Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
Effect of interrupted eruption on the enamel organ
of the rat incisor
Author(s)
三輪, 恒幸
Journal
歯科学報, 113(4): 446-447
URL
http://hdl.handle.net/10130/3200
Right
論 文 内 容 の 要 旨 1.研 究 目 的 歯の萌出の機序を研究する場合には,常生歯であるラットやマウスなどの齧歯類の切歯が用いられている。 これまでに,齧歯類の切歯の歯根を切断して萌出を抑制すると,歯の萌出が止まり,根尖側ではエナメル質と 象牙質の形成が引き続き,歯髄が象牙質によって満たされ,根尖が後上方へ萌出を続けることが報告されてい る。しかしながら,その細胞動態について詳しく調査した論文はあまり報告されていない。今回我々の研究の 目的は,歯の萌出を抑制した際のラット切歯細胞動態を検索することとした。 2.研 究 方 法 本実験には,SD 系雄性ラット20匹を用いた。下顎右側切歯に窩洞を形成し,窩洞内にスクリューピンを埋 入固定して萌 出 を 抑 制 し た。実 験 後,萌 出 の 抑 制 を 確 認 す る た め に,歯 の 萌 出 量 を 計 測 し た。実 験 後 1,3,7および14日後にラットを屠殺し,下顎骨を摘出し,下顎第1大臼歯近心で切り出した横断切片と歯 胚部を切り出した矢状断切片の組織標本を作製した。横断切片には,HE 染色,免疫組織化学染色(Nestin, TRAP)を用いた。矢状断切片には,HE 染色,免疫蛍光染色(Amelogenin),免疫組織化学染色(PCNA)を用 いた。また,TRAP 陽性細胞数を歯根膜に接している歯槽骨の近心,唇側,舌側,遠心からそれぞれカウン トし,比較検討した。なお,対照群は対側の左側下顎切歯を用いた。 3.研究成績および考察 歯の萌出量は,萌出抑制した実験群が対照群に比較して3日後に有意に低い値を示し,7日後以降でほぼ萌 出は停止していた。組織形態学的結果より,横断像では,実験群で日齢を増すごとに象牙質の肥厚および歯髄 の狭窄が観察された。Nestin 陽性細胞は,14日後の実験群で弱く発現した。また,14日後の実験群で近心の 歯根膜の幅が減少して観察され,TRAP 陽性細胞数は対照群に比較して近心で有意に高い値を示した。矢状 断像では,7,14日後の実験群でエナメル質の肥厚が観察された。さらにエナメル基質である Amelogenin の 発現は,対照群に比較して強く発現した。PCNA 陽性細胞は実験群で歯胚部において強く発現した。 歯の萌出抑制により,Nestin の発現が,14日で弱く発現したのは,萌出を抑制した力が刺激となり歯髄の 未分化間葉細胞から象牙芽細胞の分化を促進させ,14日でほとんど第2象牙質に置換されたことが示唆され た。TRAP 陽性細胞数が近心エリアで増大していたのは,萌出抑制した力が近心で増大し,骨吸収を引き起 氏 名(本 籍) み わ つね ゆき
三
輪
恒
幸
(愛知県) 学 位 の 種 類 博 士(歯 学) 学 位 記 番 号 第 1902 号(甲第1154号) 学 位 授 与 の 日 付 平成23年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Effect of interrupted eruption on the enamel organ of the rat incisor 掲 載 雑 誌 名 Zoology 第116巻 90−98頁 2013年2月 論 文 審 査 委 員 (主査) 井上 孝教授 (副査) 中川 寛一教授 末石 研二教授 井出 吉信教授 栁澤 孝彰教授 歯科学報 Vol.113,No.4(2013) 446 ― 98 ―
こしたことが示唆された。Amelogenin の分泌が促進したのは,象牙質形成が促進することによって歯胚部の 上皮に影響を与え,Amelogenin の分泌が促進したと考えた。PCNA の発現が強くなるのは,萌出を抑制した 力が歯胚の基端部で細胞増殖を促進させたことが示唆された。 4.結 論 歯の萌出を抑制した際のラット切歯細胞動態は,周囲顎骨では近心の骨吸収が増大し,根尖側へ細胞の分化 増殖を引き起こし,エナメル質の厚みを増しながら,根尖に向かい歯の伸長を続けることが示唆された。 論 文 審 査 の 要 旨 本論文は,歯の萌出を抑制した際のラット切歯細胞動態について検索したもので,以下のような知見が得ら れた。 歯の萌出を抑制した際のラット切歯細胞動態は,周囲顎骨では近心の骨吸収が増大し,根尖側へ細胞の分化 増殖を引き起こし,エナメル質の厚みを増しながら,根尖に向かい歯の伸長を続けることが示唆された。 本審査委員会では,1)第2象牙質と修復象牙質の使い分け,2)萌出抑制に使用したスクリューピンによ る歯髄の影響,3)萌出を抑制した際の上皮の分化,4)歯の萌出についての知見などについての討議および 質疑がなされ,概ね妥当な回答が得られた。また,目的の明確化,用語の統一,組織像の追加,論文の考察の 追加などについて指摘があり,修正がなされた。 本研究で得られた結果は,今後の歯学の進歩,発展に寄与するところ大であり,学位授与に値するものと判 定した。 歯科学報 Vol.113,No.4(2013) 447 ― 99 ―