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IAS38における無形資産の会計処理--当初認識後の測定

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IAS38 における無形資産の会計処理

── 当初認識後の測定 ──

白 石 和 孝 目 次  1.はじめに  2.二つの測定モデル   (1) 原価モデル   (2) 再評価モデル  3.無形資産のなし崩し償却   (1) 無形資産の耐用年数の評価   (2) 有限の耐用年数をもつ無形資産   (3) 不確定な耐用年数をもつ無形資産   (4) 減損損失   (5) 廃棄および処分  4.おわりに 1.はじめに  無形資産の評価(測定)問題は、一般に、取得したときに無形資産に相当する金額を資産と して記録するのかどうか(資産計上問題:資産計上か/費用計上か)、そして、もし資産とし て記録するのであれば、その後それをどのように処理すればよいのか(資産計上後の測定問題: 具体的には、期末のなし崩し償却や減損などの会計処理の問題)という、当初認識(当初認識 時の測定)の問題と当初認識後の測定の問題に大きく分けられる。  もちろん、論理的には無形資産の「当初認識」(当初認識時の測定)と「当初認識後の測定」 は分かち難く結び付いている。つまり、無形資産の当初認識(資産計上)が前提となってはじ めて当初認識後の測定(資産計上後の測定)が論じられるという関係にあって、その意味では、 当初認識後の測定を論じる以上、当初認識において、まず「資産計上法」(当初認識時に資産 として計上する方法)を採用しておく必要があるということでもあろう1。それらのうち、当 初認識については、すでに別稿2で検討済みであるから、引き続き、本稿では、国際会計基準 1 いうまでもなく、当初に「費用計上法」を採用していれば、それ以後の当初認識後の測定について論じ られることはない。 2 拙稿「第 5 章 無形資産の評価」(小松章編『現代の財務経営〈6〉 経営分析・企業評価』中央経済社、平 成 22 年 4 月、所収)125-174 頁のなかで触れている。

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第 38 号(IAS38)「無形資産」3を中心に、残りの当初認識後の測定について詳細に検討して みることにしよう。当初認識後の測定では、とりわけ、「なし崩し償却」(amortisation)なら びに「減損」(impairment)という二つの重要な測定または評価問題に焦点を絞って検討して みたいと考えている。 2.二つの測定モデル  IAS38 では、無形資産の当初認識後の測定について、二つの測定モデルが認められており、 実体(エンティティ)は、会計方針として「原価モデル」(cost model)または「再評価モデル」 (revaluation model)のいずれかを選択しなければならないことになっている。なお、ある無形 資産が「再評価モデル」を用いて処理される場合は、活発な市場が存在しない場合を除き、そ の種類(クラス)のなかのその他の資産全体も同じモデルを用いて処理されなければならない (par.73)。  かつては、「原価モデル」を標準処理とし、「再評価モデル」を認められる代替処理とする位 置づけであったが、「改善プロジェクト」の目的が「認められる代替処理」(再評価による処理) の削減であったにもかかわらず、見直しの対象には含まれず、現在は、少なくとも規定上、二 つの測定モデルは並列的な選択適用という位置付けとなっている。但し、「再評価モデル」は、 無形資産の活発な市場価格に照らして決定される場合に限定されていることもあって、実際に 適用できる無形資産は少ないものと思われる。因みに、日本基準では、現在のところ、「再評 価モデル」を認めていない。  無形資産の種類は、実体の営業活動において類似の性質と用途をもつ資産のグループ分けで あって、無形資産の種類のなかの諸項目は、「資産の選択的な再評価」および「異なる時点の 原価と価値の混合を示す財務諸表での価額の報告」を避けるために、同時に再評価されること になっている(par.73)。  国際会計基準審議会(IASB)は、こうした「再評価モデル」のもつ問題点について、すで に十分に気付いているようである。確かに、一つの無形資産の種類のなかの諸項目については、 同時に再評価することで、こうした問題を回避することができるのかもしれない。だが、資産 全体のレベルならびに財務諸表全体のレベルでは、①「活発な市場」の存在を唯一の識別・判 断規準(指標)とする「資産の選択的な再評価」──活発な市場の存在の三要件4を満足する か否かが、公正価値の決定にあたって必要であり、ひいては、そのことが無形資産を「再評価 できるか/できないか」の唯一の識別・判断規準(指標)となっているために、「再評価モデ ル」を採用できる無形資産の種類もあれば、採用できず、「原価モデル」を採用する無形資産 の種類もあって、一つの会計の体系のなかに異質の両モデルが併存してしまう可能性がある─ ─、ならびに②「異なる時点の原価と価値の混合を示す財務諸表での価額の報告」──異なる

3 IASB[2010]International Accounting Standard 38 (IAS38), Intangible Assets.

4 「活発な市場」の存在の三要件とは、(a) 市場で取引される諸項目は同質であり、(b) 自発的な売り手と買

い手を通常いつでも見出すことができ、かつ (c) 価格は一般に入手可能である、という三つの条件がすべ て存在する市場(par.8)のことを指している。

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時点の原価と公正価値(時価)の「異質的混合としての全体」(全体としての財務諸表の数値) が果たして有意味なものとなりうるのかどうか──といった重要な問題について、依然として 解決すべき方途すら示されていないのが現状である。  例えば、「再評価モデル」を一部の無形資産の種類で採用する場合、つまり、全体としての 一つの財務諸表のなかに異質な「再評価モデル」と「原価モデル」が混在するような場合には、「資 産・負債観」(貸借対照表アプローチ)と「収益・費用観」(損益計算書アプローチ)の双方が 一つの会計の体系のなかに無秩序に混在する事態となり、その目指すべき資本維持目的も明確 ではなくなってくる。ゆえに、とりわけ、「再評価モデル」に関しては、今後改善すべき余地 は大いに残されているように思われる。 (1)原価モデル  「原価モデル」では、当初認識後、無形資産は「取得原価から償却累計額および減損損失累 計額を控除した価額」(=帳簿価額)で繰越される(par.74)。 原価モデル:帳簿価額=取得原価-償却累計額-減損損失累計額  これは日本基準が採用しているモデルである。なお、「原価モデル」の詳細な説明と検討は、 後ほど「3.無形資産のなし崩し償却」のなかで行いたいと思う。 (2)再評価モデル  一方、「再評価モデル」では、当初認識後、無形資産は「再評価日の公正価値からその後の 償却累計額および減損損失累計額を控除した再評価額」で繰越される(par.75)。 再評価モデル:帳簿価額=再評価日の公正価値-その後の償却累計額-その後の減損損失累計額  再評価のためには、公正価値は活発な市場を参照して決定されなければならないし、報告期 末に資産の帳簿価額がその公正価値と実質的に異ならないよう、再評価は十分な規則性をもっ て実施されなければならない(par.75)。  既に触れたように、IAS38 の「再評価モデル」では、以下に示す活発な市場の存在の三要件 を満足するか否かが、公正価値の決定にあたって必要であり、ひいては、そのことが無形資産 を「再評価できるか/できないか」の唯一の重要な識別・判断規準(指標)ともなっているわ けである5。つまり、活発な市場の存在の三要件を満足するか否かにより、資産の種類ごとに「再 評価モデル」を採用できるか否かが決まってくるという関係にあるため、結果的に、異質な「原 価モデル」と「再評価モデル」が一つの会計の体系のなかに併存することになり、却って「異 5 「活発な市場」の存在について厳しい三要件が求められるのは、測定の信頼性、ひいては財務諸表の信頼 性を確保するためであろうと考えられる。公正価値は、その「活発な市場」の存在を前提にしているの である。

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質的混合としての全体」(全体としての財務諸表の数値)の示す意味が複雑でわかりづらいも のにならないであろうかと危惧する。  なお、「再評価モデル」では、(a) 以前に資産として認識されていない無形資産の再評価、ま たは (b) 原価以外の額での無形資産の当初認識、を認めていない(par.76)。「再評価モデル」 で認めていないこれらのルールは、以前の時点で資産の認識ルールを満たさなかったため、無 形項目に関する支出(コスト)が費用として当初認識されたわけであるから、後の時点で、資 産として記録されなかった無形資産を再評価額で認識させないようにするために考え出された ものであり、基準の認識ルールを巧妙に掻い潜る、いわゆる「摺り抜け行動」を未然に防止(回 避)する狙いにほかならない。以前の年次財務諸表や中間報告において、実体により費用とし て当初認識された無形項目に関する支出は、後の時点で、無形資産の取得原価の一部として認 識されてはならないことになっている(par.71)からである。  このように、「再評価モデル」は、資産が当初に取得原価で認識された後に適用されること になっているわけであるが、但し、資産がその過程の途中の部分まで認識規準を満たしていな かったために、無形資産の取得原価の一部だけしか資産として認識されていない場合には、「再 評価モデル」は、当該資産全体に適用されるかもしれないし、また、国庫補助金によって受け 取られ、名目額(僅少な額)で認識された無形資産にも適用されるかもしれない(par.77)。  ① 活発な市場(active market)  IAS38 は、「活発な市場」を、(a) 市場で取引される諸項目は同質であり6、(b) 自発的な売り 手と買い手を通常いつでも見出すことができ、かつ (c) 価格は一般に入手可能である、という 三つの条件がすべて存在する市場である(par.8)と定義しており、例えば、特定の管轄区域では、 活発な市場は、自由に譲渡可能なタクシーの事業免許、漁業免許または生産割当枠のために存 在するかもしれない7が、ブランド、新聞のマストヘッド、音楽および映画の出版権、特許権 または商標権のためには存在しえない(par.78)としている。  上記の活発な市場の存在の三要件を、無形資産に当てはめて考えてみると、おそらく次のよ うになるであろう(par.78)。(a) 無形資産は売買されるが、そのような権利は稀にしか同質で はなく、(b)(例えば、ブランド、新聞のマストヘッド、音楽および映画の出版権、特許権ま たは商標権のような)多くの無形資産の価値は、それがユニークであるという事実如何にかかっ ており、また、売買契約は個々の売り手と買い手との間で取り決められ、取引は比較的稀であ るところから、ある無形資産のために支払われた価格は、他の無形資産の公正価値の十分な証 拠を提供できないし、さらに、(c) 価格は一般に入手可能でない場合が多い8。つまり、IAS38 6 活発な市場の定義における「同質の」(homogeneous)は、「同一の」(identical)または「事実上、同一の」 (virtually identical)を意味するものとして解釈されるべきであり、無形資産が用途または機能において 非常に類似しているということだけでは十分ではないかもしれない。The International Financial Reporting Group of Ernst & Young, International GAAP 2011 (Volume 1), John Wiley & Sons Ltd., 2011, p.933.

7 そ の 他 の 例 と し て は、「 排 出 権 割 当 枠 」(emissions allowance) も 含 ま れ る。The KPMG International

Financial Reporting Group (ed.), Insights into IFRS (8th Edition), Sweet & Maxwell, 2011, p.339.

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では、(a) 無形資産のもつ権利は必ずしも同質ではなく(権利の非同質性)、(b) 売買契約は個 別交渉であり、取引の頻度も比較的少なく(契約の個別交渉と少ない取引頻度)、かつ (c) 価 格は一般に入手可能でない場合が多い(価格の入手不可能性)ところから、結果として、多く の価値のある無形資産は本質的にユニーク(企業固有)であると考えられるので、活発な市場 は存在せず、したがって、「再評価モデル」の資格はない、としているのである。  このように、活発な市場の存在の三要件を満足するか否かが、公正価値の決定にあたって必 要であり、ひいては、そのことが無形資産を「再評価できるか/できないか」の唯一の識別・ 判断規準(指標)となっているために、あまりユニークではない(価値のない)、自由に譲渡 可能な無形資産には「再評価モデル」の資格が認められるのに対し、一方、容易に取り替えら れない、ユニークな(価値のある)無形資産には「再評価モデル」の資格が認められないとい う大きな矛盾が生じてくるわけである。市場参加者の平均的な期待を反映した価値である(活 発な市場の存在を前提とする)公正価値を、特徴的で、個性的で、容易に取り替えられないな どの「模倣できない独自性」をもつ、多くの価値のある無形資産に適用できないからである。  ② 再評価の頻度(frequency of revaluation)  活発な市場が存在すれば、報告期末に資産の帳簿価額がその公正価値と実質的に異ならない よう、再評価は十分な規則性をもって実施されなければならないが、その場合、再評価の頻度 は、再評価される基本的な無形資産の公正価値の「ボラティリティ」(volatility)によって決 まる(par.79)として、IAS38 は、実体自らのために再評価の頻度を自らが判断することを求 めているようである。但し、無形資産のなかには公正価値に重要かつ不安定な変動を経験して いる資産もあるかもしれないので、もちろん、そうした資産に対しては毎年の再評価を必要と しているのかもしれない。ゆえに、再評価された資産の公正価値がその資産の帳簿価額と実質 的に異なる場合には、更なる再評価が必要であるが、公正価値に僅かな変動しかない無形資産 には、実務上の便宜(簡便性)から、そうした頻繁な再評価は必要ではない(par.79)。  ③ 再評価による帳簿価額の修正に関する会計処理  再評価を行った結果、(a) 帳簿価額が増加したとき、ならびに (b) 帳簿価額が減少したときは、 次のような会計処理を行う(pars.85-86)。  (a) 帳簿価額が増加したとき  無形資産の帳簿価額が再評価の結果として増加する場合(帳簿価額<再評価額の場合) には、その増加額をその他の包括利益として認識し、再評価剰余金の見出しで株主持分に 計上(累積)しなければならない。但し、以前に費用として認識された同一資産の再評価 による減少額の戻入れ(=以前に費用認識された減損の回復)は、その戻入額(=回復額) の範囲まで、再評価増加額を「損益」(利益)として認識しなければならない。  (b) 帳簿価額が減少したとき  無形資産の帳簿価額が再評価の結果として減少する場合(帳簿価額>再評価額の場合) には、その減少額を「損益」(費用)として認識しなければならない。但し、当該資産につ いて再評価剰余金に存在する貸方残高の範囲まで、再評価減少額をその他の包括利益とし

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て認識しなければならない。なお、その他の包括利益として認識された減少額は、再評価 剰余金の見出しで株主持分に計上(累積)された額から減額される。  このように、IAS38 では、再評価増加額をその他の包括利益として認識し、再評価剰余金の 見出しで株主持分に計上(累積)するとともに、再評価減少額を費用処理することによって、 より慎重な(保守的な)会計処理を行っているということができる。  株主持分に含まれる再評価剰余金累計額は、その剰余金が実現される場合に留保利益(利益 剰余金)に直接振替えられるかもしれない(par.87)。剰余金全体は、資産の廃棄または処分 により実現されるかもしれないし、剰余金のなかには、資産が実体により使用されるときに実 現される剰余金もあるのかもしれない(par.87)。後者のように、資産が使用されるときに剰 余金が実現される場合には、実現された剰余金の額は、資産の再評価後の帳簿価額に基づく償 却額と当該資産の歴史的原価に基づいて認識されたであろう償却額との差額であり9、再評価 剰余金から留保利益(利益剰余金)への振替は、「損益」(profit or loss)を通じては行われない (par.87)ことになっている。それゆえ、この振替10は、その他の包括利益で以前に認識され た損益を「リサイクリング」(recycling)することと同一ではないことに注意する必要があろう。  無形資産が再評価される場合、再評価時点の償却累計額は、(a) 再評価後の資産の帳簿価額 がその再評価額と等しくなるように資産の償却控除前帳簿価額の変動に比例して修正される か、または (b) 資産の償却控除前帳簿価額と相殺され、相殺後の純額が資産の再評価額に修正 されるかのいずれかによって処理されることになる(par.80)。なお、実務上、(a) のいわゆる 「比例法」(proportionate method)は、資産の純帳簿価額を、(無形資産のケースでは稀である と考えられる)指数を使用して償却済取替原価に再評価する場合にのみ、使用されるようであ る11  ④ 再評価される無形資産の種類のなかの資産に活発な市場が存在しない場合  ところで、ある資産に活発な市場が存在しないため、再評価された無形資産の種類のなかの この無形資産を再評価できない場合には、当該資産は、「その取得原価から償却累計額および 減損損失累計額を控除した額」で繰越されなければならない(par.81)。  また、無形資産の公正価値を決定するために使用された市場が活発な市場の要件を満たさな くなった場合には、実体は無形資産の再評価を中止しなければならず、その時点から評価は「凍 結される」(frozen)ことになる12。評価が凍結された場合、資産の帳簿価額は、活発な市場 9 この差額は、実務上、次の二つのことを意味するという。①再評価モデルを適用する実体は、再評価剰 余金のどのくらいが実現されたのかを決定するために、資産の歴史的原価と再評価額の双方を追跡する ことが必要であろう。さらには、②どの再評価剰余金も、関連する資産の耐用年数にわたって償却され る。ゆえに、重要な下向きの再評価の場合には、下向きの再評価を相殺しうるだけの利用可能な比較的少 額の再評価剰余金が存在することを意味する。The International Financial Reporting Group of Ernst & Young,

op.cit., p.935.

10 この振替は、その他の包括利益ではなく「株主持分変動表」の行の表示項目(line item)として示される。

11 The International Financial Reporting Group of Ernst & Young, op.cit., p.936. 12 Ibid., p.936.

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に照らした「直近の再評価日の資産の再評価額からその後の償却累計額およびその後の減損損 失累計額を控除した額」でなければならない(par.82)。  活発な市場がもはや再評価された無形資産のために存在しないという事実は、資産が減損し ているかもしれないということ、およびその資産が国際会計基準第 36 号(IAS36)「資産の減 損」13に従ってテストされる必要があるということを示している(par.83)。  なお、資産の公正価値を、その後の測定時点で活発な市場を参照することにより決定できる 場合(以前に再評価された資産の活発な市場が後の時点で現れてくるような場合)には、「再 評価モデル」は当該時点から適用される(par.84)ことになる。 3.無形資産のなし崩し償却  以上のように、IAS38 では、無形資産の当初認識後の測定について、二つの測定モデルが認 められているわけであるが、ここでは、それらのうち「原価モデル」を取り上げて詳細に検討 してみたいと思う。  IAS38(原価モデル)における無形資産の当初認識後の測定では、「なし崩し償却」という 投下貨幣資本の秩序的・規則的な回収・維持計算(損益法)を行うとともに、併せて、毎報告 期末に減損の兆候の有無を検討し、減損の兆候があれば、下方修正だけの「減損テスト」14(い わゆる「実地棚卸」;棚卸法)も実施し、実際に回収可能額が帳簿価額を下回っている場合には、 回収可能額まで評価減(減損)されることになるわけである。減損損失は、このような棚卸法 的手法を用いて算定されるものの、あくまで原価回収計算の枠内で実施されており、取得原価 を上限として認識されているにすぎないのである。したがって、減損テストの考え方は、伝統 的なコスト・アプローチ(投下貨幣資本の回収・維持計算という大きな枠組)のもとで行われ る(広義の)原価配分のルールの適用または不規則な原価配分とみることもできるのではない だろうか。  ゆえに、無形資産の当初認識後の測定として行われる「なし崩し償却」と「減損」のいずれ もが、投下貨幣資本の回収・維持計算(原価回収計算)の大きな枠組のなかで実施されている にすぎないと考えられる。以下では、特にこの点に留意しながら、IAS38(原価モデル)の規 定に沿って詳細な検討を加えてみたいと思う。 (1)無形資産の耐用年数の評価  「無形資産の耐用年数を評価すること」とは、耐用年数を「有限か/不確定か」(finite or in-definite)に二分することであって、そのことにより、当該無形資産を耐用年数にわたって償却 すべきか、非償却とすべきかが自ずと決まってくるわけである。つまり、耐用年数を「有限か /不確定か」に評価したうえで、有限の耐用年数をもつ無形資産は償却されるが、不確定な耐 13 IASB[2010]International Accounting Standard 36 (IAS36), Impairment of Assets.

14 回収可能額が帳簿価額を下回っていないかどうか(帳簿価額と比較して回収可能性─収益性─が低下し

ているかどうか)の具体的な確認作業を行うことを指しており、帳簿価額を上限とする低価法の適用に ほかならない。

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用年数をもつ無形資産は償却されない(par.89)のである。

 IAS38 の定義によれば、「耐用年数」とは、(a) 資産が実体により使用可能であると予想され る期間、または(b)実体により資産から得られると予想される生産単位数(または類似の単位数) を意味している(par.8)。ただ、耐用年数と一概に言っても、償却方法としての「生産高比例法」 (unit of production method)が妥当する場合のように、必ずしもその耐用年数の時の長さ(期間) ではなく、当該耐用年数を構成する生産単位数(または類似の単位数)として表現される場合 もあることに注意する必要があろう。  無形資産の会計は、その耐用年数に基づいており、無形資産に有限の耐用年数があるとみな される場合には、それらの耐用年数にわたって償却しなければならないが、一方、無形資産に 不確定な耐用年数があるとみなされる場合には、償却しないことになっている。したがって、 改訂された基準では、従来の、耐用年数について「20 年を超える場合の反証の規定」15は削 除されることになった。この「20 年」という推定の最長耐用年数は、必ずしも企業の経済的 実態を忠実に反映(描写)しているとはいえず、何故、「20 年」をもって、その目安(=境界) としているのかという理由・根拠自体も定かではない。表現的に忠実であるためには、「無形 資産についての推定の最長耐用年数の規定」が、「無形資産の償却期間はその耐用年数および 資産に関連するキャッシュ・フロー流列を反映しなければならないとする見解」と論理的に矛 盾することになってしまうからである。むしろ、「20 年」という目安(=境界)よりも、耐用 年数の見積りが「有限か/不確定か」という分類・識別規準(指標)のほうが、「償却か/非 償却か」という分類に直結するため、はるかに有意味であるように思われる。  なお、「無形資産に不確定な耐用年数があるとみなされる場合」とは、具体的には、関連す るすべての要因の分析に基づき、実体にとって資産が正味のキャッシュ・インフローをもたら すと予想される期間について何ら予見できる限度がない場合、を指しており(par.88)、そう した場合に、例えば、恣意的に決められた最長期間(20 年)にわたる当該資産の償却は、却っ て表現的に忠実ではない(par.BC74)と考えられ、結果的に「償却しない」(非償却)という 結論に至ったものと思われる。  無形資産の耐用年数を決定するに当たっては、以下の項目を含む多くの要因を考慮しなけれ ばならない(par.90)。  (a) 実体による当該資産の期待される使用方法および当該資産を他のマネジメントチーム が効率的に管理できるかどうか  (b) 当該資産の典型的な製品ライフサイクルおよび同じような方法で使用される類似のタ イプの資産の耐用年数の見積りに関する公表情報  (c) 技術上、科学技術上、商業上または他のタイプの陳腐化  (d) 当該資産が稼働する産業の安定性および当該資産から産出される製品またはサービス の市場需要の変化 15 耐用年数は 20 年以内の(= 20 年を超えない)期間に制限されるという「反証可能な仮定」(rebuttable presumption)があるとし、例外的な場合(反証可能なケース)に限って、この仮定は反証され、耐用年 数は 20 年より長い期間または不確定とみなされるとする規定のことを指している。

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 (e) 競争企業または潜在的な競争企業による予想される行動  (f)  当該資産から予想される将来の経済的便益を獲得するために必要とされる維持支出の 水準および実体がそのような水準を達成する能力と意図  (g) 当該資産を支配する期間および関連するリースの満了日のような当該資産の使用に関 する法的または類似の制約、および  (h) 当該資産の耐用年数が実体の他の資産の耐用年数に依存しているかどうか。  なお、ここにいう「不確定」(indefinite)という用語は、「無限」(infinite)を意味するの ではない(par.91)。無形資産が正味のキャッシュ・インフローをもたらすと予想される期間 について何ら予見できる限度がない場合に、当該無形資産は不確定の耐用年数をもっている (par.88)とみなしているのである。  ゆえに、無形資産の耐用年数は、資産の耐用年数を見積もる時点で評価された「その稼働能 力の基準」(its standard of performance)に資産を維持するために必要とされる将来の維持支出 の当該水準、および実体がそのような水準を達成する能力と意図を反映しているにすぎないの であって、無形資産の「耐用年数が不確定である」という結論は、資産を「その稼働能力の基 準に維持するために必要とされる支出」(=収益的支出)を上回る「計画された将来の支出」(= 資本的支出)に依存してはならない(par.91)ことになる。  いうまでもなく、この場合に、「資産の耐用年数に何ら予見できる限度がないこと」と「資 産が将来のキャッシュ・フローを創出し続けることを保証するために資産を更新、一新または

改良する能力(ability to renew, refresh or upgrade)」とを混同してはならない16。これは、固定

資産の取得後の追加的支出に関して、会計処理上しばしば問題となる、いわゆる「収益的支出」 (修繕費)と「資本的支出」(改良費)の区別に密接に関連する問題にほかならない。もしこれ らの支出を混同してしまうと、適正な期間損益計算が達成されないことにもなるわけで、資産 をその稼働能力の基準に維持するために必要とされる支出(=収益的支出)の水準を構成する ものを正確に決定することは、実体や経営者の判断を要する重要な問題であるといえよう17  資産の耐用年数を見積もる時点で評価されたその稼働能力の基準に維持するために必要とさ れる支出とは、いわゆる「収益的支出」(単に現状を維持するための支出;日常的に行われる修繕、 維持や保守のための支出)であって、将来のキャッシュ・フローを創出し続けることを保証す るために資産を更新、一新または改良するために発生するかもしれない原価を意味する、いわ ゆる「資本的支出」(資産の価値を高めるような支出;固定資産の能力や能率を増進させたり、 耐用年数を延長させるような支出)との間には、会計処理上、明確な区別が存在するはずであ る。つまり、「収益的支出」は、その支出額を、支出がなされた年度の費用(期間費用)とし て処理するのに対し、「資本的支出」は、その支出額を、固定資産の取得原価に加算する処理 を行うため、固定資産の取得後の追加的支出に関しては、このように、「修繕費」(P/L での費 用処理;支出=費用)と「改良費」(B/S での資産処理;支出→資産→費用)の明確な峻別が 求められているのである。

16 The International Financial Reporting Group of Ernst & Young, op.cit., p.937. 17 Ibid., p.937.

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 ところで、IAS38 は、無形資産の耐用年数に影響を及ぼすかもしれない (a) ~ (h) の 8 項目 にわたる要因を例示列挙したうえで、実体が異なる無形資産の耐用年数の決定にどのように取 り掛かるのかを例証する「説明に役立つ事例」(Illustrative Examples)の形で更なるガイダン スを提供しており、それに加え、(a)「無形資産の耐用年数を過大見積りすること」および (b)「無 形資産の耐用年数を過小見積りすること」の双方に対して、次のような具体的事例を挙げて警 告を発しているのである(pars.92-93)。  (a) 無形資産の耐用年数を過大見積りすることに対する警告の例示  科学技術の急速な変化の歴史を考えれば、コンピュータ・ソフトウェアおよび他の多 くの無形資産は、科学技術上の陳腐化の影響を受けやすい。ゆえに、これらの無形資産 の耐用年数は短期間でありそうである。  (b) 無形資産の耐用年数を過小見積りすることに対する警告の例示  無形資産の耐用年数は、非常に長期となるか、または不確定ですらあるのかもしれない。 不確実性は、慎重主義に基づく無形資産の耐用年数の見積りを正当化するが、そのこと は非現実的に短い耐用年数を選択することを正当化するものではない。  このような無形資産の耐用年数についての詳細なガイダンス、ならびに「無形資産の耐用年 数を過大見積りすること」と「無形資産の耐用年数を過小見積りすること」の双方に対する警 告の具体的例示にもかかわらず、実体は、無形資産の耐用年数を見積もるに際して自ら判断を 行使しなければならないことになっている。つまり、基準は、無形資産の耐用年数の評価に際 しても、原則的な基準や詳細なガイダンスを示すだけで、個別具体的な耐用年数の見積りにつ いては、最終的に実体の自主的な判断に委ねているわけである。ここにもまた、原則のみを 示すだけで詳細な規定を設けない、IAS/IFRS が採用する「原則主義(プリンシプル・ベース) の基準」(principle-based standards)の考え方18が散見されるのである。  対して、日本基準はどうかというと、無形資産は、少なくとも実務上(税務上)、法定耐用 年数を用いて償却されている。いうまでもなく、わが国の税法では、資産の種類ごとに(構造 または用途に応じて)細かく耐用年数を定めており、実務上も、この財務省令「減価償却資産 の耐用年数等に関する省令」別表第一~第六、耐用年数表の定める法定耐用年数を利用して償 却されることが一般的である。このように、わが国で耐用年数があらかじめ細かく法定されて いるのは、税務行政の簡素化と課税の公平性を確保するためにほかならない。ここには、わが 国が採用している「細則主義(ルール・ベース)の基準」(rule-based standards)の考え方が典 型的な形で表れているといえるのではないだろうか。最近の国際会計基準の統合化(コンバー ジェンス)・強制適用(アドプション)の国際的潮流のなかで、税法の規定が逆に企業会計に 影響を与える、いわゆる「逆基準性」の会計実務、さらにはわが国の制度会計を支える「確定 決算主義(基準)」そのものが今後どのようになっていくのか──今後も存続し続けるのか/

18 IAS/IFRS は、英国の「真実かつ公正な概観」(true and fair view)の考え方の影響を強く受け、文字通り、

原則的な基準を示すだけで、個別具体的な問題については、財務諸表作成者(実体)や監査人の判断に委 ねるという基準を採用している。したがって、原則のみを示すだけで、詳細な規定は設けていない。日 本や米国が採用する「細則主義の基準」の考え方とは対照的である。

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廃止されるのか──は誠に興味深いところでもある。  ところで、契約上またはその他の法的権利から生じる無形資産の耐用年数は、契約上または その他の法的権利の期間を超えてはならないが、実体がその資産を使用すると期待する期間次 第でより短いかもしれない(par.94)。  無形資産の耐用年数に影響を及ぼす要因(ファクター)としては、「経済的要因」(economic factors)と「法的要因」(legal factors)の二つがあり、それらのうち、経済的要因は、将来の 経済的便益が実体によって受け取られる期間を決定するのに対し、法的要因は、これらの便益 の入手可能な権利を支配する期間を制限するかもしれない(par.95)と考えられている。ゆえに、 無形資産の耐用年数は、これら二つの要因によって決定される期間のいずれか短いほう、つま り、「実体が無形資産からの経済的便益を獲得すると期待する期間」と「契約上またはその他 の法的権利の期間」のいずれか短いほう、ということになるはずである。  契約上またはその他の法的権利が更新可能な限定された期間にわたって譲渡される場合、無 形資産の耐用年数は、重要な費用なしに実体により更新を裏付ける証拠がある場合にのみ、更 新期間を含むものとしている(par.94)。  例えば、次の (a) ~ (c) のような要因が存在すれば、実体は、重要な費用なしに契約上また はその他の法的権利を更新できるのかもしれない(par.96)。  (a) 契約上またはその他の法的権利が更新される、おそらくは経験に基づいた証拠がある。 もし更新が第三者の同意を条件とするならば、このなかに第三者が同意する証拠が含ま れる。  (b) 更新されるために必要なあらゆる条件が満たされる証拠がある。  (c) 実体にとっての更新の費用が、実体にとっての更新から流入すると期待される将来の 経済的便益と比較した場合に重要でない。  実体にとっての更新の費用が、実体にとっての更新から流入すると期待される将来の経済的 便益と比較して重要でない(重要な費用ではない)場合には、更新期間は耐用年数の見積りの みに加えられるが、それが重要な費用である場合には、原始資産の耐用年数は契約された更 新日で終了し、更新費用は新しい無形資産を取得するための原価として処理されることにな る19。したがって、実体にとっての更新の費用が、実体にとっての更新から流入すると期待さ れる将来の経済的便益と比較して重要な費用であるかどうかを評価する際には、実体は自ら判 断を行使しなければならないことになる。実体には、一種の費用便益分析を行ったうえで、「重 要な費用か/重要な費用でないか」の厳しい「程度判断」が求められることにもなるわけで、 そのため、実体や経営者の主観的・恣意的判断の介入する余地が残されていることにも十分注 意を払っておく必要があろう。  なお、(国際財務報告基準第 3 号(IFRS3)「企業結合」20のもとでの)企業結合において無 形資産として認識された再取得の権利の耐用年数は、その権利が与えられた契約の残りの契約 期間であって、更新期間を含んではならない(par.94)としている。このように、既に被取得 19 The International Financial Reporting Group of Ernst & Young, op.cit., p.941.

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企業に対して付与していた権利(無形資産)を、企業結合によって取得企業が再取得した場合 の例としては、例えば、フランチャイズ契約のもとでの取得企業の商標名を使用する権利、な らびに科学技術のライセンス契約のもとでの取得企業の科学技術を使用する権利(IFRS3, par. B35)などを挙げることができよう。 (2)有限の耐用年数をもつ無形資産  ① 償却期間と償却方法  IAS38 は、有限の耐用年数をもつ無形資産の「償却可能額」21は、その耐用年数わたって規 則的に配分されなければならない(par.97)として、「なし崩し償却」(償却)という投下貨幣 資本(取得原価)の秩序的・規則的な回収・維持計算(損益法)を実施することを明確にして いる。また、このことから、償却の主要目的が「原価(費用)配分の手続」であることも明ら かである。  IAS38(原価モデル)の場合、無形資産の償却可能額(要償却額)は、無形資産の取得原価 からその残存価額を控除して算定されることになるが、それらのうち、残存価額の見積りは、 見積り時点における一般的な価格を用いた「売却処分から生じる回収可能額」(売却費用控除 後の公正価値)であって、耐用年数終了時におけるスクラップなどによる予想正味売却収入を 示している。つまり、無形資産の取得原価から耐用年数終了時の売却処分から生じる回収可能 額を控除した額(=償却を必要とする額)を耐用年数にわたって配分していることになる。ゆ えに、耐用年数全体にわたる償却費の累計額(=耐用年数全体にわたる償却費としての費用回 収額)+残存価額(=耐用年数終了時の売却処分から生じる回収可能額)=取得原価22となっ て、結局のところ、投下貨幣資本の回収・維持計算(=原価回収計算)を行い、資産の取得原 価を上限として認識していることになるわけである。  無形資産の償却は、当該資産が使用可能となるときから開始しなければならない(par.97)。 この場合の「資産が使用可能となるとき」とは、具体的には、「当該資産が経営者により意図 された方法で操業可能となるのに必要な場所と状態にあるとき」(par.97)を指しており、そ のときから償却を開始することになっている。したがって、必ずしも資産を使用開始するとき から償却を開始するのではないことに注意する必要があろう。場合によっては、たとえ実体が 資産を使用していなくても、(この一般的なルールの例外はあるかもしれないが)当該資産が 使用可能であれば、償却されなければならないこともある。  また、無形資産の償却は、(a) 国際財務報告基準第 5 号(IFRS5)「売却目的で保有する非流 動資産および廃止事業」23に従って資産が売却目的保有として分類される(処分グループに 21 資産の取得原価(再評価の場合、取得原価に代わるその他の価額)マイナス残存価額で、要償却額や償 却対象額ともいう。 22 確かに、「償却費としての費用回収額」と「売却処分からの回収可能額」という違いはあるものの、投下 貨幣資本の回収・維持計算(原価回収計算)の観点からは同様に考えてよいと思う。なお、ここでは説 明を単純化するために、減損損失は考慮外としている。

23 IASB [2010] International Financial Reporting Standard 5 (IFRS5), Non-current Assets Held for Sale and Discontinued Operations.

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含まれる)日と (b) 資産が認識中止される日のいずれか早い時点で中止しなければならない (par.97)。ゆえに、有限の耐用年数をもつ無形資産については、①資産が完全に償却済みか、 ② IFRS5 に従って売却目的保有として分類される(処分グループに含まれる)か、③認識中 止されるまで、償却を継続することになっている(par.117)。単に資産が使用されていないと いう理由だけでは償却を中止してはならないことに注意しなければならない24  なお、償却する際に「使用される償却方法」は、実体により資産の将来の経済的便益が消 費されると予想されるパターンを反映しなければならない(par.97)。さまざまな償却方法が、 資産の償却可能額をその耐用年数にわたって規則的に配分するために用いられる可能性があ るが、IAS38 では、これらの方法には、例えば、「定額法」(straight-line method)、「定率法」 (diminishing balance method)および「生産高比例法」がある(par.98)としている。そこには、 資産の将来の経済的便益が消費されると予想されるパターン、すなわち、資産の「経済的用役 潜在力(サービス・ポテンシャルズ)の価値費消分」(経済的現実)をより忠実に反映させよ うとする意図が窺えるのである。  だが、とりわけ、無形資産については、実務上、将来の経済的便益が消費されると予想さ れるパターンを信頼性をもって決定できないことが多いのではないかと思われる。そこで、 IAS38 では、当該パターンを信頼性をもって決定できない場合には、「定額法」を使用しなけ ればならない(par.97)ともしているわけで、通常は、「定額法」が多用されることになるの ではないだろうか。もし、「定額法」以外の償却方法が使用されるならば、当然、その方法は、 資産の「経済的用役潜在力の価値費消分」(経済的現実)を正確に反映(描写)できていなけ ればならないはずである25  例えば、ある特定のライセンス(特許権などの使用権)がその保有者に有限数量の製品を生 産する権利を与えているような状況にあっては、資産の「経済的用役潜在力の価値費消分」(経 済的現実)をより忠実に反映(描写)するために、当該ライセンス(特許権などの使用権)を、「定 額法」以外の「生産高比例法」によって償却するほうがより適切であろうと思われる。このよ うな場合には、資産の経済的現実(または経済的実態)に即した最も適切な償却方法が選択さ れることになるのかもしれない。また、ある状況では、「収益に基づく償却方法」(revenue-based method of amortisation)が適切であるかもしれないが、その適用は極めて限定的で、関連する 収益を信頼性をもって見積もることができ、かつ、そのような償却方法を使用することが、資 産の経済的便益が消費されると予想されるパターンを反映する場合にのみ、適用されることに なろう26  資産に用いられる償却方法は、その資産で具体化される将来の経済的便益の予想される消費 パターンに基づいて選択され、その償却方法は、それらの将来の経済的便益の予想される消費 24 この資産が使用されていないという事実は、償却の中止とはならないが、減損の兆候をもたらすことに なるのかもしれない。

25 Bruce Mackenzie, Danie Coe Tsee, Tapiwa Njikizana, Raymond Chamboko and Blaise Colyvas, Wiley IFRS 2011: Interpretation and Application of International Financial Reporting Standards, John Wiley & Sons, Inc., 2011, p.378. 26 The KPMG International Financial Reporting Group (ed.), op.cit., p.335.

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パターンに変化がなければ、各期間を通じて一貫して適用される(par.98)ことになる。いう までもなく、経営者の利益操作を未然に防止するとともに、財務諸表の期間比較可能性を確保 するためには、資産の償却方法についての「継続性」(一貫性)が求められなければならない はずである。  さらに、償却により耐用年数にわたって配分された各期の償却費は、「費用」(営業費用)と して認識されなければならないが、但し、別の基準が他の資産の帳簿価額に含めることを許容 または要求している場合は、当然、除外される(par.97)ことになる。償却費は、ふつう「費用」 (期間費用)として認識されるが、資産で具体化される将来の経済的便益が費用を生じさせる のではなく、実体により他の資産を製造する過程で賦課されることもある(par.99)。例えば、 製造工程で使用される無形資産の償却費が棚卸資産の帳簿価額に含まれるように、これらの場 合には、償却費は、その他の資産の原価の一部を構成し、当該資産の「帳簿価額」(製品原価) に含まれる(par.99)ことになる。これは、「期間費用」(ピリオド・コスト)と「製品原価」(プ ロダクト・コスト)の相違として一般に知られているもので、会計処理上、次のような大きな 違いが生じてくるのである。  周知のとおり、「期間費用」(P/L での費用処理)は、発生した費用のうち、製品の生産に直 接必要とされないもので、原則として、それが発生した会計期間の収益に期間的・間接的に対 応させるのに対し、「製品原価」(B/S での資産処理)は、一定単位の製品(半製品・仕掛品を 含む)に集計された原価で、原則として、その製品が販売された会計期間の収益(売上収益) に個別的・直接的に対応させるものにほかならない。  ② 償却期間と償却方法の見直し  有限の耐用年数をもつ無形資産の償却期間と償却方法は、少なくとも各会計年度末に見直さ れなければならない(par.104)。資産の予想耐用年数が以前の見積りと異なる場合には、それ に応じて償却期間を変更しなければならないし、当該資産で具体化される将来の経済的便益の 予想される消費パターンに変更があった場合には、その変化したパターンを反映するように償 却方法を変更しなければならない(par.104)。これらの償却期間と償却方法の変更は、国際会 計基準第 8 号(IAS8)「会計方針、会計上の見積りの変更および誤謬」27に従って、「会計上

の見積り変更」(changes in accounting estimates)として処理し、当期および将来の各期間の償

却費を修正するにとどまる。いわゆる「プロスペクティブ方式」(将来を見越して修正する方法) といわれるもので、国際会計基準第 16 号(IAS16)「有形固定資産」28と同様、償却期間や償 却方法の変更の影響の「遡及的修正」(いわゆる「キャッチ・アップ方式」や「レトロスペクティ ブ方式」により過去に遡って修正する方法)は認められていないのである。  ところで、IAS38 は、無形資産の耐用年数の間にその耐用年数の見積りが不適切であること が明らかになる可能性がある場合として、結果的に「償却期間が延長されることになる場合」 27 IASB [2010] International Accounting Standard 8 (IAS8), Accounting Policies, Changes in Accounting Estimates

and Errors.

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と「償却期間が短縮されることになる場合」のそれぞれについて判断の拠り所(手掛かり)と するために、次のような二つの具体的な事例を挙げている(par.105)。一つは、無形資産の状 態を改善・改良する「取得後の追加的支出」(資本的支出)によって、結果的に資産の耐用年 数が延長される可能性がある場合であり、もう一つは、「減損損失の認識」によって、結果的 に償却期間(耐用年数)が短縮される可能性がある場合である。  また同様に、判断の拠り所(手掛かり)とするために、無形資産から実体に流入すると予想 される将来の経済的便益のパターンは時間的な経過を通じて変化するかもしれないとして、結 果的に「償却方法の変更」が必要となる可能性のある二つの具体的な事例も併せて示している (par.106)。一つは、定額法よりも定率法による償却方法のほうが適切であることが明らかと なる場合であり、いま一つは、ライセンス(特許権などの使用権)によって表される権利の行 使が、事業計画の他の部分についての行為が未決定であるために延期されるかどうかという場 合であって、この場合には、後の期間まで資産から生じる経済的便益を享受できないかもしれ ない。  なお、これらの償却期間や償却方法の変更について、実体は、「継続性の原則」との関係を 常に念頭に置きながら、慎重かつ適正な判断を下す必要があろう。資産の予想耐用年数が以前 の見積りと異なる場合の「償却期間の変更」、ならびに当該資産で具体化される将来の経済的 便益の予想される消費パターンに変更があった場合の「償却方法の変更」については、先の具 体的事例も判断材料としながら、最終的には実体の自主的判断に委ねられることになるわけで あるが、ここでも実体には極めて厳しい「程度判断」が求められている。実体や経営者の自由 な「利益操作」を封じるためにも、正当な理由がない限り、いったん採用した会計処理の方法 は各期間を通じて継続して適用しなければならないとする「継続性の原則」の要請との関連で しばしば問題となるところでもあり、これらの変更に際しても、特に実体や経営者による慎重 かつ適正な判断が求められているのである。  ③ 残存価額  無形資産の「残存価額」とは、当該資産が既に寿命に達し、かつ耐用年数末に予想される状 況にある場合に、見積処分費用を控除した後の、実体が、現在、資産の処分から獲得するであ ろう見積額(par.8)、すなわち、見積り時点における一般的な価格を用いた「売却処分から生 じる回収可能額」(売却費用控除後の公正価値)のことをいう。  だが、IAS38 は、有形固定資産とは異なり、有限の耐用年数をもつ無形資産の残存価額を、 次のいずれかに該当する場合を除き、ゼロであると仮定しなければならない(par.100)とし ている。  (a) 資産の耐用年数末に、第三者によりその資産を購入する「約定」(commitment)がある か、または  (b) その資産に活発な市場が存在しており、しかも   (ⅰ) 当該市場を参照して残存価額を決定でき、かつ   (ⅱ) その資産の耐用年数末にそうした市場が存在する可能性が高い。  つまり、無形資産に対して残存価額を割り当てることができるのは、(a) 無形資産の耐用年

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数末(利用期間末)に購入者(第三者)から一定額を受け取る約定がある場合か、または (b) 無形資産に活発な市場があり、その市場を参照して残存価額を決定でき、かつ耐用年数末の残 余資産に対しても活発な市場が存在する可能性が高い場合に限られるのである。それゆえ、第 三者によりその資産を購入する約定がない場合には、活発な市場の存在の三要件が極めて厳し いだけに、そもそも残存価額がゼロ以外であることを立証することはできそうにもない。その 場合は残存価額をゼロとしなければならないということであろう。  有限の耐用年数をもつ無形資産の償却可能額は、資産の取得原価からその残存価額を控除し て決定されるが、もし残存価額がゼロ以外であったとすれば、実体が無形資産をその経済的耐 用年数の終了前に処分しようと思っていることを意味することになるわけである(par.104)。  資産の残存価額の見積りは、耐用年数末に達しており、その資産が使用される状況と同様の 状況で使用している類似の資産の売却のために、見積り時点における一般的な価格を用いた「売 却処分から生じる回収可能額」(売却費用控除後の公正価値;FVLCS)に基づいて行われる (par.102)。なお、残存価額は、少なくとも各会計年度末に見直され、資産の残存価額の変更は、 IAS8 に従って「会計上の見積り変更」として処理される(par.102)ことになっている。この ように、残存価額の見直しもまた、「会計方針の変更」ではなく、「会計上の見積り変更」とし て処理しているために、残存価額の変更の影響の遡及的な修正は認められていないのである。  無形資産の残存価額は、資産の帳簿価額と等しくなるか、またはそれ以上の額まで増加させ ることができるが、もしそうであるならば、その残存価額が、その後、資産の帳簿価額以下の 額に徐々に減少するまでの間、資産の償却費はゼロである(par.103)ということになろう。 (3)不確定な耐用年数をもつ無形資産  不確定な耐用年数をもつ無形資産を償却してはならない(par.107)。但し、その場合には、 IAS36「資産の減損」に従って、実体は、不確定な耐用年数をもつ無形資産に対し、(a) 毎年、 および (b) 無形資産が減損しているかもしれない兆候があるときはいつでも、当該資産の帳簿 価額とその回収可能額を比較することにより、減損テストを実施することが求められている (par.108)。  例えば、貸借対照表に資産計上された買収ブランドについては、通常、体系的・規則的な償 却は行われていない。その場合の買収ブランドの「非償却」の論拠は、概ね次のようである。  (a) ブランドの経済的見積耐用年数は不確定であるとみなしている。特に最近は「非償却」 の論拠として経済的見積耐用年数を不確定であるとみなす傾向が一段と強まっているよ うである。なお、いうまでもなく、IAS38 は、「非償却」の論拠としてこの考え方を支持 している。  (b) 「ブランド維持支出」29(ブランドの価値を現状のまま維持するために必要な継続的な マーケティング支出や広告支出など)がすでに損益計算書に費用として計上されており、 29 「ブランド維持支出」(収益的支出)は、市場におけるブランドの地位を維持するために必要とされる継 続的な支援の水準(レベル)を指し、一方、「ブランド開発支出」(資本的支出)は、市場におけるブラ ンドの地位を改善するための支出、または新しい市場でのブランドの地位を確立するための支出を指す。

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さらに同額の償却費を費用計上すれば、費用の「二重計算」となってしまう。そこで、 この費用の二重計算を避けるために、償却費のほうを「非償却」とするわけである。こ れは、いわゆる「維持/代替(置換)問題」30(maintenance/substitution)と称されるも ので、これらのうち「維持アプローチ」、つまり、最初に貸借対照表に資産計上されたブ ランドが時の経過を通じてもなお維持されているとみるアプローチのほうを採用したも のにほかならない。かつてのキャドバリー・シュウェップス(Cadbury Schweppes p.l.c.) ──その後、キャドバリーは、クラフト・フーズ(Kraft Foods Inc.)に買収され、その一 部となっている──が採用していた会計方針である。  因みに、買収ブランドを資産計上している英国企業 5 社の 2010 年度年次報告書の会計方針 や財務諸表注記をみてみると、「非償却」の論拠として (a) の考え方が採用されていることが わかる31(表1を参照)。 表1 買収ブランドを資産計上している英国企業5社の「非償却」の論拠 企業名 会計方針や財務諸表注記 ディアジオ (Diageo plc) *資産計上されたブランドは不確定な経済的耐用年数をもっているとみ なされ、それゆえ償却されていない。これらのブランドは、それらが販 売されるすべての主要市場において、不確定に更新可能である商標権(ト レードマーク)によって保護されている。これらのブランドの耐用年数 を制限する、どの法的、規制的または契約上の条項もそこに存在すると は思われない。 レキットベンキーザー (Reckitt Benckiser plc) *ブランドの耐用年数が不確定であると決定される場合を除き、ブラン ドは経済的耐用年数にわたって償却される。(中略)事業の安定的な長 期性およびブランドの永続性により、特定の買収ブランドに不確定な耐 用年数を適用することは適切である。 グラクソ・スミスクライン (GlaxoSmithKline plc) *ブランドが実質的かつ長期的である価値をもっている場合、およびブ ランドが、性質上、契約上または法的であるかまたは取得された事業の 残りとは別個に売却されうるかのどちらかの場合に、第三者から取得さ れた事業の公正価値の一部として、買収ブランドは別個に評価される。 経済的耐用年数が不確定であると考えられる場合を除き、ブランドは 20 年までの見積耐用年数にわたって償却される。 ユニリーバ (Unilever Plc) *不確定な耐用年数をもつ無形資産は、主として、それらが正味キャッ シュ・インフローをもたらすと期待される期間に何ら予見できる限度が ない、それらの商標権(トレードマーク)からなっている。われわれの ブランドの力と永続性ならびにマーケティング支援の水準(レベル)が 与えられたものとすると、これらの無形資産は不確定な耐用年数をもつ と考えられる。 WPP (WPP plc) *コーポレート・ブランド名の企業広告の性質、立証された長期間にわ たるマーケット・リーダーシップと収益的な営業活動を維持する能力お よびそれらの価値を開発し、価値を高めるというグループのコミットメ ント(公約)ゆえに、当該グループの特定のコーポレート・ブランドは 不確定な経済的耐用年数をもつと考えられる。 30 維持か/代替(置換)か、といわれる問題で、「代替(置換)アプローチ」、つまり、買収ブランドは時 の経過とともに減価するけれども、その分だけ徐々に新しい自己創設ブランドに置き換えられていると みるアプローチのほうを採用し、かつ測定上の困難や支出額基礎がないことなどを根拠に自己創設ブラ ンドの資産計上を認めない場合には、「要償却」(償却必要説)に繋がっていくと考えられる。 31 各社ホームページのなかの 2010 年度年次報告書の会計方針や財務諸表注記から抜粋したものである。

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表2 IAS38 における無形資産の償却/非償却 耐用年数に基づく無形資産の分類 取得後の測定 有限の耐用年数をもつ無形資産 無形資産の償却可能額を当該耐用年数にわたって償却 不確定な耐用年数をもつ無形資産 非償却  ① 耐用年数評価の見直し  償却されていない無形資産の耐用年数は、事象および状況が当該資産の不確定な耐用年数評 価を引続き支持するかどうかを決定するために、毎期見直されなければならない(par.109)。 もし支持することができなければ、不確定な耐用年数から有限の耐用年数へと変更することに なるが、「不確定から有限への耐用年数評価の変更」は、IAS8 に従って無形資産をその残りの 耐用年数にわたって将来を見越して償却することにより、「会計上の見積り変更」として処理 されなければならない(par.109)。この場合にも、いわゆる「プロスペクティブ方式」による 修正を行い、変更の影響の遡及的修正は行わないのである。  IAS36 に従って、不確定ではなく、有限として無形資産の耐用年数を評価し直すことは、当 該資産が減損しているかもしれない指標(兆候)である(par.110)と考えられる。結果とし て、実体は、IAS36 に従って決定される回収可能額を、帳簿価額と比較し、回収可能額を上回 る帳簿価額を減損損失として認識することにより、当該資産に対して減損テストを実施する (par.110)必要がある。 表3 IAS38 における償却期間、償却方法および残存価額の見直しと変更 耐用年数に基づく無形資産の分類 償却期間、償却方法および残存価額の見直しと変更 有限の耐用年数をもつ無形資産 *無形資産の償却期間、償却方法および残存価額を、少 なくとも各会計年度末に見直さなければならない。 *無形資産の償却期間、償却方法および残存価額の変更 を、「会計上の見積り変更」として処理し、当期および将 来の各期間の償却費の修正にとどまる(プロスペクティ ブ方式による修正)。ゆえに、償却期間、償却方法およ び残存価額の変更の影響の遡及的修正は認められていな い。 不確定な耐用年数をもつ無形資産 *償却されていない無形資産の耐用年数を、事象および 状況が当該資産の不確定な耐用年数評価を引続き支持す るかどうかを決定するために毎期見直さなければならな い。 *不確定な耐用年数評価を支持することができなけれ ば、不確定から有限への耐用年数評価の変更を、「会計上 の見積り変更」として処理し、当該無形資産の残りの耐 用年数にわたり将来を見越して償却することになる(プ ロスペクティブ方式による修正)。ゆえに、変更の影響の 遡及的修正は認められていない。

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(4)減損損失  減損損失は、資産の帳簿価額がその回収可能額を上回るだけの額であり(par.8)、無形資産 が減損しているかどうかを決定するために IAS36 を適用する(par.111)ことになっている。 詳細な規定は、無形資産についての専門的な基準である IAS38 ではなく、有形固定資産をも 含む「資産の減損」についての専門的な基準である IAS36 でなされており、そこでは、①実 体が、いつ、どのようにその資産の帳簿価額を見直すのか、②実体は、どのように資産の回収 可能額を決定するのか、ならびに、③いつ減損損失を認識するのか、あるいは戻し入れるのか などについて詳しく説明されている(par.111)32  「減損見直し」(減損テスト)の実施時期については、IAS36 のなかで詳しく規定されており、 その規定によれば、次のようになっている(IAS36, par.9)。  まず、償却対象となっている有限の耐用年数をもつ無形資産は、毎報告期末に減損の兆候が あるかどうかを評価し、減損の兆候があれば、減損テストを実施しなければならない。つまり、 その有限の耐用年数にわたって体系的・規則的になし崩し償却されるとともに、毎報告期末に 減損の兆候があるかどうかを評価し、減損の兆候があれば、「減損見直し」(減損テスト)も並 行して行われることになるわけである。  このように、「なし崩し償却」(投下貨幣資本の秩序的・規則的な回収・維持計算;損益法) と「毎報告期末における減損の兆候の評価、ならびに減損の兆候があった場合の減損テスト」(毎 報告期末における帳簿価額と回収可能額の大小関係の確認作業、ならびに減損の兆候があった 場合の回収可能額までの評価減;棚卸法)が、まさに二重に実施されているため、過度に保守 的な配慮や幾分冗長な会計処理も見受けられるように思われる。その背景には、なし崩し償却 だけでは投下貨幣資本の回収・維持計算としては十分でない(=経済的現実を忠実に反映でき ていない)ことを認識したうえで、有限の耐用年数をもつ不確実かつ不安定な無形資産に対し て、減損を通じて、でき得る限り確実な早期の資本回収(=費用の回収)を図ろうとする意図 が明瞭に窺えるのである。  さらに、償却対象となっていない不確定な耐用年数をもつ無形資産、および未だ使用されて いない無形資産は、毎報告期末に減損の兆候があるかどうかを評価し、減損の兆候があれば、 減損テストを実施しなければならない。それに加えて、減損の兆候があるかどうかに関係なく、 毎報告期間内のいつでも減損テストを実施しなければならず、しかも毎年同じ時期に実施しな ければならないことになっている。  資産計上した無形資産に対して体系的・規則的ななし崩し償却が行われないのであれば、そ の代わり、毎報告期末に減損の兆候の評価を行い、減損の兆候があれば、減損テストを実施す るとともに、さらに、減損の兆候があるかどうかに関係なく、毎報告期間内のいつでも、しか も毎年同じ時期に減損テストを実施しなければならない。そのため、報告期末において減損の 兆候がある場合は、結果として、年一回行われる減損テストに加え、報告期末にも減損テスト を実施しなければならず、この場合には、やや慎重かつ過重ともいえる二重の減損テストが課 されることになるわけである。 32 資産の減損については、主に専門的な基準である IAS36 の規定に従っている。

参照

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