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学校設置・管理運営への教育関連企業の参入意識に関する調査研究

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(1)学校設置・管理運営への教育関連企業の参入意識に関する調査研究 大 野 裕 己 *,末 松 裕 基 **,山 下 晃 一 *** (平成22年 6 月18日受付,平成22年12月 3 日受理). A Survey of Educational Corporations for Privatization of Founding and Operating Schools OHNO Yasuki *, SUEMATSU Hiroki **, YAMASHITA Koichi *** The purpose of this paper is to clarify opinions and attitudes of educational private corporations toward founding and operating schools. In Japan we have been confronting issues on the diversification of educational service providers. From a survey conducted by us it can be concluded that many educational corporations aren't ready for a full length of operating schools. Our survey shows that they realize the significance of the public educational system operated by the central and local governments. But, at the same time, they also consider that the open-door policy in public educational system is an important business chance for them. To secure appropriate human resources is the top roadblock concerning them to enter the market of public education. Unprofitableness is another roadblock concerning the conditions on the part of public educational system. We have to consider a new design for the educational system including plural educational agencies. Key Words: Privatization of Schools, Diversification of Educational Providers, Educational Private Corporations, Market in the Public Education 1 はじめに ―本稿の課題―. いずれの議論においても問題と思われるのは,多様な. 近年,学校の設置・管理運営に対する民間参入を大幅. 可能性に開かれた構想をひとまず認めるにしても,そも. に認めるという,いわゆる「教育の供給主体の多元化」. そもわが国の企業が,現段階でどの程度,教育の供給主. が理論上・施策上の重要論点の一つになり 注1 ,様々な議. 体たり得るのか,どのような意識・意欲・準備であるか,. 論が展開されてきた。その帰趨は,公教育の新たな制度. その状況に応じた参入条件がいかに設定されるべきか,. 設計につながりうる点で極めて重要と言える。とくに,. といった具体的実際的な実情について,意外なほど十分. 一定の組織的安定性・財的基盤を持つ株式会社等の民間. に吟味されておらず,立論の前提が明瞭でないことであ. 企業(営利組織)の参入は大きな波紋を呼んだところで. る。本来ならば前提として基づくべき現実的根拠を欠い. ある。学校設置・運営等への企業の参入拡大をめぐり,. た まま,あたかも空中戦のように議論が展開されている. 本格的な吟味・検証が必要な時代になっている。. ようにも見受けられる。. こうした動向を最も包括的に論ずる一人と目されるの. 学校設置・運営に限らず民間企業の一般的教育参入に. が大桃敏行である 注 2。彼は,米国の民間企業による公立. 関して言えば,従来の先行研究でも,例えばPFI導入の. 学校経営を例にその問題点を慎重に論じつつ,公教育制. 観点から大規模な国内調査を行った高見茂のグループ. 度原理の相対化や,公教育概念自体の組み替えの必要性. が,既に一定の実証的成果を挙げている 注4 。だが,上記. にまで言及している。教育供給主体の多元化を単体のト. の問題認識に照らす限りでは,そもそも目的が異なるこ. ピックとして扱わず,公教育制度の新たな構想と関連づ. ともあって万全のものとは言えない。. けた広い視野から論じる点で示唆的である。. 第一に,同調査の対象企業は建設業・コンサルタント. これに対して,特に教育学の外の領域から, 「消費者」. 等と広く設定されたが,こと学校設置・運営への参入に. としての保護者・児童生徒の選択を前面に押し出し,民. ついて検討する場合には,教育内容への関与度が高い企. 間企業等の学校設置・運営への参入を積極推進しようと. 業に絞って調査することが重要である。第二に,同調査. する動きもある 注3 。確かに,公立学校への「不信」や「閉. では学校建築等の施設整備面や人件費等のコスト調整・. 塞感」を背景に,それら主張への一定の支持があること. 運営面等,いわば一般財政学的側面が焦点化されるが,. も見逃せない。とはいえ,公教育全体を長期的計画的に. 教育の供給という点では,教育活動の内実に立ち入った. 視野に入れた全体像が見えず,民間企業等の参入への過. 分析・検討が必要である。第三に,そもそも教育領域に. 度の期待に見える等の難点も残される。. おけるPFIの成立可否を問う研究であるため ,教育理念. * 兵庫教育大学(Hyogo University of Teacher Education) ** 上越教育大学(Joetsu University of Education) *** 神戸大学(Kobe University). ― 43 ―.

(2) や教育結果を含む公教育制度の新たな制度設計との関連. た。例えば最近でも、既存市場での企業間競争の激化や,. は十分に意識されていない。民間企業を,学校設置・. これに伴う企業統廃合・提携の増加傾向が確認されてい. 運営を担う教育供給主体として正面から捉えた上で,そ. る。この場合,統廃合・提携の態様として,従来型と呼. の可能性や課題を教育学の立場から析出するという作業. ばれる同業種間の統合に加え,学習塾と語学教材社など. は,未だ着手されていないと言える。. 異業種間提携の新たな動向も報告されていることは注目. 以上のような課題意識を念頭に置き,我々は,民間企. に値する 注8 。それは,新たな市場開拓と新基軸の事業創. 業の中でも,特に教育供給主体の有力候補になり得ると. 出への企業側の切迫感を端的に示しているからである。. 考えられる,教育関係事業に取り組む既存の諸企業(「教. 以上の状況に直面する教育関連企業に対して,新たな. 育関連企業」と表記)を対象に,学校設置・運営への参. 市場開拓の機会を与えたのが,1990年代後半以降の学校. 入に関する意識調査を実施した。本稿は,その結果に基. 教育(特に公立学校)の中核的機能の「外部化」 注9 の実. づき,彼らが学校設置・運営に対していかなる意識・態. 態・制度両面での進展といえる。この端緒は,1990年代. 度を示すか,教育供給主体の多元化の実現可否とその条. 半ばの旧文部省による「学校と地域の連携」推進政策に求. 件は何か,等の解明を目的とするものである。. めることができる 注10 。旧文部省は一連の施策で,児童. 以下,本稿では,主たる対象である教育関連企業をめ. 生徒の新たな学力の育成を目的に,学校の教育活動にお. ぐる近年の動向を論じた後,筆者らが実施した調査の概. ける「外部人材・外部資源」の積極的活用を推奨しており,. 要を述べる。次に,彼らがそもそも学校教育への参入,. このことが民間企業に学校教育への関与の途を開いた。. あるいは公教育自 体に関して,いかなる基本的意識を持. 当時の複数の報告書からは,諸企業が公立学校との連携. っているのかを確認した後,どのような領域への参入を. 授業等の活動を通じて,学校教育のノウハウを蓄積して. 具体的に考え,あるいは実際に参入しつつあるのかにつ. いる実相を読み取ることができる 注11。. いて吟味した上で,それらの参入に際して整備されるべ. 2000年代に入ると,「外部化」の制度議論は,政府系. き諸条件・諸課題について考察を行う。. 審議会での積極的な行政改革・規制緩和の検討を受けて,. これら検討・考察を通じて,教育供給主体の多元化の. 公立学校の諸機能を積極的に市場開放し,民間企業に直. 必要性の有無,あるいはそれを認めた場合に公教育の新. 接の供給主体としての参入を促す方向に加速した。. たな制度設計はいかに展望されうるのかといった課題に. まず,1999年にPFI事業推進法の立法化により民間資. 対して,ささやかながらも現実的根拠を伴った議論材料. 本を導入した学校整備,維持管理が導入され,民間企業. を提供し,その解明の一助となることを目指したい。. に対して公立学校における事業機会が大幅に付与され. 2 近年における教育関連企業の動向と調査の設計. 諸分野に広がり,民間企業が教育委員会等との間で,総. (1)学校教育市場の変動と教育関連企業の動向. 合的な学習(例えば外国語活動の講師派遣) ・学校評価・. 最初に,本研究で主たる対象とする教育関連企業が,. 学力実態調査・教員研修などの事業受託(及び収益確保). た。その後,民間委託化のバリエーションは学校教育の. 新たな教育の供給主体の一つとして台頭した経緯を,. を現実的に企図できるようになった。これら一部業務委. 背景にある学校教育市場の変動を含めて解題したい。. 託には,最近の文部科学省の全国学力・学習状況調査に. 「教育関連企業」とは,一般に,資本を集約し何らか. かかる委託事業のように大規模なものもあり,現在の学. の教育サービスを提供する企業組織を意味し. 注5. ,学習塾. 校市場の重要なポイントとなっている。. や資格スクール,通信教育,企業向け研修事業者などを. さらに,2002年の構造改革特別区域法成立の前後よ. 幅広く含むものと捉えられている。. り,経済財政諮問会議や規制改革推 進会議等の政府系審. 日本の教育関連企業は,従来,設置・運営の規制が厳. 議会は,学校教育のアウトソーシングの発展形態として,. しい学校教育分野の外側の市場で活動してきた。これら. 学校設置への民間企業参入や学校経営の包括的委託(公. の企業は,受験競争過熱期における学校教育の補充や,. 設民営)の制度化可能性を積極的に提言した。これらの. 国際化・資格社会化などに伴う社会人教育の必要性とい. 制度提案は現在でも政府レベルでの制度化争論の渦中に. った「需要」に対応し,家計の消費支出を取り込むこと. あるが 注12 ,先にみた既存市場への閉塞感を持つ民間企業. で業種として成長してきた。諸調査を縦覧する限りでは,. にとっては,現在の一部業務委託に比して,事業実施に. 1990年代中葉までは,教育に関する消費支出(市場規模) ,. よる収益確保としても,あるいは事業を通じた企業価値. 事業所数とも概ね拡大傾向が報告され,この業種と市場. の向上という意味でも潜在的効果性の高い,魅力ある選. の有望性が意識されていた 注6 。. 択肢であることは間違いないだろう。 . しかし,1990年代半ば以降,少子化進展や長期の景気 注7. 以上にみた市場環境変動下で,現在までに一定数の教. ,教育関. 育関連企業が学校関連の業務委託や構造改革特区制度に. 連企業は市場環境変化への対応が求められるようになっ. 基づく学校設置に参入している。学校市場の規模拡大は今. 低迷から家計教育費支出は減少傾向に転じ. ― 44 ―.

(3) 後も続くとの推論が広くなされるとともに注13 ,学校設置. 業の割合は58.1%であり,全般的とは言えないにしても,. に参入した株式会社グループには,学校設置会社連盟を. 教育関連企業の相当割合が既に公立学校への参入経験を. 組織化し,学校運営・設置への企業参入の一層の拡大に. もつことがわかった。. つながる条件整備を政策提言する動きもある。ただし, 教育関連企業が総体として,現在までに学校教育の新た な主体として実際にどれだけの制度経験を蓄積し市場参 入体力を備えているのか。さらにその上で自社存続と関 連づけて今後の学校市場への参入戦略とその価値意識を どのように構想しているのかの現実態は不透明な状態で あり,制度設計に向けてこれらの検証の必要性は大きい。 (2)教育関連企業の意識調査の視点と方法 以上の状況の概観に基づき,筆者らは教育関連企業を. ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。 ※本調査で従業員数の違いに基づく企業の回答傾向 の差をみる場合,サービス業における中小企業の 定義に沿って「20人以下」「21-100人」「100人以 上」の三つに企業規模を分類した。. 対象とする学校教育市場への参入に関する意識調査を実 施することとした。本調査では,民間企業の学校教育市 場への参入を,学校設置,または国公立学校の運営の受 託と限定して捉えることとした。そのうえで,多様な発 生経緯を持つ教育関連企業の現状と 市場戦略を広く把握 する意図から,以下の四つの視点で質問項目を構成し, 企業の学校教育市場の価値判断と参入意識を問うた 注14 。 視点 1:教育関連企業は,これまで公立学校の参入経験. 㸬. をどの程度持ち,参入主体としてのレディネスをどの程 度備えているか。 視点 2 :教育関連企業は,今後の学校設置や運営の在り. ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。 ※複数回答を可としている。事業内容を複数選択し た企業は,全体の28.1%であった。 ※「その他」としては,学校設置・学校経営,eラー ニング等の付記がみられた。. 方や制度がどのようであることを望んでいるか。 視点 3 :教育関連企業は,現在の学校教育の市場価値を どのように判断しているか。特に,学校設置を含めてど の事業領域が収益確保や参入が可能と意識しているか。 視点 4 :教育関連企業は,学校教育市場の参入への条件. その「関わり」の内実は,表 3 の通りである。まず,. や障壁についてどのように意識しているか。. 関わりを持った学校段階としては,高校が最も多く回答. 調査結果の考察においては,市場価値の判断に対する. されているが,小・中学校を挙げる企業も多く,現在の学. 教育関連企業のトータルな意識傾向を把握するととも. 校教育の市場開放の議論の争点となっている義務教育段. に,企業の規模や主たる事業分野とのクロス集計を適宜. 階に関しても,一定割合の企業が参入レディネスを高め. 組み込み,そうした判断や参入意識を規定する要因につ. ている様子がうかがえる。一方,実際に関与した項目に. いても分析を加えた。. ついては,「ゲスト講師派遣」「授業実施受託」「教材開. (3)調査対象の選定とサンプル企業の特徴. 発,カリキュラム開発」「教員研修」に回答が集中し,授. 調査対象となる教育関連企業は,矢野経済研究所『教. 業活動や研修のやや狭い範囲に限定される傾向が看取で. 注15. きる。学校の管理運営の視野での関与を経験した企業は. ,914社に郵送留置法による質問紙調査を実施した(調査. 少数に留まり,この点は今後の調査結果解釈においても. 育産業白書2006年版』で示された 9 分類を軸に選定し. 対象となる企業の多様性,企業における職位呼称の多様. 参考になる,教育関連企業のレディネス傾向と捉えられ. 性を勘案し,回答の依頼先は「教育関連部門担当者」と. る。. した)。調査時期は,2008年 8 月20日から 9 月10日とし, 9 月10日 時 点 で160通 の 回 答(回 収 率17.5%) が 得 ら れ. 3 教育関連企業の学校市場参入に関する基本認識. た。表 1 及び表 2 で,回答者(企業)の主な属性(従業. (1) 公立学校の設置・運営主体と民間参入の形態. 員数・主要な事業内容)を示している。. 本節では,前節に述べた調査の結果に基づき,教育関. なお,本調査では,教育関連企業のこれまでの力量・. 連企業がそもそも学校教育への参入自体をどのように捉. レディネスを率直に理解するために,従来の公立学校と. えているのか,という基本的意識を確認しておく。. の関わり(業務受託や人材派遣の経験)を問うた。結果,. 特に今回 の調査では,各企業にとって学校教育とはど. 公立学校に対して何らかの関わりがあったと回答した企. のような価値を持つ「市場」として映っているのか,そ. ― 45 ―.

(4) ※数値は度数を示す。. の参入希望領域はどこか等,各企業の有する個別意識・. く通り,同じく従来通りとはいえ,回答 2 の学校間競争. 個別戦略的側面と同時に,そもそもそれらがどのような. を求める声が回答 1 の現状維持の二倍となっていること. 学校教育制度の枠組を前提とするのか,公教育のあり方. は,大いに注目すべき点である。. 全般に関する全体構想的側面についても尋ねた。. 残りの回答 3(運営を民間企業に)は 2 割弱の回答が. すなわち,彼らが今後の公立学校の設置・運営主体の. あったのみであり,回答 4 の私立学校増を志向する意見. 制度形態についてどのようなものを望ましいと考えるか,. は15%程度であった。先の回答と併せて考えれば,教育. いかなる領域・程度での企業参入拡大が望ましいと考え. 関連企業が学校の設置・運営を直接に担う希望はさほど. るか等の質問を設けた。こうした設問によって,個別企. 高くない。また,私立学校への志向性は低く,公立学校. 業によって表明される各自の参入意識・意図を,単に額. 間 の競争が白熱する中でこそ,自らの関与の余地が高ま. 面通り受け取るだけでなく,学校制度の全体文脈に位置. るべきとの構想を持っていることが推測される。 . づけながら,より客観的・相対的に捉えることを目指し. なお,株式会社立学校への支持の低さを考慮に入れれ. ている。同時にそのことを通じて,冒頭に挙げたような. ば,公立学校教育独自の存在意義,もしくは民間企業と. 企業万能論等の妥当性を検証することをも目指している。. の関係について何らかの価値判断があることも考えられ. 本節では,調査結果のうち,これら全体構想的側面に. る。この点は自由記述の分析と併せて後述する。. 焦点を当てて,回答結果の概括を通じながら,教育関連. 表 5 は「公立学校の設置・運営への民間企業参入を拡. 企業が今後の学校教育制度・公立学校制度に関し てどの. 大していく場合,どのような在り方が望ましいか」を尋. ような見通しを持っているのか,そこから読み取るべき. ねた結果である。. 示唆は何か等について考察する。 表 4 は「今後の公立学校の設置・運営が誰に委ねられ ることが望ましいか」を尋ねた設問の回答状況である。. ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。. ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。. この結果から概して述べれば,「すべての学校を株式. 最も多かったのは「授業などの基幹業務への従来以上. 会社立に」という,いわば先鋭的な意見を選ぶ回答はき. の民間企業の参入」を望む回答 2 であり,全体の30%程. わめて少なく,回答 1と 2 を併せて,従来通りの設置・. 度と次点の回答のおよそ二倍である。次いで回答 3(「総. 運営を望む声が大きいことが分かる。他方,容易に気づ. 合的な学習や小学校英語教育など新しい事業に限定して. ― 46 ―.

(5) 関わる」) と回答 4(「日常的な基幹業務に関与せず放. ~ 4 割 が 民 活 導 入 に な れ ば よ い」「ITや ス イ ミ ン グ 等. 課後や土日補習など課外業務を受託する」)が各々 15%. についてのみ部分的に導入・外部委託するのが良い」と. で並んでいる。以下,他の回答は10%前後である。. いった部分導入論であり,「可能な限り規制緩和し,欧. これらを解釈すれば,教育関連企業が主に望むのは,. 米型に近づけるべき」「株式会社による学校設置・運営. 設置・運営に門戸を開かれることよりも,授業等の基幹. は時代の必然」等の全面参入論は半数に留まっていた。. 業務への参入の拡大である。それに次ぐ形で,周辺領域. (b)の消極的意見は,民営化や学校参入について基本的. としての新規事業(総合的な学習・小学校英語)や課外. には前向きな姿勢を見せながらも,現実的な諸条件によ. 業務からの参入を望む声もある。他方,教員研修・教材. って断念ないし消極的態度を示すものである。「株式会. 開発,学校経営相談等,学校現場からすれば比較的外部. 社立は学校法人と異なりすぎてビジネスチャンスとなり. 支援を必要とする側面での参入は,民間企業の立場から. にくい」「参入しても年度ごとの入札等で経営的見通し. は,さほど望ましいとされていないことが分かる。. が立てづらいだろう」等をはじめ,そもそも公立学校参. 先の回答結果も総合すれば,一部には公立学校の設置. 入に対する「報酬」「収益」が少なすぎることを挙げる. 運営の全面受託や株式会社化を求める声もあるが,大半. 意見が多く,中には「これまで受託した公立学校への参. の教育関連企業は,現有資源を活かすことができ,かつ. 入では報酬が極めて少額で…,一般的水準との説明を受. 世間のニーズも高い学力向上面を中心とする部分受託・. けたが…わが国における教育投資の少なさを強く実感し. アウトソーシングを望ましい形と考えており, 学校設. た」という記述もあった。. 置・運営には消極的であると仮説的に結論づけられる。. (3)教育関連企業の「公教育意識」. (2)ビジネスチャンスとしての学校設置・運営. これらに対して(c)の否定的意見では「公立学校が責務. 以上の調査結果に基づくならば,いわゆる教育の市場. として行うこと と民間企業が行うことには明瞭な違いが. 化を信奉する論者の熱気とは裏腹に,その担い手と目さ. ある」「利潤追求の民間企業による競争が教育を良くす. れる教育関連企業は冷めた姿勢を示しているとも言える。. るという無邪気な楽観論は危険」等,毅然とした指摘が. こうした消極的な構図自体を企業はどのように捉えてい. 見受けられる。その根拠としてほとんどの記述で言及さ. るのか。不満を持っているのか,それとも別の認識を持. れるのが,教育の公共性と義務教育の重要性である。. っているのであろうか。教育関連企業が持つ学校市場意. 例えば以下のような意見が挙げられる。「教育という. 識をさらに深く掘り下げて理解するために,この点につ. 公益には十分注意して民間参入すべき。…国・公がメイ. いて自由記述の内容を手がかりに考えてみたい。. ン」 「国づくりに直結する基礎学校は現状通りにすべき。. 今回の調査では,「この調査について,あるいは今後. ナショナルミニマムが肝要。自由化は格差顕在化,階層. の公立学校の設置・運営への民間企業参入について」の. 意識強化につながる」「憲法が保障する義務教育提供主. 意見を募る自由記述欄を設けた。記入があったのは回収. 体は公立学校であり,学校間格差は望ましくない。民間. 総数からすれば一部であり,必ずしも全体を表現するも. 事業者は学習者支援から補うのが健全」「義務教育の意. のとは言えない。けれども,そこから教育関連企業の姿. 義を差し置いて議論を進める風潮を危惧する」。また「都. 勢について,ある程度の読み取りは可能であろう。. 市部では民間企業参入も想像しやすいが,地方では簡単. まず自由記述意見の概要を確認しておく。意見が記入. に名乗りが上がるとは思えない」という地域間格差を指. されたのは,回収総数の約 3 分の 1 に相当する52件であ. 摘する声もある。. った。そこから調査への感想・謝辞等を除いて,学校設. これらのことからすれば,先に確認した学校設置 ・運. 置・運営の民営化ないし企業参入に直接関連する意見表. 営に対する教育関連企業の冷ややかさの背景には,単に. 明と判断できたのは37件である。. 収益の低さ等の自己利益優先や利潤本意の姿勢だけでは. 自由記述のため一つの意見の中にも様々な要素が入り. なく,わが国における公教育の理念,特に義務教育段階. 交じり,複合的な性格を持っている。それゆえに明確な. での公立学校の意義について,彼らの間に一定の共有理. 区別は難しいが,検討の糸口を得るために,各意見の基. 解があるものと考えられる。. 調を読み取って類型化を試みれば,(a)民営化を積極的に. 第一に教育関連企業にとって学校設置・運営自体には. 支持・推進せよとする積極的意見が14件,(b)民営化を肯. 魅力が乏しいようで,一部の論者が喧伝するほどの手応. 定的に捉えながらも現実的には難しいとする消極的意見. えは感じられない。第二に,のみならず,こうした消極. が 6 件,(c)民営化そのものに反対する否定的意見が17. 性の要因には,学校設置・運営の公的使命を重視し,国. 件と分類できる。(c)の否定的意見が比較的多かったこと. や自治体の責務として尊重する意識が潜在している可能. は,やや意外であった. 注16. 。. 性が見えてきた。一見,守旧的とも呼べる自由記述の結. 次に各類型に則して意見内容の特徴をいくつか検討す. 果は,これら二重の意味でやや予想外であった。. る。(a)の積極的意見のうち,ちょうど半数は「全体の 3. しかしながら,教育関連企業が現行の公立学校制度を. ― 47 ―.

(6) 全面是認しているわけではない。民営化に対する否定的. ジネスチャンスあり」と答えた企業の割合は,最高65.6%. 意見のうち 3 分の 1( 5 件)ほどは,民間参入には反対. ~最低20.0%となっており,業務間での判断の開きがみ. だが「ある程度民間企業のマネジメント手法を取り入る. られた。企業の肯定率が高い業務五つを順に並べると,. べき」「教員人事=採用・評価・昇進を変えないとサー. 「I. 教 員 研 修(65.6%)」「G. 人 材 派 遣(64.4%)」「A.. ビス向上はありえない」等,民間参入を試みる前に効果. 授業 など基幹業務のコンテンツ開発(64.4%)」「D.放課. 的な学校運営のできる仕組みづくりや人材育成を求める. 後・土日の補習業務(60.6%)」「B.体験学習のコンテン. 公立学校マネジメント批判論を展開していた。. ツ開発(57.5%)」となっており,教員・教育活動関連の業務. もとよりそれら主張に基づく単純な手法導入が直ちに. に多くビジネスチャンスが意識される傾向がうかがえ. 学校改善につながるわけではない。また,保護者や児童. る。学校経営関連業務については全般的に肯定率が低い。. 生徒のニーズに教育的に応えることは,必ずしも彼らの. 一方,それらの業務に実際に自社が参入できるかの判. 表面的要求を短絡的に満たすことと同じではない. 注17. 。. 断については,「参入可能性あり」と答えた企業の割合. だが,民営化の全面導入の際に論拠とされるのは,現. は最高55.6% ~最低8.1%であり,ビジネスチャンスの判断. 在の公立学校が,保護者や児童生徒の不安・要望に対す. と比して一割程度低い肯定率に留まった。つまり,学校. る繊細な配慮や,教育的ニーズへの感受性等を失いかけ. 教育市場に事業機会としての魅力を感じていても,実際. ている,という批判である。この点では反省されるべき. の参入行動には慎重な姿勢を見せる企業が一定程度ある. 部分も多い。また,公立なら無条件に教育の公共性が保. ことがわかる。この点さらに検討すると,ビジネスチャ. 障され,株式会社立では絶対無理というわけでもなかろ. ンスと比して肯定率の落差が大きいものの上位 5 つは,. う。設置形態にかかわらず教育の公共的な役割を十分に. 「A.授業など基幹業務のコンテンツ開発(落差16.9%)」. 果たせる教育者の実践と,それを支える制度設計が求め. 「C.学力不振児童生徒のための学習コンテンツの開発. られている。教育関連企業への調査は,公教育・公立学. (同15,6%)」「D. 放 課 後・ 土 日 の 補 習 業 務(同15.6%)」. 校の意義や使命を再検討・再確認する上で有益な示唆を. 「B. 体験学習のコンテンツ開発(同14.4%)」「M. 学力. 与えるものであったと言える。. 調査(同14.4%)」であり,教育活動関連業務に多い。先の. 4 教育関連企業の持つ公立学校市場への参入意識. ビジネスチャンスとしての有望性を感じる一方,参入へ. これまでの考察で,教育関連企業総体としての学校. のハードルも高く感じる傾向があることがうかがえる。. 教育の設置・運営を担う意識は,「供給主体の多元化」. ところで,企業の主な事業内容の属性と本問の結果を. 考察も勘案すると,企業は教育内容に直接関わる業務に. を積極的に求める言説が想定するほど高くない可能性. クロス集計した結果,以下ア) ~ウ)に示すような傾向が,. があることがわかった。そのような意識の内実に深く. 統計的に有意な水準で確認された。. 迫るために,引き続き企業側の具体的な参入可能領域. ア)「進学・補習教育」を主な事業部門にあげる企業群. や参入の価値意識を検討したい。. は,相対的に高い割合で「C.学力不振児のための. (1)学校教育の市場価値・参入可能性に関する意識. コンテンツ開発」「D.放課後・土日の補習」「F.. 教育関連企業は,学校市場の価値をどのように判断. 進路指導」にビジネスチャンス,「放課後・土日の補. し,また現実的に参入可能と意識しているのだろうか。. 習」 「進路指導」に参入可能性があると判断している。. この点本調査では,公立学校の運営維持に関する具体的. その一方「B.体験的学習等のコンテンツ開発」の 参入可能性は消極的に判断する傾向がみられる。. 業務の受託の可能性について,①企業一般が利潤獲得を 見込める事業機会としての「ビジネス チャンス」である. 「A. イ)「教材開発」を主な事業部門とする企業群は,. かどうか,また②自社が現実的にその事業に参入する「参. 授業等のコンテンツ開発」「学力不振児のためのコン. 入可能性」があるかどうか,二つの観点から問うた(問. テンツ開発」のビジネスチャンス・参入可能性をと. 2-1)。加えて別問で,学校設置の参加及び公立学校の包. もに積極的に判断し( 「体験的学習等のコンテンツ開. 括的運営受託についても,ビジネスチャンスと現実的な. 発」「M.学力調査」については参入可能性のみ積極. 参入可能性の有無の判断を同様の文言で尋ねている。そ. 的に判断),「G.人材派遣」のビジネスチャンスは. れらの結果を整理したものが表 6 である。. 消極的に判断する傾向がみられる。. ①公立学校に関する一部業務委託の市場価値の意識. ウ)「企業研修」を主な部門とする企業群では「H.教. まず,公立学校に関する一部業務委託の市場価値の意. 員養成」のビジネスチャンスを積極的に認め,一方. 識 を 検 討 し て み た い。 こ こ で は, 教 育 活 動 関 連 ・ 教. 「学力不振児のためのコンテンツ開発」「放課後・. 員関連・学校経営関連の三分野から選定した19業務に対し. 土日の補習」 及び学校経営関連業務(L,M,O). て,その業務委託が企業側にとって魅力ある事業機会とい えるか,その判断を二件法で端的に問うた。各業務で「ビ. のビジネスチャンス判断は積極的でない。 これらの傾向は,各企業がその主たる事業の別で参入. ― 48 ―.

(7) ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。. の選好に相違があり,またその選好はある程度限られた. 近くの企業が「ビジネスチャンスあり」の判断をしてお. 内容に集中するという,セグメント化の実態を予想させ. り,事業分野としての魅力が意識されていることがうか. るものであり,3 で検討した,教育関連企業の学校設置・. がえる。この場合,現在制度的に確立していない「公立. 運営を担う希望の少なさ(一部業務委託の希望の強さ). 学校の包括的運営受託」の肯定率が,特区制度で一定の. の意識傾向を側面的に裏付けるものといえる。以上の結. 制度実体のある「学校の設置参入」の肯定率を若干上回. 果は,教育関連企業をおしなべて同質の学校教育関連業. っており,公設民営の形態への企業側のメリット意識や. 務の受け皿と捉える想定は現実的でない(つまり,単に. 制度期待を一定程度反映したものと受け止められる。. 包括的運営委託など企業参入の門戸を広げても,実際の. その一方,学校の設置参入・公立学校の包括的運営受. 企業の参入行動の活性化には結びつかない可能性があ. 託への自社の現実的参入可能性になると,その肯定率は. る)ことを示すとともに,今後学校民営化を学校設置・. 二割近く落ち込み,既に検討した一部業務委託の場合と. 運営委託まで進展させる場合においても,各企業群で市. 比べても落差が大きい。このように企業側にビジネスチ. 場価値・参入意識が異なる傾向を捉えた制度枠組みの工. ャンスの意識と比して参入可能性 の判断を消極的にして. 夫が期待されることを示唆するものと受け止められよう。. いる要因が注目されるところであるが,従業員数・主な. ②学校設置参入や包括的運営受託に関する市場価値意識. 事業部門の回答結果とのクロス集計では,従業員数の少. それでは,学校設置への参入や公立学校の包括的運営. ない(20人以下)企業,企業研修を主な事業部門とする. 受託の,より進行した学校民営化の形態については,企. 企業が参入可能性(包括的運営受託)を相対的に低く判. 業側はどのように市場価値を判断して いるだろうか。. 断していることを除き,目立った傾向は確認されなかっ. 本調査では,学校設置への参入や公立学校の包括的運. た。こうした参入可能性の肯定度の低さは,先に指摘し. 営委託についても,一部業務委託の設問と同様の文言で,. た教育関連企業のセグメント化の影響も考え得るが,制. それぞれ「ビジネスチャンス」 「参入可能性」を問うた。. 度的条件による影響を含めその要因がより詳細に検討さ. その結果は前掲表 6 に示した通りであるが,全体の半数. れる必要があろう。. ― 49 ―.

(8) (2)学校市場参入による教育関連企業のメリット意識. メリットが生じると考えられますか。当てはまる数字に. 教育関連企業の学校教育市場の価値判断の背景を側面. ○をつけてください(複数回答可)」)。 表 8 では, 同. 的に理解するために,本調査では,企業側に仮に公立学. 様に肯定率が高い項目から降順に整理している。. 校に関わる業務への参入が何らかの形で実現した場合を. 企業の各項目への肯定率は,最高62.5%~最低37.5%. 想定してもらい,自社が参入先の学校に与えるメリット,. と学校へのメリットに関する設問と比してばらつきは小. 自社が参入を通じて受けるメリットとして何が当てはま. さく,教育関連企業が学校市場の参入によるメリットを一. るかについてそれぞれ尋ねた。. 定程度多角的に自覚できている様子がわかる。ただし,. まず,自社が参入先の学校に与えるメリットを問うた. 肯定率が特に高い項目は,「社会的責任・貢献(62.5%)」. 結果をみてみたい(設問「貴社による公立学校業務への. 「PR効果等(48.1)」と間接的な内容に集中しており,業. 参入が実現した場合,参入先の学校のメリットとして考えら. 務委託自体からの利益獲得等の直接的メリットは相対的. れる数字全てに○をつけてください(複数回答可)」)。. に低く見積もられている点には注意したい。すなわち,. 表 7 は,肯定率が高い項目から降順に並べたものである。. 現状では学校教育への市場参入があくまで企業の副次的. ここで示した項目は,この間の学校教育部門への民間. な効果の手段として強く意識されており,その傾向がこ れまでみてきた企業の市場判断や参入可能性の意識のば らつきに影響を与えている可能性が考え 得る。. ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。 ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。. 5 教育関連企業から見た供給主体多元化の条件整備 課題. 活力導入をめぐる制度議論で主なメリットとされている ものを整理したものであるが,企業の肯定率は最高60%. 以上,検討してきたように,企業の学校市場に対する. ~最低19.4%の幅で大きなばらつきがあることが看取. 意識が明らかとなった。供給主体多元化に向けた制度設. できる。詳細に見ると,特に割合の高い項目は 児童生徒. 計を念頭に置くと,どのような主体的,環境的条件が必. の基礎学力(60.0%)や,問題発見・解決力など新しい学力. 要なのかを検討する必要がある。本調査結果を踏まえて,. (48.8)など学力関連の項目が並び,それに教職員の力量. それら諸条件を分析・考察する。. 開発(43.1)が続く形となっている。その一方,近年の制. (1)学校市場参入の自社条件. 度議論で注目されていた経営手法の効率化(31.3)や必要. まず,公立学校設置・運営への企業参入の条件につい. 経費の削減(28.1)の肯定率は相対的に低く,学校に対し. て尋ねた(設問「貴社が学校の設置に参入あるいは公立. て与える影響についての企業側の自己認識は限定的とす. 学校の運営を受託する場合,貴社にとって必要な条件と. る傾向が浮かび上がっている。. 考えられる数字一つに○を付けてください」)。企業側の. なお,本問においても主な事業部門とのクロス集計を. 成熟度等の問題に関わる「自社条件」と,制度設計等に. 行った結果,進学・補習教育,教材開発を主な事業部門. 関わる「環境的条件」について,どちらかがより重視さ. とする企業群は「基礎学力」の肯定率が高いほか,企業. れているということはなく,認識の差異はそれほど見ら. 研修を主事業とする企業群は「経営手法の効率化」,技. れない。肯定的回答( 「とても当てはまる」と「どちらか. 能教育の企業群は「教員の力量開発」の肯定率が有意に. といえば当てはまる」の合計)を降順に並べると表 9 の. 高い傾向が検出され,やはり教育関連企業のセグメント. ようになる。. 化の様相がうかがえる。. 自社条件(表 9 の灰色の箇所)に限ってみると,「自. 次に,公立学校への参入が自社に与えるメリットを問. 社の人材確保と育成」が77.5% と,自社の人的資源や人. うた結果も検討したい(設問「貴社による公立学校に関. 材育成の条件が最も重視されていることが分かる。ま. わる業務への参入が実現した場合,貴社にはどのような. た, 「自社のカリキュラム開発のノウハウ確立」が75.0%と. ― 50 ―.

(9) なっており,教育内容に直接関わる事項に対する準備の. 育内容に直接関わる事項が重視されていたが,それに対. 必要性を強く認識していることがわかる。それは「自社. する行政的支援は,さほど必要ではないと考えられてい. の学校財務効率化のノウハウ確立」と教育内容に直接関. る。これは,そのようなノウハウについては,自治体か. わらない事項への評価が低いことからも示されている。. ら支援を受けるのではなく,まずは自社で確立し整備す. また「自社の企業カラーやビジョンとの調和」は,71.3%. る必要性があると企業に認識されていることがわかる。. と条件として重視されていることがわかり,PR効果など. 教育内容に関わる行政的条件よりも,参入の際に重視. 間接的な利益との関係性も考慮されている。. されているものは,参入前・参入時・参入後の条件整備 に関わるものである。参入前の条件整備については, 「開 設費用の一部補助や免税措置,既存の学校施設等の貸与 など」が71.2%と高くなっている。参入時に関わるもの としては,「自治体による事業者選定基準・手続きの整 備」が65.6%であり,選定基準・手続きの透明性の確保 が 求められている。 参入後に関しては,「自治体から事業者に対する十分 な裁量性の確保」が72.5%と,行政的条件としては最も 高い数値となっており,参入の判断に大きな影響を与え ることがわかる。また,「自治体による明瞭な事業評価 基準・手続きの開発」も68.1%と高く,参入後の事業評 価基準・手続きの透明性や公平性も重視されている。一 方で,「バウチャー制など個人補助を前提とする公教育費 の配分方式への変更」は47.5%と,公教育費の配分方式 は条件としてそれほど重視されていない。それよりも, 環境的条件として参入前・参入時・参入後に渡って整備 されるべき課題が多いと認識されている。 (3)学校市場参入の障害 ここでは更に,公立学校設置・運営への企業参入にお いて,実際に障害となる事項について尋ねた(設問「貴 社が学校の設置に参入,あるいは公立学校の運営を受託 する場合,障害となると考えられる数字全てに○を付け て く だ さ い(複 数 回 答 可)」)。 割 合 の 高 い も の か ら 降 順に並べたのが表10である。. ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。 *「とても当てはまる」 **「どちらかといえば当てはまる」. 一方で,それら条件とは違って,「自社の資本能力」 は53.7%とそれほど参入にとって大きな条件と考えられ ている訳ではない。このことは,財政的な体力よりも, 実質的な参入対象である教育に関わる事項についての準 ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。. 備状況など,他の自社条件がより重視されていることを 示している。「株主からの理解」については,他の条件 に比べると,46.7%と相対的に重視する度合いは低い。. 「コストに対する直接利益の少なさ」が63.8%となっ. それよりも自社の条件としては,教育に関わるノウハウの. ている。学校市場において必要なコストに対する利潤が. 確立や,自社のビジョンとの調和など が優先されている. 少ない点で,市場価値が低く見積もられ,大きな課題と. ことがわかる。. して扱われている。同様に,最も大きな障害として扱わ. (2) 学校市場参入の環境的条件. れているのが,「事業実施時における手続き・規制の煩. まず,注目に値するのが,「自社がノウハウを持たな. 雑さ」で63.8 %である。これは,先ほど参入における環. い業務等への自治体による支援」に対する肯定的回答が. 境的条件として「自治体から事業者に対する十分な裁量. 56.9%ということである。先ほど自社条件においては,教. 性の確保」が72.5%となっていたことからも,規制の煩. ― 51 ―.

(10) 雑さが問題視されることはわかる。一方で,この回答に. 比較による相対的な実績よりも,自社の顧客のそれぞれ. は,裁量に関わる問題とは別に,学校市場における,実. の自己実現やニーズをいかに満たすかにより比重がある. 際の事務手続き上または業務実施時における手続き上の. ようである。「経営の安定性」については,従来の公教. 煩雑さに対する懸念も含まれている。. 育ではかなりの割合で重視されてきたが,ここでは,半. 以上の事項に比べて,「直接利益に対するリスクの大. 数以下の41.9%となっている。「経営の安定性」をどの. きさ」は 35.0%のみが障害と捉えている。学校市場参入. ように考えているかは,ここでは推測の域を出ない。し. における,直接利益に対するリスクの大きさは,それほ. かし,それは,公共的な視点による安定化を,他の事項. ど問題とはなっていない。コストに対する直接利益の少. より優先するのではなく,顧客満足度によって左右され. なさが障害と認識されていた一方で,事業の失敗による. るものと捉えている可能性は読み取れる。. 企業ブランドの価値の損失や風評被害に対する懸念はそ. その他,「児童生徒の問題行動件数」や「児童生徒の. れほどないようである。. 収容人員」は,それぞれ17.5%,11.9%と評価基準として. 一方で,「他の社内事業との相乗効果の得難さ」,「他. はそれほど 重視されていない。問題行動件数が,学校の. 事業者との差異化の難しさ」は,それぞれ18.1%,13.8%. 質を決めるとの考えではなく,どちらかといえば,従来. と大きな障害とは捉えられていない。自社内の他の事業. の公立学校のオルタナティブとしてそれらの受け皿とな. との相乗効果や,他社との競争に対してはそれほど抵抗. るとの発想も強いのかもしれない。. や困難が無いことがわかる。 (4)学校市場参入の評価基準. 6 まとめと考察. 企業による公立学校の設置・運営が行われ た際に,そ. (1)まとめ. れらに対する行政等からの評価基準がどのようにあるべ. 以上,教育関連企業の学校設置・管理運営に対する意. きかについても尋ねてみた(設問「貴社が学校設置に参. 識・態度,教育供給主体の多元化の実現可否や条件を考. 入,あるいは公立学校の運営を受託する場合,行政等か. 察してきた。. らの評価を受ける際に望ましい基準と思える数字に○を. 企業の学校参入経験と成熟度について,限定的ではあ. 付けてください(複数回答可)」)。先ほど見たように,. るものの,一定の企業が参入へのレディネスを高めてお. 事業者選定基準や事業評価基準の整備が,参入条件とし. り,授業活動や教員研修を中心とした関わり方が見られ. て重要なものと捉えられていた。そのことを踏まえると,. た。一方で,学校の管理運営への関与を経験した企業は. その評価基準がどのように想定されているかを検討する. 少なかった。. 必要がある。割合の高いものから降順に並べたのが表11. 学校市場参入に関する基本認識に関して,公教育のあ. である。. り方について「全ての学校を株式会社立に」との先鋭的. 評価基準として最も重視されているのは,「保護者・. な意見はきわめて少なく,従来通りの設置・運営を望む 場合が多く,設置・運営を直接に担う希望もさほど高く なかった。多くの企業は,学力向上や授業の部分委託の 形態を望んでいた。また,自己利益優先や利潤本位の姿 勢ではない。 具体的な参入可能領域や参入の価値意識は,教員・教 育活動関連業務にビジネスチャンスが強く意識される一 方,学校経営関連業務は支持が低かった。また,教育活. ※数値はパーセント,括弧内は度数を示す。. 動関連業務は,ビジネスチャンスと参入可能性の差が大 きく,教育内容に直接関わる業務への参入に障壁を感じ. 児童生徒の満足度」で74.4%である。これは,保護者・. ていた。各企業の事業内容によって,市場価値判断の傾. 児童生徒を顧客と捉え,経営成果を顧客満足度で測ると. 向にばらつきがあり,企業特性と参入意識の組み合わせ. いう意味合いが強いといえる。その一方で,実際に児童. の多様さがうかがえた。学校設置や公立学校の包括的運. 生徒が身に付ける「学業成績」は,半数程度の55.6%のみ. 営受託等を半数近くの企業がビジネスチャンスと捉えて. が,評価基準としてふさわしいとしているにすぎない。. いる一方で,参入可能性は支持が三割程度と落ち込み,一. ここでも数値等で 示されるアウトプットとしての学業成. 部業務委託と比べても差が大きかった。. 績よりも,顧客満足度を重視していることがわかる。. 企業側が公立学校に与えるメリットは,学力関連,教. 「進学・進路実績」については,半数以下の41.9%と. 職員の力量開発が挙げられた。経営手法の効率化や必要. なっており,それほど重視されていない。先ほど顧客満. 経費の削減への支持は低かった。企業側のメリットは多. 足度を重視していたことを踏まえると,他者や他校との. 角的な認識が見られたものの,現状での学校教育への市. ― 52 ―.

(11) 場参入はあくまでも,間接的利益を中心に捉えられてお. 開発等に関しては特に行政的支援などは期待されていな. り,業務委託からの利益獲得は相対的に低く見積もられ. いことからも,公教育への企業側の貢献度を高めるため. ていた。. には,環境的条件として,参入上の規制改革等の条件整. 学校市場参入の条件や障壁は,自社条件として,人的. 備が鍵を握ると言える。. 資源や人材育成が最も重視されており,教育に関わる事. 以上,わが国の企業が, 現段階でどの程度,教育の供. 項への準備の必要性を強く認識していた。一方で,参入. 給主体たり得るのか,どのような意識・意欲・準備であ. に際しての資本能力は大きな条件となっていなかった。. るか,その状況に応じた参入条件がいかに設定されるべ. 環境的条件は,参入前・参入時・参入後の条件整備が最. きか,といった具体的な実態について,考察してきた。. も重視されていた。参入の障害として,コストに対する. 今後,多様なニーズに応じる供給主体の多元化がいかに. 直接利益の少なさが挙げられ,市場価値が低く見積もら. あり得るか。現実に根拠付けられているとは言い難い急. れていた。同時に裁量に関わる問題とは別に,実際の事. 進的言説に対して,従来の公立学校のあり方の検討も含. 務手続き上または業務実施時の手続きの煩雑さが障害と. めて,教育学の立場から研究蓄積によって今後も応じて. されていた。参入の評価基準として最も重視されていた. いく必要がある。今回の分析は,そうした議論の基礎資. ものは,保護者・児童生徒の満足度であった。. 料の一つとなると考える。. (2)考察. 今後,本研究から得られた知見を補強する研究作業を. 先行研究では,民間企業等による学校設置・運営参入. 引き続き蓄積していきたい。まず,近年企業と並ぶ教育. への過度の期待が見られた。しかし本調査の限りでは,. サービスの新たな供給主体に位置づけられるNPO等に対. 企業には学校間競争を求める声があるものの ,従来通り. しても,本研究の枠組みを援用した調査を行い,その学. の設置・運営を望む声が大きかった。また学校の設置・. 校参入の意識特性を比較考察的に解明することが考えら. 運営の包括的受託を望む声も多くなく,学力向上面を中. れる。また,教育関連企業研究としては,学校へのユニ. 心とする部分受託・アウトソーシングを重視しており,. ークな参入形態を実践する企業群の事例研究を通じた ,. 学校設置・運営には消極的であると仮説的に結論づけら. 企業の参入行動がもつ制度変革面のインパクトや,参入. れる。これは公立学校間の競争が白熱する中でこそ,自. 行動の文脈の考察など,本研究の仮説的知見を検証する. らの関与の余地が高まるべきとの構想を持っていると推. 作業があげられる。そうした検証の蓄積は,今後の学校. 測できる。. 設置・運営への企業参入も含む供給主体多元化のシナリ. 一方で,企業にとっての参入メリットも直接利益の獲. オの予測に大きく貢献すると思われる。. 得というよりも,社会的責任・貢献が重視されており, -注-. 常識的に予測されることとは違った結果も明らかになっ ている。また公教育のあり方についても,学校を株式会 1 . 社化するというよりも,従来通りの設置・運営を支持す. 例として,諸橋由佳「日本における公教育供給主体の. る割合が高かった。. 多様化の動きに関する一考察」『東京大学教育行政学研究. これらのこと及び企業が特に義務教育段階での公立. 室紀要』第23号,2004,荒井英治郎「中央政府における. 学校の意義について一定の共通理解を有していること. 教育政策決定構造の変容―『教育の供給主体の多元化』. を踏まえると,企業が期待する公教育制度の新たな設計. をめぐる政策過程に着目して―」『教育学研究(日本教育. としては,ニーズの高い学力向上や授業を中心とする部. 学会) 』第75巻第 1 号,2008,等。. 分委託を促進する 方法を重視し,学校設置・運営には消 極的であるということが分かる。今回は,PFI導入に関す. 2. 大桃敏行「教育のガバナンス改革と新たな統制システ. ム」 『日本教育行政学会年報』第30号,2004。. る先行研究とは違って,教育内容への関与度が高い教育. 3. 例えば,福井秀夫編『教育バウチャー 学校はどう選. 関連企業の調査を行ったが,以上の結果からは社会的責. ばれるか』明治図書,2007,あるいは「学校設置会社社. 任・貢献の観点からの授業等の基幹業務や総合的学習・. 長座談会-構造改革特区における株式会社学校の挑戦」. 小学校英語などの新規事業や課外業務に対する公立学校. 『法律文化(LEC東京)』第262号,2006,等。. への企業支援を誘発する制度のあり方も有効性を持ちう. 4. 平成13 ~ 15年度科学研究費補助金研究成果報告書. ると考えられる。. 『官民連携による教育行財政改革の新展開に関する国. また,企業は,学校経営業務に関してはそれほどビジ. 際比較研究』研究代表者:高見茂,2004。. ネスチャンスを感じておらず,教員・教育活動関連業務 を重視している一方で,参入可能性は低いと認識してい. 5. 「教育関連企業」については,現在も確定的な定義は. 存在していないが,日本標準産業分類の大分類「O 教育,. た。この場合は参入に関わる事務手続きや実際の業務実. 学習支援業」に大分類「H 情報通信業」の一部(学校教. 施上の手続きの煩雑さが課題となっていた。業務内容の. 材やネット教育)を加えた供給主体から,自治体・学校. ― 53 ―.

(12) 法人を除いたものとの捉え方が一般的と言える(関連し. 15 調査対象の抽出に際しては,注 5 で示した矢野経済研. て、日本では「教育産業」の語も広く用いられているが、. 究所報告書の教育関連企業の構成分野の分類を柱とし,. 多くの文献ではこの語を国公私立学校などの公教育機関. 同報告書の主要教育事業者及び団体名簿を中心に,『日. を意味内容に含めて用いる傾向があるため、本稿ではこ. 本の会社79000 2006年版』東洋経済新報社,2006, 『HRD. の語を用いていない)。. / HRM / eラーニング総合情報ガイド』日本能率協会マネジメ. 本論では,以上の基本的考え方を踏まえた上で,教育. ントセンター,2003を補完的に用いた。実際には1000社を. 関連企業の構成を9分類(学習塾・予備校,資格取得,. 抽出し質問紙を送付したが,うち85社分については会社. 英会話・語学教育,趣味・習い事,幼児教育,企業向け. 移転等が理由と推測される差し戻しがあり,1 社からは. 研修,eラーニング,各種教材・通信教育,知育玩具)と. 倒産による回答辞退の連絡を受けた。それを除いて算. する矢野経済研究所の捉え方を主に参考とした。『教育. 出した回収率は17.5%で,注 4 の高見らの調査(回収率. 産業白書2006年版』矢野経済研究所,2006。. 22.1%)など類似調査と比して低い回収率となった。. 例えば総務省(旧総務庁) 『家計調査年報』 『事業所・. なお,調査対象の抽出では,使用名簿の情報量の制約. 企業統計調査報告』では,1985・1995年間比較での勤労者. から,母集団の企業規模の属性は正確に把握できなかっ. 世帯の教育費支出は52%増,事業所数〔公共・民間全体〕. た。回答企業において中小企業の割合が高い点は,前掲. 6. は1986・1996年度間比較で13%増の拡大基調が報告され. の総務省,岐阜県産業経済研究センターなどの傾向把握. ている。『岐阜県における教育産業の発展方向に関する. と軌を一にするものの,上述の課題から本調査の考察に. 基礎調査』岐阜県産業経済研究センター,2000及び『千. は一定の限界がある。. 葉県内の教育産業動向調査』ちばぎん総合研究所,2002. 16 この間,雑誌等で流通してきた企業側見解では,株式. 会社立学校等に参入済の企業から示されるような積極的. も参照。 上記注 6 の総務省調査の場合,1995・2000年間比較での. な民営化推進説の方が際立って見え,企業の立場からの. 勤労者世帯の教育費支出は1.4%の減。特に補習教育費部. こうした消極説や反対説は見えにくかった。学校設置会. 分の落ち込みが激しいとされる。この点,注 5 の矢野経. 社の見解例として「学校設置会社社長座談会-構造改革. 7. 済研究所の教育関連企業の2005年度調査結果では,「企. 特区における株式会社学校の挑戦」前掲,参照。. 業向け研修」「eラーニング」市場の大幅な拡大,「英会. 17 . 話教室・語学教育」市場の微増以外は,学習塾をはじめ. されている。一例として小塩隆士『教育を経済学で考え. とする各市場の複数年次での縮小が報告され,既存市場. る』日本評論社,p.30,p.196,2003など。. 経済学の立場からでさえ,そうした傾向へ警鐘が鳴ら. の環境の厳しさが指摘されている。 千葉誠一『新教育産業2007年度版』産学社,2006。. ※本稿は,以下の科学研究費研究の成果の一部である。. 9 三上和夫『学区制度と学校選択』大月書店, p.209, 2002。. 「学校の民営化における『効率性』と『公正性』に関. 「外部化」とは,みずからの内部の活動を補充すべく外. する総合的研究」(代表:榊達雄)基盤研究(B)課題番号. 8. 部の社会に委ねることを指す。. 18330173, 平 成18-20年 度。 本 稿 の 筆 者 名 の 順 序 は50. 10 旧文部省の「学校と地域の連携」施策化の背景には,. 音順による。内容に関しては 3 名が対等に責任を持つ。. 当時の経済同友会報告書「学校から『合校』へ」(1995). 執筆は,1 ,3 及び英文要旨は山下,2 ,4 は大野,5 ,. を象徴とする,経済界からの学校スリム化と企業の教育. 6は末松が主に担当した。. 参加の意思表示の影響があることは見逃せない。井深雄 二『現代日本の教育改革』自治体研究社,2000など。 11 藤川大祐編『 「確かな学力」が育つ 企業とつくる授. 業』教育同人社,2004など。 12 篠原清昭「学校経営改革の思想と構造」同編『スクー. ルマネジメント』ミネルヴァ書房, pp.3-26,2006。 13 「特集“学校市場”5. 兆円の争奪戦 カネを生む教育. 現 場 」『 週 刊 ダ イ ヤ モ ン ド 』95 (3), ダ イ ヤ モ ン ド 社, pp.98-111,2007など。 14 . 調査の枠組みを設計するにあたり,以下の文献等を参. 考にした。野田由美子『民営化の戦略と手法―PFIからPPP へ』日本経済新聞社,2004,財団法人東北産業活性化セ ンター『公共サービスの民営化 民間活用による地域経 営新時代』日本地域社会研究所,2005。 ― 54 ―.

(13)

参照

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