大切だが、これでは土砂災害を防ぐことはできず、せっかくの制度 82)国土交通省、 「土砂災害防止に基づく施策の取り組み状況」 、第 3 回土砂災害防止法に関 する政策レビュー委員会、資料 1、平成 24 年 1 月 30 日、11 ページ。 83)同上、16 ページ。 84)市町村から指定に反対された事例のある 21 都道府県の 60%が「住民が反対している」 ことを理由に挙げている。 85)同上、19 ページ。 86)同上、20 ページ。 87)同上、13 ページ。 247.
(20) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). も「絵に描いた餅」になってしまっている地方自治体もある。 2)地域危険度の高い地域の対策 東京 23 区内には、木造密集市街地がいくつも開発から取り残されている。 大地震が起きたら建物が倒壊して道路を塞ぎ、同時多発的に火災が発生した場 合には、住民の避難が不可能になることが懸念されている。 地震調査研究推進本部によると、今後 10 年以内にマグニチュード 7 程度の 地震の発生確率は 30%程度、20 年以内は 60%の確率だとされている 88)。木密 不燃地域は、沖積低地や谷底低地に多くが分布しているため、揺れが増幅され やすい。木造建築物は阪神・淡路大震災でも多くが倒壊し、また大規模火災も 発生している 89)。特に昭和 56 年以前の建造物には新耐震基準が適用されてい ないので、倒壊の危険度が更に高くなる。木密地域は狭隘道路が多く、緊急車 両の通行が困難な個所も多いので、火災予防や避難所確保のために、高幅員道 路や公園等の整備が必要である。 そのため、東京都は 2012 年 1 月 20 日、 「木密地域不燃 10 年プロジェクト」 の創設を決定した。木密地域では、地震時に大規模火災の発生が懸念されるた め、約 7 千ヘクタールの「不燃化特区」を設定して耐火建築への建て替えを奨 励し、2020 年までに不燃領域率を 70% に引き上げ、 延焼による焼失ゼロの「燃 えないまち」の実現を目標にしている 90)。 木造密集地域では、67% の建物が 1982 年以後に建てられ、1991 年以降の建築 物は全体の 45% にも及ぶが、木造(モルタル・サイディング)建築物の割合が 88)地震調査研究推進本部・地震調査委員会、 「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価につ いて」 、平成 16 年 8 月 23 日、8 ページ。 89)東京都、 「東日本大震災における東京都の対応と教訓」 、東京都防災対応指針(仮称)の 策定に向けて、平成 23 年 9 月、42 ページ。 90) 「 「木密地域不燃化 10 年プロジェクト」実施方針」 、東京都、平成 24 年 1 月、4 ページ。 248.
(21) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. 圧倒的に高い 91)。こうした地域では 2010 年現在、都市計画道路の整備率が 50% にとどまり、不燃領域率も 2006 年に 56% にまで改善されたが、防災都市づくり 推進計画ではそれを 2025 年までに 70% に引き上げることを目標としている 92)。 東京都は、①地域危険度が高く、②不燃領域率が一定水準未満であり、③新 たな防火規制の導入等、重点的・集中的に改善を図るべき地区について、区か らの整備プログラムに基づき、不燃化推進特定整備地区を指定し、区が地区及 び整備プログラム案を作成する。都は、区のプログラム案を認定し、プログラ ム実施のための特別支援を行う 93)ことを決めた。 しかし、木密地域では、居住者の高齢化による建替え意欲の低下、敷地が狭 小等により建替えが困難、権利関係が複雑で合意形成に時間を要することなど から、改善が進みにくい状況となっている 94)。例えば墨田区では、権利関係 者の複雑化と高齢化で折衝が難航していると報告され、実現のためには今まで とは違った視点から検討することが求められている 95。. 第 2 章:復興事業の進め方 1.フランス 1)土地収用手続き フランスでは公共事業に必要な土地を確保するために、土地家屋の買収交渉 91)火災予防審議会 / 東京消防庁、 「減災目標を達成するため木造住宅密集地域において緊 急に実施すべき震災対策(火災予防審議会答申) 」平成 23 年 3 月、39 ページ。 92 東京都、 「 「木密地域不燃化 10 年プロジェクト」実施方針」 、平成 24 年 1 月、2 ページ。 93)同上、6 ページ。 94)火災予防審議会 / 東京消防庁、 「減災目標を達成するため木造住宅密集地域において緊 急に実施すべき震災対策(火災予防審議会答申) 」平成 23 年 3 月、21 ページ。 95)墨田区、 「平成 24 年度墨田区区民行政評価委員会報告書」 、平成 24 年 10 月、69 ページ。 249.
(22) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). が決裂した場合、土地収用が頻繁に行われている。ただし、土地収用は所有権 を奪うことになるため、 「事前に妥当な額の補償金を支払う」ことが条件となっ ている。 土地収用 は、1789 年 の 人権宣言 が 所有権 を「神聖不可侵」と す る 一方 で、 事前に相応の補償金が支払われ、公共の利益のために用いられることが合法と 認められる場合に認められている。 (第 17 条) 。1793 年 6 月 24 日の共和国憲 法でも、 「所有権の神聖不可侵」を謳っている一方で、 土地収用を認めている (第 19 条) 。つまり、 「公共の利益」と 「納得のいく補償」の条件を満たした場合は、 所有権は「絶対」ではない。 土地収用は、所有権に制約を課すことになるので、土地収用を実行できるの は、国 96)や地方公共団体及び公共機関に限定されている。地方公共団体の場 合は、土地収用の必要な事業がその市町村にとって利益になるのでなければな らない 97)。例外的に、公共事業を請け負う民間企業にも土地収用の執行が認 められているが 98)、以下の様に事業が限定されている 99)。 - 公共事業施行者 100) 96)Conseil d’État, 3 février 1971, Association pour la sauvegarde des sites corses, n° 75635, 5/1 SSR. 97)Conseil d’État, 21 décembre 1977, Dame Grignard, n° 01145, 8/7 SSR. 98)国または地方公共団体以外の土地収用は、パリ大司教がモンマルトルの丘にサクレクー ル寺院を建設する際に初めて行われた。国民議会は国または地方公共団体以外が土地収 用を行うことに難色を示し、土地収用は①公益のために行われるか、②事業者に土地 収用手続きを行う権利はあるか、③時宜にかなっているか、が議論された。最終的に、 1873 年 7 月 24 日、モンマルトルの丘の教会建立に必要な土地の収用を許可する法案が 採択された。 99)HOSTIOU( R. ) , STRUILLOU( J.-F. ) , Expropriation et préemption, Urbanisme et construction, Litec Professionnels, Le droit à la performance, 4ème édition, LexisNexis Litec, 2011、34 ページ。 100)1935 年 8 月 8 日デクレ・法第 56 条。 250.
(23) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. - 鉱業権者 101) - 水力発電会社 102) - 温泉源所有者 103) - 天然ガス貯蔵経営者 104) - 電気分野で欧州の利益のためにフランスで経済活動を行う企業 105)。 また、公共サービスの運営を委任されている民間企業も、土地収用をする権 限が認められている 106)。 自然災害などで緊急に土地を収用する必要がある場合は、緊急手続が認めら れている。その場合、公共の利益が明示されなければならない(土地収用法第 R.15-2) 。公共の利益が、土地収用に係る費用および、公共の秩序に支障をもた らす可能性が高い場合は土地収用の正当性が認められないが、住民を自然災害 から守るという公益が、所有権の制限による損害及び収用手続きに係る費用よ りも大きい場合は、土地収用の正当性が認められる 107)。 地裁または高裁の裁判官が、 補償金の金額を決定または仮決定する(第 L.15-4 条) 。補償金は、土地収用によって直接、物質的に生じる損害をすべてカバー する額でなければならない(第 L.13-13 条) 。精神的な損害は補償金には含まれ ない、とされている 108)。なぜなら、精神的損害についての支払いは土地収用 法で言及されていないので、憲法の掲げる「権利と自由」に反するとは言えな 101)鉱業法第 73 条。 102)1919 年 10 月 16 日法。 103)公衆衛生法第 L.743 条。 104)1958 年 11 月 25 日オルドナンス第 5 条。 105)1972 年 12 月 23 日法第 6 条。 106)Conseil d’État, 17 janvier 1973, Sieur Ancelle et autres, n° 74821, 1/4 SSR. 107)Conseil d’État, 27 juillet 2005, Mme Noëlle X, n° 267195, 3ème sous-section jugeant seule. 108)Cour de cassation, 21 octobre 2010, n° 10-40038, Qpc seul-renvoi au cc. 251.
(24) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). いからである 109)。 土地を収用する者は、収用が必要な事業計画を作成し、収用する土地の場所 を明示した地図を添付して、国務院に公共の利益のための土地収用を申請する。 国務院はデクレで許可を出し、県知事はデクレ受領 24 時間以内にアレテを出 して、当該土地への立ち入りを認めることになる(第 L.15-6、L.15-7 条) 。 土地収用は、所有権を制限することになるため、 「公共の利益の宣言」に先 立って、公聴会が開かれる。公聴会は、開示手続聴聞官または聴聞委員会が取 り仕切る(第 L.11-1 条) 。 自然災害のための土地収用の場合は、他に方法がなく、費用が一番低く抑え られる場合にしか行なわれない 110)。例えば、災害保全と住民保護の費用が災 害危険地域から住民を退避させるための土地収用費用より高い場合に 111)、土 地収用が行われることになる。土地収用の決定には、市議会の賛同を得なけれ ばならないが、それだけでなく、聴聞に付され、開示手続聴聞官が賛成と結論 付けなければ、 土地収用は認められない。仮に市議会が土地収用に前向きであっ ても、開示手続聴聞官が反対した場合は、県議会が 3 ヵ月以内に土地収用の賛 否を協議しなければならない(土地収用法第 R.11-13) 。土地収用の補償は、自 然災害保全(バルニエ)基金から支払われる。 2010 年 2 月 27 日から 28 日かけて暴風雨 Xynthia が大西洋岸に大きな被害 をもたらした。被災地の事後処理として、国による不動産の買い取りが協議さ れた。そして、話し合いがまとまらなかった住宅については、土地収用が適用 された 112)。フォート・シュール・メール市及びエギュイヨン・シュール・メー 109)Conseil constitutionnel, décision n° 2010-87, QPC, 21 janvier 2010. 110)Conseil d’État, Mme Noelle X., n° 267195, 3ème sous-section jugeant seule, 27 juillet 2005. 111)Tribunal administratif de Poitiers, Association d’Entraide aux sinistrés de Port des Barques, n° 1001198, 22 juillet 2010. 112)ヴォンデ県は、 国による土地建物の買い取りを拒んだ 103 軒に対して、2013 年 1 月 25 日、 公共の利益に為の土地収用を宣言した。 252.
(25) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. ル市の土地収用対象者 103 人は、ナントの行政裁判所に土地収用決定の撤回を 求めていたが、2014 年 12 月 22 日、訴えが退けられた 113)。. 2)補償 自然災害時の土地収用における補償金の一部は、1995 年 2 月 2 日法 114)によ り創設された「バル二エ基金」から賄われる。自然災害のリスクの高い場所に 建てられた住宅が、国や地方公共団体との協議により買い取られる場合は、全 額がバル二エ基金から支払われる(環境法第 L.561-3 条) 。住宅、従業員 20 人 以下の会社で、事務所、店舗、工房などが建っている土地を「建設不可」にす るためにかかる経費もまた、24 万ユーロを上限として基金から支払われる 115)。 暴風雨 Xynthia が吹き荒れた時刻は大潮と重なったため、潮位係数は 116 に なり、波高は最大 7 ~ 8 メートルにもなった 116)。大西洋沿岸部は、堤防が 75 km にわたって崩れ、被害は、海岸線 120 km にも亘った。洪水により被害を 受けた地域の土地の多く(ヴォンデ県では 701 戸、シャラント・マリティム 県は 458 戸)は、環境法第 L.561-3 条の規定により、協議の上国に買い取られ、 今後一切住宅の建設を禁止される「ブラック・ゾーン」に指定された。買い取 り額は、専門家の土地と家屋の見積もり額に基づき交渉された。1戸当たりの 買い取り額の平均は 25 万ユーロ(約 3375 万円)で 117)、ヴォンデ県では 33 戸 113)«Xynthia : le tribunal administratif de Nantes rejette les recours des propriétaires expropriés », Libération、2014 年 12 月 22 日。 114)Loi n° 95-101 du 2 février 1995 relative au renforcement de la protection de l’ environnement. 115)Arrêté du 28 avril 2010 fixant le montant maximal des subventions accordées pour les acquisitions amiables de biens sinistrés et les mesures mentionnées au 2°du I de l’ article L. 561-3 du code de l’environnement 第 1 条。 116)ANZIANI (A.), Rapport d’information, Tome 1 : Rapport, n° 647, Session extraordinaire de 2009-2012, Sénat、2010 年 7 月 7 日、37 ページ。 117)« Xynthia : les «zones noires» présentées aux habitants » Le Figaro、2010 年 4 月 8 日。 253.
(26) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). が 50 万ユーロ以上、一番高い評価額は 83 万 1000 ユーロで、シャラント・マ リティム県では、11 戸が 100 万ユーロ以上と見積もられた。この 11 戸の買い 取りだけで、国の支出は 1665 万ユーロ(約 22 億 5000 万円)に上った 118)。 農地も、洪水によって大損害を被った。ヴォンデ県では、合計 160 戸の農家、 総面積 10718 ヘクタールが浸水し、シャラント・マリティム県では、800 戸の 農家の 2 万 2000~2 万 3000 ヘクタールが浸水した 119)。 農業については、農業危機管理国家基金(FNGRA)が、逸失した利益(収 穫及び掃除、塀や溝などの修復等にかかる費用等)をカバーし、FNGRA 特別 基金が、不動産の損害をカバーするために支払われた 120)。 Xynthia は、ここ 10 年の洪水被害の中で 3 番目に大きなものであったため、 被害者に保険会社から確実に保険金が支払われる必要があった。そのため国は、 保険法第 L.125-1 条の規定により、Xynthia が通り過ぎた 2 日後の 3 月 1 日に自 然災害状況の確認のアレテを出し、3 月 11 日と 3 月 30 日に追加のアレテを出 した 121)。保険法第 L.113-2 条第 3 項は、被保険者は、被害を確認した日から 15 日以内に手紙で保険会社に保険金の支払いを請求しなくてはならないと規定し ている。ただし、契約者間の合意で期間を延長できることとされている(第 4 項) 。ラガルド財務大臣(当時)は 3 月 2 日、被保険者が確実に保険金を受け 取れるよう、延長期間を通常の 10 日間から 30 日間にして、3 月 31 日まで申請 できると発表した 122)。最終的に、42 万 4013 人の被害者が保険金を申請し 123)、 118)Cour des Comptes, Les enseignements des inondations de 2010 sur le littoral atlantique (Xynthia) et dans le Var、2012 年 7 月、152-153 ページ。 119)同上、160 ページ。 120)同上。 121)同上、145 ページ。 122)« Xynthia : délais étendus pour se faire indemniser », Ouest-France、2010 年 3 月 2 日。 123)ほとんどが風による被害で、76,8% が家屋、7,1% が自動車の損傷で、洪水による被害に より保険金を申請したのは全体の 8% のみであった。 254.
(27) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. 洪水被害には平均 2 万 909 ユーロ、その他の被害には平均 1665 ユーロが支払 われた 124)。. 2.日本 1)土地収用 日本では、東日本大震災によって 535km2 が浸水被害に遭った。この区域内 で、約 22 万軒が損害を受け、そのうち約 12 万棟が全壊した 125)。フランスの 暴風雨 Xynthia の浸水被害に比べてはるかに広範囲で被害件数も桁違いに大 きいということもあるが、復興作業は遅々として進んでいない。その主要な理 由の一つに、被害のあった地区を「建築禁止」にして、新たに安全な土地に住 宅を再建することができないということが指摘されている 126)。日本では、 「所 有権は絶対」という意識が未だに強いため、地方自治体は住宅等の建築禁止措 置に踏み切れない。その中、陸前高田市は平成 23 年 12 月 21 日、市議会が「陸 前高田市震災復興計画」を 議決 し、被災市街地復興特別措置法第 5 条第 1 項 に基づいて、平成 24 年 1 月 30 日、 「被災地市街地復興推進地域」を決定した。 621,2 ヘクタールの地域内においては、建築行為が制限され、土地の形質の変 更または建築物の新築、改築もしくは増築には知事の許可が必要になる(被災 市街地復興特別措置法第 7 条) 。許可を受けて建築が可能となるには、以下が 条件である。 ① 2 階建て以下. 124)Cour des Comptes, Les enseignements des inondations de 2010 sur le littoral atlantique (Xynthia) et dans le Var、2012 年 7、月 146-147 ページ。 125)古川浩太郎、 「東日本大震災における津波被害と復興まちづくり ~ 集団移転を中心に」 、 『東日本大震災への政策対応と諸課題』 、調査資料、国立国会図書館調査及び立法考査室、 2012 年 3 月、59 ページ。 126)同上、62 ページ。 255.
(28) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). ②敷地面積 300 平方メートル未満 ③地階がない ④主要構造部が、木造、鉄骨造、コンクリートブロック等である ⑤ 容易に移転し、また除去することができる(被災市街地復興特別措置法第 7 条第 2 項第 2 号) 。 被災市街地復興特別措置法は、被災市街地復興推進地域における建築制限の 期間を、災害の発生日から 2 年以内に限定している(第 5 条) 。そのため、陸 前高田市も、被災市街地復興推進地域の指定期間は平成 25 年 3 月 10 日までと された 127)。しかし、その後も、土地区画整理事業、都市計画道路、都市計画 公園等の都市計画が決定されている区域については、都市計画法第 53 条に基 づいて、市長の許可が必要になる 128)。 復興整備事業を円滑に行うためには、土地の境界を明確にする必要があるが、 筆界特定の申請者は、土地所有者として登記されている人に限定されているた め、行方不明者や避難先が把握できない避難者の土地は境界の確定ができなく なっている。また、復興整備事業を推し進めるためには、測量や調査をしなけ ればならず、土地所有者及び占有者の同意が必要であるが、所有者の所在が不 明の場合は、測量や調査もできなくなっている。そのため、東日本大震災復興 特別区域法は、被災市町村が委任した者に測量または調査のために他人の土地 に立ち入ることを認めている(第 65-67 条) 。 また、土地収用は、国土交通大臣または都道府県知事が、起業者からの事業 認定申請を受理した日から 3 ヵ月以内に事業の認定をすることになっているが (土地収用法第 17 条第 3 項) 、東日本大震災復興特別区域法の一部を改正する 127) 「陸前高田市、復興推進地域を決定、建築制限へ」 、 『岩手日報』 、2013 年 1 月 31 日。 128) 「都市計画法、土地区画整理法 に よ る 建築制限 に つ い て」 、陸前高田市、http://www. city.rikuzentakata.iwate.jp/kategorie/fukkou/toshikei/kentikuseigen/kentikuseigen. html、2014 年 10 月 5 日。 256.
(29) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. 法律(平成 26 年法律第 32 号)により、被災市町村が復興整備計画を作成し公 表した時は、2 ヵ月に短縮された(東日本大震災復興特別区域法第 36 条の 2) 。 しかし、日本では、被災宅地の買い取りがなかなか進んでいない。その理由 として、①当該用地の境界画定が困難で、面積が不確定であること、②移転先 の用地の確保が困難であること、③移転先が既存市街地である場合、換地など の交渉に時間がかかること等が挙げられる 129)。 さらに、被災地の復興事業は復興交付金によって賄われるため、地方議会や 住民の声が反映されていないという批判もある 130)。 ところで、1923 年の関東大震災の復興事業では、特別都市計画法(大正 12 年 12 月 24 日法律第 53 号)が、土地区画整理事業を遂行するにあたり、換地 予定地を指定し、その土地の建造物の所有者又は占有者に 3 ヵ月前に予告し、 移転により被った損害を補償することで換地処分ができる(第 6 条)とし、土 地の総面積の一割が無償で減歩された 131) (第 8 条) 。土地所有者や占有者の中 にはこの措置に不満を持つ者もいたが、1930 年までに、東京と横浜の約 3500 ヘクタールが区画整理されている 132)。現在と事情が大分異なるにしろ、関東 大震災後の東京は、約 7 年間で復興を果たすことができたのには驚きである。 2)補償 肝心の買い取り価格も、津波被害により地価が下落しているため、低めに見. 129)多田忠義、 「宮城県における住宅再建を取り巻く現状について」 、分析レポート:国内 経済金融、 『金融市場』 、2013 年 2 月号、農林中金総合研究所、19 ページ。 130) 「参議院東日本大震災復興特別委員会会議議事録第 4 号」 、第 86 回国会、平成 26 年 3 月 26 日、25 ページ。 131)一割を超える部分については、補償が行われた(特別都市計画法第 8 条) 。 132)柳瀬範彦、 「災害復興と区画整理の制度・技術の発達」 、 『区画整理』 、公益社団法人街づ くり区画整理協会、2011 年 8 月、5 ページ。 257.
(30) 横浜法学第 23 巻第 3 号(2013 年 3 月). 積もられている。石巻市は、防災集団移転促進事業の対象となる地区の移転跡 地の買い取り価格を、震災前の実勢価格の 7 割と設定した 133)。 防災集団移転の対象になっている被災者にとって、評価額が低いと金銭的負 担がさらに増えることになる。被災者の負担軽減のため、住宅用地の購入や住 宅建築に際するローンの利子相当額あるいは引越し費用等へ助成金が支払われ てはいるが、移転予定地の地価が上昇し、建設資材も不足している状況では自 立再建が困難となっている。 公共事業における土地の買い取り価格は、事業主体である市町村が移転先の 土地に指定される災害危険地区の制限内容や、復興計画等における跡地利用計 画等を勘案して決定される 134)。 過去の判例では、土地収用における損失に対する補償金は、 「完全な補償」 であるべきとされている。なぜなら、 「土地収用法における損失の補償は、特 定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該 土地の所有者が被る特別な犠牲の回復を図ることを目的とするものであるか ら、完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収容者の財産価値を等しく ならしめるような補償をすべきであり、金銭をもって補償する場合には、被収 用者が近傍において被収用地と同等の代替地などを取得することを得るに足り る金額の補償を要す 135)」からである。 しかし、 日本国憲法第 29 条 3 項が補償する 「正当な補償」の意義には上記の 「完 全補償説」と「相当補償説」が対立している。相当補償説では、 「地価は必ずし. 133) 「石巻市、 震災前の 7 割、 半島部等移転跡買い取り価格」 、 『河北新報』 、2012 年 4 月 14 日。 134)第 186 回国会「東日本大震災復興特別委員会」第 4 号、平成 26 年 3 月 26 日、http:// kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/186/0152/18603260152004a.html、2014 年 10 月 1 日。 135)最高裁判所、昭和 48 年 10 月 18 日、第一小法廷、昭和 46(オ)第 146 号、民集 27 巻 9 号 1210 頁。 258.
(31) 都市計画法における日本とフランスの災害防止策の比較について. も常に当時の経済状態における収益に適合する価格と一致するとはいえず、ま して自由な市場取引において成立することを考えられる価格と一致することを 要するものではないので、対価基準が買収当時における自由な取引によって生 ずる他の物価と比べてこれに正確に適合しないからといって適正な保証でない ということはできない 136)」とされ、低価額による買い取りが正当化されている。 「事業の影響により生ずる収用地そのものの価値の変動は、起業者が負担す べきものであり、被収容者は、収用の前後を通じて被収容者の有する財産価値 を等しくさせるような補償を受けられるべき 137)」であるとしても、合理的に 算出された相当の額でよいとする相当補償説が主流になりつつある。 ところで、災害復興事業のための用地取得については、補償についての規 定が明文化されていないため、 「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭 和 37 年 6 月 29 日閣議決定) 」及び「国土交通省の公共用地の取得に伴う損失 基準(平成 13 年 1 月 6 日国土交通省訓令第 76 号) 」等を指針として補償額の 算定が行われる。平成 2 年の雲仙普賢岳噴火災害から平成 16 年の新潟県中 越地震土砂災害までの 4 つの自然災害では、滅失建物は補償の対象にはなら なかった。効用がない建物に対しては、取り壊し費用または残存部材の価値 のみの補償で、補償対象になったのは、効用がある建物のみであった。補償 対象になったとしても、被災による減価要因が考慮される。それというのも、 用地取得における損失補償はあくまでも財産権に対する補償を根拠としてい るため、適正妥当な損失補償を行うとされているからである 138)。個人被災者. 136)最高裁判所、昭和 28 年 12 月 23 日、大法廷、昭和 25 年(オ)第 98 号、農地買収 に 対 する不服申立事件、民集 7 巻 13 号 1523 頁、行集 4 巻 12 号 2921 頁。 137)最高裁判所、平成 14 年 6 月 11 日、第三小法廷、平成 10 年(行 ツ)第 158 号、土地収 用補償金請求事件、民集 56 巻 5 号 958 頁、判時 1792 号 47 頁、判タ 1098 号 104 頁。 138)国土交通省、 「被災地における一般損失補償に係る調査手法等用地取得事務に関する調 査業務報告書」 、平成 24 年 3 月、8 ページ。 259.
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