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山梨大学医学会主催 医学会公開シンポジウム 『脳と心の発達』 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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山梨大学医学会主催 医学会公開シンポジウム

日時:平成 18 年 2 月 11 日(土)午後 1 時 30 分∼ 4 時

会場:山梨大学医学部 臨床講義棟・臨床小講堂

『脳と心の発達』

司 会 佐藤  悠(山梨大学医学部 生理学第 2) 脳と心の生理学 佐藤  悠(山梨大学医学部 生理学第 2) 遺伝学からみた心の発達と病気 久保田健夫(山梨大学医学部 環境遺伝医学) 認知神経科学よりみた心の発達と前頭葉機能 ―発達障害を通して心を考える― 相原 正男(山梨大学医学部 小児科学) <医学会事務局より報告> 約 90 名の方にご参加いただき,盛況に執り行うことができた。 終了後,アンケートをお願いしたところ 3 割の方にご協力していただいた。 答えてくださった方のほとんどが,面白く有意義であったとの感想を寄せられた。 また,今後聴講されたいテーマについては,子どもの発達にかかわる「少年犯罪 の防止と医学」「引きこもり・不登校」「子どもの発達」,今回の内容と同じような 「脳科学」「遺伝子」「心の発達」「心理学」,特定の病気に関する「膠原病」「ガン」「認知症, その他」「血液」「医療現場が抱える課題」などの意見が出された。

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ヒトのこころは知,情,意の 3 種類に分類さ れる。夏目漱石によれば,知に働けば角が立つ, 情に棹させば流される,意地を通せば窮屈だと, 文学的に表現される。これを神経生理学に表現 する:ヒトのこころ,すなわち脳機能は知,情, 意の 3 機能に分類される。それぞれの機能はそ れぞれ脳の異なった部位に局在する。 知とは外部環境の情報の質を分析する機能で ある。環境状況がどうなっているのかを知るた めに存在する。いわゆる感覚系であり,大脳新 皮質感覚野が担当する。ヒトは外界の環境を 5 つの知覚チャンネル(五感)によって知る。光 は視覚野,空気振動は聴覚野,空中の化学物質 は嗅覚野,液中の化学物質は味覚野,皮膚へ加 わった力は体性感覚野がそれぞれ担当する。そ れぞれの感覚野はさらに機能別に細分化され る。たとえば視覚機能のうち形は V3,色は V4, 動きは V5 が担当する。V4 が障害されると色が 認知できなくなり,単色の世界となる(大脳性 色盲)。V5 が障害されると動きが分からなくな り,車が走っていても止まってみえる(運動 盲)。 情とは知の価値を分析する機能である。その 情報が自分にとって価値があるのか無いのか, または敵対的なのかを知るために存在する。い わゆる情動系であり,基本情動は大脳辺縁系が 担当する。情報に価値があれば快,敵対的なら ば不快情動が引き起こされる。ヒトにおいては 3 つの階層の情動レベルが存在する。生命保存, 種族保存のために必要不可欠なレベルを本能と いい食欲,性欲に相当し,視床下部が担当する。 視床下部の電流刺激で摂食行動,性行動が引き 起こされる。身体的変化を伴う強いレベルを情 動といい恋愛,怒り,恐怖に相当し,扁桃体が 担当する。扁桃体の破壊で情動は消失する(ク リュバビュシュウ症候群)。多様化した高次レ ベルを感情といい,博愛,名誉,誇り,ねたみ, 等に相当し,前頭葉が担当する。 学習とは情を満足するように知を向上させる ことである。学習は知と情の相互作用により生 じる。すなわち,一般に,ヒトを含む動物が, ある環境で,ある行動をしたときに,報酬(快 情動)が得られた場合,その行動をくりかえす。 それにより知のレベルは向上する。すなわち情 報処理系の能力は向上する。これは犬を含む動 物を訓練する基本原理である(オペラント条件 付け)。ヒトとても例外ではない。学習の結果 は脳の連合野に記憶される。 学習(知の向上)の結果として外界環境をそ のものの性質としてではなく一般的な性質とし て捉えることが可能になる。これを概念という。 概念が連合野に蓄積されることにより,ここに 原始意識が成立する。原始意識は現在の環境を 概念レベルの知として捉え,情で評価する。過 去,現在,未来の区別は無い。サル以下のレベ ルの哺乳類には原始意識が存在する。 ヒトにおいては言語機能が発達する。言語と は感覚の一種である音声(記号)と概念とが連 合したものである。ウェルニッケ野の働きで, 聴覚野で分析された音声記号と連合野に存在す る概念が連合する。ウェルニッケ野の障害で連 合は失われ,音声は音としては聞こえるが,そ の意味が分からなくなる(感覚性失語症)。高 次意識は言語を基礎としてヒトにのみ発達し, 概念の爆発的増加,高度化の結果生じた高次概 念と考えられる。 意は知と情を含む低次脳機能を制御する機能 である。その情報の質(知)と価値(情)の現 状を総合して,しかるべき行動を判断する。前 頭前野が担当する。前頭前野の制御機能として 公開シンポジウム:脳と心の発達

脳と心の生理学

佐藤 悠 山梨大学医学部 生理学第 2

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解析法の進歩と相まって,脳で働くさまざま な物質が明らかにされ,脳の働きの仕組みがわ かってきました。それに伴い,脳の病気の理解 も進んできました。 この過程で,脳発達期の神経細胞の遊走とい う現象も実際に見ることが可能になってきまし た。同時に,脳の仕組みを遺伝子から理解する 手法もとられるようになりました。ヒトを最上 位の動物としてよいならば,脳機能に関わる遺 伝子は「ヒトはヒトたらしめている」遺伝子と 考えることができるかも知れません。現在,「ヒ トたらしめている遺伝子」はヒトゲノムとチン パンジー(最も近い動物)ゲノムを比較して, 違いのある遺伝子を探す研究がなされています。 病気に関連する遺伝子の異常は,遺伝子の中 の異常(変異)であることが多いのですが,遺 伝子の中に異常がなくても,遺伝子の調節シス テムに異常があると病気になることがわかって きました。遺伝子にはプロモーターとよばれる 「スイッチ」がついています。このスイッチは, メチル基(メチルアルコールのメチル)が付加 されることで OFF になります。からだの中の 遺伝子はいつも ON になっているわけではな く,不要の時期には OFF になり,必要な時期 に必要な臓器の中だけで働くことが必要です。 このような遺伝子の調節メカニズムを「エピジ ェネティクス」といいます。「エピジェネティ クス」は「Epi-(周辺)Genetics(遺伝子学)」 という意味をもつ造語です。具体的な例として 「ゲノムインプリンティング」があります。こ れは遺伝子が母親からもらった染色体上ではス イッチが OFF /父親からの染色体では ON に なっていることなどを指します。2 つめは女性 特有の現象「X 染色体の不活化」で,これは, X 染色体と Y 染色体の差の分女性の方がもって いる遺伝子が多いので,女性のからだの中で, 多い分の遺伝子を OFF にしている現象です。 いわば「女男」格差をなくす生体現象です。 もしこのような,からだの遺伝子調節のしく みに異常が生じたらどうなるでしょう? X 染 色体の不活化が生じなかったら,その女性は生 まれてこられないと考えられています。また本 来不活化されるべき X 染色体がたとえその一 部分でも不活化されないと,重篤な精神発達障 害を持って生まれてくることが知られていま す。ゲノムインプリンティングに異常が生ずる と肥満と精神障害を主徴とするプラダーウィリ 症候群などの先天性の病気になることが知られ ています。一方,生まれた後でエピジェネティ クスに異常が生じると,例えば,本来がんの発 生を予防する遺伝子(がん抑制遺伝子)のスイ ッチが誤って OFF になってしまった場合,が んになることなどが知られています。エピジェ ネティクス異常には,がんなどのときのように 必要な時に遺伝子が OFF になってしまう病態 と,逆に,不要な時に ON になってしまう病態 があります。脳の病気には後者も関係している とわれわれは考えています。これまで脳神経疾 患で,遺伝子が失われても過剰に存在しても, 同じ病気になることが知られ,このことから, 次の 5 機能が考えられる。精神活動レベルの制 御により意欲のレベルを調整する。多くの情報 を重要性により順序化し,今何が重要なのか判 断する。今何をすべきなのか実行すべき行動を 制御する。将来どうするのかを計画し,将来計 画を記憶する。私とは何か自我意識を生じる。 前頭前野の障害により人格が障害される。

遺伝学からみた心の発達と病気

久保田健夫 山梨大学医学部 環境遺伝医学

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脳は必要な遺伝子が必要な量だけ働くことが必 要な臓器と考えられるようになりました。エピ ジェネティックな遺伝子調節に重要な蛋白質が 変異すると遺伝性の自閉症(レット症候群)に なることが明らかにされ,私たちは現在,この 病気のなりたちを研究しています。これまで得 たこの調節蛋白質の特性に関する知見は,レッ ト症候群患者さんのもつ自閉症状や小頭症状を 理解する上で重要であると考えています。 遺伝子は本来,さまざまな防備システムによ りそう簡単に変異するものでないのですが,遺 伝子を取り巻く因子は,環境要因で容易に変化 し得ることが最近わかってきました。私たちは このエピジェネティクスの異常が,さまざまな 精神発達障害に関与しているのではないかと考 えています。 発達障害は,自閉性障害,学習障害(Learning Disorders; LD) ,注意欠陥/多動性障害(Atten-tion-Deficit/Hyperactivity Disorder; ADHD)な どが対象として挙げられる。発達障害は神経心 理学的に前頭葉の機能障害であることが近年明 らかになるにつれて,行動抑制やワーキングメ モリーモデルに基づく認知心理学的解析が最近 活発に行われてきている。さらに,高次脳機能 を非侵襲的に測定する脳科学の進歩とともに認 知神経科学(cognitive neuroscience)という学 際的な研究分野が発展して,発達障害児の脳内 メカニズムが急速に解明されてきた。前頭葉の 成長,成熟を神経放射線学的に,心の発達と前 頭葉機能について神経心理学的立場から解説し た。 Ⅰ.前頭葉の成長(Growth) 脳の成長とは,脳が大きくなり,安定した構 造に近づくことである。猿類の大脳皮質の大き さは,群れの社会構造の複雑さ(social size) に比例していることが報告されている。ヒトの 前頭葉,前頭前野の体積を 3D-MRI で定量的に 測定した。両者とも年齢とともに増大し,8 ∼ 15 歳の思春期前後で急激に増大したが,前頭 前野の増大が著明であった1)

認知神経科学よりみた心の発達と前頭葉機能

―発達障害を通して心を考える―

相原正男 山梨大学医学部 小児科 図 1 前頭葉,前頭前野における髄鞘形成の年齢による変化

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Ⅱ.前頭葉の成熟(Maturation) 脳の成熟とは,脳内情報処理過程が安定した 機能になることで,神経科学的には情報処理速 度が速くなること,すなわち髄鞘形成の進展と して捉えられる。髄鞘形成の開始,完成時期は 脳の部位により異なることが,髄鞘の組織染色 で知られていたが,MRI により生体でも観察 可能となった(図 1)2) Ⅲ.前頭葉機能と心の発達(Development) 前頭葉機能の発達順序は,まず自己抑制が出 現し,次にワーキングメモリー,実行機能が順 次認められてくる(表)。実行機能(executive function)は,将来の目的に向けて判断,計画, 行動するためのオペレーティング機能のこと で,外の世界を自分の世界(脳)に取り込み目 的指向的行動(行為)ができる能力である3) この能力により,人は自己中心性文脈(ego-centric context)を獲得し,自己を形成(men-tal self)し,自己実現という動機づけに向かえ ることができる。 Ⅳ.前頭前野と文脈依存性理論 前頭葉機能の側性化(lateralization)を検出 する神経心理学的検査である cognitive bias task (CBT)の検討から,右前頭葉は新奇な刺激に 対する処理(文脈非依存性理論)を,左前頭葉 は既存の情報に基づく内的提示により行動を導 く(文脈依存性理論)という仮説が提唱されて いる4)。右利気,正常男児において 5 ∼ 6 歳は 標的カードに依存しない選択をしているが,年 齢とともに標的カードへの依存度は高まり,15 歳頃成人レベルに達した5)。年齢に伴い右前頭 葉機能である文脈非依存性理論から左前頭葉機 能である文脈依存性理論へシフトしていくもの と考えられる。8 名の右利き健常者で CBT と コントロール課題施行中の脳血流量を測定し統 計学的検討を行ったところ,有意に脳血流が上 昇した脳内部位は,左右前頭前野,左下前頭部 (言語野),左後側頭部(形,色の言語的認知に 関与する紡錘回)であった(図 2)6)。さらに, C B T 施 行 中 の 脳 波 周 波 数 解 析 を γ帯 域 (30–40 Hz)で測定したところ,右利き健常人 で認められた左前頭部から左後側頭部へのパワ ーのシフト(図 3)は,ADHD では認められず, 右前頭部に固定したままであった(図 4)7) V.前頭前野と情動/感情機能 脳における情報処理システムは,感覚器から の情報が扁桃核に転送される情動処理腹側経路 と,大脳皮質を経由する認知処理背側経路の二 重のシステム構造になっており,情動処理と認 表 心の発達と前頭前野機能

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図 2 CBT 施行中の脳血流有意差マップ

賦活された脳部位が黄色で表示されている。

図 3 CBT 施行中のγパワーマップ(脳波周波数解析)

標的カード提示により左前頭部のパワーが増大し,選択カード提示前は左後側頭部にパワーの増大 を認める。

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知処理が相互作用を行う脳領域は,前頭葉と考 えられている。前頭葉眼窩部と扁桃核離断のた め行為障害を認めた児は,画像の情動評価は認 知できているにも関わらず,情動表出反応であ る交感神経皮膚反応(SSR)は消失していた8) すなわち,情動にともなって行為が発現するも のと考えられる。 おわりに 発達障害が,神経心理学,脳科学により高次 脳機能障害として認知されることは,医学,教 育,福祉の連携がより密接になり,認知リハビ リテーションの開発,医療行為の客観的効果判 定が可能になるものと思われる9)。ひいては, 「ヒトの心の発達」を解明する理論の創設に繋 がるものと考えられる。 文  献

1) Kanemura H, Aihara M, et al : Development of the prefrontal lobe in infants and children: a

three-dimensional magnetic resonance volumetric study. Brain Dev 25: 195–199, 2003.

2) 相原正男,井合瑞江,ほか:小児頭部における MRI の発達的変化.CT 研究 8: 537–542, 1986. 3) Goldberg E: The Executive Brain, frontal lobes

and the civilized mind, Oxford University Press, Oxford, 2001.

4) Goldberg E, Podell K, et al : Cognitive bias, func-tional cortical geometry, and the frontal lobes: laterality, sex, and handedness. J Cognit Neurosci 6: 276–296, 1994.

5) Aihara M, Aoyagi K, et al : Age shifts frontal corti-cal control in a cognitive bias task from right to left: part I. neuropsychological study. Brain Dev 25: 555–559, 2003.

6) Shimoyama H, Aihara M, et al. Context-depen-dent reasoning in a cognitive bias task; part II. SPECT activation study. Brain Dev 26: 37–42, 2004. 7) 神谷裕子,相原正男,ほか:前頭葉機能の側性 化に関する電気生理学的検討.認知神経科学, 3: 188–191, 2002. 8) 青柳閣郎,相原正男,ほか:前頭葉離断症候群 における認知・感情機能の解離.臨床脳波,45: 441–446, 2003. 9) 相原正男:高次脳機能障害としての発達障害. 発達障害医学の進歩,16: 1–9, 2004. 図 4 ADHD 児のγパワーマップ 右前頭部のみパワーの増大が固定している。

図 2 CBT 施行中の脳血流有意差マップ

参照

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