*本研究は,平成18年度科学研究費補助金(奨励研究,課題番号18902006)の交付を受けている。
第2章
必修教科等の研究
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国語科
学び合い高め合う国語学習の展開
─「論理的」に読む力を伸ばすための説明的文章教材の開発 ─* 舟橋 秀晃 本論の要旨 本研究は 形態としては本校の目指す 学び合い高め合う 学習 内容としては 論, 「 」 , 「 理的」に読む学習のあり方を,教材開発と実践を通して探ろうとしたものである。 生徒が学び合い高め合うよう,自作教材を複数用意して班で読み合わせ,自他の読 , 。 みの違いを比較させつつ どれほど確からしいかを問い返しながら読むよう指導した その結果 「論理的な読み」の観点のいくつかを生かしながら新聞記事や投書を読む, ことができるようになった。 キーワード 教材開発 論理的な読み 説明的文章 1.はじめに (1)授業形態面の問題~本校国語科の方針~ 豊かな学力を育むには,学習の成果を確かめる 力や,より発展的な学習につながる課題発見の力が 不可欠である。本校国語科では,教材や資料から得 られる情報をじっくりと読み味わい,自分の考えと 照らし合わせて読んだり書いたりすることや,身近 な話題や資料をもとに新たに自分の考えを深めるこ , 。 とが その豊かな学力の基礎を担うととらえている ,「 」 その基礎を育む工夫として 学び合い高め合う 。 」 授業の構築に取り組んできた 「学び合い高め合う とは,「自分の学習の成果が意識できる ことや」 ,「学 んだことや考えを級友と比較,確認し合うことがで きる」ことだと考える(図1)。 ▲図1 研究主題と本校国語科の方針 これまでの研究から 「自分の予想した後半部分, 」 「 」 の展開 や 同じテーマについての他の筆者の文章 など,自分の今の読みと比べられる材料を生徒が手 にしているとき,生徒が自分の読みの深まりをより 自覚しやすくなることが確認できた。その一方,自 分の予想が教材から遊離していたり,同テーマの文 章を読み重ねて話し合う生徒らの発言がかみ合って いなかったりして,学習が浅いものにとどまってい たことが課題として挙げられた(研究紀要第48集第 2章「1 国語科 ,2005 。そこで 「思考を深める発」 ) , 問や学習活動」に着目して課題を解明したい。 (2)授業内容面の問題~開発すべき教材~ 自分の意見を発表しようとするとき,筋道立った 話ができない生徒は少なくない。また話し合いで, 論点がかみ合っていないのに何となく人間関係や雰 囲気で議論をすすめてしまう生徒は多い。そこで, 筋道を立てて話し書くことで妥当な議論のできる力 を身につけさせたい。これは,近年叫ばれる「国語 力」向上や,OECDのPISA調査で位置づけられた 広義の「読解力」(資料を読んで自分の考えを表現 できる力)育成の主張とも重なる。 「筋道を立てて話し書く表現者の育成」には,ま ずその基盤として,文章を「論理的」に読む学習が 必要である。もちろん「論理」には論証の「筋道」 だけでなく思考の形式や法則という意味も含まれる し,表現には理解とは別の要素が絡むので,理解指1 例えば,市毛勝雄(2003)編『論理的思考力を育てるドリル』(明治図書)など。 * 2 ・ ・ハヤカワらが日本で紹介したアルフレッド・コージブスキーらの「一般意味論」や,それも含めて日本では井上尚美氏らが * S I 1970年代から提案している「言語論理教育」論の多くの論考で,ことばとものの同一視,事実と推論の混同,ことばのもたらす過 度の一般化など,推論を開始するまでの過程で起こりがちな思考の誤りを種々指摘している。 導で身につけた力が即座に表現の力に転化できるわ けではないが,まず文章の論理が吟味できるように なれば,一過的な話の論理の即時的吟味や,自分の 思考の整理,他者への論理的表現といった活動の基 盤にはなるはずである。 では 「論理的」に読む学習では具体的に何を取, りあげればよいか。すでに,形式論理学の発想から 小中学生向けに三段論法の練習教材が市販されてい るが ,これは有効性に欠ける。なぜなら,日常生*1 活において人間の行う推論では演繹法だけでなく帰 人間が思考過程で犯す誤 納法も多用しているうえ, りは,推論の過程に加え,ある事象や資料から情報 も を集めて推論を始めるまでの過程でも多発する*2 「論理的に」読む学習で のだからである。要するに は,形式論理学の練習よりもむしろ,推論の「隠れ た前提」にも留意しつつ 「果たしてその事象や資, 料を取り上げてそのように述べることはどれほど確 からしいと言えるか」と問い返しつつ読む練習が有 である。 効 この練習を円滑に進めるのに,教科書以外の教材 の開発が待たれる。教科書教材の説明的文章は,事 前に編集会議や検定を経て不確かな点は多く改善さ れていて,生徒が批判的に問い返しつつ読むには困 難が伴う。その点,日常生活にありふれた広告や投 書など意見表明型の文章を教科書教材の前に加えて 「どれほど確からしいと言えるか」と問い返しつつ 読ませるようにすれば,生徒が取り組みやすくなる し,生活の場に近い点でやりがいもあり,さらには 教科書教材への橋渡しにもなろう。 2.実践への構想 本研究では,前節に述べた授業の形態と内容につ , , いての両問題を踏まえて 望ましい授業のあり方を 実践を通して追究していきたい。 , 実践化にあたって留意したいのは 批判的に読ませることの副作用であ る。批判が目的化すれば,教材の否 定を目指す「揚げ足取り」になるう え,学習自体が陰険な雰囲気に覆わ れ 「学び合い高め合う」機運を削い, でしまう恐れさえある。それを避け るため 「これでいいかな?ここはい, いかな?」という「論理的」なチェ ックを文章に加え,疑わしき部分は 保留し,納得できる部分は受け入れ るような読みを目指すことを,生徒 によく理解させる必要がある。 そのチェックの過程では,小グル , ープによる話し合いの場を多く取り なるべく生徒間の「学び合い 「高め」 合い」を促す学習活動・形態や発問 を工夫することで,生徒の気づきや 発見を誘いたい。そして批判すべき 問題点は批判させ,評価すべき工夫 点は評価させることで,とかく抽象 的で難しくなりがちな「論理的」読 みの学習をよりわかりやすいものに していきたい。 さらに,わかりやすい学習にする ために,単元の展開にあたっては, まず新聞記事や新聞投書を読ませて ▲表1 学習指導案の一部(「『論理的』に読もう……」第1時)
1 なお,12の類型の絞り込みや,その文例の創作にあたっては,E.B.ゼックミスタ・J.E.ジョンソン(1996),宮元博章ほ * か訳『クリティカル シンキング《入門篇》』(北大路書房 ,M.ニール ブラウン・スチュアート キーリー(2004),森平慶司) 訳『質問力を鍛えるクリティカル (PHP研究所 ,小野田博一(2002)『論理思考力を鍛える本 問題演習 (日本実業出版』 ) 』 社)を参考にした。 感想を求めたのち,この ワークシートの一部を示 して文章を読むときの観 点を教え,再度記事や投 書を読ませ,さらに同じ 問題点をはらむ教科書教 材を重ねて読ませるよう にしたい。そうすること で,身につけた「論理的 な読み」の方法が整理さ れ一般化されて,他の文 章でも適用できるであろ う。 3.実践「 論理的』に読『 もう・考えよう・話し合 おう~これでいいかな? ここはいいかな?~」の 概要 (1)時期・対象 平成18年(2006年)6月下 旬から7月中旬,本校3 年A組~C組計121名 (2)教材 ・ これでいいかな?ここ「 はいいかな?」シート A*1 ・B ・投書「このダイヤで乗り 換えは酷」(朝日新聞2006 年5月26日朝刊) ・新聞記事「なんでもラン キング 温水便座,北陸 尻上がり」(朝日新聞2006 年5月28日「日曜be 」版) ・中村桂子「生き物とし て生きる」(光村3年) (3)単元目標 文章を [関心・意欲・態度] 鵜呑みにしないで,論 理的なチェックを加えな がら読もうとする姿勢を もつことができる。 「 」 ( ) ▲図2 投書 このダイヤで乗り換えは酷 とシートA 生徒用は下段が空欄 ▲図3 新聞記事「なんでもランキング 温水……」とシートB (生徒用は下段が空欄) ※ シートC は略
感情的な言葉を避けているか,充分な証 [読むこと] 拠を積み上げているか,論が適切に組み立られて いるかを検討しながら読むことができる。 生き物としての人間の生き方 [話すこと・聞くこと] について,論理的な構成や展開を考えながら,互 いの考えを話したり聞いたりすることができる。 〔5時間〕 (4)学習指導計画 短い文章の問題点を班で探し検討する。/ 第1次 ある新聞記事を七つの観点から班で検討する (1。 時間) 前時の学習を生かして数点の投書記事を読 第2次 み,問題点と工夫点を探す。(1時間) 中村桂子「生き物として生きる」(光村)を 第3次 読んで,問題点と工夫点を探す。/「生き物とし て生きる」のテーマについて,自分の感じる問題 意識を話し合う。/他の図書や資料に当たって比 較検討する。(3時間) 〔第1時の場合〕 (5)本時の目標 意見表明型の文章を読むときに,どこに [読むこと] (感情的な言葉を避けているか,充分 目を向けて読むとよいか をとらえることができる。 な証拠を積み上げているか) 〔第1時の場合〕 (6)学習指導案 (表1を参照) 4.授業の様子から 第1時では,展開で,予想よりも苦戦する生徒の 姿が多く見られた。 まず新聞記事の問題点を書き込むよう指示したが (表1の学習活動3a),読み終わってしばらく経 っても鉛筆の動かない生徒がほとんどであった。そ こで事前に用意しておいたシートAを配布し,全員 ( )。 で何が問題点かを先に考えさせた 学習活動3b これについては生徒が「テスト勉強はずるくないの に」とか「そんなことを言う資格がないということ はないだろう」と口々につぶやいていたので,フラ ッシュカードで「感情をあおる間違い 「個人攻撃」 の間違い」を提示した。その後新聞記事を再読させ ると,半数の生徒が「冷たい 「酷」を含む箇所に」 。 , ( ) 線を引き始めた 他の生徒には ヒント 表1参照 を出しながら回ると,大方の生徒が当該箇所に線を 引けた。次にシートBに進んだが,例文が五つもあ るので 「気づいたものだけでよいから下欄を記入, しなさい」と指示されても一つ目の欄に記入するの がせいいっぱいの生徒が多数であった。参観者(第 1時は公開授業)からは,これら一連の様子につい ,「 , 」 て 例文が短すぎで 場面や状況が見えてこない 「例文の数が多すぎる 「記事などの資料も多く,」 読み込む時間がない」などの批評をいただいた。 第2時は,不十分なまま終わった学習活動4bを やり直すとともに,シートCについても下欄の記入 を行わせた。問題点の指摘は些末なものに及び,問 題の核心からは拡散する傾向にあったものの,時間 , , 余裕があったことと 要領が分かってきたことから ▲図4 シート改良案の一部(Aと,B のB1・B2部分)
自分たちなりに読みの問題点を考えて発言する傾向 が第1時よりは見られた。 第3時と第4時は「生き物として生きる」の論旨 をとらえることに時間を充て,第5時でシートA~ Cを手がかりにしてこの文章の問題点を検討させ た。B4「少なすぎる例から考えを導く間違い」や B5「違う点もあるのに類似例とする間違い」の面 からの指摘は生徒からいくつか挙げられたが,シー トCのC5「反論の証拠探しを人に押しつける間違 い」についての指摘はほぼなかった。このC5の例 文は「遺伝子操作はどのような重要な害をもたらす か,予想がつかない。したがって,遺伝子操作はす ぐにやめなければいけない。人類の危機が訪れてか らでは遅いのだ」という,この文章に見られる問題 点そのものを載せたものである。そこで,C5と文 章との関連性に気づいた生徒に発言を求め,何が問 題かを各自説明させた上で 「遺伝子操作」のかわ, りに「飛行機墜落」と単語を入れ替えて再度例文C 5を読み上げ,他の生徒の反応を見た。すると,う なずく生徒が過半数に至ったので 「遺伝子操作に, は,私個人としても不安はたくさんあるけれど,そ れとは別に,論の展開のしかたとして,このような 問題点はありそうですね」と補説した。そしてこの 文章に対する自分なりの考えをノートに作文させ て,数点指名して紹介させて学習を終えた。 5.研究の成果と課題 (1)成果 最初,新聞記事や投書だけ渡されても何をどう読 んだらよいか分からなかった生徒たちが,試作した ワークシートで論理的に読むための観点をいくつか 学ぶことで,自分たちで問題点に線を引き,互いに 班の中で交流し始めることができた。自分の読みの 変化や級友の読みとの違いを随時比べて意識してい く中で,読めなかったものが論理的に読めるように なったことは大きな成果である。 一方,ワークシートについては改良すべき点が多 く見つかったので,改良版を作成した。今後の指導 に活用できる基礎的な教材が自作できたことも大き 図 な成果である。なお,改良点は次の4点である( 参照 。 4・5 ) ① 1時間あたりの分量が多すぎるので,例文ごと にシートを分けた。 ② 想定された場面が想起しづらく,理解しにくい ので,例文を長めに書き直した。 ③ 例が一つずつでは,その文例のもつ形式的な誤 りの側面が見えにくいので,複数の例文を載せる ようにした。また教科書教材の内容について全く 反対の主張を探してシート化し,相互の論理展開 にいっそう生徒の目が向くようにした。 ④ 「学習のまとめ」欄は,結局生徒が板書を視写 する箇所としてしか活用できず記入が難しいので 削除し,代わりに例文の周囲に余白をとるように した。 (2)課題 一つの授業で扱う教材の分量が多すぎたため,規 定の時間に合わせるため,授業の進行を急いだりフ ラッシュカードを先に提示したりするなど「誘導」 的な授業に陥った分 「学び合い高め合う」姿は生, 。 , 徒全てに広がらなかった そのような雰囲気の中で 生徒の読みが深まらないまま観点の指導を急いだた め,この点に関しては,読みを深める国語の授業と 言うより,本校特設の「情報生活科」の内容に近い 授業になってしまったことを否めない。生徒が自力 で読みを深められるよう,段階的に時間を掛けて指 導しなければならない。 また,この実践では「論理的に正しいか」の点だ けで読むことを求めていたので,生徒に誤解が一部 残っているおそれがある。もちろん言葉やその奥に ある感情を読むことも大事であるが,それらをまず は一旦保留して読むことを求めた。両者のバランス を考えたカリキュラムの工夫が今後必要であろう。 ▲図5 シート改良案の一部(発展編)