1 はじめに
教育基本法第1条「教育は人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者とし て必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない」との条 文は、教育の2つの目的を示している。一つは、教育は人格の形成を目指しあらゆる機会を通 じて多様な形態で行われるということ。これは教育の目的を子ども自身に置いている。もう一 点は、平和で民主的な国家及び社会の形成者の育成を目的とすることであり、国家が国民に対 して公教育を施し、共通な価値を生もうとする営みである。これは、国家や社会からの要請に よる教育という側面が強い。ここでいう公教育は、「国や地方公共団体など公権力主体が関与 する教育」である1)。 公教育制度の成立とともに、公権力はこれを維持及び有効な運用をするため、国や地方の行 政機構を使い必要な措置を行う。これが教育行政である。当然のことながら、教育行政は、国 や地方公共団体が決定する教育施策の影響を大きく受けることになる。 一方で、黒崎(2005)は、「教育行政学という学問領域が自立的に成立するとされてきた前 提には,教育行政が一般行政とは事実において区別されるとの認識が存在している。(中略)我 が国の教育行政学の生成と展開の背景には独立税としての教育財源の確保,一般政治意志と教 育意志の区別,民衆統制と専門的指導性の調和などといったアメリカ合衆国における教育委員 会制度をモデルとする地方教育行政の制度原理の移入があった。これらを一言でいえば『一般 行政からの教育行政の独立』という制度原理の確立である。実践を理論にとっての『環境』で あるとすれば,一般行政からの教育行政の独立という制度原理こそ教育行政学を発展させてき主体的・対話的学びに向けた教育行政学の授業実践
丸
岡 俊
之*
Teaching Practice of Educational Administrative Studies
for Subjective and Interactive Learning
(MARUOKA Toshiyuki)
*近畿大学教職教育部教授 〔キーワード〕 主体的・対話的学び、アクティブ・ラーニン
た環境である。」と述べている2)。教育行政学を学ぶ学生には、教育行政の今日に至る変遷や経 緯を踏まえ、一般行政からの独立という制度原理についても十分認識させておく必要がある。 以前、国の教育施策の方針は、文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会の答申に基づ き、文部科学大臣が発するものだった。現在は、平成25年1月に発足した、内閣総理大臣の諮 問機関である教育再生実行会議が政策に移すための方針を提言するという形態になってきてい る。教育再生実行会議は、いじめや地方教育行政(教育委員会)の在り方、大学入試制度改革、 チームとしての学校など、喫緊の教育課題について、すでに10の提言を打ち出している。 教育が、政治や社会の注目を集めることはありがたいことと考えるが、学校は生き物であり、 日々予測できない事態が起きているのである。こうした状況を考えれば、スピード感をもって 打ち出される国の施策と教育現場との整合が課題となる。 したがって、教育行政における様々な施策は、教育現場において実効性が発揮されるよう進 められなければならない。 そこで、将来教員として臨もうとする学生には、教育方針や施策の背景を知り、時に批判的 考察(クリティカル・シンキング)を加えながら、理解を深めていくことを目標としてほしい。 本稿は、学生が教育行政の基本原理である、「法律主義」「地方自治」「自主性の確保」の3 点を踏まえ、教育行政の諸課題について自身の考えを整理し、学生相互や教員と対話を通し、 学びを深めることを目標とした、教育行政学の授業の実践について述べたものである。 こうした学びの形態は、中央教育審議会の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に 向けて(答申)」(2012年8月28日)において示された、「生涯にわたって学び続ける力、主体 的に考える力を持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。 従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一 緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問 題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である。 すなわち個々の学生の認知的、倫理的、社会的能力を引き出し、それを鍛えるディスカッショ ンやディベートといった双方向の講義、演習、実験、実習や実技等を中心とした授業への転換 によって、学生の主体的な学修を促す質の高い学士課程教育を進めることが求められる。学生 は主体的な学修の体験を重ねてこそ、生涯学び続ける力を修得できるのである3)。」との趣旨を 踏まえ実践しようとしたものである。 今回の実践が、学生の学びの深まりにつながったか、また教育行政が抱える諸課題について
の意識の変容は見られたかなどを考察する。
2 授業の概要と学習内容
最初に、当該科目のシラバスについて紹介する。 授業の概要・方法等 本科目は「教育に関する社会的、制度的又は経営的事項(学校と地域との連携を含む)」を、 教育行政の視角から考察し、学習することを主眼としている。日本の学校を運営する社会的な 仕組みを、教育行政の組織(文部科学省、教育委員会)、法規(憲法、教育基本法等)、財政、 人事(採用、昇任、異動、勤務条件、服務等)の4点から分析する。教育改革(学校安全への 対応含む)を進める中で、学校教育に関する制度、財政、人事の仕組みが大きく変わってきて いることを学習する。この科目の修得は、近畿大学における教員養成の理念と目的の主として 「2.教員に求められている専門性、実践的指導力の養成」と「3.自ら資質を向上させ続け る自己教育力の獲得」の達成に関与している。 学習・教育目標及び到達目標 ① 教育行政の組織を理解する ② 教員として遵守すべき法令を理解する ③ 学校教育に関する財政と人事の仕組みを理解する ④ 学校改革の流れを理解する ⑤ 地域との連携、学校安全への対応について教育行政の立場から理解する 授業計画の内容 以下の表の通り 表1 教育行政学の授業計画の内容 第1回 オリエンテーション 科目の概要・方法等、学習・教育目標及び到達目標、教科書、参考文献、成績評価方法及び基準、授 業計画等 第2回 我が国の公教育制度 公教育の概念・制度的原理、我が国の学校体系他 第3回 教育行政機構1 文部科学省の基本的考え方と組織、中央教育行政組織他3 授業の実践事例
実際の授業展開を計画するにあたっては、上記のシラバスに示した基本事項について講義を 行った上で、各単元におけるキーワードから課題設定を行い、グループワークを行うという形 態をとった。 課題の設定については、教育行政の基本原理を理解するうえで有効と考えるテーマを中心に 取り上げた。 設定した課題例 ① 教育委員会制度の改正が学校教育に与えた影響について ② 旭川学力テスト事件4)にみる国家の教育への関与の是非について ③ 文部科学省が示した学習指導要領の最低基準性5)が学校教育に与えた影響について ④ 三位一体改革6)において、義務教育費国庫負担金が一般財源化になっていれば、学校現 場にいかなる影響を与えたか ⑤ 選挙年齢18歳への引き下げの必要性について ⑥ 人事異動が教員自身と学校組織に与える影響は何か 第4回 教育行政機構2 教育委員会制度の理念と創設、仕組み他 第5回 教育制度と関連法規1 教育法規の体系、憲法、法律・政令等、教育基本法他 第6回 教育制度と関連法規2 教育基本法、学校教育法、地教行法、地公法・教特法 第7回 教育課程と学校経営 教育課程経営・行政、学校経営、地域との連携による学校づくり 第8回 教育の中立性 教育基本法、政治教育、宗教教育、教育委員会 第9回 教育財政 教育財政の意義、国の教育財政、地方の教育財政 第10回 学級編制基準 学級編制、学級定員とその弾力性、教職員の配置・定数の標準他 第11回 教員人事1 教員採用、昇任(管理職選考)、人事異動等 第12回 教員人事2 資質向上方策、研修、人事評価 第13回 教員人事3 教職員の職務、勤務条件、服務規律等 第14回 教育改革の流れ1 戦後教育の再編から現代の教育課題まで 第15回 教育改革の流れ2 学校保健安全法に基づく危機管理、安全管理、安全教育について⑦ 大阪府が行っている「評価・育成システム」7)は教員の育成につながるか ⑧ 教員の超過勤務が、教員本人と学校教育に与える影響は何か。また、その解消方法を考 える 授業の展開 授業展開の時間配分は概ね以下を基本とした。 ・単元の講義 50分 ・課題の自己の考えのまとめ 7分 ・グループワーク 13分 (3~5人のグループで意見交換及び主な意見の整理を行う) ・代表による発表 10分 ・振り返りとまとめ 10分 指導上の留意点 ・関係資料等の情報は客観性のあるものを提示する ・資料等を踏まえ、学生自身の考えをまとめるよう努めさせる ・学生が自分の考えをグループ内で伝えることと他のメンバーの意見に自分の意見を重ねて いくことにより、考えが深められるよう努めさせる ・グループとして統一した考えにすることに拘らず、主な意見としてまとめさせる ・課題に対する関連事項についての理解を深めさせる ・最後に授業者から、意見発表の評価を行い、基本事項の再確認を行う 事例1 設定課題:「旭川学力テスト事件にみる国家の教育への関与の是非について」 単元名 教育制度と関連法規2 講義内容 ・教育基本法、学校教育法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下地教行法)、 地方公務員法、教育公務員特例法(以下教特法)等の法規の概要 ・教育基本法が平成18年に59年ぶりに改正され8)、第1条「教育の目的」、第2条「教育の
目標」及び第16条「教育行政」について示された事項の背景と趣旨について ・学校教育法が戦後日本の単線型学校体系維持に果たしてきた役割について ・地教行法による地方教育行政としての教育委員会制度や県費負担教職員の管理監督権限 等について ・地方公務員法による服務・懲戒・分限規定や教特法の研修規定等について ・「旭川学力テスト事件」の概要と最高裁判決結果が示した教育基本法の法的位置づけと 「国家の教育権」と「国民の教育権」の「折衷説」について ねらい 戦後教育行政の争点であった教育内容への国家の関与について、「旭川学力テスト事件」の 最高裁判決結果(昭和51年5月21日)を踏まえ、「国家の教育権」と「国民の教育権」の在 り方についての考えを深めるとともに、改正教育基本法制定に与えた影響について理解す る。 学生から発表された主な意見 〈肯定的意見〉 ・教育として引き継がれていくためには統一性は一定必要であり、特に学力等は国際社会 の中で国がリードして把握することは認められるべき ・学校間の公平性確保や地域格差を出さないために国家の関与は認められるべき ・現場の教師の教育観のみに委ねられるのは危険性がある。国家の関与は必要 ・受験等の対応など一斉に取り組む課題等に支障が出るため、関与は必要 〈条件付きの肯定的意見〉 ・現場の多様な価値観は認めるべきだが、憲法等を踏まえたうえで関与を認める ・学校現場の論理だけでは教育は成り立たないので関与はある程度必要 〈否定的意見〉 ・国家の都合の良い方向にコントロールされていく危険性がある ・基本は教員に任せるべきで、国家は生徒の生命の危険性を回避する危機管理等に限定さ れるべき ・一方的価値の押しつけは好ましくなく、国家はサポートに徹すべき 基本事項の確認 「旭川学力テスト事件」について、最高裁判決は子どもの教育を決定する権限の所属とし
て、「国家の教育権」と「国民の教育権」の双方を認める「折衷説」を示した。これは、学 習権が児童生徒にあるとともに、教師の教育の自由は合理的範囲で制限されるとしたうえ で、実質的に教育への国家の関与を認め、公教育がもつ原理に忠実な考え方を明らかにした ことになる。また、教育基本法が旧法において「教育は不当な支配に服することなく国民全 体に対し直接に責任をもって行われるべきものである」とした「国民に対する直接責任」を 謳ったものから、改正教育基本法では「教育は不当な支配に服することなく、この法律及び 他の法律の定めるところにより行われるべきもの」と改められ、本事件における最高裁判決 に従ったものになっている。 振り返り 授業では、我が国の教育行政の在り方をめぐって、戦前の教育に対する反省のもと、戦後 における「不当な支配の禁止」と国民全体に対する「直接責任」を根拠とした学校教員の自 律性に重きをおいた議論が長く続いてきた経緯について最初に確認をした。そのうえで本事 件を題材に国家の教育への関与について、多様な観点をもち議論を進めるよう促していっ た。主な意見は前出の通りだが、「学校現場の多様な価値観は認めるべきだが、教育の格差や 公平性、国際社会の中での教育の在り様などは学校現場の論理だけでは成り立たないので は」など、多様な価値観は認められても、子どもたちの将来を左右する教育の方向性は国が 責任をもって関与するべきとの考えを示したものが多かった。 しかし、授業では一つの価値観に収れんさせるのではなく、他の意見や考えを自分の考え に重ね、深めていくことに留意した。 事例2 課題:三位一体改革において、義務教育費国庫負担金が一般財源化になっていれ ば、学校現場にいかなる影響を与えたか 単元名 教育財政 講義内容 ・教育財政の意義、国の教育財政、教育財政の国際比較について ・教育財政の必要性について、憲法第26条に示された、「教育を受ける権利」「普通教育を 受けさせる義務」「義務教育の無償制」から、国又は地方公共団体が公教育費として財 源を確保し管理、配分をすること
・国の教育財政として、文部科学省予算を俯瞰し、義務教育費国庫負担金の現状と教職員 給与等の関係、総額裁量制の導入等について ・2002年に提示された、いわゆる「三位一体改革」の方針と、中央教育審議会答申「新し い時代の義務教育を創造する」(2005年10月)9)の趣旨について ・日本の教育予算の国際比較を OECD 加盟国の調査結果10)等から確認する ねらい 国家予算に占める教育予算の実態を理解し、「三位一体改革」の骨太方針から、義務教育 費国庫負担金が一般財源化されようとした経緯を踏まえ、実際になっていたと仮定して、学 校教育に与えた影響につき客観的資料等を参考としながら考察する。さらに、義務教育費の 根幹である機会均等、水準確保、無償制について確認する。 学生から出された主な意見 〈否定的意見〉 ・一般財源のうち、どの程度教育に使われるかが不安定な状況になり、福祉や緊急事態対 応などが優先され、教育の水準確保ができなくなる ・各自治体で教員の給与格差が大きくなり、教員確保に偏りが生じ、結果として教育の サービスの格差を生む ・保護者は教育に力を入れている地域に子どもを通わせたいので、子どもの人数の偏りが 生じ、教員の負担増につながる ・自治体の首長の考えによって教育予算が左右されるので、政治的影響を受けやすくなる 〈肯定的意見〉 ・自治体ごとにお金の使い方が決められるので、地域ごとの教育課題に取り組みやすくな る ・自治体で責任をもって考えられるので、教員の意識に好影響を与える ・現場の教員の意見を踏まえたきめ細かな教育ができ、実態に応じた教育が進められる ・地域の特色に応じた教育ができるので、予算の効果的な使い方につながる 基本事項の確認 2002年に示された、いわゆる「三位一体の改革」は、「国庫補助負担金の在り方」「税源移 譲を含む税源配分の在り方」「地方交付税の在り方」を一体的に見直すというもので、これ は、中央集権から地方分権(小さな政府)を目指し、国庫補助負担金の一般財源化をねらい
としたものであった。 一方で、すでに一般財源で措置されている、教材費や図書費、教員旅費等については、多 くの道府県で基準値を下回っており(平成14、15年)11)12)、試算として、義務教育費について も一般財源化されたとすれば40道府県で財源不足13)に陥ることが予測されている。 三位一体改革について、文部科学省は、中央教育審議会答申「新しい時代の義務教育を創 造する」(2005年10月)に基づき、教育格差が生じ、義務教育費の考え方の根幹を揺るがす 事態として猛反発をした。最終的に、義務教育費国庫負担金制度は維持されることになった が、国負担率は1/2から、平成18年(2006)以降は負担率1/3となり地方負担割合が増加 した。加えて、総額裁量制が導入されたことで、地方の裁量で給与調整等が可能となり教員 の採用等が柔軟に行えるようになっている。 振り返り 今回の議論を通じ、まず学生が感じたことは、公教育予算が国家や地方の財源に占める大 きさである。教員の給与が国により1/2が負担されていることの重さや、急速な少子高齢 化などによる、次世代への借金の大きさにも驚いた様子であった。それだけに、小泉政権が 打ち出した「三位一体改革」による、地方への財源移譲、小さな政府の考え方には一定の理 解を示したようだった。 しかし、すでに一般財源化されている教材費や学校図書整備費の各都道府県別の実態か ら、地域による過不足の格差は大きく広がっている。本学の学生には地方から来ている者も 多く、地域により教育格差につながる施策には敏感に反応したようであった。 協議により、他の学生の意見を聞くことにより、自分ではわからなかった一般財源化の良 さに気づいたという意見もあったが、多くは「義務教育費の一般財源化にはメリット、デメ リットがあることが分かったが、やはりデメリットのほうが大きい。全額の一般財源化では 地方は立ち行かないだろう」「地域によって教育財源に差が出ることは、教育環境、教育水 準の不公平につながる」といった意見が多かった。 今回のテーマをもとに、憲法第26条に示された「教育を受ける権利、教育を受けさせる義 務、義務教育の無償」についても、財源が確保されなければ成り立たないことから、結果と して一般財源化されなかった教育予算の在り方をめぐる、「新しい時代の義務教育を創造す る」(2005年10月中教審答申)などの激しい議論の背景を理解することができた。
事例3 課題:大阪府が行っている「評価・育成システム」は教員の育成につながるか 単元名 教員人事2 講義内容 ・教特法に基づいた、教員の資質向上方策、指導力不足教員への指導改善研修の実施と免 職その他必要な措置を講ずることについて ・初任者研修、中堅教諭等資質向上研修等の法定研修や職能研修、専門研修、長期派遣研 修等、研修の承認と職務専念義務の免除 ・人事評価について、地方公務員法第40条「勤務成績の評定」と人事考課、国の「教育改 革国民会議」「21世紀教育新生プラン」の提言を踏まえた、新しい教職員評価への移行 ・新たな評価システムが、各都府県で始まり、大阪では「評価・育成システム」が実施と なる ねらい 地方公務員法第6条第1項により定める「大阪府立学校の職員の評価・育成システムの実 施に関する規則」等に基づき実施していることを踏まえたうえで、同システムが、主旨とし て定めた教職員が自らの意欲や資質能力を一層高めるという、人材育成に繋がっているかを 考察する。 学生から出された主な意見 〈肯定的意見〉 ・校長等他からの助言で新たな気づきが生まれる。目標設定が甘くても校長の面談があれ ば、より具体的指導ができ軌道修正ができる。 ・評価がなければ教員だけでなく生徒の成長の機会も損なわれる。必要である。 ・教員一人ひとりの具体的な課題や方針が決まる。目に見える評価を受けることがモチ ベーションアップにつながる。 ・このシステムは丁寧に作られている。生徒の評価も踏まえることができ、今後の頑張り につながる。 〈否定的意見〉 ・校長も多くは教員として先輩であり、悪い評価(C評価等)を受けるなど、納得のいか ない評価となることもあり、万全ではない。
・当初の目標設定から、別の問題が発生すれば注力の方向がかわり、適切な評価とならな いことになる。 ・評価のための教育にならないか。生徒たちとしっかり向き合えなくなる可能性がある。 ・校長の評価がすべてではない。その評価をどこまで使うかは教員がするもの。 基本事項の確認 人事評価は、職員の職務の遂行上なしえた能力と業績について、勤務の成績として評価す るものである。今回取り上げた、「評価・育成システム」は、人事評価制度について先行実 施した地元の自治体である大阪府について取り上げた。 教員の自己申告と目標設定面談、達成状況の確認、評価結果の開示という流れの中で、評 価者としての校長や教頭による授業見学や日々の教員の教育活動の観察を積み重ねることに よりなされているのである。 しかし、校種や課程によって、評価対象の人数も異なり、特別支援学校や専門高校などで は100名近く、又はそれを超える人数を評価しているという現実もあり、日常の校務に加え、 多数の教員の評価を公正に行うことの困難さも想像できるのである。中には評価の結果に納 得しない教員も出てきていることから、最初の目標設定が重要となってくるのである。学生 は、こうした現状を理解したうえで、この制度が人材の育成につながるかを議論した。 振り返り 学生には、教育公務員に対する勤務評価をめぐる現場教員からの反発など、これまでの歴 史的経緯を踏まえたうえで、人事評価が狙いとしている「人材育成」と、学校組織のパフォー マンスの向上に寄与するものになるかを考えるよう促した。学生からの主な意見は前述の通 りだが、最後の振り返りでは様々な意見が出された。 「教員は校長からのアドバイスや授業アンケートなどの客観的評価によって、自分で気づ かない『まだ足りてないところ』や『こうしてほしい』などの要望からヒントを得ることが できる」「評価によって、一人よがりではない自分の良さや課題が見えてきて、自信をもっ て教師の仕事ができるようになる」といった、人材育成に肯定的な意見がある一方で、「校 長など個人の評価は3次元で形成された教員のある一面を評価したに過ぎない」「評価者個 人の主義主張が反映しやすい。教員の能力は多様であり個々に合った最適な評価とはならな いのではないか」といった否定的な意見も多く出された。また、「校長の評価活動は大変と思 うが、授業見学や面談などを通じ教員の適性を的確に把握し、適切な役割や主任の配置など
むしろ校長の学校マネジメントの向上につながると思う」といった、学校経営の向上につな がるという意見も出された。さらに、「基本は評価活動が校内で完結することが多いので、 学校以外の地域や保護者が直接評価することも検討してはどうか。」といった意見も出され た。 総じて、評価活動に対しては肯定的意見が半数を大きく超えており、学校現場で評価活動 がなじまないといった否定的意見は少なかった。校長の負担感の軽減やより適切な評価とな るよう改善を求めるものもあった。 図2 学生の発表意見例 図1 グループワークの様子
4 考 察
今回の授業実践は、受講者の多くが1年生であることを踏まえ、学生が、教育行政という公 教育の制度等を、経緯や背景を踏まえて理解をするには、どのような授業展開が適切かを考え 行ったものである。学生が、「主体的・対話的で深い学び」につながるアクティブラーニングを どのように展開すればいいか。また、その実施によって学生の学びは深まったのかを考察す る。 本講義の最終回に、授業についてのアンケートを実施した。特に知りたかったのは、課題設 定を行い取り入れたグループワークについての学生からの意見である。ここでは、講義のある 1コマの受講生のアンケートによる意見を集約した。 回答者は36名で、以下の質問項目につき自由記述の形式をとった。 ① 配付プリントや提示資料の内容について ② パワーポイントによる提示について ③ グループワークについて ④ あなたにとって学びになったこと ⑤ 講義についての改善点、良かった点 ⑥ その他、感想、要望 「③グループワークについて」の項目で、肯定的に捉えている意見として、「他の学生の意見 を聞くことによって自分の考えが深まった」(趣旨)と回答したものが一番多く24名。「自身の 意見を発表する機会となり良かった」と回答したものが3名。「毎回様々な教育課題をグループ のメンバーと共有できたこと」「最初は知らない人と話すことで不安だったが新鮮な気持ちで 取組める良い機会だった」「楽しかった」と回答したものが各2名。他に、「協力して取り組め たことが良かった」「伝えることの難しさを学んだ」「いずれも欠かせないテーマだった」「グ ループワークをする機会が少ないので新鮮だった」など、36名中28名(複数回答あり)が肯定 的な意見だった。 一方で、課題についても意見が出された。「テーマが難しく考えを言いづらく、議論が進まな いことがあった」と回答したのが4名。「座席が同じになる場合が多く、もっと違った人と意見 交換ができるよう工夫してほしかった」が3名。「もう少し時間が必要ではないか」が2名。そ の他「テーマの予告があればもっと実りあるワークになったのではないか」「テーマについて、 生徒の立場、教員の立場など議論の観点を説明してほしかった」などが計8名(複数回答あり)から意見が出された。 また、全体を通じて「⑤ 講義についての改善点、良かった点」について、良かったところ について、「グループワーク」と回答したものは15名。「他の意見が聞けたこと」が4名。「パ ワーポイントの活用」が2名。その他「わかりやすい」「進行が良い」「知らない人と話ができ る」「教員からの問いかけ」「教育の現状が知れたこと」などがあった。 改善点としては、「グループワークの席替えなど」が4名。「全体に早い」が4名。「グルー プワークの課題が難しい」が2名。他に「時間の余裕が欲しい」「課題について教員の意見を もっと聞きたい」などであった。 こうした意見を見るに、グループワークを取り入れたことが、総じて学生の理解や考えの深 まりに繋がっていることが伺える。また、グループワークの実施について多くの学生が肯定的 に捉えている。一方で、課題点も見過ごすことはできず、1 年生が多いことも踏まえると、 テーマ設定の難度が高かったのではないかとの指摘や、グループ構成のメンバーや席の工夫に ついては、今後の課題として受け止めたい。 次に、中央教育審議会「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」(平成 26年11月26日答申)の諮問文(抜粋)14)において、以下の課題が示されている。 ・判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べることについて課題 ・自己肯定感や学習意欲,社会参画の意識等が国際的に見て低い ・成熟社会で新たな価値を創造していくため,互いの異なる背景を尊重し様々な得意分野の 能力を伸ばしていくことが強く求められる。 この諮問に対する答申においては、 ・「どのように学ぶか」という,学びの質や深まりを重視すること ・課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習と指導方法改善(「アクティブ・ ラーニング」) ・「どのような力が身に付いたか」に関する学習評価の在り方の改善 等が示された。 本答申を受け、平成29年、30年に相次いで告示された学習指導要領では、主体的・協働的に 学ぶ学習について、「主体的・対話的で深い学び」と示している。15)また、学びに向かう力や人 間性の涵養を謳い、社会で実際に何ができるようになるかを求めている。これまでの知識注入
型ではなく、いかに知識が個人の血肉となって活かされるかが問われているといえる。ゆえに 今後教員を目指す学生にも、思考力や判断力、表現力が問われてきているのは当然の流れと言 えよう。 教育行政における様々な施策が、学校現場で実行されていることを、当然のこととして受け 止めるか、もしくは、施策が学校教育の向上にどう関与できるかを考え、取り組むかにより、 子どもの成長に大きな差が生じるものである。 今回、グループワークを取り入れてきたが、中でも重視したのは学生相互の対話である。自 身の考えをまず持つこと。そのうえで相互の意見交換の中で、他の意見に自分の意見を重ねる よう働きかけてきた。ワークに慣れてない学生も多く、最初は戸惑いがあり、人と話すること にプレッシャーを感じたものも少なくなかったが、回を重ねていくうちに、ワークを楽しみに してくれるようになっていった。 お互いの対話、言意見交換によって、自分では気づかなかったことに気づかされたり、一つ のテーマに対し、考えの深まりや意見の広がりができることに驚いている学生も多くいた。 学生の振返りを見て、テーマを皆で考えることにより、学生の主体的授業への参加や、深ま りのある学びに繋がっていると捉えている。 注及び引用・参考文献 1) 佐藤春雄著(2017)「現代教育概論」第4次改訂版 P.36 2) 黒崎勲(2005)「教育行政制度原理の転換と教育行政学の課題」日本教育行政学会年報 No.31 P.10 3) 文部科学省(2012)「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(2012年8月 28日中央教育審議会答申)P.9 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm(平成30 年3月26日閲覧) 4) 坂田仰他著(2017)「図解・表解教育法規」新訂第2版 P.14 5) 坂田仰他著(2017)「図解・表解教育法規」新訂第2版 P.134 6) 小松茂久編(2016)「教育行政学 教育ガバナンスの未来図」昭和堂 P.23 7) 大阪府教育庁教職員室編(2017)「教職員の評価・育成システムの手引き」 http://www.pref.osaka.lg.jp/kyoshokuink/hyoukaikusei/hi-yoshiki.html(平成30年3月
26日閲覧) 8) 文部科学省(2006)「教育基本法」 http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/06042712/003.htm(平成30年3月26日閲覧) 9) 文部科学省(2005)「新しい時代の義務教育を創造する」(2005年10月中央教育審議会答申). http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1212703.htm(平成30 年3月26日閲覧) 10) OECD(2015)「国内総生産(GDP)に対する学校教育費の比率(2011)」 http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/08030520/013.htm(平成30年3月26日閲覧) 11) 文部科学省(2013)「我が国の教育行財政について」 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/bunka/dai3/dai1/siryou4.pdf(平成30 年3月26日閲覧) 12) 同上 13) 同上 14) 文部科学省(2014)「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」(中央教 育審議会答申平成26年11月) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1353440.htm(平成30 年3月26日閲覧) 15) 文部科学省(2017)学習指導要領 平成29年3月告示 http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm(平成30年3月26日閲覧)