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読み書き障害のある子どもの指導に関する事例研究 : アスペルガー症候群と読み書き障害を併存する子どもの指導の分析を通して

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†障害児教育専修 障害児教育専攻 指導教員:窪島 務 原 著 論 文

読み書き障害のある子どもの指導に関する事例研究

―― アスペルガー症候群と読み書き障害を併存する子どもの

指導の分析を通して ――



A Case Study on the Instruction of Child with

Difficulties in Reading and Writing

―From an Analysis the Effect of Educational Interventions to the

Child Having Aspergers Syndrome Comorbid with Dyslexia―

Naomi HISHIZAKI

キーワード:アスペルガー症候群,読み書き障害の併存,滋賀大学キッズカレッジ,レキシコンの形式, 安心と自尊心 Ⅰ.は じ め に 筆者は小学校の教育相談を行っているが,読 み書き困難な児童の相談は,集団での学習活動 に適応できずに学習に参加できない困難さと, 読み書きができずに学習についていけない困難 さを抱えている事が多い。それに加えて,学校 現場では PDD (広汎性発達障害) とその他の 障害の併存が理解されにくい。PDD の子ども には,その基本障害である対人相互の障害が, 集団学習や学習の理解を困難にしていることも あり,学習環境の場の設定に配慮がいると考え る。また,「音韻意識」は通常の場合,就学前 に発達するとされ,これが就学後に文字学習を 可能とする発達条件となっている。読み書き障 害の子どもは,多くは話し言葉では流ちょうに 話しができたりするので障害に気づかれにくい。 ワイデルら (1999) は日本語では音韻に関連 した読み障害は起こりにくいとしている。が, 必ずしもそうとは言い切れない。表音文字であ る仮名文字と表意文字 (ないし表語文字) であ る漢字を混在して用いており,とくに漢字では, 形が複雑で,複数の読み方を持つ文字も認めら れる。日本語の特質を考慮すると,音韻に対す る気づきや音韻の認知 (音韻意識) のみならず, 文字の形の認知処理や空間構成力,さらには協 調運動という他側面の機能不全が関与して,読 み書きの障害が起きていることが推測されてい る。このことから,他側面の機能レベルの評価 を視野に入れた指導とその総体としての教育的 支援が求められている1)。(小池・雲井・窪島, 2003) 筆者は読み書き困難な児童の支援の方法 として,滋賀大キッズカレッジ (以下 SKC) の指導 (多感覚指導法) で読み書き困難な児童 の指導を行ってきている。その指導の中で (窪 島 2005) は,「読み書き困難 (障害) の場合の

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ストレスは単に心理的な意味での一般なもので はなく,文字・算数記号 (シンボル) に対する ものである。したがって,文字・算数記号 (シ ンボル) によって誘発される情緒的不安と混乱, 「自我の不安」に対する困難の理解,共感と受 容が基本的態度として重要である。また,それ だけではなく,文字・算数記号 (シンボル) の 主体的獲得に対する適切で積極的な援助 (教育 指導) を通じて「自尊心」の回復と形成を促す 事が指導の基本のあり方である2)。」と述べて いる。 指導する際,一人一人の違う障害の特性から, 苦手意識や不安感,困難さだけでなく,得意と するところも把握し,その理解と受容が,重要 な支援の一つになってくると考える。つまり, 読み書き指導が,訓練的な文字スキルやソー シャルスキルではなく,子どもの読み書きに対 する「自我の不安」に寄り添った支援を行えば, 人格発達にも影響をおよぼすであろう。 筆者は,2010 年から,約 2 年間,読み書き 障害を併存するアスペルガー障害の女児の指導 に取り組む機会を得た。そこで,本論では,ア スペルガー症候群と読み書き障害を併存する子 どもの指導の分析を通してアスペルガー症候群 を併存する子どもの SKC の指導の有効性を考 えたい。 Ⅱ.目 的 本研究では,① アスペルガー症候群と読み 書き障害を併存する児童の指導を通して,アス ペルガー障害の困難さと書字のプロセスの特徴 を明らかにする。② SKC の指導法の有効性に ついて検討するという 2 つを目的とする。 Ⅲ.方 法 1.研究方法 実践的事例研究法を採用する。指導は基本的 には月 2 回 (2011 年 4 月から月 3 回) 滋賀大 キッズカレッジ学習室で 1 回に 1 時間の個別指 と記録を行う。アスペルガー症候群と読み書き 障害を併存する 1 女児を対象とし,2 年生から 6 年生まではその記録の分析をし,中学校 1 年 生の 4 月〜9 月は SKC の読み書き指導のプロ セスに従って筆者が直接指導を行い,その経過 は,結果を分析する。以上について保護者から 文書にする同意を得ている。 2.対象 (1) 生育歴 現在 (2011 年度) 中学 1 年生の女児。「滋賀 大キッズカレッジ学習室」で指導を 2 年生の時 から受けている。家族は父,母,本人,弟 (保 育園児) の 4 人家族。母親の初回の相談は,2 歳から 4 歳に言葉が急に増えた。3 歳児検診で ○が描けなかった。小学校入学時,小児保健セ ンターで ADHD のグレーンゾーンと診断され る。自転車に乗れない,不器用ということが母 親の気になることであった。小学校 2 年生,小 児保健センターでアスペルガーの診断を受ける。 よく転び,不器用である。運動では鉄棒,縄跳 びができない。集団行動では学校への集団登校 をいやがる。学習面ではカタタナ,漢字が書け ないが,担任は工夫してくれないので困ってい る,という事であった。 (2) アセスメント 1) WISC-Ⅲ検査の結果 ① 年齢:9 歳 2 カ月,検査日:2008 年 3 月 6 日 ② 年齢:10 歳 1 カ月,検査日:2009 年 2 月 7 日 ③ 年齢:11 歳 11 カ月,検査日:2010 年 12 月 8 日 Ehlers ら (1997) は,WISC 知能検査を行い グループ内,間で有意の差のある下位項目を抽 出して,アスペルガー症候群では言語性 IQ が 動作性 IQ に比べて優れる,知識,理解,類似, 積木模様,単語,絵画完成の評価点が,組み合 せ,符号の評価点よりも高く,知識と類似の評 価点が算数の評価点よりも高いとしている3) 本児の 2010 年実施の WISC-Ⅲ検査の結果は, 言語性 IQ94,動作性 IQ72 で言語性 IQ が優れ る。知識 7,理解 9,類似 12,積木模様 4,単 語 12,絵画完成 11 は,組合せ 1 より評価点が 高い。符号 5 は積木模様 4 以外の知識,理解, 類似,単語,絵画完成の評価点が高かった。ま た,知識 7,類似 12 は算数 5 の評価点より高

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かった。また,視覚処理過程に問題がある可能 性があり,視覚的な記憶が弱い。新規な作業を 習得する能力,指示に従う力,視覚的短期記憶, 聴覚的な短期記憶,集中力の弱さ,言語的知識 が非言語的知識より優れている,等が認められ た。ことばの理解や操作は得意であるが,記号 や図の理解,操作は全般的に苦手と考えられる。 また記憶の弱さも考えられる。 2) 漢字の読み・書き検査の成績およびエラー の特徴 ① 漢字の読み 本児が 6 年生の 2010 年の検査では,小学校 2 年生漢字は 96% の正答率,小学校 3 年生漢 字 91% の正答率,小学校 4 年生漢字 70% の正 答率,小学校 5 年生漢字の 56% の正答率で あった。2009 年の正答率は小学校 2 年生漢字 は 82% の正答率,小学校 3 年生漢字 66% の正 答率,小学校 4 年生漢字 66% の正答率,と比 べると伸びていた。 ② 漢字の書きエラーと類型 2010 年にエラー分析を行った結果,「基本漢 字検査」の漢字の書きエラーの分析結果では, 正答 57%,無答 19%,誤答 14% であった。ま た,2011 年の同検査の書きエラーの分析結果 では,正答 70%,無答 6 %,誤答 14% であっ た。 その結果 ① 漢字を想起できない。② 誤答 漢字をみると視覚的エラーがある。 例:「馬」→ 3) Rey 複雑図形 (2010. 7. 24) Rey 複雑図形では,一般に,構成能力,視覚 −空間認知,視覚性−知覚性記憶のための有用 なスクリーニングとして考えられている。本 児において,その弱さが認められる。 ① 模写 ② 直後写真 ③ 遅廷写真 以上の結果からは漢字の書きは読みに比べる と,困難が著しいことがわかった。 また,読み書きの困難さに図の理解の弱さと 記憶の弱さがある。 3.指導記録の分析 (1) 小学校 2 年生〜6 年生の記録の分析 ① 2 年生:指導当初は,落ち着きがなく検査 にも時間がかかり,おしゃべりが止まらない。 しかし本児は,1 対 1 対応の指導の中で,指導 の回数を重ねるごとに学習に集中しだしている。 粘土イメージを作るときは,平面での表現から, 徐々に細かく作れるようになりいろんな形に変 化させることが出来るようになっていった。② 3 年生:作品を立体的に作り出し,粘土の量に 合わせて計画的に分量を決めて完成させている。 漢字の確認は辞書を使ってしようとしたが,拡 大手本のほうが効果的であった。③ 4 年生:月 2 回の指導になる。粘土イメージ作りの細かな 作業も時間をかけて集中して制作する姿が見ら れている。書字は視覚的なエラーが多いが,拡 大手本を見て,画数や筆順を確認することで, 自ら気づくことができるようになっている。④ 5 年生:学習課題は行うが,学習に関係ないお 動作性下位検査 IQ・群指数 出所:筆者 言語性下位検査 表 1 WISC-Ⅲ検査の結果 (2008〜2010) 処理速度 (PS) 9 4 5 (迷路) 理解 68 73 79 注意記憶 (FD) 8 6 8 (記号探し) 4 5 6 (数唱) 80 75 72 積木模様 12 5 7 単語 76 85 80 知覚統合 (PO) 1 6 3 組合せ 9 10 10 全検査 IQ (FIQ) 9 9 8 絵画配列 5 6 7 算数 100 100 106 言語理解 (VC) 4 6 5 知識 72 80 72 動作性 IQ (PIQ) 5 5 2 符号 12 14 14 類似 82 87 86 ③ ② ① 94 95 101 言語性 IQ (VIQ) 11 10 12 絵画完成 7 11 13 ③ ② ① ③ ② ①

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しゃべりが続く事もあり,課題に集中させるた めに,「今,何をしているのか?」と聞く。粘 土イメージは課題を聞くと直ぐに浮かび,制作 に取り掛かる。イメージの細部の形にこだわり, 同じ部分やイメージのパーツを何度も作り直し, 時間をかけている。漢字は書いても偏と旁の大 きさがアンバランス,または漢字の部位,部品 等の大きさと位置がまとまらずに構成が悪い。 拡大文字で確認するが書き直すことはない。⑤ 6 年生:11 月〜1 月は月 2 回,1 対 1 の指導か ら小集団の中での指導を同じ学年の子ども 2, 3 人で作り行った。いつものお話,リラックス を小集団で行い,その後,机を一列に並べて, 3 人同じ方向に向き,教室スタイルで指導を受 ける。ここからは,個別の指導になるが,すぐ 隣にいる人を意識して学習を行う。その結果, 隣の作品を見て,どんな風に作品が「立ってい る」(立体的) のか,考える力がついてきた。 また,漢字の確認時に,漢字の構成に注意を向 けるように空書をゆっくり,しっかりさせた。 書くときのスピードは一息で書くような速さが あったが,徐々に考えて書くようになり筆圧に も違いが出て丁寧な字になってきた。2 月〜3 月は再び,個別の指導にする。 Ⅳ.筆者による直接の指導と経過 および評価 (中学校 1 年生: 2011 年 4 月〜9 月) 1.指導目標 アスペルガー障害の困難さと書字のプロセス の特徴を明らかにすること,SKC の有効性に ついて検討するが目的である。これまでの指導 の結果から,2 年生漢字の習得度でいえば,読 みの習得は 96% と高いが書字の習得度は 38% と低い。表 2「ひらがなと漢字書字の発達段 階」(小池・雲井・窪島,2003)1) では,「基本 的漢字の段階」であり,基本漢字を書くことが できる。 本児には視覚的認知の弱さや記憶の弱さがあ るが,拡大の手本で画数や筆順の確認をするこ とで自らの誤りを気づくことができるように なってきている。この事を踏まえて,読める漢 字を中心に小学生漢字を指導する。指導の中で, 漢字の確認は拡大文字から,辞書を使って意味 を調べ,読み,確認していく。画数を意識させ て,筆順を自ら意識させる。本児の書く漢字は 本児なりのパーツで覚えて,組み合わせている。 そのため形はあっていても,バラバラになる文 字が見られるため,どことどこが 1 筆書きか意 1 文字ずつ読めないが,単語として読み書きできる文字がある (例:自分の名前を読み書 きできるが,1 文字ずつはできない) 初期段階:字を模倣によって書き始める。 達成段階:自分の名前や見慣れた単語を書くことができるが,文字と音韻との関係を応 えることができない。 ロゴ文字の段階 46 文字のひらがな単語を書くことができる。 初期段階:音韻に基づいてひらがなを書き始める。鏡文字を書くことがある。特殊音節 単語の音節分解や音節抽出はむずかしい。 達成段階:ひらがなの単語を書くことができ,音節分解と音節抽出も可能。 ひらがな単語段階 特殊音節を含むひらがな単語を書くことができる。 初期段階:46 文字のひらがな単語を書くことができ,一部の特殊音声を書くことができ るようになる。特殊音節単語の音節分解や音節抽出はむずかしい。 達成段階:特殊音節を含む単語を書くことができる。音節分解と音節抽出も可能。 特殊音節単語の段階 具体的な意味をもち,事物や操作に関係する基礎的漢字を書くことができる。 初期段階:基礎的漢字の一部を書くことができる。 達成段階:基礎的漢字を書くことができるが,まだ部首を意識して書くことはできない。 基本的漢字の段階 部首を含む学習漢字を読み書きできる 初期段階:部首を含む漢字の一部を書く事ができる。 達成段階:部首を意識して書くことができる。 漢字の拡張段階 特徴 出所:小池敏英・雲井未観・窪島務。(2003)。LD 児のためのひらがな・漢字支援。あいり出版 段階 表 2 「ひらがなと漢字書字の発達段階」(小池・雲井・窪島,2003)

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識させるが,筆順にはこだわらない。 2.SKC の指導の具体的方法 ① 身体の意識化とリラックス―文字に対す る緊張を軽減し,注意の意識的コントロールの ため,注意を身体の部位に向けて焦点化するこ とや呼吸法を取り入れたリラックスの方法を練 習する。 ② ことばの (意味の) イメージを思い浮か べ形にする―自分自身にとってのイメージであ り,他の人とは違っていても良いことを確認す る。指示,ヒントは出さないようにし,子ども に文字ではなく視覚的イメージを思い浮かべる ように言う。③「意味」のイメージを具体的な 形にする―意味の形象化 (視覚的概念化が適切 に表現できているか確認する) 子どもは自分の イメージを粘土を使って形にする。この時の課 題は段階をおって提示する。④ 文字を粘土で 作る―指導者が均一に作った粘土のひもを使っ て文字をつくる。粘土で文字を作る時はときは, 形を作るだけで書き順などは気にとめない。文 字が思い浮かばない時は教える事をせず,辞書 を見せて文字の形を確認する。本人が「完成」 というまでは口をはさまず見守る。完成後も間 違いは指摘せず,辞書を見て「直したいところ があったら直してね」と言い,「これで良い」 と言ったらそのままにしておく。⑤ 鉛筆で文 字を書く―まず,はじめに辞書を見て言葉の意 味を確かめる。次に「書き順を見て書いてね」 と言い見守る。つねに,受容する言葉かけをす る。次は辞書を見ないで書く。書字を,子ども と一緒に確認する。間違いは自分で気づくよう にする。「良くできた」と終わる。 3.経過 指導の経過を一期 (4 月〜6 月) と二期 (7 月〜9 月) の 2 つに分けて一期は 6 回の指導, 2 期は 10 回の指導を行った。 (1) 一期の評価 (4 月〜6 月) 学校生活の環境が一度に変わり,まずは本児 の中学校生活の変化を「大変だ。」と言うとき は,「大変だったね。」と共感し受け入れること から始めた。「中学校はしんどいけれど,宿題 の困難さをなんとかしたい。」と,勉強はしっ かりしたい気持ちを話す事が出来た。 ① 粘土イメージ:立体的に作る事に意識をさ せる。粘土のイメージ作りは,作品の部分 的なパーツを作るが,パーツを組み合わせ た時に,各パーツの形が歪であったり,接 合部分の大きさが合わずに,何度も根気よ く接合させようと作り直した。また,接合 させようとするが,力加減が分からず,組 み立てた時の作品が,崩れて立たず,崩れ ないように支えを用いた。その支えも粘土 で作った。どうしたらしっかり立つのか, グループの指導で見た事を思い出し,作品 の脚の太さや大きさ,その上にのるパーツ の大きさを考える事が必要であると気づい ていった。例:「馬小屋」では,小屋と馬, 馬の頭と胴体,各 2 つの大きさのバランス が悪い。 ② ひも粘土:台紙からはみ出す。ひも粘土の 長さが予想できない。 ③ 書字:1 回目は 2 画目は右に縦に書く。2 回 目は点を 5 個書き自分で間違いに気づく。3 回目は書くことが出来た。 1 回目 2 回目 3 回目 (2) 第二期の評価 (7 月〜9 月) リラックスし学習に入ると,粘土イメージ作 りに没頭した。また,仕上がった作品の出来栄 えを気にするようになり,立体的に仕上げるだ けではなく,大きさも大小を気にして作る様に なった。中学校の夏休みの宿題は「出来ない。」 と言うので,一緒に宿題の計画を立てて SKC の指導日ごとに報告をするように決ると,その 通りに必ず報告をしてきた。本児は「学校は行 きたくない。」と夏休み前に訴えていたので, 好きな先生の話も聞き出し,教科の先生にはそ れぞれの感じ方をしている事を確認した。

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① 粘土イメージ:自分で粘土の太さ等を調整 する姿がみられ,完成した作品に「出来 た!」と言葉が出たり,手を叩いて満足し ている様子があった。例:「歌手」では人の 大きさを建造物の大きさに合わせて作った。 イメージ通りの満足のいく作品が出来た。 ② ひも粘土:台紙からはみ出さないように気 をつける。偏と旁の大きさのバランスは気 にならない。 ③ 書字:書く時に注意して書こうとしている。 書き直す時は,慎重に書く。1 回目は「可」 と言い 5 画目を跳ねて,書き直した。2 回 目はスピードもこれまでよりゆっくりで慎 重に書く。 1 回目 2 回目 4.中学 1 年生 (4 月〜9 月) の全体評価 (1) 粘土イメージ 学習課題のイメージは,おしゃべりしている 自分のエピソードを広げて粘土イメージを作り 出す事が多かった。また,おしゃべりに意識が いき,同じパーツ作りに意識が集中して止まっ ていないか「今,イメージの何を作っている の?」と確認した。一期では粘土のイメージ作 りは,作品の部分的なパーツを作る,組み立て る事に手先の不器用さ,パーツの大きさの不揃 い,接合の不十分さでうまくいかず時間をかけ る。二期では自分で粘土の太さ等を調整する姿 がみられ,完成度に満足している様子があった。 全体的に学習時間中は,時間を気にせずしゃべ り続けていたが,グループ指導では隣の進度を 見ながら,時間を意識して課題をするように なった。また,意識して無口である。 (2) ひも粘土 ひも粘土で作った文字の特徴として ① 確 認しても,空書しても,形態の似た別の漢字を 作った。② 辞書を見て作るが部分的に模写が 出来なかった。③ 文字の形は想起出来るがア ンバランスな構成になった。例:偏と旁の大き さの違い,位置の違いがみられた。④ 意味と 音の似ている漢字と間違った。例:「多数」の 「多」を「大」 (4) 読み・書き 4,5 月,この時の書字は ① 漢字を自分な りのパーツで記憶しようとしているが,その パーツが一つの漢字として書く時に大きさが分 からず,一つの漢字としてはまとまりの悪い漢 字になった。書いた後もおかしさが気にならな かった。② 熟語を縦に並べて書けた。③ 正確 に想起できないが模写は出来る時と,模写が部 分的に細かく見て書けない時とがあった。④ 書くスピードは,ためらわずに書く,という特 徴がみられた。6 月になると漢字の画数を数え 確認すると,一筆書きになる所に気付いて直し た。しかし,偏と旁の大きさは気にしなかった。 7 月は書いた字を見て形態について感想を言っ た。字を書く時に例えば「店」の 2 画目の左か ら右に書く横線も,左から右に書こうとする自 分の手の動きの違うことに気づき,間違いに気 づくことが出来た。書く時に注意して書こうと している姿が見られ,書き直す時は,より慎重 に書いた。8 月になると,書いた後に直ぐに間 違いに気付き,ひも粘土を見て書き直した。熟 語の一字,一字の大きさや偏と旁の大きさを意 識する姿がみられた。例えば「野」の「里」は, まず,「田」と「土」と言いながら書いた。し かし画数を確認して「里」ということに気がつ く。ただ,形だけ書く,写すということから, 1 つの漢字として,どう書くのか考えている。 9 月は,1 回目に書いた後に自ら漢字の形に注 目して,偏と旁の空間が出来た事を意識して 2 回目をゆっくりと書く。「番」では自分で注意 したところに × 印をつけ,書き直した。読み は勝手読みをするところが見られた。

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5.読みと書きの変化 (1) 読み検査の変化 検査は本児の学年の 1 学年下の漢字読み検査 で実施した。SKC の学習室では書きの指導を 通して,読みの指導を行い効果を上げている。 2009 年から 2011 年の漢字読み検査の結果は 2009 年の読みの検査の正答率は小学校 2 年生 漢字では 82%,3 年生漢字は 66%,4 年生漢字 は 66% であった。2010 年の読みの検査では 2 年生漢字の読み正答率は 96%,3 年生漢字は 91%,4 年生漢字は 70%,5 年漢字は 56% で あった。2011 年は 2 年生漢字の読み正答率は 95%,3 年生漢字は 94%,4 年生漢字は 80%,5 年漢字は 68% であった。(表 3) 本児も書きの指導が進むに従い,読みの効果 は上がっていた。本児の読みのエラーを見ると, 例えば 2 年生漢字では,答える→かんがえる, 南→にし,鳴く→きく,図画→ずめん,方角→ ほうこう,魚市場→ぎょいちば,人形→ひとが た,と漢字の読みを意味の似ている漢字の読み に置き換えたり,音訓の読みを混合させたりし ていた。 (2) 書き検査の変化 検査は本児の学年の 1 学年下の漢字書き検査 で実施した。漢字書き検査 (学年漢字 40 問) の小学校 1 年生の正答率を見ると,2008 年は 42%,2009 年は 43%,2010 年は 53%,2011 年 は 70% と伸びていた。2 年生漢字では 2008 年 は 5 %,2009 年は 13%,2010 年は 13%,2011 年は 25% と伸びていた。指導前後の漢字書き 検査の比較をすると,指導前の 2010 年では, 正答率は 1 年生漢字 53% から,指導後の正答 率は 70% であった。指導後に 17% の伸びが見 られた。また 2 年生漢字では 2010 年では正答 率が 13% から 25% と指導後に 12% の伸びが認 められた。(図 1) また,漢字検査の本児の書 きエラーを年ごとに経過で見ると,以下のよう に,書きエラーの中でも視覚的な形態エラーが 多いが,検査の結果から書けるようになってい る事が認められた。 ① 形態の似ている字を書く。(小,金,空,草, 入,馬,船,買,麦,守,等,愛) 例:買→ (2010)→正答 (2011) ② 部首の追加ないし欠落 (村) 例:村→ (2010)→正答 (2011) ③ 細部の追加ないし欠落 (金,百,家,谷,) 例:金 → (2009) → 正 答 (2010・ 2011) ④ 検査ごとに続けて同じ書きエラーをしてい る。(年,千) 例:千→ (2010・2011) ⑤ 鏡文字 (羽) 例:羽→ (2008)→無答 (2009・2010) →正答 (2011) ⑥ 音韻的エラー:同音語同類語の選択エラー (黄,独り,燃える) 例:燃える→炎 (2011) 2009 年 2010 年 2011 年 出所:筆者 表 3 漢字読み検査 (2009〜2011) 12 66 14 20 小学校 4 年生漢字 68 22 10 56 26 18 小学校 5 年生漢字 小学校 2 年生漢字 94 6 0 91 9 0 66 14 20 小学校 3 年生漢字 80 14 6 70 18 正答 (%) 誤答 (%) 無答 (%) 正答 (%) 誤答 (%) 無答 (%) 95 5 0 96 3 1 82 9 9 正答 (%) 誤答 (%) 無答 (%) 出所:筆者 図 1 漢字書き検査正答率の変化 (2008〜2011)

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⑤ 書字行為にみられるエラー:視覚的接近行 動的ストラテジー (車) 例:車→ (2008)→ (2009)→ 正答 (2010・2011) 6.本児へのアンケート 学習中に「自己肯定感についてのアンケー ト」を 2011 年 4 月 (記述) と 9 月 (口答) で 実施した。アンケートは 2011 年 4 月に行った のでは学校の事は小学校事を答えている。アン ケートで「とてもそうおもう」と答えている項 目は,「じぶんはかぞくにたいせつにされてい る」「じぶんにはいいところがある」「しっぱい してもだいじょうぶだ」「がっこうにいるとた のしい」「じぶんはさんすうがすきだ」の 5 項 目であった。「まあまそうおもう」は「じぶん のことがすき」「じぶんはべんきょうができる」 「じぶんはだいじなにんげんだ」「せんせいにた いせつにされている」「ともだちにたいせつに されている」「じぶんはべんきょうがすきだ」 であった。9 月は中学校に入学してからの事で ある。「とてもそうおもう」と答えているのは, 「じぶんはかぞくにたいせつにされている」「せ んせいにたいせつにされている」と 2 項目で あった。中学校になってから学校に行きたくな いと聞いていたので,この時本児に確認すると 「大学の先生の事を答えた。」と,本児に質問の 意味が伝わっていなかった事がわかった。 7.家族へのインタビュー アンケートから「じぶんはかぞくにだいじに されている」と,とても思っている事が確認で き,本児と家族の日常の様子等を知るために, 保護者の聞き取りを行った。母親はとても熱心 に,本児の困難さへの手立てを探し,可能な事 はさせている。本児のしんどさを何とかしたい という,親の願いが良く分かり,家庭での生活 にはルールを作る,近所の子どもと遊ぶ時間を 作るなど,工夫を凝らしていた。しかし,本児 には押しつけずにゆったりと過ごしている事も 確認出来た。本児は中学校生活の新しい環境へ の苦労をしているが,家族との関係はとても良 好である。 Ⅵ.総 合 考 察 1.アスペルガー症候群の障害の困難さと指 導方法の関係 対象児は,アスペルガー症候群の診断を受け ている。SKC でもその症状が顕著に現われて いる事が記録と指導からも確認できる。本児は, 2 年生の当初から学習中も課題に関係ないこと をしゃべり続けた。学習課題を自分の興味のあ る範囲で行った。これは「対人相互的反応の困 難」の 症 状 で あ る4) (十 一,2011)。し か し, まずは,本児の適応への困難さを受け止め, ルールで禁止したり,ソーシャルスキル的な指 導を行わず,発達的・教育的アプローチの基本 原則を念頭に置きつつ,学習をストレートにす すめた事が,学習への興味と関心につながり, 徐々に本児が集中できるようになり有効であっ た。粘土イメージを作る時に,作ったパーツの 大きさが揃わず,また,部分的に拘り,時間が かかるため,イメージ作りに時間がかかってし まう。その間も自分の話をせずにはいられない 事が多かった。強迫傾向は,こだわり,同一パ ターンの反復,過度な几帳面さ,融通性の乏し さ,特定の事柄への強い没頭などの形で現れ る4) (十一,2011)。しかし,一方では,自分 の話をしていても,課題はすすめていけた。ま た,2011 年 9 月 22 日の指導では,2 人のグ ループ指導を行ったが,時間を意識して,イ メージ作りを終える事も出来た。強迫傾向と言 われている症状は,ルールで制限するのではな く,指導の中で受け入れていきつつ,困難なと ころに見通しを持たせるとすすんでいった。ま た,パーツの大きさが揃わずにそろえる事を繰 り返すが,こういった作業は,本児のこだわる 特性もあり,納得いく仕上げまで根気強く行う が,窪島 (2005) は,「こだわり」は一時的問 題解決の方法として子どもが「発見」し「利 用」したものであり,混乱を回避し気持を安定 させる2),と述べている。 指導の中では,粘土で立体を意識し作ってい く作業が,視空間認知の発達に影響を及ぼし,

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出来るようになったと考える。また,6 年生の グループ指導を行った際に,人の作品を見て, どうすれば立体になるのか意識させていた。小 集団の指導は,指導の中で本児のおしゃべりが 続くわけではなく,むしろ他者を意識し学ぼう とする。これは,2 年生から本児は学習を継続 してきているため,学習の目的が本児に理解で きているからであり,そのグループの児童も学 習がストレートに進むので,有効であった。 本読みは,スピードは速く不注意なところも 見られる。文字を勝手に思い込んで,作り変え て読む。しかし,文章全体の意味を捉えながら 読めているのか確認すると,挿絵を見て自分な りの知識と照らし合わせて本文には書いていな い事も付け加えて説明する事もあった。知識は 豊富で質問に困ることなく答えた。読むときは, 間違いを指摘せずに読ませる事で,読むと言う ことが苦手にならないようにした。その結果, 本読みは苦手ではない。 書字は,漢字の書き検査の誤答漢字のエラー と指導の漢字の形態の観察から次の事が言える。 ① 漢字を自分なりのパーツで記憶しようとし ているが,そのパーツが一つの漢字として書く 時に大きさが分からず,一つの漢字としてはま とまりの悪い漢字になる。また,図のように書 く事もあり,筆順は決まっていない。② 6 年生 から熟語を縦に並べて書く事に意識をする。③ 正確に想起できないが模写は出来る時と,模写 が部分的に細かく見て書けない時とがある。④ 当初から書くスピードは,ためらわずに書いて いたが,中学生になり,次第に自分が書きだし た字を見て,おかしさに気づいて書き直す姿が 見られた。 以上,このことからも本児の書きの困難さは 大変厳しい事が分かる。が,それをもって,本 児の成長が見られないということではなかった。 読み書きの正答率は,わずかではあるが伸びて いた。自己肯定感アンケートの結果では,自己 に対する肯定感が高い事が分かった。保護者の 聞き取りからは,家族が SKC に信頼を寄せて いる事が分かった。十一 (2011) は障害に対す る不十分な理解や支援が得られないことから来 る周囲とのトラブルなどが引き金となり,日常 環境に対する恐怖感や反応性の不穏行動などを 二次的に形成してしまうことが多い4)と述べて いるが,本児の中学校や学習への頑張りや不安, しんどさを受け止めながら指導した結果,肯定 的に変容する姿が見られた。SKC では書字の 困難さのソーシャル的な学習はなく,発達的・ 教育的アプローチの基本原則を念頭に置きつつ 学習指導をストレートに行うが,その結果,ア スペルガー症候群の特性から出る症状も改善さ れ学習態度が形成され,自ら学習に向かう姿に 変容した。 また,本研究では,アスペルガー症候群の障 害の特性について研究を進めてきたが,障害 特性の優れた一面では ① イメージの豊かさ ② こだわって集中する姿③家族で博物館,美 術館巡りをする限局した探究心 ④ 自分のエ ピソードや知識を流暢に語るユーモアがみられ た。本児は,神尾 (2000) の報告した ① 言語 能力の独創性 ② 思考形式は抽象能力が高い ③ 運動能力は動作や書字が不器用5) Asper-ger (1944) の 4 症例6)に合致する症状は多い。 2.読み書きの困難さへの SKC の指導法に ついての考察 本児の 2008 年の漢字検査の結果,1 年生漢 字は正答率 42% で 2011 年は 70% になり,SKC の指導を始めてから,28% の伸びが認められ た。しかし,本児は,漢字の書き検査 2011 年 では 1 学年下の 6 年生漢字は 3 % の正答率で 誤答は空白が多く石井・小池 (2002) の LD 的 な特性7)があり,指摘されるように厳しい結果 であった。 本児は,視空間認知の弱さや記憶の弱さか ら,その書く漢字の形態をみると,まとまった 全体の形態を記憶しにくく,漢字が正しく書け ていても形態のバランスが悪い。また,漢字は 辞書の筆順で確認しても書字は筆順で書かず, まるで図を書くかのように大きさも気にせずに 書く事も少なくない。まず,2 年生の当初,言 葉での表現に比べて粘土で形を作る事が難しい と記されている。本児の読み書きの困難さは, ICD-10 では「特異的書字障害」,DMS-Ⅳ-TR では「書字表出障害」になると考える。また, 不器用さがあるので「発達性協調運動障害」も 考えられる。

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久保田・窪島 (2005) は漢字書字エラーを文 字特性との関係で取り上げて分析しているが, 日本語漢字では音韻意識だけでなく,視覚性要 素を重視した読み書き困難の研究の必要性を述 べている7)。本児についても,漢字のエラーを 分析した文字の特性から考察する。 岩田・河村 (2007) は「日本語における読み 書きの神経機構では,書字は,音の要素ないし, 意味の要素から,文字形態想起は左側頭葉後下 部近傍でなされ,その情報は角回から頭頂間溝 近傍へ送られ,そこで顕在化する形態情報とし て把持され,書字運動へと変換され (書字運動 の喚起),上頭頂小葉で実際の書字遂行のプロ グラムが発動されると考えられる。また,漢字 (形態素文字) と仮名文字 (音節文字) が,脳 内では違う経路を使って処理されている。文字 は,音 (音素,音節) 形態,意味の 3 つの要素 と,それぞれに書字運動という特異的な要素が ある。これらの要素のコントラストは文字の種 類によって異なる。漢字の場合には,その意味 を正しく把握しなければ,同音意義語を書いて しまうこともあり,意味の関与も重要である。 また,仮名と漢字では,漢字のほうが仮名より 多い形態情報 (視覚情報) をもち,意味という 要素も追加される。一般には音素から,形態が 想起され,書字遂行になると考えられるが,仮 名や漢字の草書,あるいはアルファベットの筆 記体などのように,音の要素から,潜在化した 形態想起を経ずに,直接,書字運動へと手続き 記憶が引き出せる場合も想定される。書字運動 については,書字運動上の病理は形態から判断 するのではなく文字の軌道をみればわかる9)。」 と述べている。本児が漢字を書く時に,書き順 にこだわらず,書き方を変える事,空書で確認 して字を書いても,書字では同じように書けな い。例えば漢字の「店」の 2 画目の横線を右か ら左に書き始めて,直ぐに自ら鉛筆の手を止め て,左から右に書き直したりしていることから, 書字運動の困難さも持ち合わせている。 漢字では,漢字から音韻にアクセスしたり意 味のアクセスするためには,漢字の形態,意味 との関連,意味と音韻との関連に関するレキシ コンの形成が必要である。そのための方法とし て,「意味」のイメージを具体的な形にする― 意味の形象化 (視覚的概念化が適切に表現でき ているか確認する) や粘土で文字を作る事が有 効であった。 また,2 年当初は学習室の新しい環境への適 応が困難であった。まずは,本児の適応への困 難さを受け止め,しかし学習をストレートにす すめる事が,学習への興味と関心につながり, 徐々に本児が集中できるようになり有効であっ た。 漢字は書けても漢字の構成はアンバランスで あったが,本児は気にしていない。ここで訂正 させずに,褒める事で文字へのストレスが起き ないようにする事は有効であった。6 年生にな り,小集団のグループ指導になると,人を意識 して学習を行う。この事が視覚的イメージの立 体的空間認知構成活動を活発にし,この先も本 児はしっかり考えながら,イメージ作りが出来 るようになり有効であった。また,漢字形態を 意識させるために,A4 の紙で書かせてきたが, その半分の大きさに書かせて,熟語漢字の大き さを意識させた。自閉症では,細部にとらわれ ずに全体をなすものとして対象を把握する能力 に障害があることが報告されている10) (岡田, 2004)。本児は漢字を小さく書く事で熟語全体 を捉えやすかった。中学生になり,本児の指導 では A4 の紙を渡したが,小さな字で熟語の大 きさを意識してしっかり書いていた。書く時の スピードはこれまでは一息で書く速さであった が,確認した漢字を思い出そうと考えて書くよ うになった。筆圧にも違いが出て丁寧な字に なってきた。 また,熟語の意味を確認するために,辞書を 使って画数を確認し,意味調べ声を出して読む。 自分のイメージと意味が合っていると喜ぶが, 漢字は,例えば「野」の場合は「田」「土」「マ」 「ア」と言いながら書いていた。視覚的な記憶 の弱さを本児は漢字をパーツで覚える事でカ バーしようとしていた。しかし,「野」は「里」 と一筆で書くところを意識させると,意識して 書く。このように本児が 16 回の指導で書いた 漢字が,これまでの書き方からどのように変 わったか「指導漢字の変容」(表 4) にまとめ た。これまで,書きにくかった漢字が,書ける, 形態が整うことが確認された。

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2011 年の書字では「タ」と「タ」が重なる。 「番」の一筆で書いては行けないところに自分 で×印をつけて,意識している。 2011 年度以前 書きエラーの変容 出所:筆者 2011 年度 表 4 指導の書字の変容 書き順におかしいと気づき,書き直す。 自分で書き方におかしいと気づき,書き直す。 「野」は自ら書き直す。 「鳥」6 画と 7 画が重なる 2010 年では「記」の「己」が「弓」になって いたが,「己」と書けるようになる。「言」の 3 画目が無いが,書ける。 漢字 1 文字の構成のバランスや熟語として同 じ大きさの漢字を書くことを意識出来た。 「風」の 2 画目が中に入っていた。1 回目空書 をした後は,書けた。2 回目は,また,2 画目 が中に入った。 「馬」の一画目から二画目になる時に右に縦に 書いてしまう。書き直すと,別のところが間 違う。しかし,再度確認をして,直す。 熟語として漢字の大きさを意識して書く。 「野」はパーツで書く。田に土,マとアと覚え て い た が,偏 は「田」と「土」で は な く, 「里」と意識する。 「画」が 8,9 画目が逆さまになっていた。 一筆で繋がっているところを意識して書き直 す。 「入」は空書をしても「人」と書いてしまって いた。

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本児に指導した書字の変容を考察する。本児 は ①「入」は指導前は空書をしても,「人」 になった。指導後は書けた。「風」は 2 画目が 中に跳ねた。指導後は,1 回目は書けたが 2 回 目は,また,同じエラーをした。「馬」は指導 前は 1 画目から 2 画目になる時に,右に縦線を 書いた。指導後は,「馬」と書けた。書字運動 に困難がある。漢字の形態はある程度想起でき ているが,そのイメージを明確にし,保持して 書字運動が出来ない。岩田・河村 (2007) によ れば,純粋失書の文字想起・文字選択障害型で, この型では,文字形態が思い浮かばない,ある いは不完全に想起されるので,無反応,部分反 応,中断等を呈する。この型は左側頭葉後下部, 角回〜側頭葉損傷による失書等が該当している。 その他,左視床,左前頭葉内側面損傷の場合も この型の要素を持つ9)。②「鳥」は指導前は 6, 7 画が重なった。「多」は形態が書けるが「タ」 と「タ」が重なった。指導後は書けた。「記」 は指導前は,「己」が「弓」になっていた。指 導後は書けた。「野」「番」は指導前は,自分で 決めた部分的なパーツの形で覚えていた。指導 後は一筆で書くところを意識できるようになっ た。しかし,空書が出来ても写字が出来なかっ た。「画」は 7,8 画目が逆さになっていた。指 導後は書けた。岩田・河村 (2007) によれば, 書字障害の中で写字にも障害が及ぶのは,上頭 頂小葉損傷による失行性失書である9)。③「元 気」「平泳」「洋服」「有名」は漢字 1 文字の構 成のバランスや熟語として同じ大きさで書くこ とを意識出来た。岩田・河村 (2007) によれば, 文字形態がうまくまとまらない特徴をもつ失書 は,左頭頂葉病変に起因する孤立性の失書であ る。文字の構成要素の欠落が生じ,格部分の大 きさや組合せなどの空間的位置関係が変化して, 文字を一つのまとまりとして構成するのが困難 となる。また,高次脳機能障害に伴う書字障害 として,右半球損傷に起因する空間失書と脳血 管障害や一酸化炭素中毒の急性期錯乱状態に おける注意障害に起因する失書があるが,注意 をする事で自発訂正が可能である9)。本児も, SKC で,自ら集中し,漢字を訂正できている 時が多くなって,集中することが指導上有効で ある事が推察される。 しかし,以上の事から本児は書字エラーの状 態も一つの限局したものではなく,原因にも多 様性があることが理解できる。また,岩田・河 村 (2007) によれば,以上にあげた失書状態は, 時には重複し,時にはそのどれともつかないよ うな曖昧な臨床状態となって現われてくること もある9),と述べている。分析は,本児の状態 を理解し書字の指導にいかすために有効であっ た。 3.今後の課題 学校教育の中でも個別の支援を,障害の特性 から分析し継続的な子どもの学習記録を取り, 子どもの人格に働きかける指導を行える体制が あれば 2 次障害と言われる現象も減ると考える。 本児もまさに中学校に行きにくくその渦中にい る。 また,アスペルガー症候群の診断は,今後, その名前を使用せずに,その症状は,自閉症ス ペクトラムの中に位置付けられる。はたしてそ の診断で支援は混乱しないのであろうか。 これらの問題を解決するには,診断基準の問 題だけではなく,また,それらの認知特性に合 わせた事例研究がなされ,それに基づいた教育 としてのプログラムと制度の構築を目指して研 究をすすめる必要がある。 引 用 文 献 1 ) 小池敏英・雲井未観・窪島務.(2003).LD 児 のためのひらがな・漢字支援.あいり出版 2 ) 窪 島 務 滋 賀 大 学 キ ッ ズ カ レ ッ ジ (SKC). (2005).読み書きの苦手を克服する子どもた ち 3 ) アミー・クライン・フレッド・R・ヴォルク マー・サラ・S・スパロー.(2008).総説アス ペルガー症候群.明石書店 4 ) 十一 元三.(2011).アスペルガー障害と心理 教育.精神神科.18 (4):401-409 5 ) 神尾陽子.(2000).《展望》アスペルガー症候 群:その概念の過去と現状.(高木隆郎 マイ ケ ル・ラ タ ー エ リ ッ ク・シ ョ プ ラ ー,編) 自閉症の発達障害研究の進歩 2000/Vol. 4,3-29

6 ) HansAsperger. (1944).Die “Autistischen psy-chopathen” im Kindesalter, Archiv fur Psy-chiatrie und Nervenkrankheiten, 117, 76-136.

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(高木隆郎訳 (2000):自閉症の発達障害研究 の進歩 2000/Vol. 4,30-68) 7 ) 石井麻衣・小松敏英.(2002).学習障害児にお ける漢字習字の発達支援.日本発達障害学会 37 回大会発表論文集 54 8 ) 久保田あや子・窪島務.(2005).発達性読み書 き障害 (Dyslexia) 児の錯読・錯書に関する研 究 (2).滋賀大学教育学部教育実践総合セン ター紀要.第 13 巻.117-126 9 ) 岩田誠・河村満.(2007).神経文字学 読み書 きの神経科学.医学書院 10) 岡田俊.(2004).アスペルガー症候群ににおけ る認知の特徴と神経心理学.精神科治療学 19 (10);1197-1203

参照

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