Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
口腔がん検診千葉発,全国へ : 口腔がん検診20年のあ
ゆみ
Author(s)
山内, 智博
Journal
歯科学報, 112(6): 753-759
URL
http://hdl.handle.net/10130/2981
Right
本日,私は「口腔がん検診」についてお話いたし ます。口腔がん検診は今年で20年目になります,そ の20年間のあゆみについてお話させていただきたい と思います。 歯科に行けばむし歯や歯周病を診ることだけ,こ のようなイメージがかなりあったのかと思います。 しかし,私たちは歯や歯肉だけでなく,頬の粘膜, 舌など,広い部位を本来は守備範囲にしています。 ですから,この部位にできるがんも治療するという ことです。 がんの話をする前に,少し難しい話ですが,がん 対策基本法が平成19年4月から施行されています。 この基本法で重要なことは私達のような医療者の責 務を明らかにするだけでなく,国民の責務も明らか になっていることです。がん対策基本法の基本理念 ですが大まかにお話すると,3つの項目が挙げられ ます。①がんの予防や,研究などの成果を臨床に活 用することで治療の技術の向上を図ること。②がん の患者さんがその居住している所に関わらず,同じ ような治療が出来るように全国の治療レベルの均て ん化が目標とされています。③がん患者さんがおか れている状況に応じて,本人の意志でどのような治 療を受けるか決定できること。それが明文化されて いるのです。
――― 講演記録 ―――
第6回
東京歯科大学公開講演会記録
平成23年11月5日(土) 東京歯科大学千葉校舎講堂講 演 3
「口腔がん検診 千葉発,全国へ」
∼口腔がん検診20年のあゆみ∼
山内智博
東京歯科大学口腔外科学講座 講師 図2 図1 753聞き慣れないところでは,「国民の責務」があり ます。国民は喫煙,食生活,運動その他の生活習慣 が健康に及ぼす影響等,がんに対する正しい知識を 持たなければならない,そしてがんの予防に必要な 注意を払うように努めるということが,この法律で 国民が持つべき責務として上げられているのです。 簡単に言い換えると,医療を受ける側の皆さんも自 分の健康に責任を取ること,ということになります。 ですからこの講演会はとても意味がある場になって いるかと思います。(図1∼3) 口腔がんの検診というのは全然聞いたことない方 もいらっしゃると思います。千葉市では年に1回「む し歯の日」近くの日曜日に「千葉そごう」の催し会 場でやっています。がんの検診は,胃と子宮頸がん と乳房がんと肺がん,大腸がんの5つの検診は,そ の結果の科学的根拠がしっかりしている検診と言わ れています。検診の受け方としては,例えば40歳を 越えたらば胃がんの検診を受けてくださいと市など の地方公共団体の方からお知らせがきます。しかし, 残念ですが口腔がんの検診は,まだ地方自治体から のお知らせが来るほど認知されてはいません。地域 によってはむし歯や歯周病を中心とする口腔検診の 中に口腔粘膜についての項目が追加されたところも あるようですが,口腔がんの検診には至らないのが 現実です。 がんに対する戦略として,第一次予防,第二次予 防というのがあります。第一次予防に関してはがん にならないことを目的とした発がんの予防です。1 個のがん細胞が出来るまでの過程を防止する。タバ コを止めましょう,お酒を控えましょう,このよう な項目となります。第二次予防としては発がんして しまった後,そのがんで死亡しないことを目的とし た予防。早期発見,早期治療ということになります。 本日は,この第二次予防を主に今回考えて行きたい と思います。(図4) 検診では口腔がんの早期発見,だけでなくその他 の口腔粘膜疾患を発見することも大切な項目です。 過去,歯科医院に行って,歯しか診てくれない歯周 病しか診てくれないということがありました。その ようなことにならないように,私達は検診を通して 皆さんの口の中の検診を主催していただいている歯 科医師会の先生方にも,口の中の粘膜を診ることが 大切なのだということをお教えしているつもりで す。これは,学生の教育にも反映しています。口腔 全体が見れる,口腔だけではなくて口腔を取り巻く 皆さんの体全体が分かる歯科医師を育てるのが私達 の目標であります。(図5) では,口腔がん検診にはどのようなものがあるか 図3 図4 図5 講 演 記 録 754
と申しますと,千葉市歯科医師会は2種類の口腔が ん検診を主催しております。一つは先ほどお話しし ました「千葉そごう」の催し物会場に集まっていた だいて行うという形の集団検診があります。もう一 つは個別検診といって,歯科医院に行ったときに口 腔の粘膜がどうなっているか1対1で診ていただく 形の個別検診となります。この講演会では,主に集 団検診のことについてお話したいと思います。 千葉市の口腔がん検診は1992年から千葉市の歯科 医師会の事業として20年間継続してきており,私達 は検診の委託を受けて参加しています。20年前とい うと,世界ではスペースシャトルエンデバーで毛利 さんが宇宙に行きました。日本の国内ではハウステ ンボス,東海道新幹線のぞみが営業開始して20年で す。たった20年と思う方もいらっしゃるかもしれま せんが,同時期に検診を行っていた地域もありまし たが,途中で予算の関係等により単発で終わってし まったところが多く,20年間継続しているのは千葉 市だけなのです。その後検診を始めた地域もありま す,後ほど紹介します。この長い20年の間に3429名 の方に受診していただきました。なんらかの病変が 見つかって医療機関に紹介した方が200名弱いらっ しゃいます。そのうちの3名で口腔がんが見つかり ました。 集団検診の流れですが,対象は40歳以上の男女の 方です。募集の方法としては,千葉市の広報もしく はホームページ上で公募をして予約制になっており ます。誠に申し訳ないですがやはりマンパワーの問 題で200名くらいでマックスになってしまいますの で,先に予約をしていただきます。予約をして,そ こで時間が振り分けられます。その時間によって受 診者が受診表を持って受診会場へ行っていただく形 となります。そこで私達が担当して拝見して,特に 問題がないようであればその場で終了。これがほと んどの場合ですが。そこで,色々問題があります, 要するに口腔がんや粘膜の問題だけではなく,歯科 相談のようなことも少しあります。だいたい皆さん 何らかの質問を投げかけてきてくれるんです。そう いうところで指導をしていきます。専門的な歯科の 質問については歯科医師会の方で対応していただ き,日頃から口の中をしっかり見てもらうようにと お話して終わります。反面,何か問題があった場合 は,高次医療機関に紹介となりますが,その場合に は私共の東京歯科大学千葉病院もしくは千葉大学医 学部附属病院口腔外科,場合によってはお住まいの 近くの病院へご紹介いたします。その後,様々検査 をし,経過を見るだけでよいのか,治療をしていか なければいかない状態なのかを見極めていって治療 に入っていくことになります。(図6) 会場の風景ですが,プライバシーが守れるように パーティションがしっかりしていて周りから見えな いようになっています。この中で1対1でお話をし ていく形になります。 このようながん検診のメリットというは,早期発 見が出来る可能性があるのだということ。それに よって早期の治療をすることが出来る。これによっ て,肉体的・精神的・経済的負担が軽減されるわけ です。先ほど片倉教授のスライドにも経過を見てい る間に大きく腫瘍が増殖した写真がありました。最 初の段階で早期に治療をしていれば舌の表面を少し 切っただけで済むかもしれません。そうすれば,肉 体的な,精神的な負担というのは無くなってくるで しょう。やはり舌を2/3くらい取れば,その部分は 何かで補ってあげなくてはならない可能性がありま す。入院期間も長くなります。それによって経済的 な負担も大きくなるわけです。また,大きな病気に なればなるほど,飲み込む機能も元に近づけること も出来なくなってしまうということもあるのです。 現在まで20年間の受診者は3429名です。初年度の 1992年,52名からスタートしました。やはり疑問な ことや,不安なことがあっていらしているので,しっ かりお話するために,予約制を取らせていただいて 図6 歯科学報 Vol.112,No.6(2012) 755
います。おおよそ毎年200名前後が上限かと思いま す。(図7,8) 千葉市の集団検診の成績ですが,がんであった方 が3名おりました。がんの発見率0.09%です。他の 医科のがん検診を見ていただくと,例えば肺がんは 0.05%,子宮がんは0.06%,母集団(受けていただ いている数)が全然違いますのでそのままイコール で比較は出来ないですが,意義のある発見率ではな いかと思います。高次医療機関への紹介として,私 たち東京歯科大学が紹介を受けた方は169名,その うちの3名が悪性腫瘍でした。その他は様々な口の 病気があり治療に入らせていただきました。がんと 診断した3名は,男性1名と女性2名でした。病気 の部位は舌が1人と上顎が1人と顎下腺が1人とい うことになります。検診の動機は,1人の方は痛み だったとのことです。この方が舌のがんでした。検 診の特徴的としては,このような口の中のがんの検 診があったから来てみた,その様なかたもいらっ しゃることです。そのような方が増えてくるといい のではないかと思います。(図9) 千葉市のことばかりをお話しておりましたが,東 京歯科大学千葉病院が担当している口腔がん検診 は,千葉県のかなりの地区でご協力させていただい ております。市川市と浦安市に関しては私共の系列 病院である市川総合病院で担当しておりますので, このエリアの方は検診を受けていただけると思いま すので,地域の歯科医師会の方へ確認していただけ ればと思います。また,東京方面へも協力の輪が広 がりました。昨年(平成22年)から練馬区,今年(平 成23年)から江戸川区,世田谷区,埼玉県越谷市の 担当をするようになりました。千葉市で培った実績 を広げ,口腔がんだけでなく口腔の粘膜の病気で悩 む方をゼロにしていきたいと思います。(図10) 口腔がんの検診を各都道府県の歯科医師会で行っ ているか,今後行う予定があるのかというアンケー トを取ってみました。2008年の回答では,このよう 図7 図8 図9 図10 講 演 記 録 756
に26%の都道府県で「はい」(行っている)という回 答になりました。このときはまだ「いいえ」が74% でした。この二年後にもう一度同じ調査を致しまし たら,「はい」の回答が44%なのです。あとは「実 施していた」というのが10%あります。実は半分以 上の都道府県で始まっているのですが,「実施して いた」と過去形で回答してきているので,先ほどお 話ししたように予算の関係があるのか,単発で終 わってしまったのか,残念な状況でした。検診の開 催が多くなれば,口腔がん撲滅に近づくものと思い ます。(図10−1,2) 口腔がんのできる部位は舌,下顎の歯肉,上顎の 歯肉,という順番になってきます。今回はポイント を絞り特に注意の必要な状態を示します。白いもの, 赤いものをしめします。口の中の病気では,紅白は おめでたいことではありません。「白板症」,「紅板 症」という状態で,このような病気は危険でがんの 手前の状態で,前がん病変ともよばれます。「白板 症」というのは,このように白い病変です。「紅板 症」は少し赤っぽくなった病気ですが,口の中の赤 い粘膜の中でさらに赤いですから,元々の状態をよ く観察しておいた方が良いと思います。「白板症」 と,「紅板症」の方は3429名のうち18名見つかって います。「白板症」は5%くらい,「紅板症」は50% くらいの方でがんになると言われています。この18 名の内訳からすると,場合によってはこの中の半分 近くの方が将来がんになったかもしれないのです。 検診後の流れですが,異常がないといわれた場合 には,また次回の検診もしくは歯科医院での3ヶ月 くらいの経過観察になるわけです。異常があった場 合には精密検査ということになります,細胞の検査 や組織の検査,CT の検査を行った上で「がん」だ ということが分かれば,治療に入っていくことにな ります。この精密検査の中で異常なしや良性の病変 であればまた経過観察,もしくは良性の病変であっ ても治療の対象であるものであれば治療をしていく ということになります。がんの治療というのは,大 まかに3つ。外科療法,放射線療法,化学療法,ま たそのコンビネーションがあります。病気の種類や 場所によって様々に対応して方針を立ててゆきま す。 患者さんを取り巻く環境は,口腔外科,頭頸部外 科,形成外科,耳鼻咽喉科,放射線科,など医科の 先生も含み広い範囲になります。口腔がんの手術を 行うと,口の中のケアは普通の方より注意深く行う 必要があります。また,術後飲み込み損じがあるよ うであれば,飲み込みの練習をする事も必要となる わけです。昔は病気を取って生きてさえいればとい う時代が,どの診療科でもあったと思います。です けど,今はそれではいけない,私達歯科医師が口腔 がんの治療をする最終目標は口から食事を摂ってく れること。それができるのが私達ががんを扱ってい るメリットです。ですので,栄養摂取の部分までサ ポートしなければいけないのだということです。こ のようにたくさんの業種の人達が集まって今日のが んの治療が行われています。(図11) がん検診で発見された舌がんの方は,初期の段階 でした。術後14年経過し,元気で過ごしていらっしゃ います。この方は,口腔がん検診の企画の広報を診 なければ,我慢したかもしれないと話していまし 図10−1 図10−2 歯科学報 Vol.112,No.6(2012) 757
た。ぜひ広報に目を通してください。他にも大切な ことが書かれています。 日本の口腔・咽頭がんの5年生存率は50%程度と 言われています。当院の5年生存率をしめします。 小さいものであれば91%の治療成績があります。す こし大きめのものでも65%くらい。平均すると80% くらいの5年生存率です。口腔がん検診を20年間続 けた効果なのか,小さなものが増えてきました。 1992年から2001年までの10年間では大きな病気の方 が若干多かったです。それが,口腔がん検診が10年 くらい経過してから去年まででは,小さな病気が増 えてきました。ですので,私達としては口腔がんを 見つけようという意気込みが歯科医院にも浸透して きただけではなくて千葉市の口腔がん検診が皆さん の気持ちの中にも浸透してきていると思っていま す。(図12,13) 個別検診について少しだけ紹介します。前に紹介 したのは集団検診といって「千葉そごう」に集まっ ていただく検診の方法です。個別検診というのは今 通っていらっしゃる歯医者さんで診てもらうもので す。これはやはり訓練を積んだ人でないと診れませ んので,誰でもという訳にはいきません。千葉市歯 科医師会の訓練をしていただいた先生が担当しま す。口腔粘膜を診てもらい,何らかの病変があれば 細胞の検査までを行う検診をしております。検査結 果が届いてきて歯科医院でお話をしていただくとい うシステムです。そこで何か問題があれば私共の病 院を紹介していただくという形を取っていますの で,そこも安心というわけです。(図14) 歯科医師会の先生方にもいろいろな病気や検査の 知識がしっかりしていないと問題があります。休日 に研修会を行い研鑽を積んでいただいています。で すから,ぜひ歯科医院の先生方にもいろいろ質問し てあげてください。研修の成果の復習となると思い ます。 最後に,私達の胸に付けておりますバッジですが, 図11 図12 図13 図14 講 演 記 録 758
赤と白のホワイト&レッドリボン,健康な歯と健康 な歯肉を表現しております。乳がんのピンクリボン 運動をはじめとして,各がんでリボンの色が決まっ ています。まだ,全国的なものではないですが,こ れから全国区にしていく予定です。(図15) 自分自身も,皆さんの健康な口腔を維持できる歯 科医師になっていきたいと思います。また,大学で すから教育もしています。歯を見るだけでなく,粘 膜も見れる良い歯科医師を数多く育成してゆきたい と思います。 図15 歯科学報 Vol.112,No.6(2012) 759