― ―25 第51巻 第1号(2018年12月) p.25~37 目 次 1.研究背景と目的 11 プロスペクト理論の予測 12 時間に関する意思決定研究:反射効果 13 ブレーク・イーブン効果 14 時間に関する意思決定:ブレーク・イー ブン効果 2.研究Ⅰ 21 調査対象者 22 調査時期 23 調査方法 24 調査内容 25 結果 3.研究Ⅱ 31 調査対象者 32 調査時期 33 調査方法 34 調査内容 35 結果
時間の次元におけるブレーク・イーブン効果の検討
頭 師 暢 秀 抄録 時間に関する意思決定のなかで、遅れを取り戻す可能性がある場合を想定し、人々がどのような選 択行動をするのかを探索した。待ち時間を損失として操作した先行研究を追試することで、同一シナ リオの再現性を確認した。金銭的意思決定において、先行する損失を埋め合わせる機会を追求しよう とするブレーク・イーブン効果が観察されている。時間の次元でもブレーク・イーブン効果が発現す ると予測したが、仮説は支持されなかった。リスク回避行動が予定の確実性と計画性に拠る一方で、 リスク選好行動がパーソナリティに拠る可能性を示唆している。 キーワード プロスペクト理論、ブレーク・イーブン効果、待ち時間Studies on the Break Even Effect in Time Domain Zushi, Nobuhide
Abstract
This research explored time-related choice behaviors with a chance of break even. The prior experimental scenarios that manipulated waiting time as loss were replicated and consistent with the findings of the original studies. The result showed that subjects were risk-averse even when they had an opportunity to catch up with the original schedule. The findings indicated that the risk-averse behavior depended on certainty and plannability for scheduling, while the risk-seeking behavior on personality.
Key Words
prospect theory, break even effect, waiting time
近畿大学短期大学部准教授 2018年9月28日受理
1.研究背景と目的
Lovelock and Gummesson(2004)が指摘する ように、現代人は、人類の歴史上、最も時間を意 識する時代に生きているのかもしれない。多くの 人々は、それぞれの立場や役割を持ちながら日常 を過ごしている。社会との接点を持つ者は、時間 をやりくりしながら、その立場や役割を全うしよ うとしている。特に、経済先進国に暮らす人々は、 限られた時間のなかで様々な用件をこなしてゆか ねばならない。 小刻みの時間を強く意識せざるをえない産業は 枚挙にいとまがない。“配送時刻”を直視する流 通業や“到着時刻”に敏感な運輸業、“取引時刻” が大きく影響する金融業や証券業、“納期”に関 心が高い製造業などの産業に関わる人々は、時間 制約下の意思決定に直面する毎日を過ごしている ことだろう。このような業務に携わらずとも、家 事をはじめとするあらゆる課業に挟まれて暮らし ているのが現代人の姿である。企業不祥事のいく つかには、到着時刻や納期に対する意識が引き起 こした可能性も指摘されている。したがって、 現代社会において、時間に関する意思決定問題を 探求する重要性は増しているといえよう。 しかし、時間に関する意思決定研究は、あまり 盛んとはいえない。意思決定に影響する様々なリ スクのなかで、時間に関するリスクは、学術的な 研究が深耕しているとはいえない。このような社 会的・学術的背景を鑑みると、時間に関する意思 決定の心理的メカニズムの解明は、非常に重要な 課題である。それにもかかわらず、たとえば、プ ロスペクト理論(Kahneman and Tversky, 1979)
の反射効果を時間の次元で初めて Zushi, Curlo, and Thomas(2009)が実証したのは、プロスペ クト理論が発表されてから30年後のことである。 本稿は、金銭的意思決定研究で得られた知見を 時間の文脈に適用し、行動的意思決定研究のフ レームワークから、時間に関する人間の行動傾向 の一端を明らかにしようとするものである。連続 的意思決定問題として観察されているブレーク・ イーブン効果を時間の次元において検証し、人々 の時間に関する行動傾向と心理的会計のメカニズ ムを検討する。時間制約としての最終期限点(い わゆる締切時刻)が与える意思決定への影響を検 証することで、「ある期限に間に合う可能性」の 存在が、人間の意思決定にどのような影響を与え るのかを観察する。Zushi et al.(2009)で考慮さ れなかった「間に合う可能性」を導入し、時間の 次元で Leclerc, Schmitt, and Dube(1995)が実 証できなかったブレーク・イーブン効果を検討す る。すなわち、待つか待たないかという選択の背 景にある心理的メカニズムの一端を解明すること が本研究の目的である。 人々が直面する時限付きの課題に対して、間に 合う可能性のある選択肢は、よりリスク志向を増 幅させると予想される。これらの現象を実証する ことで、ブレーク・イーブン効果の時間の次元へ の応用可能性を検討する。 11 プロスペクト理論の予測 プロスペクト理論は、主に金銭的選択問題にお ける反応傾向を心理的に分析する文脈で用いられ てきた。人々は利得よりも損失に敏感で、損失を ― ―26 4.研究Ⅲ 41 調査対象者 42 調査時期 43 調査方法 44 調査内容 45 結果 5.考察 注 引用文献 付録
回避しようとする性向は、経済的合理性から外れ ている。このような一連の反応傾向は、人間の持 つ不合理性に一定の説明力を与えている。たとえ ば、先行研究の多くは、人々が利得領域での金銭 的選択に際してリスク回避行動をとるのに対し、 損失領域ではリスク選好行動をとる「反射効果」 を支持し、プロスペクト理論の頑強性を裏付けて いる。 12 時間に関する意思決定研究:反射効果 金銭に関する損得は、概ねプロスペクト理論の 予測を裏付けてきたにもかかわらず。時間に関す る選択問題における反応傾向は、一定のパターン を描くことなく、不安定な結果が続いている。先 行研究は、既存の意思決定モデルを応用するか、 既存の心理的理論に依存することで、時間に関す る意思決定行動を定式化しようとしている。これ らの結果は、時間に関する意思決定が、場面に よって多様に変化することを示している。 ここで取り上げる研究は、数量的に表現された 時間の節約を利得とし、待ち時間を損失として、 リスクを伴う選択行動を報告したものである。た とえば、Leclerc et al.(1995)は、プロスペクト 理論を金銭的選択から時間的選択へと拡大適応し、 その応用性を検証した。その結果、プロスペクト 理論が予測する通り、待ち時間を節約できる可能 性に対して、人々はリスク回避行動をとることを 発見した。一方で、さらに長時間待たされる可能 性を提示された場合にリスク回避行動をとったと いう結果は、プロスペクト理論の予測に反した。 すなわち、人々が利得領域のみならず損失領域に おいてもリスク回避行動をとることが明らかに なった。
Leclerc et al.(1995)に基づく Kumar, Kalwani, and Dada(1997)の顧客満足モデルは、待ち時間 の効用関数を観察している。その結果、やはり 人々は時間に関してリスク回避傾向があることを 示した。同様の傾向は、頭師(2011)でも報告さ れている。 リスクを伴う通勤時間に関しての態度関数を調 査した Weber and Milliman(1997)は、プロス ペクト理論の予測を否定する結果を報告している。 すなわち、通勤時間が長くなる場面においてリス ク回避傾向を観察し、通勤時間を節約できる場面 においてリスク追及傾向を観察している。Keller (1985)もまた、待ち行列における時間を節約で きる可能性について、リスク追求傾向があること を報告している。すなわち、時間を節約できる機 会において、Weber and Milliman(1997)と Keller
(1985)は、プロスペクト理論の予測に反する結 果を報告し、プロスペクト理論の応用性に疑問を 投げかける結果を示している。 プロスペクト理論が、時間の文脈でも有効に機 能する可能性を初めて実証したのは、Zushi et al. (2009)である。時間制約が意思決定に影響し、 時間の次元においても反射効果が認められること を明らかにした。つまり、意思決定の結果がその 後の予定に影響するという条件の下で、プロスペ クト理論の予測通りの反応傾向を観察している。 これにより、時間制約下での選択問題に対してプ ロスペクト理論を適用できることが示され、理論 の応用可能性が拡大した。 13 ブレーク・イーブン効果 プロスペクト理論そのものは、ある一時点での 単一選択問題を扱うものであったが、以降の研究 は、連続的選択問題へとその視野を拡大している。 つまり、人々が意思決定を迫られた時点で、その 前段に発生した現象が意思決定に影響する。金銭 的選択問題に関する研究は、連続的意思決定状況 において先行する利得や損失が、その後の消費者 の選択に影響を与えることを明らかにしている。 たとえば、Thaler and Johnson(1990)は、先行 する損失がリスク選好行動を導くことを発見し、 「ブレイク・イーブン効果」と呼び、この効果は、
金銭的選択問題においては概して支持されている
(Keasey and Moon, 1996; Garling and Romanus, 1997; Gertner, 1993; Romanus, Karlsson, and
Garling, 1997)。 14 時間に関する意思決定:ブレーク・イー ブン効果 人々は、複数の用件を一定期間内に実施しよう とする。同時進行で複数の用件を片付けようとす るマルチタスクが可能な場合もあれば、それが適 わぬ場合もあるだろう。それは、単一の選択問題 ではなく、連続的意思決定である。Leclerc et al. (1995)は、時間的選択行動におけるブレイク・イー ブン効果を検証したが、支持されなかった。すな わち、時間的選択問題においては、金銭的選択問 題とは異なる結果が観察された。しかし、Leclerc et al.(1995)が実験で用いたシナリオには、爾後 の予定が示されていなかったため、言うなれば、 前段・後段の二段階意思決定を検証したことにな る。反射効果を実証した Zushi et al.(2009)は、 損失の場面において、爾後の予定の締切時刻より も遅れる結果の選択肢に対してさえリスク選好行 動を示すことを明らかにしている。このことから、 Leclerc et al.(2009)のシナリオに爾後の予定を 明示し、しかも爾後の予定に間に合う可能性を提 示することで、ブレーク・イーブン効果を誘発す ると考えることができる。 2.研 究 Ⅰ 研究Ⅰでは、先行研究と同様にシナリオ実験法 用いた。提示されるシナリオは、Leclerc et al.(1995) のシナリオを日本語訳して使用した。被験者は、 いずれにせよ当初の予定時刻よりも遅延する2つ の選択肢のなかから1つを選んだ。Thaler and Johnson(1990)による二段階金銭的選択問題で の発見や Leclerc et al.(1995)の結果のとおり、 遅延時間が長くなる選択肢を避けようとすること が予測される。 21 調査対象者 調査対象者は、関西地方の私立大学に通う大学 生62名であった。ビジネス系の講義を受講してい る学生で、担当教員の依頼に応じて回答した。調 査開始時に、文書と口頭にて依頼し、合意を得た。 謝礼は提示していない。性別の内訳は、男性49名、 女性12名、無回答1名だった。平均年齢は18.2歳だっ た。 22 調査時期 調査は、2018年5月24日に実施した。 23 調査方法 調査は、個別時記入式の質問紙調査で実施され た。実施は、授業中に依頼に応じてその場で回答 する集合調査形式で行われた。回答はすべて無記 名で行われた。実施時間は、依頼・説明と回答を 含めて10分程度であった。 24 調査内容 本調査の質問紙は、付録1に示すとおりである。 依頼文と問い合わせ先を示した表紙では、調査目 的と回答方法の概要を説明した。次に、【問1】 として、飛行機を利用した旅行場面を描いたシナ リオを示し、2 つの選択肢から1つを選ぶよう指 示した。続いて【問2】として、被験者のシナリ オに対する理解度を把握するための質問を設けた。 そして、【問3】において、【問1】の選択理由を 自由回答で求めた。【最後の質問】として、被験 者の特性を尋ねた。フェイスシートとして、年齢 と性別の回答を求めた。なお、本稿の分析には 【問1】に加えて【問2】の一部と【問3】を分 析に用いている。 25 結果 シナリオの内容が理解できなかったと回答した 6名と、回答に不備のあった1名を分析から除外 し、55名を分析対象とした。したがって、有効回 ― ―28
答率は、88.7%であった。 リスク回避の選択をした者は37名(67%)、リ スク志向の選択をした者は18名(33%)で、先行 研究の結果 を裏付けた(z=2.73, ρ<.01)。 自由回答を検討したところ、リスク回避を選択 した37名中33名(89%)が予定の確実性に言及し ていた。また、リスク選好を選択した18名中7名 (39%)が、被験者本人の過去の経験に基づく強 運を主張していた。 3.研 究 Ⅱ 研究Ⅱもまた研究Ⅰと同様に、Leclerc et al. (1995)のシナリオを使用した。被験者は、当初 の予定時刻よりも確実に遅延する選択肢と、不確 実ながらも当初の予定時刻に到着する可能性と大 幅に遅延する可能性を含む選択肢から1つを選ん だ。Thaler and Johnson(1990)が示した金銭的 選択問題におけるブレーク・イーブン効果は、時 間的選択問題に適用した Leclerc et al.(1995)で 否定されており、当初の予定時刻よりも確実に遅 延する選択肢を選ぶ傾向が強いことが予測される。 31 調査対象者 調査対象者は、関西地方の私立大学に通う大学 生61名だった。ビジネス系の講義を受講している 学生で、担当教員の依頼に応じて回答したが、研 究Ⅰの被験者群ではない。研究Ⅰ同様に、調査開 始時に、文書と口頭にて依頼し、合意を得たうえ で参加し、謝礼は提示していない。性別の内訳は、 男性46名、女性9名、無回答5名。回答不備1名 だった。年齢に関する質問に回答した56名の平均 年齢は18.2歳だった。 32 調査時期 調査は、2018年5月24日に実施した。 33 調査方法 調査は、個別時記入式の質問紙調査で実施され た。実施は、授業中に依頼に応じてその場で回答 する集合調査形式で行われた。回答はすべて無記 名で行われた。実施時間は、依頼・説明と回答を 含めて10分程度であった。 34 調査内容 本調査の質問紙は、付録1にある内容のうち、 【問1】の選択肢を次のように変更している。 A:確実に乗れる席に乗り、確実に4時間後に出 発する飛行機に乗る。(つまり、最初の予定 よりも4時間遅れてサンフランシスコに到着 する。) B:50%の確率で今すぐ搭乗できる(つまり、最 初の予定よりも1時間遅れてサンフランシス コに到着する)か、50%の確率で7時間後に 到着する(最初の予定よりも7時間遅れて到 着する)かのリストに名前を加える。 上述の点を除いて、他の部分は研究Ⅰと同内容 を用いた。 35 結果 シナリオの内容が理解できなかったと回答した 3名と、回答に不備のあった5名を分析から除外 し、53名を分析対象とした。したがって、有効回 答率は、86.9%であった。 リスク回避の選択をした者は40名(75%)、リ スク選好の選択をした者は13名(25%)で、先行 研究の結果 を裏付けた(z=4.30, ρ<.001)。 自由回答は、リスク回避を選択した者のうち15 名(38%)が予定の確実性を指摘し、14名(35%) が計画性に言及していた。リスク志向の選択者の うち5名(38%)は、本人のくじ運にかけたいと の意向を示した。 4.研 究 Ⅲ 研究Ⅲでは、爾後の予定の存在の有無が与える 意思決定への影響を検証した。Leclerc et al.(1995) のシナリオには、爾後の予定ならびにそれに間に ― ―29
合う可能性が明示されていなかった。そこで、研 究Ⅲのシナリオには、爾後の予定を加筆したシナ リオを使用した。 Zushi et al.(2009)は、反射効果の測定を主た る目的としたため、時間制約条件の厳密さを欠い ている。すなわち、「間に合う時刻」を考慮しな かった。損失領域のシナリオの選択肢は、「間に 合う時刻」よりも遅れることになっていた。それ にもかかわらず、プロスペクト理論の予測の通り、 損失領域においてリスク選好を実証したことから、 「間に合う」可能性は、さらにリスク選好を加速 させると予想できる。時間制約下での爾後の予定 の存在とそれに間に合う可能性は、人々に時間を 金と同様に勘定させ、金銭的選択問題でプロスペ クト理論やブレーク・イーブン効果をはじめとす る隣接領域の研究が予測してきたような行動につ ながると予想できる。 41 調査対象者 調査対象者は、関西地方の私立大学に通う短期 大学生57名だった。ビジネス系の講義を受講して いる学生で、担当教員の依頼に応じて回答した。 研究Ⅰ、研究Ⅱと同様に、調査開始時に、文書と 口頭にて依頼し、合意を得たうえで参加し、謝礼 は提示していない。性別の内訳は、男性19名、女 性37名、無回答1名だった。年齢に関する質問に 回答した56名の平均年齢は18.6歳だった。 42 調査時期 調査は、2018年6月13日と6月14日に実施 した。 43 調査方法 調査は、個別時記入式の質問紙調査で実施され た。実施は、授業中に依頼に応じてその場で回答 する集合調査形式で行われた。回答はすべて無記 名で行われた。実施時間は、依頼・説明と回答を 含めて10分程度であった。 44 調査内容 本調査の質問紙は、付録1にある内容のうち、 シナリオの2行目に「会議に間に合うように選ん だあなたの飛行機は、」という文面を加筆した。 そして、【問1】の選択肢を次のように変更して いる。 A:確実に乗れる席に乗り、確実に3時間後に出 発する飛行機に乗る。(つまり、最初の予定 よりも3時間遅れてサンフランシスコに到着 する。) B:50%の確率で今すぐ搭乗できる(つまり、最 初の予定と同じ時刻にサンフランシスコに到 着する)か、50%の確率で6時間後に到着す る(最初の予定よりも6時間遅れて到着する) かのリストに名前を加える。 上述の点を除いて、他の部分は研究Ⅰならびに 研究Ⅱと同内容を用いた。 45 結果 シナリオの内容が理解できなかったと回答した 4名と、回答に不備のあった1名を分析から除外 し、52名を分析対象とした。したがって、有効回 答率は、91.2%であった。 リスク回避の選択をした者は32名(62%)、リ スク志向の選択をした者は20名(38%)で、ブ レーク・イーブン効果は観察されなかった( z= 1.71, ρ<.05)。 自由回答は、リスク回避を選択した者の22名 (69%)が予定の確実性を理由に挙げたが、計画 性に言及したのは5名(16%)だった。リスク選 好の16名(80%)は、間に合う可能性を考慮に入 れていた。 5.考 察 時間の次元においてブレーク・イーブン効果が 発現することを予測し、学生を対象にシナリオ実 験調査を実施した。 研究Ⅰでは、待ち時間が長期化するリスクを避 ― ―30
けた理由として、予定の確実性が多く挙げられた。 また、リスクを追求した理由として、被験者の持 つ強運が示された。 ブレーク・イーブン効果を検証しようとした研 究Ⅱは、先行研究と同様に、その効果を観察しな かった。リスク回避の理由として予定の確実性と 計画性が指摘された。これに対して、リスク追求 は被験者自身のギャンブル志向性が示された。研 究Ⅰと研究Ⅱを通じて、被験者の予定に関する確 実性への願望が示されている一方で、不確実な選 択をとる行動が、過去の個人的経験やパーソナリ ティに基づく可能性が示された。 研究Ⅲは、爾後の予定の有無がブレーク・イー ブン効果を誘発するか否かを検証した。その結果、 ブレーク・イーブン効果は発現しなかった。研究 Ⅰと研究Ⅱと同様に、リスク回避の主な理由は予 定の確実性が示されたが、リスク追求を選択した 者の80%は、爾後の予定に間に合う可能性を考慮 に入れて判断したとしている。 これらの結果により、Leclerc et al.(1995)の 観察を実証しただけではく、爾後の予定があった 場合でさえも、遅れを取り戻そうとはしない性向 が示唆された。しかし、ブレーク・イーブン効果 を実証しようとした研究Ⅲの自由回答は、爾後の 予定に間に合う可能性を考慮した者がリスク志向 の選択をしたことを示唆しており、時間制約下で の爾後の予定の存在とそれに間に合う可能性がリ スク志向を高めることが推察される。 本稿の問題点のひとつに、使用したシナリオの 内容を指摘することができる。大部分の被験者に はなじみの薄い国際線旅客機での旅行が題材であ り、シナリオの内容が十分に理解されなかった可 能性を指摘できる。また、待ち時間の操作が最大 7時間に達する ことも回答傾向に影響した可能 性がある。 時間は、長期と短期に大別できる(Alexander, 1981)。その長さは主観に拠るところが大きいに せよ、たとえば、長期にわたる意思決定の際には、 短期の選択とは異なる選択行動が観察されている ( Jones and Johnson, 1973)。時間の定義や個人 の主観的知覚が、回答を左右しているのかもしれ ない。 Zushi et al.(2009)は比較的短期間のうちに発 生する選択問題を扱っている。現実的で一般的に 受け入れられる状況を模索し、時間に関する意思 決定を的確に描写したシナリオを用い、ブレーク・ イーブン効果を再検証する必要性が認められる。 その際、パーソナリティといった個人差について も考慮しつつ、時間に関する意思決定問題を開発 する必要があるだろう。 (注) たとえば、『事業用自動車事故調査報告書』(公益財団 法人交通事故総合分析センター、2016)は、北海道に おける乗合バスの追突事故の原因のひとつとしてダイ ヤ維持の心理の可能性を指摘している。 心理学研究の分野において長い歴史を持つシナリオ実 験法には( Weiner, 1980)、次のような利点を挙げる ことができる。たとえば、金銭的・時間的コストが関 係する課題を効率的に扱うことができる(Bitner, 1990)。 また、倫理的な問題や失敗した場面を実際に体験させ ることで発生する問題を避けることもできる(Smith, Bolton, and Wagner, 1999)。さらに、実験者はシナ リオを通して被験者に接し、実際のリスクに関与して いないことから、実験者の信頼性が課題ともならない (Loewenstein and Thaler, 1989)。
Leclerc et al.(1995)は、リスク回避が86%と報告し ている。 Leclerc et al.(1995)は、リスク回避が72%と報告し ている。 プロスペクト理論の反射効果は、不確実な選択肢の期 待値が確実な選択肢の期待値よりも絶対値として大き かったとしても、選好逆転現象が発現する効果を指し ている。 研究Ⅱの自由回答欄には、7 時間は長すぎるとの指摘 が3件あった。 引用文献 公益財団法人交通事故総合分析センター『事業用自動車事 故調査報告書』(2016) 頭師暢秀「待ち時間と反射効果:日本人学生を対象とした 追試研究」流通科学大学論集―人間・社会・自然編, 23(2),(2011),5566.
Alexander, Larry D.“Effective Time Management
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― ―33 ◆
付録
「時間に関する意思決定」調査①(2
0
1
8年5月)
当アンケートは、匿名で扱われ、短時間で全てお答えいただけます。当アンケートには、あなたが意 思決定をする状況が描かれたシナリオが1つ入っています。当アンケートの目的は、時間に関して、 人々がどのような意思決定をするのかどうかを測定することです。 それぞれのシナリオを注意深くお読みいただき、選択肢AまたはBをお選び下さい。そして、自由回 答欄は、できるだけ詳しくお答え下さい。当アンケートにおいて、正答や誤答はありません。あなたの ご意見をそのままお示し下さい。 もし、当アンケートに関してコメント、質問、要望がございましたら、[email protected] まで ご連絡下さい。 このたびは、当アンケートにご協力いただき、まことにありがとうございます。― ―34 ◆
シナリオ
あなたは、サンフランシスコに向かっています。あなたの飛行機は、シカゴで途中降機(ストップ オーバー)し2時間滞在することになっています。あなたの飛行機は3時間前に出発することになって いましたが、機体に問題があるようです。あなたは、たった今、あなたの乗るはずだった便が欠航とな り、乗客全員が別の便に乗り換えなければならないと告げられました。他の航空会社にサンフランシス コ直行便があり、旅行全体にかかる時間は約3時間短くなります。その航空会社は、乗客をひとりずつ 順番に案内しています。あなたは、その順番の最後のひとりです。案内係はあなたに2つの選択肢があ ると説明しています。 ひとつは、3 時間後に出発する席がひとつだけ残っています。もしあなたがこの選択肢を選んだ場合、 あなたは3時間後に必ず出発できます。(つまり、あなたの最初の予定よりも3時間後にサンフランシ スコに到着します。) もうひとつは、25席余っている現在搭乗中の飛行機の選択肢で、これまでのところ、49人がこの席を 求めています。案内係は、待っている人のリストを見せて、あなたがリストにあなたの名前を連ねるか どうか尋ねています。案内係の説明によれば、リストから当てずっぽうに乗客を選び出すので、あなた が名前を連ねると50%の確率で席を確保できます。(つまり、あなたの最初の予定と同じ時刻にサンフ ランシスコに到着します。)しかし、もしあなたが選ばれなかった場合、あなたは今日の最終便に乗る ことになり、それは6時間後の出発です。(つまり、あなたの最初の予定の6時間後にサンフランシス コに到着します。) あなたは、今すぐに決心し、2 つの選択肢のどちらかを選ばなければなりませんと言われました。さ らに、あなたがこの賭けに失敗した場合、あなたは3時間後に出発する飛行機に乗ることはできないと 言われました。あなたはどうしますか。 A:確実に乗れる席に乗り、確実に3時間後に出発する飛行機に乗る。(つまり、最初の予定よりも3 時間遅れてサンフランシスコに到着する。) B:50%の確率で今すぐ搭乗できる(つまり、最初の予定と同じ時刻にサンフランシスコに到着する) か、50%の確率で6時間後に到着する(最初の予定よりも6時間遅れて到着する)かのリストに名前を 加える。 【問1】あなたの選んだ選択肢を○で囲んでください。 A B― ―35 ◆ 【問2】ここからの質問には、あなたの気持ちを最も的確に表す番号を○で囲んでください。 このシナリオは、遅れそうになっていることについてのものだ。 1 --- 2 --- 3 --- 4 --- 5 --- 6 --- 7 そうは思わない そう思う このシナリオは、あなたが間に合う状況を描いている。 1 --- 2 --- 3 --- 4 --- 5 --- 6 --- 7 そうは思わない そう思う このシナリオに描かれているスケジュールは、厳密だ。 1 --- 2 --- 3 --- 4 --- 5 --- 6 --- 7 そうは思わない そう思う このシナリオを想像した時、間に合うためには、私はラッキーでなければならない。 1 --- 2 --- 3 --- 4 --- 5 --- 6 --- 7 そうは思わない そう思う AとBを選ぶ時、私は計画を前もって立てることを考えた。 1 --- 2 --- 3 --- 4 --- 5 --- 6 --- 7 そうは思わない そう思う このシナリオでは、帰宅するまでにどれだけの時間がかかるのかをできるだけ正確に予測したかった。 1 --- 2 --- 3 --- 4 --- 5 --- 6 --- 7 そうは思わない そう思う 私が選んだ選択肢は、自分の時間を計画するために最も良いものだ。 1 --- 2 --- 3 --- 4 --- 5 --- 6 --- 7 そうは思わない そう思う 私が選んだ選択肢は、本当に最高のものだ。 1 --- 2 --- 3 --- 4 --- 5 --- 6 --- 7 そうは思わない そう思う このシナリオの内容は、良く理解できたと思う。 1 --- 2 --- 3 --- 4 --- 5 --- 6 --- 7 そうは思わない そう思う
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◆
【問3】あなたは【問1】で、AまたはBの選択肢を選びました。その選択肢を選んだ理由を詳しく述 べて下さい。
― ―37 ◆