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自閉症スペクトラム障害をもつ女性のライフサイクルと発達

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Academic year: 2021

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自閉症スペクトラム障害をもつ女性の

ライフサイクルと発達

福 島 鈴 子

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対象者 B は現在の職業の詳細を記載しないと いう条件のもとにインタビューを実施した。対 象者 C は、約 20 年前に大学病院で「特定不能 発達障害」と診断されているが、医師の見解か ら「自閉症スペクトラム障害の傾向も含んでい る」と指摘されており、筆者がインタビューを 実施した結果、自閉症スペクトラム障害の傾向 があるとして、対象者に含むことにした。イン タビューを分析する方法として KJ 法を採用し た。KJ 法は川喜多二郎氏が発案した「発想法」 であり、現場調査で得られたさまざまなデータ をまとめ概念化し、問題点を整理することがで きるという特徴をもつ。インタビュー項目は⑴ 誕生から幼少期について、⑵困りごと、その時の 感情、⑶母親との関係、⑷成人期の仕事、人間 関係、恋愛、⑸診断を受けたときの心情であっ た。 Aの語りからの成育歴の概略 ⑴幼少期 対象者A(1968 年生 40 歳で ASD の診断を受 ける)は 3 人姉妹の長女として生まれた。幼少期 は幼稚園に入園するまで普通の子どもと思われ ていたが、入園後幼稚園の教員から「ほかの子 どもと違うのではないか」と指摘を受けるよう になる。幼稚園でも友達と遊ぼうともせず、気 に入った動物のおもちゃをいくつも箱に入れ、 そればかりで遊んでいた。集団行動ができず、 気になることがあると集団から外れ、怒られる と激しく泣き出すこともあった。幼稚園で知能 検査を受けたが、知的に遅れはないが情緒面で の著しい遅れが見られるという結果であった。 ⑵小学校 小学校に進学と同時に、担任から障害児学級 (現在の特別支援学級)に入るように勧められ る。ここで二度目の知能検査を受ける。その結 果当時 7 歳の A は、知能は正常で情緒面が 4 歳 程度であった。担任教師は、障害児学級に入る ことを勧めたが、母親が承諾することもなく、 普通学級での就学を継続した。A は学校で友達 関係を築くことはなかったが、そのことを特に 悲しいと感じることなく過ごした。 ⑶中学校・高等学校 地元の中学校と高等学校に進学する。友達関 係を築くことができないことや、クラブ活動に 参加できなどの問題はあったが、比較的落ち着 いており数少ない友人もいた。A は卒業後の進 路として就職を希望するがうまくいかず、事務 職に就きたいという希望があり、卒業後は近隣 の職業訓練校に入学し 1 年間経理を学んだ。 ⑷就職・成人期 地元の小規模な会社に入社する。パソコンの 使い方がわからず叩いて破損させ、短期間で解 雇される。その後、スーパーマーケットに縁故採 用され、バックヤードで食品の品出しの準備業 務をする。ここでも人間関係は学生時代と変わ ることはなく、周囲とうまく合わせることがで きず、数々のトラブルを起こし短期間で退職す ることになった。その後、ゴルフ場でキャディー の仕事に就く。そこでは従業員が日系ブラジル 人と日系ペルー人で人間関係は良好であったた め 7 年間就労することができた。退職後はメキ シコに渡り 4 年間ワーキングビザで滞在した。 ⑸診断から現在 メキシコから帰国後 A は鍼伮師の資格を取 得する。資格を使って仕事をすることを希望し たが、面接で一方的に話してしまい、面接を中 断されてしまう。何度も面接を受けるが、うま くいかずうつ気味になってしまい精神科を受診 する。そこで発達障害の疑いがあると言われ、 専門医を探し何件も病院をまわりようやくたど り着いた病院で、40 歳のときに「アスペルガー 症候群」と診断され、障害者手帳を取得し、現 在は重度心身障害者施設で、入所者の衣類を洗 濯し仕分けをする仕事に就いている。 B の語りからの成育歴の概略 ⑴幼少期 対象者 B(1972 年生 38 歳で ASD の診断を 受ける)は 3 人兄姉の末っ子として生まれた。 B は兄姉の中でも歩き始めと言葉の話し始めが 早かった。幼稚園では給食で特定の食べ物が食 べられないことや昼寝ができないということが あり、休みがちであったが、異性の友達と戦隊 ものごっこやヒーローものごっこをして遊ぶの が好きだった。 ⑵小学校 小学校に入学するまでは「早く学校に行きた い」と話していたが、学校が始まると疲労が酷 く休みがちになる。給食の中の特定の献立が食

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べられないことや宿題ができないなどの問題は あったが、成績には問題がなく、少数の友達も できた。 ⑶中学校・高等学校 中学校に進学する。そこで B は目立つという ことが原因でいじめにあった。1 学期はなんと か休みながらも登校したが、クラブ活動と宿題 による疲労感がひどく、2 学期からは不登校気 味になる。担任から発達支援センターに行くよ うに勧められ、そこで知能検査を受ける。結果 は、知能は平均以上であり問題がなかった。や がて高校受験を迎えるが、不登校が原因で高校 を受験させてもらえなかった。唯一、県下の私 立女子高だけが、受験を許可してくれた。高校 生活では女子同士のグループに入れない、クラ ブ活動が苦痛などの問題もあったが、少数の友 達もできた。英語が好きだったので大学への進 学を希望したが、両親の反対で大学に進学する ことを諦めてから意気消沈し、次第に学校に行 かなくなり休学の後に自主退学した。 ⑷就職・成人期 B は通訳になる夢への思いが諦めきれなかっ た。しかし、高校を卒業していないため専門学 校や大学への進学はできなかった。B は通訳の 夢を諦め、希望の職種ではなかったが、当時学 歴は問われなかった化粧品メーカーに就職し た。ここでは人間関係で困難を極めることがあ り、また店舗の撤退などもあり会社を変わるこ ともあったが十数年続いた。メーカーでの業績 を買われて、大手企業に就職するが、ここでも 人間関係のつまずきと疲労のため職場で倒れて 退職するに至った。その後、2 年間の休養期間 を経て、福祉の仕事に就いた。 ⑸診断から現在 企業を退職後、2 年間の休養期間を経て契約 社員として福祉機関に勤めた。当時うつ病と診 断されていたが「自分は人とは何かが違う」とい う疑問をもっており、数か月待って発達外来を 受診する。38 歳の時にアスペルガー症候群の傾 向ありと診断される。心理検査の結果から「大 学に進学し、専門的な職業に就くように」と指 導をうけた。その後、B は高校編入を経て大学 に進学し、大学院を修了し、現在は教育関係で 心理職に就いている。 C の語りからの成育歴の概略 ⑴幼少期 対象者 C(1959 年生 45 歳で特定不能の発達障 害の診断を受ける)は 2 人姉弟の長女として難 産で生まれた。幼少期は体をあまり動かさず、鳥 小屋の前で座って鳥を見つめている子だった。 みんなで遊ぶこともなく、草花が好きで 1 人で 過ごすことが多かった。 ⑵小学校 小学校に進学すると、靴を反対向きに履い ていたことや、左と右がわからないこともあっ た。ぼんやりした感じの子どもで、成績は振る わなかった。忘れ物が頻繁にあり、整理整頓が できなかった。鼻炎のため常に鼻水がでている ことや、食べられない給食のパンを引き出しに しまいこみカビを発生させることがあり、汚い といじめられるようになる。特に学習面では数 学が苦手であった。 ⑶中学校・高等学校 C は母親と祖父母の勧めで母親の母校であっ た女子校を受験し入学する。C は、強い女子グ ループから度々いじめを受けるようになるが、 学校は休まず登校した。学校生活では心身とも にしんどくて集団行動が辛く、他者からの視線 も怖かった。高校は内部進学する。高校生活で は成績は振るわなかった。3 年の時に再びいじ めにあう。進路は美術が好きだったので美大進 学を希望したが、担任から保育専門学校に進学 するように指導され、高校の系列の保育専門学 校へ進学する。 ⑷就職・成人期 専門学校卒業後は乳児院に就職する。一度に 複数のことができないことや指示が理解できな いことがあり、コミュニケーションによる困難 で困ることが多かった。女性職員からのいじめ を受けるが、8 年間勤め上げ、結婚退職する。 ⑸診断から現在 C が診断に至ったのは、息子の一人が ASD であったためである。息子の通う発達支援セン ター職員から「お母さん(C)も ASD の傾向が あるのではないか」と指摘され、近隣の大学病 院で検査を受け、45 歳の時に「特定不能の発達 障害」と診断される。特定不能ではあるが ASD の傾向も強く ADHD の傾向もあると医師から

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③「友達との関わり」 A は学校で、一人でいることに関して何も 感じることがなかった。アスペルガー症候群の 女性の悩みとして、女性同士の会話についてい けないとういうことがある。その原因は基本的 に「マイペースで他人の言動に興味がないこと と自分の興味関心ごとについては話すことがで きるがほかのおしゃべりに関してはスキルが低 い。」4) ためだと指摘されている。この傾向は A、 B、C、3 名ともに表れている。B はそのことが 原因で友達関係を継続させることが難しかった と語り、A と C に関してもインタビューの際に 一方的に、話を本題から脱線させながら長時間 話す傾向が見られた。B はインタビューの際は 淡々と一点を見つめ本を読んでいるように話し た。 ④「いじめ」 A、B、C の 3 名ともにいじめを受けている。 A は小学校の頃、B は小学校、中学校といじめ を受け、C も小学校から高校に至るまで長期間 のいじめを受けた。A はいじめを受けたことに 対して、「自分がいじめられる意味が解らない し、いじめられておとなしくしていると(相手 が)つけあがるから、こちらが反撃できること を示さないといけない」と主張した。B は些細 なことが気になり、B の言動から友達関係に問 題が起こることが多々あった。同級生が授業中 にずるいこと(答をカンニング)をすることや、 勉強が嫌いな態度をとる子のことがどうしても 許せないと指摘し、トラブルになることもあっ た。C はいじめの原因として、「鼻炎でいつも 鼻をすすっていたから汚いといわれた」と語っ た。思春期の子どもは敏感である。人と少し違 う ASD やその傾向がある子どもに違和感を覚 えたのかもしれない。また B のように空気が読 めないことで、級友に「言わなくていい一言」 を言ってしまったり、友達の気持ちを配慮しな い行動をしてしまったりでトラブルに発展して しまうこともあった。 ⑤「出席状態」 不登校に関しては B のみに見られた兆候で あった。この時期に B は母親から心理的と身体 的な虐待を受けている。家庭環境も B の心身の 健康状態に影響を与えていた。当時はとにかく 「消えてしまいたい」という気持ちが強かった と語った。この時期に不登校だったことは、の ちの B の生活に大きな影響を与えた。成人して からでも地元では「あの学校行かなかった子」 と され、それはごく最近まで言われ続けてい たと語った。「やり直そう、やり直そうと思っ ても一度レールから外れたり、つまずいたりす ると、自分がどんなに頑張っても周囲が許さな いというか、受け入れようとしない」と強く感 じることがあったと語った。A と C は不登校に ならなかった理由として、A には祖父母の存在 があり、C は家庭環境が良好であったことがあ ると考えられる。A は「おばあちゃん、おじい ちゃんは優しかったし、何をしても許してくれ た」と語り、C は「家が大好きだった。お母さ んも大好きだった」と語った。 ⑥「教師との関わり」 教師との関わりは良好ではなかった。教師の 理解がないと感じることが A、B、C の 3 名と もにあった。しかし、すべての教員が、理解が なかったわけではなかった。歩み寄ろうと試み た教師もいた。B については、中学 2 年生の時 の担任が理解を示してくれ、「心のノート」を 渡してくれた。書くことが好きだった B は自分 のことをたくさん書いてコミュニケーションを 取った。またその担任は B を責めなかった。「先 生はいろんなことで私を責めなかったし、私の 話を聞いてくれたし、決めつけず、私を知ろう としてくれた」と語る。そこから B は学校に登 校しはじめ友達もでき始め、いじめなどもなく なっていった。C も、いじめを注意してクラス の問題として取り上げ、解決しようと試みた教 師がいた。しかし、いじめが完全になくなるこ とは難しかった。 (3)高校進学と将来の夢 高校に進学してからの困りごとと当時の将 来の夢を分析した。抽出されたのは、カテゴリー が 1 で、上位コードが 2、コードが 2 で、ラベ ルの例が 16 であった。詳細を以下の表.4 に示 す。 進路については各々の希望が芽生えてきた。 A は高校で友達をつくるといったこともなく、3 年間過ごした。祖父母の他界が相次ぎ、母親の 心理的な部分に余裕ができて、A と母親の関係

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自身のことを自分で決めることができずに、毎 日国際電話を数時間かけていたこともあった。 A も母親から精神的な自立ができていない可能 性がある。C は専門学校へ進学した後に、「自分 の力で」と考えることがあり精神的な自立を果 している。語りから明らかであるように C が自 立に目覚めてバイトを始めたときと結婚をした ときに母親が寝込むほどであった。そのことか ら考察すると、母親もこの時点では子離れがで きていないと考えられる。その行動によって C は母親から精神的な自立を果たしたが、母親が 亡くなるまで C は母親と距離を置いていた。 Ⅴ総合考察 本研究では、成人の ASD を持つ女性のライ フサイクルと発達に関しての検討をした。 そこで見受けられた「困りごと」や「特徴」 「期待される支援」について考察する。 1.女性の自閉症スペクトラム障害の問題 女性の自閉症スペクトラムの困難という点 では、個人差が見られた。B については性的虐待 や異性からのハラスメント行為を受けている。 そのことについて、当事者が虐待を受けている ことを認識していない。B は時間をかけてそれ が性的虐待であったこと、セクシャルハラスメ ントであったことを理解している。宮尾(2015) が指摘するように、「男性が女性を誘うこと」や 「異性と二人きりになること」「異性に興味を持 たれること」の意味合いを理解していないこと が考えられる。また、女性同士の雑談に加わる ことができない傾向が 3 名に見られた。 「すぐに群れたがる『群れ』の中では均質を求 め、異質なものを排除しようとする」9) というよ うに女性の人間関係のなかでは、共感性をもと め、足並みをそろえることが求められる。その 中で A、B、C は女性の人間関係の中に入るこ とができなかったと考えられる。 2.コミュニケーションの問題 コミュニケーションに関しては A、B、C の 3 名全員に、幼少のころから問題が生じていた。 具体的には、「人との会話ができない」「人の会 話が理解できない」であった。「会話ができな い」については、年齢を重ねていくにしたがっ て、学習して会話が可能になったケースも見ら れる。ここでは A 以外の 2 人にその傾向が見ら れた。A は現在でも、そのことは「あまりわか らない」と返答している。このことについて「基 本的に彼らの会話はコピー的なのだといってよ いでしょう。誰でも言葉を覚えるときはコピー から入るものです。しかしいわゆる『健常』の 人たちはコピーをもとに、自分なりの感情や表 現を TPO に合わせて調節しているのです。自閉 症スペクトラムの人は、この TPO に合わせて調 節していくことがうまくいかないのです」10) と 内山ら(2002)は述べている。このように、会 話は徐々にできるようになっても、場違いな返 答になってしまったり、定型文のような返答に なってしまったりするようである。B と C につ いても同じ傾向が見られた。 3.学校での困りごと 学校生活の中でも全員がさまざまな困難が あり、とくに、コミュニケーションの問題と勉 強の問題が抽出された。3 名全員が集団行動を 苦手と感じており、成人になってからも苦手と 感じていた。また、A、B、C は騒がしいところ が苦手という共通点が見られた。宮尾(2005) は、「においや光に敏感、聴覚の過敏性と同様 に、臭覚や視覚、味覚、感触などが敏感な人も いる。また反対に鈍感な場合もある」11) と述べ る。また、原因不明の体調不良や 怠感も A、 B、C にみられた。女性のアスペルガー症候群 の特徴として、宮尾(2005)は「慢性的で重い 体調不良、アスペルガーの女性には、体調不良 が起こりやすいようです。とくに多いのは睡眠 障害や胃腸の異常、疲労感など。それらの不調 が慢性的に起こるため、薬が手放せません。」12) と指摘する。また A は「うるさい音と暑いの が苦手で我慢できなくなって癇癪を起してしま う」、C は「疲れやすく、大きな行事(自分に とって)があると 1 週間から 2 週間ほど疲れが とれなくて寝込むことがある」と語った。疲れ てしまって学校や仕事休むことになると、「自己 管理ができていない」や「体が弱い」と周囲か ら判断されてしまうこともあり「自分に責任が ある」ととらえてしまい自責の念に駆られるこ ともあるだろう。B も「とにかく体育とかクラ ブ活動、特にクラブ活動をしてまだ家で宿題が

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できるなんて、みんななんて強いんだろう」と 感じており、C も「とにかく疲れてしまう」と 語っている。この問題については、自分自身で 体調管理をすることも重要であるが、周囲の理 解も重要となってくるであろう。 4.勉強の中での得意と不得意 B、C は絵を描くことが好きだった。B は小学 生のころに描いた風景画が県下のコンクールに 選出されたことがあった。C は美大への進学を 希望していたほど絵を描くことが好きだった。 また全員が不得意な科目を体育としていた。B は、体育の中でも短距離競争で学年代表に選ば れ、遠泳では一番泳げるクラスにいたが、跳び 箱や鉄棒、グループで競技するものに関しては 不得意であったと語った。「数学が苦手」「図形 がわからない」が A、C にみられた特徴であっ た。B については、数学は好きだったが不登校に なってから解らなくなっていった。結果的に、 大学受験で仕方なく勉強をしたが、「気持ち的に 学校を休んでから苦手になった感じがする」と 語った。 5.感情の問題 感情の問題として、「人の感情がわからない」 「自分の感情がわからない」「異性を好きという 感情がわからない」特徴が見られた。「他人への 感情への反応の不足や偏りに見られるように、 社会的・感情的な相互のかかわりを持てない」13) との指摘があるように、ASD をもつ人は他者の 感情を理解することが難しい。B は「自分の感 情すらなかなか理解できない、なんか嫌だなと 思ってもあまりよくわからない。のちに頭で考 えて、考えて、すごく嫌だ、腹が立つ」といっ たようなことがあり、怒る感情が人とはテンポ がずれていると語った。A についても「悲しい とか、寂しいとかあまりわからないし、何も感 じない、ピンとこない」と語っている。B は「異 性から興味を持たれたり、好きとか言われたり したら答えなければという気持ちばかりで、自 分の意思がない。よくわからないし、なんとな く不快な感情」と語った。C については「感情が わからない」といった傾向は見られなかった。 しかし、彼女たちが全く感情を感じないといっ たことはなく、感情を理解するには健常者とさ れる人々よりも時間を要し、青年期以降から中 年期にかけて、徐々に理解できるようになって いる。幼少期や学童期に感情の理解が難しく、 共感性に乏しいということは友達関係が築きに くいのではないかと考えられる。また、全員が 青年期まで友達関係がうまく築けず苦渋に満ち ていたことが今回の研究から明らかになってい る。 6.診断 ASD(もしくはアスペルガー症候群)という 診断は当事者にとってどのような影響を与えた のか。ASD 当事者の森口奈緒美は ASD である 自分自身を受け入れ、「普通にならなければ」と 闘い続けることを辞めた。闘いを止めたらとた んに世界が明るくなったとしている14) 。また、イ ンタビュー対象者 3 名についても、診断された ことにより、他人と違う部分を認め、自分自身を 受け入れている。診断を受けていなかったと仮 定すれば、A も現在の仕事に就いていなかった と考えられ、B も現在の仕事に就いていなかっ たと考えられるであろうし、環境もまた違った ものになったであろう。C も診断を受けたから 障害者施設で介護職員として働いたことや当事 者会を立ち上げるとことができたのではないか と考える。 7.母親の存在 家族についてのことは特に、母親との関係性 がクローズアップされている。A、B について は、母親から虐待を受けている。B は長期的に 身体的、心理的な虐待を受けており、その虐待 自体を本人が認識していないという状態であっ た。虐待をうけるということは、当事者にとっ て耐えがたいと推測されるが、なぜこのような 「当事者が認識できていない」ということがお きるのか。先にも述べたが、ASD の当事者は自 分の感情を感知しにくいという特徴と、身体的 な痛みに対して鈍いという可能性がある。B は 虐待に対して「自分が叩かれたり、暴言をはかれ たりするのは自分が悪いからだ、自分の存在が おかしいからだと認識して疑わなかった。虐待 については、友田(2006)が、「虐待を行う親の 多くが、自らも虐待を受けたことがあることが 知られている」15) と述べている。このように、B の母親も虐待を受けていた可能性がある。B の 母親は、その母親からの言葉の暴力や支配で自

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文末脚注 1) 宮尾益知 2015『女性のアスペルガー症候群』講 談社 6 頁. 2) 神尾陽子 2012『成人期の自閉症スペクトラム 障害診断マニュアル』医学書院 13 頁. 3) C・ギルバーグ 田中康雄(監)森田由美(訳) 2003『アスペルガー症候群がわかる本 理解と 対応のためのガイドブック』明石書店 9 頁. 4) 宮尾益知 2015『女性のアスペルガー症候群』講 談社 15 頁. 5) 神尾陽子 2012『成人期の自閉症スペクトラム障 害診断マニュアル』医学書院 25 頁. 6) 同上 7) 宮尾益知 2015『女性のアスペルガー症候群』講 談社 86 頁. 8) 同上 22 頁. 9) 水島広子 2014『女子の人間関係』サンクチュア リ出版 211 頁. 10) 内山登紀夫・水野薫・吉田友子(編)2002『高 機能自閉症・アスペルガー症候群入門 正しい 理解と対応のために』中央法規出版 14 頁 11) 宮尾益知 2015『女性のアスペルガー症候群』講 談社 36 頁. 12) 同上 30 頁. 分の自由がなかったこと、夫(B の父)からの 暴力を受けていたことが明らかになっている。 A の母親からの虐待は、母親が舅夫婦との仲が 思わしくなかったことと、A の素行が悪いのは、 母親の育て方が悪いと責められた結果、A に厳 しくしてしまったのではないかと考えられる。 虐待は当事者が成人になってからも精神的に影 響を与え、「大きくなってからも精神的トラブル を抱えることがある」16) とされる。事実 A、B に もうつ病と睡眠障害になった経緯があった。 8.支援の必要性と周囲の認識 知的に遅れのない自閉症スペクトラム障害 の人々に、支援や適切なフォローは必要であ る。必要性やあり方はその個人によって違いは あるが、本研究で明らかになったこととして 2 点あげられる。ひとつめは相談機関があること が望ましいと考える。日常的な生活の支援や フォローという形は必要としていなくても、心 や感情の問題で当事者にとって不可解な問題が 起きた時に、専門家に相談ができることができ れば救われることもあるのではないか。現在で は知的に遅れがなく、一般就労している人であ ると、相談できる場所は限られている。二次障 害がでている状況ではなくても、日常の困りご とを相談する場所や相談を聞いてくれる存在が 重要であると考える。その存在が通常であれば 友人や家族などであるが、ASD でコミュニケー ションの問題を抱えていると、身近に友人がい ないことや家族関係が良好でない場合に孤立し やすい問題が浮かび上がる。心の相談や自分に とって不可解な感情の問題や異性問題を相談で きる存在がいる機関があることが望ましい。ま た、臨床心理士によるカウンセリングも有効的 であると考える。語ることによって自分自身を 客観視することも可能であるし、共に考える相 手がいるということはコミュニケーションに問 題がある ASD を抱える人にとって、生き辛さ を軽減できるのではないだろうか。 ふたつめは環境整備である。特に女性は、感 覚面の偏りに苦しんでいる(宮尾,2015)とあ るように、温度に敏感であることや音に敏感で あること、光などに敏感であることも考えられ る。以上のことを配慮し、周囲が過ごしやすい 環境をつくることが重要である。 昨今では「個性」や「多様性」が教育現場では 認められるようになったが、一般社会では未開 発であるとインタビューを通して明らかになっ た。このような「少し変わった人」がいるとい うことを、周囲の私たちが、その存在を認める ことによって、少しずつ生きやすい世の中にし ていく必要性があるのではないか。その支援や ニーズのあり方についてはさらなる検討が必要 である。 謝辞 滋賀大学大学院教育学研究科学校教育専攻 障害児教育白石恵理子教授には、本研究論文執 筆にあたり、障害児教育及び自閉症スペクトラ ム障害に関してのひとかたならないご指導を承 り感謝すると共に、大学在学中からの研究会参 加での指導と、大学院の 2 年間のご指導、深く 感謝申し上げます。そして、本研究のインタ ビューにご協力頂きました調査対象者様にも深 く感謝申し上げます。

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13) クリストファー・ギルバーグ・田中康雄(監)森 田由美(訳)2003「アスペルガー症候群がわか る本 理解と対応のためのガイドブック」明石 書店 8 頁. 14) 森口奈緒美 2014『平行線』遠見書房 313 頁. 15) M・H タイチャー(監)友田明美(著)2006『い やされない傷―児童虐待と傷ついていく脳』診 断と治療社 6 頁. 16) 同上 6 頁.

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参照

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