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〈論説〉先決問題と取消訴訟の排他性に関する一考察―違法性の承継問題を手掛かりに―

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Ⅰ は じ め に

「取消訴訟の排他的管轄」ないし「取消訴訟の排他性」(以下,「取消訴 訟の排他性」に呼称を統一する)は,かつての実体的公定力論 に対す る戦後学説の批判 を受けて提示されたものであり, 裁判所が行政処分 の違法を理由にその法効果を否定する方法が当該処分の取消判決に限られ るという運用を指す ものと解するのが一般的である。 本稿では,いわゆる「違法性の承継」問題を手掛かりに,そこで設定さ れる先行行為と後行行為の「先決関係」の内容を明確化し,その上で,同 ─  ─33  中川丈久「行政訴訟の基本構造(二・完)」民商法雑誌150巻2号186~189頁 は,取消訴訟の排他性は,「つまるところ,本案主張の制限      を述べる法理」であ り,「いかなる意味でも管轄の問題ではない」として取消訴訟の排他的管轄とい う用語を用いることを回避する。本稿の考え方も同様の前提に立つ。  実体的公定力論の淵源となった戦前の美濃部達吉の考えについては,美濃部 達吉『公法と私法』(日本評論社,1935年)119頁以下を参照。また,それを受 けて戦後の通説を作り上げた田中二郎の見解については,田中二郎『行政法総 論』(有斐閣,1957年)321~322頁などを参照。  戦後学説の批判的検討の流れについては,宮崎良夫『行政争訟と行政法学 [増補版]』(弘文堂,2004年)284頁以下に詳しい。  塩野宏「行政行為の公定力」続判例展望・別冊ジュリスト39号44頁以下参 照。  中川・前掲注185頁。

先決問題と取消訴訟の排他性に関する一考察

―違法性の承継問題を手掛かりに―

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問題における先決問題の性質を,他の先決問題が設定される訴訟類型(処 分の効力の有無を前提とする争点訴訟や公法上の当事者訴訟と国家賠償請 求訴訟)と比較することで明確化させ,違法承継の原則的遮断の根拠とし て上記の取消訴訟の排他性を設定可能か, 検討を加えることを目的とす る。 以下では,違法性の承継問題に関する学説の整理を行い(Ⅱ), 先行行 為と後行行為の先決関係の内容を明確化し(Ⅲ),違法性の承継が問題と なる場面における先決問題の性質について検討を行い,遮断の根拠につい て一定の結論を得ることとしたい(Ⅳ)。

Ⅱ 違法性の承継問題に関する学説の整理

まず,違法性の承継問題について,大まかに歴史的な議論の変遷を整理 しておく 1 美濃部理論 違法性の承継に係る問題提起は,美濃部達吉に遡ることができる。美濃 部は,「爭の目的となつた處分それ自身に違法の廉があるのではないが, 其の前に行はれた之と關聯する他の行爲が違法である場合に,其の違法性 が爭の目的たる處分にも承繼せらるゝや否やの問題」が「違法性承繼の問 ─  ─34  筆者は,かつて違法性の承継問題に関し,その原則的遮断の根拠として取消 訴訟の排他性を設定可能であると論じた(拙稿「違法性承継論の再考(二)」自 治研究90巻4号(2014年)109頁以下。)。本稿は,その後の学説の動向も見なが ら,再度この問題について整理を試みるものである。  本稿では,主たる学説の簡潔な紹介にとどめる。歴史的な展開の詳細につい ては,拙稿「違法性の承継論の再考(一)」自治研究90巻3号97頁以下,同・前 掲注論文参照。

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題」であるとし, 先行行為の違法が後行処分に承継されることは原則と して「公定力」 によって否定され,例外的に「それ等の行爲が或る單一な 効果を目標として行はるゝ連續した行爲であり,其の雙方の結合に依つて 或る法律上の効果を完成する場合であれば,前の行爲の違法性は当然後の 行爲にも承繼せられ,随つて前の行爲が違法であることを理由として後の 行爲に対して行政訴訟を提起することが出來る」 とされた。 もっとも,注意すべきは,美濃部が当該問題を提起した当時は,列記主 義を採用する行政裁判法の下,行政裁判所によって行政事件が審理されて いたという点である。それ故,先行行為について争う機会が多くの場合で 制限されており,美濃部の提示した違法性の承継に係る事例には,非処分 のものも含まれていた 2 戦後学説の展開  田中理論 戦後,日本国憲法が公布され,「一切の法律上の争訟」が司法裁判所の 裁判権に属せしめられ(憲法76条,裁判所法3条参照), 行政事件訴訟特 例法の制定により概括主義が採用されたが,戦後学説の主流を形作った田 中二郎の見解を見ると,違法性の承継問題に関しては美濃部理論から大き ─  ─35  美濃部達吉『公法判例体系 上巻』(有斐閣,1929年)630頁。  美濃部の述べる「公定力」とは,「公法關係に於いて國家又は公共團體の行爲 が」有する「優越な力」のことを指し,その内容は,「國家又は公共團體の權利 の主張は常に適法なることの推定を受け,これを否定する爲には義務者の側に 於いて訴願又は行政訴訟を提起することを要し,若し又其の提起の許されて居 らぬ場合には全然これに対抗する手段なく,假令其の主張が違法であると信じ ても尚之に従わねばならぬ拘束を受け」させるもの,とされた(美濃部・前掲 注119頁以下。)。  美濃部・前掲注630~631頁。  町村会の予算議決や町村予算における支出行為など(美濃部・前掲注631頁 以下参照。)。

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な変化は生じなかった。すなわち,「行政行為が違法の行為であるに拘ら ず,権限ある機関による取消のあるまで,一応,適法性の推定を受け,相 手方はもちろん,第三者も国家機関も,その効力を否定することを得ない 効力」 たる公定力によって違法性の承継は原則的に遮断され, 例外的に 「相連続する二以上の行為が結合して一の法律的効果の発生を目指してい る場合」 には承継が認められる,とされた(この承継の基準は,美濃部が 論じたものと大きく異なるものではない。また,同基準は後の学説によっ て種々の呼ばれ方がしている ため,本稿では便宜的に「田中基準」と呼 ぶこととする。)。 この田中理論に対しては,承継否定の根拠(すなわち公定力)との関係 で,上記の司法裁判所による行政訴訟の一元的な審理や概括主義の採用と いった制度的前提の大きな変更がどの程度考慮されたのかという点につい て,そして承継の基準(田中基準)との関係で, その基準としての曖昧 さといった点について その後疑問が提示されてきたところである。  遠藤説 その後,遠藤博也によって違法性の承継問題は,田中基準が提示してき ─  ─36  戦後期の学説・判例について事案ごとに類型化し分析するものとして藤田晴 子「行政処分における違法性の承継―最近学説判例の綜合研究」自治研究 26巻10号29頁以下,「同」自治研究26巻12号51頁以下,「同」自治研究27巻 4号55頁以下がある。  田中・前掲注321~322頁。  田中・前掲注325頁。  筆者も「手続・効果の単一性の基準」と呼称したことがある(拙稿・前掲注 98頁参照)。  戦後学説への美濃部理論の不完全な継承については,拙稿・前掲注99~101,104 ~106頁参照。  この点については,Ⅲ,2,で触れる。  遠藤の見解については,遠藤博也『行政行為の無効と取消』(東京大学出版 会,1968年)323頁以下(以下,『無効と取消』という。),同『行政法スケッチ』 (有斐閣,1987年)306頁以下,同『実定行政法』(有斐閣,1989年)114頁以下

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た先行行為と後行行為の実体法上の関係性のみならず,手続保障の観点も 加味されることにより,今日の多くの学説が依拠している“実体面及び手 続面という複合的視野”からの考察が提示された。近時,野呂充によって 遠藤説理解の精緻化が図られており,本稿もその理解を前提とする。 まず,遠藤も,違法性の承継問題を原則的遮断に対する例外的承継の可 否如何という法現象として捉えている。 そして, 以下の2つの場合に例 外的に承継が認められるとする。一つには,田中基準が満たされるような 関係,すなわち先行行為と後行行為との間に「複合的作用」が認められる 場合である。 複合的作用とは,「一定の行政目的実現のために複数の行政 行為が手続的な全体を構成している場合に生ずる」ものであり,かかる場 合には「終局的な行政行為のみならず,先行する諸行為もそれ自体独立に               争うことができるものとされるのであるが                  ,もしも,これを独立に争わず 出訴期間を徒過した場合にも,後の終局的行為を争う段階において,これ ら先行行為の違法性を主張しうる」(傍点引用者)とされる。その理由と しては,その複合的な性格ゆえ,先行行為の段階での争訟提起の「切実性」 ─  ─37 に示される。  野呂充「行政処分の違法性の承継に関する一考察」行政法研究19号41頁以下。 また, 亘理格「フランス都市計画・国土整備法における『違法性の抗弁』論」 行政法研究8号1頁は,特に「法的一体性」要件と,「争訟提起への合理的期待 可能性」要件を同一視するなど(同94頁),野呂の遠藤説理解に少なからず寄与 したものと推察される。  遠藤は,フランスにおける「違法性の抗弁」問題との比較から我が国の違法 性の承継論を考察しているところ,彼の国において違法性の抗弁が原則的に制 限される根拠は,先行行為の「形式的確定」にあるとし(遠藤・前掲注『無 効と取消』324頁及び335頁),それは「ドイツやわが国と事情を同じく」すると していることから(同326~329頁),原則的遮断の根拠を出訴期間徒過による不 可争力に求めているものとも解されるが,他方で我が国の違法性の承継論は出 訴期間の徒過を要件とはしていないとも述べており(同336頁),やや不明確さ を残している。この点につき,拙稿・前掲注117頁注参照。  遠藤・前掲注『無効と取消』325~326頁。

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の欠如が指摘される。もう一つには, 先行行為に対する争訟手段が不十 分な場合である。この点につき,野呂は, 遠藤が挙げた我が国の例が, 極めて短期(公告から10日間)の異議申立期間しか設けていない農地買収 計画の例に限られていることなどから,「遠藤説における争訟手段の不十 分性とは争訟の手段が認められないに等しいような特殊なケースを意味す る」と推測している そして,遠藤が,これらをまとめて,「出訴をしないで争訟期間を徒過 したならば,違法の行政行為の効力を甘受しなければならぬことがある。 しかし,これは,出訴の合理的な可能性と通常の行政行為(引用者注:複 合的作用が働かないような場合)の存在を必要とする」 として「出訴の合 理的な可能性」と「通常の行政行為の存在」を並列的に考察していること, また,仮に野呂の上記推測が正しいとすると,そのような争訟手段の不十 分さは,上記傍点部の場合とは区別して解するのが自然であることからす ると,以上の2つの基準は,それぞれが独自に機能するものとして提示さ れていると解すべきであろう。すなわち,①先行行為と後行行為との間に 複合的作用が認められる場合には, 先行行為に対する争訟手段が十分備 わっている場合であっても, 違法性の承継が肯定され, 逆に②先行行為 に対する争訟手段が認められないに等しい程不十分な場合には,先行行為 ─  ─38  遠藤は,『無効と取消』においては,先行行為に争訟手段が認められた立法趣 旨が,プラスアルファに過ぎない点を強調していたが,後に『行政法スケッチ』 及び『実定行政法』において,このように切実性の欠如というより機能的な観 点が強調されるに至っている。野呂はこの点を明確に指摘する(野呂・前掲注 44頁。)。  遠藤・前掲注『無効と取消』336頁。  野呂・前掲注44頁。  遠藤・前掲注『無効と取消』347頁。  遠藤・前掲注『実定行政法』114頁は,明確に「前段階の処分に対する争訟 の手段が十分なときであっても」と指摘する。

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と後行行為とが複合的作用の働くような関係にない場合であっても,違法 性の承継が認められる,ということになる。もっとも,注意すべきは,遠 藤が「何が本案請求の先決問題を為しているのかという,先決性の判断が まずされなければなら」 ず,そうでなければ「先行行為の違法をもち出す 余地は最初からない」 としている点である。かかる言及からすると,①の 場合は当然のこと,②の場合にも基礎となる「先決」関係が想定されてい るように思われる。遠藤の「先決性」の用語はやや多義的に用いられてい るきらいもあり,この点については,「先行行為と後行行為の関係性」 (Ⅲ,2,)のところで再考する。  小早川・興津説(遮断効果論) 小早川光郎は,行政処分の効力の通用力としての「公定力」とは異なる, 行政機関による認定判断内容に関する効力としての「遮断効果」を提唱し ている。小早川によれば,「遮断効果」とは, 行政処分と後の訴訟での当 事者の主張との間に「実体法上の先決関係」があるにも拘わらず,先行行 為の早期確定や手続の安定等の要請から「政策的選択」として認められる ものであり,このような「遮断効果」が認められる場合には,それが取り 消されない以上,当事者及び裁判所は,行政庁が既になした認定判断(要 件判断)と異なる主張・判断をすることはできないとするものである この小早川説の特徴は以下の点にある。すなわち,①実体法上の先決関係 が認められれば,原則として違法性の承継が認められるとし,個別的な 「政策的選択」の結果として,例外的にその承継が遮断される場合がある ─  ─39  遠藤・前掲注『無効と取消』340頁。  遠藤・前掲注『無効と取消』345頁。  例えば,遠藤・前掲注『実定行政法』114頁は,「先決性」を明確に「複合 的作用」との関係で指摘している。  小早川光郎「先決問題と行政行為」雄川一郎他編『公法の理論 上(田中二 郎先生古稀記念)』(有斐閣,1977年)385頁以下及び390頁以下。

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として,原則と例外を転換した点,②そして「政策的選択」による遮断を 認める結果,そこで重視されるのは早期確定のための充実した手続保障や, 行政法関係や行政過程の安定性といった,いわば「遮断志向」の要素への 着目が見受けられる点である。 また近年,興津征雄も,小早川と同様に,原則的承継と例外的遮断とい う観点から違法性の承継問題を考察する。 興津は,「〔後行〕処分が実体 法上適法であるために充たさなければ要素ではあるが,必ずしも〔後行〕 処分庁が認定判断権を持たないもの」(〔 〕内は引用者挿入)としての 「処分の適法性を基礎づける要素」が先行処分に認められる場合,先行処 分の要件の欠如(違法性)が,実体法上,後行処分の取消請求を基礎づけ る(後行処分を違法たらしめる)こととなり,他方で,行政過程の分節度・ 独立性と,それに対応した争訟機会の保障という手続的な考慮の観点から, 個別的に違法性の承継が遮断される,とする 以上の見解に関して特に言及しておきたいのは,原則と例外の転換とい う点も重要であるが,とりわけ,小早川が指摘する「実体法上の先決関係」 ないし興津が指摘する「先行処分の要件が後行処分の適法性を基礎づける 要素を構成」する関係とは,田中基準が示してきたものよりもヨリ広い概 念である,という点である。 この点についても,「先行行為と後行行為の ─  ─40  興津征雄「違法性の承継に関する一事例分析」佐藤幸治ほか編『行政訴訟の 活発化と国民の権利重視の行政へ(滝井繁男先生追悼論集)』(日本評論社,2017 年)154頁以下。興津自身,小早川説を「筆者なりに再構成したもの」と指摘す る(同155頁注。)。  興津・前掲注156~157頁。なお,この行政過程の分節度・独立性と,それ に対応した争訟機会の保障という手続的な考慮の観点は, 山本隆司による「一 般論として,違法性の承継の有無は,①マクロの行政手続ないし行政過程の分 節度と,②ミクロの権利保護手続の保障度という枠組みにより判断すべきであ る」(山本隆司『判例から探求する行政法』(有斐閣,2012年)183頁)との指摘 と同趣旨である(興津・同157頁注参照。)。

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関係性」(Ⅲ,2,)のところで再度触れることとする。 3 小 括 以上,違法性の承継問題をめぐる主たる学説状況を概観した。まとめる と,違法性の承継問題を「原則的遮断と例外的承継」という法現象として 捉えているのが,戦前の美濃部理論とそれを概ね承継した田中理論,そし て遠藤説といえる。他方で,この原則と例外を転換したのが小早川・興津 説である。また,先行行為と後行行為の関係性という観点からみると,美 濃部理論と田中理論が,概ね,「相連続する二以上の行為が結合して一の 法律的効果の発生を目指している場合」という本稿が田中基準と呼ぶもの で共通しているのに対し,小早川・興津説は,詳細は後述するがこれをよ り広く捉えていると考えられる。遠藤説についても,その「先決」性の用 語にやや多義性が認められるが,田中基準(ないし複合的作用が働く場合) よりもヨリ広い概念を想定している可能性は否定できない。ここも後に詳 述する。

Ⅲ 違法性承継の構造分析と先行行為と後行行為の関係性(先

決関係)

以上の学説状況の整理を踏まえ,次章で先決性の対象の問題を検討する が,その前提として,本章では違法性の承継という法現象の構造分析と, 「先行行為と後行行為の関係性」についての諸説の整理をしておく。なお, 構造分析に当たっては,説明の道具として,以下のようなものを設定する。 先行行為Xの法律要件をa,b(なお,これは単なる例示であり,別に 2つに限る趣旨ではない。)とし,先行行為Xが適法とされるにはX(a, ─  ─41  本章における私見は,拙稿・前掲注119頁注 及び,拙稿「違法性承継論の 再考(三)」自治研究90巻5号109頁注 において記載したものを前提としている。

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b)が満たされる必要がある, とする。同様に, 後行行為Yの法律要件 をc,dとし,後行行為Yが適法とされるにはY(c,d)が満たされる 必要がある,とする。そして,仮に先行行為X,後行行為Yを経て最終的 に達成される法効果を設定可能とする場合には,それをZとし,これが適 法であるためにはZ(a,b,c,d)が満たされる必要がある,とする。 なお,議論の複雑化を避けるため,ここではa~dの各法律要件は,その 欠如 が,X及びYのそれぞれ,そして(設定可能とする場合の)最終的な 法効果Zを違法としうるだけの要件であることを仮定する(従って,以下 では法律要件ではなく,「適法要件」と呼ぶこととする。)。 1 審理構造と飛躍論理の補完 違法性の承継という法現象は,しばしば「後続行為に固有の瑕疵がない 場合でも」 と表現されるように,先行行為の適法要件の欠如(瑕疵)は後 行行為に固有の瑕疵として主張されるものではなく,先行行為の瑕疵が後 行行為の違法性一般という訴訟物を構成する瑕疵として“援用”される点 に特徴がある。その援用が許されるか否かが,いわば承継の認否の問題な のであって,先行行為の適法要件の欠如がそのまま後行行為の違法性一般 という訴訟物の発生要件事実として組み込まれるというのでは,論理の飛 躍がある。そこで,その飛躍を補完する論理として,以下のような指摘が されているところである。  後行行為Yの不文の適法要件を認める見解 一つの考え方は,後行行為Yのいわば不文の適法要件として,先行行為 ─  ─42  要するに,先行行為Xの取消訴訟では,aかbかの少なくともいずれかの欠 如が指摘できれば,取消判決が出されることとなる。X(a,b)はいずれの 要件も欠如していない状況を表している。  小早川・前掲注386頁。

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Xの適法要件が組み込まれる,という理解である。例えば,藤田宙靖は, 課税処分と滞納処分の関係を指して,「課税要件の充足ということは, そ れ自体滞納処分自体の要件でもある」とも考えられるとし,課税要件の充 足が滞納処分の不文の適法要件として要求される理解が成り立ちうること を指摘する。その他,高野修も,実体法上の先決関係は「後行行為を規 律する規範の構成要件を通して生まれる」 のであり,それは「先行行為の 法効果の存在」,即ち「有効であ」って「効果に響くような違法」のない ことが「後行行為の法律要件にとりあげられている場合」 に認められると される。したがって,視覚的に表現すると,後行行為Yの取消訴訟では, Yの適法要件として, Y{c,d, X(a, b)}が満たされるか否かが 争われることとなる(この場合に,結論として違法性の承継が認められれ ば,これがそのまま審理対象となるし,否定されれば,Y(c,d)のみ が審理対象になる)。 もっとも,このように解すると,後行行為の処分庁が,先行行為Xの適 法性について(すなわち,適法要件a及びbの充足の有無について)審査 権限を有していないとされる点との整合性の点で問題がある(仮にそのよ うな審査権限を有しているにも拘わらずそれを看過して後行行為Yを行っ たのであれば,それはY固有の瑕疵となり違法性の承継を認める意味はな くなる)。  後行行為の処分庁の審査権の及ばない要素を設定する見解 そこで, 興津は上記のような先行行為Xの適法要件a, bは,「処分が 実体法上適法であるために満たさなければならない要素ではあるが,必ず ─  ─43  藤田宙靖『新版 行政法総論 上』(青林書院,2020年)237頁。もっとも, これは藤田が仮定的に論じている文脈での言及である。  高野修「違法性の承継問題について」アルテス・リベラレス65号183頁。  高野・前掲注184頁。

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しも処分庁が認定判断権を持たない」ものとしての「処分の適法性を基礎 づける要素」として捉える。後行処分の処分庁には認定判断できないが, 裁判所には審査可能な適法要件の存在の肯定である。この場合, 上記の 審査権限の難点は回避される。視覚化すれば,後行処分の取消訴訟では, Y(a,b,c,d)が満たされるか否かが審査される(網掛け部分は, 裁判所にのみ審査権があることを示している。)。  連続する行政過程によって完成される最終的法効果の違法性を問題 とする見解 興津の見解と同様に後行行為の処分庁の審査権限に係る難点を回避しよ うとするものとして,遠藤の見解がある。遠藤は,後行行為それ自身の違 法性を問題とするのではなく,「最終的行為をまって完成される法律的効 果」の違法性を問題とする。 この最終的法効果は, 後行行為Yによって 発生せられるものではあるが,Yの法効果それ自身ではないとの理解が前 提となっており,それ故,Yの処分庁の審査権限についても問題にならな い。この場合,後行行為Yの取消訴訟では,Z(a,b,c,d)が満た されるか否かが審査される。 記号のみでは不明瞭であるので,事業認定と収用裁決を例にとって視覚 化すると,以下のようになる。 ─  ─44  興津・前掲注156頁注。  その例として,消防長等の同意(建築基準法93条)と建築確認・建築許可を 挙げる(興津・前掲注156頁注。)。人見剛「行政処分の法効果・規律・公定 力」磯部力ほか編『行政法の新構想Ⅱ 行政作用・行政手続・行政情報法』(有 斐閣,2008年)83頁も参照。また,鵜澤剛は,先行処分が後行処分の「前提を 構成している」場合,実体的に先行処分が違法であればそれを前提に行われた 後行処分も当然違法となるとし,課税処分と滞納処分、事業認定と収用裁決, 都市計画決定と都市計画事業認可を例として挙げる(鵜澤剛「確認的行政行為 の性質と違法性の承継」金沢法学62巻1号2021頁参照。)。  遠藤・前掲注『無効と取消』336頁。

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 若干の考察 興津の見解と遠藤の見解は,後行行為Yの取消訴訟における審理の対象 (訴訟物)の捉え方に違いがある。 取消訴訟における訴訟物とは,通説的 な理解からすれば「処分」の違法性一般であり, そうすると後行行為Y の適法要件を裁判所の審理対象と捉える考えの方が自然ともいえる。他方 で,違法性の承継の文脈においては,かねてから先行行為の法効果と後行 行為の法効果とが「結合」することが指摘されてきた。 古くは,(行政裁 判制度下のものであるが)美濃部が以下のような言及をしている。 曰く ─  ─45  兼子一『民事訴訟法体系[増訂版]』(酒井書店,1965年)165頁,雄川一郎 『行政争訟法』(有斐閣,1957年)61頁など参照。 〈事業認定 X〉 a,b=土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること     土地を収用し,又は使用する公益上の必要があるものであ ること,など(土地収用法20条) X固有の法効果=1年以内の申請等の法所定の手続をとることにより土地等 を収用し又は使用することができる地位の付与(対起業者)         収用を受けるべき地位の設定,裁決申請請求権(同39条2 項)や補償金支払請求権(同46条の2)の発生など(対被 収用者) 〈収用裁決 Y〉 c,d=申請に係る事業と告示に係る事業との同一性     申請に係る事業計画と認定申請時の事業計画の同一性(著 しく異ならないこと)(同47条) Y固有の法効果=所有権等の権利関係の変動,明渡義務の設定など(同48条, 49条) 〈最終的法効果〉 Z(a,b,c,d)= 公益的事業のために強制的に土地を収用又は使用す る効果(これが適法であるためには, a,b,c, d全ての充足が必要)

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「總て一定の法律的効果が連續した數個の行爲に依つて始めて完成せられ                                る場合  に於いて,若し其の基本たる行爲が違法であれば,其の以後に行わ はるゝ行爲は,それ自身には適法であるとしても,それに依りて完成せら          れる法律的効果      は違法の効果であつて,違法に人民の權利を毀損するもの 足ることを失はない。此の場合に法律が其の最後の行爲に對してのみ不服 の訴を許して居るとしても,それは未だ効果が完成していない         前に不服を 訴へしむることを適當とするが爲であって,法律の趣意とする所は,單に 最後の行爲のみ分離して訴訟の目的と爲して居るのではなく,違法に發生 した法律的効果に付いて,其の効果を除くが爲に法律上の救済を求むるこ とを得せしめて居るのである」(傍点引用者)。 また,最判平成21年12月 17日民集63巻10号2631頁(いわゆる「タヌキの森判決」)も, 最終的な法 効果という表現は採っていないが,先行行為の効果が後行行為と結合し得 ることを「安全認定は,……建築確認と結合して初めてその効果を発揮す る」として指摘している。このように法効果の結合を認め,かつそれが後 行行為の取消訴訟において争われると考えれば,遠藤のような考え方も取 り得るであろう。 もっとも,(遠藤がその点を意識して論じていたかはともかく)両見解 はあくまで後行行為の処分庁の審査権限に係る難点を回避するための法技 術的な説明の仕方の違いに過ぎないようにも思われる。いずれにせよ, 先行行為Xの適法要件たるa,bについては,裁判所のみが審査権限を有 するという帰結において相違ないのであるから,どちらの見解が妥当かと いう点については本稿では留保しつつ,裁判所のみがa,bという適法要 ─  ─46  美濃部・前掲注632頁。  上記の視覚化した土地収用の例もそうであるように,Zの内容は,単に後行 行為Yの法効果に,先行行為Xの適法要件(法律要件)の内容を若干加えた程 度になることが殆どのように思われる。

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件の審査権限を有する,という上記の帰結をここでは違法性の承継の構造 分析の結論として提示しておきたい。 2 先行行為と後行行為の関係性 次に,以上の審理構造とその帰結を前提に,なぜ 先行行為の適法要件が 後行行為の取消訴訟において審理可能となるのか,すなわち,先行行為X の適法要件a,bといったものが,なぜ別処分たる後行行為Y(ないしそ れによって完成される最終的法効果Z)の適法要件の中に入り込むことが できるのかを検討する必要があるが,結論から言えば,その答えは先行行 為と後行行為の実体法上の関係性に求められる。つまり,先行行為と後行 行為間に,上記のY(a,b,c,d)又はZ(a,b,c,d)という 審理対象を作り上げるだけの関係性が認められて初めて,違法性の承継と いう法現象が認められる基礎 ないし前提 が形成されるのであり(本稿では, このような関係性を「基礎的先決関係」と呼ぶこととする。),具体的に承 継が認められるか否かはそれより先の議論である。 したがってまた, こ のような関係が認められるかは,承継を原則と考えるのか,あるいは遮断 を原則と考えるのかとも関わらない。先行行為と後行行為とのこのような 「基礎的先決関係」が認められなければ,(承継が原則であれ例外であれ) そもそも承継の認否を検討する前提が欠けるからである。 そこで,以下では,このような「基礎的先決関係」がどのような場合に 認められるのか,この点に関連する前章で整理した諸説の考え方を再度整 理しつつ,検討しておきたい。 ─  ─47  後述の通り,本稿でいう「基礎的先決関係」とは,小早川のいう「実体法上 の先決関係」とほぼ同義である。そして,小早川も,実体法上の先決関係が違 法性の承継を認める際の前提であるとする。小早川・前掲注389頁注。ま た,拙稿・前掲注106頁注 参照。また,鵜澤前掲注31頁参照。

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 田中基準と「複合的作用」 美濃部理論と,それを継承し伝統的通説とされてきた田中理論が提示す るのは,「相連続する二以上の行為が結合して一の法律的効果の発生を目 指している」関係である。かかる基準が示す先行行為と後行行為の関係性 については,既に触れたようにその内容の抽象性から後の学説によって批 判がされることがしばしばであった。例えば,一般に違法性の承継が否定 される租税賦課処分と滞納処分も,一つの法効果ないし目的の実現を目指 すものといえるのではないかといった指摘がされる このような批判に対し,野呂は,田中基準を「法効果の単一性の基準」 と呼び,これを「複数の行為が結合して一つの法効果を発生させる場合, 先行行為は,後行行為によって最終的に発生する法効果の要件の一部を認 定する行為」であるとし,一般に違法性の承継が認められてきた土地収用 法上の事業認定と収用裁決の場合においては,事業認定は,「裁決により 土地を強制的に収用又は使用するという法効果を発生させるために,その 前提として,当該法効果の要件の一部を認定する行為であって,事業認定 だけでは意味をなさない」のに対し,租税賦課処分と滞納処分については, 滞納処分は滞納という事態が発生した場合に例外的に行われるものであっ て,「租税賦課処分は, もっぱら滞納処分を行うためになされるわけでは な」く,両処分は「税金を取るという大まかな行政目的の共通性を有する としても,一つの法効果の発生を目的とするとはいえないであろう」と指 摘し,田中基準が「区別の基準として明確でないという批判は,的を射た ものではないように思われる」とする かかる野呂の指摘からは,田中基準が示す関係とは,ア先行行為が最終 的法効果の要件の一部を認定する行為であって,イ後行行為によって完成 ─  ─48  山内一夫『行政行為論講義』(成文堂,1973年)149頁注2参照。  野呂・前掲注38~39頁。

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される法効果のために為されるものでありそれ単独では意味をなさない      も の,という要素を抽出できる。アの関係性のみであれば,上記の興津ない し遠藤の見解に基づいて示されるY(a,b,c,d)又はZ(a,b, c,d)という審理対象を作り上げる関係,すなわち基礎的先決関係を構 成するのは間違いないであろう。もっとも,イが付加されることにより, 田中基準はこれらよりもヨリ狭い関係性を示すものと捉えられる。すなわ ち,一般に田中基準を満たさないとされる課税処分と滞納処分の関係を見 てみても,「課税要件を備えていない者から税金を強制徴収することは許 されない」 はずであり(この点に異論はないであろう),その限りで,課 税要件は,滞納処分(又はそれによって完成される強制的徴収という最終 的法効果)の適法要件を構成するのであり,(最終的に違法性の承継が認 められるか,あるいはそれが否定されて裁判所による審査権限が遮断され るかはさておき)Y(a,b,c,d)又はZ(a,b,c,d)といっ た審理対象を設定する関係性自体を作り上げることは否定できない。そう すると,野呂の指摘する の観点とは,先行行為と後行行為の関係性の枠イ を超えたものと解するのが妥当のように思われ,かつそれは,上述した 「遠藤説」が指摘する「切実性」の観点に吸収されるように思われる。 つ まり,先行行為固有の法効果のみであれば, 最終的法効果との関係では 「無意味」となるからこそ,先行行為を単独で訴訟提起をする「切実性」 が欠けることとなる。そして,この「切実性」の観点は,承継を認めるべ き手続的な救済の必要性を指すものであるから,イの観点は「先行行為と 後行行為の関係性」という実体法上の行為の関係性の観点からではなく, それがあることを前提とする手続的な側面からの具体的な承継の認否の基 準として扱われるべきものである。なお,誤解のないように指摘しておく ─  ─49  小早川・前掲注387頁。

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と,野呂(さらには亘理)も, そもそもこの田中基準と「切実性」ない し「争訟提起への合理的期待可能性」要件を同一視できる(あるいはすべ き)ことを指摘している。しかし,ここで指摘したかったことは,同視で きるのは上記 の部分であって,イ アの部分はなお,実体法上の先行行為と 後行行為との関係性の問題として残留すると考えられる,という点である。 以上を踏まえ,遠藤説の見解を再度見ておく。遠藤説の帰結は,①先行 行為と後行行為との間に複合的作用が認められる場合には,先行行為に対 する争訟手段が十分備わっている場合であっても,違法性の承継が肯定さ れ,逆に②先行行為に対する争訟手段が認められないに等しい程不十分な 場合には,先行行為と後行行為とが複合的作用の働くような関係にない場 合であっても,違法性の承継が認められる,というものであった(Ⅱ,2, 参照)。既に紹介したように,複合的作用とは,「一定の行政目的実現の ために複数の行政行為が手続的な全体を構成している場合に生ずる」もの であるから,仮に遠藤のいう複合的作用が田中基準と同一視できるとする と, これも上記 部分とア  部分に分解して理解することができ, 加えてイ イ 部分が「切実性」という手続的救済の観点からの要請と同視できるとす れば,①の部分は,以下のように言い換えることができる。すなわち,「① ア 先行行為が最終的法効果の要件の一部を認定する行為であって,イ後行 行為によって完成される法効果のために為されるものでありそれ単独では 意味をなさず     ,したがって当事者に先行行為単独での争訟提起をすべき切 実性が認められない場合には,先行行為に対する争訟手段が十分備わって いる場合であっても違法性の承継が肯定される」と。この換言された遠藤 説の①の指摘を見てみると,下線部を実質的に導くのは ではなく,ア イの 切実性の欠如と言える。仮に先行行為に争訟手段が十分に備わっていたと ─  ─50  前掲注参照。  野呂・前掲注42頁はそのように理解する。

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しても,当事者が争訟を提起しようと切実に感じなかったのであれば,そ れを放置し不服申立期間や出訴期間が徒過したとしても,その不利益を甘 受させるのは酷と考えられるからである。そうすると,アが意味するとこ ろとは,結局のところ,違法性の承継の大前提,すなわち上記「基礎的先 決関係」が満たされることを示すものに過ぎないとみるのが妥当であろう。 また,遠藤説の②についても,「先行行為と後行行為とが複合的作用の 働くような関係にない場合であっても」というのは,基礎的先決関係にあ ることすら否定するものではないはずである。そうでなければ,上述の通 り,そもそも違法性の承継の認否の問題は設定すらできないからである。 そうすると,この部分が指摘しているのは,要するに の否定,すなわちイ 「先行行為に対し単独で争訟提起をする切実性が欠けるとはいえない場合 であっても」ということになる。そのような場合には,被処分者のいわば 「防衛本能」 は十分に刺激されるのであり,争訟提起をせずに不服申立期 間や出訴期間が徒過した場合にはその不利益は甘受すべきとも考えられる が,しかし,先行行為に対する争訟手段が認められないに等しい程不十分              である場合には,やはり違法性の承継を認めるべき,という基準というこ とになる。したがって,ここでの「複合的作用の働くような関係」の否定 から は漏れるのであり,この場合にも,違法性の承継の認否を問題とすア る前提としての「基礎的先決関係」の存在が肯定される。 改めて,遠藤が「何が本案請求の先決問題を為しているのかという,先 決性の判断がまずされなければなら」ず,そうでなければ「先行行為の違 法をもち出す余地は最初からない」としつつ,「実体的な法律関係のみに よって決着がつくのは,やはり基本的なところ(または典型的場合)に限 られるのであって,この問題の中心が実質的には権利保護の要請と法的安 ─  ─51  岡田春男『行政法理の研究』(大学教育出版,2008年)97頁(初出同「行政行 為における違法性の承継」民商法雑誌111巻1号16頁。)。

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定の要請の調和にあるものとすれば,争訟手段の如何もかなり重要な意味 をもつ」 としている点を見てみると,これは,上記①の場合でも②の場合 でも,基礎的先決関係があることを前提 に,実質的な承継の認否について は,切実性の観点も含めた「争訟手段の如何」によって決せられる,とい うことを示すものと評価するのが妥当であろう。   の類型ア 次に,田中基準が提示し,野呂がその内容を明確化させた の関係性のア 中身についてみていく。先に「 が意味するところとは,結局のところ,ア 違法性の承継の大前提,すなわち上記『基礎的先決関係』が満たされるこ とを示すものに過ぎない」と述べたが,もう少しその内容を類型化できな いか。 さて,この点については,筆者は既に一度検討を加えている。 要約す ると以下のようになる。考察のスタートは,小早川の提示する「実体法上 の先決関係」 と,遠藤が複合的作用とは異なる意味で指摘する「先決性」 に関する言及である。すなわち,小早川は,課税・滞納処分間に「課税要 件を備えていない者から税金を強制徴収することは許されない」という形 で認められるような「常識的な判断」によって実体法上の先決関係は認め ─  ─52  遠藤・前掲注『無効と取消』340~346頁。  拙稿・前掲注88~91頁参照。もっとも,そこにおいては田中基準を指す 「手続・効果の単一性」を「実体法上の先決関係」とみなすような表現を採って いたが,本稿においてこの部分は修正する。「実体法上の先決関係」ないし本稿 でいうところの「基礎的先決関係」は,田中基準中の に該当する部分に限定ア される。なお,拙稿「違法性承継論の再考(四・完)」自治研究90巻6号92~94 頁も参照。  小早川は,「実体法上の先決関係」という用語を用い,田中基準は「先決性に 有無についての一つの観点を表現するもの」に過ぎないとする(小早川光郎 『行政法講義(下Ⅱ)』(弘文堂,2005年)188頁。)。これは,田中基準中の をイ 意識した言及と理解可能であろう。

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られるとし,遠藤は「最終的行為を以て完成される法律的効果の方より 考察して,まず,之を違法ならしめる諸事由を探求することによって一定 事由に至り,ついで,それが先行行為の違法を構成するもの」 である場 合,あるいは「先行行為の具体的違法事由が本案請求の成否にとって決定 的なもの」 である場合に実体的な法律関係が認められるとする。遠藤の指 摘は,まさにZ(a,b,c,d)という審理対象を作り上げる基礎的先 決関係そのものに関するものといえるが,「決定的」という文言が, 先行 行為が後行行為に及ぼす影響に着目するものと思われ,注目に値する。筆 者は,こういった関係を以下のように類型化した。 一つには,両処分が共通の行政目的を目指していることを前提に,後行 行為(ないしそれによって完成される最終的法効果)にとって先行行為の 存在が必須の前提となっている場合である。由喜門眞治の言葉を借りれば, あれ(先行行為の適法要件)なければ,これ(適法な後行行為ないしそれ によって完成される最終的法効果)なしという関係である。 事業認定と 収用裁決,差押処分と公売処分等にとどまらず,課税処分と滞納処分もこ の関係にある。この類型は,上記小早川の言及に適合的である。もう一つ は,必ずしも「あれなければこれなし」の関係になかったとしても,先行 行為が後行行為に対して与える寄与の度合いが大きい場合である。 法務 大臣による異議棄却裁決と退去強制令書の発付処分,そして1998年改正前 の健康保険法上の病院開設中止勧告と保険医療機関の指定拒否処分がこの ─  ─53  小早川・前掲注387頁。  遠藤・前掲注『無効と取消』336頁。  遠藤・前掲注『実定行政法』114頁。  由喜門眞治「違法性承継論の動向」関西大学法科大学院ジャーナル6号84頁。 表現は若干修正した。  寄与の度合いとしては,仮に適法な先行行為がなされていれば,後行行為段 階において結論が変わり得るほどのものである必要があるであろう。

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ような関係にあると考えられる。この類型は,上記遠藤の言及に適合的で ある。 以上のような関係にあれば,Y(a,b,c,d)又はZ(a,b,c, d)といった審理対象を設定する関係性たる基礎的先決関係があるといっ てよいであろう。 3 小 括 以上,先行行為と後行行為とが,どのような関係にあれば,後行行為の 取消訴訟において, Y(a, b,c, d)又はZ(a,b, c,d)と いった審理対象が設定されるのか,検討してきた。これを「実体法上の先 決関係」と呼ぶか,「基礎的先決関係」と呼ぶか,呼称は色々とあり得る が,要するに,上で指摘したような類型の関係性が認められる場合に,先 行行為の適法要件が,後行行為(ないしそれが完成させる最終的法効果) の(裁判所のみが審査権を有する)適法要件として取り込まれることにな る。 さて,次章では,以上の議論を前提に,先決問題の性質(先決性の対象 問題)と,遮断の根拠としての排他性との関係性について検討していきた い。したがって,違法性の承継に係る具体的な承継の認否の基準について は,本稿ではこれ以上触れないこととする。

Ⅳ 先決性の対象と遮断の根拠

以上検討してきた基礎的先決関係が認められることを前提に,次に問題 となるのが違法性の承継の認否であるが(上記の通り,その具体的な基準 については本稿では割愛する),遮断の根拠論の検討に入る前に,承継を 原則とみるか,遮断を原則とみるかの議論があるので,その点について先 ─  ─54

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に触れておきたい。 1 遮断ないし承継の原則・例外論  承継を原則とする見解 先に紹介した,小早川・興津説が,承継を原則とし,遮断を例外とする 見解である。ここでは,小早川の見解をより敷衍したものと考えられる興 津の見解に焦点を当てたい。興津によれば,「先行処分の要件が後行処分 の適法性を基礎づける要素を構成」する関係(すなわち,実体法上の先決 関係ないし基礎的先決関係)が認められるにもかかわらず,「行政過程の 段階的安定という高次の手続的要請」によって承継が制限されることとな る。そして,取消訴訟の排他性(公定力)は,「行政処分の実体法的効果 の通用力の意味で用いられるのが一般的で」あり,「違法性の承継は,後 行処分の取消訴訟において先行処分の効力の覆滅を図るわけでもないので, 先行処分取消訴訟の排他性に抵触するわけでもな」く,不可争力について も,「出訴期間の徒過の前後によって違法性の承継が認められるかどうか が異なるわけではなく,行政処分が不可争化したかどうかはこの判断に影 響を与え」ず, ただ,「出訴期間の経過後は, 違法性の承継に頼らざるを 得なくなるという点で,問題が顕在化するに過ぎない」として,いずれも 違法性の承継の否定の根拠にはならないとする。続けて,取消訴訟の排他 性と不可争力は,「違法性の承継と並んで,行政過程の段階的安定という 高次の要請を実現する手段であると位置づけられる」とし,これらは「手 段として並列の関係であるから,いずれかがいずれかの根拠になるという 関係ではない」と結論づける。興津の見解のうち, 不可争力が違法性の 承継の否定の論拠とならないという点については筆者も同意できる。不可 ─  ─55  興津・前掲注161~162頁。

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争力はあくまで違法性の承継を求める動機に過ぎず,その不可争性ゆえに 違法性の承継が遮断されるわけではない。もっとも,違法性の承継が「後 行処分の取消訴訟において先行処分の効力の覆滅を図る わけでもない」(傍 点引用者)とする点については,やや疑問が残る。この点は,先決性の対 象の検討のところで検討してみたい。  遮断を原則とする見解 他方で,比較的多数であるのが,遮断を原則とする見解と思われる。そ の中では,これまで取消訴訟の排他性(公定力)ないし取消訴訟制度のシ ステムを根拠とするもの と,不可争力を根拠とするものに大きく2分さ れてきたが,不可争力を直接的に違法性の承継の否定の根拠とすること に難点があると考えるのは,上記の通りである。もっとも,前者の内,取 消訴訟の排他性(公定力)を根拠とする見解に対しては,違法性の承継は 公定力とは少なくとも直接的関係はないとの指摘がされているところであ ─  ─56  拙稿・前掲注113~114頁も参照。なお,野呂・前掲注50頁は,「違法性の 承継を認めることは,先行行為の出訴期間の制限を潜脱することとなるので, やはり,違法性の承継は原則として認められないと解さざるをえないのではな いかと思われる」とするが,具体的に何を根拠に原則的に承継が否定されるの かは明らかではない。  例えば,岡田春男『行政法利の研究』(大学教育出版,2008年)95頁は,違法 性の原則的遮断は,我が国が出訴期間を制限した取消訴訟制度というシステム を採択したことによって概括的に決定されているとする。他方,宇賀克也『行 政法概説Ⅰ行政法総論[第7版]』(有斐閣,2020年)377頁は端的に取消訴訟の 排他性を根拠として指摘し,拙稿・前掲注109頁以下も同様に取消訴訟の排他 性を根拠とする。  宮崎・前掲注299頁以下,阿部泰隆『行政法解釈学Ⅱ』(有斐閣,2009年) 178頁以下,山本隆司「訴訟類型・行政行為・法関係」民商法雑誌130巻4・5 号651頁など。  その他,不可争力,公定力,遮断効といった分類を放棄し,それらに通底す る成分としての効力覆滅遮断効と違法主張遮断効に絞って考察するものとして, 木英行「行政行為の遮断効―「違法性の承継」問題を手掛かりに」東洋法学 57巻3号52頁以下がある。

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る そこで,以下では,取消訴訟の排他性が承継の否定(遮断)の根拠と なり得ないか,興津の指摘するところを意識しながら,先決性の対象との 関係で検討をしていきたいと思う。 2 先決性の対象 取消訴訟の排他性と関わる「先決問題」としては,これまで3つの類型 がしばしば提示され,取消訴訟の排他性を,処分の実体法的効果の通用力 として理解する場合(以下,「通用力としての排他性」という。), 概ね以 下のような説明が為されてきたように思われる。 一つは,α「処分……の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関す る訴え」(行訴法36条)たる争点訴訟や公法上の当事者訴訟において設定 される先決問題である。例えば,土地収用法上の収用裁決の効力の有無を 前提とする,被収用者から起業者に対してなされる土地所有権確認訴訟や, 所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求訴訟,また,課税処分の 効力の有無を前提とする納税義務の不存在確認訴訟や不当利得返還請求訴 訟がこれに当たる。この場合に設定される先決問題は,まさに処分の実体 法的効力の有無であり,これらの訴訟において処分の違法を主張してその 効力を否定しようとすることは処分の効力の通用と抵触して許されず,た だ, 処分が無効の場合に限って許される, という説明が為されてきた ─  ─57  前記興津説のほか,鵜澤前掲注45頁参照。  木英行「課税処分の遮断効―不当利得,国家賠償,違法性の承継」東洋法 学58巻1号1頁も以下で指摘する3つの先決問題を比較検討するものであり, 本稿も教示を受けた。  なお,小早川・前掲注391頁は,課税処分と不当利得の問題に関して,課税 処分の有する実体法的効果は「任意の納付または強制徴収によって終了する」 から,後の不当利得返還請求訴訟における先決事項(課税要件の不存在)に係 る主張の遮断を,通用力としての公定力から説明するのは困難としていたが, その後の論文では,「課税処分取消争訟の手続によらないで納税者が国又は地方 公共団体に対し過納金相当額の不当利得返還請求(民法703条)をする余地は,

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したがってここでは,処分の「効力の有無    」が先決性の対象となる。 もう一つは,β違法性の承継が問題となる場合に設定される先決問題で ある。この場合,後行処分の取消訴訟において主張されるのは,先行行為 の適法要件(先に指摘した先行行為Xの適法要件aやb)の欠如,すなわ ち「違法性  」が先決性の対象となる。そして,上記興津の指摘のように, 通用力としての排他性理解からは,かかる違法主張は先行行為の効力を否 定するものではないから,当該排他性は承継の否定の根拠にはならないと される そしてもう一つは,γ違法な処分を争う場合の国家賠償請求訴訟におい て設定される先決問題である。ここでは,処分の実体法的効果の否定に結 びつかない,損害賠償請求権の発生要件事実として「違法性  」が主張され, これが先決性の対象となるが,処分の効力とは何ら抵触しないから,通用 力としての排他性によってそのような違法主張は排斥されない,とされる 以上をまとめると,通用力としての排他性理解からは,処分の「効力の   有無 」が先決性の対象となる場合には,当該排他性によって処分の違法を 理由にその効力を否定することは排斥され( )α , 他方で, 処分の「違法  ─  ─58 原則としては存在しない。現行法上,行政処分に対する不服については取消訴 訟手続の利用を強制するという,いわゆる取消争訟の排他性の仕組みが設けら れており,それは課税処分に対する不服についても働く。」(小早川光郎「課税 処分と国家賠償」稲葉馨ほか編『行政法の思考様式(藤田宙靖博士東北大学退 職記念論文集)』(青林書院,2008年)424頁)として,取消訴訟の排他性による 説明がなされている(ただし,そこでは「用語法」の問題との留保も付されて いる。)。  本文で挙げた興津の見解の他,大沼洋一「違法性の承継について」判例時報 2185号9頁,宮崎・前掲注299頁以下,鵜澤前掲注56頁など参照。  なお,課税処分の違法を争う場合の国家賠償請求訴訟に関しては,実質的に 取消訴訟の排他性の潜脱となるのではないかが議論されていたが(例えば,原 田尚彦『行政法用論[全訂第七版補訂第二版]』(学陽書房,2012年)143頁な ど),最判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁(いわゆる冷凍倉庫事件判決) は明確にそのような考えを否定している。

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性」が先決性の対象となる場合には,そのような違法主張は,通用力とし ての排他性から排斥されるものではない( ,β γ)とされる。このような 理解は, 藤田宙靖による「『取消制度の排他性』という場合の排他性につ いて,行政行為の効果の有無の有権的認定権の排他性のみを『公定力』と 呼ぶか,それとも,およそ行政行為の法的要件の充足の欠如(つまり違法 性)一般についての有権的認定権の排他性までをも『公定力』の語の下に 含めて表現するか」 という問いに対応するものといえよう。 3 検 討 しかしながら,このような先決性の対象に着目する二元的な問いの立て 方には疑問が残る。γが通常処分の効力に影響を及ぼさない違法主張とさ れるのに対し,βは明らかに先行行為の効力に対する間接的な攻撃といえ るからである。すなわち,先に検討した違法性の承継問題の構造分析(Ⅲ, 1)に照らし,仮に後行行為の取消訴訟における審査の対象が,後行行為 によって完成される最終的法効果の適法性たるZ(a,b,c,d)であ るとするならば,この場合のa,bの欠如(違法性)の主張は,最終的法 効果Zに包摂される先行行為Xの効果の否定を目指しているといえるので あり,また,後行行為の適法要件としてのY(a,b,c,d)が審理対 象とされると考えても,当該取消訴訟の取消判決の拘束力によって,先行 行為Xの効力は最終的に否定される。このように,βと は, 先決性のγ 対象を共通とするとしても,何を目指して「違法性」の主張がされるか, という点で決定的な違いを有している。また,そもそも違法性の承継が問 題となる場面とは,先行行為が後行行為の前提となっている場合であり, ─  ─59  藤田・前掲注236頁。  神橋一彦『行政救済法[第2版]』(信山社,2016年)166頁, 木・前掲注 26頁以下参照。

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この場合の先行行為の実体法的効果には,かかる後行行為の前提として法 的基礎を与える効果を積極的に見出すべきであろう。そして,後行行為 の取消訴訟において当事者は,先行行為の違法を主張することによって, かかる「法的基礎」の欠如の判決による認定を求めているのであり,違法 性の承継が問題となる の場面では,実質的には,かかる法的基礎としてβ の効果の有無が先決性の対象となっているともいえよう。 一方で,αと の関係性についても見てみると,以下のような指摘が可β 能のように思われる。そもそも,後行行為の取消訴訟において先行行為の 違法が主張(援用)されるのは,取消訴訟制度において,訴訟物が処分の 違法性一般として設定されていることに起因するものであるが, このよ うに訴訟物の設定が一般の民事訴訟等と異なり「権利又は法律関係(行政 訴訟の文脈でいえば,処分の効力の有無)」そのものではなく,処分その ものの「違法性」(一般)とされたのは, それを主張することによって行 政処分の効力の判定を行い救済を与える,という技術的合目的的な「人為」 による枠付けの帰結に過ぎないはずである。つまり,βにおいて「違法 ─  ─60  これに関連して,鵜澤前掲注22頁は,小早川が課税処分の効果は任意の納 付又は強制徴収によって終了するとしている点を指して,「たとえば課税処分取 消訴訟の係属中に滞納処分が行われた場合であっても,課税処分が判決によっ て取り消されることとなれば,滞納処分は不整合処分として取り消されるべき ものとなる」とし,「小早川説は課税処分の効果を不当に縮減するものといわざ るをえない」と指摘する。先行行為の後行行為に対して有する,法的基礎を与 える効果を捉える指摘といえる。  もっとも,Ⅲ,1で検討したように,後行行為によって完成される「最終的 法効果」の違法性を問題とする余地もあるが,その場合でもあくまで先行行為 の「違法性」が主張されるのであるから,ここでは説明の便宜上,「処分」の違 法性一般で統一する。  高柳信一「行政の裁判所による統制」同『行政法理論の再構成』(岩波書店, 1985年)195頁以下参照。高柳は,司法裁判所による救済は本来行政行為の効力 の判定だけしかできないわけではなく,このような「人為」的な枠付けがなけ れば,給付訴訟や確認訴訟も本来はなし得るはずである,という文脈で「人為」 という用語を用いるが,ここでは「しかしそれを人為的に押し止めて,権利変

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性」が先決性の対象となっているのは,かかる「人為」的所為の結果に過 ぎないものであり,かかる「人為」を度外視した場合,先決性の対象が先 行行為の違法性に限定される所以も本来ないように思われる。端的に先行 行為の後行行為に対する法的基礎たる効果の欠如が先決問題として設定さ れよう。 また,仮にかかる「人為」を前提にし, 後行行為の取消訴訟に おいて効力の有無は先行行為の(典型的には重大かつ明白な違法としての) 無効の場合にしか問題にならないとした場合,かかる無効の主張は違法性 の承継の問題ではない,としばしば指摘されるところであるが,しかしこ のことは,基礎的先決関係を通して先行行為の「瑕疵」が後行行為に伝来 するという法現象の客観的な側面から観察すると,伝来の対象が「無効」 か「違法」の違いは相対的な違いに過ぎないように思われる。 このよう に考えると,先決問題の設定場面としての とα  は,明確に区別すべきもβ のではなく,むしろ,βは上記「人為」を介して矯正された の亜型としα て認識することが妥当ではないだろうか。少なくとも重要なのは,何のた めに「違法性」の主張がされるかであり,形式的な先決性の対象で取消訴 訟の排他性の及ぶ範囲を区分すべきではないように思われる。 以上のように考えると,仮に取消訴訟の排他性を「通用力としての排他 性」と捉えたとしても,違法性の承継が問題となる場面である にそれをβ 及ぼすことは可能のように思われる。もっとも,βは そのものではないα から,取消訴訟の排他性の「及ばせ方」については違いが生じて然るべき ─  ─61 動の原因行為たる行政行為の法適合性を争う訴訟             という形態をとらしめたので ある」(傍点引用者)との指摘に着目したい。  その場合,本来先行行為の取消訴訟において主張しその結果効力の否定を得 るべきことを別の訴訟(後行行為の取消訴訟)で主張(採用)するという点で  と異ならない。α  また,そもそも「無効事由」を,「専ら手続法上の現象」(藤田・前掲注265 頁)と捉えるならば,「違法」と「無効」は,瑕疵の程度の違いによって制度的 に定義づけられた相対的な概念に過ぎない。

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であろう。私見では,処分の効力が直接的に攻撃される の場合には,取α 消訴訟の排他性が例外なく及び,処分の効力と抵触するような違法主張は 全て排斥されるが,後行行為の取消判決を介して先行行為の効力の否定を 求める場合(あるいは,最終的な法効果に包摂されるところの先行行為の 効力の否定を求める場合)である の場合には,取消訴訟の排他性が守ろβ うとする原則的利益(行政過程の安定性といった諸利益)の後退場面や, 当事者の実効的救済が強く求められるような場面において,例外的に先行 行為の違法主張が許される,と考えられる

Ⅴ お わ り に

以上,本稿では,違法性の承継に係る学説状況を整理し,先行行為と後 行行為の先決関係の内容を明確化し,違法性の承継が問題となる場面にお ける先決問題の性質について検討を行い,違法性の承継の原則的遮断の根 拠を,行政処分の実体法的効果の通用力としての取消訴訟の排他性に求め ることの可能性について考察してきた。筆者としてはその可能性を積極に 解したい。 本稿の最後に,承継ないし遮断の原則・例外論について再度若干の付言 をしておきたい。筆者はかつて,違法性の承継問題について「行政処分間 の問題に限ったものと見るべきか」という問題提起を行った。すなわち, 基礎的先決関係を通して先行する行政活動(処分以外のものも含む)の瑕 疵が,後行「処分」に承継ないし伝来する,という法現象自体は,先行行 為が処分であるか否かによって本質的な違いがあるわけではない,との指 摘である。翻って,小早川ないし興津の見解(前記Ⅱ,2,及びⅣ,1, ─  ─62  拙稿・前掲注112頁参照。  拙稿・前掲注92頁以下。

参照

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