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<実践報告>タブレット端末を使用した術前オリエンテーションの導入に関する看護師の認識 ~術前看護の均質化と看護業務の効率化を目指して~ 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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タブレット端末を使用した術前オリエンテーションの

導入に関する看護師の認識

~術前看護の均質化と看護業務の効率化を目指して~

Effects of Orientation Programs on Pre-Surgery Patients Using Tablet Terminals

Developed for Systematization of Nursing Practice

三枝 享

1)

,井川 由貴

2)

SAIGUSA Toru, IGAWA Yuki

要 旨

研究目的はタブレット端末を使用した術前オリエンテーション(以降,新オリ)導入による,術前看護の均 質化と看護業務の効率化,患者の回復援助に対する看護師の認識を明らかにすることである。調査対象は外 科病棟勤務の看護師 21 名。新オリ導入前後の,術前指導の所要時間,看護業務の状況,患者の離床状況や不 安などを看護師がどう認識したか自作質問紙にて調査した。調査内容の各項目に対し記述統計を行い,導入 前後の平均値の比較には Wilcoxon 順位和検定を行った。新オリ導入後は,所要時間が平均 19.8 分から 9.9 分 に短縮し,指導内容も均質化された。また,患者が術後の身体状況をイメージしやすくなり,疼痛管理や身 体損傷リスクに配慮した行動を取れるようになったと看護師が認識した。新オリは術前看護の均質化と看護 業務の効率化を図り,患者の術後のイメージ化や,離床と身体損傷リスクに配慮した行動の促進,疼痛管理 について貢献できる可能性が示唆された。 キーワード 術前オリエンテーション,タブレット端末,看護業務

Key words Orientation Program for Pre-Surgery, Tablet Terminal, Nursing Practice

受理日:2018 年 1 月 19 日

1) 山梨大学大学院医工農学総合教育部修士課程看護学専攻: University of Yamanashi Faculty of Engineering / Integrated Graduate School of Medicine, Engineering, and Agricultural Sciences

2) 山梨県立大学看護学部:Yamanashi Prefectural University Faculty of Nursing

Ⅰ.はじめに

手術を受ける患者には,術後の早期離床や疼痛管理に 向けて術前オリエンテーション(以降,術前オリ)が重要 である。しかし当院外科病棟では,患者が術後疼痛によ る体動の制限があることや離床の必要性を十分に理解で きていないために,早期離床が行えない患者がいるとい う現状があった。2005 年に欧州静脈経腸栄養学会によ り発表された「術後回復強化 :Enhanced recovery after surgery(ERAS)プロトコール」が注目され,早期術後離 床が学術的・政策的に我が国の周手術期管理として位置 づけられ標準化している1)。しかし,患者の中には「動 くと傷が開く」「痛いのに動いて意味があるか」などの不 安や疑問を持つ患者もいる。村川は,手術後の状態は生 命の危機感と安心への欲求が非常に強く,不安解消のた めには看護師の情報提供や患者教育が不可欠であると述 べており2),看護師による術前オリでの早期離床の説明 や患者の精神面への関わりが術前看護に重要である。 当院外科病棟では従来から紙面を使用して術前オリを 行っている。しかし,看護師の経験年数や手術までの日 数などにより説明内容に格差があった。また,患者が術 後の身体状況をイメージすることに限界があり,術後疼 痛があり,多数の点滴ルートやドレーン等が挿入されて いる中での離床の必要性について,十分に理解されてい ないと課題を感じていた。そのため,我々は術前オリの 均質化の必要性を感じ,術前指導内容を動画と画像で作 成し,タブレット端末(iPad®)上に管理する,新術前オ リエンテーション(以降,新オリ)の試用を開始した。タ ブレット端末上の写真や画像は直観的操作により拡大・ 縮小が可能なため,その特性を術前オリの媒体として活 用した文献もある3)。そのため,タブレット端末での運 用が有効と考えられた。さらに,2015 年の総務省の情

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報通信端末の世帯保有率調査4)ではタブレット端末は 33.3%,スマートフォンは 72% と,新しいメディア端末 が普及しており,看護師がこの新オリを操作する際にも スマートフォンなどと同様に操作できる点も優れている と考えられた。また,近年では術前の入院期間が短縮さ れる傾向にあり,術前検査や剃毛などの業務を短期間内 で行わなければならず,看護師が術前オリを行うことに 時間的な負担を感じていた。そのため,新オリを導入す ることが術前看護の均質化と看護業務の効率化に貢献で きるのではないかと期待された。 以上より,本研究では,新オリ導入による,術前看護 の均質化と看護業務の効率化,患者の回復援助に対する 看護師の認識を明らかにし,看護実践の向上に貢献した いと考えた。

Ⅱ.研究目的

新オリ導入による,術前看護の均質化と看護業務の効 率化,患者の回復援助に対する看護師の認識を明らかに する。

Ⅲ.方法

1.新術前オリエンテーションの特徴 タブレット端末(iPad®)に,術前指導の内容を入れた 動画と,術後の挿入物を表した画像をまとめたフォル ダーを作成し,それぞれ看護師が操作し易いように配置 した(図1)。動画は,従来の紙面での術前オリと同様の 内容として,術前準備,排痰の方法,術後疼痛への対応, 手術後に身体に挿入されるドレーン類,離床の必要性と 方法,術後の転倒転落予防の6項目を掲載した。また, 動画中のスライドにはナレーションを入れ,排痰方法, 術後疼痛への対応,離床の方法は,文章や静止画ではイ メージしにくいため,看護師と患者の関わりの場面を動 画で表した。画像は,術後に留置される点滴ルートやド レーン等を図で示したものを,各術式で作成した。手術 や術後の実際の写真を使用するのは,患者が恐怖や不安 を抱く可能性を考慮して,図示することとした。術前オ リを行う看護師は,患者にこの動画を提示し,見終わっ た後にタブレット内の画像フォルダーから,その患者が 受ける術式の画像を選択し,示す。画像を見ながら,術 後の身体状況をイメージするのを促すと共に,離床の注 図 1 作成した新オリの例 使用手順② 動画終了後にその患者が受ける 術式の画像をフォルダーから選択 し提示する 使用手順③画像を見ながら術後の身体状況をイメージする のを促すと共に離床の注意点を説明する 術後挿入物の画像の一例 使用手順④ 手術に向けてのスケジュールや個別的な注意点 を患者に説明する 使用手順① 患者と家族に術前指導の動画を 視聴してもらう タブレット端末内に作成した術前指導の動画と画像フォルダーを 看護師が操作しやすいようにホーム画面に配置している

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意点を説明する。その後,手術に向けてのスケジュール や個別的な注意点などを患者に説明するという手順で 行った。なお,動画の視聴時間は約 11 分である。 2.対象および研究手順 201X 年 9 月に外科病棟に勤務する看護師 21 名(管理 者を除く)に新オリの導入と使用方法について説明し, その際に自作質問紙にて導入前の調査を行った。その後 は基本的に新オリのみで術前オリを行った。201X 年 10 月までの 1 ヶ月間で各対象者が新オリを行った件数に応 じて,導入後の調査を依頼した。なお,この質問紙は看 護師側の視点で回答するように求め,下記の調査項目の 中での患者の感想などは患者から発言があったものを看 護師が記述した。 3.調査内容 1)基本属性:年齢,外科経験年数 2) 新オリ導入前後の看護業務および患者の回復援助に ついて ① 看護師の術前オリ実施状況:実施に要した時間,追加 説明の有無と内容(自由記述) 実施に要した時間は,看護師が患者と対面して説明し た時間を測定することとし,導入前では看護師が紙面を 用いて患者に説明を行う時間を測定した。一方,導入後 では,新オリの動画を視聴した以降の,看護師が患者に 説明を行う時間を測定した。 ② 術前看護業務の充実と負担感:患者への精神的関わり の充実感,術前看護業務の時間的負担感,新オリ導入 後に術前オリに充てていた時間を他の患者のケアに充 てられているかの 3 項目について「そう思う:4」から 「そう思わない:1」までの 4 段階評価で回答を求めた。 ③ 患者の術後理解と離床促進:起き上がり方法が行えて いる,離床前の PCA ボーラスが実施できている,離 床目的の理解ができている,離床訓練時以外のナース コール活用ができている,ルート類の目的の理解がで きている,ルート類に気を付けた離床ができている, 術後の身体状況をイメージできたという言葉が聞かれ ている,点数で痛みを表現できる,の 8 項目について 「行えていると思う:4」から「行えていない:1」までの 4 段階評価で回答を求めた。 ④ 看護師から見た術前オリエンテーション実施による患 者の反応:術前オリ後に看護師が認識した患者の不安 の内容(自由記述),新オリ導入後に患者から表出され た反応(自由記述)について回答を求めた。 4.分析方法 調査内容の各項目について記述統計を行い,導入前後 の平均値の比較には Wilcoxon 順位和検定を行った。自 由記述は内容の類似性に基づき整理した。 5.倫理的配慮 研究対象者には,研究目的,意義,方法,倫理的配慮 を文書と口頭で説明した。研究協力は自由意思であり, 拒否・中断および回答内容によるいかなる不利益も生じ ないことを説明した。調査書は無記名とし,得られたデー タは個人が特定できないよう処理した。研究結果は学会 等で公表する可能性があることを説明した。また,本研 究は A 病院看護局研究倫理審査委員会で承認を得たの ちに実施した。開示すべき利益相反はない。

Ⅳ.結果

1.基本属性 調査対象者は 21 名で,男性 7 名(33.3%),女性 14 名 (66.7%),平均外科経験年数は 3.67 年(range0-14 年)で あった。導入前調査では 21 人全員の回答数 21 件であっ た。導入後の調査では一人の回答者が平均 2.28 件の患 者に新オリを実施し,延べ回答数 48 件となった。 2.看護師が患者一人の術前オリに要する時間 新オリ導入前は平均 19.8 分(range10-45 分)であった が,導入後は平均 9.9 分(range3-20 分)に短縮していた。 また導入前は看護師によって実施に要する時間に 35 分 の差があったが,導入後は 17 分であり所要時間の差が 短縮した。さらに外科経験年数を平均値の3年目で2群 に分け,術前オリに要する時間を分析した結果では,新 オリ導入前は,3 年未満群(11 名)が 17.7 分(range10-30 分),3 年目以上群(10 名)は 22 分(range15-45 分)であっ た の に 対 し, 導 入 後 は 3 年 未 満 群(29 名 )が 10.1 分 (range3-20 分),3 年目以上群(19 名)は 9.7 分(range5-20 分)と 2 群とも導入後の方が時間短縮した(表 1)。 3.追加説明の有無と内容 オリ資料への追加説明の有無で,有りと回答したのは, 表 1 外科経験年数と術前オリエンテーションに要した時間 導入前 導入後 全体 19.8 分(range10-45 分),n=21 9.9 分(range3-20 分),n=48 3 年目未満 17.7 分(range10-30 分),n=11 10.1 分(range3-20 分),n=29 3 年目以降 22.0 分(range15-45 分),n=10 9.7 分(range5-20 分),n=19

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導入前は 63.6%,導入後は 62.5% であり,変化は見られ なかった。しかし,追加説明の内容について自由記述で 得られた回答は,導入前は「術後をイメージできるよう に口頭で術後の挿入物を説明」「なぜ離床が必要なのか 説明」「口腔ケアの必要性について説明」であった。導入 後は「痛みについてもう一度説明」「なぜ離床が必要か合 併症との関係を追加して説明」「術後の挿入物について 画像を見ながら再度説明」など,新オリの動画中で一度 説明した内容を繰り返し説明していた。 4.術前看護業務の充実と負担感 術前看護業務の充実と負担感を表 2 に示す。【1. 術前 の精神的関わりが充実している】は導入前 2.9,導入後 3.1,(p=.206),【2. 術前業務に時間的負担感を感じている】 は導入前 3.2,導入後 3.0,(p=.257)であり,両項目で有 意差は見られなかった。 新オリ導入後の調査項目の【3. 新オリ導入後,術前オ リに充てていた時間を他の患者のケアに充てられている か】では,「そう思う」54.3%,「だいたいそう思う」45.7%, 「あまりそう思わない」0%,「そう思わない」0% と回答し ており,全対象者が,これまで術前オリに充てていた時 間を他の患者のケアに充てられていると回答していた。 5.患者の術後理解と離床促進 患者の術後理解と離床促進を表 3 に示す。【2. 離床前 の PCA ボーラスが実施できている】は導入前 2.6,導入 後 3.0,(p=.035),【8. 点数で痛みを表現できている】は 導入前 3.0,導入後 3.4,(p=.043)と有意に高くなってお り,導入により疼痛管理に向けた行動が取れているとい える。また,【4. 離床訓練時以外のナースコールの活用 ができている】は導入前 2.8,導入後 3.3,(p=.003),【5. ルー ト類の目的が理解できている】は導入前 2.7,導入後 3.4, (p<.001),【6. ルート類に気を付けた離床ができている】 は導入前 2.8,導入後 3.4,(p<.001),【7. 術後の身体状 況をイメージできたという言葉が聞かれている】は導入 前 2.0,導入後 3.2,(p<.001)で有意に高くなっており, 患者が術後をイメージできるとともに身体損傷リスクに 配慮した行動が取れているといえる。しかし,【1. 起き 上がりの方法が行えている】は導入前 2.9,導入後 3.2, (p=.097),【3. 離床の目的が理解できている】は導入前 3.0,導入後 3.3,(p=.055)で有意差は見られなかった。 6.術前オリ後に看護師が認識した患者の不安の内容 術前オリ後に看護師が認識した患者の不安の内容を表 4 に示す。導入前では「イメージができない(7 件)」「痛 みが不安(6 件)」「痰が出せるか不安(2 件)」「術後の体 の変化が不安(1 件)」「一度に伝えられるため不安が強 くなった(1 件)」であった。患者が術後の状況を具体的 にイメージできないために生じる漠然とした不安や,痛 みへの不安があると看護師が認識している。導入後では, 「疼痛について(12 件)」「術後の挿入物への不安(8 件)」 「初めての手術でイメージができなくて不安(1 件)」な ど,不安の内容がより具体的になったと看護師が認識し ていた。 7.新オリ導入後の患者から表出された反応 新オリ導入後の患者から表出された反応は「動画を見 ることで具体的にイメージができた」「画像でイメージ できてよかった」「2 回目の手術だったが,iPad®があっ たほうがわかりやすかった」などイメージ化につながる 感想があった。また,「点滴台を持ちながらの離床は点 滴台が足に当たって歩きにくいのでコツが内容に入って 表 2 術前看護業務の充実と負担感 項目 導入前(n=21) 導入後(n=48) p mean SD mean SD 1 術前の精神的関わりが充実している 2.9 0.7 3.1 0.6 0.2063 2 術前業務に時間的負担を感じている 3.2 0.7 3.0 0.8 0.2576 Wilcoxon 順位和検定 表 3 患者の術後理解と離床促進 項目 導入前(n=21) 導入後(n=48) p 値 mean SD mean SD 1 起き上がりの方法が行えている 2.9 0.7 3.2 0.6 0.0977 2 離床前の PCA ボーラスが実施できている 2.6 0.8 3.0 0.8 0.0355 * 3 離床の目的が理解できている 3.0 0.7 3.3 0.7 0.0551 4 離床訓練時以外のナースコールの活用ができている 2.8 0.6 3.3 0.7 0.0032 ** 5 ルート類の目的が理解できている 2.7 0.7 3.4 0.5 0.0001 ** 6 ルート類に気を付けた離床ができている 2.8 0.6 3.4 0.6 0.0002 ** 7 術後の身体状況をイメージできたという言葉が聞かれている 2.0 0.6 3.2 0.8 0.0001 ** 8 点数で痛みを表現できている 3.0 0.8 3.4 0.7 0.0435 * *p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001 Wilcoxon 順位和検定

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いるといい」「1 回見るだけだと忘れたり分かりにくい ので,貸出など再度見られる機会があればいい」などの 感想があった。

Ⅴ.考察

新オリを導入したことにより,従来よりも短い時間で, 術後のイメージ化を図りながら,重要箇所を繰り返し説 明できる術前オリの実施につながった。また看護師は短 縮した時間を,他の患者のケアに充てることができるよ うになった。さらに,患者が術後の疼痛管理や術後の身 体状況をイメージするのを助け,身体損傷リスクに配慮 した行動が取れるようになったと看護師が認識できた。 調査当初は外科経験年数が少ない看護師の方が,不慣 れな分,術前オリに時間を要していると経験上予測して いた。しかし,実際は外科経験年数が長い看護師の方が 4.3 分長く術前オリを行っていた。外科経験年数が長い 看護師ほど,紙面に記載された術前オリの内容へ,自ら の豊富な知識や経験をもとに追加説明しており,患者が 術後の身体状況をイメージするのを助けるように関わっ ていたため,時間を要していたと考えられる。一方,新 オリは患者が術後の身体状況をイメージしやすいように 排痰方法や離床方法などを動画で表し,さらに術後に挿 入されるドレーンや点滴ルート類を画像で提示してお り,経験や知識による指導内容の差を少なくしている。 そのため,術前オリ実施に要する時間が外科経験年数に 関わらず短くなっており,術前オリの均質化が図れたと 推察できる。 さらに,新オリ導入前後で,術前オリ実施後の追加説 明の有無に違いは見られなかったが,導入後では動画で 一度説明した内容を繰り返し説明し,術後疼痛・離床の 必要性・術後の挿入物などについて,より具体的な説明 を追加していた。このことから,新オリが患者の術後の イメージ化と,術後疼痛や離床目的への理解を促すため のより良いオリエンテーションが実施できていたと言え る。また,新オリではタブレット端末の動画が説明を行 う時間を代替しているため,看護師は動画を視聴してい る約 11 分の時間で他の業務が行える。新オリ導入によ り看護師の術前オリに対する時間的負担を軽減し,かつ 術前入院日数が短期間でもより良い術前オリが行えるこ とは,看護業務の効率化に繋がると言える。 新オリの患者の術後理解と離床促進の確認に関しての 看護師の認識では,ほとんどの項目で離床促進につなが る結果が得られた。さらに新オリ導入により,PCA の ボーラスが行え,さらに,点数で痛みを表現できるよう になったと看護師が認識しており,患者が感じている疼 痛を看護師が正確に把握しようという意識化が進んだと 考えられる。小河ら5) は,術後患者の身体的苦痛を除去 することが,回復意欲を促進する上で重要な要因である と示し,術前から疼痛管理方法を説明する必要があると 述べている。新オリ導入による看護師の認識の変化は, 疼痛管理に貢献できる可能性を示しており,患者の回復 意欲を促進できる可能性もある。また,患者が離床訓練 時以外にもナースコールが活用できるようになり,ルー ト類の目的を理解し,それに配慮した離床ができるよう になったと看護師が認識している。このことから,新オ リ導入が患者の身体損傷リスクに配慮した行動の促進に 貢献できる可能性が示唆された。しかし,今回の調査は 看護師に実施しており,実際に患者に対して疼痛管理や, 身体損傷リスクに配慮した離床,術後の身体状況の理解 の促進に貢献できるという効果があるとは言えない。そ のため,新オリがそのような効果があるかを,再度患者 を対象にして調査を行う必要がある。 患者が感じていた不安を問う自由記述の中で,導入前 の調査では疼痛に関する事項や,患者が術後をイメージ できないという事項に対する回答が見られた。導入後の 調査では「疼痛への不安」「挿入物への不安」などの不安 の内容が具体的になった。また,導入後の患者の反応の 中では「動画を見ることで具体的にイメージできた」,「2 回目の手術だったが,iPad®があったほうがわかりやす かった」,「画像でイメージできてよかった」などの具体 的な意見が聞かれた。また,特に平均値が高くなったの は【7. 術後の身体状況をイメージできたという言葉が聞 かれている】であった。先行研究6)7)では,視覚的教材が, 患者が術後の身体状況を理解するのに効果があったと示 しており,動画や画像によって視覚的に捉えられるとい う新オリの特徴が術後の患者のイメージ化に有効であっ たと考えられる。新オリの活用により,患者が手術を自 分のこととして認識し,患者参画型医療に繋がると考え られる。 表 4 術前オリ後に看護師が認識した患者の不安の内容 導入前(n=21) 導入後(n=48) イメージができない(7 件) 疼痛について(12 件) 痛みが不安(6 件) 術後の挿入物への不安(8 件) 痰が出せるか不安(2 件) 初めての手術でイメージができなくて不安(1 件) 術後の体の変化が不安(1 件) 一度に伝えられるため不安が強くなった(1 件)

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改善点として,離床の目的の理解は導入前後で有意差 が出なかった。そのため,新オリの,離床の必要性と目 的の部分を強調して伝えられるよう修正を行う必要があ る。また,患者の反応の中には,「点滴台を持ちながら の離床は点滴台が足に当たって歩きにくいのでコツが内 容に入っているといい」との意見があった。点滴・ドレー ン等に配慮した離床の方法を説明した動画を追加し,患 者が身体損傷リスクに配慮した行動や,外傷予防の知識 を習得することを促す必要がある。また,「1 回見るだ けだと忘れたりわかりにくいこともあるので,貸出など 再度見れる機会があればいい」などの意見があったため, 活用システムを検討する必要があることが分かった。 看護師が認識した患者の不安の内容として,「疼痛へ の不安」「挿入物への不安」など,新オリの中に具体的に 掲載しているために,不安が具体的になってしまったも のもあった。従来の紙面での術前オリでは患者は術後の イメージが曖昧だったが,新オリによって明確にイメー ジできてしまうために,不安が浮き彫りにされた可能性 もある。今後は新オリの内容を精査し内容を修正する必 要があるが,動画を視聴するという方法での指導は患者 の精神面や理解度に対する個別的な対応に限界がある。 そのため,各患者の全体像をアセスメントし,場合に応 じて新オリではなく,従来通り紙面を用いた術前オリを 行うなどして対応する必要があると考えられる。また, 新オリを用いた場合でも,不安や疑問の傾聴など,看護 師の関りの中でフォローしていく必要がある。

Ⅵ.結論

タブレット端末(iPad®)による術前オリは,術後のイ メージ化に有用であり,外科経験年数に関わらず均質化 した術前指導を行える。また,術前オリにかかる時間的 負担の軽減や看護業務の効率化に有用であると示され た。新オリ導入により,術後の離床促進だけでなく術後 の身体損傷リスクに配慮した行動の促進や疼痛管理につ いて貢献できる可能性が示唆された。しかし,今回の調 査は看護師に実施しており,実際に患者に上記のような 効果があるかは再度患者を対象にして調査を行う必要が ある。また,新オリは,術前オリの時間的負担の軽減や, 術前オリの均質化には有効であるが,患者の性質や不安 の内容などの個別性に合わせて,看護師の関りによる フォローが求められるという課題がある。 引用文献 1) 小澤知子(2013)術後の早期離床援助における看護師を研究対象 とした研究の動向と課題.東京医療保健大学紀要,7(1):11-17. 2) 村川由加理(2013)術前患者の不安に対する看護援助の受け止 め.大阪市立大学看護学雑誌,9:1-2. 3) 内田康一(2013)タブレット型端末機【iPad®】を用いた心臓カ テーテルオリエンテーションへの取り組み.信州大学医学部附 属病院看護研究集録, 41(1):94-98. 4) 総務省「通信利用動向調査」(2017)http://www.soumu.go.jp/ johotsusintokei/statistics/statistics05.html(閲覧日:2017 年 12 月 23 日) 5) 小河徳恵,佐野涼子,黒岩尚美,他(2003)術後患者の回復意欲 となる要因.山梨大学看護学会誌,1(2):29-33. 6) 萩原弘美恵,松永美代,横地奈緒美,他(2015)DVD を用いた 腰椎手術オリエンテーションの効果と課題.静岡赤十字病院研 究報,35(1):104-106. 7) 道本希,林浩子,坂本葵,他(2016)iPad®とパンフレットを用 いた術前不安の軽減と術後せん妄予防への取り組み.日本看護 学会論文集急性期看護,46:137-140.

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