239 第 6 回汎用人工知能国際会議(2013)参加報告
1.は じ め に
汎用人工知能(Artificial General Intelligence,以下 AGI)とは人間の知能全般の機能を含む一般的知能の人 工的な実現を指す.AGI 国際会議は 2008 年に第 1 回 が開催され,2013 年には 7 月 31 日から 8 月 3 日にか けて第 6 回 [AGI 13] が北京で開催された.参加人数は 90人程度で,日本からの参加者は本稿の著者である荒 川とジェプカの 2 名だった.併設で FormalMagic とい う形式化に関するワークショップと Probability Theory or Not ?というワークショップがあったが,会場も会議 形式も本会議と同じ一つの部屋のシングルトラックであ り,本稿では本会議と一体のものとして報告する.
今までの AGI 国際会議の傾向は [AGI Conference] で 見ることができるが,認知アーキテクチャのセッション は常に存在していることがわかる.AGI の将来または評 価に関する議論は第 5 回 [山川 12],6 回ではなくなって きている.知能の概念的な考察についての発表は継続し て見ることができるようだ.今回(第 6 回)は AGI シ ステムの全体や実装を紹介するような発表は少なく,概 念的な考察の割合が多かったかもしれない.個々の発表 の詳細は大会サイトに投稿論文および発表の映像がアッ プロードされているので,そちらを参照されたい.
2. 認知アーキテクチャ関連
知的システム全体をモデル化する認知アーキテクチャ について今回は次のような発表があった.まず,AGI の 主唱者である Goertzel 氏が現在進めている OpenCog プ ロジェクトについては,今回はアーキテクチャ全体の解 説はなく,機械学習モジュール DeSTIN(Deep Spatio Temporal Inference Network)を記号処理モジュール の PLN(Probabilistic Logic Networks)と結合する研究(さらにそれをロボット知覚に応用した研究),および プログラム学習モジュール MOSES(Meta-Optimizing Semantic Evolutionary Search)の紹介があった.
MGLAIR(Modal Grounded Layered Architecture with Integrated Reasoning)は古典的(記号的)な認知アー キテクチャだが,今回はそれに身体性を与えるという(つ まりロボット応用の)発表があった.このシステムは教示 によって学ぶが,いわゆる機械学習ではない.
CAM(The Consciousness And Memory model)[Shi
11]も古典的な認知アーキテクチャである.Dynamic Description Logic(DL にアクションを導入し,プロダク ションシステムのようなものの記述を可能にしたもの)と 事例推論(CBR)に基づくエピソード記憶をもつ.意識 のモデルとして有限オートマトンモデルも用いている.視 覚認識によるエピソード記憶をもつ. SIGMA(Σ)認知アーキテクチャは,グラフィカルモデ ルに基づく認知アーキテクチャであり,ワーキングメモリ, 長期記憶をもつ.制御構造は,反応層,熟考(deliberative) 層,反省(reflective)層(Soar ふうに impasse 駆動)といっ た階層をもつ.今回の発表では心の理論の実装を試み,ゲー ム理論の例を用いた検証を行っている.
LEPS(Learning from Experience and Problem Solving)は,強化学習(問題解決・計画∼大脳基底核), 教師なし因果学習(∼大脳皮質),教師あり学習(∼小脳) といった(脳にヒントを得た)分散処理モジュールをもつ. 動機(例えば飢え)による学習を行う.
AERA(An Explicitly Resource-Bounded Architecture) の知識は実行可能コードの形で記述される.発表では
Work-Play-Dreamフレームワーク(Work:行動に必要
なこと,Play:好奇心に基づく行動&実験,Dream:自 己コンパイルおよび将来の効率や目的生成のための再コー ド化)が紹介された.
A Cognitive Architecture based on Dual Process
Theoryは,Kahneman の直感と推論に関する理論に基づ
第 6 回汎用人工知能国際会議(2013)参加報告
Report on the 6th Artificial General Intelligence Conference(AGI 2013)
荒川 直哉
フリーランスNaoya Arakawa Freelance.
[email protected], https://sites.google.com/site/arkwn1/
ジェプカ ラファウ
北海道大学Rafal Rzepka Hokkaido University.
[email protected], http://arakilab.media.eng.hokudai.ac.jp/~kabura
Keywords:
artificial general intelligence, cognitive architectures, universal artificial intelligence, conference report. 「汎用人工知能(AGI)への招待」240 人 工 知 能 29 巻 3 号(2014 年 5 月) く認知アーキテクチャであり,学習によりネットワークを生 成する.この際,カップリングは一種の Hebbian 学習であり, デカップリングは忘却に相当する.概念生成は,同時に起き る素性またはコンセプトを AND でつないで新しいコンセプ トにする.使われないコンセプトは廃棄するが,適当なコン セプトを残すことが課題となる.Haskell で実装されている.
3.AGI 概 念 考 察
AGI会議では伝統的に知能一般の理論についての議論が見られる.Marcus Hutter 氏の理論(Universal
AI [Hutter 05]または AIXI)がその代表的なものであ り,今回も Hutter 氏は招待講演およびチュートリアル を行っている.AIXI 理論は,オッカムの剃刀をコルモ ゴロフ複雑性により定式化した Solomonoff の理論とマ ルコフ決定過程において最適政策が満たす再帰方程式で ある(強化学習理論で用いられる)Bellman 方程式に 基づく最適な計画と行動の理論である.しかし,この理 論には計算可能ではないという課題がある.複雑性に関 する発表としては,Claes Strannegård 氏らの発表と, Tarek Richard氏(最優秀発表賞を受賞)らによる一連 の発表があった.
4.基 調 講 演
最初の基調講演はStuart Shapiro氏による上記 MGLAIR の紹介であった.別の基調講演として Thomas Dietterich 氏 が CALO(Cognitive Assistant that Learns and Organizes) についての回顧を行った.CALO は DARPA の資金によ り主に SRI International が開発した知的デスクトップで あり,Siri, EMC Smart Desktop, Trap!t などはそのスピ ンオフであるという.知的な機能としては,言葉による教 示学習機能や推論機能,クラシファイアによる確率的な知 識ベース,マルコフ論理による学習機能などをもっていた.
今回数少ない神経ネットワーク系のモデル関連の発表と して,Dileep George 氏が HTM(Hierarchical Temporal Memory)についての基調講演を行った.HTM は氏が Jeff Hawkinsと共同で開発した大脳皮質をモデルとする 機械学習システムである.内容自体は 2009 年当時のもの [George 09]であるが,機能要件から皮質のモデルを作成 し,そこから逆に解剖学的構造に照らし合わせると合致し ていた,ということだった.講演で George 氏が記号的ア プローチを批判したため,Shapiro 氏と論争になった.
5.チュートリアル
最終日に Shapiro 氏による MGLAIR のチュートリア ルおよび Hutter 氏による AIXI のチュートリアルがあ り,AGI に対する全く異なる手法を比較することができ た.Shapiro 氏は,MGLAIR エージェントの作成方法 を詳説し,信念などに基づいて推論する知識層およびセ ンサ・アクチュエータ層の間にある知覚・モータ層がど のように知識層の記号をグラウンディングするか,層間 のコミュニケーションがどういうように行われるかなど について講義した.Hutter 氏のチュートリアルの目的 は AIXI の詳細な紹介だけでなく,Universal AI の数学 的な基礎についても活発な議論が行われた.また,どち らのチュートリアルにおいても AGI の問題点および将 来についての議論がなされた.6.ま と め
第 6 回汎用人工知能国際会議は初めてアジアで開催さ れ,23 か国からの参加者が集まった.IJCAI 2013 の直 前に開催されたため,著名な招待講演者も得ることがで きた.直前に開催されたサマースクール,さらにワーク ショップ,チュートリアルの内容および本会議での発表 が現地の若者も引き寄せ,AGI コミュニティを広げるこ とができた.日本での AGI コミュニティ誕生に興味を もった会議主宰者の Goertzel 氏は,同 8 月に行われた 東京でのミーティングにも参加した.◇ 参 考 文 献 ◇
[AGI 13] http://www.agi-conference.org/2013/ [AGI Conference] http://www.agi-conference.org[George 09] George, D. and Hawkins, J.: Towards a mathematical theory of cortical micro-circuits, PLoS Computational Biology, Vol. 5, No. 10(2009)
[Hutter 05] Hutter, M.: Universal Artificial Intelligence:
Sequential Decisions Based on Algorithmic Probability,
Springer(2005)
[Shi 11] Shi, Z. and Wang, X.: A mind model CAM in intelligence science, Int. J. Advanced Intelligence, Vol. 3, No. 1, pp.115-126 (2011)
[山川 12] 山川 宏:AGI-12 and AGI Impact: 汎用人工知能に関わる 二つの国際会議の報告,人工知能学会誌,Vol. 28, No. 3, pp. 468-471(2013) 2014年 3 月 3 日 受理 荒川 直哉(正会員) 大阪大学基礎工学部生物工学科,東京工業大学シス テム科学専攻,Temple University Ph. D.(哲学). 職歴:ATR 音声翻訳通信研究所,ジャストシステム など.現在フリー.専門分野:分析哲学,自然言語 処理.